説明

塗布液組成物および該塗布液組成物を用いる複合金属酸化物膜の製造方法

【課題】湿式コーティング法によるチタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウムなどの2族元素と4族元素との金属酸化物の膜の製造において、好適に使用できる塗布液組成物および複合金属酸化物膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】必須成分として、下記一般式(1)で表される金属化合物(A)を100質量部、炭素数6〜12の脂肪族有機酸と2族元素との有機酸金属塩(B)を上記金属化合物(A)1モルに対し、0.5モル〜2モルおよび有機溶剤(C)を100〜10,000質量部含有してなることを特徴とする塗布液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の金属化合物を含有してなる塗布液組成物と該組成物を基体に塗布し、焼成することによる複合金属酸化物膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合金属酸化物膜は、様々な用途への応用が検討されている。例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどの2族元素(金属)とチタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの4族元素(金属)を含有する複合金属酸化物膜は、誘電特性の特徴を応用した高誘電体キャパシタ、強誘電体キャパシタ、コンデンサ、圧電素子などの電子部品の部材として用いられている。
【0003】
上記の複合金属酸化物膜の製造法としては、MOD法、ゾル−ゲル法、セラミックス粒子の分散液を塗布後焼成する方法、CVD法、ALD法などが挙げられる。比較的加工精度の低い膜については、製造コストが小さく、膜形成が容易なゾル−ゲル法、MOD法、セラミックス粒子の分散液を塗布後焼成する方法などの湿式コーティング法が好適な方法であり、これらに用いられる膜のプレカーサとして、有機酸金属化合物、金属アルコキシド化合物などの可溶性金属化合物が使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、カルボン酸バリウム、カルボン酸ストロンチウムおよびチタンアルコキシドを有機溶媒中に混合してなるクラックフリーの薄膜を与える薄膜形成用組成物が報告されている。ここでは、カルボン酸バリウム、カルボン酸ストロンチウムを形成するカルボン酸として、R1COOH(R1は炭素数3〜7の直鎖または分岐状アルキル基)が開示されており、チタンアルコキシドとしては、Ti(OR24(R2は炭素数1〜7の直鎖または分岐状アルキル基)が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1、2には、チタニウムの1,2−ジオレートを酸化チタンのプレカーサとして使用することが報告されている。非特許文献1には、Ti(OCHRCH2O)2(R=H、CH3、CH2CH3)の加水分解により光触媒作用を有する多孔質酸化チタンを得る技術が開示されており、非特許文献2には、Ti(OCH2CH2O)2を用いる水熱合成による酸化チタンの製造方法が開示されている。
【0006】
MOD法による膜の製造において、塗布液組成物に求められる特性の1つとしては、膜形成温度の低温化や好ましい分解挙動を示すことが求められる。プレカーサは熱または熱と酸素により酸化分解されて酸化物膜を形成するが、2族元素の有機酸金属は、通常単独では350℃〜480℃で酸化分解して炭酸塩となる。例えば、酸化分解温度の低い2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸バリウムは、350℃近辺で発熱を伴い炭酸塩となる。これをチタンプレカーサの分解物または酸化チタンのいずれかの存在下で行うと熱酸化分解されチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどとなるが、このときに分解が多段となると、クラックなどの膜質に影響があるおそれがある。現在、より低温で単純な分解によりチタン酸ストロンチウムやチタン酸バリウムとなる塗布液組成物が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−337421号公報
【非特許文献1】Appl.Cata.,B,21(4)269-277,1999 Elsevier Science B.V.
【非特許文献2】Chem.Mater.,11(8)2008-2012,1999 American Chemical Society
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、湿式コーティング法によるチタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウムなどの2族元素と4族元素との金属酸化物の膜の製造において、好適に使用できる塗布液組成物および複合金属酸化物膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、検討を重ねた結果、特定の構造を有する4族元素の金属化合物と2族元素の有機酸金属塩とを膜プレカーサとして使用することで、良好な熱酸化分解挙動を示す塗布液組成物を得られることを知見し、本発明に到達した。
【0010】
本発明は、必須成分として、下記一般式(1)で表される金属化合物(A)を100質量部、炭素数6〜12の脂肪族有機酸と2族元素との有機酸金属塩(B)を上記金属化合物(A)1モルに対し、0.5モル〜2モルおよび有機溶剤(C)を100〜10,000質量部含有してなることを特徴とする塗布液組成物を提供する。
【0011】

(R1〜R8は、各々水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは4族元素を表す。)
【0012】
また、本発明は、上記本発明の塗布液組成物を基体上に塗布する塗布工程、50〜200℃に加熱する乾燥工程および400〜900℃に加熱する焼成工程を経ることを特徴とする複合金属酸化物膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、湿式コーティング法による、2族元素と4族元素との複合金属酸化物膜の製造において、好適に使用できる熱酸化分解挙動を示す塗布液組成物およびこれを用いる複合金属酸化物膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用する金属化合物(A)について説明する。本発明における金属化合物(A)は、膜中に4族元素を供給するためのプレカーサである。金属化合物(A)を使用することで、本発明の塗布液組成物の特徴である熱酸化分解の低温化および1段の分解によるプレカーサから酸化物への変換が得られる。このような効果は、チタニウムのアルコキシド、有機酸塩、類似の構造を有する1,3−ジオレートでは得ることのできない特異的な効果である。
【0015】
前記一般式(1)における、R1〜R8は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。アルキル基の炭素数が5以上であると、本発明の効果が充分に発揮されない。すなわち、2族元素のプレカーサと併用したときの1段での酸化物への変換が得られないか分解温度の充分な低下が得られない。R1〜R8は、水素原子、メチル基またはエチル基のいずれかであるものが好ましい。また、Mは4族の金属元素であり、具体的にはチタニウム、ジルコニウムおよびハフニウムが挙げられ、好ましくはチタニウムである。
【0016】
金属化合物(A)の具体例としては、下記化合物No.1〜18が挙げられる。

【0017】
金属化合物(A)は、4族元素のテトラキスアルコキシドと、ジオール化合物とのアルコール交換反応により容易に定量的に得られる。例えば、上記の化合物No.1は、テトラキスイソプロポキシチタン1モル部と1,2−エタンジオール2モル部をトルエンなどの反応不活性溶液中で反応させ、副生するイソプロポキシアルコールを反応系から除くことで製造できる。上記の金属化合物(A)は、本発明の塗布液組成物中に1種類または2種類以上混合して用いることができる。
【0018】
次に本発明で用いる炭素数6〜12の脂肪族有機酸と2族元素との有機酸金属塩(B)について説明する。上記有機酸金属塩(B)は、膜中に2族元素を供給するためのプレカーサである。一般的には(RCOO)2M’の化学式で表される(Rは炭素数5〜11の脂肪族炭化水素基を表し、M’は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムを表す)。上記有機酸金属塩(B)は、結晶水を含有する場合もある。本発明の塗布液組成物に用いる場合は、水和物でも無水和物でもよいが、水和水が塗布液組成物の安定性に悪影響を及ぼす場合が多いので無水和物が好ましい。
【0019】
上記有機酸金属塩(B)を与える炭素数6〜12の脂肪族有機酸は、飽和脂肪族有機酸でもよく、不飽和脂肪族有機酸でもよく、水酸基、エーテル基などで置換されてもよいが、飽和脂肪族有機酸が好ましい。好ましいものとしては、カプロン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸およびシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
【0020】
炭素数5以下の脂肪族有機酸から得られる有機酸金属塩は、融点の高い固体であるものが多く、MOD法用の原料として充分に安定な塗布液組成物を与えにくい。また、このような炭素数の少ない脂肪族有機酸から得られる有機酸金属塩は、有機溶剤に対する溶解性が低いので、溶解性のマージンが得られない場合がある。さらには、酸化分解温度が高く、4族元素のプレカーサの存在下でも炭酸塩を経た分解挙動を示すおそれがある。
【0021】
一方で、炭素数が13以上の脂肪族有機酸から得られる有機酸金属塩は、金属含有量が小さいのでモル換算の濃度における充分な溶解性のマージンが得られない。また、このような炭素数の多い脂肪族有機酸から得られる有機酸金属塩をプレカーサに用いて得られる薄膜中の不純物カーボン残渣が大きくなる場合がある。
【0022】
本発明で用いる有機酸金属塩(B)を与える脂肪族有機酸としては、熱酸化分解温度が低いこと、塗布液組成物として良好な溶解性を示すこと、有機酸として安定した品質のものが安価に入手できることから2−エチルヘキサン酸が最も好ましい。
【0023】
上記有機酸金属塩(B)は、本発明の塗布液組成物中に1種類または2種類以上混合して用いることができる。また、本発明の塗布液組成物中の上記有機酸金属塩(B)の含有量は、得られる膜の組成が、強誘電体、高誘電体または圧電体として有用となる値である。上記有機酸金属塩(B)の含有量は、前記の金属化合物(A)(2種類以上の場合はその合計)1モルに対して、0.5モル〜2.0モル(2種類以上はその合計で)である。
【0024】
次に本発明で用いる有機溶剤(C)について説明する。本発明の塗布液組成物に使用される有機溶剤(C)としては、アルコール系溶剤、ジオール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族または脂環族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、シアノ基を有する炭化水素溶剤、その他の溶剤などが挙げられ、これらは、1種類または2種類以上を混合して用いることができる。
【0025】
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、第3ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、2−ペンタノール、ネオペンタノール、第3ペンタノール、ヘキサノール、2−ヘキサノール、ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクタノール、2―エチルヘキサノール、2−オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘプタノール、ベンジルアルコール、2−メトキシエチルアルコール、2−ブトキシエチルアルコール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノール、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパノールなどが挙げられる。
【0026】
ジオール系溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、イソプレングリコール(3−メチル−1,3−ブタンジオール)、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、オクタンジオール(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0027】
ケトン系溶剤としては、アセトン、エチルメチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0028】
エステル系溶剤としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第2ブチル、酢酸第3ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸第3アミル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸第2ブチル、プロピオン酸第3ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸第3アミル、プロピオン酸フェニル、2−エチルヘキサン酸メチル、2−エチルヘキサン酸エチル、2−エチルヘキサン酸プロピル、2−エチルヘキサン酸イソプロピル、2−エチルヘキサン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、オキソブタン酸メチル、オキソブタン酸エチル、γ−ラクトン、δ−ラクトンなどが挙げられる。
【0029】
エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサンなどが挙げられる。
【0030】
脂肪族または脂環族炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン、ソルベントナフサなどが挙げられる。
【0031】
芳香族炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、クメン、イソブチルベンゼン、シメン、テトラリンが挙げられる。
【0032】
シアノ基を有する炭化水素溶剤としては、1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼンなどが挙げられる。
【0033】
その他の有機溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0034】
上記の有機溶剤(C)は、プレカーサに対する充分な溶解性を示し塗布溶剤として使用し易いものを選択すればよい。上記の有機溶剤の中でも、炭素数1〜6のアルコール系溶剤およびジオール系溶剤は、シリコン基体、金属基体、セラミックス基体、ガラス基体、樹脂基体などの様々な基体に対する塗布溶媒として良好な塗布性を示すので好ましく、1−ブタノールがより好ましい。また、混合溶剤を用いる場合もアルコール系溶剤、またはジオール系溶剤を主成分としたものが好ましく、これらを少なくとも50質量%含む溶剤の使用がより好ましい。
【0035】
本発明の塗布液組成物における上記の有機溶剤(C)の含有量は、前記の金属化合物(A)100質量部に対して、100質量部〜10,000質量部である。有機溶剤の含有量が100質量部より小さいと得られる膜にクラックが発生する、塗布性が悪化するなどの不具合をきたす。また、有機溶剤の含有量が10,000質量部を超えると得られる膜が薄くなるので生産性が悪化する。好ましくは、250〜5,000質量部であり、より好ましくは500〜2,500質量部である。
【0036】
本発明の塗布液組成物には、上記の金属化合物(A)、有機酸金属塩(B)および有機溶剤(C)以外に、任意の成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。任意の成分としては、金属化合物(A)および有機酸金属塩(B)以外のプレカーサ化合物;ゲル化防止剤、可溶化剤、安定剤、分散剤などの塗布液組成物に安定性を付与する添加剤;消泡剤、増粘剤、揺変剤、レベリング剤などの塗布液組成物の塗布性を改善する添加剤;燃焼助剤、架橋助剤などの成膜助剤が挙げられる。これらの任意の成分を使用する場合の含有量は、プレカーサ、無機性の金属化合物の場合は、所望の膜組成を与える量であり、それ以外は、それぞれ10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0037】
上記の任意成分のプレカーサ化合物としては、有機性のものとしては、脂肪族有機酸または芳香族有機酸から得られる有機酸金属化合物、金属アルコキシド化合物、β−ジケトン金属錯体、β−ケトエステル金属錯体などが挙げられ、無機性の金属化合物としては、水酸化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、セラミックス粒子が挙げられる。セラミックス粒子は、所望の複合金属酸化物膜と同組成のものでもよく、所望の金属酸化物を構成する一部の組成を有するものでもよい。
【0038】
任意成分のプレカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどの1族元素、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどの2族元素、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)、アクチノイド元素などの3族元素、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの4族元素、バナジウム、ニオブ、タンタルの5族元素、クロム、モリブデン、タングステンの6族元素、マンガン、テクネチウム、レニウムの7族元素、鉄、ルテニウム、オスミウムの8族元素、コバルト、ロジウム、イリジウムの9族元素、ニッケル、パラジウム、白金の10族元素、銅、銀、金の11族元素、亜鉛、カドミウム、水銀の12族元素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムの13族元素、珪素、ゲルマニウム、錫の14族元素、砒素、アンチモン、ビスマスの15族元素、ポロニウムの16族元素が挙げられる。
【0039】
塗布液組成物に安定性を付与する添加剤、塗布性を改善する添加剤としては、各種界面活性剤、ポリエーテル、ポリアミン、β−ケトエステル、β−ジケトン、ポリオール、有機酸、有機酸の酸無水物などが挙げられ、成膜助剤としては、硝化綿、ポリカルボン酸エステル、ポリカルボン酸、水、無機酸などが挙げられる。
【0040】
本発明の塗布液組成物は、溶液の状態でもよく、安定した分散液の状態でもよい。任意成分として無機性の金属化合物を使用しない限りは、溶液の状態が好ましい。
【0041】
次に本発明の複合金属酸化物膜の製造方法について説明する。本発明の金属酸化物膜の製造方法は、前記本発明の塗布液組成物を基体上に塗布する塗布工程、50〜200℃に加熱する乾燥工程および400〜900℃に加熱する焼成工程を経るものである。
【0042】
上記の塗布工程における塗布方法としては、スピンコート法、ディップ法、スプレーコート法、ミストコート法、フローコート法、カーテンコート法、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、刷毛塗りなどが挙げられる。
【0043】
塗布された塗布液組成物中の溶剤を揮発させる乾燥工程の後で、焼成工程よりも低い温度で加熱する仮焼工程を組み入れることもでき、焼成工程の後にアニール工程を組み入れてもよい。また、必要な膜厚を得るためには、上記の塗布工程から任意の工程までを複数繰り返せばよい。例えば、塗布工程から焼成工程の全ての工程を複数回繰り返してもよく、塗布工程と乾燥工程および/または仮焼工程を複数回繰り返してもよい。乾燥工程における温度は、100℃〜200℃が好ましい。焼成工程における温度は、450℃〜700℃が好ましい。仮焼工程における温度は150℃〜600℃が好ましく、200℃〜400℃がより好ましい。アニール工程における温度は450℃〜1,200℃が好ましく、600℃〜1,000℃がより好ましい。
【0044】
上記の仮焼工程、焼成工程およびアニール工程には、膜形成を促進する目的や膜の表面状態や電気特性を改善する目的で種々のガスを導入してもよい。該ガスとしては、酸素、オゾン、水、二酸化炭素、過酸化水素、窒素、ヘリウム、水素、アルゴンなどが挙げられる。また、プラズマや各種放射線などの熱以外のエネルギーを印加または照射してもよい。
【0045】
本発明の製造方法により製造される膜は、2族元素と4族元素とを含有する複合金属酸化物膜である。例えば、ABO3(AはBa、Sr、Ca、BはTi、Zr、Hf)で表される複合酸化物が挙げられる。より具体的には、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸バリウムストロンチウム(BaxSr1-xTiO3:x=0.3〜0.7)などが挙げられ、これらの用途としては誘電体素子、強誘電体素子、圧電体素子などが挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、製造例および実施例をもって本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例などによって何ら制限を受けるものではない。
[実施例1]塗布液組成物1〜3の製造
表1に記載のチタンプレカーサ化合物(金属化合物(A))1モル部およびバリウムプレカーサ化合物(有機酸金属塩(B))1モル部を1−ブタノールに溶解させて、金属化合物(A)の濃度換算で0.4モル/リットルの塗布液組成物1〜3を製造した。
【0047】
[比較例1]塗布液組成物比1〜3の製造
表1に記載のチタンプレカーサ化合物1モル部およびバリウムプレカーサ化合物1モル部を1−ブタノールに溶解させて、チタンプレカーサの濃度換算で0.4モル/リットルの比較例の塗布液組成物1〜4を製造した。
【0048】
[評価例]
上記実施例1および比較例1で得た塗布液組成物について、示差熱分析により、TGとDTAを測定した。測定は、30℃〜600℃、昇温10℃/分、空気気流下300ml/分でサンプル量は20〜30mg、アルミナリファレンスの条件で行った。得られたチャートから、分解挙動、分解温度の低温化を解析した。分解温度の低温化は、発熱ピークトップ温度により評価し、分解挙動はTG−DTAから読み取った。結果を表2に示す。
【0049】

【0050】

【0051】

【0052】
上記より、チタンプレカーサ化合物に前記化合物No.1〜3を用いた本発明の塗布液組成物は、チタン酸バリウムを形成する酸化熱分解反応が1段階であることが確認された。これに比べ、1価のアルコールから得られるチタンアルコキシド化合物、本発明に係るチタンプレカーサ化合物と類似の構造である、チタンジオレート化合物を用いた塗布液組成物(比1〜3)は、チタン酸バリウムを形成する酸化熱分解反応は2段階となり、チタン酸バリウムとなる最終の酸化分解温度は、高温であった。
【0053】
[実施例2]塗布液組成物4の製造
前記化合物No.2を1モル部、2−エチルヘキサン酸バリウムを0.5モル部および2−エチルヘキサン酸ストロンチウム0.5モル部を1−ブタノールに溶解させて、前記化合物No.2の濃度換算で0.4モル/リットルの塗布液組成物4を製造した。
【0054】
[実施例3、4]
前記の実施例1で得た塗布液組成物2と上記実施例2で得た塗布液組成物4をそれぞれ、Si/SiO2/Ti/Ptの積層基板にキャストし、500rpmで5秒、2,000rpmで15秒スピンコート法で塗布した後、120℃で10分間の乾燥工程、400℃で15分の仮焼工程、600℃で30分の焼成工程による形成工程を3回数行い、基板のPt層上にセラミックス膜を形成した。得られた膜について、目視と光学顕微鏡による表面クラック、断面SEM像による膜厚測定およびX線回折による組成分析を行った。結果を表1に示す。
【0055】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、湿式コーティング法による、2族元素と4族元素との複合金属酸化物膜の製造において、好適に使用できる熱酸化分解挙動を示す塗布液組成物およびこれを用いる複合金属酸化物膜の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分として、下記一般式(1)で表される金属化合物(A)を100質量部、炭素数6〜12の脂肪族有機酸と2族元素との有機酸金属塩(B)を上記金属化合物(A)1モルに対し、0.5モル〜2モルおよび有機溶剤(C)を100〜10,000質量部含有してなることを特徴とする塗布液組成物。

(R1〜R8は、各々水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは4族元素を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R1〜R8で表される基が、水素原子、メチル基およびエチル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の塗布液組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、Mがチタニウムである請求項1または2に記載の塗布液組成物。
【請求項4】
有機酸金属塩(B)が2−エチルヘキサン酸と2族元素との有機酸金属塩である請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗布液組成物。
【請求項5】
有機溶剤(C)が、炭素数1〜6のアルコール系溶剤またはジオール系溶剤を少なくとも50質量%含有するものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗布液組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗布液組成物を基体上に塗布する塗布工程、50〜200℃に加熱する乾燥工程および400〜900℃に加熱する焼成工程を経ることを特徴とする複合金属酸化物膜の製造方法。

【公開番号】特開2008−260791(P2008−260791A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102502(P2007−102502)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】