説明

塗材用ローラー、塗り床材の均し用ローラー、及び塗材用ローラーのためのパイル生地

【課題】 専門家でなくても、塗り床材などの高粘度の塗材を簡単にきれいに均すことができる塗材用ローラーを提供することである。
【解決手段】
地組織5に、この地組織5に対して起立状態を保つ程度の剛性を有する合成樹脂製のループ6を起立させ、上記地組織5をローラー本体1に巻きつけて構成した塗材用ローラーであって、上記地組織5の巻きつけ状態で、上記個々のループ6で囲まれた面Aをローラー本体1の進行方向Bに交わる向きにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、床面や壁面などの塗工の際に用いる塗材用ローラーに関するものであり、特に、床表面を仕上げる塗り床材の均しに適したローラーと、それに用いるパイル生地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、床面の耐久性や、防水性、クッション性などを上げるために高分子材料製の塗り床材を塗り、床表面を仕上げることが行なわれている。
上記塗り床材には、その目的によって様々な種類があるが、いずれを用いる場合も、床下地面上に数(mm)の厚みで表面を平らにした塗り床材の層を形成する必要がある。
このような塗り床材を用いて床面を仕上げるために、通常は床下地面上に高粘度の塗り床材を撒いてから、コテによってそれを広げて均すようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−138087号公報
【特許文献2】特開平08−217837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、コテを用いれば、塗り床材を均して表面を均一にすることができる。ところが、左官職人などの専門家でなければコテを使いこなすことは難しく、誰でもが塗り床材をコテできれいに均すことができるわけではなかった。
そのため、例えば、工場の従業員が、工場の床に塗り床材を設ける場合には、塗装用ローラーを用いて塗り床材を塗り広げることがあった。
【0005】
しかし、通常の塗装用ローラーでは塗り床材を均すことはできなかった。
なぜなら、通常の塗装時の塗膜は数〜数十(μm)であり、このような薄い塗膜を形成するための塗料は、塗り床材とは異なり低粘度の流体である。そして、低粘度の塗料を保持するローラーは、表面に直径が50(μm)程度の細い毛を備えたものであるが、このような細い毛は腰がないため、このような通常の塗装用ローラーを用いて塗り床材を均そうとしても、床面に撒いた粘度の高い塗り床材の表面では、ローラー表面に備えた細い毛が寝てしまい、ローラーが塗り床材上を滑ってしまうからである。
この発明の目的は、専門家でなくても、粘度の高い塗り床材などの塗材を簡単にきれいに均すことができる塗材用ローラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、地組織に、この地組織に対して起立状態を保つ程度の剛性を有する合成樹脂製のループを多数起立させ、上記地組織をローラー本体に巻きつけるとともに、その巻きつけ状態で、上記個々のループで囲まれた面をローラー本体の進行方向に交わる向きにしたことを特徴とする。
なお、上記ループが有する剛性は、上記起立させたループが塗材との相対移動の際に、ある程度の変形や移動をしながらも、起立状態を維持できる特性のことである。
但し、上記ループが起立状態を保てるか保てないかは、塗材の粘度によって異なるもので、本発明におけるループの剛性は、塗材の粘度に応じて相対的に決まるものである。
【0007】
第2の発明は、第1の発明を前提とし、上記地組織上に、複数のループを重複して設けたことを特徴とする。
第3の発明の、塗り床材の均し用ローラーは、上記請求項1または2に記載の塗材用ローラーからなることを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、ローラー本体に巻き付けて用いる塗材用ローラーのためのパイル生地であって、地組織に、この地組織に対して起立状態を保つ程度の剛性を有する合成樹脂製のループを多数有していることを特徴とする。
【0009】
第5の発明のパイル生地は、第4の発明を前提とし、上記地組織上に有する多数のループ同士は、個々のループが独立せずに編目を形成して連なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明の塗材用ローラーは、床面塗工に用いて塗り床材上を回転する際に、地組織に起立した各ループが、塗り床材を適度に移動させ、表面を均すことができる。
そのため、この発明の塗材用ローラーを用いれば、コテを扱う専門家でなくても、塗り床材を均して床面をきれいに仕上げることができる。
また、上記ループは剛性を備えているため、繰り返しの使用にも地組織上での起立状態を保つことができる。
【0011】
また、第1の発明の塗材用ローラーは、壁面などの模様付けローラーとして用いることもできる。すなわち、塗材用ローラーは地組織に起立した多数のループを有し、これらループは剛性を有することから、この多数のループの形態、形状を塗工表面に転写して、塗工表面に独特の意匠性模様を付与することができる。
さらに、起立状態を保持したループ間には、適度な隙間が保持されているので、洗浄によって、使用したローラーのループ間から塗材を簡単に取り除くことができる。
このように、ループの起立状態が維持されるとともに、使用後の塗材の除去が容易にできるので、このローラーを繰り返し利用することができ、経済的である。
【0012】
第2の発明は、ループを重複させることによってループの剛性を高め、ループの起立状態を維持することができる。
第3の発明によれば、専門家でなくても、簡単かつ、きれいに塗り床材を均して床面を仕上げることができるようになる。
【0013】
第4、第5の発明によれば、剛性を保った多数のループを有するローラー用のパイル生地を形成することができる。
特に、第5の発明では、地組織に起立したループ同士が、個々のループが独立せずに編目を形成して連なっていることによって、ループ同士が補強しあって起立状態を保ち易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態の塗材用ローラーの斜視図である。
【図2】図1のII-II線断面図である。
【図3】この実施形態のループを形成した地組織の模式図である。
【図4】ループの向きを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、この発明の実施形態を示す。
この実施形態の塗材用ローラーRは、図1、図2に示すように、ローラー本体1の外周にパイル生地2を巻きつけて接着するとともに、ローラー本体1にローラーフレーム3を取り付けたものである。上記ローラーフレーム3は、上記ローラー本体1を回転自在に支持するものであり、塗材を均す際に作業者が握るハンドル4を備えている。
【0016】
また、上記パイル生地2は、図2に示すように、蜂の巣形のメッシュ状にした編地からなる地組織5に、多数のループ6を起立させた生地である。
なお、上記ループ6は、地組織5の全面に亘って多数設けられているが、図1,図2では、一部分にのみループ6を記載し、他は省略している。
上記パイル生地2は、どのようにして作成してもよいが、例えば、特開平6−330438号に記載されているように、二列針床を有する編機によって、地組織を形成しながらパイルを形成する方法で作成することができる。
【0017】
また、上記各ループ6は、ナイロン、ポリエステルなどの合成樹脂製のフィラメントからなり、上記ローラーRを、例えば塗り床材のように粘度の高い塗材の表面で移動させたときにも、地組織5に対して起立状態を保つ剛性を備えている。
なお、ここでいう起立状態とは、ループ6全体が地組織5表面に接触することがなく、地組織5から立ち上がっている状態のことである。ローラーRが移動するときの塗り床材の抵抗によってループ6が多少傾いた状態も、上記起立状態に含むものとする。
【0018】
また、上記ローラーRのループとして必要な剛性は、塗材の粘度や、塗布厚などによっても変わるので一概には決められない。
そして、個々のループ6の剛性は、ループ6を構成するフィラメントの材質や太さ、ループ長などによって調整できるものである。但し、同じフィラメントでも、ループ状にすることで、単なる直線状のものと比べて剛性を大きくすることができる。
但し、通常、上記ループ6は、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ビニロンなどの合成樹脂製であって、線径が0.05〔mm〕〜0.5〔mm〕程度のフィラメントを用い、ループ高さは1〜20〔mm〕程度、より好ましくは3〜10〔mm〕とする。このようなフィラメントによって形成されたループ6は剛性を維持し、起立状態を保つものである。
【0019】
また、線径が0.05〔mm〕〜0.5〔mm〕程度であるため、フィラメント自身の剛性が高く、ループを編成する際に発生する逆戻りトルクがより顕著に発生する。これのように逆戻りトルクが発生すれば、形成されたループは倒れ難くなる。
ループ個数については、塗材の種類やローラーの用途に応じて適宜選択すればよいが、100〜900〔個/インチ〕の範囲がよく、より好ましい範囲は200〜400〔個/インチ2〕である。
さらに、この発明では、地組織に設けてなる多数のループは、個々のループがそれぞれ独立して地組織より突出して起立してなるものでもよいが、個々のループが独立せずに編目を形成しながら個々のループがチェーン状に連なった形態をしてなるものを好ましく用いることができる。
【0020】
個々のループが独立せずに編目を形成してなる形態は、例えば、二列針床編機を用いて編成する際に、針床におけるパイル形成用のニードルは、編目を編成することが可能なニードルを用いて、連続して同一のニードルにループパイル形成用のフィラメントを供給することにより、個々のループがチェーン状に連なって編目を形成してなるループパイルを地組織に設けることができる。このように個々のループが独立せずに連なって起立状態を保ちながら編目を編成している場合、地組織のループ面が押圧された場合に、連なってなるループパイル同士が相互に補強しあうため、ループが倒れ難く、押圧に対しても起立状態を効果的に保持することが可能となる。
従って、上記ローラーRが塗り床材のような高粘度の塗材上を移動する際に適度な抵抗を受けて転がり、良好に塗材を均すことができる。
【0021】
さらに、上記ループ6は、地組織5をローラー本体1に巻きつけた状態で、個々のループ6で囲まれた面をローラー本体1の進行方向に交わる向きになるように設けている。
ループ6で囲まれた面とは、図4に示すループ6a,6b,6c内の面Aのことであり、この面Aがローラー本体1の進行方向と交わるようにしている。
図4においてローラー本体1の進行方向を矢印Bとすれば、ループ6aはその内側の面Aがローラーの進行方向と平行なループであり、ループ6b、6cは面Aがローラーの進行方向と交わるループである。
すなわち、この実施形態のローラーRは、上記ループ6aのような向きのループではなく、ループ6bやループ6cのようなループ6を備えている。
なお、ここでは、上記面Aの向きを、ループ6の向きともいうことにする。
【0022】
上記のように、上記面Aを矢印Bと交わる向きにしているのは、ローラーRが塗材上を移動するとき、適度な抵抗を受けて転がり、塗材を均すことができるようにするためである。もし、ループ6で囲む面AをローラーRの進行方向と平行にした場合には、ループ6はほとんど抵抗を受けず、塗材の表面を十分に均すことはできなくなってしまう。
【0023】
また、上記ループ6で囲まれる面AをローラーRの進行方向と交わる向きにするためには、次のような方法がある。
例えば、ループ6の面Aが地組織5の編み上げ方向と平行になるようにループ6を形成し、地組織5を斜めにしてローラー本体1に巻き付けることによって、上記面AをローラーRの進行方向と交わる向きにすることができる。
あるいは、上記面Aが様々な方向に向くように地組織5上にループ6を形成してもよい。
【0024】
また、上記地組織5には多数のループ6を形成するが、全てを同じ向きにする必要はなく、図4のループ6a,6b,6cなど、向きの異なるループ6を重複して形成するようにしてもよい。そして、これらループ6を設けた地組織5をローラー本体1に巻きつけた状態で、各ループ6で囲まれる面Aがローラー本体1の移動方向と交わる向きになるように地組織5の巻き付け角度を決めればよい。このようにして地組織5をローラー本体1に巻きつければ、巻きつけ状態で、上記個々のループで囲まれた面をローラー本体1の進行方向に交わる向きにすることができる。
但し、地組織5上に起立した個々のループ6がねじれることもあるので、全ての面Aが設定どおりの向きにならないこともあるが、たまたまローラー本体1の移動方向と平行な面Aを持つループ6があってもかまわない。
【0025】
なお、上記地組織5やループ6は、どのような方法で形成してもかまわないが、上記したように二列床編機によって地組織5を編みながら、同時にループ6を編み込むようにすれば、パイル生地2を生産性良く製造できる。しかも、上記特開平6−330438号公報に記載された方法を用いれば、ループ6の位置や向きを自由に設定できる。
例えば、ループ6は地組織5のひとつのウェール上に沿って形成するほか、コース方向に並べて形成したり、異なるウェールに渡して形成したり、コースを飛ばして形成したりすることによって、ループ6の向きや大きさを変えることができる。また、地組織5上に、様々な向きや大きさのループ6を重複して形成することも可能である。
ループ6の重複には、全く同じループ6を複数、同位置に設けるほか、一つのループを他のループが跨ぐように形成するものなどがある。
【0026】
そして、地組織5上に複数のループ6を重複して形成した場合には、重複した複数のループ6が一体的になって、一つのループ6の場合と比べて高い剛性を示すことになる。特に、複数のループ6の向きをランダムにして重複させれば、ループ6同士が絡み合ってループ全体としての剛性がさらに増す。
つまり、複数のループ6の重複度や、絡まり具合によっても、ループ全体の剛性を調整することがきる。
このように、ループ6を重複して設けることによって、ループ全体の剛性を調整できれば、個々のループ6の剛性を調整しなくも、目的にあったループの剛性を実現することができる。
【0027】
(実施例1)
実施例1として、14ゲージの二列針床を有するカールマイヤー社製のダブルラッセル編機で、地組織用の糸として280デシテックス48フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸を用いるとともに、パイル糸として370デシテックス(繊径0.205〔mm〕)のポリアミドモノフィラメント糸を用いて、20〔コース/インチ〕、14〔ウェール/インチ〕の密度で、地組織は1イン1アウト筬入れ2本ハニカムメッシュを編成した。
また、パイル組織はALLインで8コースメッシュの亀甲形に沿って、ループが連なり編目を形成させてなるループパイルを形成して編成した生機を乾熱セットし、ループ個数243〔個/インチ〕、ループ高さ9.1〔mm〕、目付け750〔g/m2〕の本発明のパイル編地を得た。
得られたパイル編地は剛性を有し、地組織上に設けられた多数のループ起立状態の優れたものであった。
【0028】
上記で得られたパイル編地(パイル生地)をローラー本体に巻きつけて形成したローラーRを、床面に撒いた塗材上に軽く接触させて移動させることによって、床面に撒いた塗材を簡単にきれいに均すことができた。
また、上記ローラーRは、起立したループ6のループ高さを9.1〔mm〕とし、ループ6の部分に十分な隙間を保っているので、使用後のローラーRを洗浄することで付着した塗材を簡単に取り除くことができる。従って、このローラーRは繰り返し使用でき、経済的である。
なお、上記実施例1では、地組織5をマルチフィラメントで形成し、ループ6をモノフィラメントで形成したが、地組織5及びループ6の何れも、モノフィラメント、マルチフィラメントのどちらで形成してもよい。
【0029】
(実施例2)
実施例2として、14ゲージの二列針床を有するカールマイヤー社製のダブルラッセル編機で、パイル糸として240デシテックス(繊径0.150mm)のポリエステルモノフィラメント糸を用いる以外は実施例1と同様にして、ループパイルを形成させて編成した。実施例1と同様に生機を乾熱セットし、ループ個数を243〔個/インチ〕、ループ高さを9.1〔mm〕、目付け量を567〔g/m2〕の本発明のパイル編地を得た。
得られたパイル編地は剛性を有し、地組織上に設けられた多数のループ起立状態の優れたものであった。
【0030】
そして、この得られたパイル編地(パイル生地)を用いたローラーRは、床面に撒いた塗材を簡単にきれいに均すことができた。
さらに、この実施例2のパイル生地を用いたローラーも洗浄性に優れ、繰り返しの使用に耐えるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明のローラーを用いれば、専門家でなくても簡単に塗り床材を均すことができるので、素人が床面の補修するときなどに有用である。
また、この発明のローラーは、壁面にローラー塗工する際に、壁面にループによって模様を形成することができ、模様付け用ローラーとしても適用可能である。
さらに、高粘度の塗材をループで保持し、塗工対象面に塗材を配る工程、表面を均す工程、模様付けする工程全てを、この発明のローラー一つで行なうことも可能である。
【符号の説明】
【0032】
R ローラー
1 ローラー本体
5 地組織
6 ループ
6a,6b,6c ループ
A (ループで囲まれた)面
B (ローラーの移動方向を示す)矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織に、この地組織に対して起立状態を保つ程度の剛性を有する合成樹脂製のループを多数起立させ、上記地組織をローラー本体に巻きつけるとともに、その巻きつけ状態で、上記個々のループで囲まれた面をローラー本体の進行方向に交わる向きにした塗材用ローラー。
【請求項2】
上記地組織上に、複数のループを重複して設けた請求項1に記載の塗材用ローラー。
【請求項3】
上記請求項1または2に記載の塗材用ローラーからなる塗り床材用均しローラー。
【請求項4】
塗材用ローラーのローラー本体に巻き付けて用いる塗材用ローラーのためのパイル生地であって、地組織に、この地組織に対して起立状態を保つ程度の剛性を有する合成樹脂製のループを多数有していることを特徴とする塗材用ローラーのためのパイル生地。
【請求項5】
上記地組織上に有する多数のループ同士は、個々のループが独立せずに編目を形成して連なっていることを特徴とする請求項4に記載の塗材用ローラーのためのパイル生地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256573(P2011−256573A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131017(P2010−131017)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000206934)株式会社マルテー大塚 (26)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】