説明

塗料組成物、フィンおよび熱交換器

【課題】油脂類などの汚染による親水性の低下が生じにくく、充分に高い親水性が長期にわたって得られ、臭気が発生しにくく、表面の外観が良好な塗膜を形成でき、長期間にわたって保管することができるアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に塗布される塗料組成物を提供する。
【解決手段】アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に塗布される塗料組成物であって、3〜30mol%のヒドロキシル基含有モノマーと97〜70mol%のカルボキシル基含有モノマーとを含むアクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含む塗料組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、フィンおよび熱交換器に関し、特に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に塗布される塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンや工業用熱交換器などの熱交換器のフィンには、軽量性、加工性、熱伝導性から、アルミニウムやアルミニウム合金が広く使用されている。
また、エアコンなどの熱交換器では、空気中から凝縮した水滴がフィンに付着すると、通風抵抗が増加して圧力損失が大きくなり、熱交換器の能力低下が生じる。このため、従来から、フィンへの水滴の付着を防止するとともに、フィンに付着した水を容易に流下させるために、フィンの表面に親水性を付与することが試みられてきた。
【0003】
アルミニウムやアルミニウム合金の表面に親水性を付与する方法としては、水ガラスなどの無機系の親水化処理剤を表面に塗布する方法がある。しかし、このような親水化処理剤を使用した場合、環境中の臭気を有する成分が表面に吸着されやすくなるので、運転開始時に臭気を有する成分が離脱して臭気を発生する場合がある。また、水ガラスのような無機系の親水化処理剤は、硬度が高いため金型が磨耗しやすいという欠点もあった。
【0004】
この問題を解決しうる親水化処理剤として、親水性樹脂を主成分とした有機系の表面処理剤がある。親水性樹脂を主成分とした表面処理剤としては、アクリル系樹脂を使用したものや、セルロース系樹脂を使用したもの、セルロース系樹脂とアクリル系樹脂とを供用したものなどがある。
【0005】
また、親水性樹脂を主成分とした表面処理剤としては、糊化澱粉と増粘多糖類とからなる主鎖に、カルボキシル基を有する単量体と、ヒドロキシ基を有する単量体と、プロペニル基を有する反応性乳化剤からなる単量体と、マレイン酸系単量体とがグラウト重合し、さらに酸基が部分中和された親水性グラウト共重合体を含有する塗料組成物がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、親水性樹脂を主成分とした表面処理剤としては、グルコピラノシル基含有単量体と、ニトリル基含有単量体と、ヒドロキシ基含有単量体と、カルボキシル基含有単量体と、アルキル基含有単量体とから構成された五元共重合体の酸基が部分中和されてなる親水性樹脂と、1,3−ジオキサン環を2個以上有する複素環系有機化合物と、グルコピラノシル基を有する複素環系有機化合物と、カルボキシメチルセルロースの塩とからなる塗料組成物がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−84694号公報
【特許文献2】特開2003−238884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、親水性樹脂を主成分とした表面処理剤を用いた場合には、以下に示すような問題があった。
アクリル系樹脂単体を用いた親水性樹脂では、アクリル系樹脂としてアクリル酸を主成分としたものが主に用いられている。しかし、アクリル酸を主成分とした樹脂を用いた場合、成膜後に本来親水性を出すべきカルボキシル基同士が、焼き付けられることによって縮合による自己架橋もしくは互いに水素結合してしまうため、親水基として機能するカルボキシル基が少なくなってしまう。このため、アクリル系樹脂を単体で用いた親水性樹脂では、充分な親水性が得られなかった。
【0008】
また、セルロース系樹脂単体を用いた親水性樹脂は、親水性は高いが、水に溶解しやすいため、親水性の効果が長期にわたって維持できない。また、セルロース系樹脂単体を用いた親水性樹脂では、溶解したセルロース系樹脂がドレンパンに付着して、吸水したゲル状物質となって黴や菌の温床になることもある。
【0009】
この問題を解決するために、セルロース系樹脂に架橋剤を加えて、水に対する溶解度を低下させる方法が考えられる。しかし、セルロース系樹脂の水に対する溶解度を十分に低下させるためには、かなりの量の架橋剤を用いる必要があるため、未架橋の架橋剤が水に溶出し、ドレンパン等の結露水が通過する部分を構成する樹脂中に含まれる可塑剤を抽出させて樹脂の物性を損なわせる恐れがある。また、使用する架橋剤の種類によっては、成膜後の塗膜が油脂類による汚染に弱いものとなり、塗膜に油脂類が付着することにより、容易に著しく親水性が低下するものとなる場合もある。また、セルロース系樹脂は、焼付け時に熱分解をしやすいものである。特に、セルロース系樹脂と架橋剤を供用した親水性樹脂は、著しく熱分解する。セルロース系樹脂を用いた親水性樹脂が熱分解すると、特有の臭気を発生させるため、エアコン使用時に臭気の問題が発生する場合がある。
【0010】
また、セルロース系樹脂とアクリル系樹脂とを供用した親水性樹脂として、例えば、セルロース系樹脂とアクリル酸ポリマーとを供用した場合、良好な親水性が得られる。しかし、セルロース系樹脂とアクリル酸ポリマーとを供用したものでは、アクリル酸ポリマー中のカルボキシル基とセルロース系樹脂中の水酸基との反応性が低いため、成膜後の塗膜を構成するセルロース系樹脂が水に溶解することによって親水性が劣化する。よって、このような塗膜では、良好な親水性を長期にわたって維持することができなかった。また、セルロース系樹脂とアクリル系樹脂とを供用した場合においても、架橋剤を添加した場合には、前述したセルロース系樹脂単体を用いた場合と同様の問題が生じる場合がある。
【0011】
また、特許文献1に記載の塗料組成物は、糊化澱粉を含むものであるため、品質が不安定で、塗料としての使用可能な期間が短いという不都合があった。すなわち、特許文献1に記載の塗料組成物からなる塗膜は、澱粉がα化している状態であるときは、良好な親水性を示す。しかし、塗料組成物を保管している間にα化している澱粉はβ化していく。澱粉のβ化が進行すると、塗料組成物中に含まれる澱粉とアクリル樹脂とが固溶しづらくなる。その結果、塗料組成物を用いて形成された塗膜の親水性が悪化する。このため、特許文献1に記載の塗料組成物は、長期間にわたって保管することが困難であった。
【0012】
また、特許文献2に記載の塗料組成物は、塗膜表面に、外観上好ましくない凹凸が生じる場合があり、良好な外観が得られない場合があった。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、油脂類などの汚染による親水性の低下が生じにくく、充分に高い親水性が長期にわたって得られ、臭気が発生しにくく、表面の外観が良好な塗膜を形成でき、長期間にわたって保管することができるアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に塗布される塗料組成物を提供することを課題としている。
【0014】
また、本発明は、軽量で加工性、熱伝導性に優れたものであって、しかも、長期にわたって充分に高い親水性が得られ、臭気が発生しにくく、外観の良好な塗膜が、表面に形成されているフィンを提供することを課題としている。
また、本発明は、空気中から凝縮した水滴がフィンに付着することによる圧力損失が小さく、長期にわたって使用した場合でも熱交換能力が低下しにくい熱交換器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の塗料組成物は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に塗布される塗料組成物であって、3〜30mol%のヒドロキシル基含有モノマーと97〜70mol%のカルボキシル基含有モノマーとを含むアクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明のフィンは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、表面に、上記の塗料組成物から形成された塗膜が形成されてなることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の熱交換器は、本発明のフィンを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の塗料組成物は、3〜30mol%のヒドロキシル基含有モノマーと97〜70mol%のカルボキシル基含有モノマーとを含むアクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含むものであるので、本発明の塗料組成物から形成された塗膜は、油脂類などの汚染による親水性の低下が生じにくく、充分に高い親水性が長期にわたって得られるものとなる。また、本発明の塗料組成物は、アクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含むものであるので、セルロース系高分子体を含むことに起因する臭気や、外観上好ましくない凹凸が生じにくく、表面の外観が良好な塗膜を形成できるものとなる。また、本発明の塗料組成物は、澱粉を含むものではなく、澱粉を含む場合と比較して、塗料としての品質が安定しているものとなり、長期間にわたって保管できるものとなる。
【0019】
また、本発明のフィンは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、表面に、本発明の塗料組成物から形成された塗膜が形成されてなるものであるので、長期にわたって充分に高い親水性が得られ、臭気が発生しにくく、外観の良好な塗膜が、表面に形成されているものとなる。しかも、本発明のフィンは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものであるので、軽量で加工性、熱伝導性に優れたものとなる。
また、本発明の熱交換器は、本発明のフィンを備えているので、空気中から凝縮した水滴がフィンに付着しにくく、フィンに水滴が付着することによる圧力損失が小さく、長期にわたって使用した場合でも熱交換能力が低下しにくいものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の塗料組成物、フィンおよび熱交換器について詳細に説明する。
「塗料組成物」
本発明の塗料組成物は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に塗布される塗料組成物であって、3〜30mol%のヒドロキシル基含有モノマーと97〜70mol%のカルボキシル基含有モノマーとを含むアクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含むものである。
【0021】
「アクリル系高分子体」
本発明で用いるヒドロキシル基含有モノマーとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種などを用いることができる。
また、本発明で用いるカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、イタコン酸、メタクリル酸から選ばれる少なくとも1種などを用いることが出来る。
【0022】
また、アクリル系高分子体は、必要に応じて親水性を阻害しない範囲で、ヒドロキシル基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマー以外の他のモノマーを含んでいてもよい。他のモノマーとしては、例えば、2−メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、アクリルアミドから選ばれる少なくとも1種などを用いることができる。これらの他のモノマーは、親水性を低下させにくいものであるため、好ましく使用できる。
メトキシトリエチレングリコールアクリレートを含有する塗料組成物は、潤滑性に優れたものとなる。
また、アクリルアミドを含有している塗料組成物は、粘度変化が小さく、より一層長期間にわたって保管できるものとなる。
【0023】
本発明の塗料組成物を構成するアクリル系高分子体は、3〜30mol%のヒドロキシル基含有モノマーと97〜70mol%のカルボキシル基含有モノマーとを含むものである。
ヒドロキシル基含有モノマーの量が3mol%未満であると、セルロース系高分子体との反応が不十分となり、塗膜の耐水性が不足する。また、ヒドロキシル基含有モノマーの量が30mol%を超えると、アクリル系高分子体中のカルボキシル基含有モノマーの量が必然的に70mol%未満となり、充分な親水性が得られなくなると共に、焼付け時における架橋反応が過剰に進むため、フィン材を加工する際に塗膜剥離が生じやすくなる。
また、カルボキシ基含有モノマーの量が70mol%未満であると、充分な親水性が得られない。
【0024】
アクリル系高分子体は、ヒドロキシル基含有モノマーと、カルボキシル基含有モノマーと、必要に応じて用いられる他のモノマーとを、水または水を主成分とする溶媒中で過酸化ベンゾイルやアゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を用いて重合することにより、アクリル系高分子体を含むアクリル系樹脂溶液として得られる。
アクリル系高分子体の分子量については特に限定されないが、塗布し易い粘度になるような分子量であることが望ましい。なお、アクリル系高分子体を含むアクリル系樹脂溶液の保存時の安定性を増すために、アルカリ金属の水酸化物、アミン類などの一種もしくは数種を用いてpHの調整を行ってもよい。
【0025】
「セルロース系高分子体」
本発明の塗料組成物を構成するセルロース系高分子体としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)などを好適に用いることができる。これらのセルロース系高分子体のうち、ヒドロキシメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロースなどを用いる場合には、耐水性に優れたものとするために、メチロール基の置換率が70%以下のものを使用することが好ましい。
【0026】
本発明の塗料組成物は、アクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含むものである。アクリル系高分子体10質量部に対するセルロース系高分子体の量が0.3質量部未満であると、充分な親水性が得られない。また、アクリル系高分子体10質量部に対するセルロース系高分子体の量が3質量部を超えると、焼付け時に変色しやすくなるとともに、焼付け後に臭気が発生する。また、上記のセルロース系高分子体の量が3質量部を超えると、アクリル系高分子体の量に対するセルロース系高分子体の量が過剰となり、アクリル系高分子体とセルロース系高分子体とが相溶しにくくなり、過剰なセルロース系高分子体が分離して、塗膜表面に凹凸を生じさせるため、外観上好ましく無い。
【0027】
本発明の塗料組成物は、水または水を主とする溶媒中にアクリル系高分子体とセルロース系高分子体とを、アクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体が0.3〜3質量部となるように溶解させることによって得られる。得られた塗料組成物は、架橋剤が添加されていなくても硬化しうるものであるが、架橋剤が添加されていてもよい。また、塗料組成物には、密着性や耐食性をより一層向上させるために、水溶性の尿素樹脂やメラミン樹脂などのアミノ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの添加剤が添加されていてもよい。また、塗料組成物には、塗装面同士のブロッキングを防止する目的で、ポリオキシエチレンやポリグリセリンまたはそれらの誘導体など、表面にブリードし易く、親水性を阻害しにくい樹脂が添加されていてもよい。
【0028】
本発明の塗料組成物は、3〜30mol%のヒドロキシル基含有モノマーと97〜70mol%のカルボキシル基含有モノマーとを含むアクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含むものであるので、本発明の塗料組成物から形成された塗膜は、油脂類などの汚染による親水性の低下が生じにくく、充分に高い親水性が長期にわたって得られるものとなる。
【0029】
本発明の塗料組成物から形成された塗膜では、本発明の塗料組成物に含まれるアクリル系高分子体の量とセルロース系高分子体の量とのバランスが上述した好ましい範囲であるため、アクリル系高分子体とセルロース系高分子体とが互いに固溶して、図1(a)に示すように、直鎖構造のアクリル系高分子体1中に環状の構造を持つセルロース系高分子体2が入り込んだものとなると考えられる。
【0030】
これに対し、アクリル酸樹脂を用いた従来の親水化処理剤では、図1(b)に示すように、アクリル酸樹脂を構成している本来親水性を出すべきカルボキシル基同士が、互いに架橋もしくは水素結合してしまう。このため、アクリル酸樹脂を用いた従来の親水化処理剤から形成された塗膜では、親水基として機能するカルボキシル基が少なくなってしまう。
【0031】
本発明の塗料組成物から形成された塗膜では、図1(a)に示すように、アクリル系高分子体1中にセルロース系高分子体2が入り込むことで、図1(b)に示す従来の親水化処理剤と比較して、アクリル系高分子体1中のカルボキシル基同士が架橋したり水素結合したりする割合が低くなり、アクリル系高分子体1中の多くのカルボキシル基が親水性に寄与するものとなる。
また、本発明の塗料組成物は、セルロース系高分子体2を含むものであるので、本発明の塗料組成物から形成された塗膜は、セルロース系高分子体2自体による親水性向上効果も得られるものとなる。したがって、本発明の塗料組成物から形成された塗膜は、アクリル系高分子体1中のカルボキシル基による親水性向上効果と、セルロース系高分子体2自体による親水性向上効果との相乗効果によって、優れた親水性が得られるものとなる。
【0032】
しかも、本発明の塗料組成物から形成された塗膜では、本発明の塗料組成物を構成するアクリル系高分子体に含まれるヒドロキシル基含有モノマーのヒドロキシル基と、セルロース系高分子体のメチロール基との反応性が十分に高いため、架橋剤を添加しなくてもセルロース系高分子体の溶解を防止することができる。このため、本発明の塗料組成物から形成された塗膜では、セルロース系高分子に起因する親水性の効果が長期にわたって得られるとともに、溶解したセルロース系高分子が黴や菌の温床になることを防止できる。
【0033】
また、本発明の塗料組成物は、アクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含むものであるので、セルロース系高分子体を多く含むことに起因する臭気や、外観上好ましくない凹凸が生じにくく、表面の外観が良好な塗膜を形成できるものとなる。
また、本発明の塗料組成物は、澱粉を含むものではなく、澱粉を含むものと比較して、塗料としての品質が安定しているので、長期間にわたって保管できる。
【0034】
「フィン」
図2(a)は、本発明のフィンの一例を示した斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示すフィンの一部を拡大して示した断面図である。
フィン10は細長い短冊形状を有しており、銅製の伝熱管を通すフレア11が、長さ方向に単列、或いは複数列で等間隔に配されている。また、フィン10の表面には、伝熱性能の向上を目的にスリット12などを設けることがある。
図2(a)に示すフィン10は、図2(b)に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィン基材13の表面に、本発明の塗料組成物から形成された塗膜14が形成されてなるものである。
フィン基材13としては、燐酸クロメート処理を施したアルミニウムまたはアルミニウム合金板などが好適に用いられる。また、フィン基材13の表面に形成された塗膜14の膜厚は0.5〜2.0μm程度であることが好ましい。
【0035】
図2(a)に示すフィン10は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状のフィン基材13の表面に、本発明の塗料組成物を塗布して焼付けを行うことにより塗膜14を形成したのち、フィン基材13をプレス加工する方法などにより所定の形状とすることによって得られる。焼付け温度は、特に限定されないが、耐水性、親水性に優れた塗膜12を得るために、200〜280℃の範囲とすることが好ましい。
【0036】
図2(a)に示すフィン10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、表面に、本発明の塗料組成物から形成された塗膜14が形成されているものであるので、軽量で加工性、熱伝導性に優れたものであって、しかも、長期にわたって充分に高い親水性が得られ、臭気が発生しにくく、外観の良好な塗膜が表面に形成されているものとなる。
【0037】
「熱交換器」
図3は、本発明の熱交換器の一例を示した斜視図である。
図3に示す熱交換器20は、図2(a)に示すフィン10と、複数の伝熱管30とを備えたものである。フィン10は、一定の等間隔で平行に並べられており、フィン10の相互間に空気が流動するようになっている。伝熱管30は、フィン10のカラーを貫通しており、その内部を冷媒が流動するようになっている。
図3に示す熱交換器20は、図2(a)に示すフィン10を備えているので、空気中から凝縮した水滴がフィン10に付着しにくく、フィン10に水滴が付着することによる圧力損失が小さく、長期にわたって使用した場合でも熱交換能力が低下しにくいものとなる。
【0038】
「実験例」
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
表1に示すヒドロキシル基含有モノマーと、カルボキシル基含有モノマーと、必要に応じて用いられる他のモノマーとを、重合開始剤である過酸化ベンソルを用いて水中で重合することにより、アクリル系高分子体を固形分10質量%含む1〜12のアクリル系樹脂溶液を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
次いで、得られた1〜12のアクリル系樹脂溶液に対して、必要に応じて表2に示すpH調整剤を用いてpHの調整を行った。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
そして、pHの調整後の1〜12のアクリル系樹脂溶液と、表3に示すセルロース系高分子体またはエーテル化澱粉を水に溶解してなる10質量%のア〜カの高分子体水溶液とを用いて、アクリル系高分子体10質量部に対するセルロース系高分子体またはエーテル化澱粉の濃度が表2に示す濃度(質量部)であるA〜Tの塗料組成物を得た。次いで、得られたA〜Tの塗料組成物に対して、必要に応じて表2に示す添加剤を、アクリル系高分子体10質量部に対して表2に示す濃度(質量部)で添加した。
なお、表2において、A〜Mの塗料組成物は本発明の実施例であり、N〜Tの塗料組成物は比較例である。また、表2において、アミノとは、メチル化メラミン樹脂(商品名:MW−22:三和ケミカル社製)を意味し、PEGとはポリエチレングリコール(商品名:PEG#4000:ライオン社製)を意味し、PEOとはポリエチレンオキサイド(商品名:PEO−MZ1:住友精化社製)を意味し、エポキシとはジグリセリンポリグリシジルエーテル(商品名:SR−DGE:阪本薬品社製)を意味する。
【0043】
【表3】

【0044】
このようにして得られたA〜Tの塗料組成物を、バーコーターを用いてアルミニウム合金からなる平板状の試験体の表面に塗布し、250℃で20秒間の焼付けを行うことにより、膜厚の1.0g/mの塗膜を形成し、以下に示す各項目について評価した。その結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
「接触角」
初期状態(初期接触角)、流水で24時間洗浄した後(流水洗後接触角)、ステアリン酸に100℃で24時間浸漬した後(ステアリン酸浸漬後接触角)、塗料組成物の状態で1ヶ月保管した塗料組成物を用いて得られた塗膜の初期状態(1ヶ月保管後の初期接触角)の塗膜表面に対する水滴の接触角をそれぞれ調べ、以下に示すように評価した。
◎:20°未満
○:20〜30°
△:30〜40°
×:40°超え
【0047】
「密着性」
水に浸した紙タオルを4枚重ねして巻きつけた1ポンドハンマーの頭部の打突底部を、試料の表面に水平に重ねて、ハンマーの重みのみの荷重で30往復擦った後、擦過部の塗膜状態を目視にて観察を行い、以下に示すように評価した。
○:剥離なし
×:剥離あり
【0048】
「耐食性」
JIS Z 2371に基づいて480時間の塩水噴霧試験を行い、以下に示すように評価した。
○:RN(レイティングナンバー)9.8以上
×:RN9.8未満
「臭気」
官能試験により塗膜の臭気を調べ、以下に示すように評価した。
○:臭気を感じない
△:僅かに臭気を感じる
×:臭気を感じる
【0049】
「加工性」
塗膜の形成された試験体を0.3mmのスペーサーを挟んで折り曲げ、折り曲げた時の剥離を目視で観察し、以下に示すように評価した。
○:塗膜が剥離しない
×:塗膜が剥離した
「目視」
塗膜の外観を目視で観察し、以下に示すように評価した。
○:透明または僅かに白い
×:薄い茶色を呈する
【0050】
「表面粗度」
塗膜をレーザー顕微鏡で撮影した写真を画像処理し、表面粗度Raを算出した。
なお、表面粗度Raが0.1以上である場合、粗面(目視で問題あり)であり、表面粗度Raが0.05〜0.1未満である場合、やや粗面であり、表面粗度Raが0.05未満である場合、ほぼ平滑である。
【0051】
表4に示すように、実施例であるA〜Mの塗料組成物では、すべての評価が◎または○であり、表面粗度Raが0.1未満となった。
これに対し、ヒドロキシル基含有モノマーであるHEAの量が3mol%未満であるとともに、カルボキシル基含有モノマーであるアクリル酸の量が97mol%を超えるNの塗料組成物では、密着性と耐食性の評価が×となった。
また、HEAの量が30mol%を超えるとともに、アクリル酸の量が70mol%未満であるOの塗料組成物では、ステアリン酸浸漬後接触角と加工性の評価が×となった。
また、ヒドロキシル基含有モノマーであるHEMAの量が3mol%未満であるとともに、カルボキシル基含有モノマーであるイタコン酸の量が70mol%未満であるPの塗料組成物では、密着性と耐食性の評価が×となった。
【0052】
また、セルロース系高分子体の量が0.3質量部未満であるQの塗料組成物では、ステアリン酸浸漬後接触角の評価が×となった。
また、セルロース系高分子体の量が3質量部を超えるRの塗料組成物では、臭気の評価が△となり、表面粗度Raが0.1以上となった。
また、セルロース系高分子体の量が0.3質量部未満であるSの塗料組成物では、ステアリン酸浸漬後接触角と1ヶ月保管後の初期接触角の評価が×となった。
【0053】
また、セルロース系高分子体に代えてエーテル化澱粉を用いたTの塗料組成物では、1ヶ月保管後の初期接触角の評価が×となった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1(a)は、本発明の塗料組成物を構成する高分子の分子構造を説明するための概略図であり、図1(b)は、従来の本発明の親水化処理剤を構成する高分子の分子構造を説明するための概略図である。
【図2】図2(a)は、本発明のフィンの一例を示した斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示すフィンの一部を拡大して示した断面図である。
【図3】図3は、本発明の熱交換器の一例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
10…フィン、11…フレア、12…スリット、13…フィン基材、14…塗膜、20…熱交換器、30…伝熱管。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に塗布される塗料組成物であって、
3〜30mol%のヒドロキシル基含有モノマーと97〜70mol%のカルボキシル基含有モノマーとを含むアクリル系高分子体10質量部に対して、セルロース系高分子体0.3〜3質量部を含むことを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、表面に、請求項1に記載の塗料組成物から形成された塗膜が形成されてなるものであることを特徴とするフィン。
【請求項3】
請求項2に記載のフィンを備えていることを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−249426(P2009−249426A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96234(P2008−96234)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】