説明

塗料組成物

【課題】本発明は,亜鉛系めっき材の耐食性を向上させる塗料組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば,主剤として一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ当量が180〜1000のエポキシ系樹脂と,アミン系硬化剤成分と,フェノール基を有するオリゴマー成分と,リン酸系防錆顔料と,脱水剤とを含有することを特徴とする塗料組成物が提供される。これにより,裸では耐食性が維持し難い環境での耐食性を向上させ,鋼製柱に使用された場合における埋設地際部での腐食や犬のマーキング等による腐食に対する耐食性を向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,塗料組成物に関するもので,さらに詳しくは,亜鉛系めっき材が屋外で使用されるときの更なる耐食性の向上と,照明柱や標識柱又はネットフェンスのポール等,屋外で一部分埋設されて使用される鋼製柱等の埋設地際部における耐食性を向上させる亜鉛系めっきにおいて,その耐食性を更に向上させる塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を亜鉛めっきにより防食する方法は,古くより実施されている技術である。しかしながら,亜鉛めっきだけでは耐食性に問題があるケースもあり,亜鉛めっきの上に塗装を施し,防食して使用するケースも多々ある。このときに,亜鉛めっきと塗装との密着力が高くなく,それが劣化の要因になることもあり,亜鉛めっきと塗装の密着性を上げることは重要な課題である。例えば,特許文献1では,下地処理としてクロメート処理を施し,さらに,下塗り塗装としてメタリン酸化合物等を添加して,耐食性を向上させる方法を規定している。また,特許文献2では,亜鉛めっき面に化成処理を施した後に,下塗り塗膜としてマグネシウム酸化物を含有したものを規定している。このように,亜鉛めっき上に塗装した場合の耐食性を向上させるためには,下地処理の技術と下塗り塗膜の技術が不可欠であると考えられてきた。
【0003】
また,照明柱や標識柱等は,各種材料で作製されているが,亜鉛系めっき製のものが,強度と価格のバランスが取れているために,多用されている。これらは,屋外で埋設されて使用されることが多い。亜鉛系めっきは,雨風や結露等による腐食因子から鋼材を遮ることを目的にしているが,土に埋設された部分の直上で腐食が起き易いことが知られている(非特許文献1)。この場合に,腐食を抑制する方法として,埋設部界面の上下に防食層を設ける方法が開示されている(特許文献3)。この防食手段は,コンクリートに埋設された部分とその直上の電池作用による腐食を防いでいる。
【0004】
また,歩道や公園等,人が歩く場所に設置されている鋼製柱は,犬のマーキングがしばしば行われ,これによる腐食が問題であるとの報告もなされている(非特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−171495号公報
【特許文献2】特開平9−38570号公報
【特許文献3】特開2002−371372号公報
【特許文献4】特開2000−144044号公報
【非特許文献1】第47回材料と環境討論会予稿集,195(2000)
【非特許文献2】第25回日本道路会議予稿集,06011(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,多用されている亜鉛めっき材の耐食性の向上,特に,裸では耐食性が維持し難い環境での耐食性の向上させ,鋼製柱に使用された場合における埋設地際部での腐食や犬のマーキング等による腐食に対する耐食性を向上させることが可能な塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,亜鉛めっきに付着させた塗料の成分と密着性の関係,さらには耐食性の関係を精緻に調査した。また,埋設地際部での腐食,とりわけ,犬の尿成分による亜鉛めっき鋼製柱の腐食の実態を調査し,これを実験室的に詳細に検討し,犬の尿成分による亜鉛めっきの腐食促進現象を検討してきた。種々の検討の結果,塗膜中に耐水性を向上させる成分とアンモニウムイオンを含む水溶液での耐久性を増す成分を組み合わせて添加することで,それぞれの相乗効果により上記の問題を解決することに至った。即ち,本発明の趣旨は,以下のとおりである。
【0008】
(1)(a)塗料の主剤として1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ当量が180〜1000のエポキシ系樹脂と(b)アミン系硬化剤成分の合量を100質量部と,(c)フェノール基を有するオリゴマー成分を30質量部以上100質量部未満と,(d)リン酸系防錆顔料を1質量部以上20質量部未満と,(e)脱水剤を1質量部以上20質量部未満とを含有することを特徴とする塗料組成物。
【0009】
(2)上記(b)アミン系硬化剤成分が,アダクト変性させたメタキシレンジアミンであることを特徴とする,上記(1)に記載の塗料組成物。
【0010】
(3)上記フェノール基を有するオリゴマーの総成分が,クマロン構造を含みフェノール基を有する水酸基価が100mgKOH/gを超えて200mgKOH/g未満となる芳香族または脂環式オリゴマーであることを特徴とする,上記(1)に記載の塗料組成物。
【0011】
(4)亜鉛系めっき鋼製埋設めっきポールの地際部防食に適用されることを特徴とする,上記(1)〜(3)のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,耐水性を向上させる成分とアンモニウムイオンを含む水溶液での耐久性を増す成分を組み合わせて添加することで,耐食性を向上させることが可能な塗料組成物が提供される。したがって,本発明による塗料組成物を亜鉛めっき上に塗装することで,耐久性に優れる防食材料を作製することができ,亜鉛めっきでは耐食性が確保されない場合の効果的な改善手段となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
本発明に係る塗料組成物は,(a)塗料の主剤として1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ当量が180〜1000のエポキシ系樹脂と(b)アミン系硬化剤成分の合量を100質量部と,(c)フェノール基を有するオリゴマー成分を30質量部以上100質量部未満と,(d)リン酸系防錆顔料を1質量部以上20質量部未満と,(e)脱水剤を1質量部以上20質量部未満とを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明で規定する硬化剤とは,塗膜としての機能を持たせるためにエポキシ系樹脂に架橋反応を起こし製膜するために用いられる薬剤を意味する。また,本発明で規定するオリゴマー成分とは,エポキシ系樹脂と硬化剤との架橋反応には直接関与しない,平均分子量が数百以上の有機樹脂成分を意味する。また,防錆顔料とは,樹脂成分以外に塗膜の防食性能を向上させるために添加する無機物の固体粒子を意味し,リン酸系防錆顔料とはその成分中にリン酸基を有するものを意味する。また,脱水剤とは,塗膜中の水分子と,樹脂や防錆顔料との反応を防ぐ目的で添加する成分で,エポキシ基や添加物の官能基と水分子との反応よりも水分子との親和性が高い成分を有するものを意味する。それぞれの成分の詳細は以下に示す。
【0016】
ここで,(a)エポキシ系樹脂としては,架橋塗膜を形成することが可能な1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ当量が180〜1000のものが好ましい。このとき,1分子中のエポキシ基が2個未満の場合,塗膜が高分子量化せず,十分な塗膜強度が得られ難い。また,エポキシ当量が180未満では,樹脂の構造的にビスフェノール型で2官能基以上のエポキシ樹脂とすることが難しく,1000より大きい場合では,常温での硬化性が劣る場合や,塗膜の強度が出難い場合がある。
【0017】
また,硬化剤としては,エポキシ樹脂との架橋反応が常温下で良好なアミン系化合物が,通年で使用する防食塗料用途では最適である。ただし,アミン系化合物は単独で用いると,揮発し易く,皮膚障害を起こし易いため,変性物を使用することが一般的である。アダクト変性は反応時に水酸基を生成するため,塗装性や反応性を損なわない。アミン系化合物として,脂肪族ポリアミン,イソフォロンジアミン,メタキシレンジアミン等が挙げられるが,脂肪族ポリアミンは,低温時の硬化性は良好であるものの,塗膜表面にタックを生じ易い。また,イソフォロンジアミンは,仕上がり外観は良好であるものの,低温での硬化性が遅い傾向がある。一方,上記記載のメタキシレンジアミンは,低温時の硬化性に優れ,且つ仕上がり外観も良好であるので,これをアダクト変性したものは,亜鉛系めっき鋼製埋設めっきポールの地際部防食用途等で通年使用するエポキシ樹脂塗料には最も有効な硬化剤である。
【0018】
なお,使用に際しての硬化剤の添加量は,(b)変性アミン硬化剤中のNH基(活性水素)当量と(a)主剤中のエポキシ当量との配合比が,1/1.2〜1/1.8(モル比)となるように配合調整することが好ましい。当量比が1/1.2よりも小さくなり変性アミン硬化剤中のNH基当量の割合が多くなる場合には,架橋密度が高くなり,塗膜が脆くて硬いものとなるため,防食性能が低下することとなる。また,当量比が1/1.8よりも大きくなり主剤中のエポキシ当量の割合が多くなる場合には,十分な架橋が得られず,塗膜と基材との密着性が低下することとなる。
【0019】
さらに,上記のエポキシ系樹脂,硬化剤と共に,塗装時の作業性のために,溶剤を添加しても問題はない。添加する溶剤としては,塗装後塗膜中に残り難い比較的沸点の低い芳香族系,アルコール系,ケトン系溶剤が望ましい。芳香族系溶剤としては,例えば,トルエン,キシレン等が挙げられる。アルコール系溶剤としては,例えば,エタノール,イソプロパノール,ブタノール,イソブタノール等が挙げられる。ケトン系溶剤としては,例えば,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン等が挙げられる。また,これらの混合溶剤も使用できる。また,エポキシ系樹脂には,消泡性やレベリング性の向上等を目的として,シリコン系添加剤が添加できる。その添加量は,エポキシ系樹脂に対して0.1質量%以上10質量%未満である。
【0020】
ここで,フェノール基を有するオリゴマー成分とは,例えば,C9系原料(スチレン,インデン,クマロン等)とフェノールを反応させたものや,キシレン,トルエン等とフェノールを反応させたフェノール変性オリゴマーで,分子量が数平均分子量300〜1200であるものが挙げられる。分子量が300未満の低分子であると,オリゴマー成分が硬化時や使用時に塗膜内から拡散して,表面にブリードアウトし,効果が発揮できない恐れがある。逆に,1200超の分子量であると,オリゴマー成分は塗膜硬化時に自由な移動が行えず,後述する反応がうまく進まないために,耐食性の向上が図れない恐れがある。
【0021】
オリゴマー成分について,上記の特許文献4では,高反応性のフェノール性水酸基を持ち,水酸基価が50mgKOH/g〜100mgKOH/gであるフェノール変性炭化水素樹脂が,発明塗料中の重要な構成要素であると記されており,上記の範囲のフェノール変性炭化水素樹脂は,亜鉛メッキ面への付着性とエポキシ樹脂との相溶性を満足させることを目的として使用されている。
【0022】
本発明の一実施形態では,特許文献4で相溶性に問題が生じるとしている水酸基価100mgKOH/gより大きいオリゴマーを含むことを特徴としている。この範囲のフェノール性水酸基が好ましい理由として,フェノール性水酸基が,エポキシ樹脂やアミン樹脂との相溶性を向上させ,防錆顔料成分との特徴ある錯形成反応に寄与しているものと考えられる。
【0023】
水酸基価が100mgKOH/g以下であると,エポキシ樹脂との相溶性が低下し,添加量に限界があるため,良好な塗膜性能が得られない。また,水酸基価が200mgKOH/gより大きい場合,耐水性が低下するという傾向があり,土中環境への適用は好ましくない。
【0024】
さらには,オリゴマー成分中にクマロン構造を含ませることが,耐水性を向上させる点でより好ましい。
【0025】
フェノール基を有するオリゴマー成分が,リン酸系防錆顔料と錯体を形成し,防錆能力や基材への密着性を向上させ,亜鉛面への付着性を長期間維持させることに関与している。フェノール基を有するオリゴマー成分の添加量としては,30質量部未満であると,防錆能力や基材への密着性を向上させる効果は十分発揮されず,100質量部以上含有すると,塗膜の硬度や耐薬品性等の性能が低下し,逆に効果が下がる。
【0026】
また,リン酸系防錆顔料は,フェノール基のOH成分と錯形成反応を起こす主成分であり,1質量部以上含有するとその効果が発揮される。しかしながら,20質量部以上含有すると,塗膜となった時の機械的強度が低下し,剥離し易くなるため,逆に効果が薄れてしまう。密着性の観点から,リン酸系防錆顔料はさらに好ましくは10質量部以下が望ましい。
【0027】
また,脱水剤は,リン酸系防錆顔料とフェノール基との反応を阻害する塗料中の含有水を除去するために,必須の成分である。塗料中の水分含有量によって添加量を変化させる必要はあるが,通常の合成法で作製したエポキシ樹脂と硬化剤成分とオリゴマー成分である場合,1質量部以上添加すると十分な脱水反応が起こり,リン酸基とフェノール基との反応を阻害する含有水を除去する効果が得られる。逆に20質量部以上含有すると,脱水剤が凝集し,塗膜形成時にクラスター状の塊を形成し,塗膜性能を劣化させる要因となる。塗膜性能の観点から,脱水剤はさらに好ましくは,10質量部以下が望ましい。
【0028】
さらに,本発明の一実施形態では,望ましくは硬化剤成分がアミン化合物であることを規定する。また硬化剤成分としては,メタキシレンジアミンをベースとした変性アミンが適用可能である。亜鉛めっき鋼材に用いる場合の本発明の機能を満足させるためには,エポキシ系樹脂として,ビスフェノールA,ビスフェノールF等の一般的なものが適用可能であるが,特にエポキシ樹脂とアミン化合物を混合させた樹脂を適用することで,硬化剤のアミン成分の反応が脱水剤との組み合わせで促進され,亜鉛めっき面での耐食性がより向上する。その作用機構は定かではないが,本発明者らは,エポキシ基とアミノ基が反応したアミド結合が亜鉛めっきの表面とより強固に吸着するためではないかと推定している。
【0029】
さらに,本発明の一実施形態では,フェノール基を有するオリゴマーの総成分が,上述したように,クマロン構造を含みフェノール基を有する水酸基価が100mgKOH/gを超えて200mgKOH/g未満となるフェノール基を有する芳香族または脂環式オリゴマーであることが好ましい。オリゴマー成分をこのような芳香族または脂環式オリゴマーにすると,結果的に耐食性がより向上する結果となる。その作用は,定かではないが,本発明者らは,オリゴマー成分を芳香族または脂環式オリゴマーにすると,硬化剤樹脂との相溶性が上がり,上記OH成分とリン酸系防錆顔料成分との錯形成反応が活発となり,耐食性が増すものと考えている。
【0030】
本発明に用いるリン酸系防錆顔料としては,リン酸塩を遊離して塗料中のフェノール基と反応できるものなら特に規定するものではないが,価格的にも安価であり,かつ,塗料中に容易に分散可能であり,脱水剤との相互作用も起こさないものが好ましい。そのような顔料として,例えば,リン酸,亜リン酸,ポリリン酸のMg塩,Ca塩,Zn塩,Al塩,またはリンモリブデン酸塩のいずれか,もしくは,これらを2種以上含むものが利用できる。
【0031】
さらに,本発明に用いる脱水剤としては,塗料中での分散性がよく,塗料内部での水分の吸収を十分に行えるものなら特に限定するものではないが,その中でも,無水石膏,ゼオライトのいずれか,もしくは,これらを2種以上含むことが望ましい。
【0032】
さらに,リン酸系防錆顔料と脱水剤の粒径は,塗料中への分散性と反応の起こり易さの観点より,1μm以上10μm以下が望ましい。
【0033】
さらに,本発明の一実施形態における亜鉛系めっきとしては,JIS−H8641で規定されているフラックス処理によるめっき材が一般的に適用できる。また,JIS−G3302で規定されている溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯とこれにより製造された構造物,JIS−G3313で規定されている電気亜鉛めっき鋼板及び鋼帯とこれにより製造された構造物,さらに,JIS−G3442に規定されている水配管用亜鉛めっき鋼管とこれにより製造された構造物,さらに,亜鉛にAlやMg等の合金成分を添加した合金めっきにおいても,同様の効果を有する。また,製造直後の亜鉛系めっきだけでなく,亜鉛めっきのままで使用され,表面の亜鉛層が多少腐食した場合でも,赤錆の発生していない場合には適用可能である。
【0034】
さらに本発明の一実施形態は,埋設めっきポールの地際部防食に適用することで十分な効果を発揮する。ここで言う埋設めっきポールとは,心材を鋼で形成された柱状の構造物で,鋼管形状が一般的ではあるが,鋼管の径を順に変化させたテーパーポール鋼管や角管形状やコラム,形鋼等,形状を特に規定するものではなく,デザイン上で複雑な形状を有する場合もある。
【0035】
埋設めっきポールに適用する際は,少なくとも埋設地際部に本発明の塗料組成物を塗装する。塗装する範囲は特に規定するものではないが,埋設部界面の上下それぞれ50mm以上であることが望ましく,さらに望ましくは300mm以上が好ましい。また塗装膜厚は10μm以上が望ましく,さらに50μm以上であることが望ましい。塗装方法は,スプレー,刷毛塗り,ローラー塗りなどが適用可能である。また,必要に応じて本塗料を塗装した上に,各種上塗り塗装を施すこともできる。上塗り塗装は,エポキシ系,アクリル系,フッ素系,ウレタン系,ポリエステル系などが適用可能である。塗装する際には,被塗物表面の汚れや付着物を除去した後塗装する。さらに密着性を向上させるために,表面を研削したり,密着性向上処理を施したりすることも可能である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0037】
(実施例1)
主剤としては,
A:アクリルポリオール樹脂(大日本インキ(株)製,商品名アクリディックCU−1206)
B:エポキシポリオール樹脂(旭電化工業(株)製,商品名アデカレジンEP−6021,固形分60%,水酸基当量450g/当量)
C−1:エポキシ当量184〜194のビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製,商品名エポトートYD−128)
C−2:エポキシ当量875〜975のビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製,商品名エポトートYD−014)
を用いた。
【0038】
硬化剤としては,
D:ポリイソシアネート樹脂(日本ポリウレタン工業(株)製,商品名コロネートL)
E:メタキシレンジアミンをベースとしたアダクト変性物(エア−プロダクツジャパン(株)製,商品名サンマイドCX−1170B)
を用いた。
【0039】
主剤と硬化剤の配合比は1/1.6(質量比)とした。主剤と硬化剤の合量を100質量部として,以下の成分を添加した。なお,溶剤としては,トルエン,キシレン,メチルエチルケトンをそれぞれ9質量部,4質量部,5質量部ずつ添加した。
【0040】
まず,体質顔料として扁平タルクをそれぞれに20質量部添加した。
【0041】
次に,オリゴマー成分としては,
F:フェノール変性オリゴマー(ガラス製反応器にフェノール60質量部,スチレン70質量部,クマロン70質量部,トルエン100質量部を仕込み,更に,反応触媒として三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を2質量部添加して,80〜85℃で約2時間反応させ,反応終了後,水酸化カルシウム6質量部を加え中和し,中和終了後に沈殿物を濾去して得た樹脂ワニスを,更に減圧下で溶剤を留去して得た,水酸基価180mgKOH/g,数平均分子量500の半固形樹脂)
G:フェノール変性キシレン樹脂(数平均分子量1000,水酸基価115mgKOH/g,フドー(株)製,商品名ニカノールHP−70)
H:キシレン樹脂(数平均分子量400,フドー(株)製,商品名ニカノールL)
I:シクロペンタジエン系樹脂(日本ゼオン(株)製,商品名クイントン1500)
J:トルエン樹脂(PTIジャパン(株)製,商品名エポジールL)
を使用した。
【0042】
ここで,F,Gはフェノール基を含み,H,I,Jはフェノール基を含んでいないオリゴマーである。H,I,およびJの平均分子量は,それぞれ400〜800の範囲である。これらの樹脂成分と,防錆顔料,脱水剤をそれぞれ表1の成分で配合したものを供試塗料組成物とした。なお,一部の塗料組成物では,混合時にゲル化したり,硬化が進まなかったりしたものがあり,これらは試験に用いなかった。
【0043】
なお,防錆顔料としては,
K:リンモリブデン酸アルミニウム(キクチカラー(株)製,商品名PM−300C)
L:リン酸カルシウム(キクチカラー(株)製,商品名CP−Z)
M:トリポリリン酸アルミニウム(テイカ(株)製,商品名KホワイトG−105)
N:リン酸亜鉛(キクチカラー(株)製,商品名ZP−DL)
を使用した。
【0044】
また,脱水剤としては,
O:合成ゼオライト(ユニオン昭和(株)製,商品名モレキュラーシーブ4A)
P:無水石膏(林化成(株)製)
を使用した。
【0045】
これらの塗料を,長さ150mm×幅75mm×厚さ6mmの熱延鋼板をめっきした鋼板に塗布した。めっき条件はJIS−H8641に従い,平均めっき厚みは580g/mであった。塗装の前処理としては,住友スリーエム(株)製のマジクロンにより表面を研削した後,塗膜厚みはそれぞれ100μm狙いで,刷毛により塗装した。塗装後の試験片にカッターナイフでクロスカットを入れ,40℃,3%NaCl水溶液に3ヶ月浸漬する塩水浸漬試験,常温でpH12.0のNaOH水溶液に1ヶ月浸漬するNaOH浸漬試験,常温でpH12.0のアンモニア水に1ヶ月浸漬するNHOH浸漬試験をそれぞれ行い,クロスカット部からの平均塗膜剥離長さを測定した。その結果を表1に合わせて示す。なお,表1中の変性剤とは,上記のオリゴマー成分を意味している。
【0046】
【表1】

【0047】
上記の表1において,番号15〜31が本発明の一実施形態に係る実施例となっており,番号1〜14が,比較例となっている。
【0048】
上記の表1より,比較例に対して,実施例では剥離幅が十分に小さく,また,オリゴマー成分の効果と芳香族または脂環式オリゴマーの効果が明確に現れている。
【0049】
(実施例2)
SS400鋼成分の熱延鋼板を長さ150mm×幅75mm×厚み3.2mmに切断し,塩酸酸洗後,硫酸ニッケル浴(硫酸ニッケル30質量%,ホウ酸5質量%,硫酸ナトリウム10質量%浴,50℃,20A/dm)にて0.5g/mの付着量で電気ニッケルめっきを行い,その後,表2に示した溶融Znめっき浴組成に1分間浸漬後,引き上げて30秒後に60℃の温水に浸漬して,めっき板を作製した。
【0050】
それぞれのめっき板に対して,表1に示した5番の塗料組成物と25番の塗料組成物を選定し,マジクロンにより表面を研削した後,塗膜厚みはそれぞれ100μm狙いで,刷毛により塗装した。塗装後の試験片にカッターナイフでクロスカットを入れ,実施例1の各種浸漬試験を同様に行い,クロスカット部からの平均塗膜剥離長さを測定した。なお,48番の試験片は,腐食後の表面に塗装した際の耐食性を評価するために,32番のめっき条件で製造した試験片に対して,表面をアセトンで脱脂し,塩水噴霧試験装置の中に24時間設置し,取り出し後,表面の白錆を水洗して除去し,試験に供した。
【0051】
【表2】

【0052】
上記の表2で,番号40〜48が本発明の一実施形態における実施例となっており,番号32〜39が比較例となっている。
【0053】
上記の表2を参照すると,本発明の一実施形態に係る塗料組成物は,亜鉛系めっきの成分によらず耐食性が良好で,特に3%NaClとNHOHでの耐食性が極めて良好である。また,腐食後の表面でも十分な耐久性を示すことが明らかである。
【0054】
(実施例3)
図1に示した試験体を作製した。試験材1(鋼製柱)のサイズは,外径6.5mmφ×長さ200mm×厚み3.8mmである。試験材1には,実施例1と同様のめっきを施した。この鋼管の中央部約100mmの長さに表1の5番の塗料と25番の塗料を選定し,マジクロンにより表面を研削した後,塗膜厚みはそれぞれ100μm狙いで,刷毛により塗装した(図1中の5)。塗装後の鋼管を直径100mmのコンクリート2に200mmの長手方向の約半分,即ち,塗装部分が半分コンクリート中に埋まるように埋設し,さらに,コンクリートの上部に高さ20mmの塩ビ製の枠3を嵌め,この中に,市販の園芸用の土と腐葉土を混ぜ合わせた埋設用充填材4を充填した。
【0055】
試験材は,それぞれの塗料について2体ずつ作製し,一方には1%NaCl水溶液を1日1回散布した。また,もう一方の試験体には,表3に示した平均的な犬の尿とほぼ同じ成分の水溶液を1日1回散布した。上記のそれぞれの試験材において,6ヵ月後の腐食状態を,腐食の発生と孔食の有り無しで評価した。
【0056】
【表3】

【0057】
評価の結果,5番の塗料を塗装した試験体では,両方の溶液で塗膜のふくれが激しく,亜鉛めっきが腐食している部位が数多く認められ,特に,犬の尿を模擬した溶液で激しかった。これに対して,25番の塗装を施した試験体では,塩水散布と模擬尿液散布の両方において,塗膜ふくれは認められず,亜鉛めっきの腐食も発生していなかった。これより,本発明の一実施形態に係る塗料組成物は,亜鉛系めっき鋼管柱に塗装した際の埋設地際部の耐久性を著しく向上させることが明らかになった。
【0058】
上記のような本発明に係る塗料を埋設地際部に塗装した亜鉛めっき柱を使用することで,埋設地際部の腐食や犬等のマーキングによる腐食が解決され,通行人や交通の障害になるポールの転倒等が回避できる。さらには,材料の寿命が延長され,照明柱等の取替え周期も長くでき,道路や公園等の管理コストを削減することが可能となる。
【0059】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は,亜鉛めっき材の耐食性を向上させる塗料組成物に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】亜鉛めっき鋼管柱埋設地際部の耐食性評価試験体の模式図
【符号の説明】
【0062】
1 亜鉛めっき試験材
2 コンクリート
3 塩ビ製の枠
4 埋設用充填材
5 塗装部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塗料の主剤として1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ当量が180〜1000のエポキシ系樹脂と(b)アミン系硬化剤成分の合量を100質量部と;
(c)フェノール基を有するオリゴマー成分を30質量部以上100質量部未満と;
(d)リン酸系防錆顔料を1質量部以上20質量部未満と;
(e)脱水剤を1質量部以上20質量部未満と;
を含有することを特徴とする,塗料組成物。
【請求項2】
前記アミン系硬化剤成分が,アダクト変性させたメタキシレンジアミンであることを特徴とする,請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記フェノール基を有するオリゴマーの総成分が,クマロン構造を含み,フェノール基を有する水酸基価が100mgKOH/gを超えて200mgKOH/g未満となる芳香族または脂環式オリゴマーであることを特徴とする,請求項1記載の塗料組成物。
【請求項4】
亜鉛系めっき鋼製埋設めっきポールの地際部防食に適用されることを特徴とする,請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2006−348109(P2006−348109A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173714(P2005−173714)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】