説明

基質代謝物の評価方法

【課題】肝細胞を用いて基質代謝物を高精度に評価することができる基質代謝物の評価方法を提供する。
【解決手段】パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材上に動物由来の肝細胞を培養することで前記細胞接着領域にスフェロイドを形成し、該スフェロイドに基質を暴露した後、第II相代謝物を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物由来の肝細胞の基質代謝物を評価する基質代謝物の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞を用いて基質の代謝物を評価することは、新薬の開発などにおいてヒトでの薬効や毒性を予測するための重要な評価方法である。例えば、ラットの肝細胞あるいは肝細胞中に存在するミクロソームを用い、これに新薬候補化合物を暴露させ、所定時間後得られた代謝物を評価する方法が知られている(非特許文献1参照)。しかし、ミクロソームは細胞内の小器官を取り出しており、ミクロソームを用いた方法では肝細胞で惹起する代謝の一部分を評価しているに過ぎない。
【0003】
また、肝細胞は難培養性細胞であるため、評価用に細胞を調整した直後から代謝能は劣化する。そのため、これまで通常行われるように、コラーゲンなどをコートした培養器に肝細胞をシート状に培養するいわゆる単層培養したものでは、短時間の暴露時間での代謝物評価のみしかできず、特に第I相の代謝を受けた後第II相の代謝物に変ずる速度が遅い基質や代謝経路が多岐にわたる基質等、第II相代謝物の生成が遅い基質の第II相代謝物や連続的な代謝物の変化などの評価は困難であるという問題や、評価を行う度に細胞の調整を行わなければならないことから実験間の誤差が大きくなるという問題により評価上の制限があり、高精度で評価することはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】薬物動態研究ガイド−創薬から臨床へ−、株式会社エル・アイ・シー、2003年5月31日、p.49−59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情に鑑み、肝細胞を用いて基質代謝物を高精度に評価することができる基質代謝物の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために種々検討した結果、パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材を用いて肝細胞のスフィロイドを形成しこれに基質を暴露して代謝物を定量する評価方法とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
かかる本発明の第1の態様は、パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材上に動物由来の肝細胞を培養することで前記細胞接着領域にスフェロイドを形成し、該スフェロイドに基質を暴露した後、第II相代謝物を定量することを特徴とする基質代謝物の評価方法にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、前記第II相代謝物を定量する際に、同時に第I相代謝物を定量することを特徴とする第1の態様に記載の基質代謝物の評価方法にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、前記スフェロイドに前記基質を暴露させる時間を複数設定することを特徴とする第1又は2の態様に記載の基質代謝物の評価方法にある。
【0010】
本発明の第4の態様は、前記動物が、ヒト、ラット、マウス、イヌ、サル、ニワトリ、ヒツジ及びヤギから選択された少なくとも一種であることを特徴とする第1〜3のいずれか一つの態様に記載の基質代謝物の評価方法にある。
【0011】
本発明の第5の態様は、前記動物由来の肝細胞が、初代肝細胞又は凍結初代肝細胞のいずれかであることを特徴とする第1〜4のいずれか一つの態様に記載の基質代謝物の評価方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材を用いて肝細胞のスフィロイドを形成しこれを用いて基質代謝物を評価することにより、肝細胞で惹起する代謝の一部分を評価するミクロソームを用いた方法よりも、生体で生起する代謝物と相関した基質代謝物評価方法となる。また、パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材を用いて形成される肝細胞のスフィロイドは、通常の単層で行う培養よりも長期間代謝活性が維持されるため、長時間の暴露での代謝物評価ができる。したがって、第II相代謝物の生成が遅い基質の第II相代謝物や連続的な代謝物の変化などの評価も可能となる。また、評価を行う度に細胞の調整を行う必要がないという効果を奏する。よって、薬物候補になり得る化合物(薬物)スクリーニングなどの作業を高効率で行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の基質代謝物の評価方法は、パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材上に動物由来の肝細胞を培養することで細胞接着領域にスフェロイドを形成し、該スフェロイドに基質を暴露した後、第II相代謝物を定量するものである。
【0014】
パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材は、細胞の接着領域をパターン状に規定したものであれば特に限定されないが、好ましくは基材上に親水性の高分子架橋体により細胞非接着領域が作成され、その細胞非接着領域の中に高分子架橋体が除去され元の基材が露出した部位である細胞接着領域が規定されたものであるのが望ましい。ここで、細胞非接着領域を規定する高分子架橋体は、好ましくは光架橋により架橋体とされたものである。
【0015】
高分子架橋体のパターンを形成する基材は、所望の動物由来の肝細胞が接着することが可能であれば、特に限定は無いが、ガラス、組織培養用ポリスチレン、ポリエチレン又はポリプロピレンなどを用いることができる。特にガラス又は組織培養用ポリスチレンが好適に用いることができる。また、これらの表面に、細胞接着を促進する物質を固定したものを基材としてもよい。細胞接着を促進する物質としては、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン又はポリ−L−リシンなどが挙げられる。また、基材の形状についても特に限定は無いが、平板、シャーレ又は細胞培養用マルチウェルプレートなどを用いることができる。
【0016】
このような基材上に形成される細胞非接着領域を規定する親水性の高分子は、特に限定されないが、好ましくはポリ酢酸ビニル鹸化物、ポリエチレングリコール又はポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。この中で、ポリ酢酸ビニル鹸化物又はポリエチレングリコールがさらに好ましい。
【0017】
このような高分子を架橋体とする光架橋は、感光基を活性化させる波長の紫外光等光を照射することで容易に進行する。その際、該光を遮蔽するパターン付きマスクなどを介することで、高分子架橋体のパターンを形成することが容易になるという利点を有する。光架橋を形成する反応は特に限定されないが、光重合開始剤を介した光重合系、スチルベンなどの光二量化反応又はアジド基の光開裂による架橋反応などが挙げられる。この中で、アジド基の光開裂反応を好適に用いることができる。
【0018】
細胞非接着領域を規定する親水性の高分子が架橋された部位と、これら高分子が除去された細胞接着領域のパターン形状は、使用目的に合致すること以外特に限定されない。例えば、初代肝細胞スフェロイドを形成するツール(器具)として用いる場合、細胞接着領域は円形ホール形状を有することが好ましい。
【0019】
細胞接着領域の個数に特に制限は無いが、2個以上であることが好ましい。例えば96穴マルチウェルプレートを用いる場合、各ウェル内に複数の細胞被接着領域を形成することにより、アレイ状に100個以上の細胞接着領域を備えるようにすることが好ましい。複数のスフェロイドを高密度形成させることで、より精度よく細胞の代謝反応を検出することが可能となる。
【0020】
また、細胞接着領域の大きさは、肝細胞のスフェロイドを形成できる大きさであれば特に限定されないが、例えば内径50〜600μm、好ましくは80〜150μmである。また、細胞非接着領域と細胞接着領域の高さの差についても、肝スフェロイドに栄養や酸素の供給を妨げない限り特に限定されないが、例えば1nm〜2000nm、好ましくは50nm〜300nmである。なお、細胞接着領域を複数設ける場合、細胞接着領域の大きさの均一性についても特に制限はないが、得られるスフェロイドの代謝反応を一定に保つためには、細胞接着領域の大きさが均一になっていた方が好ましい。
【0021】
このようにして調整したパターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材に、動物由来の肝細胞を播種することにより、細胞接着領域に、肝細胞の凝集体であるスフェロイドを形成する。このようにして形成された肝細胞のスフェロイドは、通常の単層で行う培養よりも長期間代謝活性を維持できるものである。なお、各スフェロイドを形成する細胞数は、該スフェロイドの生存が可能な個数であれば特に制限されないが、例えば5個〜500個、好ましくは20個〜200個の肝細胞であることが望ましい。
【0022】
播種する細胞は、動物由来の肝細胞であれば特に限定は無いが、ヒト、ラット、マウス、イヌ、サル、ニワトリ、ヒツジ、ヤギの肝細胞などが例として挙げられる。
【0023】
また、肝細胞の由来については所望の目的に用いることができれば、特に制限は無いが、初代肝細胞を用いることができる。
【0024】
肝細胞の調整方法は特に制限は無く、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、動物の肝臓からコラゲナーゼ灌流法によって得られた肝細胞を用いて所定濃度に調整することが可能である。また、凍結状態の肝細胞を加温し、凍結保存液を融解・除去後、所定濃度に調整して用いることができる。
【0025】
肝細胞を播種する際の細胞懸濁液の濃度は、スフェロイドが形成される濃度であれば特に限定されないが、細胞接着領域の全面積がコンフルエントになる濃度から、その10倍濃度が好ましい。
【0026】
上記肝細胞を播種した後、後段の暴露試験を行うまで培地を用いて培養してもよい。培養時間は、肝細胞が死滅しない限り特に制限は無いが、例えば、3時間以上2ヶ月以内、好ましくは24時間以上1ヶ月以内である。ここで、上記のようにして形成された肝細胞のスフェロイドは、長期間代謝活性を維持できるものであるため、肝細胞を播種した後、長期間培養した後であっても代謝能が維持される。肝細胞を培養する培地は、肝細胞培養期間、その機能を維持できれば特に制限無く市販培地を用いることができる。
【0027】
また肝細胞によるスフェロイドを形成させる際、肝細胞以外の細胞を播種して共培養することもできる。肝細胞以外の細胞を共培養することにより、例えば、肝細胞のスフェロイドの代謝活性をより長期間維持することができる。例えば、肝細胞を播種する前に、血管内皮細胞や線維芽細胞を播種してもよい。
【0028】
肝細胞以外の細胞を播種する際の細胞懸濁液の濃度は、接着する領域において細胞がコンフルエントになる濃度が好ましい。増殖性を有する細胞ではこれより1/8程度まで薄くしても特に支障は無い。またコンフルエント濃度より濃い場合であっても、接着できなかった細胞が培地交換時に除去される限り特に支障は無い。しかし、そのような高濃度は、細胞が無駄になる点で避けた方がよい。
【0029】
上記肝細胞以外の細胞を播種した後、安定に細胞が接着するまで、培地を用いて培養を行うことが必要となる。培養時間は、細胞が沈降し細胞接着領域に接着することができれば特に限定は無いが、例えば、3時間以上48時間以内、好ましくは24時間以上48時間以内、さらに好ましくは24時間である。
【0030】
肝細胞以外の細胞を培養する培地は、細胞種により通常用いられる培地を用いればよい。例えば、血管内皮細胞又は線維芽細胞では、10%(V/V)牛胎児血清含有ダルベッコ変法イーグル培地が好適に用いることができる。
【0031】
このようにパターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材上に動物由来の肝細胞を培養することで細胞接着領域にスフェロイドを形成し、必要に応じて培養した後、基質を暴露し、基質の代謝物評価を行う。
【0032】
肝細胞のスフェロイドに基質を暴露すると、基質は細胞内に取り込まれ、そこで代謝を受ける。その際、一般的にCYPと総称される代謝酵素で代謝(第I相)され第I相代謝物を生成した後、該第I相代謝物が抱合酵素と呼ばれる代謝酵素で代謝(第II相)を受け第II相代謝物を生成し、細胞外に排出される。この代謝酵素は種々のサブタイプを有し、また基質によってその経路は異なるが、上記肝細胞スフェロイドは、通常の培養、例えば単層培養したものとは異なり、これらの代謝酵素機能活性が高く、また長期間にわたり維持されている。
【0033】
そのため、長時間の暴露での代謝物評価ができる。したがって、第I相の代謝を受けた後第II相の代謝物に変ずる速度が遅い基質や代謝経路が多岐にわたる基質等、第II相代謝物の生成が遅い基質についても、これまで困難であった抱合代謝評価(第II相代謝物の評価)を行うことができる。
【0034】
さらに、第II相代謝物を定量する際に、同時に第I相代謝物を定量することにより、第I相代謝物と第II相代謝物の相関関係を評価することもできる。勿論、第I相代謝物及び第II相代謝物を異なるタイミングで定量してもよく、また、第I相代謝物をのみを定量して第I相代謝物のみを評価してもよい。
【0035】
また、長時間の暴露での代謝物評価ができるため、スフェロイドに基質を暴露させる時間を複数設定することにより、連続的な代謝物の変化の評価も可能となる。
【0036】
なお、代謝酵素機能活性が長期間にわたり維持されるため、細胞を調整した直後から代謝能が劣化するという問題が生じず、評価を行う度に細胞の調整を行う必要もない。
【0037】
また、肝細胞の凝集体であるスフェロイドを用いているため、肝細胞で惹起する代謝の一部分を評価するミクロソームを用いる方法よりも、生体で生起する代謝物と相関した基質の代謝物を評価することができる。
【0038】
基質は溶液の状態で暴露することができる。基質溶液は、水溶液、緩衝液、培地、これらとエチルアルコール、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒との混合溶液にすることが好ましい。
【0039】
基質を暴露する際は、それまで培養していた培地と置換して行う。その後、所定時間基材上に形成されたスフェロイドに基質溶液を暴露し、上清と呼ばれる液分をサンプリングすることで代謝物を測定する検体とする。なお、得られた検体は、細胞内で代謝され細胞外に排出された代謝物であり、基質の暴露時間にもよるが、第I相代謝物及び第II相代謝物を含む混合物である。
【0040】
また、基質溶液を暴露したスフェロイドを適当な緩衝液などで洗浄した後、細胞そのもの、あるいは細胞を溶解した液をサンプリングしたものを検体とすることもできる。得られた検体は、細胞内で代謝され、細胞外に排出されなかった代謝物であり、基質の暴露時間にもよるが、第I相代謝物及び第II相代謝物を含む混合物である。
【0041】
基質を暴露する時間は、肝細胞が障害を受ける時間でなければ特に制限は無いが、好ましくは1分以上48時間以内、さらに好ましくは1分以上4時間以内である。なお、同一濃度の同一基質を用いて、暴露時間を変化させて評価することで、基質の時間依存的な代謝物や代謝物組成変化を評価することが可能となる。
【0042】
得られた検体は、代謝物の同定や定量を行うが、これら同定や定量の方法は特に制限されない。例えば、LC−MS、LC−MS/MS、UPLCを含むHPLCなどのクロマトグラフィー法、カラム分離後NMRなどのスペクトラム法などが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材の調製)
特開2005−280076号公報の実施例1に従いポリ酢酸ビニル鹸化物をベースとする水溶性感光材を、特開2006−307184号公報の実施例1に従いポリエチレングリコールをベースとする水溶性感光材を得た。これらを21mmφガラス薄板(松浪硝子工業(株)製)、12穴マルチウェルプレート及び96穴マルチウェルプレート(共に、住友ベークライト(株)製)にそれぞれ塗布し、パターン付きマスクを介して露光・現像することで、100μmφホール(基材露出部)が多数(2500個/cm)構築された、パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養用ガラス薄板、パターン培養用12穴マルチウェルプレート、パターン培養用96穴マルチウェルプレートを得た。
【0045】
(肝細胞スフェロイド形成)
上記のようにして得た基材のうち、パターン培養用ガラス薄板は12穴マルチウェルプレート(住友ベークライト(株)製)の各ウェル底部に設置した後、それを紫外光下で滅菌した。一方、パターン培養用12穴マルチウェルプレート及び96穴マルチウェルプレートは、それぞれアルミラミネート梱包後、γ線滅菌した。
【0046】
次いで一部の基材に、非実質細胞であるウシ血管内皮細胞(HH)、又はマウス線維芽細胞(3T3)を懸濁させた細胞懸濁液(培地:10%(V/V)牛胎児血清含有ダルベッコ変法イーグル培地、細胞濃度:2×10個/mL)を、各プレートの各ウェルにそれぞれ1mL(96穴マルチウェルプレートのみ100μL)添加し、37℃に設定したCOインキュベーター(CO濃度:5%)で、48時間培養した。
【0047】
上記培養後、ラット初代肝細胞の懸濁液(ウィスターラット、オス、8週齢の肝臓からコラゲナーゼ灌流法により採取)、及び、ヒト凍結初代肝細胞(IVT社)の懸濁液を調整した。用いた培地はトランスパレント社から販売されているラット肝細胞スフェロイド培養用培地を用い、細胞濃度は1×10個/mL,2×10個/mL,4×10個/mLの3種とした。調整した肝細胞懸濁液を、各基材の各ウェルにそれぞれ1mL(96穴マルチウェルプレートのみ100μL)添加し、37℃に設定したCOインキュベーター(CO濃度:5%)で、48時間培養することで、肝細胞スフェロイドを形成させた。用いた全ての細胞非接着領域を形成する材料、基材において、肝細胞播種前のHH又は3T3の播種の有無に関わらず、肝細胞のスフェロイドが形成できた。以降、基質の代謝実験を行うまで、48時間毎にラット肝細胞スフェロイド培養用培地またはヒト肝細胞スフェロイド培養用培地にて培地交換を行い、培養を継続した。なお、ラット肝細胞スフェロイドについては7日間または14日間、ヒト肝細胞スフェロイドについては7日間培養した。
【0048】
(実施例1)ラット肝細胞におけるテストステロンの代謝活性評価
テストステロン(TES)をKHB(Krebs Hanseleit緩衝液)(1vol-%メタノール含有)に100μMになるように溶解し、暴露溶液とした。肝細胞スフェロイドを形成した後に培養を開始してから7日目及び14日目に培養液を除去し、KHBで2回リンス後、上記暴露溶液を培地と同量添加し2,3または4時間暴露した。暴露終了後上澄みを採取し、メンブレンフィルターで濾過を行い、UPLCで各代謝物量を測定した。得られた代謝物ピークは、6β位がヒドロキシ化されたテストステロン(6βOH-TES)(第I相代謝物)、16α位がヒドロキシ化されたテストステロン(16αOH-TES)(第I相代謝物)、並びにテストステロンのグルクロン酸抱合体(TG)(第II相代謝物)であった。肝細胞播種濃度を4×10個/mLとした場合の各代謝物生成量を、培養7日目の結果については表1に、培養14日目の結果については表2に示す。また、表3には、96穴マルチウェルプレート、HHを用いた際の培養7日目の肝細胞播種濃度変化の結果について示す。表1及び表2に示すように、第II相代謝物や第I相代謝物の評価が可能であり、また、暴露時間を変化させることによる連続的な代謝物の経時変化も評価できることを確認した。なお、表2に示すように、暴露までの培養時間が14日でありスフェロイドを形成してから長期間経過したものについても、評価が可能であった。また、表3に示すように、播種した肝細胞の濃度を変化させても、スフェロイド形成は可能であった。さらに播種肝細胞濃度を少なくしても十分代謝物の産生は見られ、その評価は可能であった。なお、実施例1では、全ての基材において、細胞非接着領域を規定する材料として、ポリエチレングリコールをベースとした水溶性感光材を用いた。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
(実施例2)ヒト肝細胞におけるテストステロンの代謝活性評価
培養容器は96穴マルチウェルプレートのみ用い、細胞非接着領域を規定する材料として、ポリエチレングリコールをベースとした水溶性感光材を用いた。そして、テストステロン(TES)をKHB(1vol-%メタノール含有)に100μMになるように溶解し、暴露溶液とした。肝細胞スフェロイドを形成した後に培養を開始してから7日目に培養液を除去し、KHBで2回リンス後、上記暴露溶液を培地と同量添加し4時間暴露した。暴露終了後上澄みを採取し、メンブレンフィルターで濾過を行い、UPLCで各代謝物量を測定した。得られた代謝物ピークのうち、6β位がヒドロキシ化されたテストステロン(6βOH-TES)(第I相代謝物)、並びにテストステロンのグルクロン酸抱合体(TG)(第II相代謝物)を同定した。その生成量は表4の通りであり、ヒト肝細胞においても、第II相代謝物や第I相代謝物の評価が可能であることを確認した。
【0053】
【表4】

【0054】
(実施例3)ラット肝細胞における7−エトキシクマリンの代謝活性評価
培養容器は96穴マルチウェルプレートのみ用い、細胞非接着領域を規定する材料として、ポリ酢酸ビニル鹸化物をベースとした水溶性感光材を用いた。そして、7−エトキシクマリン(EC)をKHB(1vol-%メタノール含有)に100μMになるように溶解し、暴露溶液とした。肝細胞スフェロイドを形成した後に培養を開始してから7日目に培養液を除去し、KHBで2回リンス後、上記暴露溶液を培地と同量添加し4時間暴露した。暴露終了後上澄みを採取し、メンブレンフィルターで濾過を行い、UPLCで各代謝物量を測定した。得られた代謝物ピークは、7−ヒドロキシクマリン(HC)(第I相代謝物)、ヒドロキシクマリングルクロン酸抱合体(HCG)(第II相代謝物)、並びにヒドロキシクマリン硫酸抱合体(HCS)(第II相代謝物)であった。その生成量は表5の通りであり、7−エトキシクマリンにおいても、ラット肝細胞での、第II相代謝物や第I相代謝物の評価が可能であることを確認した。
【0055】
【表5】

【0056】
(実施例4)ヒト肝細胞における7−エトキシクマリンの代謝活性評価
培養容器は96穴マルチウェルプレートのみ用い、細胞非接着領域を規定する材料として、ポリ酢酸ビニル鹸化物をベースとした水溶性感光材を用いた。そして、7−エトキシクマリン(EC)をKHB(1vol-%メタノール含有)に100μMになるように溶解し、暴露溶液とした。肝細胞スフェロイドを形成した後に培養を開始してから7日目に培養液を除去し、KHBで2回リンス後、上記暴露溶液を培地と同量添加し4時間暴露した。暴露終了後上澄みを採取し、メンブレンフィルターで濾過を行い、UPLCで各代謝物量を測定した。得られた代謝物ピークは、7−ヒドロキシクマリン(HC)(第I相代謝物)、ヒドロキシクマリングルクロン酸抱合体(HCG)(第II相代謝物)、並びにヒドロキシクマリン硫酸抱合体(HCS)(第II相代謝物)であった。その生成量は表6の通りであり、7−エトキシクマリンにおいても、ヒト肝細胞での、第II相代謝物や第I相代謝物の評価が可能であることを確認した。
【0057】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン状に細胞接着領域を規定するパターン培養基材上に動物由来の肝細胞を培養することで前記細胞接着領域にスフェロイドを形成し、該スフェロイドに基質を暴露した後、第II相代謝物を定量することを特徴とする基質代謝物の評価方法。
【請求項2】
前記第II相代謝物を定量する際に、同時に第I相代謝物を定量することを特徴とする請求項1に記載の基質代謝物の評価方法。
【請求項3】
前記スフェロイドに前記基質を暴露させる時間を複数設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の基質代謝物の評価方法。
【請求項4】
前記動物が、ヒト、ラット、マウス、イヌ、サル、ニワトリ、ヒツジ及びヤギから選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の基質代謝物の評価方法。
【請求項5】
前記動物由来の肝細胞が、初代肝細胞又は凍結初代肝細胞のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の基質代謝物の評価方法。

【公開番号】特開2010−233538(P2010−233538A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87023(P2009−87023)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(304063912)株式会社トランスパレント (7)
【Fターム(参考)】