説明

塔槽類の胴板の部分更新工法

【課題】座屈を防止しつつ施工工程を低減して工事期間を短くすることができる塔槽類の胴板の部分更新工法を提供する。
【解決手段】主蒸留塔の胴板1の一部分の円筒状胴板部分2を更新する工法であって、円筒状胴板部分2を周方向に1つおきに部分aと部分bからなる8個の部分a,bに分割し、各部分a,bについて周方向に1つおきどうしの4つの部分aからなる第1グループAと4つの部分bからなる第2グループBの2つに分け、第1グループAの各部分aをそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口6aにそれぞれ新規部分胴板7aを取り付けた後、第2グループBの各部分bをそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口6bにそれぞれ新規部分胴板7bを取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塔槽類の胴板を部分的に更新する塔槽類の胴板の部分更新工法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製装置の常圧蒸留装置や減圧蒸留装置の主蒸留塔などの塔槽類では、長年の使用により胴板の一部分が腐食により減肉した場合、更新や補修をする必要がある。
主蒸留塔などの大型の塔槽類の胴板を更新する場合、大型のクレーンを使用して、一括または分割して塔槽類全体を撤去し、塔槽類全体を新たなものに更新する工法がある。
また、胴板のうち腐食した円筒状胴板部分だけを更新する工法がある。この工法では、例えば、更新する円筒状胴板部分が胴板の中間部の場合、大型のクレーンを使用して、上部胴を撤去した後、更新する円筒状胴板部分を一体的に撤去し、新規の一体的な円筒状胴板部分を取り付けた後、撤去した上部胴を元に戻す。
【0003】
また、胴板の腐食し減肉した部分の内面全周に例えば2〜3mmのステンレス鋼薄板を溶接により貼り付けるというステンレス板ライニング工法がある。
また、胴板の腐食し減肉した部分の内面に溶融したハステロイやインコネル等の耐食金属粒子を吹き付けて、ポーラスな耐食性皮膜を形成するという金属溶射工法がある。
【0004】
しかしながら、塔槽類全体を更新する工法では、数ヶ月程度の長期の工期が必要になり、操業が長期間に亘って停止するという問題がある。また、大型クレーン設置および機器仮置場等に非常に広いスペースが必要となるため、周辺機器を一時撤去する必要がある。また、全体を更新するとともに、周辺機器の撤去等が必要になることから、工事費用が高くなる。また、工事における危険性が大きい。
【0005】
また、胴板のうち腐食した円筒状胴板部分を一体的に撤去し、新規の一体的な円筒状胴板部分を取り付ける工法では、3〜4ヶ月程度の工期が必要になるという問題がある。また、大型クレーン設置および機器仮置場等に非常に広いスペースが必要となる、工事費用が高くなる、あるいは工事の危険性が大きいという問題がある。
【0006】
また、ステンレス板ライニング工法では、胴板を更新するのではないので、施工信頼性が低い、あるいはいずれ再補修が必要となるという問題がある。また、費用対効果度が低い、あるいは腐食が進み胴板が薄くなりすぎると対応できないなどの問題がある。
また、金属溶射工法では、応急処理である、施工範囲が広い場合は適さない、あるいは腐食環境により溶射皮膜が剥がれる場合があるなどの問題がある。
【0007】
そこで、引用文献1では、塔槽類の胴板の一部分の円筒状胴板部分を更新する工法であって、更新する円筒状胴板部分を周方向に部分的に切断して取り除き、取り除いて生じた開口に新規分割板(新規部分胴板)を取り付けることを繰り返すことにより、円筒状胴板部分を更新する工法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−209649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このような塔槽類の胴板の部分更新工法においては、さらに工事期間を短くして、設備全体の稼働停止期間を短くすることが要望されている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、座屈を防止しつつ施工工程を低減して工事期間を短くすることができる塔槽類の胴板の部分更新工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の塔槽類の胴板の部分更新工法は、塔槽類の胴板の一部分の円筒状胴板部分を更新する工法であって、
前記円筒状胴板部分を周方向に8個以上の偶数個の部分に分割し、各部分について周方向に1つおきどうしの第1グループと第2グループの2つのグループに分け、
前記第1グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けた後、
前記第2グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、円筒状胴板部分を周方向に8個以上の偶数個の部分に分割し、各部分について周方向に1つおきどうしの第1グループと第2グループの2つのグループに分け、第1グループにおいて開口作業と新規部分胴板の取付作業を同時に行い、その後第2グループにおいて開口作業と新規部分胴板の取付作業を同時に行うので、座屈を防止しつつ施工工程を低減することができるため、工事期間を短くすることができ、これにより設備全体の稼働停止期間を短くでき、稼働停止に伴う損失を低減することができる。
なお、作業性や作業効率を考慮すると、通常は、円筒状胴板部分を周方向に8個、10個、12個あるいは14個程度に分割するのが好ましい。
【0013】
本発明の上記構成において、前記第1グループの各部分の前記開口の周方向の寸法を、取り付ける前記新規部分胴板の周方向寸法よりも周方向両側に大きくするのが好ましい。
このようにすると、第1グループの各部分の開口に新規部分胴板を取り付けると、取り付けた新規部分胴板の周方向両側に開口が生じるので、第2グループの各部分の開口作業を行うときに、開口作業がやり易くなる。
【0014】
また、本発明の上記構成において、前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであるとともに、前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであることが好ましい。
このようにすると、第1グループの各部分を開口したときに、第2グループの各部分の各既設胴板部分に略均等に荷重が作用する。また、第2グループの各部分を開口したときに、第1グループの各部分に取り付けた各新規部分胴板に略均等に荷重が作用する。したがって、座屈に対して弱い部分をなくすことができ、座屈を防止することができる。
【0015】
この場合、前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板は、その板厚が前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の板厚に対して大きいとともに、その周方向の寸法が前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の周方向の寸法に対して小さいことが好ましい。
第1グループの各部分の新規部分胴板の周方向の寸法が第2グループの各部分の新規部分胴板の周方向の寸法に対して小さいので、第1グループの各部分を開口したときに、第2グループの各部分の各既設胴板部分の周方向の寸法が大きくなるため、座屈に対する強度を大きくすることができ、座屈を防止することができる。また、第1グループの各部分の新規部分胴板の板厚が第2グループの各部分の新規部分胴板の板厚に対して大きいので、第2グループの各部分を開口したときに、第1グループの各部分に取り付けた各新規部分胴板の強度を大きくすることができ、座屈を防止することができる。このように、第1グループおよび第2グループの両方の開口作業時に座屈を防止することができる。
【0016】
また、前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板は、その板厚Tが前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の板厚Tに対してT<T≦1.5Tであるとともに、その周方向の寸法Lが前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の周方向の寸法Lに対して(1/3)L≦L<Lであることがさらに好ましい。
このようにすると、第1グループの新規部分胴板の板厚を必要以上に厚くすることなく、第1グループおよび第2グループの両方の開口作業時に、座屈を防止することができる。
【0017】
さらに、前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板の内側面と、前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の内側面とを面一にすることが好ましい。
このようにすると、円筒状胴板部分の内周面に段差が生じないので、円筒状胴板部分内のノズル等の内装品の取り付けを適正に行うことができる。
【0018】
加えて、前記第2グループの各部分の一部または全部に上下方方向に延びる補強部材を設けた後、前記第1グループの各部分をそれぞれ切断して取り除くことが好ましい。
このようにすると、減肉等により既設胴板部分の強度が落ちているときでも、座屈防止を図りつつ、第1グループの開口作業を行うことができる。
【0019】
また、本発明の塔槽類の胴板の部分更新工法は、塔槽類の胴板の一部分の円筒状胴板部分を更新する工法であって、
前記円筒状胴板部分を周方向に9個、12個または15個の部分に分割し、各部分について周方向に2つおきどうしの第1グループと第2グループと第3グループの3つのグループに分け、
前記第1グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けた後、
前記第2グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けた後、
前記第3グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、円筒状胴板部分を周方向に9個、12個または15個の部分に分割し、各部分について周方向に2つおきどうしの第1グループと第2グループと第3グループの3つのグループに分け、第1グループにおいて開口作業と新規部分胴板の取付作業を同時に行い、その後第2グループにおいて開口作業と新規部分胴板の取付作業を同時に行い、その後第3グループにおいて開口作業と新規部分胴板の取付作業を同時に行うので、座屈を防止しつつ施工工程を低減することができるため、工事期間を短くすることができ、これにより設備全体の稼働停止期間を短くでき、稼働停止に伴う損失を低減することができる。
なお、第1グループと第2グループと第3グループの施工順序は、自由に設定することができる。
【0021】
また、本発明の上記構成において、前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであり、かつ、前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであり、かつ、前記第3グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであることが好ましい。
このようにすると、第1グループの各部分を開口したときに、第2グループの各部分の各既設胴板部分および第3グループの各部分の各既設胴板部分に略均等に荷重が作用する。また、第2グループの各部分を開口したときに、第1グループの各部分に取り付けた各新規部分胴板および第3グループの各部分の各既設胴板部分に略均等に荷重が作用する。また、第3グループの各部分を開口したときに、第1グループの各部分に取り付けた各新規部分胴板および第2グループの各部分に取り付けた各新規部分胴板に略均等に荷重が作用する。したがって、座屈に対して弱い部分をなくすことができ、座屈を防止することができる。
【0022】
また、本発明の上記構成において、前記円筒状胴板部分の上下方向の寸法は、3〜4mであることが好ましい。
このように円筒状胴板部分の上下方向の寸法を3〜4mに設定すると、開口した状態の円筒状胴板部分に基本的に荷重を担わせて、大掛かりな補強部材等を用いないで施工し工事を簡略化することができるとともに、新規部分胴板同士の縦方向の溶接作業あるいは開口作業や新規部分胴板の製作作業の作業量を必要以上に増やすことを防止でき、その結果工事期間を短縮化できるとともに、工事コストを低減することができる。なお、前記円筒状胴板部分の上下方向の寸法は、3.2〜3.8mであることがより好ましく、さらには3.4〜3.6mであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の塔槽類の胴板の部分更新工法によれば、座屈を防止しつつ施工工程を低減できるので、工事期間を短くすることができ、これにより設備全体の稼働停止期間を短くでき、稼働停止に伴う損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る主蒸留塔の胴板の部分更新工法を示す図であって、更新する円筒状胴板部分を示す斜視図である。
【図2】同、第1グループの各部分を開口する工程を示す斜視図である。
【図3】同、第1グループの各部分に新規分割板を取り付ける工程を示す斜視図である。
【図4】同、第1グループの新規分割板と既設胴板との溶接部を示す縦断面図である。
【図5】同、第2グループの各部分を開口する工程を示す斜視図である。
【図6】同、第2グループの各部分に新規分割板を取り付ける工程を示す斜視図である。
【図7】同、第2グループの各部分に新規分割板を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】同、第2グループの新規分割板と第1グループの新規分割板との溶接部を示す横断面図である。
【図9】円筒状胴板部分を周方向に10個の部分に分割して更新する場合を示す横断面図である。
【図10】円筒状胴板部分を周方向に12個の部分に分割して更新する場合を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
この実施の形態は、本発明を石油精製装置の常圧蒸留装置や減圧蒸留装置の主蒸留塔の胴板を部分的に更新する場合に適用したものである。
【0026】
この実施の形態に係る主蒸留塔の胴板の部分更新工法においては、まず、胴板の腐食等により減肉した部分を調査し、更新する範囲を決定する。本実施の形態の主蒸留塔は、横断面形状が円筒形の大型の塔(蒸留塔)であり、その胴部の胴板の直径はおよそ4〜10m程度のものである。そして、図1に示すように、主蒸留塔の胴板1のうちの上下方向の中間部の一部分の円筒状胴板部分2を新しいものに変更する。この例では、この更新する円筒状胴板部分2は、その寸法が例えばおよそ3〜4m程度である。
【0027】
この主蒸留塔の胴板の部分更新工法においては、円筒状胴板部分2を周方向に1つおきに部分aと部分bからなる8個の部分a,bに分割し、各部分a,bについて周方向に1つおきどうしの4つの部分aからなる第1グループAと4つの部分bからなる第2グループBの2つに分ける。なお、図1において、円筒状胴板部分2および部分a,bは二点鎖線で示している。
【0028】
第1グループAの各部分aは略同じ大きさに設定されているとともに、第2グループBの各部分bは略同じ大きさに設定されている。部分aの大きさは部分bの大きさよりも大きく設定されている。好ましくは、部分aの周方向の寸法Lは、部分bの周方向の寸法Lに対して(1/3)L≦L<Lに設定される。
【0029】
そして、この実施の形態形態に係る主蒸留塔の胴板の部分更新工法においては、まず、第1グループAの4つの部分aを同時に更新する。
すなわち、図2に示すように、4つの部分aをそれぞれ切断して取り除き、開口6aを形成する。開口6aは、部分aよりも周方向の両側にそれぞれ少し大きくなるように形成する。これにより、部分bの周方向の両端部がそれぞれ少し取り除かれる。
【0030】
なお、更新する円筒状胴板部分2の腐食進行が激しくて減肉が大きい場合などには、補強部材を設けてもよい。図2に示すように、例えば、開口6aを形成する前に、円筒状胴板部分2の各部分bの外面にそれぞれ、1または複数個の縦方向に延びる更新部分補強部材21を溶接により取り付ける。この更新部分補強部材21は、上下端部がそれぞれ部分bの上下端よりも少し長く延びている。この更新部分補強部材21は、例えば、部分bの外面の周方向の両端部にそれぞれ、取り付けられる。この更新部分補強部材21は、部分bの胴板を取り除いて開口を形成する際に、部分bの胴板に取り付いた状態で取り除かれる。部分bの胴板よりも上側および下側にある更新部分補強部材21に端部もそれぞれ、取り除くが、残しておいても支障がない場合にはそのまま残される。また、更新部分補強部材21を複数個設ける場合に、それらの間隔が均等でなくてもよい。また、更新部分補強部材21は上下方向だけでなく、斜めなど他の方向に向けて設けてもよい。この更新部分補強部材21は、例えば、溝形鋼やH形鋼等の形鋼などから構成することができる。
【0031】
次いで、図3に示すように、取り除いて生じた各開口6aにそれぞれ、新規分割板(新規部分胴板)7aを上下の端部を胴板1に溶接することにより取り付ける。
【0032】
新規分割板7aは、方形の円弧板状(正面視において方形でかつ平面視において円弧形の板状)のものである。この新規分割板7aは、所定寸法の方形の板材を切断した後、所定の円弧面に曲げ加工することにより製作する。この新規分割板7aの四方の外周には、溶接のための開先加工を施す。また、図4に示すように、新規分割板7aは、その板厚Tが胴板1の板厚T(初期の板厚)よりも厚く、好ましくは胴板1の板厚Tに対してT<T≦1.5Tに設定される。新規分割板7aの内側面は、胴板1の内側面と面一に配置されて、新規分割板7aの上下の端部がそれぞれ胴板1に溶接される。また、新規分割板7aの外側面の四方の外周部には、テーパ部31が形成されている。これにより、胴板1と溶接する側の新規分割板7aの端部の板厚が減少するので、この端部の溶接部の溶着量が増えないようになっている。
【0033】
次に、第2グループBの4つの部分bを同時に更新する。
すなわち、図5に示すように、4つの部分bをそれぞれ切断して取り除き、開口6bを形成する。この場合、部分aの開口作業の際に、部分bの周方向の両端部が既に少し取り除かれているので、この部分bの開口作業は作業し易くなっている。前述したように、部分bに更新部分補強部材21が設けられている場合には、部分bの開口作業の際に取り除かれる。
【0034】
次いで、図6および図7に示すように、取り除いて生じた各開口6bにそれぞれ、新規分割板(新規部分胴板)7bを上下の端部をそれぞれ胴板1に溶接するとともに、左右の端部を隣接する新規分割板7aの左右の端部にそれぞれ溶接することにより取り付ける。
【0035】
新規分割板7bは、方形の円弧板状(正面視において方形でかつ平面視において円弧形の板状)のものである。この新規分割板7bは、所定寸法の方形の板材を切断した後、所定の円弧面に曲げ加工することにより製作する。この新規分割板7bの四方の外周には、溶接のための開先加工を施す。新規分割板7bの内側面は、胴板1の内側面と面一に配置されて、新規分割板7bの上下の端部がそれぞれ胴板1に溶接される。また、新規分割板7bは、その板厚Tが胴板1の板厚T(初期の板厚)と同じであり、したがって、図8に示すように、新規分割板7aは、その板厚Tが新規分割板7bの板厚Tよりも厚く、好ましくは新規分割板7bの板厚Tに対してT<T≦1.5Tに設定される。新規分割板7bの内側面は、新規分割板7bの内側面と面一に配置されて、新規分割板7bの左右の端部がそれぞれ隣接する左右の新規分割板の左右の端部に溶接されている。この際、新規分割板7aの外側面の四方の外周部には、テーパ部31が形成されているので、新規分割板7bと溶接する側の新規分割板7aの端部の板厚が減少するので、この端部の溶接部の溶着量が増えないようになっている。
【0036】
なお、この主蒸留塔の胴板の部分更新工法においては、予め、工場において、新規分割板7a、7bを製作し、これらの新規分割板7a、7bを円筒形になるように組み立て、仮止め溶接し、次いで内外部品を取り付けし、次いで仮止溶接を除去し、単品の新規分割板7a、7bに分解し、その後にこれらの新規分割板7a、7bを工事現場に搬送する。
【0037】
この工場における工程をさらに詳しく説明すると、以下のようになる。
まず、この工場での製作作業の前に、新規分割板7a、7b等を製作するための主蒸留塔の円筒状胴板部分2を含む各部の寸法および状況等を把握しておく。また、座屈等に対する強度計算を行い、新規分割板7a、7bの寸法を決定する。
次いで、新規分割板7a、7bと、この新規分割板7a、7bの他に、ノズル、マンホールや、トレイ用内部品(サポートリング、クランプバー、ボルトバー、など)や、新規取付用外部品(移動用リフトラグ、踊り場/梯子用クリップなど)を製作する。ノズル付き新規分割板7a、7bの場合には、新規分割板7a、7bにノズルを溶接し、溶接箇所の検査をしておく。なお、ノズルの近傍には、ノズルに他の部材等が接触してノズルが変形したり、損傷したりするのを防止するノズル変形防止部材を取り付けておく。
【0038】
次いで、8個の新規分割板7a、7bを円筒形になるように組み立て、仮止め溶接する。
次いで、各新規分割板7a、7bの上下中央部にそれぞれ、基準方位を記入する。また、サポートリング、クランプバー、ボルトバー、フットレストなどの内部品を取り付けるための罫書線を記入する。また、移動用リフトラグ、梯子用クリップなど外部品を取り付けるための罫書線を記入する。
【0039】
次いで、内部品および外部品を取り付ける。また、トロリー移動用の移動用リフトラグを取り付ける。なお、各新規分割板7a、7bの接続部には、部品(例えばトレイサポートリング)を取り付けないでおき、現場にて取り付ける。
そして、内外部品の取付が完了したら、仮止溶接を除去し、単品の新規分割板7a、7bに分解する。その後、これらの新規分割板7a、7bを工事現場に搬送する。
【0040】
このような主蒸留塔の胴板の部分更新工法にあっては、円筒状胴板部分2を周方向に8個の部分a,bに分割し、各部分a,bについて周方向に1つおきどうしの4つの部分aからなる第1グループAおよび4つの部分bからなる第2グループBの2つに分け、第1グループAにおいて開口6aの形成作業と新規分割板7aの取付作業を同時に行い、その後第2グループBにおいて開口6bの形成作業と新規分割板7bの取付作業を同時に行うので、座屈を防止しつつ施工工程を大幅に低減することができるため、工事期間を短くすることができ、これにより設備全体の稼働停止期間を短くでき、稼働停止に伴う損失を低減することができる。
【0041】
また、第1グループAの各部分aの開口6aの周方向の寸法を、取り付ける新規分割板7aの周方向寸法よりも周方向両側に少し大きくしているので、第1グループAの各部分aの開口6aに新規分割板7aを取り付けると、取り付けた新規分割板7aの周方向両側に開口(隙間)が生じるので、第2グループBの各部分bの開口作業を行うときに、開口作業がやり易くなる。
【0042】
また、第1グループAの各部分aの新規分割板7aは略同じ大きさのものであるとともに、第2グループBの各部分bの新規分割板7bは略同じ大きさのものであるので、第1グループAの各部分aを開口したときおよび第2グループBの各部分bを開口したときにそれぞれ、第2グループBの各部分bの各既設胴板部分および第1グループAの各部分aに取り付けた各新規分割板7aに略均等に荷重が作用するので、座屈に対して弱い部分をなくすことができ、座屈を防止することができる。
【0043】
さらに、第1グループAの各部分aの新規分割板7aの周方向の寸法Lが第2グループBの各部分bの新規分割板7bの周方向の寸法Lに対して小さいので、第1グループAの各部分aに開口6aを形成したときに、第2グループBの各部分bの各既設胴板部分の周方向の寸法が大きくなるため、座屈に対する強度を大きくすることができ、座屈を防止することができる。また、第1グループAの各部分aの新規分割板7aの板厚Tが第2グループBの各部分bの新規分割板7bの板厚Tに対して大きいので、第2グループBの各部分bに開口7bを形成したときに、第1グループAの各部分aに取り付けた各新規分割板7aの強度を大きくすることができ、座屈を防止することができる。このように、第1グループAおよび第2グループBの両方の開口作業時に座屈を防止することができる。
【0044】
この場合、第1グループAの各部分aの新規分割板7aは、その板厚Tが第2グループBの各部分bの新規分割板7bの板厚Tに対してT<T≦1.5Tであるとともに、その周方向の寸法Lが第2グループBの各部分bの新規分割板7bの周方向の寸法Lに対して(1/3)L≦L<Lであることがさらに好ましい。このようにすると、第1グループAの新規分割板7aの板厚Tを必要以上に厚くすることなく、第1グループAおよび第2グループBの両方の開口作業時に、座屈を防止することができる。
【0045】
また、第1グループAの各部分aの新規分割板の内側面と、第2グループBの各部分bの新規分割7bの内側面とを面一にするので、円筒状胴板部分2の内周面に段差が生じないので、円筒状胴板部分2内のノズル等の内装品の取り付けを適正に行うことができる。
【0046】
さらに、第1グループAの各部分aの新規分割板7aの外側面の四方の外周部に、テーパ部31を設けたので、板厚Tの厚い新規分割板7aの端部の板厚が減少するので、既設胴板部分および第2グループBの新規分割板と溶接する際に、溶接部の溶着量が抑制することができる。
【0047】
加えて、第2グループBの各部分bの一部または全部に上下方方向に延びる補強部材21を設けた後、第1グループAの各部分aをそれぞれ切断して取り除くようにすると、減肉等により既設胴板部分の強度が落ちているときでも、座屈防止を図りつつ、第1グループAの開口6aを形成する作業を行うことができる。
【0048】
また、円筒状胴板部分2の上下方向の寸法を3〜4mに設定すると、開口した状態の円筒状胴板部分2に基本的に荷重を担わせて、大掛かりな補強部材等を用いないで施工し工事を簡略化することができるとともに、新規分割板7a,7bどうしの縦方向の溶接作業あるいは開口作業や新規分割板7a,7bの製作作業の作業量を必要以上に増やすことを防止でき、その結果工事期間を短縮化できるとともに、工事コストを低減することができる。なお、円筒状胴板部分2の上下方向の寸法は、3.2〜3.8mであることがより好ましく、さらには3.4〜3.6mであることがより好ましい。
【0049】
なお、更新する円筒状胴板部分2の腐食進行が激しくて減肉が著しい場合には、この補強部材として、例えば、円筒状胴板部分2から切断胴板部分を取り除く前に、円筒状胴板部分2の近傍の上側および下側の胴板1の外面にそれぞれ、全周に渡ってあるいは変形が予想される一部の範囲に変形防止用補強部材を溶接によりさらに取り付けると良い。この変形防止用補強部材を設けることにより、円筒状胴板部分2から切断胴板部分を取り除いて開口6a,6bを形成したり、あるいは新規分割板7a,7bを溶接した際に、この円筒状胴板部分2の近傍の胴板1部分の横断面形状が変形するのを防止することができ、円筒形(真円)を維持することができる。この変形防止用補強部材は、円筒状胴板部分2を新たな円筒状部材にした後は、胴板1から取り外す。変形防止用補強部材は、例えば、溝形鋼やH形鋼等の形鋼などから構成することができる。この変形防止用補強部材は、例えば、胴板1の外面の全周に巻き付けて、溶接等により固定する。変形防止用補強部材は、円筒状胴板部分2の近傍の上側または下側の胴板の外面の一方に設けるようにしてもよい。
【0050】
また、新規分割板7a,7bの材質等は円筒状胴板部分2と同様のものを用いてもあるいは他の材料を用いてもよいし、さらには新規分割板7a,7bにクラッド鋼を用いたり、新規分割板7a,7bの内面にライニング等を施すなどして耐食性等を高めるようにしてもよい。
【0051】
また、前述の実施の形態では、円筒状胴板部分2を周方向に1つおきに部分aと部分bからなる8個の部分に分割し、各部分について周方向に1つおきどうしの4つの部分aからなる第1グループAと4つの部分bからなる第2グループBの2つに分けて更新したが、これに代えて、例えば、図9に示すように、円筒状胴板部分2を周方向に1つおきに部分aと部分bからなる10個の部分に分割し、各部分について周方向に1つおきどうしの5つの部分aからなる第1グループと5つの部分bからなる第2グループの2つに分けて更新してもよい。あるいは、図10に示すように、円筒状胴板部分2を周方向に1つおきに部分aと部分bからなる12個の部分に分割し、各部分について周方向に1つおきどうしの6つの部分aからなる第1グループと6つの部分bからなる第2グループの2つに分けて更新するようにしてもよい。さらには、円筒状胴板部分2を周方向に14個以上の偶数個の部分に分割し、各部分について周方向に1つおきどうしの第1グループと第2グループの2つのグループに分けて更新するようにしてもよい。
【0052】
また、前述の実施の形態では、第1グループAの各部分aは略同じ大きさに設定されているとともに、第2グループBの各部分bは略同じ大きさに設定されているが、各部分aおよび/または各部分bを異なる大きさにするようにしても良い。
【0053】
また、前述の実施の形態では、形成する開口6aの周方向の寸法を、取り付ける新規分割板7aの周方向寸法よりも大きく設定したが、ほぼ同じ寸法にして、新規分割板を取り付けるようにしてもよい。
【0054】
また、前述の実施の形態では、各円筒状胴板部分2の上下方向の寸法を3〜4mmに設定したが、これ以外の寸法にしてもよい。
【0055】
また、前述の実施の形態では、本発明を主蒸留塔の胴板を部分的に更新する場合に適用したが、本発明はこれに限らず、他の塔あるいは槽にも適用することができる。
【0056】
また、本発明を用いて、1つの塔槽類の胴板の一部分の円筒状胴板部分を更新した後、他の部分の円筒状胴板部分を更新することも勿論できる。さらには、上下方向の3個以上の円筒状胴板部分のうちの隣接していない前記円筒状胴板部分の2つを同時に更新するよない場合にも、本発明を適用することができる。
【0057】
また、前述の実施の形態では、円筒状胴板部分2を周方向に1つおきに部分aと部分bからなる8個の部分に分割し、各部分について周方向に1つおきどうしの4つの部分aからなる第1グループAと4つの部分bからなる第2グループBの2つに分けて更新したが、これに代えて、円筒状胴板部分2を周方向に9個、12個または15個の部分に分割し、各部分について周方向に2つおきどうしの第1グループと第2グループと第3グループの3つのグループに分け、第1グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けた後、第2グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けた後、第3グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けるようにしてもよい。
このような塔槽類の胴板の部分更新工法においては、第1グループ、第2グループおよび第3グループの各新規部分胴板を略同じ板厚および略同じ板幅にすることも可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1 胴板
2 円筒状胴板部分
6a、6b 開口
7a、7b 新規分割板(新規部分胴板)
21 補強部材
31 テーパ部
A 第1グループ
B 第2グループ
a 第1グループの部分
b 第2グループの部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔槽類の胴板の一部分の円筒状胴板部分を更新する工法であって、
前記円筒状胴板部分を周方向に8個以上の偶数個の部分に分割し、各部分について周方向に1つおきどうしの第1グループと第2グループの2つのグループに分け、
前記第1グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けた後、
前記第2グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けることを特徴とする塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項2】
塔槽類の胴板の一部分の円筒状胴板部分を更新する工法であって、
前記円筒状胴板部分を周方向に6個、9個、12個または15個の部分に分割し、各部分について周方向に2つおきどうしの第1グループと第2グループと第3グループの3つのグループに分け、
前記第1グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けた後、
前記第2グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けた後、
前記第3グループの各部分をそれぞれ切断して取り除き、取り除いて生じた各開口にそれぞれ新規部分胴板を取り付けることを特徴とする塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項3】
前記第1グループの各部分の前記開口の周方向の寸法を、取り付ける前記新規部分胴板の周方向寸法よりも周方向両側に大きくすることを特徴とする請求項1に記載の塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項4】
前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであるとともに、前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであることを特徴とする請求項1に記載の塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項5】
前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板は、その板厚が前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の板厚に対して大きいとともに、その周方向の寸法が前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の周方向の寸法に対して小さいことを特徴とする請求項4に記載の塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項6】
前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板は、その板厚Tが前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の板厚Tに対してT<T≦1.5Tであるとともに、その周方向の寸法Lが前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の周方向の寸法Lに対して(1/3)L≦L<Lであることを特徴とする請求項4に記載の塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項7】
前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板の内側面と、前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板の内側面とを面一にすることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項8】
前記第2グループの各部分の一部または全部に上下方方向に延びる補強部材を設けた後、前記第1グループの各部分をそれぞれ切断して取り除くことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項9】
前記第1グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであり、
かつ、前記第2グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであり、
かつ、前記第3グループの各部分の前記新規部分胴板は略同じ大きさのものであることを特徴とする請求項2に記載の塔槽類の胴板の部分更新工法。
【請求項10】
前記円筒状胴板部分の上下方向の寸法は、3〜4mであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に塔槽類の胴板の部分更新工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−219599(P2012−219599A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90174(P2011−90174)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【特許番号】特許第4837137号(P4837137)
【特許公報発行日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】