説明

培養装置及びその滅菌方法

【課題】 コンパクトかつ簡易な装置構成で高温・高熱環境を安定して作り出すことができ、高温・高熱環境を好む微生物の培養を効率よく行うことができる培養装置及びその滅菌方法を提供する。
【解決手段】 培養液11を保持する培養槽12と、培養液中にガスを供給するガス供給手段16と、培養液を撹拌する撹拌手段17と、培養槽に新たな培養液を供給する培養液供給手段18と、培養槽から老廃培養液を排出する培養液排出手段29と、電磁誘導加熱手段13とを備え、前記培養槽は、前記電磁誘導加熱手段からの電磁誘導によって発熱する被誘導加熱部を備えるとともに、前記培養槽内の培養液の温度を測定する温度測定手段20と、該温度測定手段の測定温度に基づいて前記電磁誘導加熱手段を制御して加熱量を調節する制御手段14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置及びその滅菌方法に関し、詳しくは、高温・高熱環境を好む微生物の培養にも適用できる培養装置及びその滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温泉及びその周辺環境や深海熱水鉱床周辺から高温・高熱環境を好む微生物が単離されてきている。これらの微生物から高温条件を反応最適温度とする酵素や耐熱性タンパク質が分離・精製されている。これらの微生物から単離・精製された酵素や耐熱性タンパク質の研究は、タンパク質の耐熱性機構の解明に非常に重要である。したがって、これら微生物の研究の成果は、産業的にも有用なものとなる。しかし、従来の培養装置では、加熱源として温調水をジャケットに循環させて培養液を加熱する型式のものが多く用いられている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、微生物の純粋培養を行うためには、事前に培養液を含む培養装置の全体を滅菌する必要がある。従来の滅菌方法としては、被滅菌物である培養液を入れた培養槽に付属する各種培養器具を組み付けた状態で圧力滅菌装置内に入れ、高圧蒸気によって滅菌するオートクレーブ滅菌法が知られている。さらに、スチーム発生源を別途用意し、スチームを培養槽まで供給可能な配管システムを設けスチーム滅菌を行うものも知られている。
【特許文献1】特開2002−148258号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の加熱方法では、耐熱性タンパク質等の培養に必要な高温・高熱環境を安定して作り出すことが極めて困難であった。高温に加熱するため、ジャケットにオイルを循環させる温調システムも考えられるが、この場合は、オイルの安全性や操作性、大規模な加熱装置及びオイル循環装置が必要となり、培養槽の設置・撤去等の作業が煩雑になる。さらに、分離式ジャケットシステムの場合は、培養槽とジャケットとの密着性と高めるため、高精度な装置設計及び加工・工作が必要となる。また、スチームによって培地を直接加熱するシステムや、ジャケットに高温のスチームを通すシステムも考えられるが、この場合は、目的とする温度に精密に制御することが困難で大規模な装置が必要となる。加熱源として、培養槽内にオイルヒーターや電熱線ヒーターを設置すれば加熱効率は向上するが、これらの加熱装置そのものの外部滅菌ができないという問題がある。
【0005】
また、従来の滅菌方法では、滅菌操作のために培養槽等の装置の一部を移動させる作業や滅菌終了後の取り付け作業が発生し、スチーム滅菌の場合には、スチーム滅菌終了後、培養槽に培養液を無菌的に充填することが可能な無菌ろ過充填システムが必要となる。いずれの方法においても、別途、培養装置を滅菌するための大規模な装置、配管系が別途必要となる。また、培養槽内にオイルヒーターや電熱線ヒーターを設置した場合は、複雑な装置を培養槽内部に持ち込むことになるから、培養槽内部をスチーム滅菌したときに均一に滅菌されたのかを検証する必要があり、そのために多大な作業を必要とする。
【0006】
そこで本発明は、コンパクトかつ簡易な装置構成で高温・高熱環境を安定して作り出すことができ、高温・高熱環境を好む微生物の培養を効率よく行うことができる培養装置及びその滅菌方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の培養装置は、細胞を培養する培養液を保持する培養槽と、培養液中にガスを供給するガス供給手段と、培養液を撹拌する撹拌手段と、培養槽に新たな培養液を供給する培養液供給手段と、培養槽から老廃培養液を排出する培養液排出手段と、電磁誘導加熱手段とを備え、前記培養槽は、前記電磁誘導加熱手段からの電磁誘導によって発熱する被誘導加熱部を備えるとともに、前記培養槽内の培養液の温度を測定する温度測定手段と、該温度測定手段の測定温度に基づいて前記電磁誘導加熱手段を制御して加熱量を調節する制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の培養装置の滅菌方法は、前記構成の培養装置の滅菌方法であって、前記培養槽内に培養液を投入し、前記ガス供給手段、撹拌手段、培養液供給手段及び培養液排出手段を含む培養器具を組み付けた状態で、あらかじめ検証した滅菌条件に基づいて前記制御手段を作動させ、前記電磁誘導加熱手段を制御して前記被誘導加熱部を発熱させることにより、前記培養槽内の培養液及び該培養槽に組み付けられた培養器具を滅菌することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の培養装置によれば、電磁誘導加熱手段からの電磁誘導によって被誘導加熱部を発熱させることにより、短時間で目標とする温度まで加熱することが可能となる。また、培養槽の内外に複雑かつ特殊な構造を有する加温・加熱装置を設置する必要がないので、装置のメンテナンスも容易となる。さらに、加熱効率の向上によって従来の温調装置よりも高出力の加熱が可能であることから、短時間で目標とする温度まで加熱することが可能であり、従来の温調装置では制御が困難であった高温部での温度制御も容易に行うことができ、消費電力の削減も図れる。
【0010】
本発明の滅菌方法によれば、培養器具を組み付けた状態で誘電加熱により培養槽内を加熱することにより、バクテリア,かび、酵母の雑菌を死滅させるのに十分な温度及び必要な時間に確実に保持することができ、被滅菌物を効率よく確実に無菌状態とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の第1形態例を示す培養装置の構成図である。この培養装置は、細胞を培養する培養液11を保持する培養槽12と、該培養槽12内の培養液11を加熱するための電磁誘導加熱手段13と、該電磁誘導加熱手段13を制御して加熱量を調節する制御手段14とを有している。電磁誘導加熱手段13は、コイルをリング状に巻いたものを装着したものであって、コイルの上面には、コイルを保護するためのセラミック製平板が設けられている。
【0012】
培養槽12は、電磁誘導加熱手段13からの電磁誘導によって発熱する被誘導加熱部を底面に有する金属性の容器であって、その底面形状は、前記電磁誘導加熱手段13からの電磁誘導を効率よく受けるために平面構造となっている。培養槽12を形成する金属は、電磁誘導加熱手段13からの電磁誘導によって発熱する金属ならば任意の材料を使用することが可能であるが、通常は、耐食性等を考慮して磁性を有するステンレス鋼が最適である。
【0013】
培養槽12の上部開口には、蓋15が密閉状態で設けられており、この蓋15を気密状態で貫通するようにして、培養液11中にガスを供給するガス供給手段16と、培養液11を撹拌する撹拌手段17と、培養槽12内に新たな培養液を供給する培養液供給手段18と、培養槽12内から老廃培養液を排出する培養液排出手段19と、培養液11の温度を測定する温度測定手段20と、培養槽12内を加圧状態に維持するための圧力調整弁21と、蒸気を還流させるためのコンデンサー22と、培養液11のpHを測定するpHセンサー23とが設けられている。
【0014】
ガス供給手段16は、コンプレッサー16aと散気管16bとを有しており、撹拌手段17は、モーター17aと撹拌翼17bとを有している。また、培養液供給手段18及び培養液排出手段19は、図示しない貯槽とポンプとを有しており、コンデンサー22には、図示しない冷却媒体循環経路が接続されている。温度測定手段20とpHセンサー23は、コントロールボックス24を介して前記制御手段14に接続されている。
【0015】
パソコン等を使用した制御手段14は、あらかじめ設定した加熱温度やpH値を維持するように制御するものであって、コントロールボックス24を介して得られる温度測定値やpH測定値に基づいて温度調節や培養液の供給排出等を指令をコントロールボックス24に出力し、コントロールボックス24を介して電磁誘導加熱手段13のON/OFF制御や出力制御を行ったり、培養液供給手段18及び培養液排出手段19の各ポンプの運転を制御したりする。
【0016】
この培養装置を使用して高温・高熱環境を好む微生物や酵素、耐熱性タンパク質等の被培養物を培養するには、まず、ガス供給手段16、撹拌手段17、培養液供給手段18、培養液排出手段19、温度測定手段20、圧力調整弁21、コンデンサー22、pHセンサー23等の必要な培養器具を組み付け、培養槽12に所定量の培養液11を供給した状態で装置の滅菌処理を行う。
【0017】
この滅菌処理は、この培養装置を用いてあらかじめ検証された滅菌条件のパラメータに従い、所定温度で所定時間、行われる。培養液11の加熱は、制御手段14からの指令により電磁誘導加熱手段13が作動して高周波磁界を発生させ、この高周波磁界によって培養槽12の底面が誘導加熱されて発熱することにより行われる。
【0018】
培養液11の温度は、温度測定手段20で測定され、その測定値は、コントロールボックス24を通して制御手段14に伝達される。制御手段14は、温度測定手段20で測定した温度と、あらかじめ設定された温度とを比較し、両温度差に応じて電磁誘導加熱手段13のON/OFF制御又は出力制御(例えばインバータ制御)を行い、培養槽12の誘導加熱の度合いを制御して培養液11の温度を制御する。
【0019】
このとき、電磁誘導加熱手段13からの高周波磁界で培養槽12の底面を誘導加熱して自己発熱させることにより、培養槽12内の培養液11を直接的に効率よく加熱でき、速やかに所定温度まで加熱することができるので、滅菌処理を短時間で確実に行うことができる。また、圧力調整弁21を調整することによって培養槽12内の圧力を1気圧以上に設定することにより、水及び水溶液を含む培養液11の沸点を100℃以上に上昇させることができ、培養槽12内を100℃以上の水蒸気で満たした状態にすることができ、各培養器具を含めて培養装置全体をより効果的に滅菌処理することができる。
【0020】
滅菌処理後に培養液11内に被培養物を投入して被培養物を培養する際には、温度測定手段20の測定温度に応じて制御手段14が作動し、電磁誘導加熱手段13のON/OFF制御又は出力制御を行い、培養槽12から外部に放出される熱量と、電磁誘導加熱手段13から培養槽12の底面を通して供給される熱量とのバランスをとりながら、培養液11の温度を設定温度に維持するように制御する。
【0021】
さらに、圧力調整弁21を調整することにより、100℃以上の高温・高熱環境を安定した状態で得ることができる。また、電磁誘導加熱手段13を培養槽12の側面や上部に設置することにより、側面や上部からの高周波磁界によって培養槽12を誘導加熱することも可能である。
【0022】
図2は本発明の第2形態例を示す培養装置の構成図である。なお、以下の説明において、前記第1形態例で示した培養装置における構成要素と同一の構成要素には、それぞれ同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0023】
本形態例に示す培養装置は、非金属素材、例えばガラス等で製作された培養槽31を使用し、培養槽31の内部に被誘導加熱部となる金属棒や金属板32を配置した例を示している。前記金属棒や金属板32は、前記同様に、電磁誘導加熱手段13からの高周波磁界により誘導加熱されて自己発熱するステンレス鋼、例えばSUS306等により形成されている。
【0024】
このように、ガラス製培養槽等を使用するときには、その内部に誘導加熱が可能な被誘導加熱部を配置することにより、全体又はその一部を金属製の被誘導加熱部とした金属製培養槽12と同様にして培養液11を効率よく加熱することができ、高温・高熱環境を安定した状態で得ることができる。また、滅菌処理も前記同様にして行うことができる。
【0025】
図3は、第2形態例の培養装置を使用して加熱したときの培養槽内温度(培養液11の温度)の上昇経過の一例を示す図である。図3からわかるように、約40分で設定温度の121℃に上昇し、その後、安定した状態で121℃を維持している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1形態例を示す培養装置の構成図である。
【図2】本発明の第2形態例を示す培養装置の構成図である。
【図3】培養槽内温度の上昇経過の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
11…培養液、12…培養槽、13…電磁誘導加熱手段、14…制御手段、15…蓋、16…ガス供給手段、17…撹拌手段、18…培養液供給手段、19…培養液排出手段、20…温度測定手段、21…圧力調整弁、22…コンデンサー、23…pHセンサー、24…コントロールボックス、31…培養槽、32…金属棒や金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養する培養液を保持する培養槽と、培養液中にガスを供給するガス供給手段と、培養液を撹拌する撹拌手段と、培養槽に新たな培養液を供給する培養液供給手段と、培養槽から老廃培養液を排出する培養液排出手段と、電磁誘導加熱手段とを備え、前記培養槽は、前記電磁誘導加熱手段からの電磁誘導によって発熱する被誘導加熱部を備えるとともに、前記培養槽内の培養液の温度を測定する温度測定手段と、該温度測定手段の測定温度に基づいて前記電磁誘導加熱手段を制御して加熱量を調節する制御手段とを備えていることを特徴とする培養装置。
【請求項2】
請求項1記載の培養装置の滅菌方法であって、前記培養槽内に培養液を投入し、前記ガス供給手段、撹拌手段、培養液供給手段及び培養液排出手段を含む培養器具を組み付けた状態で、あらかじめ検証した滅菌条件に基づいて前記制御手段を作動させ、前記電磁誘導加熱手段を制御して前記被誘導加熱部を発熱させることにより、前記培養槽内の培養液及び該培養槽に組み付けられた培養器具を滅菌することを特徴とする培養装置の滅菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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