説明

基布に水分輸送特性を付与するために基布を機能化する方法

本発明は、親水性材料で製造された基布に水分輸送特性を付与するために、基布を機能化する方法に関する。この方法は、電離放射線下で反応する少なくとも1つの基を備えた少なくとも1つの疎水性物質の形成物を調製するステップと、この形成物を用いて、基布の表面上に不連続な層を形成するステップと、この不連続な層に電離放射線を照射し、反応基の反応によって、疎水性物質を基布の表面上にグラフトするステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、親水性材料に基づく基布(textile substrate)に水分輸送特性を付与するために、その基布を機能化する方法、およびこのような方法を実行することによって機能化された基布に関する。
【0002】
特に、本発明に係る基布は、皮膚に接触して着用される衣類(例えば肌着、ポロシャツ、Tシャツ、ワイシャツなど)の製造を可能にする。
【0003】
実際に、特に親水性材料に基づく基布の場合、汗が皮膚に接触して溜まることがあり、相当の不快感を生む。この理由によって、特にこのような用途においては、汗が衣服の外部へ放出されやすくするために、水分輸送特性が求められる。
【0004】
したがって、本発明に係る基布は、ユーザは身体活動によって激しく運動する間に発汗するので、濡れた状態で皮膚に接触することが特に存在するスポーツウエアのような衣類を製造するのに特に適している。
【0005】
基布に水分輸送特性を付与するには、基布の表面上にそれぞれ積層された親水層および疎水層を用いる方法、特に米国特許出願公開第2007/0151039号明細書に記載の方法が知られている。
【0006】
ただし、この明細書に係る積層された層は連続的な層であり、基布の弾力性および通気性の妨げになる。その結果、このような基布で製造した衣服の快適さ、特に温熱快感は、満足のできるものではなく、特に、ユーザが作り出す熱が外部へ効果的に輸送されないという点において、満足のできるものではない。
【0007】
本発明の目的は、水分輸送特性が、満足のできる通気性とともに作用して、上記基布で製造された衣服のユーザが発する汗および熱の両方の外部への輸送を促進する、基布を機能化する方法を提供することによって、先行技術を完全なものにすることである。このようにして、水分輸送が適切に使用され、熱の放出を促進する。
【0008】
この目的を実現するために、また、第1の態様によれば、本発明は、親水性材料に基づく基布に水分輸送特性を付与するために、該基布を機能化する方法であって、
電離放射線下で反応性を有する少なくとも1つの反応基を備えた少なくとも1つの疎水性物質の形成物を調製するステップと、
この形成物を用いて、基布の表面上に不連続な層を形成するステップと、
この不連続な層に電離放射線を照射し、反応基を反応させることによって、疎水性物質を基布の表面上にグラフトするステップとを含む機能化方法に関する。
【0009】
第2の態様によれば、本発明は、このような方法を実行することによって機能化された基布であって、
上記基布が親水性材料に基づき、
上記基布の内側の表面に、疎水性物質の不連続な層がグラフトされ、
上記不連続な層が、上記表面に部分的に浸透して親水性/疎水性の勾配を生じさせ、基布の厚さ方向の水分輸送特性を基布に付与する、基布に関する。
【0010】
本発明の、さらに別の特異性および効果は、以下の具体的な各種実施形態の記述において明らかになるであろう。
【0011】
親水性材料に基づく基布に水分輸送特性を付与するために、該基布を機能化する方法について、以下に記載する。特に、基布として作用する材料は、セルロース誘導体、特にコットンおよび/またはビスコース、または比較的少量の合成繊維と混合されたセルロース誘導体から主になるポリコットンから選択すればよい。
【0012】
この基布は、特に編み地の織布または不織布からなる衣類を製造するために適した、任意の形態を有していればよい。さらに、この基布は、機能化に先立って、特にその粘着性および/または水和性を改善するために特定の処理を受けてもよい。
【0013】
さらに具体的には、基布は、皮膚に接触して着用される衣類、特にスポーツウエアのような衣類の製造に用いられることを意図したものである。特に、衣服全体が、本発明に係る機能化された少なくとも1つの基布を用いて製造されてもよい。あるいは、機能化された基布の使用が、水分輸送特性に対するより特異な必要性を有する衣類の領域に制限されてもよい。
【0014】
上記機能化方法では、少なくとも1つの疎水性物質、つまり、基布として作用する物質が有する親水性より低い親水性を少なくとも有する物質の形成物を調製してもよい。さらに、この疎水性物質は、電離放射線下で反応性を有する少なくとも1つの反応基を備えている。特に、このような反応基は、電離放射線の影響を受けて反応性フリーラジカルを形成する、不飽和結合を含有していてもよい。例えば、電離放射線下で反応性を有する上記反応基は、ビニル、アミン、エポキシ、アクリレート、ヒドロキシル、フェニル、エーテル、エステル、およびカルボキシル基から選択されてもよい。
【0015】
一実施形態によれば、上記形成物は、ポリジメチルシロキサン(polydimethyl siloxane; PDMS)鎖、特に、さまざまな長さのPDMS鎖を備えている。実際に、これらの鎖が、架橋結合後のシリコーンエラストマー系物質の形成を可能にする。このシリコーンエラストマー系物質は、疎水質に加えて、天然のままでも柔軟で、弾力があり、皮膚に優しく、アレルギー性が低い。
【0016】
特に、上記PDMS鎖は、この鎖に沿って、電離放射線下で反応性を有する官能基を備えている。このように照射することによって、鎖を相互に、および/または別の反応性物質(例えば二官能性剤もしくは三官能性剤、または電離放射線下で反応性に関わる機能を有する基布など)と架橋結合させることが可能になる。
【0017】
一実施形態によれば、上記形成物は、油またはPDMS鎖を含有する複数の油の混合物を備えている。特に、上記形成物は、機能化されたPDMS鎖を含有する少なくとも1つの油および/または機能化されていないPDMS鎖を含有する1つのもしくは複数の油の混合物を備えていてもよい。
【0018】
上記機能化方法では、上記形成物を用いて、基布の表面上に不連続な層を形成してもよい。この目的を実現するために、格子状の不連続な構造単位、特にドットが、基布の表面上に、特にスクリーン印刷、エッチング、噴霧、インクジェット、リソグラフィー、輸送によって積層されてもよい。
【0019】
別の実施形態では、この不連続な層が、上記形成物の連続的な層を基布の表面上に積層し、この層を処理して不連続にすることによって形成されてもよい。特に、連続的な層は、輸送によって積層されて機械的に伸ばされ、連続的な層にひびを形成することによって、この層を不連続にしてもよい。さらに、上記層において空隙性および/または不連続性を作り出すことを促進するために適した添加物が、上記層の形成物に添加されてもよい。
【0020】
上記形成物は、形成された上記不連続な層の、基布の表面への浸透を、特に湿潤剤を備えることによって促進するように構成されてもよい。また、上記形成物は、別の添加物、例えばレオロジー性または揺変性を有する薬剤、さらに、SiH基を有する樹脂、ガム、粘着性プロモーター、または試薬化合物を備えていてもよい。
【0021】
上記形成物は、純粋の、あるいは乳濁または分散した少なくとも1つの油を用いて調製されてもよい。形成物の代表的な例としては、以下の混合物を備えたものがあげられる。すなわち、
5%〜50%の機能化されていないPDMS油、
5%〜50%の、ビニル基を有する機能化されたPDMS油、
5%〜50%の、アクリレート基を有する機能化されたPDMS油、
2%〜20%の架橋結合性樹脂、
0.3%〜3%の粘着性プロモーターがあげられる。
【0022】
形成物の別の例としては、35%〜85%で水性部において乳化した種類の混合物があげられる。界面活性剤および乳化剤(0.5%〜5%)を用いて両方の部分を結合させてもよい。レオロジーは、揺変性を有する薬剤、例えばポリウレタン(0.2%〜2%)を用いて調節されてもよい。また、基布上での水和性は、湿潤剤(0.3%〜3%)を添加することによって調節されてもよい。
【0023】
上記機能化方法では、上記不連続な層に電離放射線を照射し、反応基を反応させることによって、疎水性物質を基布の表面上にグラフトしてもよい。一実施形態によれば、電離放射線は、電子加速器によって生成される電子の照射である。なお、この電子加速器は、PDMS鎖を使用する場合、この鎖の架橋結合およびグラフトが可能になるように出力および時間について調節される。
【0024】
上記方法は、形成および/またはグラフトされた不連続な層を、例えば基布を乾燥させるために赤外線ランプを用いて加熱処理するステップをさらに含んでもよい。また、この加熱処理は、基布上に形成物を熱固定することを可能にする。
【0025】
最後に、基布は、洗浄および乾燥、または基布を後に使用する際に必要とされる別の処理を受けてもよい。
【0026】
一実施形態によれば、上記形成物は、電離放射線下で反応性を有する少なくとも1つの反応基を含んだ物質に基づくケーシング中に活性物質を含有する、マイクロカプセルをさらに備えている。こうすることによって、電離放射線が照射されと、マイクロカプセルは基布の表面上にグラフトされ、マイクロカプセルが有する水分輸送特性と活性物質が有する水分輸送特性とがともに作用することができるようになる。一実施形態によれば、上記不連続な層は、多孔性発泡体の形態であってもよい。組み込みに適したマイクロカプセルは、この孔である。
【0027】
特に、上記活性物質は、特に相転移物質を組み込むことによって熱調節性を有する基布の提供に適したものであってもよく、この場合、ヒトの体温に近い温度で熱調節が実施できるように、融点が15℃〜38℃、好ましくは22℃〜35℃であってもよい。
【0028】
その他の適用例において、上記活性物質は、例えば衛生または快適さに関するさらに別の性質を有していてもよい。いくつかの実施形態では、上記活性物質は、特に呼吸を改善するための精油や、芳香物質、特に蚊に対する忌避物質、また、導電性すなわち帯電防止の電荷、銀塩などの細菌発育阻止因子、脱臭剤を備えていてもよい。
【0029】
一実施形態によれば、上記形成物は、電離放射線下で反応性を有する少なくとも1つの反応基を含有する架橋剤をさらに備えていてもよい。特に、2試薬系架橋剤または3試薬系架橋剤、特に、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレート(AGLY、MAGLY)、ポリエチレングリコール200、400、600 ジアクリレート(PEG200 DA、PEG400 DA、PEG600 DA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGA)、カリウムスルホプロピルメタクリレート(SPMK)、およびラウリルメタクリレートまたはラウリルアクリレートを含めた群の中から選択したものが使用されてもよい、この架橋剤としては、シリコーン化合物と結合し、電離放射線下で反応性を有する官能基を備え、有機化合物との架橋結合を可能にする、ハイブリッド型有機金属化合物、オルガノシラン、またはオルガノチタネート、またはミネラル賦形剤などがさらに含められる。これらの構成物質のファミリーとしては、MEMO(メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン)、GLYMO(グリシドプロピルトリメトキシシラン)、VTMO(ビニルトリメトキシシラン)、PTMO(プロピルトリメトキシシラン)およびTBOT(テトラブチルオルトチタネート)化合物などが含められる。
【0030】
このように、反応基と架橋剤とが反応することによって、疎水性物質、任意のマイクロカプセル、および基布の繊維を結合させ、摩擦および洗浄またはドライクリーニングに対して耐性を有する立体的な三次元格子が形成される。
【0031】
本発明に係る方法によると、親水性材料に基づいて基布を生成することが可能になり、内側の表面に、疎水性物質(特にシリコーンエラストマーに基づく物質)の不連続な層がグラフトされる。こうすることによって、基布は、特に上記層の不連続部分を介して通気性を維持し、発汗後その汗が内部に留まるといった効果(sweating−room effect)を防止する。例えば、不連続な層によって覆われる割合は、30%〜70%、その重量は1g/m〜50g/m、特に5g/m〜15g/mであればよい。
【0032】
さらに、衣類の内側から衣類の外部への水分輸送特性を基布に付与するように、不連続な層は、表面に部分的に浸透して親水性/疎水性の勾配を生じさせる。
【0033】
このように、基布の内側の表面から外表面にいたる基布の厚さ方向の、水分の自然な輸送、およびその結果としての、皮膚から衣類の外側への放出を促進するように、水分輸送の動的状態を管理するために、親水性/疎水性の勾配が調節されてもよい。
【0034】
さらに、不連続な層は、上記表面と上記基布で製造された衣服のユーザの皮膚との間に挿入されるように、内側の表面に対して相対的に盛り上がった表面上に形成されてもよい。このようにして、水分輸送および通気性の機能に加えて、不連続な層は、皮膚と汗が浸透した基布との間のバリアとして作用することもでき、それゆえ、使用時の快適さを改善する。
【0035】
また、疎水性物質の基布上へのグラフトおよび必要に応じて実施すればよい架橋結合は、特に耐久性を有し、特に、不連続な層が洗浄機に対する高い耐性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性材料に基づく基布に水分輸送特性を付与するために、該基布を機能化する方法であって、
電離放射線下で反応性を有する少なくとも1つの反応基を備えた少なくとも1つの疎水性物質の形成物を調製するステップと、
この形成物を用いて、基布の表面上に不連続な層を形成するステップと、
この不連続な層に電離放射線を照射し、反応基を反応させることによって、疎水性物質を基布の表面上にグラフトするステップとを含む機能化方法。
【請求項2】
上記形成物が、形成された上記不連続な層の、基布の表面への浸透を促進するように構成される、請求項1に記載の機能化方法。
【請求項3】
上記不連続な層が、基布の内側の表面に対して相対的に盛り上がった表面上に形成される、請求項1または2に記載の機能化方法。
【請求項4】
上記形成物が、電離放射線を照射する間に架橋およびグラフトされるポリジメチルシロキサン(polydimethyl siloxane; PDMS)鎖を備えている、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項5】
電離放射線下で反応性を有する少なくとも1つの種類の反応基が、PDMS鎖上でグラフトされる、請求項4に記載の機能化方法。
【請求項6】
上記形成物が、純粋の、あるいは乳濁または分散した少なくとも1つのPDMS鎖油を用いて調製される、請求項4または5に記載の機能化方法。
【請求項7】
上記形成物が、PDMS鎖を含有する複数の油の混合物を備えている、請求項4ないし6のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項8】
電離放射線下で反応性を有する反応基が、ビニル、アミン、エポキシ、アクリレート、ヒドロキシル、フェニル、エーテル、エステル、およびカルボキシル基から選択される、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項9】
上記不連続な層が、格子状の不連続な構造単位を基布の表面上に積層することによって形成される、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項10】
上記不連続な層が、上記形成物の連続的な層を基布の表面上に積層し、この層を不連続にする処理を行うことによって形成される、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項11】
上記形成物が、電離放射線下で反応性を有する少なくとも1つの反応基を含んだ物質に基づくケーシング中に活性物質を含有する、マイクロカプセルをさらに備えている、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項12】
上記形成物が、電離放射線下で反応性を有する少なくとも1つの反応基を含有する少なくとも1つの架橋剤を備えている、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項13】
形成および/またはグラフトされた不連続な層を加熱処理するステップを含む、請求項1ないし12のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項14】
上記電離放射線が、電子の照射である、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の機能化方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれか一項に記載の方法を実行することによって機能化された基布であって、
上記基布が親水性材料に基づき、
上記基布の内側の表面に、疎水性物質の不連続な層がグラフトされ、
上記不連続な層が、上記表面に部分的に浸透して親水性/疎水性の勾配を生じさせ、基布の厚さ方向の水分輸送特性を基布に付与する、基布。
【請求項16】
上記疎水性物質が、シリコーンエラストマーに基づいていることを特徴とする、請求項15に記載の基布。
【請求項17】
上記基布が、セルロース誘導体またはポリコットンに基づいていることを特徴とする、請求項15または16に記載の基布。

【公表番号】特表2012−503035(P2012−503035A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526531(P2011−526531)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【国際出願番号】PCT/FR2009/001097
【国際公開番号】WO2010/031920
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(507191474)
【Fターム(参考)】