説明

塗布液組成物

【課題】高硬度、高耐湿性の導電膜が得られ、取り扱いの容易な塗布液組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の塗布液組成物は、分散媒と、導電性有機化合物と、エポキシ基を含有するジアルコキシシラン及びエポキシ基を含有するトリアルコキシシランを含む架橋剤と、を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極などに用いられる塗布液組成物及びそれを用いた導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどに透明電極が用いられている。透明電極に用いられる導電膜の材料としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との高分子錯体が主流となっている。このPEDOT/PSSは、成膜性がよく、種々の用途で使用できるので、期待されている材料である。従来、PEDOT/PSSの機械的強度及び耐湿性などを改善するため、架橋剤としてエポキシ基を有するアルコキシシランを用いる例が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
エポキシ基を有するアルコキシシランは、加水分解によってポリシロキサンとなり、分子鎖間に架橋結合(クロスカップリング)を形成する。この分子鎖間の架橋結合により、PEDOT/PSSの結合が強化され、導電膜の硬度及び耐湿性が向上する。また、特許文献1及び特許文献2において、導電膜はウェットプロセスで製造されている。ウェットプロセスでは、PEDOT/PSSと架橋剤とを溶媒中で混合・溶解して塗布液を調製し、得られた塗布液を基材上に塗布することにより成膜する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−208254号公報
【特許文献2】特開2002−60736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、アルコキシシランを用いた塗布液は塗布液を調製した後、一昼夜放置した場合、空気中の水分などによる加水分解反応が進行し、塗布液がゲル化する現象が発生する。このため、従来の塗布液においては塗布液を安定化するべく、塗布液中の架橋剤の低濃度化やバインダーなどの異種添加剤を混入することにより、ゲル化を抑制して使用されていた。
【0006】
しかしながら、塗布液中の架橋剤を低濃度化した場合や、異種添加剤を添加する場合、導電膜の機械的強度や耐湿性向上などの架橋剤添加の効果が不十分となり、導電膜の導電性能が低下する問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高硬度、高耐湿性の導電膜が得られ、取り扱いの容易な塗布液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塗布液組成物は、分散媒と、導電性有機化合物と、エポキシ基を含有するジアルコキシシラン及びエポキシ基を含有するトリアルコキシシランを含む架橋剤と、を含有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、塗布液組成物中の架橋剤の加水分解速度を制御することができるので、塗布液組成物中の架橋剤を高濃度で用いることができ、硬度が高く耐湿性が高い導電薄膜を形成できる塗布液組成物を提供することができる。また、長期間保存してもゲル化することのない塗布液組成物を提供することができる。
【0010】
本発明の塗布液組成物においては、前記導電性有機化合物は、PEDOT/PSSであることが好ましい。
【0011】
本発明の塗布液組成物においては、前記エポキシ基を含有するジアルコキシシランは、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランであることが好ましい。
【0012】
本発明の塗布液組成物においては、前記エポキシ基を含有するトリアルコキシシランは、3−グリコシドキシプロピルトリメトキシシランであることが好ましい。
【0013】
本発明の塗布液組成物においては、前記導電性有機化合物100重量部と、前記架橋剤
30重量部〜100重量部と、を含有することが好ましい。
【0014】
本発明の塗布液組成物においては、前記架橋剤は、前記エポキシ基を含有するジアルコキシシラン/前記エポキシ基を含有するトリアルコキシシランで表わされる比率が重量比で1/4〜3/2であることが好ましい。
【0015】
本発明の導電膜は、上記塗布液組成物を基材上に塗布してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高硬度、高耐湿性の導電膜が得られ、取り扱いの容易な塗布液組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る導電膜の構造を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る導電膜の架橋結合形成の反応機構を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る導電膜の抵抗変化率を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る導電膜の鉛筆硬度を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る導電膜の抵抗変化率を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る導電膜の抵抗変化率を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る導電膜の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、高硬度、高耐湿性の導電膜が得られる塗布液組成物、長期間保存してもゲル化しない塗布液組成物について鋭意研究した。まず、架橋剤として用いるアルコキシシラン化合物の反応性について調べた。通常、アルコキシシランは、アルコキシ基の置換数が多い程、反応性(加水分解性)が増大する。例えば、アルコキシシラン化合物の反応性は、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、モノアルコキシシランの順に低下する。
【0019】
また、反応性の高いトリアルコキシシランを架橋剤に用いた場合、導電膜の高硬度化、高耐湿化は達成できるが塗布液がゲル化してしまうこと、トリアルコキシシランより相対的に反応性が低いジアルコキシシランを用いた場合、塗布液のゲル化は抑制できるが、導電膜の高硬度化、高耐湿化が不十分となること、が分かった。
【0020】
さらに、アルコキシシランは、アルコキシ基の炭素鎖が長くなるほど、ケイ素原子上の立体障害などが大きくなるので、加水分解性が低下する。例えば、アルコキシシラン化合物の反応性は、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシランの順に低下する。
【0021】
そこで、本発明者は、このようなアルコキシシラン化合物の反応性に着眼し、反応性の異なる少なくとも2種類のアルコキシシラン化合物を所定の比率で混合して架橋剤として用いることにより、導電膜の機械的強度及び耐湿性を共に向上できること、塗布液のゲル化を抑制できること、を見出し本発明を完成させるに至った。
【0022】
すなわち、本発明は、相対的に反応性の低いジアルコキシシラン化合物と、相対的に反応性の高いトリアルコキシシラン化合物とを所定の割合で混合して用いることにより、架橋剤の反応性を制御し、導電膜の高硬度化及び高耐湿化と塗布液のゲル化を抑制とを共に実現できる導電膜用の塗布液組成物を提供するものである。
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係る塗布液組成物により成膜された導電膜の構造を示す模式図である。同図に示すように、この導電膜10は、基材11上に塗膜されるPEDOT/PSSと、エポキシ基を含有するジアルコキシシラン及びエポキシ基を含有するトリアルコキシシランを含む架橋剤と、を含有する。
【0024】
基材11上では、PEDOT及びPSSは、互いの分子鎖が絡み合う状態で基材11上に塗膜されている。架橋剤のない状態では、PEDOTの分子鎖とPSSの分子鎖との間には、結合が形成されていないので、それぞれの分子鎖が解れやすい状態となっている。このため、機械的強度及び耐湿性が不十分な状態となる。
【0025】
一方、PEDOT/PSSに架橋剤を添加した場合、架橋剤は、PSSと反応して分子鎖間に架橋結合を形成する。例えば、架橋結合12は、PSSの分子鎖内で架橋剤が結合した例である。この場合、PSSの分子鎖内の少なくとも2点が他のPSS及びPEDOTの分子鎖の間を縫って架橋剤によって結合される。また、架橋結合13は、PSSの分子鎖間で架橋剤が結合した例である。この場合、少なくとも2つのPSSの分子鎖が架橋剤によって結合される。このように、架橋剤が添加されることにより、PSSの分子鎖内及び分子鎖間で3次元のネットワーク状に架橋結合が形成されるので、導電膜の結合が強化され、機械的強度が向上すると共に耐湿性も向上する。
【0026】
次に、図2を参照して架橋結合形成の反応機構について説明する。本実施の形態において架橋結合は、エステル化及び加水分解反応の2段階によって形成される。まず、架橋剤のエポキシ基とPSSのスルホ基との間でエステル化反応が進行し、スルホン酸エステルとなる。次いで、アルコキシシリル基の加水分解反応により、アルコキシ基の一部が水酸基となる。次に、この水酸基と別の架橋剤のアルコキシシリル基とが反応して、シロキサン結合が形成される。そして、さらにアルコキシシリル基の加水分解とシロキサン結合の形成が繰り返されてポリシロキサンとなり、架橋結合が形成される。このようにして、架橋剤のエポキシ基にPSSが結合し、この架橋剤のアルコキシシリル基が別の架橋剤との間でシロキサン結合を形成することにより、同一分子鎖内及び異なる分子鎖間で架橋結合が形成される。
【0027】
このように、本実施の形態においては、架橋剤のエステル化反応及び加水分解反応より架橋結合が形成される。このため、反応性の低い架橋剤を用いた場合、十分に架橋結合が形成されず、導電膜の機械的強度及び耐湿性能が向上しない。また、反応性が高い架橋剤を用いた場合、例えば、塗布液調製後、基材への塗布の前に空気中の水分などによってゲル化が進行し、塗布が不可能となる。
【0028】
そこで、本実施の形態においては、架橋剤として互いに反応性の異なるエポキシ基を含有するジアルコキシシランとエポキシ基を含有するトリアルコキシシランとを混合して用いることにより、ゲル化を抑制すると共に、導電膜の高強度化、高耐湿性を達成する。本実施の形態において、エポキシ基を含有するジエポキシシランとしては、例えば、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどを用いることができる。これらの中でも3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランを用いることが好ましい。
【0029】
また、エポキシ基を含有するトリエポキシシランとしては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いることがより好ましい。
【0030】
次に、塗布液組成物の配合を変更して導電膜M1〜導電膜M12を作成し、架橋剤成分の効果について調べた結果について説明する。なお、導電膜M1〜導電膜M12には、ジアルコキシシランとして、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(以下、単にジエトキシシランという)を使用し、トリアルコキシシランとして、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、単にトリメトキシシランという)を使用した。導電膜M1〜導電膜M12に用いた塗布組成物の配合について下記表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
図3は、導電膜の抵抗変化率(耐湿性)を示す図である。図3に示す例は、架橋剤を添加しない導電膜M1、PEDOT/PSS100重量部に対してトリメトキシシラン50重量部及びジエトキシシラン50重量部を添加した導電膜M2、PEDOT/PSS100重量部に対してトリメトキシシラン100重量部を添加した導電膜M3、及びPEDOT/PSS100重量部に対してジエトキシシラン100重量部を添加した導電膜M4を示している。
【0033】
図3に示すように、導電膜M2及び導電膜M3は、長時間に亘って低い抵抗変化率を保っている。ただし、導電膜M3の形成に用いた塗布液組成物は、時間の経過と共にゲル化する。一方、導電膜M4は、導電膜M1と比較して抵抗変化率は低下するが、導電膜M2、M3と比較して抵抗変化率が高く、更に時間の経過と共に抵抗変化率が上昇する。このように、ジエトキシシランとトリメトキシシランとを混合して用いた本実施の形態に係る導電膜M2は、塗布液のゲル化を伴うことなく、トリメトキシシランのみを架橋剤に用いた導電膜M3と同様の耐湿性が得られる。
【0034】
次に、導電膜の硬度について調べた。図4は、図3で示した導電膜M1〜導電膜M4の鉛筆硬度を示す図である。同図に示すように、本実施の形態に係る導電膜M2は、導電膜M3同様の高い硬度が得られる。また、導電膜M4は、鉛筆硬度は向上するものの導電膜M2及び導電膜M3より低い値となっている。このように、本実施の形態係る導電膜M2は、導電膜M3と同様の高い硬度が得られる。
【0035】
次に、塗布液中の架橋剤の濃度及び膜厚と得られる導電膜の耐湿特性との関係を調べた。図5は、架橋剤の濃度及びを変化させた場合における抵抗変化率を示す図である。図5に示す例は、架橋剤のジエトキシシランとトリメトキシシランとの混合比を1:1とし、導電膜に対して架橋剤濃度を30重量部の範囲とし、膜厚を120nmとした導電膜M5、架橋剤濃度を50重量部とし、膜厚を190nmとした導電膜M6、導電膜M6に対して膜厚のみを260nmとした導電膜M7、架橋剤にトリメトキシシランのみ用い、架橋剤濃度を50重量部とし、膜厚を390nmとした導電膜M8、を示している。
【0036】
図5に示すように、架橋剤の濃度が30重量部の導電膜M5では、抵抗変化率が高く、耐湿性が発現しない。一方、導電膜M6に示すように、架橋剤濃度を50重量部にすると耐湿性が向上する。また、導電膜M6と同一の組成で、膜厚が190nmの導電膜M7は、長時間経過しても低い抵抗変化率を維持している。なお、トリメトキシシランのみを用いた導電膜M8は、低い抵抗変化率が得られているが、導電膜M8の製膜に用いる塗布液は、時間の経過と共にゲル化する。このように、導電膜M7は、塗布液のゲル化を伴わずに導電膜M8に匹敵する耐湿性能が得られる。
【0037】
本実施の形態において、ジエトキシシラン及びトリメトキシシランを重量比で1:1に混合した場合、架橋剤の濃度は、通常、PEDOT/PSS100重量部に対して、30重量部〜100重量部の範囲で用いられる。架橋剤の濃度が30重量部以上であれば、導電膜の高硬度化、高耐湿化を実現できる。また、架橋剤の濃度が100重量部以下であれば、導電膜の導電性能を低下することなく導電膜を高硬度化、高耐湿化できる。より好ましくは、30重量部〜100重量部であり、さらに好ましくは、50重量部〜100重量部である。
【0038】
また、本実施の形態において、導電薄膜の膜厚は、100nm〜400nmであることが好ましい。膜厚が200nm以上であれば、薄膜の導電性を確保できる。また、膜厚が400nm以下であれば、導電膜の硬度及び耐湿性が確保できる。より好ましくは、200nm〜300nmである。
【0039】
さらに、トリメトキシシランとジエトキシシランの混合比について調べた。図6は、トリメトキシシランとジエトキシシランの比率を変化させた時の抵抗変化率を示す図である。図6の例は、架橋剤の濃度をPEDOT/PSS100重量部に対して100重量部とし、トリメトキシシラン:ジエトキシシランの比率を0:5とした導電膜M9、1:4とした導電膜M10、2:3とした導電膜M11、3:2とした導電膜M12を示している。
【0040】
図6に示すように、トリメトキシシランを混合しない導電膜M9は、抵抗変化率が高い値となっている。一方、トリメトキシシランを混合した導電膜M10は、導電膜M9に対して抵抗変化率が低下する。また、トリメトキシシランの混合比を増やした導電膜M11、導電膜M12は、導電膜M10に対してさらに抵抗変化率が低下する。特に、トリアルコキシシランの配合率が、トリメトキシシラン:ジエトキシシラン2:3以上である導電膜M11、導電膜M12は、高い耐湿性能が発現する。なお、トリメトキシシラン:ジエトキシシランの混合率は、3:2までトリメトキシシランを増やしても、塗布液組成物のゲル化を抑制することができる。
【0041】
本実施の形態においては、トリアルコキシシランとジアルコキシシランの混合率は、トリアルコキシシラン/ジアルコキシシランの比率が重量比で1/4〜3/2の範囲であることが好ましい。トリアルコキシシラン/ジアルコキシシランが1/4以上であれば、導電膜の高硬度化、高耐湿化を実現できる。また、トリアルコキシシラン/ジアルコキシシランが3/2以下であれば、塗布液組成物のゲル化を抑制できる。トリアルコキシシラン/ジアルコキシシランは、1:4〜3:2がより好ましく、2:3〜3:2がさらに好ましい。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、加水分解性能の異なるジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランを塗布剤中に混合して用いることにより、アルコキシシランの反応性を制御することができるので、塗布液組成物のゲル化を抑制できると共に、高硬度かつ高耐湿性の導電膜を得ることができる。また、バインダーなどの異種添加剤を用いないので、導電薄膜の導電性能を損なうことなく、塗布液組成物のゲル化を抑制することができる。
【0043】
次に、本実施の形態に係る導電膜の製造工程について説明する。
図7は、本実施の形態に係る導電膜の製造工程を示すフロー図である。本実施の形態に係る導電膜の製造工程は、架橋剤を調合する架橋剤溶液調合工程と、架橋剤溶液とPEDOT/PSS分散水溶液を混合して塗布液組成物を調液する塗布液組成物調製工程と、塗布液組成物をPETフィルム基材上へ塗布する塗布工程と、フィルム基材を加熱処理するベーク工程などを含む。
【0044】
まず、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランをアルコール溶媒中で混合・溶解して架橋剤溶液を調合する(ステップST1)。次いで、PEDOT/PSSの分散液、エンハンサーとしてのDMSOを順に添加・混合して塗布液組成物を調製する(ステップST2)。次に、得られた塗布液組成物を濾過する(ステップST3)。導電膜を塗布する基材は、PETフィルムを所定の大きさに切り取り、切り取ったPETフィルムをガラスウエハーに貼り付けて調製する(ステップST4)。
【0045】
次に、スピンコーターにより、基材上に塗布液組成物を塗布する(ステップST5)。この時に、スピンコートの条件により導電膜の膜厚を調整することができる。本実施の形態においては、スピンコートの条件を3秒間かけて600rpmとし、600rpmで10秒間保持する。次いで、5秒間かけて1400rpmとしたのち、1400rpmで20秒間保持して塗膜する。このような条件で成膜することにより、200nm程度の膜厚に調整することができる。また、膜厚はスピンコートの条件を500rpmとした場合、12900nm程度となり、1000rpmとした場合、300nm程度となる。また、2000rpmとした場合は、150nm程度となる。このように、スピンコートの条件を調整することにより、塗膜の膜厚は所望の値に調製することができる。
【0046】
次いで、塗膜を90℃で10分間プリベークし(ステップST6)、最後に120℃でベーク(ステップST7)して導電膜を製造する。
【0047】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0048】
<評価方法>
導電膜の評価は、下記の条件に従って実施した。
<全光線透過率(導電膜のみ)>
全光線透過率は、UV可視スペクトルメータを用いて導電膜の全光線透過率を測定した。
【0049】
<面積抵抗試験>
面積抵抗試験は、導電膜の表面抵抗を4端子式面積抵抗計(三菱化学製LORESTA
EP MCP−1360)を用いて測定した。
【0050】
<低荷重鉛筆硬度試験>
低荷重鉛筆硬度試験は、電子天秤(saltorius社製、品名CP6201)を用いて実施した。試験方法は、電子天秤上に評価サンプルを設置し、電子天秤の数値が100g±20gの範囲になるようして膜を鉛筆(三菱鉛筆社製)で擦ることにより、導電膜の強度を測定した。
【0051】
<恒温恒湿試験>
恒温恒湿試験は、ガラス基板上に成膜した導電膜を、温度60度、相対湿度95RH%の環境下に導電膜を240時間保持し、その後、取り出して、この透明導電膜Bの表面抵抗を再度測定した。そして、この透明導電膜Bの恒温恒湿試験前後における表面抵抗の変化率ΔRを、下記の式(1)により算出した。
ΔR(%)=(恒温恒湿試験後の表面抵抗/恒温恒湿試験前の表面抵抗)×100 式(1)
【0052】
<ウェット綿棒摩耗試験>
ウェット綿棒摩耗試験は、電子天秤(saltorius社製、品名CP6201)を用いて実施した。試験方法は、電子天秤上に評価サンプルを設置し湿らせた綿棒にて電子天秤の数値が500g±50gの範囲になるようにして膜を擦ることにより、導電膜の強度を測定した。
【0053】
(実施例)
<塗布液調製工程>
エタノール100gと3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ社製、商品名:silquest A−187)1g及び3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(モメンティブ社製、商品名:Wetlink 78)1gを混合して架橋剤のブレンド液を調製した。次いで、架橋剤のブレンド液とPEDOT/PSS水性分散液(H.C.Starck社製、商品名:PH510)100gとを混合して塗布液組成物を調製した。次にエンハンサーとして、塗布液組成物に対して5重量部のDMSOを添加した。混合溶解した後、塗布液をクリーンルーム内で孔0.45μmのフィルターでろ過して塗布液組成物を調製した。なお、この塗布液組成物は、室温で1週間放置してもゲル化しなかった。
【0054】
<基材の調製>
クリーンルーム内でPETフィルムをカットした(長さ60mm×幅60mm×厚さ0.2mm)。次いで、このPETフィルムをガラスウェハー(φ100mm×厚さ1.1mm)に貼り付けて導電薄膜の基材を調製した。
【0055】
<塗布工程>
スピンコーター(ミカサ社製)を用いて回転数1400rpm、回転時間20秒の条件下、基材上に塗布液組成物を塗布した。
【0056】
<ベーク工程>
得られた薄膜を90℃で10分プリベークし、次いで、120℃で20分間本ベークした。得られた導電膜の膜厚は、260nmであった。また、全光線透過率は93.60%、面積抵抗は320Ω/m、低荷重鉛筆硬度試験はH、高温高湿試験はΔR=±10%以下、ウェット綿棒摩耗試験は20回以上であった。その結果を表2に示す。
【0057】
(比較例1)
架橋剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ社製、商品名:silquest A−187)2gのみを用いた以外は実施例1と同様の手順で塗布液組成物を調製し、導電膜を作製した。この塗布液組成物は、一昼夜放置後ゲル化した。得られた導電膜の膜厚は、310nmであった。また、全光線透過率は93.40%、面積抵抗は310Ω/m、低荷重鉛筆硬度試験はH、高温高湿試験はΔR=±10%以下、ウェット綿棒摩耗試験は20回以上であった。
(比較例2)
架橋剤として3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(モメンティブ社製、商品名:Wetlink 78)2gのみを用いた以外は実施例1と同様の手順で塗布液を調製し、導電膜を作製した。この塗布液は、一昼夜放置してもゲル化しなかった。得られた導電膜の膜厚は、290nmであった。また、全光線透過率は89.00%、面積抵抗は1800Ω/m、低荷重鉛筆硬度試験はH、高温高湿試験はΔR=+10%、ウェット綿棒摩耗試験は3回であった。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示すように、本実施の形態に係る塗布液組成物を用いた実施例1によれば、反応性の高いトリメトキシシランにより、導電膜に架橋結合が形成されるので、高い耐湿性が得られると共に、低荷重鉛筆試験、ウェット綿棒耐性試験においても、高い耐摩擦性が得られる。また、ジエトキシシランの作用により、加水分解反応を抑制できるので、塗布液のゲル化を抑制できる。また、実施例1及び比較例1に示すように、実施例1の導電膜は、トリメトキシシランのみを用いたものと同程度の硬度及び耐湿性を得ることができる。また、比較例2に示すように、ジエトキシシランのみを用いたものは、導電膜の耐摩擦性及び耐湿性が不十分な結果となる。
【0060】
以上説明したように、本実施の形態においては、架橋剤として反応性が高いトリアルコキシシランとトリアルコキシシランより相対的に反応性が低いジアルコキシシランとを混合して用いることにより、塗布液組成物の加水分解反応を制御することができるので、塗布液のゲル化を抑制することができる。
【0061】
従来技術においては、トリアルコキシシランによる塗布液のゲル化を抑制するため、架橋剤を低濃度で用いたり、他の添加剤として安定剤を添加して用いていた。一方、本実施の形態においては、安定剤などの添加剤を用いることなく塗布液組成物の加水分解反応を制御することができるので、導電膜の性能を損なうことなく耐湿性及び耐摩耗性を向上させることができる。また、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランの混合比を調整することにより、高濃度で架橋剤を用いることができるので、導電膜の耐摩擦性能を向上させることができる。
【0062】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、有機EL、太陽電池など、各種透明電極を用いたデバイスに適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 導電膜
11 基材
12,13 架橋結合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と、導電性有機化合物と、エポキシ基を含有するジアルコキシシラン及びエポキシ基を含有するトリアルコキシシランを含む架橋剤と、を含有することを特徴とする塗布液組成物。
【請求項2】
前記導電性有機化合物は、PEDOT/PSSであることを特徴とする請求項1記載の塗布液組成物。
【請求項3】
前記エポキシ基を含有するジアルコキシシランは、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の塗布液組成物。
【請求項4】
前記エポキシ基を含有するトリアルコキシシランは、3−グリコシドキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の塗布液組成物。
【請求項5】
前記導電性有機化合物100重量部と、前記架橋剤30重量部〜100重量部と、を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の塗布液組成物。
【請求項6】
前記架橋剤は、前記エポキシ基を含有するジアルコキシシラン/前記エポキシ基を含有するトリアルコキシシランで表わされる比率が重量比で1/4〜3/2であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の塗布液組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6記載のいずれかに記載の塗布液組成物を基材上に塗布してなることを特徴とする導電膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−270274(P2010−270274A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125371(P2009−125371)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】