塗布材押出容器
【課題】移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現する。
【解決手段】塗布材押出容器100は、本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転させると移動体6が前進し、他方向に相対回転させると前進した移動体6が一定量のみ後退するものであり、ラチェット部材5及びラチェット機構を有している。ラチェット部材5の縦リブ5eは、本体筒2と操作筒3とが相対回転される際に螺子筒4に回転方向に係合して、螺子筒4とラチェット部材5とが一定回転量A1のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する。ラチェット機構は、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転を規制すると共に、本体筒2と操作筒3とが一方向に相対回転される場合であって螺子筒4とラチェット部材5との相対回転が縦リブ5eで規制された後には、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転を許容する。
【解決手段】塗布材押出容器100は、本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転させると移動体6が前進し、他方向に相対回転させると前進した移動体6が一定量のみ後退するものであり、ラチェット部材5及びラチェット機構を有している。ラチェット部材5の縦リブ5eは、本体筒2と操作筒3とが相対回転される際に螺子筒4に回転方向に係合して、螺子筒4とラチェット部材5とが一定回転量A1のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する。ラチェット機構は、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転を規制すると共に、本体筒2と操作筒3とが一方向に相対回転される場合であって螺子筒4とラチェット部材5との相対回転が縦リブ5eで規制された後には、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転を許容する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布材を押し出して使用する塗布材押出容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の塗布材押出容器としては、例えば特許文献1に記載されているように、容器前部と、容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転されると、容器内に配設された移動体が前進し、容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して容器先端の開口部から吐出させるものが知られている。このような塗布材押出容器では、例えば使用後において容器前部と容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した移動体が一定量のみ後退する。これにより、充填領域内の塗布材が膨張した場合に当該塗布材が開口部から漏出することが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−130438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記の塗布材押出容器では、第一の螺合部と第二の螺合部とを利用(つまり、複数の螺合部を利用)しており、第一の螺合部の螺合作用を停止させることで、移動体の一定量のみの後退を実現させている。この点、近年の塗布材押出容器においては、構造の簡易化が望まれており、例えば螺合部が少ない容器構造が求められている。また、複数の螺合部によって一定量のみの後退を実現しようとすると、例えば螺合部の螺子山は製造困難な3次元空間曲線(螺旋形状)を呈するため、移動体を厳密に一定量だけ後退させることが困難になるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能な塗布材押出容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る塗布材押出容器は、容器前部と、容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転されると、容器内に配設された移動体が前進し、容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して容器先端の開口部から吐出させ、容器前部と容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した移動体が一定量のみ後退する塗布材押出容器であって、容器前部と容器後部との一方向の相対回転を許容すると共に、容器前部と容器後部との他方向の相対回転を一定量に対応する一定回転量のみ許容する回転許容手段を備え、回転許容手段は、容器前部に対し一定回転量のみ相対回転可能な筒部材と、筒部材と容器後部との相対回転を制御する回転制御機構と、を有し、筒部材は、容器前部と筒部材とが相対回転される際に容器前部に回転方向に係合して、容器前部と筒部材とが一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する係合部を含み、回転制御機構は、筒部材と容器後部との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって容器前部と筒部材との相対回転が係合部で規制された後には、筒部材と容器後部との相対回転を許容すること、を特徴とする。
【0007】
この本発明の塗布材押出容器では、容器前部と容器後部との相対回転を、回転許容手段によって一方向には許容すると共に他方向には一定回転量のみ許容することで、移動体を前進及び一定量のみ後退させることができる。
すなわち、例えば、初期状態から容器前部と容器後部とを一方向に相対回転すると、回転制御機構により筒部材と容器後部との相対回転が規制され、容器前部に対し筒部材が容器後部とともに一定回転量だけ相対回転され、その結果、移動体が一定量前進する。そして、引き続き一方向に相対回転すると、係合部が容器前部に回転方向に係合して筒部材と容器前部との相対回転が規制されたるものの、回転制御機構により筒部材と容器後部との相対回転が許容されるため、容器前部及び筒部材に対し容器後部が相対回転され、その結果、移動体の前進が継続する。
一方、移動体の前進後に容器前部と容器後部とを他方向に相対回転すると、回転制御機構により筒部材と容器後部との相対回転が規制され、容器前部に対し筒部材が容器後部とともに一定回転量相対回転され、その結果、前進した移動体が一定量後退する。そして、引き続き他方向に相対回転しようとすると、係合部が容器前部に回転方向に係合して筒部材と容器前部との相対回転が規制され、その結果、回転制御機構で筒部材と容器後部との相対回転が規制されていることから、容器前部と容器後部との相対回転が規制されてこれらが相対回転不能となる。従って、移動体はそれ以上に後退せず、その結果、移動体は一定量のみ後退することとなる。
以上のように、本発明では、例えば複数の螺合部を利用せずに移動体を前進及び一定量のみ後退させることができ、よって、移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能となる。
【0008】
また、回転制御機構は、筒部材に設けられた一方のラチェット歯と、容器後部に設けられた他方のラチェット歯と、を含んで構成されたラチェット機構であり、一方及び他方のラチェット歯は、回転方向に係合して筒部材と容器後部との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって容器前部と筒部材との相対回転が係合部で規制された後において、筒部材と容器後部とが所定回転力以上の回転力で相対回転されると、回転方向の係合及び係合解除を繰り返して筒部材と容器後部との相対回転を許容することが好ましい。この場合、移動体の前進の際、一方及び他方のラチェット歯の係合及び係合解除の度に、使用者にクリック感を付与することができる。
【0009】
また、本発明に係る塗布材押出容器は、容器前部と、容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転されると、容器内に配設された移動体が前進し、容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して容器先端の開口部から吐出させ、容器前部と容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した移動体が一定量のみ後退する塗布材押出容器であって、容器前部と容器後部との一方向の相対回転を許容すると共に、容器前部と容器後部との他方向の相対回転を一定量に対応する一定回転量のみ許容する回転許容手段を備え、回転許容手段は、容器後部に対し一定回転量のみ相対回転可能な筒部材と、容器前部と筒部材との相対回転を制御する回転制御機構と、を有し、筒部材は、筒部材と容器後部とが相対回転される際に容器後部に回転方向に係合して、筒部材と容器後部とが一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する係合部を含み、回転制御機構は、容器前部と筒部材との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって筒部材と容器後部との相対回転が係合部で規制された後には、容器前部と筒部材との相対回転を許容すること、を特徴とする。
【0010】
この本発明の塗布材押出容器においても、上記と同様に、例えば複数の螺合部を利用せずに移動体を前進及び一定量のみ後退させることができ、よって、移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能となる。
【0011】
また、回転制御機構は、筒部材に設けられた一方のラチェット歯と、容器前部に設けられた他方のラチェット歯と、を含んで構成されたラチェット機構であり、一方及び他方のラチェット歯は、回転方向に係合して容器前部と筒部材との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって筒部材と容器後部との相対回転が係合部で規制された後において、容器前部と筒部材とが所定回転力以上の回転力で相対回転されると、回転方向の係合及び係合解除を繰り返して容器前部と筒部材との相対回転を許容することが好ましい。この場合、上記と同様に、移動体の前進の際、一方及び他方のラチェット歯の係合及び係合解除の度に、使用者にクリック感を付与することができる。
【0012】
このとき、回転制御機構は、一方及び他方のラチェット歯の係合及び係合解除における緩衝材として機能する軟質部を含むことが好ましい。この場合、生じるクリック感の音質を軟質部により重厚なものにすること(低音化)が可能となる。
【0013】
また、回転制御機構は、筒部材と一体又は別体に設けられ一方及び他方のラチェット歯に軸線方向の付勢力を与えるバネ部を含む場合がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗布材押出容器の初期状態を示す縦断側面である。
【図2】図1の塗布材押出容器において移動体の前進限の状態を示す縦断側面図である。
【図3】図1の塗布材押出容器を一部断面化して示す分解斜視図である。
【図4】図1の塗布材押出容器の操作筒を示す一部断面斜視図である。
【図5】図1の塗布材押出容器の螺子筒を示す斜視図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す斜視図である。
【図8】(a)は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す正面図、(b)は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す左側面図である。
【図9】図1の塗布材押出容器のラチェット部材を説明するための図1のIX−IX線に沿った断面図である。
【図10】図1の塗布材押出容器の充填部材を示す分解斜視図である。
【図11】(a)は図1の塗布材押出容器におけるペン先部材を示す正面図、(b)は図1の塗布材押出容器におけるペン先部材を示す底面図である。
【図12】(a)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の変形例を示す正面図、(b)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の変形例を示す左側面図である。
【図13】図1の塗布材押出容器のラチェット部材の変形例を説明するための図1のIX−IX線に対応する断面図である。
【図14】図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の他の変形例を示す斜視図である。
【図15】(a)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の他の変形例を示す正面図、(b)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の他の変形例を示す左側面図である。
【図16】図1の塗布材押出容器のラチェット部材の他の変形例を説明するための図1のIX−IX線に対応する断面図である。
【図17】図1の塗布材押出容器のラチェット部材及び螺子筒の変形例を説明するための図1のIX−IX線に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係る塗布材押出容器の初期状態を示す縦断側面、図2は図1の塗布材押出容器において移動体の前進限の状態を示す縦断側面図、図3は図1の塗布材押出容器を一部断面化して示す分解斜視図である。なお、図2では、図1の縦断面位置を90°異なる位置とした縦断面図とされている。図1〜3に示すように、本実施形態の塗布材押出容器100は、その内部に充填した塗布材Mを使用者の操作により適宜吐出する(押し出す)ものである。
【0018】
塗布材Mとしては、例えば、アイライナー、アイカラー、アイシャドウ、アイブロー、リップグロス、リップ、リップライナー、チークカラー、美容液、美容スティック、洗浄液、クレンジングオイル、ネールエナメル、ネールケア溶液、ネールリムーバー、マスカラ、アンチエイジング、ヘアーカラー、頭髪用塗布材、オーラルケア、マッサージオイル、角栓ゆるめ液、ファンデーション、コンシーラー、スキンクリーム、筆記用具等のインク、医薬品等を始めとした種々の液状、ゼリー状、ジェル(ゲル)状、ペースト状、軟質状、ムース状、練り状、泥状、半固形状、軟固形状、固形状等のものを用いることが可能である。また、塗布材Mに対し、顔料、油剤、ワックス等に加え、揮発性溶剤(例えば、シクロペンタシロキサン等のシリコン油や、イソドデカン、イソヘキサデカン等の炭化水素油)を配合することにより、その持ちのよさを高めることができる。
【0019】
また、塗布材Mとしては、粘度又は硬度が高くて圧縮性が高いジェル状や半固形状のものを用いるのが好適であり、特に好ましいとして0.1N〜0.2N程度の硬度を有する塗布材Mを用いることが可能である。この塗布材Mの硬度は、化粧品において硬度を計るために使用される一般的な測定方法により求められるものである。ここでは、例えばFUDOH RHEO METER[RTC-2002D.D](株式会社レオテック社製)を測定器として用い、雰囲気温度25℃条件下にてφ3mmの鋼棒を6cm/minの速度で塗布材Mに深さ10mm程度挿入したときに当該塗布材Mに生じるピーク時の力(強度)を硬度(針入度)としている。
【0020】
この塗布材押出容器100は、塗布材Mが充填される充填領域1xを内部に備えた先筒である充填部材1と、その前半部に充填部材1の後半部を内挿して当該充填部材1を軸線方向(前後方向)及び軸線回り回転方向(以下、単に「回転方向」ともいう)に係合し一体となるように連結する本体筒2と、この本体筒2の後端部に相対回転可能にして軸線方向に連結する操作筒3と、を外形構成として具備している。なお、充填部材1及び本体筒2が容器前部を構成し、操作筒3が容器後部を構成する。また、「軸線」とは、塗布材押出容器100の前後に延びる中心線を意味する(以下、同じ)。
【0021】
この塗布材押出容器100は、その内部に、本体筒2(充填部材1でも可)と操作筒3との相対回転により軸線方向に移動する移動体6と、移動体6の前端(先端)部に装着されて充填領域1xの後端を形成するピストン7と、当該相対回転による移動体6の移動を可能とする螺合部材としての螺子筒4と、当該螺子筒4に対し一定回転量のみ相対回転可能なラチェット部材(筒部材)5と、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転を制御するラチェット機構(回転制御機構)8と、を概略備えている。
【0022】
本体筒2は、円筒状に構成され、その軸線方向中央部の内周面に、充填部材1及び螺子筒4を回転方向に係合するためのものとして、周方向に多数の凹凸状が並設されて当該凹凸状が軸線方向に所定長延びるローレット2aを有している。また、本体筒2の先端部の内周面には、充填部材1を軸線方向に係合するための環状突部2bが設けられている。本体筒2の後部側の内周面には、操作筒3を軸線方向に係合するためのものとして、周方向に沿って延びる突部2cが形成されている。また、本体筒2の内周面において突部2cより前側には、螺子筒4を軸線方向に係合するためのものとして、周方向に沿って延びる突部2dが形成されている。
【0023】
図4は、図1の塗布材押出容器の操作筒を示す一部断面斜視図である。図4に示すように、操作筒3は、有底円筒状に構成され、その前端側に外径が小径とされる前端筒部3aを備え、この前端筒部3aの外周面には、本体筒2の突部2cに軸線方向に係合するための環状溝部3bが設けられている。また、操作筒3の底部中央には、軸体3cが立設されている。軸体3cは、円柱体の外周面に軸線方向に延びる突条3dを複数有する横断面(軸線方向と直交する断面)非円形形状とされ、この突条3dは、移動体6の回止め部の一方を構成する。
【0024】
また、操作筒3は、その内周面に、底部から先端側に向かって延びる突条3eを周方向八等配の位置に備えている。突条3eの先端部は、ラチェット機構8を構成するラチェット歯8aとされる。これらラチェット歯8aの先端面は、その周方向一方側(本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転したときにラチェットアーム52が当接する側)に行くに従い突出高さが低くなるよう軸線方向の直交面に対し傾斜している。図1に示すように、この操作筒3は、その前端筒部3aから本体筒2に内挿され、その環状溝部3bが本体筒2の突部2cに係合することで、本体筒2に相対回転可能にして軸線方向に連結され装着されている。
【0025】
図5は図1の塗布材押出容器の螺子筒を示す斜視図、図6は図5のVI−VI線に沿った断面図である。図5,6に示すように、螺子筒4は、段付き円筒状に構成され、外径大径部4aと、段差部4pを介してこれより前側の外径小径部4bと、を備えている。この螺子筒4では、前方から後方に行くに従って、その内径が外径に倣うよう段付き状に拡径されていると共に、外径大径部4aの後端部4xの内径がさらに段付き状に拡径されている。外径大径部4aの外周面には、周方向の複数の位置に、本体筒2のローレット2aに回転方向に係合するための突条4cが形成されている。また、外径大径部4aの後端部4xの外周面には、本体筒2の突部2dに軸線方向に係合するための環状凸部4dが形成されている。
【0026】
外径小径部4bの内周面には、螺合部9の一方を構成する雌螺子4eが設けられている。ここでの螺合部9のピッチは、細ピッチが採用されており、例えば0.4mmとされている。この外径小径部4bの外周面において前端部には、充填部材1(図1参照)に近接して雌螺子4eの内径が拡がるのを阻止するための鍔部4yが設けられている。また、外径大径部4a及び外径小径部4bの前端部には、径方向に貫通し且つ軸線方向に所定長延在するスリット4fが対向するように一対形成されている。
【0027】
また、外径大径部4aの後端部4xの内周面には、周方向に所定幅を有して径方向内側に突出する縦リブ(リブ)4gが設けられている。この縦リブ4gは、ラチェット部材5の縦リブ5e(後述)に係合して係止し、当該ラチェット部材5の回転可能範囲を規制(制限)する係合部ひいては係止部として機能するものである。縦リブ4gは、軸線方向に沿って後端部4xの前端から後端まで延在している。ここでの縦リブ4gは、後端部4xの内周面における周方向の任意位置に1つ設けられている。また、縦リブ4gの突出高さ位置は、外径大径部4aの後端部4x以外の内周面と同程度又は当該内周面よりも低くなっている。
【0028】
図1に示すように、この螺子筒4は、本体筒2に内挿され、その環状凸部4dが本体筒2の突部2dに係合すると共に、その突条4cが本体筒2のローレット2aに係合することで、本体筒2に軸線方向及び回転方向に係合し一体となるよう装着されている。
【0029】
図7は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す斜視図、図8(a)は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す正面図、図8(b)は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す左側面図(前方から見た図)、図9は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を説明するための図1のIX−IX線に沿った断面図である。図7,8に示すように、ラチェット部材5は、樹脂による射出成形品とされており、略円筒状に構成されている。ラチェット部材5の後端面には、ラチェット機構8を構成するものとして操作筒3のラチェット歯8aに係合するラチェット歯8bが、周方向に沿って複数設けられている。ここでのラチェット歯8bは、ラチェット部材5の後端面において周方向十六等配の位置に突設されている。
【0030】
これらラチェット歯8bは、周方向に沿って鋸歯状(楔状)を成して後端面から突出している。具体的には、ラチェット歯8bにおける周方向一方側(本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転したときにラチェット歯8aと当接する側)の側面8b1は、周方向に山型になるよう後端面に対し傾斜している。一方、ラチェット歯8bにおける周方向他方側(本体筒2と操作筒3とを他方向に相対回転したときにラチェット歯8aと当接する側)の側面8b2は、後端面に直交し軸線方向に沿って延びるよう後端面に立設されている。
【0031】
このラチェット部材5の前端部における周壁には、略螺旋状のスリット5aが形成され、これにより、ラチェット部材5の前端部は、ラチェット歯8bをラチェット歯8a側である後方へ向けて付勢するバネ部5bとして機能する。また、ラチェット部材5の外周面において後側には、円環状の鍔部5cが設けられている。また、この鍔部5cと操作筒3の前端面とにより挟み込むように、OリングR1が配置されている(図1参照)。
【0032】
また、ラチェット部材5の外周面における鍔部5cの後側には、OリングR1を装着するためのものとして、環状に延在するOリング用溝5dが鍔部5cに連なるよう設けられている。OリングR1は、ラチェット機構8による後述のクリック感に重厚感を付与するためのものであり、ラチェット歯8a,8bの係合及び係合解除における緩衝材(クッション)として機能する環状弾性体(軟質部)として機能している。また、ラチェット部材5の外周面の鍔部5cの前側には、周方向に所定幅を有して径方向外側に突出する縦リブ(リブ)5eが、鍔部5cに連なるよう設けられている。
【0033】
縦リブ5eは、螺子筒4の縦リブ4gに係合して係止し、ラチェット部材5の回転可能範囲を規制(制限)する係合部ひいては係止部として機能するものである。縦リブ5eは、軸線方向に沿って所定長延在している。ここでの縦リブ4gは、ラチェット部材5の外周面における周方向の任意位置に、バネ部5bの後側位置から鍔部5cまで延在するよう1つ設けられている。
【0034】
図1に示すように、このラチェット部材5は、その前端面が螺子筒4の段差部4pに当接されるようにして螺子筒4の外径大径部4aに収容され、ラチェット部材5を回転させた際にその縦リブ5eが螺子筒4の縦リブ4gに回転方向に係合可能となっている。具体的には、図1,9に示すように、ラチェット部材5は、縦リブ4g,5eによって螺子筒4及びラチェット部材5が一定回転量A1のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転が規制された状態で、螺子筒4に組み付けられている。
【0035】
すなわち、ラチェット部材5は、螺子筒4に対し一定回転量A1のみ相対回転可能に装着されており、縦リブ4g,5eの周方向における間隔が最大で一定回転量A1となっている。一定回転量A1は、例えば、塗布材Mの粘度又は硬度、塗布材Mの温度変化、螺合部9のピッチ、充填領域1xの内径等に基づいて設定されており、ここでは好ましいとして、約330°とされている。
【0036】
そしてこの状態で、ラチェット部材5は、そのラチェット歯8bが操作筒3の突条3eのラチェット歯8aに係合すると共に、当該突条3eと段差部4pとの協働により軸線方向に挟み付けられ、これにより、そのバネ部5bによる付勢力(弾性力)が生じてラチェット歯8bが後方側へ付勢され、ラチェット歯8a,8bがクリック係合の状態となっている。このとき、ラチェット部材5のOリング用溝5dにOリングR1が嵌め込まれ、軸線方向における鍔部5cの後面と操作筒3の前端面との間にOリングR1が介在されている。
【0037】
図1〜3に戻り、移動体6は、円筒状に構成され、その前端部より後側から後端部に亘る外周面に、螺合部9の他方を構成する雄螺子6bを備えている。また、移動体6の内周面には、周方向に沿って六等配の位置に、径方向内側に突出するように配置され軸線方向に延びる突条6cが設けられ、この突条6cが、移動体6の回止め部の他方を構成する。この移動体6は、操作筒3の軸体3cに外挿されると共に螺子筒4に内挿され、その雄螺子6bが螺子筒4の雌螺子4eと螺合している。これと共に、移動体6は、その突条6cが軸体3cの突条3d、3d間に係合し、操作筒3に軸線方向移動可能にして回転方向に係合し装着されている。
【0038】
ピストン7は、塗布材Mの色調とは異なる色調(例えば、白色)を有するTPEE(ポリエステル系エラストマー)、TPU(ポリウレタン系エラストマー)、PP(ポリプロピレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)等で成形され、その後端面に凹設された凹部7aを有している。凹部7aの内周面には、移動体6に対し軸線方向に所定長移動可能にして係合する環状突部7bが設けられている。このピストン7は、移動体6の前端部に外挿され、その環状突部7bが移動体6に軸線方向に係合することで、移動体6に対し軸線方向移動可能(所定の範囲内を移動可能)にして装着されている。
【0039】
図10は、図1の塗布材押出容器の充填部材を示す分解斜視図である。図1,10に示すように、充填部材1は、例えば、揮発性溶剤の耐透過性に優れたポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCTA)、ポリプロピレン(PP)等の射出成形プラスチックで形成されており、外囲を構成する外側充填筒10と、この外側充填筒10の内側で充填領域1xを画設する内側充填筒11と、充填部材1の先端部を構成し塗布材Mを塗布するためのペン先部材12と、を含んで構成されている。
【0040】
外側充填筒10は、着色材料(例えば、黒色)で形成されており、円筒状の本体部10aと、当該本体部10aの前側に連続するテーパ部10bと、を有している。本体部10aは、その外周面において軸線方向中央に、本体筒2の環状突部2bに軸線方向に係合する環状凹部10cを有している。また、本体部10aは、その外周面の環状凹部10cの前側に、本体筒2の前端面に当接する円環状の鍔部10dが設けられている。この本体部10aの外周面において後端部には、本体筒2のローレット2aに回転方向に係合するものとして、周方向に多数の凹凸状が並設されて当該凹凸状が軸線方向に所定長延びるローレット10eが設けられている。
【0041】
また、本体部10aは、塗布材Mの充填時に当該塗布材Mの充填された位置を確認すると共に内側充填筒11を係合するためのものとして、その後端部の周壁を断面矩形状で貫通する貫通孔から成る窓10fを有している。テーパ部10bは、先細りの錐台筒状を呈し、横断面外形が扁平円形状とされている。テーパ部10bの前端部には、断面扁平円形状の開口10gが形成されている。
【0042】
内側充填筒11は、透明材料で形成され、その内部の充填領域1xにおける塗布材Mが透けて見えるような光透過性を有している。この内側充填筒11は、円筒状の本体部11aと、当該本体部11aの前側に連続するテーパ部11bと、当該テーパ部11bの前側に段差部11cを介して連続する前端部11dと、を有している。
【0043】
本体部11aは、組付けの際に充填領域1x内のエアを外部へ排出するためのエア排出孔11eを有している。エア排出孔11eは、本体部11aの後端部の周壁において互いに対向する位置に、断面円形状で貫通するよう一対形成されている。本体部11aの外周面におけるエア排出孔11eの後側には、外側充填筒10の窓10fに軸線方向に係合する凸部11fが設けられている。また、本体部11aの外周面におけるエア排出孔11eの前側には、OリングR2を装着するためのものとして、環状に延在するOリング用溝11gが設けられている。OリングR2は、充填部材1の気密性を高めて塗布材Mの外部への透過を防止する環状弾性体(軟質部)として機能している。
【0044】
テーパ部11bは、横断面外径が扁平円形状とされた先細りの錐台筒状を呈している。前端部11dは、横断面外径が扁平円形状とされた筒状を呈している。図1に示すように、この内側充填筒11は、外側充填筒10に対し内挿されて装着されている。このとき、内側充填筒11のOリング用溝11gにOリングR2が嵌め込まれており、これにより、外側充填筒10の内周面と内側充填筒11の外周面との間の後端側がOリングR2で封止され気密化されている。
【0045】
図11(a)は図1の塗布材押出容器におけるペン先部材を示す正面図、図11(b)は図1の塗布材押出容器におけるペン先部材を示す底面図である。図11に示すように、ペン先部材12は、塗布材Mを塗布するためのものであり、軟質材で形成されている。軟質材としては、例えば、加硫により加熱し成形する熱硬化性の一般的なゴムや、プラスチックの一種であって熱により可塑化させ金型に流し込んで成形する熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0046】
一般ゴムとしては、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、シリコンゴム(Si)が主として挙げられる。その中でも、特にニトリルゴムは、前述の揮発性溶剤に対する耐油性に優れている。また、熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ウレタン系エラストマー(TPU)が主として挙げられる。中でも、ウレタン系エラストマーにおいては、ハードセグメントがポリウレタンでソフトセグメントがポリエステルタイプ又はポリエーテルタイプの2種類の何れを用いることができ、塗布材Mに対しては、ソフトセグメントがポリエーテルタイプのものが特に適している。
【0047】
このペン先部材12は、好ましいとして、JIS K 6253で規定されているタイプAデュロメータによる硬さが30〜70とされている。ペン先部材12は、先端側に尖形のペン先13と、ペン先13の基端側に段差部14を介して連続する基端部16と、を含んでいる。
【0048】
ペン先13は、横断面外形が扁平円で且つ側方視において刃状に形成されている。ここでの横断面外形の扁平円は、図11(a)の上下方向が長軸方向とされていると共に、図11(b)の上下方向が短軸方向とされている。このペン先13では、その先端面により、使用者の肌等の塗布対象に当接される塗布面Sが構成されている。塗布面Sは、前側に膨み且つ前後に細長の扁平円状曲面とされ、その先端には、頂点Pが形成されている。
【0049】
また、ペン先13の両側面において塗布面Sの外縁から所定長基端側に亘る領域には、塗布面S側に先細りとなるよう傾斜するテーパ面17が形成されている。ペン先13の軸線位置には、軸線方向に沿って延在する断面円形の貫通孔18が形成されている。この貫通孔18における塗布面Sの開口部分は、塗布材Mを吐出するための開口部18aを構成する。
【0050】
基端部16は、その横断面外形がペン先13よりも大径とされた扁平円形状の筒状を呈している。この基端部16の外周面において前端から中央に亘る領域には、上記外側充填筒10のテーパ部10bに係合するものとして、先細りとなるよう傾斜するテーパ面19が形成されている。
【0051】
図1,10に示すように、このペン先部材12は、その基端部16が内側充填筒11の前端部11dに外挿されることで、内側充填筒11に対し回転方向に係合されて密着されている。この状態で、ペン先部材12は、そのペン先13が外側充填筒10の開口10gに内挿されることで、外側充填筒10に対し回転方向に係合されて装着されている。つまり、まずペン先部材12を内側充填筒11に組み付け、これを外側充填筒10に組み付けることで、外側充填筒10、内側充填筒11及びペン先部材12が充填部材1として互いに装着される。
【0052】
このとき、このペン先部材12は、その段差部14が外側充填筒10のテーパ部10bの前端部に軸線方向に係合されていると共に、その基端部16の後端面が内側充填筒11の段差部11cに軸線方向に係合され、これにより、外側充填筒10及び内側充填筒11により軸線方向に挟持され保持されている。
【0053】
そして、塗布材Mが充填された充填部材1にあっては、その後部側から本体筒2に内挿され、その外側充填筒10の環状凹部10cが本体筒2の環状突部2bに係合すると共に、その外側充填筒10のローレット10eが本体筒2のローレット2aに係合することで、本体筒2に対し軸線方向及び回転方向に係合されて装着され、当該本体筒2と一体化される。これと共に、充填部材1は、その内側充填筒11の後端部に、ピストン7が気密に密着するようにして内挿されて装着される。このとき、上述したように、内側充填筒11の後端部にエア排出孔11eが設けられていることから、充填領域1x内の塗布材Mとピストン7との間にエアが存在する場合でも、当該エアをエア排出孔11eを介して適度に逃がすことができ、充填領域1xの内圧が高まるのを抑制することができる。
【0054】
また、この充填部材1は、その外側充填筒10に前端側からキャップC1が着脱可能に取り付けられる。さらに、充填部材1は、そのペン先部材12の開口部18aに栓C2(図3参照)が嵌挿されて着脱可能に取り付けられ、これにより、充填領域1xが密閉(気密化)される。また、充填部材1の外側充填筒10の内面に螺子筒4の鍔部4y(図6参照)が近接するように螺子筒4が外側充填筒10に内挿されており、これにより、雌螺子4eの内径が拡がることが阻止されている。
【0055】
このような充填部材1において充填領域1xに塗布材Mを充填する充填方法として、まず、内側充填筒11の先端側を充填用栓で塞いで当該先端側を下向きとし、この状態で充填領域1xに塗布材Mを後側から適量注入する。その後、充填用栓を外すと共に、この内側充填筒11にペン先部材12を装着し外側充填筒10を組み込むことで、塗布材Mの充填が完了する。また、塗布材Mの粘度や充填条件によっては、上記充填用栓を使用しなくても、充填時に内側充填筒11の先端から内部の空気が適度に排出されて気泡が無く良好に充填できる。
【0056】
或いは、他の充填方法として、内側充填筒11にペン先部材12を装着して外側充填筒10に組み込み、ペン先部材12の先端側を栓C2で塞いだ後にキャップC1を外側充填部材1に取り付ける。続いて、ペン先部材12の先端側を下向きとし、この状態で充填領域1xに塗布材Mを後方から適量注入する。そして、当該注入後に速やかに、この充填部材1に対し組付け後の本体筒2をピストン7が内側充填筒11の後方から密着して内挿するよう装着し、これにより、塗布材Mの充填が完了する。この場合、注入後すぐに充填領域1xを密封状態にできるため、揮発性の高い塗布材Mの揮発を最小限に抑えることが可能となる。また、消費者の手元に届いてからキャップC1及び栓C2が取り外されて使用されることになるため、密封状態を一層維持することが可能となる。
【0057】
以上のように構成され図1に示す初期状態の塗布材押出容器100にあっては、使用者によりキャップC1及び栓C2が取り外され、本体筒2と操作筒3とが繰出し方向である一方向に相対回転されると、ラチェット機構8のラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b1に回転方向に係合することにより、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転が規制されてこれらが同期回転する。これにより、本体筒2に一体となるよう装着された螺子筒4に対し、ラチェット部材5が操作筒3とともに相対回転される。
【0058】
その結果、螺子筒4の縦リブ4gがラチェット部材5に対し周方向一方側に回転移動し、縦リブ5eに対する縦リブ4gの周方向位置関係が一定回転量A1内において変化する。これと共に、螺子筒4の雌螺子4e及び移動体6の雄螺子6bから成る螺合部9と操作筒3の突条3d及び移動体6の突条6cから成る回止め部との協働により、移動体6及びピストン7が前進する。
【0059】
その後、引き続き本体筒2と操作筒3とが一方向に相対回転されて一定回転量A1だけ相対回転されたとき、移動体6及びピストン7は一定量前進することとなる。これに併せ、縦リブ5eは、縦リブ4gに対し一定回転量A1だけ回転移動して回転方向に係合(係止)することとなり、螺子筒4とラチェット部材5とは、その相対回転が規制されてそれ以上の相対回転が不能とされる。つまり、縦リブ5eは、縦リブ4gに回転方向に係合して螺子筒4ひいては本体筒2に回転方向に係合し、ラチェット部材5は、螺子筒4ひいては本体筒2に対し一定回転量A1のみ相対回転される。
【0060】
そして、縦リブ4g,5eの係合前よりも大きい力で本体筒2と操作筒3とが一方向にさらに相対回転され、ラチェット部材5と操作筒3との間に所定回転力以上の回転力が加わると、ラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b1を駆け上がるように摺動してラチェット歯8bを乗り越え、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転が許容(いわゆる「空回転」)される。その結果、螺子筒4及びラチェット部材5に対し操作筒3が一方向に相対回転し、螺合部9の螺合作用により移動体6及びピストン7の前進が継続し、充填部材1の充填領域1xに満たされた塗布材Mがペン先部材12の開口部18aから吐出される。
【0061】
また、このように本体筒2と操作筒3とが一方向にさらに相対回転されたとき、ラチェット部材5のバネ部5bが軸線方向に圧縮され、かかる圧縮によるバネ部5bの弾性力でラチェット歯8bが軸線方向後側に付勢されることから、ラチェット歯8a,8bの係合及び係合解除(噛合及び噛合解除)が繰り返され、かかる係合及び係合解除の度に使用者にクリック感が付与される。
【0062】
なお、前述のように、軸線方向におけるラチェット部材5と操作筒3との間にOリングR1が介在するよう設けられていることから、ラチェット歯8a,8bの係合及び係合解除の際にOリングR1が緩衝材として働いている。すなわち、ラチェット歯8a,8bが係合解除されてから、まず、ラチェット部材5の鍔部5cと操作筒3の前端面とがOリングR1に当接し、その後に、ラチェット歯8a,8bが再係合する。そのため、クリック感の発生源でもあるラチェット歯8a,8b同士の衝突力(突き当たり)を緩やかなものにすることができ、生じるクリック感の音量を小さくしつつ音質を重厚なものにすること(低音化)が可能となる。
【0063】
他方、例えば、移動体6の前進直後の塗布材押出容器100において、本体筒2と操作筒3とが繰戻し方向である他方向に相対回転されると、ラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b2に回転方向に係合することにより、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転が規制されてこれらが同期回転する。これにより、螺子筒4に対し、ラチェット部材5が操作筒3とともに相対回転される。その結果、螺合部9の螺合作用が働き移動体6及びピストン7が後退する。これと共に、螺子筒4の縦リブ4gは、ラチェット部材5に対し周方向他方側に回転移動し、縦リブ5eに対する周方向位置関係が一定回転量A1内において変化する。
【0064】
その後、引き続き本体筒2と操作筒3とが他方向に相対回転されて一定回転量A1だけ相対回転されたとき、移動体6及びピストン7は一定量後退することとなる。これに併せ、縦リブ5eは、縦リブ4gに対し一定回転量A1だけ回転移動して回転方向に係合(係止)することとなり、螺子筒4とラチェット部材5とは、その相対回転が規制されてそれ以上の相対回転が不能とされる。つまり、縦リブ5eは、縦リブ4gに回転方向に係合して螺子筒4ひいては本体筒2に回転方向に係合し、ラチェット部材5は、螺子筒4ひいては本体筒2に対し一定回転量A1のみ相対回転される。
【0065】
このとき、本体筒2と操作筒3とを引き続き他方向にさらに相対回転しようとしても、ラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b2により強固に係合(係止)され、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転が規制されて相対回転不能となっているため、本体筒2と操作筒3との相対回転も規制されてこれらが相対回転不能となる。従って、移動体6及びピストン7にあっては、それ以上後退できずに停止し、その結果、一定量のみ後退することとなる。
【0066】
なお、前述のように本体筒2と操作筒3との一方向の相対回転により塗布材Mがペン先部材12の開口部18aから吐出され、そして、最終的に塗布材Mを使い切るときには、内側充填筒11のテーパ部11bにピストン7が軸線方向に係合し、さらに螺合部9の螺合作用も終点を迎え、ピストン7の前進が停止する(移動体6及びピストン7が前進限に達する、図2参照)。
【0067】
以上、本実施形態では、移動体6の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能となる。これにより、例えば複数の螺合部を利用し、その一つの螺合部の螺合作用を停止させて移動体6を一定量後退させる構成を不要にでき、移動体6の一定量後退に係る構造に、製造困難な3次元空間曲線(螺旋形状)を呈する螺子山を用いる必要性を低減することができる。この点において、特に本実施形態では、移動体6を微妙な戻り量だけ後退させる場合に、当該後退を精度よく且つ容易に制御できるといえる。
【0068】
加えて、本実施形態では、例えばバネ等の弾性体の弾性力を利用して移動体6を一定量後退させる構成も不要にすることができる。粘度又は硬度が高い塗布材Mの場合には、弾性体を利用して移動体6を後退させようとしても、弾性体の弾性力では移動体6を後退できないおそれがあるため、この点において、一定量のみの後退を確実に実現するという上記効果は、特に顕著といえる。
【0069】
また、本実施形態では、例えば使用後において移動体6を一定量後退させることにより、充填領域1xの内圧を減圧し、これにより、保管時にて塗布材Mがその圧縮性及び温度変化等に起因して膨張し開口部18aから塗布材Mが垂れてしまうことを防止可能となる。
【0070】
また、本実施形態では、例えば使用時において、移動体6を前進させて必要量だけ塗布材Mを吐出した後に移動体6を一定量後退させることにより、充填領域1xの内圧を減圧し、これにより、使用中にて塗布材Mがその圧縮性及び温度変化等に起因して膨張し想定以上に開口部18aから塗布材Mが吐出してしまうことを防止可能となる。具体的には、例えば塗布材Mが加圧状態で吐出されるとき、塗布材Mが繰出時から時間をおいてじわじわと吐出することがあるが、このときに移動体6を一定量後退させると、当該塗布材Mをピタリと止めることができる。その結果、使用者は、ペン先13の塗布面Sを目のきわ等の塗布対象に押し当てて化粧料ライン等を好適に描画することができる。
【0071】
また、本実施形態では、上述したように、移動体6が一定量以上は後退しない構成とされているため、移動体6を戻し過ぎて充填領域1x内に開口部18からエアが入ってしまうのを防止することが可能となる。
【0072】
また、移動体6における一定量後退は、0.25mm、0.2mm又はそれ以下の少量の後退としても、上述した減圧効果を得ることができる。また、移動体6が一定量後退しない構成であると、塗布材Mの粘度又は硬度が高いほど塗布材Mが常に圧縮状態で保管されることになり好ましくないことから、本実施形態における移動体6の一定量後退は、その有効性(必要性)が高いといえる。ちなみに、本実施形態の「移動体6が後退する一定量」は、例えば下式(1)により算出することができる。
移動体が後退する一定量[mm]=螺合部の1ピッチの長さ[mm]×(ラチェット部材の
一定回転量[°]/360[°])−各部材間のクリアランス[mm] …(1)
【0073】
また、本実施形態では、上述したように、充填領域1xが外側充填筒10と内側充填筒11との2重構造で囲われており、特に、充填領域1xの後端部にあっては、外側充填筒10と内側充填筒11と本体筒2との3重構造で囲われている。従って、塗布材Mの外部への透過を抑制することができる。さらに、このように、充填領域1xの後端部が3重構造とされているため、使用者の把持によって体温が塗布材Mへ伝わるのを好適に抑制することもできる。これと共に、容器外の気温の変化にも、塗布材Mが影響され難いものとなる。
【0074】
また、本実施形態では、上述したように、外側充填筒10の内周面と内側充填筒11の外周面との間の後端側をOリングR2で密閉して好適に気密化することができ、塗布材Mの外部への透過を一層抑制することが可能となる。加えて、ペン先部材12の開口部18aに栓C2(図3参照)が取り付けられているため、充填領域1xの前端側を密閉して好適に気密化することが可能となる。
【0075】
ちなみに、外側充填筒10と内側充填筒11とは、2色異材質成形機により同時成形することができる。同様に、内側充填筒11とペン先部材12とは、2色異材質成形機により同時成形することができる。これらにより、塗布材押出容器100の製造簡易化が可能となる。また、本実施形態では、外側充填筒10の全部又は一部を透明にしてもよく、この場合、例えば使用時にキャップC1を取り外した際、塗布材Mの残量を容易に確認することができる。
【0076】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0077】
図12(a),(b)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の変形例を示す各図、図13は図1の塗布材押出容器のラチェット部材の変形例を説明するための断面図である。例えば図12に示すように、ラチェット部材5は、その外周面において縦リブ5eに対向する位置(周方向に180°離れた位置)に、当該縦リブ5eと同様な縦リブ5e’がさらに設けられていてもよい。つまり、ラチェット部材5の外周面において鍔部5cの前側には、互いに対向する一対の縦リブ5e,5e’が鍔部5cに連なるよう設けられていてもよい。
【0078】
この変形例に係るラチェット部材5にあっては、図13に示すように、縦リブ4g,5e,5e’によって螺子筒4及びラチェット部材5が一定回転量A2のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転が規制された状態で、螺子筒4に組み付けられている。換言すると、ラチェット部材5は、螺子筒4に対し一定回転量A2のみ相対回転可能に装着されており、縦リブ4g,5eの周方向における間隔、及び縦リブ4g,5e’の周方向における間隔が、最大で一定回転量A2となっている。一定回転量A2は、例えば、塗布材Mの粘度又は硬度、塗布材Mの温度変化、螺合部9のピッチ、充填領域1xの内径等に基づいて設定されており、ここでは好ましいとして、約150°とされている。
【0079】
図14,15(a),15(b)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の他の変形例を示す各図、図16は図1の塗布材押出容器のラチェット部材の他の変形例を説明するための断面図である。例えば図14,15に示すように、ラチェット部材5は、縦リブ5e(図7参照)に代えて縦リブ5e’’が設けられていてもよい。つまり、ラチェット部材5の外周面の鍔部5cの前側には、縦リブ5e’’が鍔部5cに連なるよう設けられていてもよい。縦リブ5e’’は、周方向に円弧状に所定長(所定角度)延びる幅で、バネ部5bの後側位置から鍔部5cまで延在するよう1つ設けられている。
【0080】
この他の変形例に係るラチェット部材5にあっては、図16に示すように、縦リブ4g,5e’’によって螺子筒4及びラチェット部材5が一定回転量A3のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転が規制された状態で、螺子筒4に組み付けられている。換言すると、ラチェット部材5は、螺子筒4に対し一定回転量A3のみ相対回転可能に装着されており、縦リブ4g,5e’’の周方向における間隔が、最大で一定回転量A3となっている。一定回転量A3は、例えば、塗布材Mの粘度又は硬度、塗布材Mの温度変化、螺合部9のピッチ、充填領域1xの内径等に基づいて設定されており、ここでは好ましいとして、約230°とされている。
【0081】
また、上記実施形態では、回転制御機構としてラチェット機構8を採用しているが、これに代えて、例えば螺子部の螺合作用を利用したものや、摩擦力を利用したものや、弾性力を利用したもの等の種々の機構を採用してもよい。この回転制御機構は、容器前部と筒部材との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって筒部材と容器後部との相対回転が係合部で規制された後にて容器前部と筒部材との相対回転を許容すればよい。
【0082】
また、上述した雄螺子及び雌螺子は、螺子山や螺子溝だけでなく、間欠的に配される突起群、又は螺旋状且つ間欠的に配される突起群のように螺子山や螺子溝と同様な働きをするものであってもよい。また、上記実施形態では、バネ部5bがラチェット部材5と一体に設けられているが、このバネ部5bは、ラチェット部材5と別体に設けられていてもよい。
【0083】
図17は図1の塗布材押出容器のラチェット部材及び螺子筒の変形例を説明するための断面図である。図17に示すように、この変形例に係る螺子筒4にあっては、その後端部4xの内周面において縦リブ4gに対向する位置(周方向に180°離れた位置)に、当該縦リブ4gと同様な縦リブ4g’がさらに設けられていてもよい。換言すると、螺子筒4の後端部4xの内周面には、互いに対向する一対の縦リブ4g,4g’が軸線方向に沿って後端部4xの前端から後端まで延在していてもよい。また、ラチェット部材5は、図12,13に示す変形例と同様に、その外周面において縦リブ5eに対向する位置に、上記縦リブ5e’がさらに設けられていてもよい。
【0084】
この場合、ラチェット部材5が螺子筒4に対し一定回転量A4のみ相対回転可能に装着されており、縦リブ4g,5eの周方向における間隔、及び縦リブ4g’,5eの周方向における間隔が、最大で一定回転量A4となっている。一定回転量A4は、例えば、塗布材Mの粘度又は硬度、塗布材Mの温度変化、螺合部9のピッチ、充填領域1xの内径等に基づいて設定されており、ここでは好ましいとして、約150°とされている。
【0085】
また、上記実施形態では、ラチェット部材5が螺子筒4に対し一定回転量のみ相対回転可能とされ、ラチェット機構8によりラチェット部材5と操作筒3との相対回転が制御されているが、ラチェット部材5が操作筒3に対し一定回転量のみ相対回転可能とされ、ラチェット機構8により螺子筒4とラチェット部材5との相対回転が制御されてもよい。この場合、本体筒2と操作筒3との相対回転の際にラチェット部材5の縦リブ5eが操作筒3に回転方向に係合し、ラチェット歯8a、8bが螺子筒4及びラチェット部材5に設けられ、OリングR1が軸線方向における螺子筒4とラチェット部材5との間に配設されることとなる。
【0086】
また、上記実施形態では、係合部として、ラチェット部材5にリブ5eを設けているが、これに限定されるものではなく、例えば凸部、凸条、凹部、溝でもよい。要は、係合部は、容器前部と容器後部とが相対回転される際に、容器前部に回転方向に係合して容器前部と筒部材とが一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する、又は、容器後部に回転方向に係合して筒部材と容器後部とが一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制するものであればよい。以上において、ラチェット部材5及びラチェット機構8が回転許容手段を構成する。
【符号の説明】
【0087】
1…充填部材(容器前部,容器)、1x…充填領域、2…本体筒(容器前部,容器)、3…操作筒(容器後部,容器)、5…ラチェット部材(筒部材,回転許容手段)、5b…バネ部、5e…縦リブ(係合部,リブ)、6…移動体、8…ラチェット機構(回転制御機構,回転許容手段)、8a…ラチェット歯、8b…ラチェット歯、18a…開口部、100…塗布材押出容器、M…塗布材、R1…Oリング(軟質部)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布材を押し出して使用する塗布材押出容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の塗布材押出容器としては、例えば特許文献1に記載されているように、容器前部と、容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転されると、容器内に配設された移動体が前進し、容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して容器先端の開口部から吐出させるものが知られている。このような塗布材押出容器では、例えば使用後において容器前部と容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した移動体が一定量のみ後退する。これにより、充填領域内の塗布材が膨張した場合に当該塗布材が開口部から漏出することが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−130438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記の塗布材押出容器では、第一の螺合部と第二の螺合部とを利用(つまり、複数の螺合部を利用)しており、第一の螺合部の螺合作用を停止させることで、移動体の一定量のみの後退を実現させている。この点、近年の塗布材押出容器においては、構造の簡易化が望まれており、例えば螺合部が少ない容器構造が求められている。また、複数の螺合部によって一定量のみの後退を実現しようとすると、例えば螺合部の螺子山は製造困難な3次元空間曲線(螺旋形状)を呈するため、移動体を厳密に一定量だけ後退させることが困難になるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能な塗布材押出容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る塗布材押出容器は、容器前部と、容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転されると、容器内に配設された移動体が前進し、容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して容器先端の開口部から吐出させ、容器前部と容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した移動体が一定量のみ後退する塗布材押出容器であって、容器前部と容器後部との一方向の相対回転を許容すると共に、容器前部と容器後部との他方向の相対回転を一定量に対応する一定回転量のみ許容する回転許容手段を備え、回転許容手段は、容器前部に対し一定回転量のみ相対回転可能な筒部材と、筒部材と容器後部との相対回転を制御する回転制御機構と、を有し、筒部材は、容器前部と筒部材とが相対回転される際に容器前部に回転方向に係合して、容器前部と筒部材とが一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する係合部を含み、回転制御機構は、筒部材と容器後部との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって容器前部と筒部材との相対回転が係合部で規制された後には、筒部材と容器後部との相対回転を許容すること、を特徴とする。
【0007】
この本発明の塗布材押出容器では、容器前部と容器後部との相対回転を、回転許容手段によって一方向には許容すると共に他方向には一定回転量のみ許容することで、移動体を前進及び一定量のみ後退させることができる。
すなわち、例えば、初期状態から容器前部と容器後部とを一方向に相対回転すると、回転制御機構により筒部材と容器後部との相対回転が規制され、容器前部に対し筒部材が容器後部とともに一定回転量だけ相対回転され、その結果、移動体が一定量前進する。そして、引き続き一方向に相対回転すると、係合部が容器前部に回転方向に係合して筒部材と容器前部との相対回転が規制されたるものの、回転制御機構により筒部材と容器後部との相対回転が許容されるため、容器前部及び筒部材に対し容器後部が相対回転され、その結果、移動体の前進が継続する。
一方、移動体の前進後に容器前部と容器後部とを他方向に相対回転すると、回転制御機構により筒部材と容器後部との相対回転が規制され、容器前部に対し筒部材が容器後部とともに一定回転量相対回転され、その結果、前進した移動体が一定量後退する。そして、引き続き他方向に相対回転しようとすると、係合部が容器前部に回転方向に係合して筒部材と容器前部との相対回転が規制され、その結果、回転制御機構で筒部材と容器後部との相対回転が規制されていることから、容器前部と容器後部との相対回転が規制されてこれらが相対回転不能となる。従って、移動体はそれ以上に後退せず、その結果、移動体は一定量のみ後退することとなる。
以上のように、本発明では、例えば複数の螺合部を利用せずに移動体を前進及び一定量のみ後退させることができ、よって、移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能となる。
【0008】
また、回転制御機構は、筒部材に設けられた一方のラチェット歯と、容器後部に設けられた他方のラチェット歯と、を含んで構成されたラチェット機構であり、一方及び他方のラチェット歯は、回転方向に係合して筒部材と容器後部との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって容器前部と筒部材との相対回転が係合部で規制された後において、筒部材と容器後部とが所定回転力以上の回転力で相対回転されると、回転方向の係合及び係合解除を繰り返して筒部材と容器後部との相対回転を許容することが好ましい。この場合、移動体の前進の際、一方及び他方のラチェット歯の係合及び係合解除の度に、使用者にクリック感を付与することができる。
【0009】
また、本発明に係る塗布材押出容器は、容器前部と、容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転されると、容器内に配設された移動体が前進し、容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して容器先端の開口部から吐出させ、容器前部と容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した移動体が一定量のみ後退する塗布材押出容器であって、容器前部と容器後部との一方向の相対回転を許容すると共に、容器前部と容器後部との他方向の相対回転を一定量に対応する一定回転量のみ許容する回転許容手段を備え、回転許容手段は、容器後部に対し一定回転量のみ相対回転可能な筒部材と、容器前部と筒部材との相対回転を制御する回転制御機構と、を有し、筒部材は、筒部材と容器後部とが相対回転される際に容器後部に回転方向に係合して、筒部材と容器後部とが一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する係合部を含み、回転制御機構は、容器前部と筒部材との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって筒部材と容器後部との相対回転が係合部で規制された後には、容器前部と筒部材との相対回転を許容すること、を特徴とする。
【0010】
この本発明の塗布材押出容器においても、上記と同様に、例えば複数の螺合部を利用せずに移動体を前進及び一定量のみ後退させることができ、よって、移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能となる。
【0011】
また、回転制御機構は、筒部材に設けられた一方のラチェット歯と、容器前部に設けられた他方のラチェット歯と、を含んで構成されたラチェット機構であり、一方及び他方のラチェット歯は、回転方向に係合して容器前部と筒部材との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって筒部材と容器後部との相対回転が係合部で規制された後において、容器前部と筒部材とが所定回転力以上の回転力で相対回転されると、回転方向の係合及び係合解除を繰り返して容器前部と筒部材との相対回転を許容することが好ましい。この場合、上記と同様に、移動体の前進の際、一方及び他方のラチェット歯の係合及び係合解除の度に、使用者にクリック感を付与することができる。
【0012】
このとき、回転制御機構は、一方及び他方のラチェット歯の係合及び係合解除における緩衝材として機能する軟質部を含むことが好ましい。この場合、生じるクリック感の音質を軟質部により重厚なものにすること(低音化)が可能となる。
【0013】
また、回転制御機構は、筒部材と一体又は別体に設けられ一方及び他方のラチェット歯に軸線方向の付勢力を与えるバネ部を含む場合がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動体の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗布材押出容器の初期状態を示す縦断側面である。
【図2】図1の塗布材押出容器において移動体の前進限の状態を示す縦断側面図である。
【図3】図1の塗布材押出容器を一部断面化して示す分解斜視図である。
【図4】図1の塗布材押出容器の操作筒を示す一部断面斜視図である。
【図5】図1の塗布材押出容器の螺子筒を示す斜視図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す斜視図である。
【図8】(a)は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す正面図、(b)は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す左側面図である。
【図9】図1の塗布材押出容器のラチェット部材を説明するための図1のIX−IX線に沿った断面図である。
【図10】図1の塗布材押出容器の充填部材を示す分解斜視図である。
【図11】(a)は図1の塗布材押出容器におけるペン先部材を示す正面図、(b)は図1の塗布材押出容器におけるペン先部材を示す底面図である。
【図12】(a)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の変形例を示す正面図、(b)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の変形例を示す左側面図である。
【図13】図1の塗布材押出容器のラチェット部材の変形例を説明するための図1のIX−IX線に対応する断面図である。
【図14】図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の他の変形例を示す斜視図である。
【図15】(a)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の他の変形例を示す正面図、(b)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の他の変形例を示す左側面図である。
【図16】図1の塗布材押出容器のラチェット部材の他の変形例を説明するための図1のIX−IX線に対応する断面図である。
【図17】図1の塗布材押出容器のラチェット部材及び螺子筒の変形例を説明するための図1のIX−IX線に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係る塗布材押出容器の初期状態を示す縦断側面、図2は図1の塗布材押出容器において移動体の前進限の状態を示す縦断側面図、図3は図1の塗布材押出容器を一部断面化して示す分解斜視図である。なお、図2では、図1の縦断面位置を90°異なる位置とした縦断面図とされている。図1〜3に示すように、本実施形態の塗布材押出容器100は、その内部に充填した塗布材Mを使用者の操作により適宜吐出する(押し出す)ものである。
【0018】
塗布材Mとしては、例えば、アイライナー、アイカラー、アイシャドウ、アイブロー、リップグロス、リップ、リップライナー、チークカラー、美容液、美容スティック、洗浄液、クレンジングオイル、ネールエナメル、ネールケア溶液、ネールリムーバー、マスカラ、アンチエイジング、ヘアーカラー、頭髪用塗布材、オーラルケア、マッサージオイル、角栓ゆるめ液、ファンデーション、コンシーラー、スキンクリーム、筆記用具等のインク、医薬品等を始めとした種々の液状、ゼリー状、ジェル(ゲル)状、ペースト状、軟質状、ムース状、練り状、泥状、半固形状、軟固形状、固形状等のものを用いることが可能である。また、塗布材Mに対し、顔料、油剤、ワックス等に加え、揮発性溶剤(例えば、シクロペンタシロキサン等のシリコン油や、イソドデカン、イソヘキサデカン等の炭化水素油)を配合することにより、その持ちのよさを高めることができる。
【0019】
また、塗布材Mとしては、粘度又は硬度が高くて圧縮性が高いジェル状や半固形状のものを用いるのが好適であり、特に好ましいとして0.1N〜0.2N程度の硬度を有する塗布材Mを用いることが可能である。この塗布材Mの硬度は、化粧品において硬度を計るために使用される一般的な測定方法により求められるものである。ここでは、例えばFUDOH RHEO METER[RTC-2002D.D](株式会社レオテック社製)を測定器として用い、雰囲気温度25℃条件下にてφ3mmの鋼棒を6cm/minの速度で塗布材Mに深さ10mm程度挿入したときに当該塗布材Mに生じるピーク時の力(強度)を硬度(針入度)としている。
【0020】
この塗布材押出容器100は、塗布材Mが充填される充填領域1xを内部に備えた先筒である充填部材1と、その前半部に充填部材1の後半部を内挿して当該充填部材1を軸線方向(前後方向)及び軸線回り回転方向(以下、単に「回転方向」ともいう)に係合し一体となるように連結する本体筒2と、この本体筒2の後端部に相対回転可能にして軸線方向に連結する操作筒3と、を外形構成として具備している。なお、充填部材1及び本体筒2が容器前部を構成し、操作筒3が容器後部を構成する。また、「軸線」とは、塗布材押出容器100の前後に延びる中心線を意味する(以下、同じ)。
【0021】
この塗布材押出容器100は、その内部に、本体筒2(充填部材1でも可)と操作筒3との相対回転により軸線方向に移動する移動体6と、移動体6の前端(先端)部に装着されて充填領域1xの後端を形成するピストン7と、当該相対回転による移動体6の移動を可能とする螺合部材としての螺子筒4と、当該螺子筒4に対し一定回転量のみ相対回転可能なラチェット部材(筒部材)5と、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転を制御するラチェット機構(回転制御機構)8と、を概略備えている。
【0022】
本体筒2は、円筒状に構成され、その軸線方向中央部の内周面に、充填部材1及び螺子筒4を回転方向に係合するためのものとして、周方向に多数の凹凸状が並設されて当該凹凸状が軸線方向に所定長延びるローレット2aを有している。また、本体筒2の先端部の内周面には、充填部材1を軸線方向に係合するための環状突部2bが設けられている。本体筒2の後部側の内周面には、操作筒3を軸線方向に係合するためのものとして、周方向に沿って延びる突部2cが形成されている。また、本体筒2の内周面において突部2cより前側には、螺子筒4を軸線方向に係合するためのものとして、周方向に沿って延びる突部2dが形成されている。
【0023】
図4は、図1の塗布材押出容器の操作筒を示す一部断面斜視図である。図4に示すように、操作筒3は、有底円筒状に構成され、その前端側に外径が小径とされる前端筒部3aを備え、この前端筒部3aの外周面には、本体筒2の突部2cに軸線方向に係合するための環状溝部3bが設けられている。また、操作筒3の底部中央には、軸体3cが立設されている。軸体3cは、円柱体の外周面に軸線方向に延びる突条3dを複数有する横断面(軸線方向と直交する断面)非円形形状とされ、この突条3dは、移動体6の回止め部の一方を構成する。
【0024】
また、操作筒3は、その内周面に、底部から先端側に向かって延びる突条3eを周方向八等配の位置に備えている。突条3eの先端部は、ラチェット機構8を構成するラチェット歯8aとされる。これらラチェット歯8aの先端面は、その周方向一方側(本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転したときにラチェットアーム52が当接する側)に行くに従い突出高さが低くなるよう軸線方向の直交面に対し傾斜している。図1に示すように、この操作筒3は、その前端筒部3aから本体筒2に内挿され、その環状溝部3bが本体筒2の突部2cに係合することで、本体筒2に相対回転可能にして軸線方向に連結され装着されている。
【0025】
図5は図1の塗布材押出容器の螺子筒を示す斜視図、図6は図5のVI−VI線に沿った断面図である。図5,6に示すように、螺子筒4は、段付き円筒状に構成され、外径大径部4aと、段差部4pを介してこれより前側の外径小径部4bと、を備えている。この螺子筒4では、前方から後方に行くに従って、その内径が外径に倣うよう段付き状に拡径されていると共に、外径大径部4aの後端部4xの内径がさらに段付き状に拡径されている。外径大径部4aの外周面には、周方向の複数の位置に、本体筒2のローレット2aに回転方向に係合するための突条4cが形成されている。また、外径大径部4aの後端部4xの外周面には、本体筒2の突部2dに軸線方向に係合するための環状凸部4dが形成されている。
【0026】
外径小径部4bの内周面には、螺合部9の一方を構成する雌螺子4eが設けられている。ここでの螺合部9のピッチは、細ピッチが採用されており、例えば0.4mmとされている。この外径小径部4bの外周面において前端部には、充填部材1(図1参照)に近接して雌螺子4eの内径が拡がるのを阻止するための鍔部4yが設けられている。また、外径大径部4a及び外径小径部4bの前端部には、径方向に貫通し且つ軸線方向に所定長延在するスリット4fが対向するように一対形成されている。
【0027】
また、外径大径部4aの後端部4xの内周面には、周方向に所定幅を有して径方向内側に突出する縦リブ(リブ)4gが設けられている。この縦リブ4gは、ラチェット部材5の縦リブ5e(後述)に係合して係止し、当該ラチェット部材5の回転可能範囲を規制(制限)する係合部ひいては係止部として機能するものである。縦リブ4gは、軸線方向に沿って後端部4xの前端から後端まで延在している。ここでの縦リブ4gは、後端部4xの内周面における周方向の任意位置に1つ設けられている。また、縦リブ4gの突出高さ位置は、外径大径部4aの後端部4x以外の内周面と同程度又は当該内周面よりも低くなっている。
【0028】
図1に示すように、この螺子筒4は、本体筒2に内挿され、その環状凸部4dが本体筒2の突部2dに係合すると共に、その突条4cが本体筒2のローレット2aに係合することで、本体筒2に軸線方向及び回転方向に係合し一体となるよう装着されている。
【0029】
図7は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す斜視図、図8(a)は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す正面図、図8(b)は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を示す左側面図(前方から見た図)、図9は図1の塗布材押出容器のラチェット部材を説明するための図1のIX−IX線に沿った断面図である。図7,8に示すように、ラチェット部材5は、樹脂による射出成形品とされており、略円筒状に構成されている。ラチェット部材5の後端面には、ラチェット機構8を構成するものとして操作筒3のラチェット歯8aに係合するラチェット歯8bが、周方向に沿って複数設けられている。ここでのラチェット歯8bは、ラチェット部材5の後端面において周方向十六等配の位置に突設されている。
【0030】
これらラチェット歯8bは、周方向に沿って鋸歯状(楔状)を成して後端面から突出している。具体的には、ラチェット歯8bにおける周方向一方側(本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転したときにラチェット歯8aと当接する側)の側面8b1は、周方向に山型になるよう後端面に対し傾斜している。一方、ラチェット歯8bにおける周方向他方側(本体筒2と操作筒3とを他方向に相対回転したときにラチェット歯8aと当接する側)の側面8b2は、後端面に直交し軸線方向に沿って延びるよう後端面に立設されている。
【0031】
このラチェット部材5の前端部における周壁には、略螺旋状のスリット5aが形成され、これにより、ラチェット部材5の前端部は、ラチェット歯8bをラチェット歯8a側である後方へ向けて付勢するバネ部5bとして機能する。また、ラチェット部材5の外周面において後側には、円環状の鍔部5cが設けられている。また、この鍔部5cと操作筒3の前端面とにより挟み込むように、OリングR1が配置されている(図1参照)。
【0032】
また、ラチェット部材5の外周面における鍔部5cの後側には、OリングR1を装着するためのものとして、環状に延在するOリング用溝5dが鍔部5cに連なるよう設けられている。OリングR1は、ラチェット機構8による後述のクリック感に重厚感を付与するためのものであり、ラチェット歯8a,8bの係合及び係合解除における緩衝材(クッション)として機能する環状弾性体(軟質部)として機能している。また、ラチェット部材5の外周面の鍔部5cの前側には、周方向に所定幅を有して径方向外側に突出する縦リブ(リブ)5eが、鍔部5cに連なるよう設けられている。
【0033】
縦リブ5eは、螺子筒4の縦リブ4gに係合して係止し、ラチェット部材5の回転可能範囲を規制(制限)する係合部ひいては係止部として機能するものである。縦リブ5eは、軸線方向に沿って所定長延在している。ここでの縦リブ4gは、ラチェット部材5の外周面における周方向の任意位置に、バネ部5bの後側位置から鍔部5cまで延在するよう1つ設けられている。
【0034】
図1に示すように、このラチェット部材5は、その前端面が螺子筒4の段差部4pに当接されるようにして螺子筒4の外径大径部4aに収容され、ラチェット部材5を回転させた際にその縦リブ5eが螺子筒4の縦リブ4gに回転方向に係合可能となっている。具体的には、図1,9に示すように、ラチェット部材5は、縦リブ4g,5eによって螺子筒4及びラチェット部材5が一定回転量A1のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転が規制された状態で、螺子筒4に組み付けられている。
【0035】
すなわち、ラチェット部材5は、螺子筒4に対し一定回転量A1のみ相対回転可能に装着されており、縦リブ4g,5eの周方向における間隔が最大で一定回転量A1となっている。一定回転量A1は、例えば、塗布材Mの粘度又は硬度、塗布材Mの温度変化、螺合部9のピッチ、充填領域1xの内径等に基づいて設定されており、ここでは好ましいとして、約330°とされている。
【0036】
そしてこの状態で、ラチェット部材5は、そのラチェット歯8bが操作筒3の突条3eのラチェット歯8aに係合すると共に、当該突条3eと段差部4pとの協働により軸線方向に挟み付けられ、これにより、そのバネ部5bによる付勢力(弾性力)が生じてラチェット歯8bが後方側へ付勢され、ラチェット歯8a,8bがクリック係合の状態となっている。このとき、ラチェット部材5のOリング用溝5dにOリングR1が嵌め込まれ、軸線方向における鍔部5cの後面と操作筒3の前端面との間にOリングR1が介在されている。
【0037】
図1〜3に戻り、移動体6は、円筒状に構成され、その前端部より後側から後端部に亘る外周面に、螺合部9の他方を構成する雄螺子6bを備えている。また、移動体6の内周面には、周方向に沿って六等配の位置に、径方向内側に突出するように配置され軸線方向に延びる突条6cが設けられ、この突条6cが、移動体6の回止め部の他方を構成する。この移動体6は、操作筒3の軸体3cに外挿されると共に螺子筒4に内挿され、その雄螺子6bが螺子筒4の雌螺子4eと螺合している。これと共に、移動体6は、その突条6cが軸体3cの突条3d、3d間に係合し、操作筒3に軸線方向移動可能にして回転方向に係合し装着されている。
【0038】
ピストン7は、塗布材Mの色調とは異なる色調(例えば、白色)を有するTPEE(ポリエステル系エラストマー)、TPU(ポリウレタン系エラストマー)、PP(ポリプロピレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)等で成形され、その後端面に凹設された凹部7aを有している。凹部7aの内周面には、移動体6に対し軸線方向に所定長移動可能にして係合する環状突部7bが設けられている。このピストン7は、移動体6の前端部に外挿され、その環状突部7bが移動体6に軸線方向に係合することで、移動体6に対し軸線方向移動可能(所定の範囲内を移動可能)にして装着されている。
【0039】
図10は、図1の塗布材押出容器の充填部材を示す分解斜視図である。図1,10に示すように、充填部材1は、例えば、揮発性溶剤の耐透過性に優れたポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCTA)、ポリプロピレン(PP)等の射出成形プラスチックで形成されており、外囲を構成する外側充填筒10と、この外側充填筒10の内側で充填領域1xを画設する内側充填筒11と、充填部材1の先端部を構成し塗布材Mを塗布するためのペン先部材12と、を含んで構成されている。
【0040】
外側充填筒10は、着色材料(例えば、黒色)で形成されており、円筒状の本体部10aと、当該本体部10aの前側に連続するテーパ部10bと、を有している。本体部10aは、その外周面において軸線方向中央に、本体筒2の環状突部2bに軸線方向に係合する環状凹部10cを有している。また、本体部10aは、その外周面の環状凹部10cの前側に、本体筒2の前端面に当接する円環状の鍔部10dが設けられている。この本体部10aの外周面において後端部には、本体筒2のローレット2aに回転方向に係合するものとして、周方向に多数の凹凸状が並設されて当該凹凸状が軸線方向に所定長延びるローレット10eが設けられている。
【0041】
また、本体部10aは、塗布材Mの充填時に当該塗布材Mの充填された位置を確認すると共に内側充填筒11を係合するためのものとして、その後端部の周壁を断面矩形状で貫通する貫通孔から成る窓10fを有している。テーパ部10bは、先細りの錐台筒状を呈し、横断面外形が扁平円形状とされている。テーパ部10bの前端部には、断面扁平円形状の開口10gが形成されている。
【0042】
内側充填筒11は、透明材料で形成され、その内部の充填領域1xにおける塗布材Mが透けて見えるような光透過性を有している。この内側充填筒11は、円筒状の本体部11aと、当該本体部11aの前側に連続するテーパ部11bと、当該テーパ部11bの前側に段差部11cを介して連続する前端部11dと、を有している。
【0043】
本体部11aは、組付けの際に充填領域1x内のエアを外部へ排出するためのエア排出孔11eを有している。エア排出孔11eは、本体部11aの後端部の周壁において互いに対向する位置に、断面円形状で貫通するよう一対形成されている。本体部11aの外周面におけるエア排出孔11eの後側には、外側充填筒10の窓10fに軸線方向に係合する凸部11fが設けられている。また、本体部11aの外周面におけるエア排出孔11eの前側には、OリングR2を装着するためのものとして、環状に延在するOリング用溝11gが設けられている。OリングR2は、充填部材1の気密性を高めて塗布材Mの外部への透過を防止する環状弾性体(軟質部)として機能している。
【0044】
テーパ部11bは、横断面外径が扁平円形状とされた先細りの錐台筒状を呈している。前端部11dは、横断面外径が扁平円形状とされた筒状を呈している。図1に示すように、この内側充填筒11は、外側充填筒10に対し内挿されて装着されている。このとき、内側充填筒11のOリング用溝11gにOリングR2が嵌め込まれており、これにより、外側充填筒10の内周面と内側充填筒11の外周面との間の後端側がOリングR2で封止され気密化されている。
【0045】
図11(a)は図1の塗布材押出容器におけるペン先部材を示す正面図、図11(b)は図1の塗布材押出容器におけるペン先部材を示す底面図である。図11に示すように、ペン先部材12は、塗布材Mを塗布するためのものであり、軟質材で形成されている。軟質材としては、例えば、加硫により加熱し成形する熱硬化性の一般的なゴムや、プラスチックの一種であって熱により可塑化させ金型に流し込んで成形する熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0046】
一般ゴムとしては、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、シリコンゴム(Si)が主として挙げられる。その中でも、特にニトリルゴムは、前述の揮発性溶剤に対する耐油性に優れている。また、熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ウレタン系エラストマー(TPU)が主として挙げられる。中でも、ウレタン系エラストマーにおいては、ハードセグメントがポリウレタンでソフトセグメントがポリエステルタイプ又はポリエーテルタイプの2種類の何れを用いることができ、塗布材Mに対しては、ソフトセグメントがポリエーテルタイプのものが特に適している。
【0047】
このペン先部材12は、好ましいとして、JIS K 6253で規定されているタイプAデュロメータによる硬さが30〜70とされている。ペン先部材12は、先端側に尖形のペン先13と、ペン先13の基端側に段差部14を介して連続する基端部16と、を含んでいる。
【0048】
ペン先13は、横断面外形が扁平円で且つ側方視において刃状に形成されている。ここでの横断面外形の扁平円は、図11(a)の上下方向が長軸方向とされていると共に、図11(b)の上下方向が短軸方向とされている。このペン先13では、その先端面により、使用者の肌等の塗布対象に当接される塗布面Sが構成されている。塗布面Sは、前側に膨み且つ前後に細長の扁平円状曲面とされ、その先端には、頂点Pが形成されている。
【0049】
また、ペン先13の両側面において塗布面Sの外縁から所定長基端側に亘る領域には、塗布面S側に先細りとなるよう傾斜するテーパ面17が形成されている。ペン先13の軸線位置には、軸線方向に沿って延在する断面円形の貫通孔18が形成されている。この貫通孔18における塗布面Sの開口部分は、塗布材Mを吐出するための開口部18aを構成する。
【0050】
基端部16は、その横断面外形がペン先13よりも大径とされた扁平円形状の筒状を呈している。この基端部16の外周面において前端から中央に亘る領域には、上記外側充填筒10のテーパ部10bに係合するものとして、先細りとなるよう傾斜するテーパ面19が形成されている。
【0051】
図1,10に示すように、このペン先部材12は、その基端部16が内側充填筒11の前端部11dに外挿されることで、内側充填筒11に対し回転方向に係合されて密着されている。この状態で、ペン先部材12は、そのペン先13が外側充填筒10の開口10gに内挿されることで、外側充填筒10に対し回転方向に係合されて装着されている。つまり、まずペン先部材12を内側充填筒11に組み付け、これを外側充填筒10に組み付けることで、外側充填筒10、内側充填筒11及びペン先部材12が充填部材1として互いに装着される。
【0052】
このとき、このペン先部材12は、その段差部14が外側充填筒10のテーパ部10bの前端部に軸線方向に係合されていると共に、その基端部16の後端面が内側充填筒11の段差部11cに軸線方向に係合され、これにより、外側充填筒10及び内側充填筒11により軸線方向に挟持され保持されている。
【0053】
そして、塗布材Mが充填された充填部材1にあっては、その後部側から本体筒2に内挿され、その外側充填筒10の環状凹部10cが本体筒2の環状突部2bに係合すると共に、その外側充填筒10のローレット10eが本体筒2のローレット2aに係合することで、本体筒2に対し軸線方向及び回転方向に係合されて装着され、当該本体筒2と一体化される。これと共に、充填部材1は、その内側充填筒11の後端部に、ピストン7が気密に密着するようにして内挿されて装着される。このとき、上述したように、内側充填筒11の後端部にエア排出孔11eが設けられていることから、充填領域1x内の塗布材Mとピストン7との間にエアが存在する場合でも、当該エアをエア排出孔11eを介して適度に逃がすことができ、充填領域1xの内圧が高まるのを抑制することができる。
【0054】
また、この充填部材1は、その外側充填筒10に前端側からキャップC1が着脱可能に取り付けられる。さらに、充填部材1は、そのペン先部材12の開口部18aに栓C2(図3参照)が嵌挿されて着脱可能に取り付けられ、これにより、充填領域1xが密閉(気密化)される。また、充填部材1の外側充填筒10の内面に螺子筒4の鍔部4y(図6参照)が近接するように螺子筒4が外側充填筒10に内挿されており、これにより、雌螺子4eの内径が拡がることが阻止されている。
【0055】
このような充填部材1において充填領域1xに塗布材Mを充填する充填方法として、まず、内側充填筒11の先端側を充填用栓で塞いで当該先端側を下向きとし、この状態で充填領域1xに塗布材Mを後側から適量注入する。その後、充填用栓を外すと共に、この内側充填筒11にペン先部材12を装着し外側充填筒10を組み込むことで、塗布材Mの充填が完了する。また、塗布材Mの粘度や充填条件によっては、上記充填用栓を使用しなくても、充填時に内側充填筒11の先端から内部の空気が適度に排出されて気泡が無く良好に充填できる。
【0056】
或いは、他の充填方法として、内側充填筒11にペン先部材12を装着して外側充填筒10に組み込み、ペン先部材12の先端側を栓C2で塞いだ後にキャップC1を外側充填部材1に取り付ける。続いて、ペン先部材12の先端側を下向きとし、この状態で充填領域1xに塗布材Mを後方から適量注入する。そして、当該注入後に速やかに、この充填部材1に対し組付け後の本体筒2をピストン7が内側充填筒11の後方から密着して内挿するよう装着し、これにより、塗布材Mの充填が完了する。この場合、注入後すぐに充填領域1xを密封状態にできるため、揮発性の高い塗布材Mの揮発を最小限に抑えることが可能となる。また、消費者の手元に届いてからキャップC1及び栓C2が取り外されて使用されることになるため、密封状態を一層維持することが可能となる。
【0057】
以上のように構成され図1に示す初期状態の塗布材押出容器100にあっては、使用者によりキャップC1及び栓C2が取り外され、本体筒2と操作筒3とが繰出し方向である一方向に相対回転されると、ラチェット機構8のラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b1に回転方向に係合することにより、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転が規制されてこれらが同期回転する。これにより、本体筒2に一体となるよう装着された螺子筒4に対し、ラチェット部材5が操作筒3とともに相対回転される。
【0058】
その結果、螺子筒4の縦リブ4gがラチェット部材5に対し周方向一方側に回転移動し、縦リブ5eに対する縦リブ4gの周方向位置関係が一定回転量A1内において変化する。これと共に、螺子筒4の雌螺子4e及び移動体6の雄螺子6bから成る螺合部9と操作筒3の突条3d及び移動体6の突条6cから成る回止め部との協働により、移動体6及びピストン7が前進する。
【0059】
その後、引き続き本体筒2と操作筒3とが一方向に相対回転されて一定回転量A1だけ相対回転されたとき、移動体6及びピストン7は一定量前進することとなる。これに併せ、縦リブ5eは、縦リブ4gに対し一定回転量A1だけ回転移動して回転方向に係合(係止)することとなり、螺子筒4とラチェット部材5とは、その相対回転が規制されてそれ以上の相対回転が不能とされる。つまり、縦リブ5eは、縦リブ4gに回転方向に係合して螺子筒4ひいては本体筒2に回転方向に係合し、ラチェット部材5は、螺子筒4ひいては本体筒2に対し一定回転量A1のみ相対回転される。
【0060】
そして、縦リブ4g,5eの係合前よりも大きい力で本体筒2と操作筒3とが一方向にさらに相対回転され、ラチェット部材5と操作筒3との間に所定回転力以上の回転力が加わると、ラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b1を駆け上がるように摺動してラチェット歯8bを乗り越え、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転が許容(いわゆる「空回転」)される。その結果、螺子筒4及びラチェット部材5に対し操作筒3が一方向に相対回転し、螺合部9の螺合作用により移動体6及びピストン7の前進が継続し、充填部材1の充填領域1xに満たされた塗布材Mがペン先部材12の開口部18aから吐出される。
【0061】
また、このように本体筒2と操作筒3とが一方向にさらに相対回転されたとき、ラチェット部材5のバネ部5bが軸線方向に圧縮され、かかる圧縮によるバネ部5bの弾性力でラチェット歯8bが軸線方向後側に付勢されることから、ラチェット歯8a,8bの係合及び係合解除(噛合及び噛合解除)が繰り返され、かかる係合及び係合解除の度に使用者にクリック感が付与される。
【0062】
なお、前述のように、軸線方向におけるラチェット部材5と操作筒3との間にOリングR1が介在するよう設けられていることから、ラチェット歯8a,8bの係合及び係合解除の際にOリングR1が緩衝材として働いている。すなわち、ラチェット歯8a,8bが係合解除されてから、まず、ラチェット部材5の鍔部5cと操作筒3の前端面とがOリングR1に当接し、その後に、ラチェット歯8a,8bが再係合する。そのため、クリック感の発生源でもあるラチェット歯8a,8b同士の衝突力(突き当たり)を緩やかなものにすることができ、生じるクリック感の音量を小さくしつつ音質を重厚なものにすること(低音化)が可能となる。
【0063】
他方、例えば、移動体6の前進直後の塗布材押出容器100において、本体筒2と操作筒3とが繰戻し方向である他方向に相対回転されると、ラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b2に回転方向に係合することにより、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転が規制されてこれらが同期回転する。これにより、螺子筒4に対し、ラチェット部材5が操作筒3とともに相対回転される。その結果、螺合部9の螺合作用が働き移動体6及びピストン7が後退する。これと共に、螺子筒4の縦リブ4gは、ラチェット部材5に対し周方向他方側に回転移動し、縦リブ5eに対する周方向位置関係が一定回転量A1内において変化する。
【0064】
その後、引き続き本体筒2と操作筒3とが他方向に相対回転されて一定回転量A1だけ相対回転されたとき、移動体6及びピストン7は一定量後退することとなる。これに併せ、縦リブ5eは、縦リブ4gに対し一定回転量A1だけ回転移動して回転方向に係合(係止)することとなり、螺子筒4とラチェット部材5とは、その相対回転が規制されてそれ以上の相対回転が不能とされる。つまり、縦リブ5eは、縦リブ4gに回転方向に係合して螺子筒4ひいては本体筒2に回転方向に係合し、ラチェット部材5は、螺子筒4ひいては本体筒2に対し一定回転量A1のみ相対回転される。
【0065】
このとき、本体筒2と操作筒3とを引き続き他方向にさらに相対回転しようとしても、ラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b2により強固に係合(係止)され、ラチェット部材5と操作筒3との相対回転が規制されて相対回転不能となっているため、本体筒2と操作筒3との相対回転も規制されてこれらが相対回転不能となる。従って、移動体6及びピストン7にあっては、それ以上後退できずに停止し、その結果、一定量のみ後退することとなる。
【0066】
なお、前述のように本体筒2と操作筒3との一方向の相対回転により塗布材Mがペン先部材12の開口部18aから吐出され、そして、最終的に塗布材Mを使い切るときには、内側充填筒11のテーパ部11bにピストン7が軸線方向に係合し、さらに螺合部9の螺合作用も終点を迎え、ピストン7の前進が停止する(移動体6及びピストン7が前進限に達する、図2参照)。
【0067】
以上、本実施形態では、移動体6の前進及び一定量のみの後退を簡易な構造で確実に実現することが可能となる。これにより、例えば複数の螺合部を利用し、その一つの螺合部の螺合作用を停止させて移動体6を一定量後退させる構成を不要にでき、移動体6の一定量後退に係る構造に、製造困難な3次元空間曲線(螺旋形状)を呈する螺子山を用いる必要性を低減することができる。この点において、特に本実施形態では、移動体6を微妙な戻り量だけ後退させる場合に、当該後退を精度よく且つ容易に制御できるといえる。
【0068】
加えて、本実施形態では、例えばバネ等の弾性体の弾性力を利用して移動体6を一定量後退させる構成も不要にすることができる。粘度又は硬度が高い塗布材Mの場合には、弾性体を利用して移動体6を後退させようとしても、弾性体の弾性力では移動体6を後退できないおそれがあるため、この点において、一定量のみの後退を確実に実現するという上記効果は、特に顕著といえる。
【0069】
また、本実施形態では、例えば使用後において移動体6を一定量後退させることにより、充填領域1xの内圧を減圧し、これにより、保管時にて塗布材Mがその圧縮性及び温度変化等に起因して膨張し開口部18aから塗布材Mが垂れてしまうことを防止可能となる。
【0070】
また、本実施形態では、例えば使用時において、移動体6を前進させて必要量だけ塗布材Mを吐出した後に移動体6を一定量後退させることにより、充填領域1xの内圧を減圧し、これにより、使用中にて塗布材Mがその圧縮性及び温度変化等に起因して膨張し想定以上に開口部18aから塗布材Mが吐出してしまうことを防止可能となる。具体的には、例えば塗布材Mが加圧状態で吐出されるとき、塗布材Mが繰出時から時間をおいてじわじわと吐出することがあるが、このときに移動体6を一定量後退させると、当該塗布材Mをピタリと止めることができる。その結果、使用者は、ペン先13の塗布面Sを目のきわ等の塗布対象に押し当てて化粧料ライン等を好適に描画することができる。
【0071】
また、本実施形態では、上述したように、移動体6が一定量以上は後退しない構成とされているため、移動体6を戻し過ぎて充填領域1x内に開口部18からエアが入ってしまうのを防止することが可能となる。
【0072】
また、移動体6における一定量後退は、0.25mm、0.2mm又はそれ以下の少量の後退としても、上述した減圧効果を得ることができる。また、移動体6が一定量後退しない構成であると、塗布材Mの粘度又は硬度が高いほど塗布材Mが常に圧縮状態で保管されることになり好ましくないことから、本実施形態における移動体6の一定量後退は、その有効性(必要性)が高いといえる。ちなみに、本実施形態の「移動体6が後退する一定量」は、例えば下式(1)により算出することができる。
移動体が後退する一定量[mm]=螺合部の1ピッチの長さ[mm]×(ラチェット部材の
一定回転量[°]/360[°])−各部材間のクリアランス[mm] …(1)
【0073】
また、本実施形態では、上述したように、充填領域1xが外側充填筒10と内側充填筒11との2重構造で囲われており、特に、充填領域1xの後端部にあっては、外側充填筒10と内側充填筒11と本体筒2との3重構造で囲われている。従って、塗布材Mの外部への透過を抑制することができる。さらに、このように、充填領域1xの後端部が3重構造とされているため、使用者の把持によって体温が塗布材Mへ伝わるのを好適に抑制することもできる。これと共に、容器外の気温の変化にも、塗布材Mが影響され難いものとなる。
【0074】
また、本実施形態では、上述したように、外側充填筒10の内周面と内側充填筒11の外周面との間の後端側をOリングR2で密閉して好適に気密化することができ、塗布材Mの外部への透過を一層抑制することが可能となる。加えて、ペン先部材12の開口部18aに栓C2(図3参照)が取り付けられているため、充填領域1xの前端側を密閉して好適に気密化することが可能となる。
【0075】
ちなみに、外側充填筒10と内側充填筒11とは、2色異材質成形機により同時成形することができる。同様に、内側充填筒11とペン先部材12とは、2色異材質成形機により同時成形することができる。これらにより、塗布材押出容器100の製造簡易化が可能となる。また、本実施形態では、外側充填筒10の全部又は一部を透明にしてもよく、この場合、例えば使用時にキャップC1を取り外した際、塗布材Mの残量を容易に確認することができる。
【0076】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0077】
図12(a),(b)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の変形例を示す各図、図13は図1の塗布材押出容器のラチェット部材の変形例を説明するための断面図である。例えば図12に示すように、ラチェット部材5は、その外周面において縦リブ5eに対向する位置(周方向に180°離れた位置)に、当該縦リブ5eと同様な縦リブ5e’がさらに設けられていてもよい。つまり、ラチェット部材5の外周面において鍔部5cの前側には、互いに対向する一対の縦リブ5e,5e’が鍔部5cに連なるよう設けられていてもよい。
【0078】
この変形例に係るラチェット部材5にあっては、図13に示すように、縦リブ4g,5e,5e’によって螺子筒4及びラチェット部材5が一定回転量A2のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転が規制された状態で、螺子筒4に組み付けられている。換言すると、ラチェット部材5は、螺子筒4に対し一定回転量A2のみ相対回転可能に装着されており、縦リブ4g,5eの周方向における間隔、及び縦リブ4g,5e’の周方向における間隔が、最大で一定回転量A2となっている。一定回転量A2は、例えば、塗布材Mの粘度又は硬度、塗布材Mの温度変化、螺合部9のピッチ、充填領域1xの内径等に基づいて設定されており、ここでは好ましいとして、約150°とされている。
【0079】
図14,15(a),15(b)は図1の塗布材押出容器におけるラチェット部材の他の変形例を示す各図、図16は図1の塗布材押出容器のラチェット部材の他の変形例を説明するための断面図である。例えば図14,15に示すように、ラチェット部材5は、縦リブ5e(図7参照)に代えて縦リブ5e’’が設けられていてもよい。つまり、ラチェット部材5の外周面の鍔部5cの前側には、縦リブ5e’’が鍔部5cに連なるよう設けられていてもよい。縦リブ5e’’は、周方向に円弧状に所定長(所定角度)延びる幅で、バネ部5bの後側位置から鍔部5cまで延在するよう1つ設けられている。
【0080】
この他の変形例に係るラチェット部材5にあっては、図16に示すように、縦リブ4g,5e’’によって螺子筒4及びラチェット部材5が一定回転量A3のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転が規制された状態で、螺子筒4に組み付けられている。換言すると、ラチェット部材5は、螺子筒4に対し一定回転量A3のみ相対回転可能に装着されており、縦リブ4g,5e’’の周方向における間隔が、最大で一定回転量A3となっている。一定回転量A3は、例えば、塗布材Mの粘度又は硬度、塗布材Mの温度変化、螺合部9のピッチ、充填領域1xの内径等に基づいて設定されており、ここでは好ましいとして、約230°とされている。
【0081】
また、上記実施形態では、回転制御機構としてラチェット機構8を採用しているが、これに代えて、例えば螺子部の螺合作用を利用したものや、摩擦力を利用したものや、弾性力を利用したもの等の種々の機構を採用してもよい。この回転制御機構は、容器前部と筒部材との相対回転を規制すると共に、容器前部と容器後部とが一方向に相対回転される場合であって筒部材と容器後部との相対回転が係合部で規制された後にて容器前部と筒部材との相対回転を許容すればよい。
【0082】
また、上述した雄螺子及び雌螺子は、螺子山や螺子溝だけでなく、間欠的に配される突起群、又は螺旋状且つ間欠的に配される突起群のように螺子山や螺子溝と同様な働きをするものであってもよい。また、上記実施形態では、バネ部5bがラチェット部材5と一体に設けられているが、このバネ部5bは、ラチェット部材5と別体に設けられていてもよい。
【0083】
図17は図1の塗布材押出容器のラチェット部材及び螺子筒の変形例を説明するための断面図である。図17に示すように、この変形例に係る螺子筒4にあっては、その後端部4xの内周面において縦リブ4gに対向する位置(周方向に180°離れた位置)に、当該縦リブ4gと同様な縦リブ4g’がさらに設けられていてもよい。換言すると、螺子筒4の後端部4xの内周面には、互いに対向する一対の縦リブ4g,4g’が軸線方向に沿って後端部4xの前端から後端まで延在していてもよい。また、ラチェット部材5は、図12,13に示す変形例と同様に、その外周面において縦リブ5eに対向する位置に、上記縦リブ5e’がさらに設けられていてもよい。
【0084】
この場合、ラチェット部材5が螺子筒4に対し一定回転量A4のみ相対回転可能に装着されており、縦リブ4g,5eの周方向における間隔、及び縦リブ4g’,5eの周方向における間隔が、最大で一定回転量A4となっている。一定回転量A4は、例えば、塗布材Mの粘度又は硬度、塗布材Mの温度変化、螺合部9のピッチ、充填領域1xの内径等に基づいて設定されており、ここでは好ましいとして、約150°とされている。
【0085】
また、上記実施形態では、ラチェット部材5が螺子筒4に対し一定回転量のみ相対回転可能とされ、ラチェット機構8によりラチェット部材5と操作筒3との相対回転が制御されているが、ラチェット部材5が操作筒3に対し一定回転量のみ相対回転可能とされ、ラチェット機構8により螺子筒4とラチェット部材5との相対回転が制御されてもよい。この場合、本体筒2と操作筒3との相対回転の際にラチェット部材5の縦リブ5eが操作筒3に回転方向に係合し、ラチェット歯8a、8bが螺子筒4及びラチェット部材5に設けられ、OリングR1が軸線方向における螺子筒4とラチェット部材5との間に配設されることとなる。
【0086】
また、上記実施形態では、係合部として、ラチェット部材5にリブ5eを設けているが、これに限定されるものではなく、例えば凸部、凸条、凹部、溝でもよい。要は、係合部は、容器前部と容器後部とが相対回転される際に、容器前部に回転方向に係合して容器前部と筒部材とが一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する、又は、容器後部に回転方向に係合して筒部材と容器後部とが一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制するものであればよい。以上において、ラチェット部材5及びラチェット機構8が回転許容手段を構成する。
【符号の説明】
【0087】
1…充填部材(容器前部,容器)、1x…充填領域、2…本体筒(容器前部,容器)、3…操作筒(容器後部,容器)、5…ラチェット部材(筒部材,回転許容手段)、5b…バネ部、5e…縦リブ(係合部,リブ)、6…移動体、8…ラチェット機構(回転制御機構,回転許容手段)、8a…ラチェット歯、8b…ラチェット歯、18a…開口部、100…塗布材押出容器、M…塗布材、R1…Oリング(軟質部)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器前部と、前記容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、
前記容器前部と前記容器後部とが一方向に相対回転されると、前記容器内に配設された移動体が前進し、前記容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して前記容器先端の開口部から吐出させ、
前記容器前部と前記容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した前記移動体が一定量のみ後退する塗布材押出容器であって、
前記容器前部と前記容器後部との前記一方向の相対回転を許容すると共に、前記容器前部と前記容器後部との前記他方向の相対回転を前記一定量に対応する一定回転量のみ許容する回転許容手段を備え、
前記回転許容手段は、
前記容器前部に対し前記一定回転量のみ相対回転可能な筒部材と、
前記筒部材と前記容器後部との相対回転を制御する回転制御機構と、を有し、
前記筒部材は、
前記容器前部と前記筒部材とが相対回転される際に前記容器前部に回転方向に係合して、前記容器前部と前記筒部材とが前記一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する係合部を含み、
前記回転制御機構は、
前記筒部材と前記容器後部との相対回転を規制すると共に、前記容器前部と前記容器後部とが前記一方向に相対回転される場合であって前記容器前部と前記筒部材との相対回転が前記係合部で規制された後には、前記筒部材と前記容器後部との相対回転を許容すること、を特徴とする塗布材押出容器。
【請求項2】
前記回転制御機構は、前記筒部材に設けられた一方のラチェット歯と、前記容器後部に設けられた他方のラチェット歯と、を含んで構成されたラチェット機構であり、
前記一方及び他方のラチェット歯は、
回転方向に係合して前記筒部材と前記容器後部との相対回転を規制すると共に、
前記容器前部と前記容器後部とが前記一方向に相対回転される場合であって前記容器前部と前記筒部材との相対回転が前記係合部で規制された後において、前記筒部材と前記容器後部とが所定回転力以上の回転力で相対回転されると、回転方向の係合及び係合解除を繰り返して前記筒部材と前記容器後部との相対回転を許容すること、を特徴とする請求項1記載の塗布材押出容器。
【請求項3】
容器前部と、前記容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、
前記容器前部と前記容器後部とが一方向に相対回転されると、前記容器内に配設された移動体が前進し、前記容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して前記容器先端の開口部から吐出させ、
前記容器前部と前記容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した前記移動体が一定量のみ後退する塗布材押出容器であって、
前記容器前部と前記容器後部との前記一方向の相対回転を許容すると共に、前記容器前部と前記容器後部との前記他方向の相対回転を前記一定量に対応する一定回転量のみ許容する回転許容手段を備え、
前記回転許容手段は、
前記容器後部に対し前記一定回転量のみ相対回転可能な筒部材と、
前記容器前部と前記筒部材との相対回転を制御する回転制御機構と、を有し、
前記筒部材は、
前記筒部材と前記容器後部とが相対回転される際に前記容器後部に回転方向に係合して、前記筒部材と前記容器後部とが前記一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する係合部を含み、
前記回転制御機構は、
前記容器前部と前記筒部材との相対回転を規制すると共に、前記容器前部と前記容器後部とが前記一方向に相対回転される場合であって前記筒部材と前記容器後部との相対回転が前記係合部で規制された後には、前記容器前部と前記筒部材との相対回転を許容すること、を特徴とする塗布材押出容器。
【請求項4】
前記回転制御機構は、前記筒部材に設けられた一方のラチェット歯と、前記容器前部に設けられた他方のラチェット歯と、を含んで構成されたラチェット機構であり、
前記一方及び他方のラチェット歯は、
回転方向に係合して前記容器前部と前記筒部材との相対回転を規制すると共に、
前記容器前部と前記容器後部とが前記一方向に相対回転される場合であって前記筒部材と前記容器後部との相対回転が前記係合部で規制された後において、前記容器前部と前記筒部材とが所定回転力以上の回転力で相対回転されると、回転方向の係合及び係合解除を繰り返して前記容器前部と前記筒部材との相対回転を許容すること、を特徴とする請求項3記載の塗布材押出容器。
【請求項5】
前記回転制御機構は、前記一方及び他方のラチェット歯の係合及び係合解除における緩衝材として機能する軟質部を含むこと、を特徴とする請求項2又は4記載の塗布材押出容器。
【請求項6】
前記回転制御機構は、前記筒部材と一体又は別体に設けられ前記一方及び他方のラチェット歯に軸線方向の付勢力を与えるバネ部を含むこと、を特徴とする請求項2、4又は5記載の塗布材押出容器。
【請求項1】
容器前部と、前記容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、
前記容器前部と前記容器後部とが一方向に相対回転されると、前記容器内に配設された移動体が前進し、前記容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して前記容器先端の開口部から吐出させ、
前記容器前部と前記容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した前記移動体が一定量のみ後退する塗布材押出容器であって、
前記容器前部と前記容器後部との前記一方向の相対回転を許容すると共に、前記容器前部と前記容器後部との前記他方向の相対回転を前記一定量に対応する一定回転量のみ許容する回転許容手段を備え、
前記回転許容手段は、
前記容器前部に対し前記一定回転量のみ相対回転可能な筒部材と、
前記筒部材と前記容器後部との相対回転を制御する回転制御機構と、を有し、
前記筒部材は、
前記容器前部と前記筒部材とが相対回転される際に前記容器前部に回転方向に係合して、前記容器前部と前記筒部材とが前記一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する係合部を含み、
前記回転制御機構は、
前記筒部材と前記容器後部との相対回転を規制すると共に、前記容器前部と前記容器後部とが前記一方向に相対回転される場合であって前記容器前部と前記筒部材との相対回転が前記係合部で規制された後には、前記筒部材と前記容器後部との相対回転を許容すること、を特徴とする塗布材押出容器。
【請求項2】
前記回転制御機構は、前記筒部材に設けられた一方のラチェット歯と、前記容器後部に設けられた他方のラチェット歯と、を含んで構成されたラチェット機構であり、
前記一方及び他方のラチェット歯は、
回転方向に係合して前記筒部材と前記容器後部との相対回転を規制すると共に、
前記容器前部と前記容器後部とが前記一方向に相対回転される場合であって前記容器前部と前記筒部材との相対回転が前記係合部で規制された後において、前記筒部材と前記容器後部とが所定回転力以上の回転力で相対回転されると、回転方向の係合及び係合解除を繰り返して前記筒部材と前記容器後部との相対回転を許容すること、を特徴とする請求項1記載の塗布材押出容器。
【請求項3】
容器前部と、前記容器前部に相対回転可能な容器後部と、を有する容器を具備し、
前記容器前部と前記容器後部とが一方向に相対回転されると、前記容器内に配設された移動体が前進し、前記容器内の充填領域に充填された塗布材を押し出して前記容器先端の開口部から吐出させ、
前記容器前部と前記容器後部とが一方向の反対方向である他方向に相対回転されると、前進した前記移動体が一定量のみ後退する塗布材押出容器であって、
前記容器前部と前記容器後部との前記一方向の相対回転を許容すると共に、前記容器前部と前記容器後部との前記他方向の相対回転を前記一定量に対応する一定回転量のみ許容する回転許容手段を備え、
前記回転許容手段は、
前記容器後部に対し前記一定回転量のみ相対回転可能な筒部材と、
前記容器前部と前記筒部材との相対回転を制御する回転制御機構と、を有し、
前記筒部材は、
前記筒部材と前記容器後部とが相対回転される際に前記容器後部に回転方向に係合して、前記筒部材と前記容器後部とが前記一定回転量のみ相対回転可能となるようこれらの相対回転を規制する係合部を含み、
前記回転制御機構は、
前記容器前部と前記筒部材との相対回転を規制すると共に、前記容器前部と前記容器後部とが前記一方向に相対回転される場合であって前記筒部材と前記容器後部との相対回転が前記係合部で規制された後には、前記容器前部と前記筒部材との相対回転を許容すること、を特徴とする塗布材押出容器。
【請求項4】
前記回転制御機構は、前記筒部材に設けられた一方のラチェット歯と、前記容器前部に設けられた他方のラチェット歯と、を含んで構成されたラチェット機構であり、
前記一方及び他方のラチェット歯は、
回転方向に係合して前記容器前部と前記筒部材との相対回転を規制すると共に、
前記容器前部と前記容器後部とが前記一方向に相対回転される場合であって前記筒部材と前記容器後部との相対回転が前記係合部で規制された後において、前記容器前部と前記筒部材とが所定回転力以上の回転力で相対回転されると、回転方向の係合及び係合解除を繰り返して前記容器前部と前記筒部材との相対回転を許容すること、を特徴とする請求項3記載の塗布材押出容器。
【請求項5】
前記回転制御機構は、前記一方及び他方のラチェット歯の係合及び係合解除における緩衝材として機能する軟質部を含むこと、を特徴とする請求項2又は4記載の塗布材押出容器。
【請求項6】
前記回転制御機構は、前記筒部材と一体又は別体に設けられ前記一方及び他方のラチェット歯に軸線方向の付勢力を与えるバネ部を含むこと、を特徴とする請求項2、4又は5記載の塗布材押出容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−187132(P2012−187132A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50505(P2011−50505)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(591147339)株式会社トキワ (141)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(591147339)株式会社トキワ (141)
【Fターム(参考)】
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