説明

塗料用固着材

【課題】 耐候性、発色性に優れた、耐久性ある塗装を可能とする膠塗料を容易に得ることができる、天然素材から成る塗料用固着材を提供する。
【解決手段】 膠水溶液に、酢と水溶性の糖類を混合使用したものを固着材とする膠と水と酢と糖類の配合割合は、重量比率で2〜5:20〜32:7〜15:0.5〜3.5であるのが好ましく、また、膠の使用量は、水と酢の合計量に対して7〜13重量%程度であり、水と酢の重量比率は、1:1〜5:1、特に2:1〜4:1程度であるのが好ましい。酢としては食用酢をそのまま使用するのが好ましく、糖類としては水飴や蜂蜜を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、社寺建造物の塗装に用いる塗料用固着材に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料の固着材に膠を用いる方法は古来より有り、文化財建造物の塗装においても膠塗料が用いられている。しかし、雨や湿気に弱く、剥離し易い欠点が改善されていない。
例えば、建造物彩色の塗料で、膠に桐油や荏油を滴下した固着材を用いる方法は江戸時代の日光東照宮の彩色事例と文書類に残り、唐油彩色と称して今日にも受け継がれている。本発明者は、20年以上にわたり彩色文化財の保存修復に携わり、社寺建造物の修復を行ってきたが、耐候性よく、剥落することなく、安定して使用できる膠塗料は存在しなかった。最近、膠を使用した塗料として、柿渋液、木酢液、ヒバ油及びワサビ油を混合したものや、木酢液、砥粉、もち米、ヒバ油を混合したものなども開発されている(特許文献1参照)が、屋外では実用化されていない。
【特許文献1】特開2000−355675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、作業性よく使用でき、しかも、耐候性、発色性に優れた、耐久性ある塗装を可能とする膠塗料を容易に得ることができる、天然素材から成る塗料用固着材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、塗料用固着材として、膠水溶液に、酢と水溶性の糖類を混合使用することにより、上記課題を解決した。
【0005】
本発明において、膠と水と酢と糖類の配合割合は、重量比率で2〜5:20〜32:7〜15:0.5〜3.5であるのが好ましく、また、膠の使用量は、水と酢の合計量に対して7〜13重量%程度であり、水と酢の重量比率は、1:1〜5:1、特に2:1〜4:1程度であるのが好ましい。
【0006】
酢としては、市販される食用酢(酢酸含量3〜5%程度)がそのまま使用可能であるが、アルコールは膠を凝固させる作用があるため、アルコールを含まない酢を使用するのが好ましい。また、固着材の色が塗料の発色に影響しないように、出来る限り無色透明な酢を使用するのがよい。なお、酢は、塗料の発色性を良好にし、膠液のゲル化を適度に抑制する効果を有するものであり、また、防黴性をも発揮するものである。
水に対する酢の使用量が増すと、塗料の発色が濃くなり適さず、逆に酢の分量が少なすぎると、膠液のゲル化の抑制や防黴効果に問題を生じる。
【0007】
また、糖類としては、ブドウ糖、果糖、麦芽糖を主体とするものを使用するのが好ましく、特に水飴又は蜂蜜を使用するのがよい。
【0008】
これら糖類は、塗料に、適度の粘性を与え、固化後、時間が経つと膠を不溶性にする効果がある。しかし、糖類の割合が増すと、塗料の粘度が高くなり、塗布し難くなり、又、固着材がゲル化し易く、実用性がなくなる。逆に、配合割合が少ないと、糖類が膠を不溶化するという効果が減じ、塗料用固着材としての効果がなくなる。糖類の量は、膠と水と酢の合計量に対して2〜8重量%であるのが好ましい。
【0009】
なお、膠の量は、少なすぎると、酢及び糖類を所定量用いても、塗装後、剥離し易く、逆に膠の量が多すぎると、塗装し難くなる。
【0010】
本発明の固着材は、加温して水に膠を溶解し、この膠液に水飴又は蜂蜜等のと糖類をを溶解した後、得られた溶液に、酢を添加混合して容易に得ることができる。
【0011】
このようにして得た固着材は、顔料と練り合わせて塗料とすることにより、従来品より剥落や変色、褪色を生じ難く、屋外での塗装作業に適した塗料を得ることができる。
【0012】
顔料に対する固着材の混合割合は、重量比率で、100:30〜50程度でよく、必要に応じて、水で稀釈してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗料用固着材は、顔料に直接混合することにより、耐水性ある発色性のよい塗料を得ることを可能とするものであり、本発明の固着材を用いた塗料は、屋外でも作業性よく使用でき、雨や湿気に強く、耐候性よく、剥離し難い耐久性ある塗装を可能とする。
すなわち、本発明の固着材では、膠液に糖類を加えることにより、塗料の水による再溶解を抑制し、酢を加えることにより、防腐性を高め、更に、適量の糖類と酢を混合することにより、膠のゲル化を抑制し、塗料の作業性を向上するのである。
なお、本発明の固着材は天然素材のみを使用しているため、環境及び人体に優しく、自然に還るため、廃材処理も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施例を示す。
下記1)〜8)の組成からなる8種の固着材を本発明に従って製造し、同時に比較例としてa)〜d)の組成から成る4種の固着材を製造した。部及び%は特に断らない限り重量部及び重量%を示す。
1)膠3部、水27部、酢10部、水飴1部
2)膠3部、水27部、酢10部、蜂蜜1部
3)膠4部、水26部、酢10部、水飴1部
4)膠4部、水26部、酢10部、蜂蜜1部
5)膠3部、水27部、酢10部、水飴3部
6)膠3部、水27部、酢10部、蜂蜜3部
7)膠4部、水26部、酢10部、水飴3部
8)膠4部、水26部、酢10部、蜂蜜3部
a)膠3部、水17部、酢20部、水飴1部
b)膠3部、水32部、酢5部、水飴1部
c)膠4部、水26部、酢10部、水飴4部
d)膠3部、水27部、酢10部、水飴0.3部
なお、酢としては酢酸含有量4.5%の純米酢を使用した。また、水飴は糖分約93%、水分約7%からなるものであり、蜂蜜は糖分約92%、水分約8%からなるものである。
【0015】
これらの固着材は、まず加温して水に膠を溶解し、この膠液に水飴又は蜂蜜を溶解した後、得られた溶液に、酢を添加混合して得た。
【0016】
このようにして得た固着材に顔料を練り合わせ、塗料とした。
塗料1〜4: 1)〜4)の組成から成る4種の固着材各41部に、顔料(鉛丹)100部を練り合わせて、4種の塗料を製造した。
塗料5〜8: 5)〜8)の組成から成る4種の固着材各43部に、顔料(鉛丹)100部を練り合わせて、4種の塗料を製造した。
塗料9〜12: 1)〜4)の組成から成る4種の固着材各41部に、顔料(黄土)100部を練り合わせて、4種の塗料を製造した。
塗料13〜16: 5)〜8)の組成から成る4種の固着材各43部に、顔料(黄土)100部を練り合わせて、4種の塗料を製造した。
塗料17〜20: 1)〜4)の組成から成る4種の固着材各36部に、顔料(胡粉)100部を練り合わせて団子状とし、水16〜60部で溶いて、4種の塗料を製造した。
塗料21〜24: 5)〜8)の組成から成る4種の固着材各36部に、顔料(鉛丹)100部を練り合わせて団子状とし、水16〜60部で溶いて、4種の塗料を製造した。
塗料25〜28: a)〜d)の組成から成る4種の固着材各41部に、顔料(鉛丹)100部を練り合わせて、4種の塗料を製造した。
【0017】
本発明の固着材を使用して製造した塗料1〜24の塗料は、いずれも、適度の粘性を有するもので、塗布し易く、また発色性にも優れ、安定して取り扱えるものであった。これに対して、a)〜d)の固着材を使用した塗料25〜28では、安定して取り扱える塗料を得ることができなかった。例えば、酢を大量に使用したa)の固着材では、塗料の発色が濃くなり適さず、酢を少量しか使用しなかったb)の固着材では、膠液のゲル化が抑制されず、又、防黴効果も減少し、安定して取り扱える塗料が得られなかった。更に、糖類(水飴)を多く使用したc)の固着材では、塗料の粘度が高くなり、塗布し難く、また、固着材がゲル化し易くなり使い難い。糖類の量が少ないd)の固着材では、膠を不溶性にし難く、乾きの良い、塗料を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を用いた塗料を製造するための固着材であって、膠水溶液に、酢と水溶性の糖類を混合してなることを特徴とする塗料用固着材。
【請求項2】
膠と水と酢と糖類の配合割合は、重量比率で2〜5:20〜32:7〜15:0.5〜3.5である請求項1の固着材。
【請求項3】
膠の使用量が、水と酢の合計量に対して7〜13重量%である請求項1又は2の固着材。
【請求項4】
酢が食用酢である請求項1〜3いずれか1項の固着材。
【請求項5】
水と酢の重量比率が1:1〜5:1である請求項1〜4いずれか1項の固着材。
【請求項6】
糖類の量が、膠と水と酢の合計量に対して2〜8重量%である請求項1〜5いずれか1項の固着材。
【請求項7】
糖類が、水飴又は蜂蜜である請求項1〜6いずれか1項の固着材。

【公開番号】特開2007−45938(P2007−45938A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231850(P2005−231850)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(302007482)
【Fターム(参考)】