説明

塗布型酸素吸収組成物

【課題】 塗布型の酸素吸収性組成物であるにもかかわらず、従来の小袋形状で用いられていたものと同等の酸素吸収量が得られる酸素吸収性組成物等を提供する。
【解決手段】 金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とpHが4〜9である水溶性バインダー(C)とからなる塗布型酸素吸収組成物(X)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の保存中の酸化劣化を防止できる酸素吸収組成物等に関し、具体的には、アルミニウムを主剤とする新規な塗布型酸素吸収組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
食品などが収容された包装体内の酸素を除去するために、食品等を主に鉄を用いた酸素吸収剤と共にガスバリア容器内に収容、密閉する脱酸素包装方法が多用されている。この包装方法は、内容物への酸素の影響を取り除くことにより、(1)酸素による油脂やビタミンの酸化・分解による風味、着色等の変化抑制、(2)カビや好気性菌等による変敗防止、(3)青果物等の追熟防止できるため、従来の塩蔵、砂糖漬けなど水分活性の調整、バリア性フィルム使用による真空包装やガス置換包装等に替わる脱酸素包装方法として注目されている。
【0003】
ところで酸素吸収剤は、形状の違いによる分類から、酸素吸収組成物を構成する各成分を配合し、通気性を有する小袋等に充填した小袋タイプや、組成物を熱可塑性樹脂等と混練したものを単層でシート化したシート(カード)タイプや、組成物を熱可塑性樹脂等と混練した層をガスバリア層等と共に多層化したフィルム、シートを容器に成形した容器タイプ、液体状の酸素吸収剤を容器やフィルム、シート表面に塗布する塗布型タイプ等が知られている。中でも、塗布型タイプは、容器の内面等にあらかじめ塗布して酸素吸収能をもたせることが可能なため、小袋形状のように内容物に同梱する手間がかからないうえ、誤飲誤食の危険性もないという利点があり、様々な実用化の努力がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材上に塗布するのに適し、かつ食料品のパッケージ中の酸素を吸収するために使用される酸素吸収組成物であって、該組成物はエマルジョンに中に含有される金属及び塩の酸素吸収剤混合物を含有し、ここで該金属は、該組成物の少なくとも10.0重量%であり、そして該塩は該金属の0.1重量%〜5.0重量%の間の範囲の濃度である、塗布型酸素吸収組成物が開示されている。この実施例1にはアルギネートエマルジョン1部及び2重量%の塩化ナトリウムを含有する200メッシュの電解還元鉄1部からなる塗布型酸素吸収組成物が例示されており、基材上に印刷(塗布)した酸素吸収組成物の酸素吸収量は電解還元鉄1gあたり約30ccである。
【0005】
また、特許文献2には、一種又は二種以上の純金属粉末および/又は合金粉末に水性バインダーを混入してなる事を特徴とする青果物の鮮度保持剤が開示されている。この実施例2には市販アルミニウム粉末15gにポリビニルアルコール6g、エチルアルコール50gおよび脱塩水350gからなる塗布型酸素吸収組成物が例示されている。
【0006】
しかしながら、塗布型の酸素吸収剤は、塗布できる面積や塗布厚みに原理上の限界があるため、塗布できる絶対量が比較的少量に限定される。そのため、従来、酸素吸収量が比較的小さいとされるアルミニウム系はもとより、酸素吸収量が比較的大きいことが知られている鉄系の酸素吸収剤であっても、通常必要とされる酸素吸収量を塗布型で達成することは実際上困難であった。上記のいずれの場合の塗布後の酸素吸収量も、より多量の酸素吸収剤が収納できる従来の小袋形状のものと比較して微々たるものに留まっており、実用化にはほど遠いのが実情である。また、鉄系の酸素吸収剤は酸素吸収後に赤黒く変化するため、酸素吸収剤を塗布された容器表面が内容物保存中に赤黒くなり、使用前の容器の清潔感が酸素吸収後には失われてしまう問題点があった。
【特許文献1】特表平10−508327号公報
【特許文献2】特開昭55−141157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、塗布型であるにもかかわらず、従来の小袋形状で用いられていたものと同等の酸素吸収量が得られ、かつ使用前後で清潔感が維持できる酸素吸収性組成物等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の第1は、金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とpHが4〜9である水溶性バインダー(C)とからなる塗布型酸素吸収組成物(X)である。発明の第2は、金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とpHが4〜9である水溶性バインダー(C)とが、水あるいは有機溶剤に溶解または分散したことを特徴とする塗布液である。発明の第3は、上記の塗布液が、基材表面に塗布されているか、あるいは基材内に含浸されていることを特徴とする酸素吸収材料である。ここで、上記の酸素吸収材料が、さらに、乾燥されたものであることは好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗布型酸素吸収組成物等は、少ない使用量で大きい酸素吸収量が得られる。そのため、塗布型であるにもかかわらず、従来の小袋形状の酸素吸収剤と同等の酸素吸収量が得られる。さらに、誤飲・誤食の恐れもない。また、塗布された酸素吸収性組成物の酸素吸収後の色は白色なので、容器使用前の清潔感が酸素吸収後も維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。塗布型酸素吸収組成物(X)は、金属アルミニウム単位(A)と、アルミニウム化合物単位(B)と、pHが4〜9の水溶性バインダー(C)からなる混合物である。ここで単位とは、これら3種類の物質のそれぞれが、互いに独立した形態をなしていることを意味する。各単位は粉末などの粒子状や繊維状または多孔質体状でも良いし、酸素吸収反応に寄与しうる溶媒である水分に溶解可能であれば溶液状でも良く、その形態は問わない。要は、互いに接触する表面積が大きい形態であればよい。塗布型酸素吸収組成物(X)は、これら少なくとも3種類の単位の混合によって構成される。
【0011】
塗布型酸素吸収組成物(X)に含まれる金属アルミニウム単位(A)は、酸素吸収の主剤であり、酸素分子と接触することにより酸化されて、結果的に酸素ガスを吸収する役割を担っている。金属アルミニウムは、表面に酸化被膜が生成されていないものでもよいが、製造時に空気中の酸素に触れて表面に薄い酸化被膜が自然に生じたものをそのまま用いてもよい。また、金属アルミニウムに含まれる他の金属等の不純物は、むしろ酸素吸収の妨げになる傾向があるので、金属アルミニウム純度は高い方がよい。望ましくは95質量%以上、より望ましくは99質量%以上である。
【0012】
金属アルミニウム単位(A)の形態は特に制限されないが、質量の割に表面積が広くなる形態が望ましく、例えば、箔状、繊維状、粒子状、微粒子状、粉体状等とするのが望ましい。また、粒子や粉体等が集合した塊状のものでもよい。酸素吸収速度を大きくするには、金属アルミニウム単位(A)1gあたりの表面積が広い形態が望ましいが、一定期間にわたって酸素吸収を安定して持続させる観点からは、表面に直接現れない体積部分も確保しておくことが望ましい。製造の容易さの観点も加味すると、微粒子状とするのが望ましい。具体的には、金属アルミニウム単位(A)の粒子の平均粒径は、0.1μm以上1000μm以下とするのが好ましく、より好ましくは1μm以上300μm以下である。特に好ましくは3μm以上100μm以下である。
【0013】
金属アルミニウム単位(A)の形態を粒子状、微粒子状、粉体状等とする場合、個々の金属アルミニウム粒子の形状は、球状、涙滴状、燐片状、針状、不定形のいずれでも良く、吸収速度、持続時間、使用アルミニウム量、製造の容易さ等を考慮して適宜選択すればよい。
【0014】
このような金属アルミニウム単位(A)は、通常のアトマイズ法や破砕法等の各種の常法で得ることができる。また、金属アルミニウム単位には、反応活性をより向上させる目的で、酸やアルカリ、表面処理剤等による前処理を行ってもよいが、行わなくとも良い。
【0015】
金属アルミニウム単位(A)は、後述するアルミニウム化合物(及び水分)の共存下における酸素吸収によって、全く意外にも、表面だけではなくアルミニウムの内部に至るまでほぼ完全に酸化されうる。そのため、当初の金属アルミニウム単位(A)が一定の平均粒径を有する球形粒子だったとしても、十分な酸素吸収後は、ほぼ全体が、鉄の赤さびに類似した酸化アルミニウム粉体の集合物に変化する。この集合物は容易に崩れやすく、元の形状を留めることが困難である。従って、金属アルミニウム当量から計算した酸素吸収の理論値(上限値)に近いところまで酸化を生ぜしめることも可能であり、酸素吸収能が大幅に向上する。
【0016】
このような意外な現象が生じる原因は不明であるが、共存するアルミニウム化合物単位(B)のなんらかの作用により、金属アルミニウム単位(A)の表面酸化被膜が破壊されると共に、新たな被膜形成が阻害されているのではないかと推測している。なお、酸素吸収により生じる酸化アルミニウム粉体は白色であるため、容器内面等に塗布型酸素吸収組成物(X)を塗布して使用した場合に、酸素吸収後も容器内面等の塗布面の清潔感を維持できる。
【0017】
次に、塗布型酸素吸収組成物(X)のアルミニウム化合物単位(B)について説明する。アルミニウム化合物単位(B)は、上記の通り、金属アルミニウム単位(A)の酸化促進剤であり、水分との共存下で金属アルミニウム単位(A)を表面のみならず内部まで酸化せしめる作用を有する。ここにいうアルミニウム化合物単位(B)とは、アルミニウム元素と、アルミニウム元素等に結合しているその他の元素との質量比率が、1:9〜8:2の範囲内のものである。この範囲内で酸素吸収組成物としたときの酸素吸収能が高くなる。より好ましくは2:8〜7:3である。さらに好ましくは3:7〜6:4であり、最も好ましくは3:7〜5.5:4.5である。アルミニウム化合物におけるアルミニウムの酸化数は1、2、3のいずれでも良いが、酸化数3のものが好ましい。
【0018】
好適なアルミニウム化合物単位(B)としては、アルミニウムの酸化物、水酸化物、アルミン酸塩、アルミノケイ酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、酢酸塩等が挙げられ、中でも、酸化物または水酸化物が好ましい。
【0019】
アルミニウムの酸化物または水酸化物としては、α−アルミナ、γ−アルミナ、η−アルミナ、δ−アルミナ、k−アルミナ、ρ−アルミナ等の無水アルミニウム化合物や、Al(OH)3またはAl23・3H2Oで表されるギブサイト、バイヤライト、ノルストランダイト等のアルミニウム化合物の3水和物や、AlO(OH)またはAl23・H2Oで表されるべーマイト、ダイアスポア等のアルミニウム化合物の1水和物や、さらにトーダイト(5Al2a・H2O)や、アルミナゲル(Al23・nH2O)等の単体やこれらを1種以上含む混合物が拳げられる。
【0020】
酸素吸収速度を大きくするには、無水酸化物の中ではγ−アルミナが好ましく、水和物の中では1水和物が好ましい。アルミニウム酸化物は、水和物とするのがより好ましく、最も好ましくはベーマイトである。
【0021】
また、アルミニウム化合物単位(B)には、酸素吸収速度をより大きくするために、アルミニウム以外の元素としてイオン化傾向の高い金属元素を1種以上含んでいてよい。イオン化傾向が高い金属元素としては、例えば、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、クロム、マンガン、鉄(II)等が挙げられる。
【0022】
アルミニウム化合物単位(B)の形態は特に制限されないが、金属アルミニウム単位(A)の表面との接触点が生じやすいように、表面積が大きく分散性が高い形態とするのがよい。例えば、繊維状、粒子状、微粒子状、粉体状等が挙げられ、さらに、粒子形状としては、球状、針状、燐片状、不定形状等が拳げられる。粒子形状とする場合の平均粒径は、0.01μm以上1000μm以下とするのが好ましく、より好ましくは0.05μm以上100μm以下である。特に好ましくは0.1μm以上10μm以下である。
【0023】
アルミニウム化合物単位(B)は、金属アルミニウム単位(A)との接触性を確保するために、アルミニウム化合物単位(B)1gあたりの比表面積が1m2/g以上であることが好ましく、10m2/g以上であることがより好ましい。特に好ましくは50m2/g以上である。
【0024】
なお、アルミニウム化合物単位(B)は、その1gを100ccの水に分散させたときのpHが、3〜11となるものであることが好ましい。このようなpHを示すように組成を調整したアルミニウム化合物単位(B)を選択することで、金属アルミニウムと酸素との反応の副反応である水素発生反応がある程度は抑制される。より好ましくは4〜9である。
【0025】
アルミニウム化合物単位(B)の製造は常法に従って行えばよく、例えば、乾式または湿式の化学反応を経て、必要により乾燥処理、焼成処理、精製処理、粉砕処理等を行って製造することができる。
【0026】
金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とを混合する質量比率は、1:99〜99:1の範囲で定めることができる。アルミニウム単位(A)の比率が大きい場合は、吸収できる酸素量は多くなるが、一方で酸素吸収速度は小さくなり、特に吸収初期の吸収速度が小さくなる。アルミニウム化合物単位(B)の比率が大きい場合はこの逆となる。混合する質量比率は、金属アルミニウム単位(A)の表面積なども考慮しながら酸素吸収剤に求められるスペックに応じて適宜定めればよいが、通常、金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)の質量比率は、30:70〜70:30程度とするのが好ましい。
【0027】
なお、アルミニウム化合物単位(B)と水の共存下における金属アルミニウム単位(A)の内部までの酸化作用は、金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とを薬さじで軽く混合するだけでも生じる。従って、金属アルミニウム単位(A)の表面酸化被膜の破壊は、混合時の機械的作用によるものではないと考えられる。
【0028】
次に、水溶性バインダー(C)について説明する。ここで水溶性バインダーは、塗布液とした場合に、金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とを均一に分散させ、さらに塗布や印刷等のし易さを向上させる役目をする外、金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)との酸化作用に必要な水分を保持・供給する役目を担う。
【0029】
水溶性バインダー(C)としては、pHが4〜9のものを使用するのが好ましく、pHが5〜9のものを使用するのがより好ましい。ここで水溶性バインダー(C)のpHとは、水溶性バインダー2gを100gの水に分散したときのpHを意味する。このようなpH範囲の水溶性バインダーを使用することにより、金属アルミニウムと酸素との反応の副反応である水素発生反応がある程度は抑制される。また、水中の溶存酸素量が大きい中性域に水溶性バインダー(C)のpHを調整することで、金属アルミニウム単位(A)の酸化に必要な酸素の供給を円滑にする。
【0030】
したがって水溶性バインダー(C)は、pHが4〜9であればよく、用途や工程に応じて適宜選択できる。例えば、親水性天然高分子又はその誘導体(澱粉、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、ローカストビーンガム、クインスシード、カラギーナン、ガラクタン、ペクチン、マンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン、デキストリン、キサンタンガムなど)、セルロース誘導体(メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルローススルフェート、シアノエチルセルロースなど)、ビニルアルコール系重合体(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、エチレン系重合体(エチレン−無水マレイン酸共重合体など)、酢酸ビニル系共重合体(酢酸ビニル−アクリル酸メチル共重合体など)、ポリアルキレンオキサイド(ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体など)、カルボキシル基又はスルホン酸基を有する重合体又はその塩[ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、アクリル酸−ポリビニルアルコール共重合体など]、ビニルエーテル系重合体(ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテルなどのポリビニルエーテルアルキルエーテル、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体など)、スチレン系重合体(スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムなど)、窒素原子含有重合体(ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩酸塩などのカチオン性重合体又はその塩、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなど)、ポリウレタン系重合体、ポリエステル系重合体等の単体あるいはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
また水溶性バインダー(C)にはpHを調整する目的で電解質を添加しても良い。この際添加される電解質としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、有機酸塩等が挙げられる。これらは必要に応じて単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0032】
水溶性バインダー(C)は、その粘度が1mPa・s以上、5000mPa・s以下となるものであることが好ましい。ここにいう水溶性バインダーの粘度とは、水溶性バインダー2gを100gの水に分散させた時の水溶液の23℃における粘度をいう。上記のように、塗布型酸素吸収組成物(X)は、金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とが接触することにより、高い酸素吸収性能を発現することが出来るため、金属アルミニウム単位(A)及びアルミニウム化合物単位(B)が水溶性バインダー(C)中で均一に分散することが好ましい。水溶性バインダー(C)の粘度が1mPa・s以上で、金属アルミニウム単位(A)あるいはアルミニウム化合物単位(B)を混合した際に、粒子が水溶性バインダー(C)中に分散可能になり、粒子の沈降等が生じにくくなる。また水溶性バインダー(C)の粘度が5000mPa・s以下で、金属アルミニウム単位(A)あるいはアルミニウム化合物単位(B)を混合した際に、各単位が十分分散できるようになり、凝集物の残存が生じにくくなる。
【0033】
仮に凝集物が残存してしまうと、金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)との円滑な接触が阻害される外、塗布液を作製する際に液を塗布に好適な粘度範囲に調整した場合に、分散液中の水またはバインダー量が多くなりすぎるため、その後塗布液の乾燥工程に莫大な時間を必要としたり、塗布液重量が重くなりすぎて、基材が薄膜の場合、基材を変形させたりする。
【0034】
水溶性バインダー(C)の粘度は、下限が5mPa・sであることがより好適であり、また、上限が2000mPa・sであることがより好適である。さらに好適な下限は10mPa・sであり、また、さらに好適な上限は1000mPa・sである。
【0035】
水溶性バインダー(C)を水を添加した状態で用いる場合は、その水溶液の粘度は、金属アルミニウム単位等に対する安定した分散性と製造時の取り扱い性の観点から、1mPa・s以上、5000mPa・s以下であることが好ましい。好ましくは10mPa・s以上、1000mPa・s以下であることが好ましい。このような水溶性バインダー(C)の水溶液を金属アルミニウム単位(A)とを混合する質量比率は、1:99〜99:1の範囲で定めることができる。金属アルミニウム単位(A)の比率が大きい場合は、金属アルミニウム単位(A)が沈降した状態になりにくく安定して保持しやすいが、一方で水分の担持・供給が少なくなる。水溶性バインダー(C)水溶液の比率が大きい場合はこの逆となる。混合する質量比率は、金属アルミニウム単位(A)の粒径なども考慮しながら酸素吸収剤に求められるスペックに応じて適宜定めればよいが、水溶性バインダー(C)水溶液と金属アルミニウム単位(A)の質量比率は、20:80〜70:30程度とするのが好ましい。
【0036】
また塗布型酸素吸収組成物(X)には、水分保持力を高めるための担体を添加しても良い。担体としては、脱脂綿や不織布等の保水性のある繊維製品や、活性炭やゼオライト、珪藻土、活性白土、シリカ、タルク、石膏、ケイ酸カルシウム、塩化カルシウム、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の無機粉末あるいは無機粒状物が挙げられ、特に制限されない。担体は一種を用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0037】
またアルミニウムと酸素との反応には水素発生反応が副反応として起こることがあるが、塗布型酸素吸収組成物(X)には、その酸素吸収組成物1gを20ccの水に浸漬した際に示すpHを緩衝剤等を添加することによって中性域に調整したり、水素発生阻害剤を添加しても良い。
【0038】
水素発生阻害剤としては、酸化銀、白金、チタン、ゼオライト、活性炭、硫化物、リン酸及びその塩、シュウ酸及びその塩、酒石酸及びその塩、安息香酸及びその塩、飽和直鎖第一アミン類(CH3(CH2nCH2NH2など)、飽和直鎖第二アミン類、飽和直鎖第三アミン類、芳香属アミン、チオ尿素類、イミダゾリン類、脂肪属アルデヒド、芳香属アルデヒドフェノール類、タンニン類、炭酸塩、炭酸ガス等が挙げられる。
【0039】
塗布型酸素吸収組成物(X)には、本発明の効果を損ねない限りにおいて、電子レンジのスパーク防止剤やその他の添加剤を添加してもよい。
【0040】
塗布型酸素吸収組成物(X)は、上記の各成分を所定の比率で混合し、攪拌して均一化することにより得られる。均一化にあたっては、金属アルミニウム単位(A)やアルミニウム化合物単位(B)等を同時に粉砕しながら攪拌しても良いし、金属アルミニウム単位(A)やアルミニウム化合物単位(B)や水溶性バインダー(C)に、比較的少量の水分や有機溶剤等を添加して混合しても良い。少量の水分や有機溶剤等を水溶性バインダー(C)に添加・分散させた場合は、凝集物ができやすく不均一性になりやすくなるので、凝集物の発生を防止するために、まず、いずれかの成分、例えばアルミニウム化合物単位(B)を水溶性バインダー(C)に分散させた後、分散液をよく攪拌しながら残りの金属アルミニウム単位(A)を添加するなど、異なる成分を別々に分散するような方法をとればよい。
【0041】
混合及び均一化処理は、金属アルミニウム単位(A)の性能低下を抑制する観点より、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスや炭酸ガス等を用いた無酸素雰囲気下で行うことが望ましい。特に塗布型酸素吸収組成物(X)に水分が含まれている場合、酸素吸収性能の点から特に好ましいのは炭酸ガスである。
【0042】
また、塗布型酸素吸収組成物(X)は、基材表面に塗布あるいは基材に含浸させて酸素吸収材料とすることができる。この際、塗布性を向上させる目的で、塗布型酸素吸収組成物(X)を比較的多量の水あるいは有機溶剤に分散または溶解した塗布液としても用いることが好ましい。塗布液の粘度は、分散性及び塗布性の観点より、1〜1000mPa・sの範囲に調整されることが好ましく、10〜800mPa・sの範囲に調整されることがより好ましい。特に好ましい塗布液の粘度の調整範囲は50〜500mPa・sである。
【0043】
ここで基材の材質としては、安全性の観点より食品接触が可能な材料であることが好ましく、例えば紙製、樹脂製、あるいはこれらの組み合わせなどが挙げられる。基材に用い得る紙としては、例えば、和紙、洋紙、ボール紙、段ボール等が挙げられ、和紙、洋紙、ボール紙、段ボール、不織布等を樹脂製フィルム等でラミネートした物であっても良い。
【0044】
また基材に用い得る樹脂とは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、セルロースアセテート樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としてはユリア樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは単独樹脂であっても混合物であっても共重合樹脂等であってもよい。
【0045】
基材の形状は、塗布のし易さの点からは、表面が平面的なフィルムまたはシート状であることが好ましいが、酸素吸収性能向上の観点からは、表面に凹凸があって表面積が広いほうが好ましい。したがって、シート・フィルム状の基材に塗布型酸素吸収組成物(X)を塗布した後、圧空成形や真空成形等の方法を用いてシート・フィルムの表面に凹凸をつけたり、塗布型酸素吸収組成物(X)を塗布した基材を何枚も重ね合わせて、分厚いシートにしたりしてもよい。
【0046】
基材に塗布型酸素吸収組成物(X)を塗布あるいは含浸させた酸素吸収材料は、単体で用いられても良いし、多層シートの中間層として用いられても良い。例えば、塗布型酸素吸収組成物(X)/基材(単層材料または多層材料)、塗布型酸素吸収組成物(X)を含浸させた基剤/基材(単層材料または多層材料)、基材(単層材料または多層材料)/塗布型酸素吸収組成物(X)/基材(単層材料または多層材料)、基材(単層材料または多層材料)/塗布型酸素吸収組成物(X)を含浸させた基材/基材(単層材料または多層材料)等の構成が挙げられる。特に塗布型酸素吸収組成物(X)を塗布あるいは含浸させた基材を外装用の包装材料として使用する場合、ガスバリア樹脂を含む層を塗布型酸素吸収組成物(X)を含有する層よりも、外層に用いることが好ましい。ここでガスバリア樹脂とは高密度ポリエチレン系樹脂(HDPE)、ポリプロピレン系樹脂(PP)、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂(EVOH等)、ポリアミド系樹脂(Ny)、ポリエチレンテレフタレート系(含変性)樹脂(PET等)、ポリブチレンテレフタレート系(含変性)樹脂(PBT等)をはじめとする脂肪族成分のポリエステル系樹脂(PEST)等が挙げられる。またアルミ、シリカ、アルミナ、非晶性カーボン等の金属や無機材料をコーティングする等した材料もガスバリア性の観点より好ましい。
【0047】
また塗布液を基材表面あるいは基材中に含浸した後、酸素吸収性能保持の観点より乾燥工程を設けるようにしても良い。乾燥工程の条件は、水溶性バインダーの種類や量、水分・溶剤量等より乾燥温度、風量、風速等を適宜選択すれば良いが、酸素吸収性能保持の観点より、窒素やアルゴンガス中で乾燥されることが好ましく、特に炭酸ガス中で乾燥されることがより好ましい。
【0048】
また塗布型酸素吸組成物(X)の基材への塗布方法は、刷毛やバーコーター等を用いて手塗りすることも可能であるが、製造製の観点より活版、写真版、コロタイプ、グラビア、彫刻凹版、スクリーン、ステンシル、乾式平版等の工業的塗布方法を用いて塗布しても良く、用途や量に応じて適宜選択されれば良い。
【0049】
塗布型酸素吸収組成物(X)の基材への塗布量は、塗布の厚さ及び塗布面積で決まるが、用途や塗布方法、酸素吸収性能に応じて適宜選択すれば良く、例えば、基材が薄いフィルムの場合、割れ、はがれ抑制の観点より塗布の厚さを薄くした方がよいが、一方で塗布面積を調節することにより酸素吸収量を調節することが出来る。
【0050】
また、塗布型酸素吸収組成物(X)をインキとして使用する場合は、美粧性の観点より、色、光沢等の機能を発現するための添加剤、安定剤等の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。さらに塗布型酸素吸収組成物(X)は、金属アルミニウムの酸化による色調の変化(酸化前:灰色、酸化後:白色)を利用して、インジケータとしても利用できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について実施例等を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例の具体的態様に限定されるものではない。実施例等における各種物性の測定方法および評価方法は次の通りである。
(1)酸素吸収量(VOS
【0052】
室温(23℃)環境下において、ガスバリア性容器(旭化成パックス製、商品名:ポリフレックスバッグ飛竜、型番:N−9、材質:Ny・15μm/PE・60μm、サイズ:200mm×300mm)内に酸素吸収材料および内容物を500ccの空気と共に収容し、大気圧下でヒートシーラー(テクノインパルス社製、商品名:密封パック器クリップシーラー、型番:Z−1)にて密封後、23℃雰囲気下に48時間放置した。酸素吸収材料の投入から48時間経過後の容器内の酸素ガス濃度を測定した。なお、酸素濃度(CO2)は、酸素モニター(ジコー製、商品名:JKO−O2LJDII)により測定した。次いで、48時間経過時点における酸素吸収量を、下記式(a)により算出した。
【0053】
OS={(CO2,0/100)×V0−(CO2,t/100)×Vt}/x ・・・(a)
((a)式において、VOSは測定開始から48時間経過時までの金属アルミニウム単位(A)1gあたりの酸素吸収量(cc/g)、CO2,tは48時間経過時の容器内酸素濃度(vol.%)、CO2,0は酸素吸収材料投入前の容器内酸素濃度(vol.%)、V0は容器の初期容積(=1000cc)、Vtは保存容器の48時間経過時における容積(cc)、xは塗布型酸素吸収組成物(X)1gあたりに含まれる金属アルミニウム(A)の重量(g)、をそれぞれ意味する。)
(2)分散液pH
【0054】
アルミニウム化合物単位(B)1gを100ccの水に浸漬し、ガラス棒でよく攪拌して分散した後、この分散液のpHをpH計(新電元工業製、商品名:Shindengen ISFET pH計KS723)を使用して測定した。
(3)水溶性バインダー(C)のpH
【0055】
水溶性バインダー2gを100gの水に分散し2%水溶液を作成した後、この分散液のpHをpH計(新電元工業製、商品名:Shindengen ISFET pH計KS723)を使用して測定した。
(4)水溶性バインダー(C)の粘度
【0056】
水溶性バインダー2gを100gの水に分散し2%水溶液を作成した後、この分散液の室温(23℃)での粘度をSV型粘度計(エー・アンド・デイ製、型番:SV−10)を使用して測定した。
[実施例1]
【0057】
アルミニウム粉末(エカ・グラニュラージャパン製、グレード:8F02A、粒度:8μm、純度:99.7%)0.5g、およびベーマイト粉末(大明化学製、グレード:AE−001)0.5gを、水溶性バインダーとしてヒドロキシエチルセルロース(和光純薬製、水溶性バインダーのpH:6.6、水溶性バインダーの粘度:220mPa・s)を2重量%とした水溶液2gとを混合し、薬さじで攪拌して均一な試料を作成した。これを用いて酸素吸収量を測定して評価した。結果を表1に示す。アルミニウム粉末1gあたりの酸素吸収量は356ccであり、酸素吸収性能は優れていた。
[実施例2]
【0058】
ヒドロキシエチルセルロースの2重量%水溶液を、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(シグマ・アルドリッチ製、水溶性バインダーのpH:6.4、水溶性バインダーの粘度:4000mPa・s)の5重量%水溶液に代えた以外は実施例1と同様にして塗布型酸素吸収組成物の試料を得た。これを用いて実施例1と同様にして酸素吸収量を評価した。結果を表1に示した。
[実施例3]
【0059】
ヒドロキシエチルセルロースの2重量%水溶液を、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(シグマ・アルドリッチ製)の2重量%水溶液とポリアクリル酸(和光純薬製)の2重量%水溶液との1:1(重量比)混合物に代えた以外は、実施例1と同様にして塗布型酸素吸収組成物の試料を得た。これを用いて実施例1と同様にして酸素吸収量を評価した。結果を表1に示した。
[実施例4]
【0060】
ヒドロキシエチルセルロースをポリエチレングリコール(和光純薬製、平均分子量:200、水溶性バインダーのpH:4.6、水溶性バインダーの粘度:10mPa・s)に代えた以外は、実施例1と同様にして塗布型酸素吸収組成物の試料を得た。これを2gの水を含ませた脱脂綿と共に密封容器に入れ酸素吸収量を測定して評価した。結果を表1に示した。
[実施例5]
【0061】
アルミニウム粉末0.5g(エカ・グラニュラージャパン製、グレード:8F02A、粒度:8μm、純度:99.7%)及びベーマイト粉末(大明化学製、グレード:AE−001)1.5gを、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、グレード:65SH−5、水溶性バインダーのpH:6.4、水溶性バインダーの粘度:5mPa・sを使用した)の8重量%水溶液5gに添加した後、充分に攪拌し炭酸ガス雰囲気下で均一に分散させた。これをディスポトレイ(アズワン製、材質:PP(ポリプロピレン)フィラー入、サイズ:200mm×140mm×25mm)の底にバーコーターにてウェット厚み200μmとなるように塗布し、炭酸ガス雰囲気(CO2濃度:99%以上)下で自然乾燥させ、試料を得た。この試料を内容物(丸京製菓製、商品名:ふんわり焼、個数:1個)とともにガスバリア性容器に入れて酸素吸収量を測定して評価した。結果を表1に示した。
[比較例1]
【0062】
ヒドロキシエチルセルロースの2重量%水溶液をポリアクリル酸(和光純薬製、水溶性バインダーのpH:2.4)の25重量%水溶液に代えた以外は、実施例1と同様にして塗布型酸素吸収組成物を得た。これを用いて実施例1と同様にして酸素吸収量(VOS)を測定した。結果を表1に示した。ほとんど酸素吸収が生じなかった。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とpHが4〜9である水溶性バインダー(C)とからなる塗布型酸素吸収組成物(X)。
【請求項2】
金属アルミニウム単位(A)とアルミニウム化合物単位(B)とpHが4〜9である水溶性バインダー(C)とが、水あるいは有機溶剤に溶解または分散したことを特徴とする塗布液。
【請求項3】
請求項2記載の塗布液が、基材表面に塗布されているか、あるいは基材内に含浸されていることを特徴とする酸素吸収材料。
【請求項4】
さらに、乾燥されたものであることを特徴とする請求項3に記載の酸素吸収材料。

【公開番号】特開2007−203198(P2007−203198A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25381(P2006−25381)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】