説明

基板形状の表現方法

【課題】 基板のテクスチャの凹部および凸部各先端の曲率半径の算出法を確立すること。
【解決手段】 AFM測定データを、各点に重み付けをして平均を取る荷重移動平均にて、データのスムージングを行う。スムージング後データの隣接する3データにおける2点ずつの傾きから、凸部と凹部を検出する。検出した凹部および凸部各先端において、先端部とした前後1点ずつを含めた3データから円の公式を利用して曲率半径を算出する。算出した凸部先端の曲率半径Rcpおよび凹部先端の曲率半径RcvとORには強い相関がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板形状の表現方法に関し、特に、情報処理装置の外部記憶装置として用いられる固定磁気ディスク装置などに搭載される磁気ディスクなどの磁気記録媒体の基板形状の表現法に関する。詳細には、本発明は、テクスチャ加工された非磁性基体の基板形状を表すテクスチャの凹部および/または凸部先端の曲率半径を算出して基板形状を表現する基板形状の表現法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータなどの情報処理装置の外部記憶装置として固定磁気ディスク装置が多く用いられている。この固定磁気ディスク装置に搭載される磁気記録媒体としての磁気ディスクは、一般に、ディスク状の非磁性材料、例えばアルミニウム合金やガラスからなる基板の表面に無電解メッキ法でNi−P膜からなる非磁性金属膜を形成した非磁性基体に円周上にテクスチャ加工が施され、その上にスパッタ法でCrなどからなる非磁性金属下地層、Co合金からなる薄膜磁気記録層、アモルファスカーボンからなる保護層を順次成膜積層し、その上に液体潤滑剤を塗布した潤滑層で構成されている。
【0003】
テクスチャ加工は、磁気ヘッドと磁気ディスク表面との吸着防止として、磁気ヘッドと磁気ディスクとの接触面積を小さくすること、または、磁気ディスクに磁気異方性を与えて磁気記録媒体としての磁気特性を向上させることを目的として、基板表面上の同心円状条痕(テクスチャ)を形成する加工技術である。テクスチャ加工による円周状の溝が、非磁性金属下地層および薄膜磁気記録層の成膜時に円周方向と半径方向の残留磁化:Mrの差を発生させる。その差は、磁気異方性(残留磁化と膜厚の積(Mrt)の半径方向に対する円周方向の値:Orientation Ratio(OR))と言われ、磁気ヘッドから同一レベルの再生出力を得るときに、ORが大きい方が薄膜磁気記録層の膜厚を薄くすることができ、媒体ノイズを低減することができる。ORは磁気特性のひとつであるため、Crなどからなる非磁性金属下地層やCo合金からなる薄膜磁気記録層の組成や膜厚にも依存するが、テクスチャがあることによって初めて発生するものである。
【0004】
なお、無電解NiPメッキAlディスク基板表面のテクスチャ形状をAFM(Atomic Force Microscope)により評価し、その指標として中心線平均表面粗さや半径方向の最大表面粗さ等を用いることが特許文献1に開示されている。AFMにより表面形状を測定することおよび円周方向の中心線平均粗さと半径方向の中心線平均粗さの比と磁気異方性比の相関関係を求めることについては特許文献2に開示がある。
【0005】
【特許文献1】特開平7−141647号公報
【特許文献2】特開2004−083294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、磁気記録媒体として磁気ディスクの記録容量の更なる増大が求められている。記録容量増大の際にも、当然、再生時における媒体ノイズは低減しなければならず、高ORが望まれる。
【0007】
しかしながら、ORはテクスチャ加工されないと発生しないものであるが、その発生メカニズムは解明されていない。テクスチャ、すなわち基板形状を表すパラメータとしては、中心線平均粗さ(Ra)や最大高さ(Rmax)や十点平均粗さ(Rz)がある。しかし、これらパラメータとORに相関は無いため、高ORを得るためのテクスチャ後基板の設計指針がないのが現状であり、将来に向けた磁気記録媒体開発、特にテクスチャ技術開発に当たり、設計指針となるべき基板形状を表すパラメータの探索が望まれている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、これまで検討していなかった基板形状を表すパラメータのひとつとして、テクスチャ、すなわち同心円状条痕の凹部および凸部各先端の曲率半径の算出法を確立し、算出結果により基板の形状を表現する基板形状の表現方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る基板形状の表現方法では、以下の手順でAFM(Atomic Force Microscope)データからテクスチャ形状の凹部および凸部各先端の曲率半径を算出することができる。
【0010】
すなわち、AFM測定データを求めた後、以下の手順にしたがってテクスチャ形状の凹部および凸部各先端の曲率半径を算出する。
【0011】
まず、AFM測定データを、各点に重み付けをして平均を取る荷重移動平均にて、データのスムージングを行う。ここで、各点の重み付け(各点に掛ける重み係数)は、曲線を最小二乗法でフィッティングして求めた2次関数と見なし、スムージング後のデータがその関数上の点となるように計算されるものを用いる。
【0012】
続いて、スムージング後データの隣接する3データにおける2点ずつの傾きのうち、
f’(i)>0 かつ f’(i+1)<0
f’(i)=0 かつ f’(i+1)<0
f’(i)>0 かつ f’(i+1)=0
を凸部として検出する。さらに、スムージング後データの隣接する3データにおける2点ずつの傾きのうち、
f’(i)<0 かつ f’(i+1)>0
f’(i)=0 かつ f’(i+1)>0
f’(i)<0 かつ f’(i+1)=0
を凹部として検出する。
【0013】
最後に、検出した凹部および凸部各先端において、先端部とした前後1点ずつを含めた3データから円の公式を利用して曲率半径を算出し、平均する。
【発明の効果】
【0014】
直線(1次関数)でデータのスムージングを行う移動平均でなく、単純な曲線でデータのスムージングを行う荷重移動平均を用いることにより、AFMによる基板形状を表す測定データからノイズを取り除き、元の基板形状のデータを再現性よく、正確に表現することができる。そして、正確にテクスチャの凹部および凸部各先端の曲率半径を表現することができる。
【0015】
以下に述べるとおり、算出された曲率半径とORには強い相関があり、曲率半径が小さいほど、高ORが得られることが分かった。このことから、今後のテクスチャ技術開発、特にOR向上には、この解析法で算出される曲率半径が小さくなるようなテクスチャ条件(砥粒や分散剤などのスラリーや、機械的加工条件)を探索すればよいことなり、曲率半径をテクスチャ形状を表すひとつの指標とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る基板形状の表現方法が適用される磁気記録媒体は、非磁性基体上に、少なくとも下地層、磁気記録層、保護層および液体潤滑層を有する。
【0017】
基板は、2.5インチ、3インチ、3.3インチ、3.5インチ、5インチなどいずれの大きさのディスク基板であってもよい。なお、ここで示した大きさは公称値であり、当該技術において汎用されているものであると理解されるべきである。
【0018】
ディスク形状のアルミニウム合金基板やガラス基板表面に無電解メッキ法でNi−P膜を形成し、その表面を鏡面研磨して、その後テクスチャ加工を行う。このテクスチャ後の非磁性基体を、AFM測定をし、そのデータから凹部および凸部各先端の曲率半径を算出する。
【0019】
磁気記録層は記録層として使用できる強磁性金属を含み、具体的には、CoCrTaPt,CoCrTaPt−Cr,CoCrTaPt−SiO,CoCrTaPt−ZrO,CoCrTaPt−TiO,CoCrTaPt−Alなどを成分とする。磁気記録層の膜厚は20nm以下であり、好ましくは10〜20nmである。磁気記録層を複数用いて多層構造の記録層としてもよい。
【0020】
磁気記録層と基板の間に下地層を形成してもよい。下地層の成分は、下地層を形成するために慣用されているいかなる成分であってもよく、特に限定されない。具体的には、Cr,Cr−W,Cr−V,Cr−Mo,Cr−Si、Ni−Al,Co−Cr,Mo,W,Ptなどから下地層をつくることができる。下地層の膜厚は20nm以下であり、好ましくは10〜20nmである。
【0021】
保護層は、記録層を形成する磁気記録層を磁気ヘッドの衝撃、外界の腐食性物質などの腐食から保護する機能を有する。保護層の厚さは5.0nm以下であり、好ましくは2.0〜4.0nmである。カーボン膜は水素添加アモルファスカーボンや窒素添加アモルファスカーボンなどである。
【0022】
液体潤滑層に用いる潤滑剤はパーフルオローポリエーテルであり、Z−dol,Z−tetraol,Z−dol TX,AMなど、いずれの液体潤滑剤でもよい。液体潤滑層の膜厚は2.0nm以下であり、好ましくは1.0〜1.5nmである。
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は本実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
3.5インチアルミ合金基板上に、Ni−Pメッキ層を形成した非磁性基体に、様々な条件にてテクスチャ加工をした。その後、1μm×1μmの範囲にて512分割でAFM測定をし、そのデータを元に、上述した手順にしたがって凹部および凸部各先端の曲率半径を算出した。曲率半径を算出する際の荷重移動平均は11点で行った。
【0025】
一例として、図1に、ある1サンプルの11点荷重移動平均前後のデータの測定結果の一部を示す。
【0026】
また、同条件でテクスチャ加工をした基板に、スパッタ法で20nmのCr下地層、スパッタ法で10nmのCo合金磁気記録層、プラズマCVD法で3.0nmの窒素添加アモルファスカーボン保護層、ディッピング法で1.5nmのZ−Dolを成膜し、ORの評価を行った。
【0027】
11点荷重移動平均によるスムージングをしたAFM測定データから算出した曲率半径とORの関係を図2(a)および図2(b)に示す。図2(a)において、横軸のRcpは凸部先端の曲率半径を表している。図2(b)において、横軸のRcvは凹部先端の曲率半径を表している。図2から、凸部先端および凹部先端の曲率半径はそれぞれORに対し強い相関が認められた。
【0028】
以上の結果から、本発明による曲率半径の算出法が、磁気異方性(残留磁化と膜厚の積(Mrt)の半径方向に対する円周方向の値:Orientation Ratio(OR))と相関のある基板形状を表現していることが分かった。
【0029】
このように、非磁性金属膜をメッキした非磁性基体に形成したテクスチャにおいて、その凹部および凸部各先端の曲率半径を算出することができた。そして、この曲率半径は磁気特性と強い相関があり、将来のテクスチャ技術開発の設計指針として使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例における11点荷重移動平均前後の基板形状データの測定結果の一部を示す図である。
【図2】本発明の実施例において11点荷重移動平均したデータにより算出した凸部先端および凹部先端の曲率半径とORの関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に非磁性金属膜が配置されてなる非磁性基体上にテクスチャを有する基板の形状を表現する基板形状の表現方法において、
前記テクスチャの原子間力顕微鏡によるAFM測定データを求める第1ステップと、該AFM測定データから前記テクスチャの凹部および/または凸部先端の曲率半径を算出する第2ステップを有することを特徴とする基板形状の表現方法。
【請求項2】
前記第2ステップは、使用する各点のデータに重み付けして移動平均をとることで前記AFM測定データをスムージングするステップと、前記スムージングされた前記AFM測定データを基に前記曲率半径を算出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の基板形状の表現方法。
【請求項3】
前記曲率半径を算出する前記ステップにおいて、前記スムージングされた前記AFM測定データのうち、隣接する2点ずつの傾きから前記凹部および/または凸部先端を検出し、該検出された先端のデータと該先端のデータに隣接する2点のデータを併せた3点のデータから、円の公式を用いて前記曲率半径を算出することを特徴とする請求項2に記載の基板形状の表現方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−4504(P2006−4504A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178793(P2004−178793)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】