説明

基板上に固定化した蛋白質の構造変化を検出する方法

【課題】蛋白質の構造変化を微量の試料で簡便に且つ短時間で検出できる方法を提供する。
【解決手段】基板上に蛋白質を固定化した試料膜を作製し、試料膜に蛋白質の構造変化に影響を与える活性を判定すべき物質を添加し、蛋白質の当該構造変化を検出する。本方法は固相に結合した状態において蛋白質の構造変化の検出を可能としたものであるので、微量の蛋白質で、短時間に多検体を同時に且つ簡便に構造変化の測定を行う事が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に固定化した蛋白質の構造変化を検出する方法に関する。更に本発明は、蛋白質の構造変化に影響を与える活性を有する物質を探索する方法と、蛋白質の構造変化に起因する疾患の治療薬または診断薬を探索する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質の構造変化を検出する方法として、蛋白質の構造変化を液相中で調べる手段が知られている。そのような手段として、蛋白質を特定の構造を認識する色素と液相で反応させて結合量の変化を検出する方法、目的の蛋白質を蛍光標識して液相中で反応させ、2つの蛍光分子のエネルギー移動により蛋白質のコンホメーション解析を行うFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)法(非特許文献1参照)、αへリックスやβシート構造の含量の推定を行うことができる円二色性(Circular dichroism)分光法(非特許文献2参照)、蛋白質のフォールディングなどを推測可能なラマン分光法(非特許文献3参照)などを挙げることができる。これらの手段の他には電子顕微鏡を用いて結晶解析を行う方法も知られている。
【0003】
【非特許文献1】Heyduk T., Curr. Opin. Biotech., Vol. 13, p292-296 (2002)
【非特許文献2】小笠原京子、油谷克英、蛋白質 核酸 酵素 Vol. 49, p1668-1675 (2004)
【非特許文献3】内田毅、北川禎三、蛋白質 核酸 酵素 Vol. 49, p1693-1699 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし液相中で反応させる手法においては、液相であることから必要となる蛋白質の量が多いという問題があり、また蛋白質の標識が必要となる場合もある。また、顕微鏡を用いた手法は多検体を同時に観察することができないという問題がある。よって多数の蛋白質の構造変化を微量で且つ簡便に検出できる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、基板上に固定化した蛋白質の構造変化を検出する方法を提供するものである。すなわち、本発明は基板上に蛋白質を固定化した試料膜を作製し、当該試料膜に当該蛋白質の構造変化に影響を与える活性を判定すべき物質を添加し、蛋白質の当該構造変化を検出する過程よりなる上記方法を提供するものである。基板上に固定化した蛋白質を用いた本発明の方法を用いることにより、微量の蛋白質で、短時間に多検体を同時に且つ簡便に構造変化を測定する事が可能となる。また本発明の方法により、蛋白質の構造変化に影響する活性をもつリガンドを効率よくスクリーニングする事も可能となる。従来技術のような液相中の反応ではなく、固相に結合した状態において蛋白質の構造変化の検出を可能とした点に本発明の最大の特徴がある。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法を用いて、基板上に固定化したアミロイド蛋白質からなる試料膜に活性を判定すべき物質を添加し、その後βシート構造に結合する蛍光色素と反応させ、蛍光強度を検出することにより、上記物質のもつアミロイド蛋白質に対する構造変化を簡便に且つ短時間で検出する事が可能となった。本発明の方法はアミロイド蛋白質のみならず、種々の蛋白質の構造変化を検出する目的に適用できると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
上記において述べたように本発明は、基板上に固定化した蛋白質の構造変化を検出する方法を提供するものである。なお本願明細書において「固定化」とは溶媒に分散あるいは溶解した試料から安定な状態で、即ちその生物学的あるいは機能的な活性を保持したまま乾燥状態で、スポットやフィルムを基板上に形成させる事を意味する。下記の実施例において示されるように、本発明者らは基板上に固定化したアミロイド蛋白質からなる試料膜を作製し、その試料膜に物質を添加したときの構造変化を検出した。なおアミロイド蛋白質の構造変化を検出することは本発明において好適な態様であるが、本発明で検出の対象となる蛋白質の構造変化はアミロイド蛋白質の構造変化に限定されるものではない。
【0008】
また本願明細書において蛋白質の構造変化とは、蛋白質のコンホメーションが変わるような二次構造あるいは三次構造の変化を言う。蛋白質は同じ一次構造を保持しても、そのコンホメーションが変化することによりその蛋白質の機能は大きく変化し、また蛋白質の構造変化は多くの重要な生理機能を担っている。よってかかる蛋白質の構造変化を検出することは、基礎医学の研究においても臨床的な診断においても大きな意味を有する。上記で述べた蛋白質の構造変化の中で「アミロイド性の構造変化」とは、特異な層状のβシート構造からなるアミロイド繊維を形成するような構造変化を意味するものであり、蛋白質のアミロイド性の構造変化はアミロイド関連疾患の原因となる。アルツハイマー病などの疾患は、アミロイド性の構造変化を起こした蛋白質の沈着により起こる事が知られている。よってその構造変化を固定化した状態で効率的に検出できる本発明の方法は、アミロイド疾患の研究や治療薬の開発に新たな途を示すものである。
【0009】
本願明細書の実施例において、アミロイドβ(1-42)の構造変化に着目し、構造変化したβシート構造へ結合する蛍光色素を用いて蛋白質の構造変化の検出を行った。その結果、蛋白質の構造変化に影響する活性を有する物質のスクリーニングが可能となった。しかし実施例において使用したアミロイドβ(1-42)のみならず、本発明の方法により、アミロイドβ(1-40)、アミロイドβ(11-40)、アミロイドβ(11-42)、更にはN末端が削られたアミロイドβ(N-terminal truncated アミロイドβ peptide)など他のアミロイドβ蛋白質の構造変化も、同様の手法により検出することができる。
【0010】
アミロイド性の構造変化を起こすことが知られている蛋白質としては、それらに限定されるものではないが、アミロイドβ蛋白質、免疫グロブリン軽鎖蛋白質、アミロイドA蛋白質、トランスサイレチン蛋白質、リソザイム、Bril蛋白質、シスタチンC蛋白質、スクレイピー蛋白質、β2ミクログロブリン、アポリポプロテインA1、ゲルゾリン、ランゲルハンス島アミロイド蛋白質、フィブリノーゲン、プロラクチン、インシュリン、カルシトニン、心房性ナトリウムペプチド、α−シヌクリン、プリオン蛋白質、ハンチンチン蛋白質、スーパーオキサイドジスムターゼ及びα1−アンチキモトリプシンなどを挙げることができる。この中でもアミロイドβ蛋白質は、アミロイド性の構造変化を起こす代表的な蛋白質として良く知られており、アミロイドβ蛋白質の構造変化を検出することは本発明において好適な態様である。
【0011】
なお本発明の方法は固相に結合した状態の蛋白質の構造変化を測定するものであるので、まず上記において述べた蛋白質からなる試料膜を基板上に形成し、蛋白質の測定サンプルとする。形成される試料膜の大きさは、好ましくは、縦は50μmから1000μm、横は200μmから2000μm、厚さは0.3μmから10μmの範囲内であるが、その範囲内に特に限定されるものではない。また本発明における基板とは、その上に試料膜が作製されることによって試料膜を測定装置に移動することを可能とする適切な膜の支持体であり、該基板の材料や大きさは特に限定されるものではない。なお下記に述べるように、マイクロ流路チップに蛋白質の試料膜を作製するという態様を採用することも可能である。そしてその様な場合には、上記で述べたよりずっと小さな試料膜で本発明の方法を実施することが可能である。
【0012】
かかる蛋白質の試料膜を作製する方法としては、エレクトロスプレー(静電噴霧)により試料を堆積させて薄膜を形成させるESD法(静電噴霧法)が好適である。かかる技術は当業者にとって周知のものであり、適宜改変して本発明の目的に使用することができる。そのような技術を開示した文献の一例が特表2002−511792号公報に開示されており、本文献には、巨大生体分子を含む不揮発性物質の堆積物を静電噴霧によって製造する方法が記載されている。
【0013】
ESD法によると、蛋白質を適度に緩く且つ多孔性に固定化することができる。本発明において蛋白質は基板上に結合しているが、その結合があまり強固であると披験物質を作用させても蛋白質の構造変化が起こる余地がなくなるために、本発明の目的においては好ましくない。しかし蛋白質の結合があまり緩くても、種々の物質と反応させた際に剥れてしまう。そのような事情から、蛋白質の固定化する強度は適度である必要があるが、ESD法はこのような要請を満足する手法である。しかし蛋白質の固定化法はESD法に限定されるものではなく、スポッティング法を使用することも可能であり、インクジェット方式による製膜方法であるインクジェット法などを使用することも可能である。また特開2003−136005号公報には、生体高分子などの活性を保持したまま固定して薄膜やスポットを作製するための装置が記載されている。
【0014】
ESD法により固定化した後に、上記試料膜を構成する蛋白質を更に架橋することもできる。かかる架橋を行うことは必須ではないが、試料膜の膜としての形態や強度を保つ目的において有効である。生物学的分子を重合するために利用できる架橋試薬は当業者に良く知られており、例えば、Hermanson et al., Immobilized Affinity Ligand Techniques Academic Press, New York, 1991を参照することができる。
【0015】
蛋白質を架橋するために使用する試薬としては、下記の実施例で使用しているグルタルアルデヒドは最も好適である。その他に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ)ピロピルカルボジイミド(EDC)などのゼロ長架橋試薬、ジメチルアジピンイミデート(DMA)などのホモ二価性架橋試薬、スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)などのヘテロ二価性架橋試薬、4-アジド−2−ニトロフェニルビオシチン-4-ニトロフェニルエステルなどの三価性架橋試薬を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。また架橋反応を行う時間も特に限定されるものではなく、下記の実施例のグルタルアルデヒドの架橋時間は5分間であるが、0から3時間程度の範囲内で最適の条件を適宜選択することができる。
【0016】
基板上に固定化したアミロイド蛋白質からなる試料膜を作製した後、その試料膜を、該蛋白質の構造変化を引き起こす活性を検討するべき披験物質を含む緩衝液に浸漬する。前記披験物質の例として、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、糖、脂質、核酸、金属および有機化合物を挙げることができるが、それらの例に限定されるものではなく、本発明の方法を用いて、種々の披験物質が蛋白質の構造に対して及ぼす影響を検討することができる。
【0017】
試料膜の蛋白質に披験物質を作用させた後、当該蛋白質の構造変化の検出を可能な試薬と反応させる。かかる試薬は目的とする蛋白質の構造変化を特異的に捉えることができる限り特に限定されるものではなく、好ましくは構造変化を特異的に認識する蛍光色素または抗体である。下記の実施例においてはβシート構造を認識する蛍光色素である1-フルオロ-2,5-ビス(3-カルボキシ-4-ヒドロキシスチリル)ベンゼンと反応させ、試料膜の蛍光強度を測定する事により、アミロイド蛋白質の構造変化への影響を測定している。しかしβシート構造を認識する試薬はその他にも知られており、例えばコンゴーレッド、クリサミン-G、チオフラビンT, BSB[(E,E)-1-ブロモ-2,5-ビス-(3-ヒドロキシカルボニル-4-ヒドロキシ)スチリル-ベンゼン] なども報告されている。またこれらの誘導体にも同様の作用をもつものがある。よって当業者は適切なβシート構造の検出試薬を選択して本発明の目的で使用する事ができる。
【0018】
なお本発明者らは、多数の蛋白質あるいはDNAと他の化合物との結合をマイクロチップ上で検出し、更には結合した化合物を回収してその同定を行えるような構造を持つ生体高分子マイクロチップを提供することを目的としてマイクロ流路チップの開発を行い、そのマイクロ流路チップについて特開2002-243734号公報において報告している。そこで本発明において、特開2002-243734号公報に記載されているマイクロ流路チップに目的とする蛋白質の試料膜を作製することは好適である。本願明細書においてマイクロ流路チップとは、特開2002-243734号公報記載のマイクロチップ、又は試験するべきサンプルや実験条件に応じて該マイクロチップを適宜改変したものを意味するものである。しかし使用されるマイクロ流路チップは必ずしも特開2002-243734号公報記載のものに限定されるものと解されるべきではなく、本発明の技術思想の範囲内において他のマイクロチップを使用することも可能である。なお本願明細書において「試料膜固定マイクロ流路チップ」とは、構造変化を検出しようとする蛋白質が固定化された試料膜を有するマイクロ流路チップを意味する。
【0019】
特開2002-243734号公報記載のマイクロ流路チップは、生体高分子を固定化したスポット、それを支持する基板部分、そこへさらに液体を供給する微細流路部分、及び反応物を回収する微細流路部分から構成される。そのために特開2002-243734号公報記載のマイクロ流路チップを用いると、微量な生体高分子と試料との結合をマイクロチップ上で検出したり、結合した化合物を回収して同定を行うことができる。図1に、特開2002-243734号公報記載のマイクロ流路チップの構造を示す。
【0020】
特開2002-243734号公報記載のマイクロ流路チップ(図1)において、ガラスあるいはプラスチック製である第1の基板1の上に生体高分子(本発明の場合には構造変化を検出するべき蛋白質)のスポット2がアレイ状に形成されている。基板1の生体高分子の固定は、スポットがアレイ上に形成されるものでも(図1)、スポットの代わりに直線状あるいは曲線状のストリップないしは任意の形状のものを、使用目的に応じて流路に対して任意の角度に任意の位置にESD法で形成させたものも用いることができる。なお直線状のストリップの形状で生体高分子を固定化した様子を示す図を、図2に表す。そして特開2002-243734号公報記載のマイクロ流路チップは更に第2の基板3を有し、第2の基板3の片面には凹部4が設けられており、第1の基板1のスポット2形成側と第2の基板3の凹部4側とを接合させることにより、閉じた微細流路及び反応場を形成し、反応すべき液体が適切に供給されるようになっている。
【0021】
第2の基板3の凹部4の端部にはそれぞれ貫通部が設けられており、それぞれ供給用開口5と回収用開口6として使用する。なお供給用開口5から流入した液体は微細流路に流れ、この流路は枝分かれしており、液体が全てのスポット部分へ並列的に均等に流れ、スポット部分を通過した後、最終的には1つの流路として集束し、回収用開口6から排出するように設計されている。このような構造のマイクロ流路チップを用いることにより、微細流路に披験物質を流して蛋白質と披験物質を反応させ、更に蛋白質の構造変化の検出試薬を流す事により、微量の蛋白質の構造変化を高感度で且つ短時間で正確に検出することが可能となる。
【0022】
より具体的に言えば、図1のスポット2に相当する部分に蛋白質の試料膜をESD法により作製する。そしてスポット2が形成された第1の基板1と、凹部4を備える第2の基板3を接合する。微細流路に溶媒に溶解した披験物質を流すことにより、スポット2は蛋白質と披験物質との反応場となり、試料膜中の蛋白質の構造変化が起こる。そしてその後に、構造変化を起こした蛋白質を特異的に認識する蛍光色素や抗体を微細流路に流すことにより、マイクロ流路チップにおいて蛋白質の構造変化を検出することができる。本願明細書において「微細流路上の反応場」とは第1の基板1上の試料膜が形成された部分であって、第2の基板3と組み合わせた際に微細流路に流れる液体試料と反応する場所を意味する。固定化した蛋白質と披験物質を接触させる方法はマイクロ流路チップを用いた態様に限定されるものではないが、マイクロ流路チップを用いた方法は試料が微量で済むために、かかる態様を用いることは本発明において特に好適である。ところで蛋白質を固定化する「基板」の形状は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて任意の形状のものを採用することが可能である。より具体的には上記で具体的に述べてきた微細流路の他に、マイクロウェルなども使用できる。
【0023】
なおこれまで主として蛋白質のアミロイド性構造変化の検出について述べてきたが、本発明の方法により検出できる蛋白質の構造変化はそれに限定されるものではない。本発明の方法が有効であると考えられる他の構造変化の例として、成長ホルモン(Growth Hormone:GH)受容体の二量体化を挙げることができる。GH受容体はそのリガンドであるGHの刺激により二量体化し、GH刺激に伴うGH受容体の二量体化を介してGH刺激の情報が細胞内に伝達されると考えられている。このGH受容体二量体化に感受性を有するGH受容体エピトープを認識し、二量体化したGH受容体と結合する抗体が知られている(Yue Zhang et al., J. Biol. Chem., Vol. 274, pp33072-33084 (1999))。そこでGH受容体の試料膜を作成し、蛍光ラベルした当該抗体の結合活性を検出することにより、基板上に固定化されたGH受容体の二量体化を検出することができる。
【0024】
GH受容体に代表されるようなリガンド刺激により二量体化する受容体の場合には、二量体化という構造変化を検出することで、当該受容体のアゴニストやアンタゴニストのスクリーニングを行うことができる。GH受容体以外にも、CSF-1(colony stimulating factor-1)受容体やPDGF(platelet derived growth factor)受容体など、いくつかのサイトカイン受容体、更にはGタンパク質共役型受容体においても、リガンドの受容体刺激により二量体を形成する。よってそれらの受容体においても同様に、受容体のアゴニストやアンタゴニストをスクリーニングする事ができる。
【0025】
その様に、上記の蛋白質の構造変化の検出方法を用いて、蛋白質の構造変化に影響を与える活性を有する物質をスクリーニングすることが可能である。基板上に固定化した蛋白質の構造変化を検出する本発明の方法によれば、多数の物質の中から蛋白質の構造変化に影響を与える物質を効率よく選別することが可能であり、スクリーニングに費やす時間や必要な蛋白質の量を大幅に削減できる。
【0026】
またそのようなスクリーニングにより得られた活性物質は、蛋白質の構造変化に起因する疾患の治療薬または診断薬となり得る。例えばアミロイド蛋白質のβシート構造への変化はアルツハイマー病の原因であるので、アミロイド蛋白質の構造が変化するような条件下でその変化を阻害する物質はアルツハイマーの治療薬となりうる。このように本発明の方法は基礎医学および臨床診断において種々の可能性を有するものである。
【実施例】
【0027】
(基板上に固定化したアミロイドβの構造変化に対するZnCl2の効果)
アミロイドβ(1−42)(Bachem AG, Bubendorf, Switzerland)を0.1%アンモニア水に1 mg/mLの濃度で溶解し、その溶液を特表2002-511792号公報に記載された静電噴霧を行う装置、あるいは特開2003-136005号公報に記載された固定化装置を用いて乾燥空気中で噴霧し、縦400μm横800μmの孔をもつマスクを透過させ、静電噴霧法(ESD法)により厚さ1μmの膜を作成し、グルタルアルデヒドと30℃で5分間反応させ蛋白質の架橋を行った。
【0028】
この膜を、0.15 M NaClを含む10 mM Hepes pH7.4緩衝液(以下緩衝液と略す)中に1 mM ZnCl2の存在下あるいは非存在下で10分間浸し、EDTAサンプルのみ1 mM ZnCl2で反応後10分間1 mM EDTAを含む緩衝液に浸した。その後、50%エタノール溶液を用いて調製した終濃度0.01%のβシート構造に結合する1-フルオロ-2,5-ビス(3-カルボキシ-4-ヒドロキシスチリル)ベンゼン溶液((株)同仁化学研究所、熊本)に30分間浸した。さらに、膜を飽和炭酸リチウム水溶液に浸した後、50%エタノールで軽く洗い、乾燥後蛍光顕微鏡で観察した。
【0029】
ZnCl2存在下で反応させた膜(図3:点線)、ZnCl2非存在下で緩衝液のみと反応させた膜(図3:実線)、EDTAと反応(ZnCl2と反応後EDTAに置換)させた膜(図3:破線)について、各膜上の相対蛍光強度をスキャンして相対蛍光強度を得た(図3)。なお図3において縦軸は相対蛍光強度であり、横軸は蛋白質膜を形成したフィルム上をスキャンした際のフィルムの左端からの距離である。それそれベースラインより値が高くなっている部分が、膜の存在するところを示す。1 mM ZnCl2に浸した膜の蛍光強度が最も高くなり、ZnCl2によりアミロイドβがβシート構造へと変化している事が示された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
基板上に固定化した蛋白質からなる試料膜に蛋白質の構造変化を引き起こす活性を判定すべき物質を添加し、その後その構造変化を特異的に検出できる試薬を作用させる事により、上記物質による蛋白質の構造変化を検出することができる。本発明において蛋白質は基板上に固定化されているので、蛋白質の構造変化を微量の試料で簡便に且つ短時間で検出できる。本発明の方法は蛋白質の構造変化に影響を与える活性を有する物質のスクリーニングに応用する事が可能であり、更には蛋白質の構造変化に起因する疾患の治療薬または診断薬の開発に新たな途を開くものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、マイクロ流路チップの構造を示す図である。
【図2】図2は、直線状のストリップの形状で生体高分子を固定化した様子を示す図である。
【図3】図3は、アミロイドβ(1−42)のβシート構造への構造変化に対してZnCl2が及ぼす効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1 第1の基板
2 スポット
3 第2の基板
4 凹部
5 供給用開口
6 回収用開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に蛋白質を固定化した試料膜を作製し、当該試料膜に当該蛋白質の構造変化に影響を与える活性を判定すべき物質を添加し、蛋白質の当該構造変化を検出する過程よりなる、基板上に固定化した蛋白質の構造変化を検出する方法。
【請求項2】
前記構造変化がアミロイド性βシート構造への構造変化である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記蛋白質が、アミロイドβ蛋白質、免疫グロブリン軽鎖蛋白質、アミロイドA蛋白質、トランスサイレチン蛋白質、リソザイム、Bril蛋白質、シスタチンC蛋白質、スクレイピー蛋白質、β2ミクログロブリン、アポリポプロテインA1、ゲルゾリン、ランゲルハンス島アミロイド蛋白質、フィブリノーゲン、プロラクチン、インシュリン、カルシトニン、心房性ナトリウムペプチド、α−シヌクリン、プリオン蛋白質、ハンチンチン蛋白質、スーパーオキサイドジスムターゼ及びα1−アンチキモトリプシンから成る群から選択された蛋白質である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記蛋白質がアミロイドβ蛋白質である請求項3記載の方法。
【請求項5】
静電噴霧法により前記固定化を行う請求項1から請求項4のいずれか一つの請求項記載の方法。
【請求項6】
蛋白質の前記構造変化を、当該構造変化を起こした蛋白質を特異的に認識する蛍光色素、または当該構造変化を起こした蛋白質を特異的に認識する抗体により検出する請求項1から請求項5のいずれか一つの請求項記載の方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一つの請求項記載の方法により蛋白質の構造変化に影響を与える活性を有する物質を探索する方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一つの請求項記載の方法により蛋白質の構造変化に起因する疾患の治療薬または診断薬を探索する方法。
【請求項9】
マイクロ流路チップの微細流路上の反応場に蛋白質を固定化した試料膜を有し、当該蛋白質の構造変化を検出するための試料膜固定マイクロ流路チップ。
【請求項10】
静電噴霧法により前記固定化を行う請求項9記載の試料膜固定マイクロ流路チップ。
【請求項11】
前記構造変化がアミロイド性βシート構造への構造変化である請求項9記載の方法。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか一つの請求項記載の試料膜固定マイクロ流路チップを用いて蛋白質の構造変化を検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−90782(P2006−90782A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275013(P2004−275013)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(302064588)株式会社 フューエンス (12)
【Fターム(参考)】