説明

塗料用樹脂組成物の製造方法及び該塗料用樹脂組成物を含有する塗料

【課題】各種の基材、特にプラスチック基材に対して優れた密着性を示し、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性に優れた塗膜を形成できる塗料用樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】50.0〜99.9質量%のシアノ基含有ビニル系単量体(a)と0.1〜50.0質量%のその他の共重合可能なビニル系単量体(a)とからなる単量体(a)を乳化重合する段階と、その後に、40.0〜99.0質量%の芳香族ビニル系単量体(b)と、0.1〜10.0質量%の酸基含有ビニル系単量体(b)と、0.9〜59.9質量%のその他の共重合可能なビニル系単量体(b)とからなる単量体(b)を加え、乳化重合する段階とを含む塗料用樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、金属、木、紙、プラスチック等の基材との密着性に優れ、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性にも優れた塗膜を形成できる塗料用樹脂組成物の製造方法、及び、該方法により製造された塗料用樹脂組成物を含有する塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、木、紙、プラスチック等の基材には、表面の保護或いは美観を保つ目的でコーティングが行われるのが一般的である。従来、コーティングに用いられるのは各種溶剤系の塗料が一般的であった。しかし、溶剤系塗料は、引火や毒性を持つ可能性を有するために労働安全衛生上、健康上の問題、公害等、問題を抱えている。そのため、溶剤系塗料から水系塗料への移行が望まれている。
【0003】
溶剤系塗料を基材上に塗布する場合、基材上に形成される塗膜と基材との密着性は、溶剤系塗料に含まれる溶剤が基材を侵した後に硬化するため、向上することが期待できた。しかし、水系塗料の場合にはこのような効果が期待できないため、水系塗料による塗膜と基材との密着性は充分ではなかった。特に、プラスチック基材に水系塗料を使用する場合には、塗膜と基材との密着性が不十分であった。
【0004】
したがって、このような問題を解決するため、これまでに様々な検討が行われている。例えば、(メタ)アクリロニトリルを含有したシード樹脂組成物に、水性ビニル系単量体成分を重合させた、2層構造を有する水性エマルション樹脂組成物が示されている(特許文献1)。しかし、特許文献1の水性エマルション樹脂組成物を用いて形成される塗膜は、プラスチック基材では密着性が充分でないことがある。また、耐水性、耐アルコール性も充分ではない。
【0005】
また、共役ジエン系単量体を含有する単量体を乳化重合した後、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体を含有する単量体を加えて乳化重合して得られる、層構造を有する着色樹脂の水性分散体が示されている(特許文献2)。しかし、この水性分散体により形成される塗膜も、プラスチック基材では密着性が充分でないことがある。また、耐薬品性も充分でない。
したがって、例えば、金属、木、紙、プラスチック等の各種基材、特にプラスチック基材に対して、密着性、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を兼ね備えた塗膜を形成できる塗料用樹脂組成物が望まれている。
【特許文献1】特開2000−27097号公報
【特許文献2】特開平05−255567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、各種基材、特にプラスチック基材に対して密着性に優れ、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を兼ね備えた塗膜が形成できる塗料用樹脂組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、50.0〜99.9質量%のシアノ基含ビニル系有単量体(a)と0.1〜50.0質量%のその他の共重合可能なビニル系単量体(a)とからなる単量体(a)を重合する段階と、その後に、40.0〜99.0質量%の芳香族ビニル系単量体(b)と、0.1〜10.0質量%の酸基含有ビニル系単量体(b)と、0.9〜59.9質量%のその他の共重合可能なビニル系単量体(b)とからなる単量体(b)を加え、重合する段階とを含む塗料用樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明の塗料用樹脂組成物の製造方法では、単量体(a)と単量体(b)との質量比を、[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=10/90〜90/10とするのが好ましい。
また、本発明では、前記の製造方法により得た塗料用樹脂組成物を含有する塗料を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗料用樹脂組成物の製造方法によれば、各種基材、特にプラスチック基材に対して優れた密着性を示し、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を兼ね備えた塗膜を形成する塗料用樹脂組成物が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の塗料用樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の塗料用樹脂組成物の製造方法は、シアノ基含有ビニル系単量体(a)とその他の共重合可能なビニル系単量体(a)とからなる単量体(a)を重合する段階と、その後に、芳香族ビニル系単量体(b)と酸基含有ビニル系単量体(b)とその他の共重合可能なビニル系単量体(b)とからなる単量体(b)を加え、重合する段階とを含む。
【0011】
以下、単量体(a)について説明する。
本発明の単量体(a)は、シアノ基含有ビニル系単量体(a)とその他の共重合可能なビニル系単量体(a)とからなる。
[シアノ基含有ビニル系単量体(a)]
シアノ基含有ビニル系単量体(a)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。また、単量体(a)中のシアノ基含有ビニル系単量体(a)の含有量は、50.0〜99.9質量%である。この単量体(a)中の含有量は、50.0〜90.0質量%であるのが好ましく、60.0〜90.0質量%であるのがより好ましい。シアノ基含有ビニル系単量体(a)の含有量を50.0質量%以上とすれば、基材への塗膜の密着性が高くなり、塗膜の耐薬品性も高くなる。また、シアノ基含有ビニル系単量体(a)の含有量を99.9%以下とすることで、基材と塗膜との密着性が高くなる。
【0012】
[その他の共重合可能なビニル系単量体(a)]
その他の共重合可能なビニル系単量体(a)(以下、ビニル系単量体(a)と言う。)としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有ビニル系単量体、ヒドロキシ基含有ビニル系単量体、マレイミド誘導体、アルデヒド基又はカルボニル基含有ビニル系単量体、アミド基含有ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、オレフィン系単量体、分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
カルボキシル基含有ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシ基含有ビニル系単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはこれらとε―カプロラクトンとの付加物等が挙げられる。
マレイミド誘導体としては、例えば、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ブチルマレイミド等が挙げられる。
アルデヒド基又はカルボニル基含有ビニル系単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロ−ル、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレ−ト、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレ−トアセチルアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオ−ル−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、アクリルアミドメチルアニスアルデヒド等が挙げられる。
アミド基含有ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等が挙げられる。
芳香族ビニル系単量体としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル性単量体、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
オレフィン系単量体としては、例えば、ブタジエンが挙げられる。
分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体としては、例えば、内部架橋反応するジビニルベンゼンや、ジアリルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルシアヌレート等が挙げられる。
これらのビニル系単量体は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。密着性及び耐水性の観点からは、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニル系単量体を用いるのが好ましい。
【0013】
単量体(a)中のビニル系単量体(a)の含有量は、0.1〜50.0質量%である。このビニル系単量体(a)の含有量は、10.0〜50.0質量%とするのが好ましく、10.0〜40.0%とするのがより好ましい。ビニル系単量体(a)の含有量を0.1質量%以上とすれば、基材と塗膜との密着性及び塗膜の耐水性が高くなる。また、ビニル系単量体(a)の含有量を50質量%以下とすれば、基材と塗膜との密着性が高くなり、塗膜の耐薬品性の低下が防げる。
【0014】
以下、単量体(b)について説明する。本発明の単量体(b)は、芳香族ビニル系単量体(b)と酸基含有単量体(b)とその他の共重合可能なビニル系単量体(b)とからなる。
[芳香族ビニル系単量体(b)]
芳香族ビニル系単量体(b)としては、例えば、スチレン系単量体、アルキルビニルベンゼン、多環芳香族ビニル系単量体が挙げられる。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、クロルスチレン等が挙げられる。アルキルビニルベンゼンとしては、例えば、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられる。多環芳香族ビニル系単量体としては、例えば、ビニルナフタレン等が挙げられる。なかでも、スチレンを用いるのが好ましい。これらの芳香族ビニル系単量体は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
単量体(b)中の芳香族ビニル系単量体(b)の含有量は、40.0〜99.0質量%にて使用される。芳香族ビニル系単量体(b)の含有量は、50.0〜98.6質量%とするのが好ましく、60.0〜80.0質量%とするのがさらに好ましい。芳香族ビニル系単量体(b)の含有量を40.0質量%以上とすれば、基材と塗膜との密着性や塗膜の耐アルコール性が高くなる。また、芳香族ビニル系単量体(b)の含有量を90.0質量%以下とすれば、基材と塗膜との密着性が高くなる。
【0016】
[酸基含有単量体(b)]
酸基含有単量体(b)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じて1種以上を適宜選択して用いることができる。酸基含有単量体(b)は、基材と塗膜との密着性の観点から(メタ)アクリル酸を用いるのが好ましい。
【0017】
単量体(b)中の酸基含有単量体(b)の含有量は、0.1〜10.0質量%である。また、酸基含有単量体(b)の含有量は、0.5〜8.0質量%とするのが好ましく、1.0〜7.0質量%であるのがより好ましい。酸基含有単量体(b)の含有量を0.1質量%以上とすれば、基材と塗膜との密着性が高くなる。また、酸基含有単量体(b)の含有量を10.0質量%以下とすれば、塗膜の耐水性や耐アルコール性が高くなる。
【0018】
[その他の共重合可能なビニル系単量体(b)]
その他の共重合可能なビニル系単量体(b)(以下、ビニル系単量体(b)と言う。)としては、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ基含有ビニル系単量体、マレイミド誘導体、アルデヒド基又はカルボニル基含有ビニル系単量体、アミド基含有ビニル系単量体、エポキシ基含有ビニル系単量体、ニトリル基含有ビニル系単量体、オレフィン系単量体、分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシ基含有ビニル系単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはこれらとε―カプロラクトンとの付加物等が挙げられる。
マレイミド誘導体としては、例えば、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ブチルマレイミド等が挙げられる。
アルデヒド基又はカルボニル基含有ビニル系単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロ−ル、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレ−ト、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレ−トアセチルアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオ−ル−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、アクリルアミドメチルアニスアルデヒド等が挙げられる。
アミド基含有ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等が挙げられる。
エポキシ基含有ビニル系単量体としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
オレフィン系単量体としては、例えば、ブタジエンが挙げられる。
分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体としては、例えば、内部架橋反応するジビニルベンゼンや、ジアリルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルシアヌレート等が挙げられる。
これらのビニル系単量体は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塗膜の耐水性及び耐アルコール性の観点からは、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が4以上のアルキル(メタ)アクリレートを用いるのが好ましい。
【0019】
単量体(b)中のビニル系単量体(b)の含有量は、0.9〜59.9質量%である。また、ビニル系単量体(b)の含有量は、0.9〜45.5質量%とするのが好ましく、13.0〜39.0質量%であるのがより好ましい。ビニル系単量体(b)の含有量を0.9質量%以上にすることにより、塗膜の耐水性や耐アルコール性が高くなる。また、ビニル系単量体(b)の含有量を59.9質量%以下とすることにより、基材と塗膜との密着性が向上する。
【0020】
本発明の塗料用樹脂組成物の製造方法では、単量体(a)を一段目重合性単量体成分として重合反応を行い、その後に、二段目重合性単量体成分となる単量体(b)を加え、重合反応を行う、多段重合法を用いることにより、2層構造を有する塗料用樹脂組成物が得られる。この2層構造を有する塗料用樹脂組成物は、単層構造では得られない、各種基材に対する密着性、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を得ることができる。
本発明の塗料用樹脂組成物の製造方法に用いる単量体(a)と単量体(b)との質量比は、[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=10/90〜90/10とするのが好ましい。また、単量体(a)と単量体(b)との質量比は、[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=15/85〜85/15とするのがより好ましく、[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=25/75〜75/25とするのがさらに好ましい。
また、一段目である単量体(a)の重合反応における重合率は、80.0%以上であるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましく、95%以上であるのがさらに好ましい。
【0021】
本発明の塗料用樹脂組成物の製造方法では、一段目、二段目の重合反応は、例えば、界面活性剤の存在下、単量体(a)又は単量体(b)を重合反応系内に供給し、ラジカル重合開始剤により乳化重合を行わせる、公知の方法が使用できる。
ラジカル重合開始剤としては、一般的にラジカル重合に用いられるものが使用でき、例えば、過硫酸塩類、油溶性アゾ化合物類、水溶性アゾ化合物類、有機過酸化物類が挙げられる。
【0022】
過硫酸塩類としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
油溶性アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。
水溶性アゾ化合物としては、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}およびその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)およびその塩類2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)およびその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]およびその塩類等が挙げられる。
有機過酸化物類としては、例えば、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、重合速度の促進および70℃以下での低温の重合が望まれる場合には、例えば、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0023】
一段目及び二段目で用いるラジカル重合開始剤の添加量は、通常、単量体(a)と単量体(b)とを合わせた全単量体(以下、単に全単量体と言う。)の質量に対して、0.01〜10質量%とする。また、重合反応の進行や制御の観点から、ラジカル重合開始剤の添加量を0.05〜5質量%とするのが好ましい。
【0024】
また、単量体(a)及び単量体(b)の多段乳化重合によりエマルション粒子を形成する際、各共重合体の分子量を調整するために分子量調整剤を加えることができる。
分子量調整剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤が挙げられる。耐候性の観点から、連鎖移動剤の使用量は、全単量体の質量に対して1質量%以下とするのが好ましい。
【0025】
また、製造したエマルション粒子は、全単量体の質量部を100質量部とした場合、界面活性剤を0.1〜10.0質量部含むことが好ましい。エマルション粒子に含まれる界面活性剤が0.1質量部以上であれば、エマルションの重合安定性および貯蔵安定性が向上する。また、エマルション粒子に含まれる界面活性剤が10質量部以下であれば、耐水性を損なうことなく塗料化する際の配合安定性、経時的安定性を保つことができる。また、エマルション粒子に含まれる界面活性剤は、0.5〜8.0質量部とするのが好ましい。
【0026】
界面活性剤としては、例えば、各種のアニオン性、カチオン性、またはノニオン性の界面活性剤、さらには高分子乳化剤が挙げられる。また、界面活性剤成分中にエチレン性不飽和結合を持つ、反応性乳化剤も使用できる。なかでも塗膜の耐候性、耐水性の観点から、反応性乳化剤を使用することが好ましい。
【0027】
乳化重合により得たエマルションは、乳化重合の後、塩基性化合物の添加によりpH6.5〜10.0の範囲に調製することで安定性を高めることができる。なかでも、優れた凍結−融解安定性の観点からpH8.5〜10.0に調製するのが好ましい。
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、-2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0028】
また、本発明で使用するエマルション粒子の平均粒子径は、20〜300nmであるのが好ましく、30〜200nmであるのがより好ましく、40〜100nmであるのがさらに好ましい。エマルション粒子の平均粒子径を20nm以上とすれば、塗装化の際の塗料固形分が向上する。また、エマルション粒子の平均粒子径を300nm以下とすれば、塗膜の外観が向上する。さらに、エマルション粒子の平均粒子径が100nm以下であれば、塗膜の造膜性が向上する。
以上のように、本発明の塗料用樹脂組成物は、多段重合法を用いることにより2層構造を有し、各種基材、特にプラスチック基材に対する密着性、形成された塗膜の耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を兼ね備える。
【0029】
本発明の塗料用樹脂組成物を含有する塗料は、通常、塗料用樹脂組成物の固形分を10.0〜80.0質量%とする。また、コーティング材料として高度な性能を発現させるため、各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤を含んでもよい。また、他のエマルション樹脂、水溶性樹脂、粘性制御剤、メラミン類等の硬化剤と混合して使用してもよい。
【0030】
また、本発明の塗料用樹脂組成物を含有する塗料は、公知である種々の塗装方法で難塗装性プラスチック等の基材に塗布できる。本発明の塗料用樹脂組成物は、基材への塗布後、例えば、60〜90℃で、10〜30分間加熱することによって、密着性、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性に優れた塗膜を形成する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明について説明する。尚、本発明は以下の記載によって限定されない。なお、以下に示す「部」及び「%」はいずれも質量を基準にしている。実施例及び比較例において使用した単量体(a)中の各単量体の質量割合及び単量体(b)中の各単量体の質量割合を表1に示す。また、表1には単量体(a)と単量体(b)との質量比を示す。また、表1中では、シアノ基含有ビニル系単量体(a)とその他の共重合可能なビニル系単量体(a)を単量体(a)、単量体(a)と示し、芳香族ビニル系単量体(b)と酸基含有単量体(b)とその他の共重合可能なビニル系単量体(b)を単量体(b)、単量体(b)、単量体(b)と示す。
また、表1中の略号は以下の意味を示す。
St:スチレン
MMA:メチルメタクリレート
n−BMA:ノルマルブチルメタクリレート
n−BA:ノルマルブチルアクリレート
LMA:ラウリルメタクリレート
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
AN:アクリロニトリル
MAN:メタクリロニトリル
GMA:グリシジルメタクリレート
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
ABS:アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン基材
PPO:ポリフェニレンオキシド基材
【0032】
【表1】

【0033】
[実施例1]
温度計、サーモスタット、攪拌器、還流冷却器、滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水148.3部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。
次いで、スチレン1.5部、アクリロニトリル21部、n−ブチルアクリレート7.5部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)1.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)0.5部及び脱イオン水15部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを、定量ポンプを用い、2時間かけてそれぞれ反応容器内に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
次いで、スチレン56部、n−ブチルアクリレート8.4部、ラウリルメタクリレート3.5部、アクリル酸2.1部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)2.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)1部及び脱イオン水40部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを、定量ポンプを用いて、4時間かけてそれぞれ反応容器内に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
次いで、1質量%ジメチルアミノエタノール水溶液10部を加えながら40℃まで冷却し、その後300メッシュのナイロンクロスでろ過した。
[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=30/70であり、平均粒子径80nm、固形分30質量%の塗料用樹脂組成物を得た。
【0034】
[実施例2]
温度計、サーモスタット、攪拌器、還流冷却器、滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水148.3部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。
次いで、アクリロニトリル15部、メタクリロニトリル25部、n−ブチルアクリレート10部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)2.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)0.5部及び脱イオン水25部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水15部からなる開始剤溶液とを、定量ポンプを用いて、3時間かけてそれぞれ反応容器内に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
次いで、スチレン30部、n−ブチルメタクリレート2.5部、n−ブチルアクリレート6部、ラウリルメタクリレート5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2部、メタクリル酸2.5部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)3.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)1部及び脱イオン水25部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを、定量ポンプを用いて、4時間かけてそれぞれ反応器内に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
次いで、1質量%ジメチルアミノエタノール水溶液10部を加えながら40℃まで冷却し、その後300メッシュのナイロンクロスでろ過した。
[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=50/50であり、平均粒子径80nm、固形分30質量%の塗料用樹脂組成物を得た。
【0035】
[比較例1]
温度計、サーモスタット、攪拌器、還流冷却器、滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水148.3部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。
次いで、アクリロニトリル44部、2−エチルヘキシルアクリレート31.2部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2.4部、メタクリル酸2.4部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)4.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)0.5部及び脱イオン水40部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水15部からなる開始剤溶液とを、定量ポンプを用いて、4時間かけてそれぞれ反応器内に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
次いで、n−ブチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート8部、ラウリルメタクリレート1部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.4部、アタクリル酸0.6部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)2.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)1部及び脱イオン水10部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを、定量ポンプを用いて、1時間かけてそれぞれ反応器内に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
次いで、1質量%ジメチルアミノエタノール水溶液10部を加えながら40℃まで冷却し、その後300メッシュのナイロンクロスでろ過した。
[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=80/20であり、平均粒子径80nm、固形分30質量%の塗料用樹脂組成物を得た。
【0036】
[比較例2]
温度計、サーモスタット、攪拌器、還流冷却器、滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水148.3部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。
次いで、スチレン19.6部、メタクリル酸0.4部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)1.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)0.5部及び脱イオン水10部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水15部からなる開始剤溶液とを、定量ポンプを用いて、2時間かけてそれぞれ反応器内に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
次いで、スチレン40部、メチルメタクリレート14.4部、メタクリロニトリル13.6部、グリシジルメタクリレート4部、メタクリル酸8部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)4.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%溶液)1部及び脱イオン水40部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及び脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを、定量ポンプを用いて、4時間かけてそれぞれ反応器内に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
次いで、1質量%ジメチルアミノエタノール水溶液10部を加えながら40℃まで冷却し、その後300メッシュのナイロンクロスでろ過した。
[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=80/20であり、平均粒子径80nm、固形分30質量%の塗料用樹脂組成物を得た。
【0037】
実施例及び比較例における、密着性、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性の評価は以下の方法で行った。
[基材との密着性試験]
得られた塗料用樹脂組成物133.3gをpH8.0に調整し、造膜助剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル16gを加え、ディスパーで攪拌し、各樹脂成型板に乾燥膜厚が25μmとなるように塗布した。その後、70℃の雰囲気中で20分間乾燥させ、塗膜を硬化させて試験片とした。次いで、塗膜面に、素地に達するように縦横1mm間隔で各11本の切り込みを入れて100個の碁盤目を作り、この上に粘着テープを貼りつけた。その後、該粘着テープを急激に剥がし、塗膜の状態を観察して、下記の基準で評価した。
○:全く剥がれがない。
△:1〜50箇所で塗膜が剥がれた。
×:51〜100箇所で塗膜が剥がれた。
【0038】
[耐水性試験]
前記密着性試験と同様にして作成した試験片を40℃の温水に3日間浸漬した後、塗膜の外観状態を下記の基準で評価した。また、上記と同様の評価方法で密着性試験を行った。
外観状態
○:全く異常がない。
△:一部白化や膨れ等がある。
×:全面に白化、膨れ等がある。
【0039】
[耐アルコール性]
密着性試験と同様にして作成した試験片に対し、エタノールを含浸させた5枚重ねのガーゼを1kgf/cmの荷重をかけて塗膜上で200往復させ、塗膜の擦り傷の発生状態を観察し、下記の基準で評価した。
◎:擦り傷が全く認められない。
○:擦り傷がわずかに認められる。
△:擦り傷が認められるものの、基材が露出していない。
×:基材が露出している。
【0040】
[耐薬品性]
密着性試験と同様にして作成した試験片を、ひまし油に60℃で24時間浸漬させた後、塗膜の外観を観察して、下記の基準で評価した。
◎:全く異常がない。
○:わずかに塗膜が溶出している。
△:かなり塗膜が溶出している。
×:基材が露出している。
実施例1〜2、比較例1〜2の評価結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
本発明の塗料用樹脂組成物である実施例1及び2では、基材をABSとした場合もPPOとした場合も、基材と塗膜との密着性が高い。また、形成される塗膜の耐水性、耐アルコール性、耐薬品性はいずれも優れている。以上のように、基材がABSであってもPPOであっても密着性、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性を兼ね備えている。
一方、芳香族ビニル系単量体(b)を含まない比較例1では、基材がABSである場合には基材と塗膜とが良好な密着性を示すが、塗膜の耐アルコール性が低い。また、基材がPPOである場合には基材と塗膜との密着性、塗膜の耐水性や耐アルコール性が低い。シアノ基含有ビニル系単量体(a)を含まない比較例2では、基材がABSである場合には、基材と塗膜との密着性や塗膜の耐水性、耐薬品性が非常に低い。また、基材がPPOである場合は基材と塗膜との密着性、塗膜の耐水性が充分でなく、耐薬品性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の塗料用樹脂組成物の製造方法によれば、例えば、金属、木、紙、プラスチック等の各種の基材に対して優れた密着性を示し、耐水性、耐アルコール性、耐薬品性に優れた塗膜を形成できる塗料用樹脂組成物が製造できる。また、本発明の塗料用樹脂組成物のこのような効果は、従来の水性塗料では困難であったプラスチック基材に対して特に効果を発揮するものであり、工業上極めて有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50.0〜99.9質量%のシアノ基含有ビニル系単量体(a)と0.1〜50.0質量%のその他の共重合可能なビニル系単量体(a)とからなる単量体(a)を重合する段階と、その後に、40.0〜99.0質量%の芳香族ビニル系単量体(b)と、0.1〜10.0質量%の酸基含有ビニル系単量体(b)と、0.9〜59.9質量%のその他の共重合可能なビニル系単量体(b)とからなる単量体(b)を加え、重合する段階とを含む塗料用樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
単量体(a)と単量体(b)との質量比が、[単量体(a)の質量割合]/[単量体(b)の質量割合]=10/90〜90/10である、請求項1に記載の塗料用樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された塗料用樹脂組成物を含有する塗料。

【公開番号】特開2008−260851(P2008−260851A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104710(P2007−104710)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】