説明

基板と物質との相互作用制御方法及びそれに用いる基板

【課題】 電場、磁場等の外部力に応答して、基板と生理活性物質との相互作用を制御し、種々の用途、特に薬物伝達システムに適した刺激応答性基板を提供する。
【解決手段】 表面に液晶を有する基板に外部力を与えて該液晶の配向状態を変化させることにより、基板上の液晶と生理活性物質との相互作用を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を用いた基板と物質との相互作用の制御方法及びそれに用いる基板に関し、更に詳しくは、外部力により液晶の配向状態を変化させることを利用した、基板と物質との相互作用の制御方法及びそれに用いる基板に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物、細胞増殖因子、サイトカイン等の生理活性物質の投与において、これらの放出量や放出の時間を制御するのは困難である。生理活性物質の放出制御は、従来は感熱応答性高分子ゲルや感熱応答性高分子グラフト膜を用いて行われてきた。しかし、生理活性物質の多くは熱変成の起こりやすいものであり、利用できる物質種が制限される。
【非特許文献1】J. Membrane Sci., 192, (2001), 27-39.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
外部から刺激を与えることで、人体に影響を及ぼさず、生理活性物質を放出や吸着したりすることができれば有用であり、更に、その放出/吸着の量や時間を制御することができる、刺激応答性バイオインターフェースを提供することができれば非常に有用である。
従って、本発明の課題は、かかるシステムを提供することができる新規方法及びその基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、基板に対する生理活性物質の応答性の変化に、電場、磁場等の外部力により、基板上の液晶の配向状態を変化させることを利用するという新規発想の下、種々検討の結果、下記の通りの本発明に到達した。
【0005】
請求項と同じように
(1)表面に液晶を有する基板に外部力を与えて該液晶の配向状態を変化させることにより、基板上の液晶と生理活性物質との相互作用を制御する方法。
(2)外部力を、電場、磁場、熱及び電磁波から選択される少なくとも1種により与えることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(3)液晶の配向状態を変化させることにより、その表面を、親水性変化、疎水性変化、表面自由エネルギー変化、生理活性物質との分子間相互作用変化、及び/又は表面キラリティー変化により変化させて、液晶と生理活性物質との相互作用を制御することを特徴とする上記(1)又は(2)記載の方法。
【0006】
(4)液晶の配向が、ランダム配向、ホモジニアス配向、ハイブリッド配向、チルト配向、ホメオトロピック配向のいずれかであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)液晶と生理活性物質との相互作用を制御することにより、基板上から生理活性物質を放出する量、時間及び/又は速度を制御することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)電極をかけることにより外部力を与えることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0007】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法に使用するための、配向する液晶を有する表面スイッチング用基板。
(8)櫛歯電極を含み、表面にポリイミド配向膜を有することを特徴とする上記(7)記載の表面スイッチング用基板。
(9)液晶が分子量1000未満の単分子からなることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の表面スイッチング用基板。
(10)液晶の配向状態が変化する前又は後の液晶の配向状態が垂直方向である上記(7)〜(9)の何れかに記載の表面スイッチング用基板。
(11)誘電率異方性(Δε;25℃で測定)が正であることを特徴とする上記(7)〜(10)のいずれかに記載の表面スイッチング用基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電場、磁場等の外部力に応答して、基板と生理活性物質との相互作用を制御することができ、種々の用途、特に薬物伝達システムに適した刺激応答性基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、基板の表面に液晶を配向させ、その配向状態を外部力により変化させることを第一の特徴とし、それにより、基板上の液晶と生理活性物質との相互作用を制御することを第二の特徴とする。
表面に液晶を有する基板は、基板上に液晶を塗布して製膜し、液晶層とすることで、配向した状態の液晶を有する基板を得ることができる。均一に製膜するための塗布方法の例は、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法およびダイコート法である。。本発明では、液晶の配向した液晶層に外部力を与え、該液晶の配向状態を変化させ、それによってその表面状態を変えることで、生理活性物質との相互作用(例えば、生理活性物質の放出量、放出タイミングや放出時間等)が制御されるものと推定される。
【0010】
本発明では、上記の通りに、配向状態を変化させることができる液晶層を構築することができれば、用いる基板はいずれでもよく、素材、形状等は特に限定されない。素材としては、例えば、ガラス、金属、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエステル、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネートなどが挙げられる。
基板は一軸延伸基板でも、二軸延伸基板であってもよく、目的に応じて屈曲していても、球状でもよい。
【0011】
基板は、液晶の塗布性を改善するために、事前に鹸化処理、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理をしてもよい。
液晶の配向を調整するために、予め基板表面を配向処理してもよい。処理方法は例えば、ポリイミド、ポリアミドやポリビニルアルコールなどからなる薄膜を形成して、それをレーヨン布などでラビング処理する方法や、酸化ケイ素を斜方蒸着する方法、延伸または光配向膜やイオンビームなどを用いるラビングフリー配向である。または、基板を直接レーヨン布などでラビング処理してもよい。基板表面の処理を行わなくてもよい場合もある。
【0012】
電極が設置された基板を使用すれば、基板上に電場を発生することができ、それによって液晶の配向を調整することもできる。基板上に電場を発生できれば電極の構造はいずれでもよく、例えば、櫛歯型電極、放射状電極等を用いることができる。
外部力で液晶の配向を制御することも可能なので、電極を含まない基板を使用することもできる。
【0013】
本発明では、液晶の配向状態の違いが、表面状態の変化に対応する。液晶の配向として、ランダム配向(無配向)、ホモジニアス配向(プラナー配向)、ハイブリッド配向、チルト配向、ホメオトロピック配向(垂直配向)等が知られており、これらの配向のいずれを用いてもよい。本発明では、外部力により液晶の配向状態を変えることで、これらの配向状態を可逆的にスイッチすることができ、更には液晶層の表面状態を可逆的に変化させることができる。
【0014】
例えば分子末端が親水性、分子中央が疎水性である液晶を用いた場合、ホモジニアス配向では表面状態が疎水性、ホメオトロピック配向では逆に親水性となる。同様な原理で、液晶の配向状態を変えることで、表面状態を可逆的に変化させることができる。
また、液晶がキラリティーを含む場合、近傍の液晶は互いにねじれあい、ツイスト構造が得られる。ツイスト構造を持つコーンの分子長軸が基板に平行になったプラナー配向、逆に垂直になったフォーカル・コニック組織、および無配向状態のランダム配向を外部力で変化させることで、表面状態を変えることができる。
【0015】
液晶の配向状態は外部力、例えば、電場、磁場、熱、レーザー等の電磁波等によって変えることができる。液晶は電界や磁界に沿って配向するので、電場や磁場の印加・非印加に応じて、ホモジニアス配向、ハイブリッド配向、チルト配向、ホメオトロピック配向(垂直配向)のうちいずれか2状態をとることができる。また、基板上に電極がある場合、電極間に電界を与えて、それに沿って液晶が配向を変えることができる。
【0016】
電極付の基板を使用すれば基板上に電場を印加し、それによって液晶の配向を変えることができる。基板の外にある電極や磁石によって発生する電場や磁場によって液晶の配向を変えることもできる(これを、基板の外から印加すると称する)。本発明の液晶層を含む基板を、例えば人体内で使用する場合、体外からの電磁誘導や、MRI等が発生する磁場によって液晶配向が制御できる。電場や磁場の強度は、液晶の分子配向を変えることができればいずれでもよい。液晶の誘電率異方性や磁化異方性の大きさにも依存するが、1V/μm以上の電場、1テスラ以上の磁場が好ましい。
【0017】
本発明では、外部力として熱を用いることによっても液晶の配向状態を変化させることができる。液晶相−等方性液体相転移温度より高い温度で液晶は無配向状態を示し、より低温側では配向した液晶状態を示す。温度を調整し相転移を促すことで、液晶の配向を制御できる。基板を直接、加熱あるいは冷却しても良いが、基板が体内等の遠隔部位にあるときには、干渉レーザー光等を利用できる。
【0018】
本発明で推定される「表面状態の変化」は、液晶を介しての基板表面の物理的及び/又は化学的な状態の変化をいう。本発明では、液晶の配向状態を変えることで、基板表面の物理的・化学的な状態を調整できる。例えば、電場や磁場等の外部力により、親水性、疎水性、表面自由エネルギー(表面張力)などの物理的状態を変化させることができる。また、電場や磁場等の外部力により液晶の配向を変化させることで、特定の官能基や光学活性部位をより多く(少なく)表面に分布させることができ、これによって他の有機化合物との分子間相互作用や表面のキラリティーを変えることもできる。
【0019】
これらの表面状態の変化により、液晶と生理活性物質との相互作用を変化させ、制御することができる。かかる相互作用の変化を利用して、例えば、放出、吸着を制御することができる。
【0020】
本発明は例えば、薬物伝達システム(あるいは、薬物送達システム、薬物輸送システムであり、以下DDSと略すこともある)に応用できる。基板上に吸着された生理活性物質を、途中で吸収・分解されることなく患部に到達させ、外部力の印加によって液晶の配向状態を変化させ、表面状態を変え、患部で生理活性物質を放出する手法である。生理活性物質が医薬品であれば、目標とする患部(臓器や組織、細胞、病原体など)に、薬物を効果的かつ集中的に送り込むことができる。また、副作用を防止すると同時に、投与量も少なくて済み、薬剤の行き先もコントロールできるという、ターゲット療法が可能になる。
【0021】
また、基板上に吸着する生理活性物質の量、時間や速度(例えば、吸着するタイミング、吸着保持時間)等を調整できるので、本発明は再生医工学にも応用できる。特定の組織細胞を、本発明の基板の設置された箇所に集中的に集め、培養することで、人工的にかつ高速に特定の箇所で組織再生を行うことができる。これにより簡便な医療処置が可能となりまた、免疫の拒絶反応を排除することもできる。人工臓器、人工骨の再生技術などに活用できる。
【0022】
本発明における生理活性物質は、生体物質であるか合成物質であるかを問わず、生物に対して生理作用ないしは薬理作用を発現する物質単体および化合物群から選択される少なくとも1種の物質である。
特に本発明では、細胞増殖因子やサイトカイン(細胞増殖、分化、抑制といった生体の恒常性維持に重要な役割を果たす物質)などの生理活性物質、あるいは、抗原、血液成分、ホルモン、レセプター、ヌクレオチド、プロテインキナーゼ、プロテインホスファターゼ、その他のタンパク質を好ましく用いることができる。
【0023】
より具体的には、細胞が産生する蛋白で、それに対するレセプターを持つ細胞に働き、細胞の増殖・分化・機能発現を行うもので例えば、インターロイキン、コロニー刺激因子、幹細胞因子、腫瘍懐死因子、インターフェロン、変換成長因子、骨形成誘導蛋白、上皮成長因子、角質細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、インスリン様成長因子、血小板由来増殖因子、肝細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、血小板第4因子、ケモカイン受容体のリガンド、マクロファージ炎症蛋白、単球遊走蛋白、正常T細胞に発現する遺伝子産物(ランテス)等の生理活性物質であり、例えば、免疫生物学第5版 監訳 笹月健彦、南江堂に具体例が記載されている。市販されているものも多い。
【0024】
本発明で用いられる液晶は、電場や磁場に応答し分子配向を変えるものであればいずれでも良い。公知の液晶は例えば、液晶化合物データベースLiqCryst(Database of Liquid Crystalline Compounds, LCI Publisher GmbH)が開示している。液晶は、使用温度において液晶状態であれば、1種類のみを単独で使用しても、複数を混合した液晶組成物を使用しても良い。
【0025】
液晶としては、下記の母骨格(A−Z)n−A、および側鎖Rで構成され、式(1)で示されるものを好ましく用いることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
式(1)において、Aは独立に、5ないし6員環の飽和あるいは不飽和単環炭化水素、または、炭素数9以上の縮合環であるが、これらの環の少なくとも1つの水素が−OH、ハロゲン、炭素数1〜3のアルキル、アルコキシまたはハロゲン化アルキルで置き換えられてもよく、−CH−は−O−、−S−、−CO−または−NH−で置き換えられてもよく、−CH=は−N=で置き換えられても良い;Rは独立に、水素、−OH、ハロゲン、−CN、−NCSまたは炭素数1〜20のアルキルであり、このアルキル中の任意の−CH−は、−O−、−S−、−CO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく、このアルキル中の任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよい;Zは独立に、単結合、炭素数1〜8のα,ω−アルキレンであるが、任意の−CH−は、−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−N=N−、−CH=N−、−N=CH−、−CH=CH−、−CF=CF−または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよい;nは1〜3である。
【0028】
式(1)で表される液晶としては、より具体的には、式(2)〜(15)で示されるものを挙げることができる。
【0029】
【化2】

【0030】
式(2)〜(4)において、Rは水素、炭素数1〜10のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の−CH−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく、そして任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく;Xはフッ素、塩素、−OCF、−OCHF、−CF、−CHF、−CHF、−OCFCHF、−OCHF3、または−OCFCHFCFであり;環Bおよび環Dは独立して1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイルまたは任意の水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレンであり、環Eは1,4−シクロヘキシレンまたは任意の水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレンであり;ZおよびZは独立して−(CH−、−(CH−、−COO−、 −C≡C−、−CFO−、−OCF−、−CH=CH−、−CHO−または単結合であり;そしてLおよびLは独立して水素またはフッ素である。
【0031】
【化3】

【0032】
式(5)、および(6)において、RおよびRは独立して水素、炭素数1〜10のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の−CH−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく、そして任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく;Xは−CN、−NCSまたは−C≡C−CNであり;環Gは1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;環Jは1,4−シクロヘキシレン、ピリミジン−2,5−ジイルまたは任意の水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレンであり;環Kは1,4−シクロヘキシレン、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイルまたは1,4−フェニレンであり;Z、およびZは、−(CH−、−COO−、−CFO−、−OCF−、−C≡C−、−CH=CH−、−CHO−、−CH=CH−COO−または単結合であり;L、LおよびLは独立して水素またはフッ素であり;そしてa、b、cおよびdは独立して0または1である。
【0033】
【化4】

【0034】
式(7)〜(12)において、RおよびRは独立して水素、炭素数1〜10のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の−CH−は−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよく、そして任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、あるいはRはフッ素であってもよく;環Mおよび環Pは独立して1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、またはナフタレン−2,6−ジイルであり;ZおよびZは独立して−(CH−、−COO−、−CH=CH−、−C≡C−、または単結合であり;そしてLおよびLは独立して水素またはフッ素であり、LとLの少なくとも一つはフッ素であり、環Wは独立して、W1〜W15であり;そしてeおよびfは0、1または2であるが、e+fは0ではない。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
式(13)〜(15)において、RおよびRは独立して水素、炭素数1〜10のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の−CH−は−O−、−CO−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく、そして任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく;環Q、環Tおよび環Uは独立して1,4−シクロヘキシレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2、5−ジイル、または任意の水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレンであり;そしてZおよびZは独立して−C≡C−、−CH=CH−C≡C−、−CHO−、−COO−、−(CH−、−CH=CH−、または単結合である。
【0038】
各式中、これらの環は左右逆向きに結合してもよい。1,4−シクロへキシレンおよび1,3−ジオキサン−2,5−ジイルの立体配置はトランス型が好ましい。本発明の化合物の各元素は同位体元素を自然に存在する割合より多く含んでも、物性に大きな差異はない。
【0039】
式(1)において、本発明で使用する液晶は、電場や磁場に応答し分子配向を変えるものであればいずれでも良い。誘電率異方性値や磁化異方率の大きな液晶の方が、低電圧や低磁場で分子配合を制御できるので有利である。特に、分子末端に極性基を持つ化合物が大きな誘電率異方性を示すので、一方の末端基Rが、ハロゲン、−CN、−CF、−OCF、−OCFHであり、他方のRが炭化水素基である化合物が好ましい。
【0040】
式(2)〜(4)はいずれも本発明に好適に使用できるが、より具体的には、(2−1)〜(4−36)である。図中、R、R、R、R、R、R、R、R、Rはこれまでと同一の意味を示し、Lは水素またはフッ素を示す。
【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
【化15】

【0050】
【化16】

【0051】
【化17】

【0052】
【化18】

【0053】
【化19】

【0054】
【化20】

【0055】
【化21】

【0056】
【化22】

【0057】
【化23】

【0058】
【化24】

【0059】
【化25】

【0060】
【化26】

【0061】
【化27】

【0062】
【化28】

【0063】
【化29】

【0064】
【化30】

【0065】
【化31】

【0066】
【化32】

【0067】
、R、R、R、R、R、R、R、R、L、を適切に選択することで、種々の目的に応じた物性を有する化合物を得ることができる。
【0068】
式(1)〜(15)の化合物は、LiqCrystおよびその掲載文献を参照して製造できる。また、フーベン・バイル(Houben-Wyle, Methoden der Organische Chemie, Georg-Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセセス(John & Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(John & Wily & Sons, Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Pergamon Press)等に記載された有機合成化学的手法を適宜組み合わせることでも製造できる。
本発明には高分子液晶を使用することもできる。外部力に応じてメソゲン部位の配向が変化する必要があるので、側鎖型高分子液晶で、メソゲン部位の末端に、CN、ハロゲンといった極性基を持つものが好ましい。高分子液晶の具体例および製造方法は、液晶化合物データベースLiqCryst(Database of Liquid Crystalline Compounds, LCI Publisher GmbH)に記載されている。
【0069】
例えば、ダイコート法、グラビアコート法、マイクログラビア法、バーコート法などを適宜使用することで、液晶を基板上に塗布することができる。液晶あるいは高分子液晶の粘度が高く均一な塗布ができない場合には、液晶あるいは高分子液晶を有機溶媒に溶かし、溶液をスピンコート法などで基板上に塗布し、溶媒を除くことで液晶層を基板上に形成することができる。使用できる有機溶媒は例えば、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、ヘプタン、アセトン、塩化メチレン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、ブチルセロソルブ、テトラヒドロフランなどである。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、接触角は、基板表面と水滴の外接接線のなす角度の顕微鏡写真から得た。タンパク質の量は、MicroBCA法あるいはニンヒドリン法によって、波長560nmの光の吸収量を測定し求めた。血液の凝固時間は、Lee−White法により求めた。
【0071】
化合物の相転移温度において、g、C、N、Sm、Ch、およびIは、それぞれ、ガラス転移点、結晶、ネマチック相、スメクチック相、コレステリック相、および等方相である。スメクチック相は層内の分子の配列状態によって、サブクラスに分類される。かっこ内の相転移はそれがモノトロピックであることを示す。温度の単位は℃である。液晶の物性値の測定は、日本電子機械工業規格(Standard of Electronic Industries Association of Japan)、EIAJ・ED−2521Aに記載された方法、またはこれを修飾した方法に従った。
【0072】
相転移温度:偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部が相転移したときの温度を測定した。
【0073】
光学異方性(Δn;25℃で測定)および屈折率(25℃で測定):光学異方性および屈折率は、波長が589nmの光によりアッベ屈折計を用いて測定した。
【0074】
誘電率異方性(Δε;25℃で測定)
(1)誘電率異方性が正である液晶:2枚のガラス基板の間隔(ギャップ)が約9μm、ツイスト角が80度の液晶セルに試料を入れた。このセルに20ボルトを印加して、液晶の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。0.5ボルトを印加して、液晶の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。
(2)誘電率異方性が負である液晶:ホメオトロピック配向に処理した液晶セル(間隔が約9μm、ツイスト角が80度)に試料を入れ、0.5ボルトを印加して誘電率(ε‖)を測定した。ホモジニアス配向に処理した液晶セルに試料を入れ、0.5ボルトを印加して誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。
【0075】
<実施例1 タンパク質の吸着状態の制御(1)>
チッソ株式会社製ホメオトロピック配向剤を塗布した櫛歯形電極付きガラス基板(ラビングなし、ITO電極間隔10μm、ITO電極幅10μm)の上に少量の4´−ペンチル−4−シアノ−1,1´−ビフェニルを膜厚が約4μmとなるように塗布した。クロスニコル下でガラス板を回転したところ、いずれの角度でも暗視野を与えたこと、表面反射IR(RAS)測定でシアノ基に由来するスペクトルを測定したところから、液晶が垂直配向していることが確認できた。交流(周波数0.1kHz、電圧10V)および直流(10V)を印加したところ、分子の配向が電場によって変化し、明暗が得られた。電場非印加時に暗状態、電場印加時に明状態を得た。このことから、電場印加時に分子は水平配向をしていることがわかった。それぞれの配向状態での水との接触角はそれぞれ、74.1±1.3°、および82.6±1.4°であった。このことから、電場非印加時の表面状態がより親水性の高い状態、電場印加時の表面状態がより疎水性の高い状態であることがわかった。
【0076】
なお、上記で用いた4´−ペンチル−4−シアノー1,1´−ビフェニル(Cr 24 N 35 I)の物性値は下記の通りである。
Δε(誘電率異方性値) 9.9
Δn(光学異方性値、あるいは複屈折率) 0.18
【0077】
液晶が垂直配向を示す基板上に、チログロブリン(Thyroglobulin、分子量670000)を含む水溶液1mL(100μg/mL)を滴下し、30℃で1時間放置した。上澄み液を取り、同液中のタンパク質量を測定した(タンパク質量A)。基板にPBS1mLを滴下し、30℃で1時間放置し、基板表面を洗浄した。洗浄液を取り、含まれるタンパク質の量を測定した(タンパク質量B)。100μg−(A+B)から、基板表面に吸着されたチログロブリンの数量が14±2μgであることがわかった。同様な方法で水平配向におけるチログロブリンの吸着量を求めたところ、吸着量は25±3μgであることがわかった。表面の液晶の配向状態を変えることで、タンパク質の吸着量を制御できることがわかった。
【0078】
<実施例2 タンパク質の吸着状態の制御(2)>
チログロブリンをシトクロームC(Cytochrome C、分子量12500)に代え実施例1と同様な方法で吸着量を測定したところ、垂直配向および水平配向での吸着量はそれぞれ、21±2μg、14±2μgであった。
【0079】
<実施例3 血液の凝固時間の制御>
垂直配向および水平配向状態を示す基板上に血液300μLを滴下し、27℃を保ち放置した。血液が凝固するまでの時間を測定したところ、垂直配向状態を示す基板上では42分、水平配向状態を示す基板上では48分を要した。基板表面の液晶の配向状態を変えることで、血液の凝固時間を制御できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に液晶を有する基板に外部力を与えて該液晶の配向状態を変化させることにより、基板上の液晶と生理活性物質との相互作用を制御する方法。
【請求項2】
外部力を、電場、磁場、熱及び電磁波から選択される少なくとも1種により与えることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
液晶の配向状態を変化させることにより、その表面の親水性、疎水性、表面自由エネルギー、生理活性物質との分子間相互作用、及び/又は表面キラリティーを変化させて、液晶と生理活性物質との相互作用を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
液晶の配向が、ランダム配向、ホモジニアス配向、ハイブリッド配向、チルト配向、ホメオトロピック配向のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
液晶と生理活性物質との相互作用を制御することにより、基板上から生理活性物質を放出する量、時間及び/又は速度を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
電極をかけることにより外部力を与えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法への使用するための、配向する液晶を有する表面スイッチング用基板。
【請求項8】
櫛歯電極を含み、表面にポリイミド配向膜を有することを特徴とする請求項7記載の表面スイッチング用基板。
【請求項9】
液晶が分子量1000未満の単分子からなることを特徴とする請求項7または8に記載の表面スイッチング用基板。
【請求項10】
液晶の配向状態が変化する前又は後の液晶の配向状態が垂直配向であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の表面スイッチング用基板。
【請求項11】
液晶の誘電率異方性(Δε;25℃で測定)が正であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の表面スイッチング用基板。





【公開番号】特開2007−15955(P2007−15955A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197581(P2005−197581)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】