説明

塗布具

【課題】 撹拌子の質量および個数をあまり大きくすることなく、ケーキに埋没した撹拌子が容易に抜け出すことが可能であり、塗布液の撹拌効果が大きい塗布具を提供する。
【解決手段】 球状塗布体がその一部がチップの先端から臨出した状態で回転可能に抱持され、このチップが塗布液タンクに接続された先口の中心孔に嵌着され、塗布液タンク内に粘度の高い造膜性塗布液が充填された塗布具において、塗布液タンク内に、2個の撹拌子およびコイルばねからなるスペーサーを配置するとともに、スペーサーの先端側と尾端側に撹拌子を配置し、塗布具を垂直姿勢に長期間放置して塗布液タンクの下側部で生成したケーキによって、このスペーサーは、その全長が埋没することがないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修正液や化粧液など、顔料が溶媒内に分散した粘度の高い塗布液が充填された塗布具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗布体が球状の塗布具は、顔料が溶媒内に分散した粘度の高い塗布液が充填された塗布液タンクの先端に先口を介してチップが取り付けられており、ボールペンと同様に、チップの先端からその一部が先端から臨出した状態で球状塗布体が回転自由に抱持されている。そして、球状塗布体をスプリングで弾発し、不使用時に、球状塗布体をチップの内向きの先端縁に密着させ、球状塗布体とチップの先端縁で弁構造を構成して塗布液が吐出しないようにしている。
【0003】
使用時において、球状塗布体を塗布面に押し付けると球状塗布体がスプリングの弾発力に抗して後退し、球状塗布体とチップの先端縁との間に隙間ができるので、球状塗布体のチップ内の部分に付着した塗布液が球状塗布体の回転に伴ってこの隙間を通ってチップの外側に出て塗布される。
【0004】
塗布液タンクに充填された粘度の高い造膜性塗布液は、顔料が溶媒内に分散したものであるので、長時間放置しておくと、顔料が溶媒と分離して沈降する。このため、塗布液タンク内に球状や棒状の撹拌子を配置し、使用に先だって、塗布具を振って上下動する撹拌子で塗布液を撹拌し、顔料を溶媒に分散させる必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塗布体を上向きないし下向きにして塗布具を垂直姿勢で長時間放置していると、塗布液タンクの下側部で顔料が沈降して固化し、ケーキとなる。そして、ケーキの量が多くなると、ケーキが撹拌子を覆い、撹拌子がケーキの中に埋没するので、塗布具を上下に振っても撹拌子はケーキからなかなか抜け出せなくなる。このため、固化したケーキを破壊して顔料を再び溶媒に分散させることができなくなる。
【0006】
撹拌子がケーキから抜け出しやすくし、かつ顔料を溶媒に分散させる撹拌効果を高めるためには、撹拌子の質量を大きくし、また撹拌子の個数を多くすればよいが、撹拌子の質量が大きく、また撹拌子の個数が多いと、それだけ塗布液タンクの有効内容積が小さくなり、充填できる塗布液の量が少なくなる。また、塗布具を上下に振ったときに撹拌子が塗布液タンクの底面に衝突したときの衝撃が大きくなる。そして、この衝撃が大きいと、塗布液タンクと先口の嵌着が緩み、塗布液が漏れ出す危険性がある。
【0007】
そこで本発明は、塗布体を上向きないし下向きにして塗布具を垂直姿勢で長時間放置した場合にも、撹拌子の質量および個数をあまり大きくすることなく、ケーキに埋没した撹拌子が容易に抜け出すことが可能であり、塗布液の撹拌効果が大きい塗布具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、請求項1の発明は、球状塗布体がその一部がチップの先端から臨出した状態で回転可能に抱持され、このチップが塗布液タンクに接続された先口の中心孔に嵌着され、塗布液タンク内に粘度の高い造膜性塗布液が充填された塗布具において、塗布液タンク内に、コイルばねからなるスペーサーを配置するとともに、このスペーサーの先端側および尾端側にそれぞれ撹拌子を配置し、塗布具を垂直姿勢に長期間放置して塗布液タンクの下側部で生成したケーキによってスペーサーがその全長を埋没することがないようにする。
【0009】
請求項2の発明は、 先端の中心孔に球状塗布体を回転自由に抱持したチップが嵌着され、該中心孔に連通する押出し管を有する先口が軸筒の先端開口に取り付けられ、先端開口が詰め栓で封止され、内部に塗布液が充填された塗布液タンクがし、押出し管に仮止めされた状態で軸筒内に収容された塗布具において、塗布液タンク内にコイルばねからなるスペーサーを配置するとともに、スペーサーの尾端側に撹拌子を配置し、塗布具を垂直姿勢に長期間放置して塗布液タンクの下側部で生成したケーキによってスペーサーがその全長を埋没することがないようにし、初筆時において軸筒の尾端開口から突出する塗布液タンクの尾端部を押し込むと、塗布液タンク先端の嵌着部が押出し管に嵌着され、押出し管によって塗布液タンクの詰め栓が後退して先端開口の封止が解除され、この詰め栓がスペーサーの先端側の撹拌子として作用するようにする。
【発明の効果】
【0010】
塗布体を上向きないし下向きにして塗布具を垂直姿勢に長期間放置して塗布液タンクの下側部でケーキが生成しても、このスペーサーは、その全長がケーキに埋没しないので、スペーサーの先端側ないし尾端側の撹拌子は顔料の溶媒への分散量が少ない塗布液の中に位置する。したがって、塗布具を上下に振ったときに、上方の撹拌子はスペーサの端部に衝突し、その衝撃が下方の撹拌子に伝達される。このため、この衝撃力により下方の撹拌子はケーキを破壊するのでケーキから抜け出すことが可能になり、塗布液を効率よく撹拌できる。また、スペーサーがコイルばねからなるので、撹拌子が衝突したときに伸縮して撹拌効果を向上させるとともに、中実のスペーサーよりも質量が小さくて塗布具を上下に振ったときの塗布液タンクの底面に対する衝撃が小さく、かつ塗布液タンクの有効内容積の減少量が少ない利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図面に基づいて本発明の実施例を具体的に説明する。図1は塗布具が出荷される前の状態を示す断面図であるが、図1において、軸筒10は、合成樹脂、例えばナイロンやPBTなどで成形されたものであり、肉厚は0.5〜1.0mmの範囲の薄肉なものであり、例えば0.6mmである。軸筒10の先端開口には先口20が取り付けられている。なお、軸筒10と先口20を一体に成形したものであってもよい。軸筒10の尾端部の内周面には、断面形状が直角三角形である係止突起11が形成されている。先口20の中心孔21にチップ30が嵌着されている。また、先口20内部には尾端側に突出する筒状の押出し管22が形成されており、押出し管22の内面は中心孔21に連通している。また、不使用時には、先口20にキャップ70が嵌着される。
【0012】
チップ30は、ステンレスにて砲弾型に形成されており、チップ30先端のボールハウスに、直径が例えばφ1.0mmの超硬ボールからなる球状塗布体31がその一部がチップ30の先端から臨出した状態で回転自由に抱持されたボールペンタイプである。なお、チップ30は金属パイプからなるものであってもよい。そして、チップ30内には、質量の小さなスプリング32が配置されており、その後端部はチップ30から突出している。このスプリング32が球状塗布体31を弾発してチップ30の内向きの先端縁に圧接している。つまり、球状塗布体31とチップ30の先端縁とで弁機構を構成し、不使用時に塗布液がチップ30の先端から吐出しないようになっている。
【0013】
塗布液タンク40は、軸筒10と同じく、合成樹脂、例えばナイロンやPBTなどで有底筒状に成形されたものであり、肉厚は0.5〜1.0mmの範囲の薄肉なものであり、例えば0.6mmである。塗布液タンク40の先端部には先端開口部材41が嵌着されており、金属球からなり、封止部41aから後退して解放されると撹拌子を兼ねる詰め栓42が先端開口部材41先端部分の封止部41aに圧入されている。つまり、塗布液タンク40の先端開口は詰め栓42によって封止されている。この封止部41aの先端部分が内径が封止部41aよりも小径の嵌着部41bである。そして、塗布液タンク40内には、例えば粘度が30〜40cpsであって、溶媒に顔料が分散した造膜性の高い修正液である塗布液(図示せず)が充填されている。
【0014】
そして、塗布液内にはコイルばねからなるスペーサー44が配置されており、このスペーサー44の尾端側に金属球からなる2個の撹拌子43が配置されている。ここで塗布具を垂直姿勢にして長期間保存すると、塗布液内の顔料が分離してケーキが形成されるが、スペーサー44の長さは、保存が極めて長期になってケーキが最大限形成されても、このケーキの高さよりも長くなっている。ここで、撹拌子を兼ねる詰め栓42および撹拌子43の外径はスペーサー44の内径よりも大きく、かつ詰め栓42ないし第2撹拌子43の外径とスペーサー44の外径の和は塗布液タンク40の内径より大きい。つまり、封止部41aから解放された詰め栓42と撹拌子43はスペーサー44によって離間されており、詰め栓42と撹拌子43が直接接触することはない。なお、撹拌子43は1個であってもよい。また、塗布液タンク40の尾端部の外周面には第1凹部45と第2凹部46が形成されている。
【0015】
かかる塗布液タンク40が軸筒10内に配置されており、塗布液タンク40の尾端部40aが軸筒10の尾端開口から突出しているが、嵌着部41bが押出し管22の尾端部に嵌着されて仮止めされている。このとき、係止突起11は第1凹部45に係止している。したがって、出荷時においては、押出し管22の尾端部は塗布液タンク40の封止部41a内には入り込んでおらず、詰め栓42は封止部41aに圧入された状態であり、塗布液タンク40は開封されていない。つまり、チップ30内には、塗布液は存在しない。
【0016】
しかして、最初の使用に際してユーザーは、軸筒10の尾端開口から突出した塗布液タンク40の尾端部40aを押し込むと、塗布液タンク40が前進し、その過程において、図2に示すように、係止突起11は第1凹部45を抜け出し、係止突起11は第2凹部46に係止する。また、押出し管22が封止部41aに大きく入り込むとともに、押出し管22は嵌着管41bに嵌着する。これにより、押出し管22の尾端面が詰め栓42を塗布液タンク40内に押しやり、塗布液タンク40の先端開口は開封される。したがって、初筆時において塗布液がチップ30先端からスムーズに吐出する。そして、塗布液タンク40内に押しやられた詰め栓42はスペーサー44の先端側の撹拌子として働く。
なお、塗布具はこの実施例のように、塗布液タンク40を押し込んで詰め栓42を撹拌子として使用するものに限られないが、いずれしてもスペーサー44の先端側と尾端側に撹拌子が配置される。
【0017】
かかる塗布具を、図3に示すように、チップ30を上向きにした垂直姿勢にすると、撹拌子43が塗布液タンク40の尾端面に当接し、その上にスペーサー44および詰め栓42が積み重なるようになる。また、図4に示すように、チップ30を下向きにした垂直姿勢にすると、詰め栓42が先口20の嵌着管22に当接し、その上にスペーサー44および撹拌子43が積み重なるようになる。そして、いずれかの垂直姿勢で長期間放置すると、塗布液の顔料が溶媒から分離して沈降し、固化してケーキとなるが、ケーキの量が増加するとスペーサー44の尾端側ないし先端側、つまりスペーサー44の下側部分は、スペーサー44の下側に位置する撹拌子43ないし詰め栓42と共にケーキに埋没する。ここで、スペーサー44の長さは、前術のとおり、ケーキが最大限形成された場合の長さよりも長いので、スペーサー44の上側に位置する詰め栓42ないし撹拌子43は顔料がほとんど溶媒に分散していない塗布液の中に存在し、ケーキに埋没しない。
【0018】
この状態で塗布具を上下に振って塗布液を撹拌するとき、ケーキに埋没した詰め栓42ないし撹拌子43は移動しにくいが、ケーキに埋没しない撹拌子43ないし詰め栓42がスペーサ44の端部に衝突し、その衝撃がケーキに埋没した詰め栓42ないし撹拌子43に伝わる。したがって、この衝撃力によってケーキが破壊され、ケーキに埋没していた詰め栓42ないし撹拌子43も上下に移動可能になる。そして、この撹拌によって固化していたケーキも微細な顔料になり、再び溶媒中に分散するので、十分な撹拌効果を得ることができる。
【0019】
また、塗布具を上下に振ったとき、撹拌子43およびスペーサー44と詰め栓42が重なり合うようにして塗布液タンク40の尾端面や先口20の嵌着管22に衝突するが、スペーサー44がコイルばねからなるので、その伸縮により撹拌効果を期待することができるとともに、中実のスペーサーよりも質量が小さく、塗布液タンク40の底面に対する衝撃が小さい。このため、先口20の嵌着管22と嵌着部41aの嵌着が緩む危険性が少ない。また、スペーサー44の内部にも塗布液が入るので、塗布液タンク40の有効内容積の減少量が少ない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明実施例の塗布具の出荷前の断面図である。
【図2】筆記可能状態の断面図である。
【図3】塗布体を上向きにして保存した状態の説明図である。
【図4】塗布体を下向きにして保存した状態の説明図である。
【符号の説明】
【0021】
10 軸筒
20 先口
21 先口の中心孔
22 嵌着管
30 チップ
31 球状塗布体
32 スプリング
40 塗布液タンク
41 先端開口部材
42 詰め栓
43 撹拌子
44 スペーサー
70 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状塗布体がその一部がチップの先端から臨出した状態で回転可能に抱持され、該チップが塗布液タンクに接続された先口の中心孔に嵌着され、該塗布液タンク内に粘度の高い造膜性塗布液が充填された塗布具において、
前記塗布液タンク内に、コイルばねからなるスペーサーが配置されるとともに、該スペーサーの先端側および尾端側にそれぞれ撹拌子が配置され、塗布具を垂直姿勢に長期間放置して塗布液タンクの下側部で生成したケーキによって該スペーサーは、その全長が埋没することがないようにしたことを特徴とする塗布具。
【請求項2】
先端の中心孔に球状塗布体を回転自由に抱持したチップが嵌着され、該中心孔に連通する押出し管を有する先口が軸筒の先端開口に取り付けられ、先端開口が詰め栓で封止され、内部に塗布液が充填された塗布液タンクが該押出し管に仮止めされた状態で軸筒内に収容された塗布具において、
前記塗布液タンク内にコイルばねからなるスペーサーが配置されるとともに、該スペーサーの尾端側に撹拌子が配置され、塗布具を垂直姿勢に長期間放置して塗布液タンクの下側部で生成したケーキによって該スペーサーは、その全長が埋没することがなく、
初筆時において軸筒の尾端開口から突出する塗布液タンクの尾端部を押し込むと、塗布液タンク先端の嵌着部が押出し管に嵌着され、押出し管によって該塗布液タンクの詰め栓が後退して先端開口の封止が解除され、該詰め栓が該スペーサーの先端側の撹拌子として作用することを特徴とする塗布具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−88497(P2006−88497A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276320(P2004−276320)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000002314)セーラー万年筆株式会社 (49)
【Fターム(参考)】