説明

培養容器

【課題】試料の採取と培養を簡便に行い得る培養容器であって、試料採取行為が検査面に悪影響を及ぼさないものを提供する。
【解決手段】培養容器1はヒンジ部30で連結された本体10と蓋20を有する。本体10と蓋20は樹脂シート製である。本体10には培地13が充填される凹部11が形成され、蓋20には凹部11に嵌合する凸部21が形成される。凸部21の表面には粘着層22が形成される。粘着層22を検査面に押し当てた後、本体10と蓋20をヒンジ部30のところで二つ折りにすると、粘着層22に付着した微生物の試料が培地13に接触して培地13にも付着し、微生物の培養が開始される。本体10の円筒形突起14と蓋20の円筒形凹部23との嵌合が、凹部11と凸部21の嵌合を補強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を培養する培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
実験室で微生物の培養を行う際、伝統的にはシャーレが用いられてきたが、最近ではもっと簡便な器具が提案されている。その例を特許文献1、2に見ることができる。
【0003】
特許文献1にはディスポーザブル容器の培養容器が記載されている。軟包材フィルム製の本体に形成した凹部に寒天培地を製作し、この本体に開封可能なシート状の蓋を貼着した構造である。
【0004】
特許文献2には、防水性の基材シート上に培地混合物の層を設け、これに防水性、水蒸気不透過性のカバーシートを被せた構造が記載されている。
【0005】
特許文献1、2のいずれに記載された培養容器も、培地に微生物を付着させる点について格別の工夫はない。この点を要点としているのが特許文献3記載の培養容器である。
【0006】
特許文献3記載の培養容器は伝統的なシャーレタイプのものであるが、その培地はシャーレ本体から盛り上がったスタンプ培地となっており、このスタンプ培地を検査対象とする面(本明細書では以後「検査面」の呼称を用いる)に直接押し当てて微生物の試料を採取する。
【特許文献1】実開平6−38599号公報
【特許文献2】特開平8−280377号公報
【特許文献3】特開平6−189739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3記載の培養容器によれば、他の器具を用いることなく、手を汚すこともなく、簡便に微生物の試料を採取できる。但し次の問題がある。
【0008】
それは、スタンプ培地を検査面に押し当てたとき、培地成分が検査面に付着するということである。培地には採取目的である微生物の好む栄養成分が含まれているので、後で検査面に微生物コロニーが発生してしまう。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、試料の採取と培養を簡便に行い得る培養容器であって、試料採取行為が検査面に悪影響を及ぼさないものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するため、本発明では培養容器を次のように構成した。すなわち
いずれも樹脂シート製の本体と蓋を備え、前記本体には培地が充填される凹部を形成し、前記蓋には前記本体の凹部に嵌合する凸部を形成するとともに、前記凸部の表面には試料採取用の粘着層を形成し、前記凹部に前記凸部を嵌合したとき、前記粘着層が前記培地に接触するようにした。
【0011】
この構成によると、蓋の粘着層で試料を採取できるから、他の器具を用いることもなく、手を汚すこともなく、簡便に微生物の試料を採取できる。培地と異なり、粘着層には栄養成分が不要なので、検査面に栄養成分が残留して微生物のコロニーを発生させることもない。そして蓋の凸部を本体の凹部に嵌合すれば粘着層に付着した試料が培地にも付着するから、簡単に培養を開始できる。また本体、蓋ともに樹脂シート製であるから安価に提供できる。
【0012】
(2)また本発明は、上記構成の培養容器において、前記本体と蓋の間には、前記凹部と凸部の嵌合を補強する他の凹凸嵌合部が設けられていることを特徴としている。
【0013】
この構成によると、本体に蓋が被さる状態を確実に維持できる。
【0014】
(3)また本発明は、上記構成の培養容器において、前記凹部または凸部に、微生物コロニー計数用の格子状パターンを設けたことを特徴としている。
【0015】
この構成によると、培地に発生した微生物コロニーの数を容易に計数することができる。
【0016】
(4)また本発明は、上記構成の培養容器において、前記本体と蓋が、ヒンジ部により連結された形で同一の樹脂シートから製造されていることを特徴としている。
【0017】
この構成によると、培養容器の製造能率を高め、培養容器を安価に提供することができる。
【0018】
(5)また本発明は、上記構成の培養容器において、前記本体と蓋は、平らに展開し、前記培地と粘着層を保護フィルムで覆った状態で外装袋に包装されるものであることを特徴としている。
【0019】
この構成によると、包装形態を薄くできるのでカートン詰めや携帯に便利である。また培地と粘着層を保護フィルムで覆ってから外装袋に入れるので、培地または粘着層に不要物が付着することもない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、蓋の粘着層で試料を採取できるから、他の器具を用いることもなく、手を汚すこともなく、簡便に微生物の試料を採取できる。培地と異なり、粘着層には栄養成分が不要なので、検査面に栄養成分が残留して微生物のコロニーを発生させることもない。この蓋を本体に重ねれば粘着層に付着した試料が培地にも付着するから、簡単に培養を開始できる。また本体、蓋ともに樹脂シート製であるから安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る培養容器の実施形態を図1−5に基づき説明する。図1は培養容器の斜視図、図2は培養容器を外装袋から取り出して使用可状態とする状況を説明する斜視図、図3は試料採取状況を説明する斜視図、図4は試料採取後本体と蓋を合わせた状態の斜視図、図5は培養容器の断面図である。
【0022】
培養容器1は本体10と蓋20を備える。本体10、蓋20ともに透明な樹脂シート製であり、実施形態では両者は同一の樹脂シートから製造され、ヒンジ部30で連結された形になっている。本体10と蓋20の連結成形品は、樹脂シートを真空成形して所定の凹凸を形成した後、打ち抜き型で打ち抜いて得ることができる。樹脂シートとしては、材質がポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリプロピレン等で、厚さが0.2〜0.6mmのものが好ましい。
【0023】
本体10は平面形状が隅丸四角形であり、中央に円形の浅い凹部11が形成されている。凹部11の底には微生物コロニー計数用の格子状パターン12が、凹部11に対し陽刻となるように形成されている。
【0024】
凹部11には寒天を主成分とする培地13が充填される。採取しようとする微生物の種類に合わせて異なる種類の培地13が用いられる。培地13の種類としては、一般生菌用、大腸菌群用、カビ・酵母用、サルモネラ用、腸炎ビブリオ用、黄色ブドウ球菌用、セレウス菌用、真菌用、好気性細菌用などがある。培地13は、凹部11を満たし尽くすのでなく、凹部11の上部に所定高さの空間が生じる分量だけ充填される。
【0025】
蓋20はヒンジ部30のところで二つ折りにして本体10に重ねられるものであり、平面形状は本体10とほぼ同一である。蓋20には、本体10の凹部11に対応する箇所に凸部21が形成されている。凸部21も凹部11と同じく円形であり、凹部11に気密に嵌合させることができる。この凸部21に微生物コロニー計数用の格子状パターンを形成しておいてもよい。
【0026】
凸部21の表面には粘着層22が形成される。粘着層22はアクリル系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂等からなる。樹脂フィルムの両面に粘着層を形成したものを凸部21の大きさに打ち抜き、これを凸部21に貼着してもよい。樹脂フィルムとしては、材質がポリエステルやポリプロピレン等で、厚さが12〜150μmのものが好ましい。なお粘着層の厚さとしては10〜150μmが好適である。培地13と異なり、粘着層22は微生物にとっての栄養成分を含まない。
【0027】
本体10と蓋20の間には、凹部11と凸部21の嵌合を補強する他の凹凸嵌合部が形成される。「他の凹凸嵌合部」を構成するのは、本体10の自由端(ヒンジ部30から遠い方の端)側に形成された2個の円筒形突起14と、蓋20の自由端側に形成された2個の円筒形凹部23である。
【0028】
本体10と蓋20は、平らに展開した状態で外装袋40(図2参照)に入れられ、密封される。外装袋40は所定のガスバリア性と遮光性を備える材料からなる。外装袋40に入れるのに先立ち、培地13と粘着層22は共通の保護フィルム41(図2参照)で覆われる。保護フィルム41としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等で厚さ12〜100μm程度のものが適する。
【0029】
培養容器1をもって試料を採取する手順は次の通りである。採取場所に赴いた作業者は図2のように外装袋40から培養容器1を取り出し、保護フィルム41を剥がして培地13と粘着層22を露出させる。そして図3のように培養容器1を裏返し、粘着層22を検査面に押し当てる。
【0030】
蓋20に形成されているのが円筒形突起でなく円筒形凹部23なので、粘着層22を検査面に押し当てるのに邪魔にならない。逆に本体10に形成された円筒形突起14は、検査面に当たると本体10を持ち上げる働きをする。これにより培地13が検査面から遠ざかり、培地13が意図せぬ物体に接触することが避けられる。
【0031】
粘着層22に試料を付着させた後、本体10と蓋20をヒンジ部30のところで二つ折りにし、凸部21を凹部11に嵌合させる。円筒形突起14も円筒形凹部23に嵌合させる。凸部21が凹部11に嵌合すると、粘着層22が培地13に接触する(そのように凹部11の内部の空間高さが設定されている)。これにより、粘着層22に付着した微生物の試料が培地13にも付着する。以後、培養容器1を所定の培養環境に置き、微生物を培養する。
【0032】
培養面に雑菌が入り込まないよう、凹部11と凸部21は十分にシールされた状態で嵌合するものとする。そしてこの嵌合が、円筒形突起14と円筒形凹部23の嵌合によりしっかり維持されるものとする。
【0033】
本体10の下面から、あるいは蓋20の上面から、微生物コロニーの発生状況を観察することができる。格子状パターン12は微生物コロニーの数を数えるのに役立つ。
【0034】
以上本発明の一実施形態について説明したが、次のような変形実施態様も可能である。
【0035】
二つ折りにしたとき外側となる面に、ボールペンや鉛筆による筆記を可能とする筆記欄を形成することができる。その面にバーコードや二次元バーコードを印刷し、培養容器1をグループ単位で、あるいは個別に管理するようにしてもよい。
【0036】
培養容器1に非接触ICタグを取り付け、培養進捗状況その他を管理できるようにしてもよい。
【0037】
本体10と蓋20をヒンジ部30で連結するのでなく、両者分離したセパレート構造としてもよい。これにより、蓋20による試料採取作業が一層楽になる。この場合、円筒形突起14と円筒形凹部23はそれぞれ本体10と蓋20の四隅に形成するのがよい。
【0038】
上記のように本体10と蓋20をセパレート構造とした場合、両方とも透明な樹脂シートで形成する必要はない。どちらか一方を透明度の低い樹脂シートで形成してもよい。
【0039】
その他、発明の主旨から逸脱しない範囲で種々の改変を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、微生物培養容器に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】培養容器の斜視図
【図2】培養容器を外装袋から取り出して使用可状態とする状況を説明する斜視図
【図3】試料採取状況を説明する斜視図
【図4】試料採取後本体と蓋を合わせた状態の斜視図
【図5】培養容器の断面図
【符号の説明】
【0042】
1 培養容器
10 本体
11 凹部
12 格子状パターン
13 培地
14 円筒形突起
20 蓋
21 凸部
22 粘着層
23 円筒形凹部
30 ヒンジ部
40 外装袋
41 保護フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれも樹脂シート製の本体と蓋を備え、前記本体には培地が充填される凹部を形成し、前記蓋には前記本体の凹部に嵌合する凸部を形成するとともに、前記凸部の表面には試料採取用の粘着層を形成し、前記凹部に前記凸部を嵌合したとき、前記粘着層が前記培地に接触することを特徴とする培養容器。
【請求項2】
前記本体と蓋の間には、前記凹部と凸部の嵌合を補強する他の凹凸嵌合部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記凹部または凸部に、微生物コロニー計数用の格子状パターンを設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の培養容器。
【請求項4】
前記本体と蓋が、ヒンジ部により連結された形で同一の樹脂シートから製造されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の培養容器。
【請求項5】
前記本体と蓋は、平らに展開し、前記培地と粘着層を保護フィルムで覆った状態で外装袋に包装されるものであることを特徴とする請求項4に記載の培養容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−193919(P2008−193919A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30754(P2007−30754)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】