説明

塗布装置

【課題】被加工物の大きさに対応して自動的に塗布液を供給し、塗布量が極く微量の場合であっても塗布液を連続して安定してミスト化するとともに、安価に製造し、また、被加工物に対応してきめ細かい流量調節を行ない、更には、メンテナンスを不要とする。
【解決手段】空気流路2と、冷却水流路3及び潤滑油流路4と、空気に混入される塗布液の混入量を調節する液量調節部11とを備え、液量調節部11は、偏平帯板状の隙間空間15aからなる流路15で形成し、流入部16から流出部17に至る流路抵抗が塗布液供給部の近傍で最小となるように形成し、空気は最初に塗布液供給部の近傍に流れ、吹出空気量が増大するに従って流路15の幅方向にも拡大して流れるとともに、吹出空気量に対応して塗布液供給部の近傍を通流する空気の流速が変化し差圧が変化することによって、塗布液の空気への混入量を調節するものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削加工に使用する潤滑油や冷却水などの塗布液を被加工物に塗布する塗布装置に関するもので、特に、小さい被加工物に対しても極く微量の塗布液を安定して塗布する塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属材料、合成樹脂材料等の切削加工においては、被加工物表面の潤滑及び熱発生による変形防止や工具保護のために潤滑油、冷却水などの塗布液を空気スプレーによって塗布することが行なわれている。これらの塗布液を塗布するにはポンプ等を使用して空気及び塗布液を送り込み、空気中に塗布液を混入させて、加工刃物自体に設けられている吹出流路先端の吹出孔または加工刃物から離間して別途に取付けられた吹付ノズルから被加工物にスプレー塗布している。
【0003】
ところで、近年環境問題、油剤の節約などの点から、被加工物が小さいものに対してはその大きさに対応して極く微量の塗布液を吐出し、ミスト化して使用する研究開発が行なわれ、実施されてきている。即ち、被加工物が小さくて本来極く微量の塗布液を塗布すれば足りるところを過剰量の塗布液を塗布することによって職場環境更には自然環境を悪化させ、また、塗布液が無駄となるのを防止すべく改善が進められている。ここで、一般には、塗布液は被加工物の大きさに対応して、均一にミスト化して良好な噴霧状態を得るために、流量調節バルブを操作するなどして必要最小限の適量が供給される。
【0004】
しかし、従来の塗布装置は、被加工物が異なる毎にその大きさに対応して流量調節バルブを調整し直さなければならなかった。また、供給ポンプを使用するものではピストンの往復回数を調節し直さなければならなかった。このため、塗布液量を調節するのは、大変煩わしく面倒な作業となっていた。また、調整操作を忘れて油剤を無駄に使用したり、逆に噴霧不足から切削不良となることも往々としてあった。
【0005】
更に、被加工物が小さく極く微量の塗布液を供給する場合に、従来の液量調整バルブや液滴で落下させて供給する装置などではバルブを極く微量に絞り込んで供給することができなかった。また、塗布液の供給が不連続で脈動し易く、低コストで連続して安定に供給することはできなかった。
【0006】
このようなことに鑑み、本件出願人は、特許第3390831号公報において、空気供給源から送給された空気を吹出側に導く空気流路の途中に、細溝からなる主流路とこれから分岐した複数の細溝からなる分岐流路とで形成され、吹出空気量に対応して塗布液供給部における差圧を変化させて塗布液の流量を調節する流量調節部を設けた塗布装置を提案した。この塗布装置によれば、被加工物の大きさに対応して自動的に吹出空気量に合致した油のミスト濃度を得ることができるので、被加工物が異なる毎に油量調節バルブを調整し直したり、供給ポンプのピストンの往復回数を調整し直したりする手間を省くことができる。また、油の塗布量が微量であっても、常に一定で均一な油のミストを供給することができる。そして、流量調節部は弁などの部品を全く使用しないので、故障の心配がなく、安定して稼働できる。
【特許文献1】特許第3390831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記特許第3390831号公報に掲載の塗布装置は、流量調節部が主流路と複数の分岐流路とからなる複雑な構造となっており、いずれも細溝で形成されているので、その溝加工が面倒で手間を要し、製造コストが高いものとなっていた。また、流量調節部は主流路と複数の分岐流路とで構成されているから、この部分を通流する空気流量は段階的に変化するものであり、その間においても無段階に任意の流量を通流し得るものではなかった。このため、よりきめの細かい流量調節を行なうことができなかった。更に、流量調節部は流路が複数の細溝で形成され、複雑な構造となっているため、メンテナンスが必要であった。
【0008】
そこで、本発明は、被加工物の大きさに対応して自動的に塗布液を供給でき、塗布量が極く微量の場合であっても塗布液を連続して安定してミスト化できるとともに、安価に製造でき、また、任意の流量を通流して被加工物の大きさに対応してきめ細かい流量調節ができ、更には、メンテナンスが不要の塗布装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の塗布装置は、空気供給源から送給された空気を導入して吹出側に導く空気流路と、塗布液容器に加わる気圧と前記空気流路の途中に設けられた塗布液供給部における気圧との差圧によって、前記塗布液容器内の塗布液を前記塗布液供給部に送り込む塗布液流路と、前記空気流路の途中に設けられ、前記塗布液容器から前記塗布液供給部に送り込まれて前記空気流路を通流する空気に混入される前記塗布液の混入量を調節する液量調節部とを備えている。そして、前記液量調節部は、空気が通流する偏平帯板状の隙間空間からなる流路で形成され、その流入部から流出部に至る流路抵抗が前記流路の幅方向において前記塗布液供給部の近傍で最小となるよう形成され、空気は前記流路内において最初に前記塗布液供給部の近傍を流れ、吹出空気量が増大するに従って前記塗布液供給部から流路の幅方向に離間する部分にも拡大して流れるとともに、吹出空気量に対応して前記塗布液供給部の近傍を通流する空気の流速が変化し前記差圧が変化することによって、前記塗布液の空気への混入量を調節するものである。
【0010】
即ち、この塗布装置は、塗布液容器に加わる気圧が塗布液供給部における気圧より大きいため、その差圧によって塗布液供給部に送り込まれ、空気流路を通流する空気中に混入される。ここで、塗布液供給部における気圧は、この塗布液供給部の近傍を通流する空気の流速によって左右され、流路抵抗、管路抵抗や塗布液の粘性等によっても異なるが、基本的には、ベルヌーイの定理によって、流速が大きくなる程この部分の気圧は低下し、塗布液容器に加わる気圧との差圧が増大する。したがって、被加工物の大きさに対応して吹出空気量が増加するに伴って、塗布液供給部の近傍を通流する空気の流速は大きくなり、差圧が拡大するため、塗布液の混入量は被加工物の大きさに対応して自動的に適量が混入されることとなる。
【0011】
次に、被加工物が小さく、塗布液を極く微量塗布する必要があるときは、それに応じて吹出空気量も極く少量となる。ここで、液量調節部は、空気が通流する扁平帯板状の隙間空間からなる流路で形成され、空気は極く狭い空間内を通流することになるので、全体として多大な流路抵抗を受ける。その一方、液量調節部の流入部から流出部に至る流路抵抗は塗布液供給部の近傍で最小となるよう形成されている。これは、塗布液供給部から離間した位置に空気を流しても、塗布液供給部の近傍の気圧はほとんど影響を受けることがなく、低下による差圧を生じないので、塗布液容器から塗布液が押し出されてこない。そこで、敢えてこの塗布液供給部の近傍における流路抵抗を最小にして少なくともこの塗布液供給部の近傍には空気が流れるようにしたのである。
【0012】
これらのことから、空気は、液量調節部のうちで、流路の幅方向において、流路抵抗が最小で最も流れ易い部分であって、塗布液が塗布液容器から押し出されてくる塗布液供給部の近傍の部分に集中して流れ込み、通流することとなる。これにより、この部分において空気の流れは加速され、流速は大きいものとなる。その結果、塗布液の重量に抗して塗布液容器から塗布液供給部に送り出すに足る差圧が生じ、塗布液は微量の吹出空気量に合致した微量が確実に液量調節部内に供給され、空気中に混入されることになる。
【0013】
一方、吹出空気量が多い場合は、流路の幅方向において最も流路抵抗の小さい塗布液供給部の近傍のみでなく、吹出空気量に対応して液量調節部の流路抵抗に抗して塗布液供給部から幅方向に離間する部分にも流れ、即ち、通流断面積が連続的に拡大し、吹出空気量と同一の多量の空気が液量調節部内を流れることとなる。同時に、塗布液供給部の近傍の空気の流速は大きくなり、差圧が大きくなって、吹出空気量に対応した多量の塗布液が塗布液供給部に送り出されることとなる。
【0014】
このように、液量調節部の流路は、形態上は、偏平帯板状の隙間空間からなるので、一定の通流断面積を有するのであるが、狭い空間で形成されていて相当の流路抵抗を生ずるために、空気は、まず、流路の幅方向、即ち通流方向と直交する方向において流路抵抗が最も小さく一番流れ易い塗布液供給部の近傍に流れ込んで通流し、以下、吹出空気量が増加するに従って前記塗布液供給部から流路の幅方向に離間する部分にも拡大して流れ、実質的には、通流断面積は無段階に連続的に拡大する。これにより、塗布液は、空気への混入量が極く微量から多量に至るいずれの場合においても、常に安定して均一に塗布されることとなる。
【0015】
次に、請求項2の塗布装置は、液量調節部が、極く微量の塗布液を空気に混入可能な隙間空間からなる流路で形成されている、即ち、流路は極く狭い隙間空間で形成されているから、請求項1と同様に、極く微量の塗布液であっても常に一定量を安定して供給できる。
【0016】
請求項3の塗布装置は、特に、液量調節部における空気の流入部から流出部に至る流路長が塗布液供給部の近傍で最小に形成されたものである。具体的には、例えば、壁材に台形状の開口を有する凹部を刻設し、該開口を他の壁材等で閉塞して偏平帯板状の隙間空間に形成することができ、空気は台形状の平行する2辺間をこれらの辺に沿って通流する。これにより、液量調節部内の空気は最初に流路長が短かいことによって流路抵抗が最も小さい最短路の塗布液供給部の近傍を通流し、以下、通流する空気量が増大するに従って他の流路長の部分にも流れる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明は、液量調節部が設けられていることにより、被加工物の大きさに対応する吹出空気量に応じてその空気中の塗布液のミスト量もほぼ比例して変化し、塗布液の塗布量が極く微量であっても、常に空気中の塗布液のミスト量は一定で均一なものとなる。これにより、被加工物には過不足なく最適な塗布量が吹出されるので、良好な潤滑状態、冷却状態が得られるとともに、過剰な潤滑油等の塗布液のミストが散布されることによる作業環境の悪化を防止できる。また、液量調節部は弁などの部品を全く使用しないから、塗布装置間で塗布量がばらつくことがなく、故障のない安定した装置を提供できる。更に、被加工物の大きさが異なっても、自動的に吹出空気量に合致したミスト濃度を得ることができるので、被加工物が異なる度に液量調節バルブを調整し直したり、供給ポンプのピストンの往復回数を調整し直したりする手間を省くことができる。
【0018】
そして、特に、液量調節部は、空気が通流する偏平帯板状の隙間空間からなる流路で形成されているため、構造が簡易で安価に製造できるとともに軽量化できる。また、吹出空気量が増大するに従って液量調節部内の空気は塗布液供給部の近傍から流路の幅方向に離間する部分にも拡大して流れ、通流断面積が連続的に拡大するから、被加工物の大きさに対応する液量の塗布液を自動的にきめ細かく供給できる。更に、簡易な偏平帯板状の流路のみで形成されているため、メンテナンスが不要である。
【0019】
次に、請求項2の発明は、液量調節部が、極く微量の塗布液を空気に混入可能な隙間空間からなる流路で形成されているから、請求項1と同様の効果を奏する。
【0020】
請求項3の発明は、特に、液量調節部における空気の流入部から流出部に至る流路長が塗布液供給部の近傍で最小に形成されているから、簡易な構造で液量調節部のうち塗布液供給部の近傍において流路抵抗が最も小さくなるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の塗布装置を図1及び図2に基づいて説明する。ここで、図1は本発明の実施形態の塗布装置を示す模式図、図2は図1のA−A切断線による断面図である。なお、本実施形態では、塗布液として潤滑油及び冷却水を使用した例を示す。
【0022】
図1において、塗布装置1は、エアコンプレッサ21から送出された空気Aを吹出ノズル7または加工刃物8の吹出孔8aに導く空気流路2と、塗布液容器としての冷却水圧力タンク5から送出された冷却水Wを後述する冷却水供給部18に送り込む冷却水流路3と、別の塗布液容器としての潤滑油圧力タンク6から送出された潤滑油Oを潤滑油供給部19に送り込む潤滑油流路4と、空気流路2を通流する空気Aに混入される冷却水W及び潤滑油Oの混入量を調節する液量調節部11とを主な構成要素としている。
【0023】
エアコンプレッサ21から送出された空気Aは電磁弁等の空気開閉バルブ22によって流路が開閉され、空気開閉バルブ22が開の状態で空気流路2内に流れ、液量調節部11を通流し、吹出ノズル7または加工刃物8の吹出孔8aから図示しない被加工物に向けて吹き出され、一部は分岐部2aで圧力タンク側に分岐し、更に、分岐部2bで冷却水圧力タンク5と潤滑油圧力タンク6とに分岐して、これらの圧力タンク内を加圧するようになっている。分岐部2bと冷却水圧力タンク5との間、及び分岐部2bと潤滑油圧力タンク6との間には、それぞれ逆流を防止するチェック弁23及びチェック弁24が設けられている。
【0024】
冷却水圧力タンク5と液量調節部11との間は冷却水流路3となっており、その流路途中に、冷却水Wの通流を制御する冷却水開閉バルブ25と、この冷却水開閉バルブ25を通過した冷却水Wの流量を調節して空気A中における冷却水Wの濃度を粗調節する濃度調節バルブ26とが設けられている。ここで、この濃度調節バルブ26は空気A中に混入される冷却水Wの量を概略調節するものであり、微量の冷却水Wを吹出空気量に精度良く対応して微調節する液量調節部11とは異なる。同様に、潤滑油圧力タンク6と液量調節部11との間は潤滑油流路4となっており、その流路途中に、潤滑油Oの通流を制御する潤滑油開閉バルブ27と、この潤滑油開閉バルブ27を通過した潤滑油Oの流量を調節して空気A中における潤滑油Oの濃度を粗調節する濃度調節バルブ28とが設けられている。
【0025】
次に、本発明の特徴である前記液量調節部11は、図2に示すように、鋼材或いは合成樹脂材等からなる一対の第1壁材12と第2壁材13との間に設けられており、本実施形態では、第1壁材12側に凹部14を刻設し、その開口14aを第2壁材13で閉塞して、その間に形成された隙間空間15aによって偏平帯板状の流路15を形成して成る。更に具体的には、液量調節部11の本体部分である凹部14と、エアコンプレッサ21から送出された空気Aが流入する流入部16と、凹部14内の空気Aが吹出ノズル7または加工刃物8の吹出孔8a側に流出する流出部17と、冷却水圧力タンク5から冷却水流路3を通って送出されてきた冷却水Wが供給開孔18aから流入し、供給される冷却水供給部18と、潤滑油圧力タンク6から潤滑油流路4を通って送出されてきた潤滑油Oが供給開孔19aから流入し、供給される潤滑油供給部19とで構成されている。
【0026】
液量調節部11の凹部14は、開口14aが、図1に示すように、逆向き台形状に形成されている。流入部16は台形状の傾斜面に沿って形成され、その傾斜面全体に形成された流入開口16aから凹部14内に空気Aが流入するようになっている。また、流出部17は台形状の傾斜面に沿って形成され、その傾斜面全体に形成された流出開口17aから凹部14外に空気Aが流出するようになっている。そして、凹部14は、図2に示すように、深さdが極く小さく形成され、幅wが大きく形成されて、隙間空間15aが非常に小さい偏平帯板状の流路15に形成されている。なお、液量調節部11の流路15の寸法は、塗布装置1の大きさ、塗布液の材質、性状等によって異なるので、試作、試行により最適値を見い出し、設定するとよい。これにより、空気Aが凹部14内を流入部16から流出部17に向けて流れるときは、第1壁材12及び第2壁材13の壁面から大きな流路抵抗を受けることとなり、その流路抵抗は流路長lにほぼ比例して増大する。
【0027】
液量調節部11の凹部14はこのような構造となっているから、空気Aは流入部16の流入開口16aから凹部14内に流入した後、台形状の上下辺に沿って平行に流れ、流出部17の流出開口17aから凹部14外に流出する。このようなことから、空気Aは凹部14内を流れるとき、流路が長い程大きな流路抵抗を受けるため、また、流体の慣性によって流入部16の先端まで流れ易いため、空気流量が少ない場合は、自ずと、図3(a)に示す、流入部16の先端側にあって流路長lが最も小さく流路抵抗が最も小さい冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍の流線イの部分を通って流出開口17aに向かうこととなる。
【0028】
一方、空気流量が少し多い場合は、図3(b)に示す、流路長lがやや大きく流路抵抗が少し大きい流線ロの部分にも流れることとなる。即ち、空気Aの流線イの部分のみでは通流しきれない流量分は流線ロの部分に流れ、空気Aは流線イに流線ロが加わることによって通流断面積が増大した部分を流れることとなる。そして、空気流量が更に多い場合には、図1に示す、流路長lが更に大きく流路抵抗が更に大きい流線ハの部分にも流れることとなる。即ち、空気Aの流線イ及び流線ロの部分のみでは通流しきれない流量分は流線ハの部分に流れ、空気Aは流線イの部分と流線ロの部分とに流線ハの部分が加わることによって通流断面積が更に増大した部分を流れることとなる。以下、空気流量が更に増すに従って、空気Aが通流する流線の部分は順に拡大し、最終的には、空気Aは、図3(c)に示すように、凹部14内の隙間空間15aの全体を流れることとなる。一方、空気流量が増すに従って、同時に、冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍の流線イの部分を流れる空気の流速も増大する。
【0029】
ここで、通流断面積は、外部から何ら操作されることなく、空気流量に応じて自然にかつ自在に拡大変化する。即ち、外見上は凹部14の通流断面積は幅w、深さdの大きさを有してはいるものの、隙間空間15aが大変小さく空気Aが流れるときに多大な流路抵抗を受けるため、実質的には、通流断面積は、流路抵抗が最も小さく流れ易い流線イの部分から空気流量が増すにつれて順次他の流線ハの部分などへと自在に拡大変化し、かつ、無段階に連続的に可変する構造となっている。
【0030】
なお、液量調節部11の凹部14の深さdは極く小さく形成しているが、流入部16及び流出部17における流路はこの大きさ及び形状に限られるものではない。
【0031】
次に、このように構成された塗布装置1における空気A、冷却水W及び潤滑油Oの流れ及び流量について説明する。
今、冷却水圧力タンク5に加わる気圧p1は、エアコンプレッサ21の圧縮空気圧とほぼ同一の一定値であるのに対し、液量調節部11の凹部14内の冷却水供給部18における気圧p2は、この部分を空気Aが流れる以上、周辺部の気圧より低くなり、ベルヌーイの定理によって、この部分を通流する空気Aの流速に応じて変化し、流速が大きくなる程小さくなる。したがって、p1>p2であって、その差圧により、冷却水圧力タンク5内の冷却水Wは冷却水流路3内に押し上げられて供給開孔18aから冷却水供給部18内に送り出され、空気A中に混入する。同様に、潤滑油圧力タンク6内の潤滑油Oは潤滑油圧力タンク6から潤滑油流路4内に押し上げられて供給開孔19aから潤滑油供給部19内に送り出される。
【0032】
そこで、まず、被加工物が小さい場合は、空気Aは吹出ノズル7または加工刃物8の吹出孔8aで絞られて極く少量が吹き出されるから、当然塗布装置1内の空気流路2を流れる流量も同一の極く少量である。このため、図3(a)に示すように、エアコンプレッサ21から送出されて液量調節部11の隙間空間15a内に送られた空気Aは流入部16における台形状の傾斜面に沿って流入開口16aから流路抵抗が最も小さく流路15内では最も流れ易い冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍の流線イの部分を通流し、流出部17に向けて流れることとなる。このとき、流路15内の流線イの部分を流れ、冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍を流れる空気Aの流量は少なく、流速は小さいため、冷却水供給部18及び潤滑油供給部19における気圧p2の低下は小さい。したがって、この気圧p2と圧力タンクに加わる気圧p1との差圧は小さい。但し、空気Aは、流線イの通流断面積が相当小さいことから相応の流速を生じるため、前記差圧は、冷却水圧力タンク5内の冷却水Wを冷却水供給部18に送り出し、また、潤滑油圧力タンク6内の潤滑油Oを潤滑油供給部19に送り出すに足る大きさとなっている。これらのことにより、冷却水圧力タンク5からは極く少量の冷却水Wが冷却水流路3を通流して冷却水供給部18内に押し出され、潤滑油圧力タンク6からは極く少量の潤滑油Oが潤滑油流路4を通流して潤滑油供給部19内に押し出され、それぞれ流路15内の空気A中に混入される。
【0033】
つまり、被加工物が小さく吹出空気量が極く少ない場合は、その空気A中に混入される冷却水W及び潤滑油Oも極く少量となる。このことから、被加工物が小さく、冷却水W及び潤滑油Oがミスト化されて吹出ノズル7または加工刃物8の吹出孔8aから極く少量だけ吐出される場合であっても、液量調節部11によって被加工物の大きさに対応した適量が確実に空気A中に供給され、混入された後、吹き出される。
【0034】
次に、被加工物が少し大きい場合は、それに応じて吹出ノズル7及び加工刃物8の吹出孔8aからは少し多い量の空気Aが吹き出される。一方、液量調節部11内の空気Aは、図3(b)に示すように、まず、流線イの部分に流れるとともに、この部分のみでは対応できない量は隣接する流線ロの部分に流れることとなる。
【0035】
このとき、この液量調節部11内を通流する空気量が増大するに従って冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍の流線イの部分における流速も増大する。これに伴って、冷却水供給部18及び潤滑油供給部19おける気圧p2の低下は大きくなる。その結果、冷却水圧力タンク5及び潤滑油圧力タンク6に加わる気圧p1と冷却水供給部18及び潤滑油供給部19における気圧p2との差圧が拡大し、その分、冷却水圧力タンク5から冷却水供給部18に送り出される冷却水Wの量及び潤滑油圧力タンク6から潤滑油供給部19に送り出される潤滑油Oの量は吹出空気量に対応して増加する、つまり、被加工物の大きさに対応する量の塗布液が流路15に供給される。
【0036】
次に、被加工物が更に大きい場合は、それに応じて吹出ノズル7及び加工刃物8の吹出孔8aからは更に多量の空気Aが吹き出される。一方、液量調節部11内の空気Aは、図1に示すように、まず、流線イの部分、更には流線ロの部分にも流れるとともに、この部分のみでは対応できない量は隣接する流線ハの部分にも流れることとなる。
【0037】
このとき、液量調節部11内を通流する空気Aの流量が更に増大するに伴って、冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍における流速は更に増大する。これに伴って、冷却水供給部18及び潤滑油供給部19における気圧p2の低下も更に大きくなる。これにより、冷却水圧力タンク5及び潤滑油圧力タンク6に加わる気圧p1と冷却水供給部18及び潤滑油供給部19における気圧p2との差圧は更に拡大し、その分、冷却水圧力タンク5から冷却水供給部18に送り出される冷却水Wの量及び潤滑油圧力タンク6から潤滑油供給部19に送り出される潤滑油Oの量は吹出空気量に対応して増加する、つまり、被加工物の大きさに対応する量の塗布液が流路15に供給される。
【0038】
以下、被加工物の大きさが更に大きくなるに従って、吹出空気量は増大し、空気Aは、最終的には、図3(c)に示すように、凹部14内の全体を流れることとなり、同時に、流線イの部分を流れる空気Aの流速は最大となって、差圧も最大となり、多量の塗布液が流路15に供給される。
【0039】
次に、本実施形態の塗布装置1の作用を説明する。
塗布装置1は冷却水圧力タンク5及び潤滑油圧力タンク6に加わる気圧p1が冷却水供給部18及び潤滑油供給部19における気圧p2より大きいため、その差圧によって、冷却水W及び潤滑油Oはそれぞれ冷却水供給部18及び潤滑油供給部19に送り込まれ、流路15を通流する空気A中に混入される。その混入量は液量調節部11によって調節され、塗布液は被加工物の大きさに対応して自動的に適量が混入される。
【0040】
ここで、塗布装置1の液量調節部11は、扁平帯板状の隙間空間15aからなる流路15で形成されていて、空気Aは液量調節部11の極く狭い流路15内を通流するため、相当の流路抵抗を受ける。一方、液量調節部11における流路長lは流路15の幅方向において連続的に変化しているので、液量調節部11内の空気Aは最初に流路長lが最も短かく流路抵抗が最も小さい冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍の流線イの部分を通流し、以下、通流する空気量が増大するに従って順次に流線ロ、流線ハ、…への部分と流路長lの長い部分にも流れることとなる。このため、被加工物の大きさに対応して吹出空気量が大きくなると、液量調節部11を流れる空気Aの流量及び流速が増大し、冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍の流速も大きくなって、冷却水供給部18及び潤滑油供給部19における気圧p2は更に低下する。したがって、この気圧p2と、一定の大きさで冷却水圧力タンク5及び潤滑油圧力タンク6に加わっている気圧p1との差圧が大きくなって多量の塗布液が冷却水圧力タンク5及び潤滑油圧力タンク6から冷却水供給部18及び潤滑油供給部19に送り込まれ、流路15内の空気A中に混入されることとなる。
【0041】
その結果、冷却水W及び潤滑油Oは被加工物の大きさに対応する吹出空気量に応じて無段階に任意の量が流路15内に供給される。それとともに、これらの塗布液の塗布量が極く微量であっても、被加工物の大きさに対応して液量調節部11における空気Aは冷却水供給部18及び潤滑油供給部19の近傍に集中し、狭い流路15内を所定の流速で通流するため、所要の差圧が発生し、対応する極く微量の塗布液が確実に安定して冷却水供給部18及び潤滑油供給部19に送り出され、吹き出される空気A中の塗布液のミスト量は常に一定で均一なものとなる。これにより、冷却水W及び潤滑油Oは被加工物に対して常に過不足なく最適量が吹出されるので、被加工物は良好な潤滑状態、冷却状態が得られるとともに、過剰な塗布液のミストが拡散することによる作業環境の悪化も防止される。また、液量調節部11は弁などの部品を全く使用しないから、塗布装置1間の塗布量にはばらつきを生じない。そして、故障のない安定した塗布装置1を提供できる。更に、被加工物の大きさが異なっても、自動的に吹出空気量に合致した塗布液のミスト濃度を得ることができるので、被加工物が異なる度に液量調節バルブを調整し直したり、供給ポンプのピストンの往復回数を調整し直したりする手間は不要となる。
【0042】
そして、特に、液量調節部11は、空気Aが通流する偏平帯板状の隙間空間15aからなる流路15で形成され、その流路15は台形状の開口14aを有する凹部14に形成されて流入部16から流出部17に至る流路長lが流路15の幅方向において連続的に拡大しているため、構造が簡易であり、単に鋼材等に台形状の開口14aを有する凹部14を形成するのみで簡単かつ安価に製造できるとともに軽量化できる。また、吹出空気量が増大するに従って液量調節部11内の空気Aは塗布液供給部の近傍から流路15の幅方向に離間する部分にも拡大して流れ、通流断面積が連続的に拡大するから、被加工物の大きさに対応する量の塗布液を自動的にきめ細かく供給できる。更に、簡易な偏平帯板状の隙間空間15aからなる流路15のみで形成されているため、故障がなく安定しており、メンテナンスも不要である。
【0043】
ところで、上記実施形態では、塗布液として、冷却水W及び潤滑油Oを用いているが、そのいずれか一方のみを用いてもよい。なお、冷却水圧力タンク5及び潤滑油圧力タンク6は図1に示す位置に設置しているが、その位置を互いに入れ替えてもよいことは言うまでもない。また、塗布液は、冷却水W、潤滑油Oに限られるものでもない。
【0044】
更に、上記実施形態の液量調節部11の凹部14の開口14aは、両側に傾斜辺を有する台形状に形成されているが、左右のいずれか片側に傾斜辺を有する台形状に形成してもよい。或いは、左右の傾斜部分は直線状でなく、図4に示すように、傾斜部分のいずれか一方または双方を円弧状等に形成してもよい。この場合は、空気Aは、円弧状等に形成された流入部16を流れて流体の慣性により隙間空間15a内の流線イの部分に流入し易くなる。また、凹部14の開口14aは、これらの台形状に限られるものでもない。
【0045】
そして、上記実施形態の液量調節部11は、空気Aが上方から台形状の傾斜辺に沿って流入部16に流れ、最初に下端から流線イの部分に流入し、この部分を通流した後、流出部17を経て真下に下降するよう形成されているが、これに限られるものではなく、例えば、図5に示すように、エアコンプレッサ21から送出されてきた空気Aが流線イの部分に直ちに流入し、反対側から直線状に流出するようにしてもよい。
【0046】
また、この液量調節部11は、台形状に形成され、流路15の幅方向における各流線の流路長lは、塗布液供給部の近傍の流線イの部分を最も短かくし、以下、塗布液供給部から流路15の幅方向に離間するに従って順次連続的に長くしたものに形成しているが、本発明を実施する場合は、これに限定されるものではなく、流線イの部分を最も短かいものとすれば、他の部分の流路長lは必ずしも塗布液供給部から流路15の幅方向に離間するに従って順次連続的に長くしたものとする必要はない。
【0047】
更には、上記実施形態の液量調節部11の凹部14は、その底面を一定の深さdの平面に形成しているが、これに限られるものではなく、例えば、底面を流路15の幅方向に傾斜する傾斜面に形成し、流入部16から流出部17に至る流路抵抗が流路15の幅方向において連続的に相違するようにしてもよい。
【0048】
加えて、上記実施形態の液量調節部11は、第1壁材12側に凹部14を刻設して流路15に形成したものとしているが、これに限られるものではなく、第1壁材12及び第2壁材13の双方に互いに対向する位置に凹部を形成し、第1壁材12及び第2壁材13を組付けて1個の流路15に形成されるものとしてもよい。
【0049】
なお、上記実施形態の液量調節部11、冷却水圧力タンク5及び潤滑油圧力タンク6は、塗布装置1の本体内に設けてもよく、本体とは別体としてその外部に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態の塗布装置の全体を示す構成図である。
【図2】図1のA−A切断線による断面図である。
【図3】図1の液量調節部内の流路を示す内部構造図であり、(a)は空気量が極く微量の場合、(b)は中程度の量の場合、(c)は多量の場合を示す。
【図4】図1の液量調節部の変形例を示す内部構造図である。
【図5】図1とは別の液量調節部を示す内部構造図である。
【符号の説明】
【0051】
1 塗布装置
2 空気流路
3 冷却水流路
4 潤滑油流路
5 冷却水圧力タンク
6 潤滑油圧力タンク
11 液量調節部
14 凹部
15 流路
15a 隙間空間
18 冷却水供給部
19 潤滑油供給部
21 エアコンプレッサ
A 空気
W 冷却水
O 潤滑油
l 流路長
イ、ロ、ハ 流線
p1 圧力タンクに加わる気圧
p2 塗布液供給部における気圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気供給源から送給された空気を導入して吹出側に導く空気流路と、
塗布液容器に加わる気圧と前記空気流路の途中に設けられた塗布液供給部における気圧との差圧によって、前記塗布液容器内の塗布液を前記塗布液供給部に送り込む塗布液流路と、
前記空気流路の途中に設けられ、前記塗布液容器から前記塗布液供給部に送り込まれて前記空気流路を通流する空気に混入される前記塗布液の混入量を調節する液量調節部と
を備え、
前記液量調節部は、空気が通流する偏平帯板状の隙間空間からなる流路で形成され、その流入部から流出部に至る流路抵抗が前記流路の幅方向において前記塗布液供給部の近傍で最小となるよう形成され、空気は前記流路内において最初に前記塗布液供給部の近傍に流れ、吹出量が増大するに従って前記塗布液供給部から前記流路の幅方向に離間する部分にも拡大して流れるとともに、吹出空気量に対応して前記塗布液供給部の近傍を通流する空気の流速が変化し前記差圧が変化することによって、前記塗布液の空気への混入量を調節することを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記液量調節部は、極く微量の塗布液を空気に混入可能な隙間空間からなる流路で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記液量調節部は、その流入部から流出部に至る流路長が塗布液供給部の近傍で最小に形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−307460(P2008−307460A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156881(P2007−156881)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(507196033)株式会社UHK (1)
【出願人】(598088011)田中インポートグループ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】