説明

堰堤の補修工法

【課題】導流部を有する堰堤を補修するための新規な工法を提供する。
【解決手段】天端Tの長手方向に沿って一対のレール10を吊り下げ、天端Tの下に形成された導流部F上の空間を通って一対のレール10間を架け渡すようにレール10に沿って移動可能な支持レール20を吊り下げ、支持レール20に沿って移動可能に支持された水平足場レール30を吊り下げ、水平足場レール30に沿って上端が移動可能に軸支され下端が該水平足場レール30から高さ調整可能に支持された傾斜足場40を配備し、傾斜足場40の上端を水平足場レール30に沿って移動させると共にその下端の高さを調整することによって傾斜足場の傾斜角度を導流部Fの底面に沿うように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
堰堤(ダムなどの堰止め土木構造物)を補修するための補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム等の堰堤構造物には洪水吐或いは余水吐といった放流設備が設けられているが、放流設備の導流部底面や側面には苔が付着する等して流水を妨げる事態が生じたり、導流部底面にひび割れが生じたりすることから、定期的に放流設備を補修する工事が必要になる。
【0003】
堰堤の放流設備は人が立ち入ることを前提にしておらず、その補修は天端(堤体の頂部)からの吊り下げ作業に依らざるを得ない。したがって、安全且つ迅速な作業を行うための具体的な工法が確立されていないのが現状である。
【0004】
一方、橋梁等の構築物に対する補修工事を行うための移動式吊り足場装置が、本出願人によって提案されている(下記特許文献1参照)。これを図11によって説明する。同図(a)は移動式吊り足場装置の架設状態を示す説明図であり、同図(b)はI部分の拡大部分断面図である。
【0005】
この移動式吊り足場装置は、橋梁Aにおける支持梁A1のリブ部A1aに固定具J1でハンガーレールJ2を吊り下げ固定することで、一対のハンガーレールJ2を橋梁Aの長手方向に沿った両側に設置し、このハンガーレールJ2に沿って橋梁Aの幅方向に延びるトラス梁Bに形成される足場(図示省略)を移動可能に架設するものである。
【0006】
そして、この移動式吊り足場装置は、ハンガーレールJ2に支持されてハンガーレールJ2に沿って走行可能な上走行部J3と、この上走行部J3に対して、垂直な吊り下げ部材J4を介して垂直軸回りに回転可能に連結された下走行部J5とを備え、下走行部J5がトラス梁Bの上辺部に形成されたラックレールB1に沿って走行可能に支持されることで、トラス梁Bを橋梁Aの幅方向に移動可能にしている。また、トラス梁Bの下辺部にもラックレールB2が形成されており、このラックレールB2に図示省略の走行部を支持させることでトラス梁Bに対して水平又は垂直に移動可能な足場(床部)を架設することが可能になる。
【0007】
同図(b)に示すように、ハンガーレールJ2は逆T字形の断面を有するレールであって、その下面にラック歯J2aが形成されており、前述のラックレールB1,B2にもその上面又は下面に同様のラック歯B1a,B2aが形成されている。そして、上走行部J3にはハンガーレールJ2のラック歯J2aに噛み合うピニオン輪J3aが回動可能に内装されると共に、ラック歯J2aの裏側縁に当接支持される支持輪J2bが回動可能に内装されており、下走行部J5にも同様に、ラックレールB1のラック歯B1aに噛み合うピニオン輪J5aが回動可能に内装されると共に、ラック歯B1aの裏側縁に当接支持される支持輪J5bが回動可能に内装されている(J3bは上走行部を走行させるためのハンドル)。
【特許文献1】特許第2802307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した移動式吊り足場装置を堰堤の天端から吊り下げることで、天端の裏面等に対する作業は可能になるが、放物線状の傾斜底面を有する放流設備の導流部を補修しようとすると、前述した従来技術のように水平な足場を形成することしかできないものでは、導流部底面を頂部から下方に向かって全面的に補修することができない問題が生じる。
【0009】
また、堰堤の導流部は複数の縦壁で区画されており、その縦壁の頂部に天端が形成される構造になっていることが多い。したがって、仮に放流設備の導流部底面に沿った足場を形成できたとしても、この足場を天端の長手方向に移動して全体を迅速に補修しようとすると、前述した縦壁が移動の障害になって区画された導流部毎に足場を組み直さざるを得ず、迅速に作業を進めることができない問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものであって、導流部を有する堰堤を補修するための新規な工法を提供すること、安全且つ迅速に堰堤の導流部を補修することができること、放物線状の傾斜底面を有する導流部に対して、導流部底面を頂部から下方に向かって全面的に補修することができること、導流部が複数の縦壁で区画されている場合であっても、足場を組み直すことなく迅速に作業を進めることができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために本発明は、以下の特徴を具備するものである。
一つには、天端の下に複数の縦壁で区画された導流部を有する堰堤を補修する工法であって、堰堤の貯水側と放水側の両側に天端から該天端の長手方向に沿って一対のレールを吊り下げ、前記天端の下に形成された導流部上の空間を通って前記一対のレール間を架け渡すように該レールに沿って移動可能な支持レールを吊り下げ、前記支持レールに沿って移動可能に支持された水平足場レールを吊り下げ、前記水平足場レールに沿って上端が移動可能に軸支され下端が該水平足場レールから高さ調整可能に支持された傾斜足場を配備し、前記傾斜足場の上端を前記水平足場レールに沿って移動させると共にその下端の高さを調整することによって前記傾斜足場の傾斜角度を前記導流部の底面に沿うように調整し、前記傾斜足場上で前記導流部の底面に対する補修作業を可能にしたことを特徴とする。
【0012】
また、前記の特徴と併せて、堰堤の少なくとも放水側に前記水平足場レールに近接して前記レールに沿って移動可能に支持される縦梯子枠を吊り下げ、前記縦梯子枠に下端が軸支された延長傾斜足場の上端を前記傾斜足場の下端から延長するように配備し、該延長傾斜足場の傾斜角度を前記傾斜足場の傾斜角度より垂直よりに設定することを特徴とする。
【0013】
また、前記の特徴と併せて、前記傾斜足場が軸支された前記水平足場レールと前記延長傾斜足場が軸支された前記縦梯子枠を一体にして前記レールに沿って移動させ、前記導流部上の補修位置を変更することを特徴とする。
【0014】
また、前記の特徴と併せて、前記レールは、前記天端から吊り下げられた複数の走行支持部に移動可能に支持され、該レールの移動方向に前記走行支持部を継ぎ足し設置することで、該レールを前記天端の長手方向に沿って移動させることを特徴とする。
【0015】
また、前記の特徴と併せて、前記支持レールを前記レールの一方側のみにバランス支持し、前記傾斜足場を支持した前記水平足場レールと共に前記支持レールを前記天端の長手方向に沿うように旋回させ、前記傾斜足場と前記水平足場レールと前記支持レールを、前記レールに沿って移動させて、前記縦壁によって区画された隣の導流部に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このような特徴によると、天端から支持レールを介して吊り下げられた水平足場レールを導流部上に設置し、上端が水平足場レールに軸支された傾斜足場の傾斜角度を導流部の底面に沿うように調整することで、導流部の底面に沿った補修作業が可能になる。この際、直線状の傾斜足場を単に傾斜させただけでは、放物線状の曲面を有する導流部の底面に対しては曲面に接する狭い範囲でしか底面に近付くことができないが、傾斜足場の上端を水平足場レールに沿って移動させながら傾斜足場の傾斜角度を調整することで、曲面に傾斜足場が接する箇所をずらすことができ、導流部の底面全体に近接して補修作業を行うことができる。
【0017】
また、水平足場レールに近接して垂直に吊り下げられた縦梯子枠に下端が支持された延長傾斜足場の上端を傾斜足場の下端から延長するように配備し、延長傾斜足場の傾斜角度を傾斜足場の傾斜角度より垂直よりに設定することで、傾斜角度の異なる2つの足場を導流部の底面に沿わせることができる。これによって、導流部の縦方向全体に亘って底面に近接した足場を形成することができる。
【0018】
また、傾斜足場が軸支された水平足場レールと延長傾斜足場が軸支された縦梯子枠を一体にしてレールに沿って移動させ、導流部上の補修位置を変更することができるので、導流部の幅方向全体を補修することが可能になる。
【0019】
また、天端の長手方向に沿って吊り下げられるレールを、天端から吊り下げられた複数の走行支持部に移動可能に支持し、レールの移動方向に走行支持部を継ぎ足し設置して、レールを天端の長手方向に沿って移動させる移動レールにすることで、導流部の一区間のみにレールを吊り下げ、これを移動させて全体の作業を行うことができ、最小限の機材で経済的に作業を行うことが可能になる。
【0020】
また、支持レールをレールの一方側のみにバランス支持し、傾斜足場を支持した水平足場レールと共に支持レールを天端の長手方向に沿うように旋回させ、傾斜足場と水平足場レールと支持レールを、レールに沿って移動させて、縦壁によって区画された隣の導流部に移動させることができるので、縦壁で区画された導流部に対しても、区画毎に足場を組み直す必要が無く、効率的に導流部全体を作業することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図である(図1は、堰堤の堤体断面方向からみた説明図、図2が堰堤の堤体正面方向から見た説明図)。図示のX軸方向が天端長手方向、Y軸方向が天端幅歩行、Z軸方向が鉛直方向を指している。
【0022】
各図は堰堤の堤体頂部付近を示しており、頂部には道路などが装備される天端Tが形成され、天端Tの長手方向(X軸方向)に沿って堰堤の貯水側と放水側の両側縁に天端高欄T1が装備されている。そして、この堰堤は天端Tの下に複数の縦壁Wで区画された導流部Fを有している。本発明の実施形態に係る補修工法の対象は、主に導流部Fを含む周辺部位であり、導流部Fの底面F1に溜まる苔等の付着物を除去することや底面F1や側面の表面補修等を行うことを可能にする工法である。更に詳しくは、導流部Fの底面F1に沿って補修作業を可能にする作業足場を形成する工法である。
【0023】
第1の工程としては、堰堤の貯水側と放水側の両側に天端Tから天端Tの長手方向(X軸方向)に沿って一対のレール10,10を吊り下げる。レール10,10は天端Tの固定支持部(天端高欄T1の一部やアンカー支持部等)に上端が支持された複数の吊り索12の下端に支持されている。レール10は、天端Tの長手方向全域に沿って固定状態で設置しても良いが、経済的且つ効率的な作業を行うためには、従来技術で示したような移動レールを採用することが好ましい。
【0024】
この場合、レール10は、その上辺と下辺にそれぞれレール部10a,10bが設けられ、上辺のレール部10aに走行支持部11が走行可能に支持されており、その走行支持部11が天端Tの固定支持部から吊り索12を介して吊り下げられている。
【0025】
図3は、レール10のレール部10aと走行支持部11の構成例を示した説明図である。レール部10aはT字形の断面を有して、その上面に波形のラック歯10a0が形成されている。これに対して走行支持部11には、ラック歯10a0に噛み合うピニオン輪11aが回動可能に内装される共に、ラック歯10a0の裏側縁に当接支持される一対の支持輪11b,11cが回動可能に内装されている。これによると、ラック歯10a0にピニオン輪11aが噛み合っている状態では、レール10と走行支持部11とは互いに鉛直方向に支持された状態になっており、吊り索12の下端に走行支持部11が支持されることで、走行支持部11に支持されたレール10も吊り索12を介して天端から吊り下げられている。
【0026】
第2の工程としては、天端Tの下に形成された導流部F上の空間を通って一対のレール10,10間を架け渡すようにレール10,10に沿って移動可能な支持レール20を吊り下げる。
【0027】
具体的には、支持レール20は左右一対設けられ、レール10の下辺に設けられたレール部10bに支持された走行支持部13と、支持レール20の上辺に設けられたレール部20aに支持された走行支持部21とを回転可能に連結することで、支持レール20がレール10,10間を架け渡すように吊り下げられている。
【0028】
図4は、レール10と支持レール20との支持構造を示した説明図である。支持構造自体は図3に示した構造を上下に連結したものである。すなわち、走行支持部13には、レール部10bのラック歯10b0に噛み合うピニオン輪13aが回動可能に内装される共に、ラック歯10b0の裏側縁に当接支持される一対の支持輪13b,13cが回動可能に内装されている。同様に、走行支持部21には、レール部20aのラック歯20a0に噛み合うピニオン輪21aが回動可能に内装される共に、ラック歯20a0の裏側縁に当接支持される一対の支持輪21b,21cが回動可能に内装されている。そして、走行支持部13と走行支持部21とは連結索14によって互いに鉛直軸周りに回転可能に連結されている。これによって、支持レール20はレール10に対して交差する方向に向けて支持されており、この交差状態で支持レール20はレール10に沿って移動できるようになっている。一対の支持レール20の間には第1の水平作業足場22が形成されている。
【0029】
第3の工程としては、支持レール20に沿って移動可能に支持された水平足場レール30を吊り下げる。具体的には、一つの支持レール20の下辺に設けられたレール部20bに一対の走行支持部23,23を支持し、この一対の走行支持部23,23から吊り下げられた吊り索31,31の下端に一つの水平足場レール30が連結される。一対の支持レール20,20に対しては一対の水平足場レール30,30が吊り下げられ、その間に第2の水平作業足場32が形成される。より具体的には、この水平足場レール30は高さ位置を調整可能にしており、そのために吊り索31,31を巻き取り又は巻き戻しできる巻き取り装置を設けている。
【0030】
第4の工程としては、水平足場レール30に沿って上端40Aが移動可能に軸支され下端40Bが水平足場レール30から高さ調整可能に支持された傾斜足場40を配備する。傾斜足場40の上端40Aは、水平足場レール30の下辺に設けられるレール部30bに支持される走行支持部41に軸支されており、これによってレール部30bに沿って移動自在になっている。また、傾斜足場40の下端40Bは、レール部30bに支持される走行支持部42から吊り下げられる吊り索43の下端に支持されており、吊り索43の吊り長さを巻き取り装置等で調整できるようになっている。傾斜足場40は、階段状又は梯子状の足場を有し、傾斜状態で作業ができる足場になっている。
【0031】
そして、図5に示すように、傾斜足場40の上端40Aを水平足場レール30に沿って移動させると共にその下端40Bの高さを調整することによって傾斜足場40の傾斜角度を導流部Fの底面F1に沿うように調整する。これによると、走行支持部41をレール部30bに沿って矢印方向に移動しながら吊り索43の長さを随時延長させることで、傾斜足場40が底面F1に近接する位置をS1→S2→S3のようにずらすことができる。これによって、底面F1により近接した足場で底面F1に対して上から下まで補修作業を施すことができる。
【0032】
第5の工程としては、堰堤の少なくとも放水側に水平足場レール30に近接してレール10に沿って移動可能に支持される縦梯子枠50を吊り下げ、縦梯子枠50に下端が軸支された延長傾斜足場60の上端を傾斜足場40の下端40Bから延長するように配備し、延長傾斜足場60の傾斜角度を傾斜足場40の傾斜角度より垂直よりに設定する。
【0033】
縦梯子枠50は上辺にレール部50aが設けられており、走行支持部51がレール部50aに支持されている。また、レール10のレール部10bには走行支持部52が支持されており、走行支持部52と走行支持部51とが連結索によって回転可能に連結されている。レール部10b,走行支持部52,連結索,走行支持部51,レール部50aの構造は、図4に示した、レール部10b,走行支持部13,連結索14,走行支持部21,レール部20aの構造と同様である。縦梯子枠50は、このようにレール10から垂直に吊り下げられ、下端が堤体の側面に支持される。また、レール部50aから上方に向けて延長梯子部50Uが形成されている。このような縦梯子枠50を設けることで、作業者は、天端Tから延長梯子部50Uを伝って降り、縦梯子枠50を介して第1の水平作業足場22,第2の水平作業足場32或いは延長傾斜足場60に移動できるようになっている。縦梯子枠50は、延長傾斜足場60の左右両側に一対配備する。更には、必要に応じて堰堤の貯水側にも配備することができる。
【0034】
延長傾斜足場60はその下端60Bが縦梯子枠50に軸支されており、その上端60Aはワイヤ61で縦梯子枠50に連結されて、上端60Aを傾斜足場40の下端40Bから延長するように配備している。傾斜足場40の下端40Bと延長傾斜足場60の上端60Aは必要に応じて角度変更可能に連結しても構わない。ワイヤ61の長さを調整することで、延長傾斜足場60の傾斜角度を調整することができるが、導流部Fの底面F1は下方に行くほど曲面の接線方向が垂直に近付くので、これに沿わせるために、傾斜足場40より下方に位置する延長傾斜足場60の傾斜角度をより垂直よりに設定する。
【0035】
このような延長傾斜足場60を設けることで、第2の水平作業足場32と傾斜足場40と延長傾斜足場60の3つの直線的な足場を底面F1上に配備することができる。第2の水平作業足場32と傾斜足場40と延長傾斜足場60はそれぞれ異なる傾斜角度を有するので、これらによって底面F1の頂部から下部までをカバーすることによって、曲面を有する導流部Fの底面F1に対してより近接した位置に足場を形成することができる。
【0036】
第6の工程としては、傾斜足場40が軸支された水平足場レール30と延長傾斜足場60が軸支された縦梯子枠50を一体にしてレール10に沿って移動させ、導流部F上の補修位置を変更する。図2の矢印のように、一対のレール10,10に沿って、レール10,10間に吊り下げられた支持レール20と縦梯子枠50を一体に移動させることで、支持レール20から吊り下げられた水平足場レール30とこれに支持された傾斜足場40、更には縦梯子枠50に支持された延長傾斜足場60を一体に移動させることができる。これによって、縦壁W間の導流部Fの幅方向全体を補修することが可能になる。
【0037】
一つの区画の補修が終了すると、縦壁Wを越えた隣の区画の導流部Fに対して補修作業を行う。そのための工程(第7の工程)としては、支持レール20をレール10の一方側のみにバランス支持し、傾斜足場40を支持した水平足場レール30と共に支持レール20を天端Tの長手方向に沿うように旋回させ、傾斜足場40と水平足場レール30と支持レール20を、レール10に沿って移動させて、縦壁Wによって区画された隣の導流部Fに移動させる。
【0038】
この第7の工程を図6及び図10によって説明する。図6は、レール10を縦壁Wを越えて隣の区画の導流部Fに移動させる工程を示しており、図7〜図10は、レール10を移動させた後に、傾斜足場40と水平足場レール30と支持レール20を、レール10に沿って移動させて縦壁Wによって区画された隣の導流部Fに移動させる工程を示している。
【0039】
先ず、図6に示すようにレール10を移動させる。レール10の移動は公知の移動式吊り足場装置の技術を採用することができる。レール10を吊り下げ支持する走行支持部11は補修作業時にはロックされてピニオン輪11aが回転できない状態になっているが、レール10の移動時にはこのロックを解除する。レール10の端部において、張り出し作業足場71を備えた縦枠70をレール部10bに走行支持し、張り出し作業足場71上でレール10の移動先に追加の走行支持部11を継ぎ足し設置し、その追加の走行支持部11にレール部10aを係合させることで、レール10を徐々に移動させる。同図(a)の矢印で示すように、移動元のレール部10aから外れた走行支持部11は、これを取り外して移動先の追加の走行支持部11として用いる。レール10の移動に際しては、動力駆動輪を用いることができ、天端T側に固定された駆動輪をレール部10aに噛み合わせて駆動輪を回転させる。なお、図6においては、縦梯子枠50の記載を省略している。
【0040】
レール10の移動時には、レール10から吊り下げられた支持レール20等は導流部Fの端で停滞した状態になっている。同図(b)に示すように、支持レール20に対してレール10が相対的に移動して支持レール20がレール10の端部に達した時点でレール10の移動を止めて次の工程に移行する。
【0041】
次工程を図7によって説明する。先ずは同図(a)に示すように、延長傾斜足場60を縦梯子枠50側に収納すると共に、水平足場レール30を支持レール20側に引き上げる。次に同図(b)に示すように、支持レール20をワイヤ80で天端Tから直接吊り上げる。この状態にするには、図9に示すように、一つの支持レール20のレール部20aに一対の走行支持部21A,21Aを係合させておき、この走行支持部21A,21Aの挿通孔にワイヤ80を通し、襷がけに交差させて天端Tから吊り下げる。この作業は支持レール20間の第1の水平作業足場22上に立つ作業者によって行われる。
【0042】
この状態で、同図(c)に示すように、支持レール20を堤体の一方側(貯水側)に移動させ、支持レール20が他方側(放水側)のレール10による支持から外れるようにする。この状態で、支持レール20を交わして他方側(放水側)の縦梯子枠50を先ず次の区画に移動させる。その後、支持レール20を他方側(放水側)に移動させ、同様にして、一方側(貯水側)の縦梯子枠50を次の区画に移動させる(同図(d)参照)。
【0043】
全ての縦梯子枠50を先に移動させた後、図9に示すように、支持レール20に吊り込みセット90を装着し、この吊り込みセット90を介してレール10の片側のみで支持レール20全体を吊り上げるようにする(図9(a)参照)。吊り込みセット90は、スペーサ92を介して一対の走行支持部91を連結し、更に駆動輪93を装備すると共に、一対の支持レール20に係合される4つの走行支持部91を吊り索94で吊り、吊り索94の上端を4つの走行支持部91の中心でまとめ、回転自在な連結棒95を介してハンガー96に連結したものである。ハンガー96は、レール10のレール部10bに支持される走行支持部97に設けたフックに係合される。
【0044】
吊り込みセット90による吊り下げが完了すると、図10(a)に示すように、ワイヤ80を外して、吊り下げセット90のみでレール10から支持レール20,水平足場レール30,傾斜足場40を吊り下げ、図10(b)に示すように、支持レール20をレール10の一方側のみにバランス支持する。そして、吊り下げセット90の中心を旋回軸にして、傾斜足場40を支持した水平足場レール30と共に支持レール20を天端Tの長手方向に沿うように旋回させ、傾斜足場40と水平足場レール30と支持レール20を、レール10に沿って移動させて、縦壁Wによって区画された隣の導流部Fに移動させる。
【0045】
移動後は、移動時の手順の逆手順を行い、図1に示す足場を形成して、移動先の導流部Fに対しての補修作業を行う。
【0046】
以上説明した本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法によると、導流部Fを有する堰堤を補修するための新規な工法を提供するものであって、安全且つ迅速に堰堤の導流部Fを補修することができる。また、放物線状の傾斜底面F1を有する導流部Fに対して、導流部底面F1を頂部から下方に向かって全面的に補修することができる。更には、導流部Fが複数の縦壁Wで区画されている場合であっても、足場を組み直すことなく迅速に作業を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図(堰堤の堤体断面方向からみた説明図)である。
【図2】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図(堰堤の堤体正面方向から見た説明図)である。
【図3】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図(レール10のレール部10aと走行支持部11の構成例を示した説明図)である。
【図4】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図(レール10と支持レール20との支持構造を示した説明図)である。
【図5】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図(傾斜足場40の傾斜角度調整を説明する説明図)である。
【図6】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図である。
【図8】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図である。
【図9】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図である。
【図10】本発明の実施形態に係る堰堤の補修工法を説明する説明図である。
【図11】従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10:レール、10a,10b:レール部、
11,21,13:走行支持部、12,31,43:吊り索、14:連結索、
20:支持レール、22:第1の水平作業足場、30:水平足場レール、
32:第2の水平作業足場、
40:傾斜足場、40A:上端、40B:下端、
50:縦梯子枠、
60:延長傾斜足場、
70:縦枠、71:張り出し作業足場、
80:ワイヤ、
90:吊り込みセット
T:天端、T1:天端高欄、F:導流部、F1:底面、W:縦壁、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天端の下に複数の縦壁で区画された導流部を有する堰堤を補修する工法であって、
堰堤の貯水側と放水側の両側に天端から該天端の長手方向に沿って一対のレールを吊り下げ、
前記天端の下に形成された導流部上の空間を通って前記一対のレール間を架け渡すように該レールに沿って移動可能な支持レールを吊り下げ、
前記支持レールに沿って移動可能に支持された水平足場レールを吊り下げ、
前記水平足場レールに沿って上端が移動可能に軸支され下端が該水平足場レールから高さ調整可能に支持された傾斜足場を配備し、
前記傾斜足場の上端を前記水平足場レールに沿って移動させると共にその下端の高さを調整することによって前記傾斜足場の傾斜角度を前記導流部の底面に沿うように調整し、前記傾斜足場上で前記導流部の底面に対する補修作業を可能にしたことを特徴とする堰堤の補修工法。
【請求項2】
堰堤の少なくとも放水側に前記水平足場レールに近接して前記レールに沿って移動可能に支持される縦梯子枠を吊り下げ、
前記縦梯子枠に下端が軸支された延長傾斜足場の上端を前記傾斜足場の下端から延長するように配備し、
該延長傾斜足場の傾斜角度を前記傾斜足場の傾斜角度より垂直よりに設定することを特徴とする請求項1記載の堰堤の補修工法。
【請求項3】
前記傾斜足場が軸支された前記水平足場レールと前記延長傾斜足場が軸支された前記縦梯子枠を一体にして前記レールに沿って移動させ、前記導流部上の補修位置を変更することを特徴とする請求項2記載の堰堤の補修工法。
【請求項4】
前記レールは、前記天端から吊り下げられた複数の走行支持部に移動可能に支持され、該レールの移動方向に前記走行支持部を継ぎ足し設置することで、該レールを前記天端の長手方向に沿って移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された堰堤の補修工法。
【請求項5】
前記支持レールを前記レールの一方側のみにバランス支持し、前記傾斜足場を支持した前記水平足場レールと共に前記支持レールを前記天端の長手方向に沿うように旋回させ、前記傾斜足場と前記水平足場レールと前記支持レールを、前記レールに沿って移動させて、前記縦壁によって区画された隣の導流部に移動させることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載された堰堤の補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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