塗膜劣化診断装置及び塗膜劣化診断方法
【課題】塗膜の劣化度を評価する指標として塗膜の補正インピーダンスを用いた場合においても、塗装膜の膜厚のばらつきの影響を最小限にして、精度の高い塗膜の劣化診断を行なうことのできる塗膜劣化診断装置を提供する。
【解決手段】塗膜8のインピーダンスを測定する前に、塗膜8の膜厚を1つの測定対象領域について複数箇所で測定する。診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、測定した膜厚のデータからその平均値及び標準偏差値を算出し、(標準偏差値)/(平均値)の商が予め設定したしきい値よりも小さい場合、つまり、膜厚のばらつきが小さい場合には、当該領域がインピーダンス測定に適していることを作業者に報知する。
【解決手段】塗膜8のインピーダンスを測定する前に、塗膜8の膜厚を1つの測定対象領域について複数箇所で測定する。診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、測定した膜厚のデータからその平均値及び標準偏差値を算出し、(標準偏差値)/(平均値)の商が予め設定したしきい値よりも小さい場合、つまり、膜厚のばらつきが小さい場合には、当該領域がインピーダンス測定に適していることを作業者に報知する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜を表面に有する下地金属に接続端子を接続し、塗膜の表面に測定プローブを接続して塗膜のインピーダンスを測定し、塗膜が有する電気的特性の劣化を診断する塗膜劣化診断装置及び塗膜劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に設置されている変圧器や配電盤などの電気機器、あるいは鉄塔やプラントなどの鋼構造物には、防食及び美観のために塗装がなされるが、その塗膜は、太陽光、風雨、腐食性ガスなどの影響を受けて次第に劣化し、やがて塗膜の剥離や下地金属の腐食などの欠陥を生じる。そして、この劣化現象は時間と共に進行し、そのまま放置すれば機器の損傷や機能障害に至るため、電気機器や鋼構造物の保全のためには、適切な時期に再塗装する必要がある。この塗装膜の劣化度及び塗り替え時期の評価方法については、種々の提案がなされているが、その中の一つに塗装膜のインピーダンスが塗膜の劣化に伴って変化することに着目し、塗装膜のインピーダンスを測定して劣化度を評価する交流インピーダンス法と呼ばれる方法がある。
【0003】
この交流インピーダンス法は、塗膜を表面に有する下地金属と塗膜の表面との間に交流電圧を印加し、それによって塗膜に流れる電流を検出して、その電流と印加した電圧とによりインピーダンスを算出し、算出されたインピーダンスから塗膜の劣化度を解析し診断する方法である。図11に、この交流インピーダンス法を用いる従来の塗膜劣化診断装置の構成を示す。インピーダンス測定部1は、電圧出力回路2と、電流検出回路3、並びにそれらを制御する制御通信回路4で構成されている。このインピーダンス測定部1の制御通信回路4には、例えばパソコンからなる解析・診断部5が、有線又は無線の通信手段6を介して接続されている。そして、アース端子7は塗膜8を表面に有する下地金属9に接続されており、測定プローブ10は塗膜8の表面に接触するように配置されている。
【0004】
この構成で、解析・診断部5がインピーダンス測定部1にインピーダンス測定動作を指示すると、インピーダンス測定部1において、制御通信回路4が電圧出力回路2に電圧を出力させる。すると、出力された電圧は、測定プローブ10とアース端子7との間に、すなわち、測定プローブ10が接触している塗膜8の表面と、アース端子7が接続された下地金属9の表面との間に印加される。
測定プローブ10は磁石(図示せず)を備えており、その磁力により塗膜8を介して下地金属9を吸着することで塗膜8の表面に固定される。また、測定プローブ10は、保水性のあるスポンジ状の材料(図示せず)を備えており、その材料に電解液を吸収させることで塗膜8との電気的接続を図り、測定電極としての機能を果たすようになっている。なお、測定プローブ10の詳細な構造は、例えば特許文献1に記載されている。
【0005】
これにより、塗膜8には微小な電流が流れ、それが電流検出回路3で検出される。この検出された電流のデータが、制御通信回路4により解析・診断部5に送信される。そして、解析・診断部5では、検出された電流のデータと、印加した電圧のデータとから、インピーダンスを算出し、電極の面積及び塗膜8の膜厚で補正された補正インピーダンスを求めて塗膜8の劣化度を診断する。また、塗装直後の初期補正インピーダンスと測定時の補正インピーダンスとの経年期間から、図12に示すように、以後の補正インピーダンスの推移を推定するための劣化推定曲線を算出する。
【0006】
また、交流インピーダンス法を用いてタンク底板の腐食を監視する方法が、特許文献2に開示されている。この方法は、タンクの基礎中にタンク底板に対向するように複数の対極を埋め込み、タンク底板と対極との間に交流電圧を印加して、その間に流れる電流と印加電圧からインピーダンス値を算出するもので、タンク底板側の防食塗膜が腐食し始めると、タンク底板と対極との間の防食塗膜のインピーダンスが変化するため、このインピーダンス値を監視することでタンク底板の腐食状況を把握するものである。
【特許文献1】特開2004−53474号公報
【特許文献2】特開平03−160354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記構成の塗膜劣化診断装置では、塗膜の劣化度を評価する指標として塗膜の補正インピーダンスを用いているが、この補正インピーダンスは、塗装膜の膜厚によって変化することが知られている。すなわち、作業者がローラやはけを用いて塗装を行なった場合の膜厚のばらつきや、経年変化による膜厚のばらつきなどが大きくなると、これに伴って補正インピーダンスのばらつきも大きくなる。
したがって、例えば、経年の短い塗装膜の補正インピーダンスを測定した場合、その補正インピーダンスが塗装直後の補正インピーダンスよりも大きくなってしまうことも想定される。そのような測定結果に基づいて塗膜の劣化度を診断したり、劣化特性の推定を行なったりすると、信頼性が全くない結果を得ることになる。
また、特許文献2に開示されているタンク底板の腐食監視方法は、底板のインピーダンス値を複数箇所について監視することで底板全体の腐食状況を把握することが目的であり、塗膜の膜厚ばらつきによるインピーダンス測定値の変動については全く問題にしていない。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、その目的は、塗膜の劣化度を評価する指標として塗膜の補正インピーダンスを用いた場合においても、塗装膜の膜厚のばらつきの影響を最小限にして、精度の高い塗膜の劣化診断を行なうことのできる塗膜劣化診断装置、及び塗膜劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の塗膜劣化診断装置は、塗膜を表面に有する下地金属に接続端子を接続し、前記塗膜の表面に測定プローブを接続することで測定回路を構成し、前記測定プローブと前記接続端子との間に交流電圧を出力する電圧出力回路及び前記測定回路に流れた電流を検出する電流検出回路を備えてなるインピーダンス測定部より得られる測定データと外部より与えられる測定条件データとに基づいて塗膜のインピーダンスを算出し、前記塗膜の電気的特性の劣化度を診断する診断部とで構成される塗膜劣化診断装置において、前記塗膜の膜厚を測定する膜厚測定手段と、前記膜厚測定手段により1つの測定対象領域について測定された複数箇所の膜厚データのばらつきを評価し、その評価結果に基づき前記領域についてインピーダンス測定の適否を判断する測定適否判断手段とを備えて構成されることを特徴とする。
【0010】
このように構成すれば、塗膜のインピーダンス測定の前に、測定対象領域の複数箇所について測定した膜厚のばらつきを評価することで、その領域がインピーダンス測定に適しているかどうかが判断される。したがって、作業者は、インピーダンスの測定に適している塗膜の領域を事前に確認してから測定を行なうことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗膜劣化診断装置によれば、塗膜の電気的特性の劣化度を診断する際に、予めインピーダンスを測定するのに適した領域を確認した上で測定を行なうことができるようになり、塗膜の劣化診断を高精度で行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例について図1乃至図7を参照して説明する。なお、図11と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分についてのみ説明する。
図1は、本発明の塗膜劣化診断装置を適用した塗膜劣化診断システムの構成を示す図である。第1実施例では、インピーダンス測定部1の制御通信回路4と、解析及び診断を行なう診断サーバ11とが、例えばPDA(Personal Digital Assistants)からなる測定装置12を介して無線によって通信を行なうように構成されている。
【0013】
この診断サーバ11は、インピーダンス測定部1によって測定されたデータの解析及び塗膜の劣化診断を行なうための解析・診断エンジン13、測定条件データ,塗料データ,測定・診断データなどを記憶するための例えばハードディスクなどの記憶装置14(メモリ)、診断結果データなどを表示するためのモニタ15(表示手段)などを有しており、例えば、パーソナルコンピュータとして構成されている。また、測定装置12は、診断結果データなどを表示するためのモニタ16(表示手段)を備えている。なお、本実施例では、解析・診断エンジン13を含む診断サーバ11が、診断部及び測定適否手段並びに劣化推定手段として機能する。
【0014】
次に、第1実施例の作用である塗膜の劣化診断について図7に沿って説明する。図7は、塗膜の劣化診断を行なう際の診断サーバ11の処理内容を示すフローチャートである。また、解析・診断エンジン13は、診断サーバ11のCPU(図示せず)によって実行されるソフトウエアで実現される機能を示すものであり、以下での診断サーバ11による作用については、解析・診断エンジン13がその主体であるように記載する。
まず、作業者は、図2に示すように塗膜8のインピーダンス測定を行なう測定対象領域(例えば、図2中、破線で示す)を選択する(ステップS1)。そして、インピーダンス測定を行なう前に膜厚計17(膜厚測定手段)を用いて測定対象領域の塗膜8の膜厚を測定する(ステップS2)。
【0015】
作業者が、上記の手順に基づいて測定対象領域内において3点以上、例えば図2に示すように5点の膜厚を測定する(ステップS3で「YES」)と、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、測定した膜厚のデータからその平均値及び標準偏差値を算出する(ステップS4)。そして、(標準偏差値)/(平均値)の商が予め設定したしきい値よりも小さい場合(ステップS5で「YES」)、つまり、膜厚のばらつきが小さい場合には当該領域がインピーダンス測定に適していると判定し、作業者にその旨を報知する(例えば、図示しない表示器を点灯させる)。すると、作業者は、その領域についてインピーダンス測定を開始する(ステップS6)。
【0016】
しかし、(標準偏差値)/(平均値)の商がしきい値よりも大きかった場合(ステップS5で「NO」)には、その領域についてインピーダンス測定を実施せず、別の測定対象領域を探して再び膜厚測定を行ない、上記と同様に、インピーダンス測定に適しているかどうかの確認を行なう(ステップS1〜S5)。
上記の手順により、塗膜8の膜厚のばらつきが小さい領域をインピーダンス測定対象領域として選択すると、図11を参照して説明した従来例と同様にして塗膜8のインピーダンス測定を行なう(ステップS6)。そして、解析・診断エンジン13は、測定されたインピーダンス値を測定時のプローブの電極面積と測定点の塗膜8の膜厚とで補正した補正インピーダンスを算出し(ステップS7)、その測定データを記憶装置14に保存する(ステップS8)。
【0017】
上記測定後、再度塗膜8のインピーダンスを測定する場合(ステップS9で「NO」)には、ステップS6〜S8の処理を再び行ない、塗膜8のインピーダンスを測定する。一方、インピーダンス測定を終了する場合(ステップS9で「YES」)、解析・診断エンジン13は、記憶装置14に保存されている測定データを確認して、1つの測定対象領域に対して3点以上の補正インピーダンスデータがない場合(ステップS10で「NO」)にはステップS15へ進み、今回測定した補正インピーダンスデータから測定対象とした領域の塗膜8が、劣化診断を必要とするかどうか確認する。
【0018】
測定した補正インピーダンス値と塗装直後の初期補正インピーダンス値との差が小さい場合、すなわち、あまり塗膜8の劣化が進んでいないような状態では、塗膜8の劣化度を診断する必要がない。そこで、記憶装置14に保存されている初期補正インピーダンス値と今回測定した補正インピーダンス値との差が予め設定したしきい値よりも小さい場合(ステップS15で「NO」)、解析・診断エンジン13は劣化度の診断は行なわず、図3に示すように補正インピーダンスのデータだけをモニタ15又は16に表示させる(ステップS18)。なお、図3乃至図6において、縦軸は補正インピーダンスの対数値を、横軸は経過年数の対数値を表わす。
【0019】
次に、初期補正インピーダンス値と今回測定した補正インピーダンス値との差が、予め設定したしきい値よりも大きかった場合(ステップS15で「YES」)、解析・診断エンジン13は、初期補正インピーダンス値と今回測定した補正インピーダンス値とを結ぶ劣化推定曲線を算出し(ステップS16)、図4に示すように劣化推定曲線及び補正インピーダンスデータをモニタ15又は16に表示させる(ステップS17,S18)。なお、ここでの劣化推定曲線は、横軸の経過年数をリニアでプロットした場合に、測定点を直線で結んで補間し、それらを対数表示したものである。
【0020】
一方、解析・診断エンジン13は、記憶装置14に1つの測定対象領域に対して3点以上、例えば、図5に示すように5点の補正インピーダンスデータが保存されている場合(ステップS10で「YES」)、ステップS11へ進み、塗膜の劣化診断を開始する。すると、解析・診断エンジン13は、上記補正インピーダンスデータの平均値,最大値,最小値,標準偏差値を算出する(ステップS11)。
そして、解析・診断エンジン13は、初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの平均値とを結ぶ劣化推定曲線A,初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの最大値とを結ぶ劣化推定曲線B,初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの最小値とを結ぶ求める劣化推定曲線C,初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの平均値+(標準偏差値×3)とを結ぶ劣化推定曲線D,初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの平均値−(標準偏差値×3)とを結ぶ劣化推定曲線Eを算出し(ステップS12)、図6に示すように、これらの劣化推定曲線A〜Eとそれぞれの補正インピーダンスデータをモニタ15又は16に表示させる(ステップS13,S14)。
【0021】
以上のように本実施例によれば、塗膜8のインピーダンスを測定する前に、診断サーバ11の解析・診断エンジン13が測定対象領域の5箇所について測定した膜厚のばらつきを評価することで、その領域がインピーダンス測定に適しているかどうかが判断される。したがって、作業者は、インピーダンスの測定に適している領域を事前に確認してから測定を行なうことが可能となるので、膜厚のばらつきの影響を最小限にして、塗膜の劣化診断を高精度で行なうことができる。
【0022】
また、塗装直後の初期補正インピーダンス値と今回測定した補正インピーダンス値とを比較し、その差が予め設定したしきい値よりも大きい場合にのみ劣化推定曲線を算出して表示させるようにした。すなわち、今回算出したインピーダンス値と塗装直後の初期インピーダンス値との差がある程度大きくなっているとすれば、塗膜8の劣化が比較的進んでいることを示している。したがって、今後の塗膜劣化推定、つまり塗膜の余寿命予測が確実に必要な場合に劣化推定曲線を推定して表示させることができる。
【0023】
また、記憶装置14に、同一測定対象領域について5点の補正インピーダンス測定データが保存されている場合には、これらの補正インピーダンスデータから算出した平均値,最大値,最小値,標準偏差値のそれぞれに基づいて塗膜の劣化度の推移が推定されるので、測定した補正インピーダンス値がばらついた場合でも、そのばらつきを考慮した塗膜の劣化推定曲線を得ることができる。
【0024】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例について図8乃至図10も参照して説明する。なお、図1乃至図7を参照して説明した第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分のみ説明する。
第2実施例では、1つの測定対象領域について複数の経年データに基づいて塗膜の劣化診断を行なうようにした場合を示す。図10は、複数の経年データに基づいて塗膜の劣化診断を行なう際の診断サーバ11の処理内容を示すフローチャートである。
まず、図10に示すように、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、記憶装置14に保存されている測定データを確認して、1つの測定対象領域について3点以上の経年補正インピーダンスデータがあるかどうかを確認する(ステップT1)。
【0025】
そして、記憶装置14に3点以上の経年測定データが、例えば、図8に示すように2年,4年,6年,8年,10年経過時の補正インピーダンス測定データ、つまり5点の経年測定データが保存されている場合(ステップT1で「YES」)、解析・診断エンジン13は、これらの各経年補正インピーダンスデータと、塗装直後の初期補正インピーダンスデータとを結ぶ劣化推定曲線を算出し(ステップT2)、図9に示すように、この劣化推定曲線とそれぞれの補正インピーダンスデータをモニタ15又は16に表示させる(ステップT3,T4)。なお、記憶装置14に3点以上の経年測定データが保存されていなかった場合(ステップT1で「NO」)は、そのまま処理を終了する。
【0026】
以上のように第2実施例によれば、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、記憶装置14に、同一測定対象領域について測定した複数の経年測定データが保存されている場合、これらの測定データに基づいて塗膜の劣化推定曲線を得るので、塗膜の余寿命予測の精度が向上する。
【0027】
なお、本発明は上記し、且つ図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、次のような変形または拡張が可能である。
上記実施例では、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、1つの測定対象領域について5点の補正インピーダンス測定データが記憶装置14に保存されている場合に、それらのデータに基づいて塗膜の劣化推定曲線を算出しているが、この場合、算出対象とする補正インピーダンス測定データは、3点以上であれば良い。
また、塗膜の劣化推定曲線をモニタ15又は16に表示させるようにしているが、モニタ15及び16の両方に表示させるようにしても良い。または、プリンタなどを用いて紙に出力するようにしても良い。
また、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、劣化推定曲線を平均値、最大値、最小値、平均値+(標準偏差値×3)、平均値−(標準偏差値×3)のそれぞれに基づいて算出するようにしたが、これらのいずれかを必要に応じて算出するようにしても良い。
【0028】
また、インピーダンス測定の適否を判定するために、測定対象領域内において5点の膜厚を測定するようにしたが、この膜厚測定箇所は、3点以上であれば良い。
また、第2実施例では、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、1つの測定対象領域について5点の経年測定データが記憶装置14に保存されている場合に、これらの測定データに基づいて塗膜の劣化推定曲線を算出しているが、この場合、算出対象とする経年測定データは、3点以上であれば良い。
【0029】
また、第2実施例において、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、経年測定データの各年データ毎の平均値,最大値,最小値,標準偏差値に基づいて塗膜の劣化推定曲線を算出するようにしても良い。
また、診断サーバ11が保持しているデータやその機能を予め測定装置12に持たせておき、測定装置12単体で測定及び診断を行なっても良い。すなわち、測定装置12単体で塗膜劣化診断システムを構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施例を示すものであり、塗膜劣化診断システムの構成を示す図
【図2】塗膜の膜厚測定を行なう状態を示す図
【図3】補正インピーダンス測定データの表示例を示す図
【図4】劣化推定曲線の表示例を示す図
【図5】測定データが複数の場合における図3相当図
【図6】図4相当図
【図7】塗膜の劣化診断を行なう際の診断サーバの処理内容を示すフローチャート
【図8】本発明の第2実施例を示す図3相当図
【図9】図4相当図
【図10】図7の一部相当図
【図11】従来技術を示す図1相当図
【図12】図4相当図
【符号の説明】
【0031】
図面中、1はインピーダンス測定部、2は電圧出力回路、3は電流検出回路、7はアース端子(接続端子)、8は塗膜、9は下地金属、10は測定プローブ、11は診断サーバ(診断部,測定適否判断手段,劣化推定手段)、14は記憶装置(メモリ)、15,16はモニタ(表示手段)、17は膜厚計(膜厚測定手段)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜を表面に有する下地金属に接続端子を接続し、塗膜の表面に測定プローブを接続して塗膜のインピーダンスを測定し、塗膜が有する電気的特性の劣化を診断する塗膜劣化診断装置及び塗膜劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に設置されている変圧器や配電盤などの電気機器、あるいは鉄塔やプラントなどの鋼構造物には、防食及び美観のために塗装がなされるが、その塗膜は、太陽光、風雨、腐食性ガスなどの影響を受けて次第に劣化し、やがて塗膜の剥離や下地金属の腐食などの欠陥を生じる。そして、この劣化現象は時間と共に進行し、そのまま放置すれば機器の損傷や機能障害に至るため、電気機器や鋼構造物の保全のためには、適切な時期に再塗装する必要がある。この塗装膜の劣化度及び塗り替え時期の評価方法については、種々の提案がなされているが、その中の一つに塗装膜のインピーダンスが塗膜の劣化に伴って変化することに着目し、塗装膜のインピーダンスを測定して劣化度を評価する交流インピーダンス法と呼ばれる方法がある。
【0003】
この交流インピーダンス法は、塗膜を表面に有する下地金属と塗膜の表面との間に交流電圧を印加し、それによって塗膜に流れる電流を検出して、その電流と印加した電圧とによりインピーダンスを算出し、算出されたインピーダンスから塗膜の劣化度を解析し診断する方法である。図11に、この交流インピーダンス法を用いる従来の塗膜劣化診断装置の構成を示す。インピーダンス測定部1は、電圧出力回路2と、電流検出回路3、並びにそれらを制御する制御通信回路4で構成されている。このインピーダンス測定部1の制御通信回路4には、例えばパソコンからなる解析・診断部5が、有線又は無線の通信手段6を介して接続されている。そして、アース端子7は塗膜8を表面に有する下地金属9に接続されており、測定プローブ10は塗膜8の表面に接触するように配置されている。
【0004】
この構成で、解析・診断部5がインピーダンス測定部1にインピーダンス測定動作を指示すると、インピーダンス測定部1において、制御通信回路4が電圧出力回路2に電圧を出力させる。すると、出力された電圧は、測定プローブ10とアース端子7との間に、すなわち、測定プローブ10が接触している塗膜8の表面と、アース端子7が接続された下地金属9の表面との間に印加される。
測定プローブ10は磁石(図示せず)を備えており、その磁力により塗膜8を介して下地金属9を吸着することで塗膜8の表面に固定される。また、測定プローブ10は、保水性のあるスポンジ状の材料(図示せず)を備えており、その材料に電解液を吸収させることで塗膜8との電気的接続を図り、測定電極としての機能を果たすようになっている。なお、測定プローブ10の詳細な構造は、例えば特許文献1に記載されている。
【0005】
これにより、塗膜8には微小な電流が流れ、それが電流検出回路3で検出される。この検出された電流のデータが、制御通信回路4により解析・診断部5に送信される。そして、解析・診断部5では、検出された電流のデータと、印加した電圧のデータとから、インピーダンスを算出し、電極の面積及び塗膜8の膜厚で補正された補正インピーダンスを求めて塗膜8の劣化度を診断する。また、塗装直後の初期補正インピーダンスと測定時の補正インピーダンスとの経年期間から、図12に示すように、以後の補正インピーダンスの推移を推定するための劣化推定曲線を算出する。
【0006】
また、交流インピーダンス法を用いてタンク底板の腐食を監視する方法が、特許文献2に開示されている。この方法は、タンクの基礎中にタンク底板に対向するように複数の対極を埋め込み、タンク底板と対極との間に交流電圧を印加して、その間に流れる電流と印加電圧からインピーダンス値を算出するもので、タンク底板側の防食塗膜が腐食し始めると、タンク底板と対極との間の防食塗膜のインピーダンスが変化するため、このインピーダンス値を監視することでタンク底板の腐食状況を把握するものである。
【特許文献1】特開2004−53474号公報
【特許文献2】特開平03−160354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記構成の塗膜劣化診断装置では、塗膜の劣化度を評価する指標として塗膜の補正インピーダンスを用いているが、この補正インピーダンスは、塗装膜の膜厚によって変化することが知られている。すなわち、作業者がローラやはけを用いて塗装を行なった場合の膜厚のばらつきや、経年変化による膜厚のばらつきなどが大きくなると、これに伴って補正インピーダンスのばらつきも大きくなる。
したがって、例えば、経年の短い塗装膜の補正インピーダンスを測定した場合、その補正インピーダンスが塗装直後の補正インピーダンスよりも大きくなってしまうことも想定される。そのような測定結果に基づいて塗膜の劣化度を診断したり、劣化特性の推定を行なったりすると、信頼性が全くない結果を得ることになる。
また、特許文献2に開示されているタンク底板の腐食監視方法は、底板のインピーダンス値を複数箇所について監視することで底板全体の腐食状況を把握することが目的であり、塗膜の膜厚ばらつきによるインピーダンス測定値の変動については全く問題にしていない。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、その目的は、塗膜の劣化度を評価する指標として塗膜の補正インピーダンスを用いた場合においても、塗装膜の膜厚のばらつきの影響を最小限にして、精度の高い塗膜の劣化診断を行なうことのできる塗膜劣化診断装置、及び塗膜劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の塗膜劣化診断装置は、塗膜を表面に有する下地金属に接続端子を接続し、前記塗膜の表面に測定プローブを接続することで測定回路を構成し、前記測定プローブと前記接続端子との間に交流電圧を出力する電圧出力回路及び前記測定回路に流れた電流を検出する電流検出回路を備えてなるインピーダンス測定部より得られる測定データと外部より与えられる測定条件データとに基づいて塗膜のインピーダンスを算出し、前記塗膜の電気的特性の劣化度を診断する診断部とで構成される塗膜劣化診断装置において、前記塗膜の膜厚を測定する膜厚測定手段と、前記膜厚測定手段により1つの測定対象領域について測定された複数箇所の膜厚データのばらつきを評価し、その評価結果に基づき前記領域についてインピーダンス測定の適否を判断する測定適否判断手段とを備えて構成されることを特徴とする。
【0010】
このように構成すれば、塗膜のインピーダンス測定の前に、測定対象領域の複数箇所について測定した膜厚のばらつきを評価することで、その領域がインピーダンス測定に適しているかどうかが判断される。したがって、作業者は、インピーダンスの測定に適している塗膜の領域を事前に確認してから測定を行なうことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗膜劣化診断装置によれば、塗膜の電気的特性の劣化度を診断する際に、予めインピーダンスを測定するのに適した領域を確認した上で測定を行なうことができるようになり、塗膜の劣化診断を高精度で行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例について図1乃至図7を参照して説明する。なお、図11と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分についてのみ説明する。
図1は、本発明の塗膜劣化診断装置を適用した塗膜劣化診断システムの構成を示す図である。第1実施例では、インピーダンス測定部1の制御通信回路4と、解析及び診断を行なう診断サーバ11とが、例えばPDA(Personal Digital Assistants)からなる測定装置12を介して無線によって通信を行なうように構成されている。
【0013】
この診断サーバ11は、インピーダンス測定部1によって測定されたデータの解析及び塗膜の劣化診断を行なうための解析・診断エンジン13、測定条件データ,塗料データ,測定・診断データなどを記憶するための例えばハードディスクなどの記憶装置14(メモリ)、診断結果データなどを表示するためのモニタ15(表示手段)などを有しており、例えば、パーソナルコンピュータとして構成されている。また、測定装置12は、診断結果データなどを表示するためのモニタ16(表示手段)を備えている。なお、本実施例では、解析・診断エンジン13を含む診断サーバ11が、診断部及び測定適否手段並びに劣化推定手段として機能する。
【0014】
次に、第1実施例の作用である塗膜の劣化診断について図7に沿って説明する。図7は、塗膜の劣化診断を行なう際の診断サーバ11の処理内容を示すフローチャートである。また、解析・診断エンジン13は、診断サーバ11のCPU(図示せず)によって実行されるソフトウエアで実現される機能を示すものであり、以下での診断サーバ11による作用については、解析・診断エンジン13がその主体であるように記載する。
まず、作業者は、図2に示すように塗膜8のインピーダンス測定を行なう測定対象領域(例えば、図2中、破線で示す)を選択する(ステップS1)。そして、インピーダンス測定を行なう前に膜厚計17(膜厚測定手段)を用いて測定対象領域の塗膜8の膜厚を測定する(ステップS2)。
【0015】
作業者が、上記の手順に基づいて測定対象領域内において3点以上、例えば図2に示すように5点の膜厚を測定する(ステップS3で「YES」)と、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、測定した膜厚のデータからその平均値及び標準偏差値を算出する(ステップS4)。そして、(標準偏差値)/(平均値)の商が予め設定したしきい値よりも小さい場合(ステップS5で「YES」)、つまり、膜厚のばらつきが小さい場合には当該領域がインピーダンス測定に適していると判定し、作業者にその旨を報知する(例えば、図示しない表示器を点灯させる)。すると、作業者は、その領域についてインピーダンス測定を開始する(ステップS6)。
【0016】
しかし、(標準偏差値)/(平均値)の商がしきい値よりも大きかった場合(ステップS5で「NO」)には、その領域についてインピーダンス測定を実施せず、別の測定対象領域を探して再び膜厚測定を行ない、上記と同様に、インピーダンス測定に適しているかどうかの確認を行なう(ステップS1〜S5)。
上記の手順により、塗膜8の膜厚のばらつきが小さい領域をインピーダンス測定対象領域として選択すると、図11を参照して説明した従来例と同様にして塗膜8のインピーダンス測定を行なう(ステップS6)。そして、解析・診断エンジン13は、測定されたインピーダンス値を測定時のプローブの電極面積と測定点の塗膜8の膜厚とで補正した補正インピーダンスを算出し(ステップS7)、その測定データを記憶装置14に保存する(ステップS8)。
【0017】
上記測定後、再度塗膜8のインピーダンスを測定する場合(ステップS9で「NO」)には、ステップS6〜S8の処理を再び行ない、塗膜8のインピーダンスを測定する。一方、インピーダンス測定を終了する場合(ステップS9で「YES」)、解析・診断エンジン13は、記憶装置14に保存されている測定データを確認して、1つの測定対象領域に対して3点以上の補正インピーダンスデータがない場合(ステップS10で「NO」)にはステップS15へ進み、今回測定した補正インピーダンスデータから測定対象とした領域の塗膜8が、劣化診断を必要とするかどうか確認する。
【0018】
測定した補正インピーダンス値と塗装直後の初期補正インピーダンス値との差が小さい場合、すなわち、あまり塗膜8の劣化が進んでいないような状態では、塗膜8の劣化度を診断する必要がない。そこで、記憶装置14に保存されている初期補正インピーダンス値と今回測定した補正インピーダンス値との差が予め設定したしきい値よりも小さい場合(ステップS15で「NO」)、解析・診断エンジン13は劣化度の診断は行なわず、図3に示すように補正インピーダンスのデータだけをモニタ15又は16に表示させる(ステップS18)。なお、図3乃至図6において、縦軸は補正インピーダンスの対数値を、横軸は経過年数の対数値を表わす。
【0019】
次に、初期補正インピーダンス値と今回測定した補正インピーダンス値との差が、予め設定したしきい値よりも大きかった場合(ステップS15で「YES」)、解析・診断エンジン13は、初期補正インピーダンス値と今回測定した補正インピーダンス値とを結ぶ劣化推定曲線を算出し(ステップS16)、図4に示すように劣化推定曲線及び補正インピーダンスデータをモニタ15又は16に表示させる(ステップS17,S18)。なお、ここでの劣化推定曲線は、横軸の経過年数をリニアでプロットした場合に、測定点を直線で結んで補間し、それらを対数表示したものである。
【0020】
一方、解析・診断エンジン13は、記憶装置14に1つの測定対象領域に対して3点以上、例えば、図5に示すように5点の補正インピーダンスデータが保存されている場合(ステップS10で「YES」)、ステップS11へ進み、塗膜の劣化診断を開始する。すると、解析・診断エンジン13は、上記補正インピーダンスデータの平均値,最大値,最小値,標準偏差値を算出する(ステップS11)。
そして、解析・診断エンジン13は、初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの平均値とを結ぶ劣化推定曲線A,初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの最大値とを結ぶ劣化推定曲線B,初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの最小値とを結ぶ求める劣化推定曲線C,初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの平均値+(標準偏差値×3)とを結ぶ劣化推定曲線D,初期補正インピーダンスと今回測定した補正インピーダンスの平均値−(標準偏差値×3)とを結ぶ劣化推定曲線Eを算出し(ステップS12)、図6に示すように、これらの劣化推定曲線A〜Eとそれぞれの補正インピーダンスデータをモニタ15又は16に表示させる(ステップS13,S14)。
【0021】
以上のように本実施例によれば、塗膜8のインピーダンスを測定する前に、診断サーバ11の解析・診断エンジン13が測定対象領域の5箇所について測定した膜厚のばらつきを評価することで、その領域がインピーダンス測定に適しているかどうかが判断される。したがって、作業者は、インピーダンスの測定に適している領域を事前に確認してから測定を行なうことが可能となるので、膜厚のばらつきの影響を最小限にして、塗膜の劣化診断を高精度で行なうことができる。
【0022】
また、塗装直後の初期補正インピーダンス値と今回測定した補正インピーダンス値とを比較し、その差が予め設定したしきい値よりも大きい場合にのみ劣化推定曲線を算出して表示させるようにした。すなわち、今回算出したインピーダンス値と塗装直後の初期インピーダンス値との差がある程度大きくなっているとすれば、塗膜8の劣化が比較的進んでいることを示している。したがって、今後の塗膜劣化推定、つまり塗膜の余寿命予測が確実に必要な場合に劣化推定曲線を推定して表示させることができる。
【0023】
また、記憶装置14に、同一測定対象領域について5点の補正インピーダンス測定データが保存されている場合には、これらの補正インピーダンスデータから算出した平均値,最大値,最小値,標準偏差値のそれぞれに基づいて塗膜の劣化度の推移が推定されるので、測定した補正インピーダンス値がばらついた場合でも、そのばらつきを考慮した塗膜の劣化推定曲線を得ることができる。
【0024】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例について図8乃至図10も参照して説明する。なお、図1乃至図7を参照して説明した第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分のみ説明する。
第2実施例では、1つの測定対象領域について複数の経年データに基づいて塗膜の劣化診断を行なうようにした場合を示す。図10は、複数の経年データに基づいて塗膜の劣化診断を行なう際の診断サーバ11の処理内容を示すフローチャートである。
まず、図10に示すように、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、記憶装置14に保存されている測定データを確認して、1つの測定対象領域について3点以上の経年補正インピーダンスデータがあるかどうかを確認する(ステップT1)。
【0025】
そして、記憶装置14に3点以上の経年測定データが、例えば、図8に示すように2年,4年,6年,8年,10年経過時の補正インピーダンス測定データ、つまり5点の経年測定データが保存されている場合(ステップT1で「YES」)、解析・診断エンジン13は、これらの各経年補正インピーダンスデータと、塗装直後の初期補正インピーダンスデータとを結ぶ劣化推定曲線を算出し(ステップT2)、図9に示すように、この劣化推定曲線とそれぞれの補正インピーダンスデータをモニタ15又は16に表示させる(ステップT3,T4)。なお、記憶装置14に3点以上の経年測定データが保存されていなかった場合(ステップT1で「NO」)は、そのまま処理を終了する。
【0026】
以上のように第2実施例によれば、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、記憶装置14に、同一測定対象領域について測定した複数の経年測定データが保存されている場合、これらの測定データに基づいて塗膜の劣化推定曲線を得るので、塗膜の余寿命予測の精度が向上する。
【0027】
なお、本発明は上記し、且つ図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、次のような変形または拡張が可能である。
上記実施例では、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、1つの測定対象領域について5点の補正インピーダンス測定データが記憶装置14に保存されている場合に、それらのデータに基づいて塗膜の劣化推定曲線を算出しているが、この場合、算出対象とする補正インピーダンス測定データは、3点以上であれば良い。
また、塗膜の劣化推定曲線をモニタ15又は16に表示させるようにしているが、モニタ15及び16の両方に表示させるようにしても良い。または、プリンタなどを用いて紙に出力するようにしても良い。
また、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、劣化推定曲線を平均値、最大値、最小値、平均値+(標準偏差値×3)、平均値−(標準偏差値×3)のそれぞれに基づいて算出するようにしたが、これらのいずれかを必要に応じて算出するようにしても良い。
【0028】
また、インピーダンス測定の適否を判定するために、測定対象領域内において5点の膜厚を測定するようにしたが、この膜厚測定箇所は、3点以上であれば良い。
また、第2実施例では、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、1つの測定対象領域について5点の経年測定データが記憶装置14に保存されている場合に、これらの測定データに基づいて塗膜の劣化推定曲線を算出しているが、この場合、算出対象とする経年測定データは、3点以上であれば良い。
【0029】
また、第2実施例において、診断サーバ11の解析・診断エンジン13は、経年測定データの各年データ毎の平均値,最大値,最小値,標準偏差値に基づいて塗膜の劣化推定曲線を算出するようにしても良い。
また、診断サーバ11が保持しているデータやその機能を予め測定装置12に持たせておき、測定装置12単体で測定及び診断を行なっても良い。すなわち、測定装置12単体で塗膜劣化診断システムを構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施例を示すものであり、塗膜劣化診断システムの構成を示す図
【図2】塗膜の膜厚測定を行なう状態を示す図
【図3】補正インピーダンス測定データの表示例を示す図
【図4】劣化推定曲線の表示例を示す図
【図5】測定データが複数の場合における図3相当図
【図6】図4相当図
【図7】塗膜の劣化診断を行なう際の診断サーバの処理内容を示すフローチャート
【図8】本発明の第2実施例を示す図3相当図
【図9】図4相当図
【図10】図7の一部相当図
【図11】従来技術を示す図1相当図
【図12】図4相当図
【符号の説明】
【0031】
図面中、1はインピーダンス測定部、2は電圧出力回路、3は電流検出回路、7はアース端子(接続端子)、8は塗膜、9は下地金属、10は測定プローブ、11は診断サーバ(診断部,測定適否判断手段,劣化推定手段)、14は記憶装置(メモリ)、15,16はモニタ(表示手段)、17は膜厚計(膜厚測定手段)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜を表面に有する下地金属に接続端子を接続し、前記塗膜の表面に測定プローブを接続することで測定回路を構成し、
前記測定プローブと前記接続端子との間に交流電圧を出力する電圧出力回路及び前記測定回路に流れた電流を検出する電流検出回路を備えてなるインピーダンス測定部より得られる測定データと外部より与えられる測定条件データとに基づいて塗膜のインピーダンスを算出し、前記塗膜の電気的特性の劣化度を診断する診断部とで構成される塗膜劣化診断装置において、
前記塗膜の膜厚を測定する膜厚測定手段と、
前記膜厚測定手段により1つの測定対象領域について測定された複数箇所の膜厚データのばらつきを評価し、その評価結果に基づき前記領域についてインピーダンス測定の適否を判断する測定適否判断手段とを備えて構成されることを特徴とする塗膜劣化診断装置。
【請求項2】
前記診断部は、算出した塗膜のインピーダンスデータを保存するメモリと、
今回算出した前記塗膜のインピーダンス値と、初期測定時におけるインピーダンス値との差が、予め設定したしきい値より大きい場合には、前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を表示手段に表示させる劣化推定手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の塗膜劣化診断装置。
【請求項3】
前記診断部は、前記インピーダンス測定部によって測定された複数のデータに基づいて、測定対象領域の塗膜のインピーダンスの平均値,最小値,最大値を算出し、
前記劣化推定手段は、前記平均値,最小値,最大値に基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項2記載の塗膜劣化診断装置。
【請求項4】
前記診断部は、前記インピーダンス測定部によって測定された複数のデータに基づいて、測定対象領域の塗膜のインピーダンスの標準偏差を算出し、
前記劣化推定手段は、前記標準偏差に基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項2又は3記載の塗膜劣化診断装置。
【請求項5】
前記劣化推定手段は、前記メモリ内に同一測定対象領域の経年測定データが複数保存されている場合には、これらの経年測定データに基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の塗膜劣化診断装置。
【請求項6】
塗膜を表面に有する下地金属に接続端子を接続し、前記塗膜の表面に測定プローブを接続して、それらの間に交流電圧を印加した場合に流れた電流を検出し、前記電圧及び電流のデータ並びに測定条件から塗膜のインピーダンスを算出し、算出したインピーダンスから前記塗膜の電気的特性の劣化度を診断する塗膜劣化診断方法において、
前記塗膜の膜厚を1つの測定対象領域について複数箇所で測定し、測定した膜厚のばらつきを評価し、その評価結果に基づき前記領域についてインピーダンス測定を行なうか否かを判断する塗膜劣化診断方法。
【請求項7】
今回算出した前記塗膜のインピーダンス値と、初期測定時におけるインピーダンス値との差が、予め設定したしきい値より大きい場合には、前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を求めることを特徴とする請求項6記載の塗膜劣化診断方法。
【請求項8】
測定対象領域の複数箇所で塗膜のインピーダンス測定を行ない、これらの測定データに基づいて、測定対象領域の塗膜のインピーダンスの平均値,最大値,最小値を算出し、これらに基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を求めることを特徴とする請求項7記載の塗膜劣化診断方法。
【請求項9】
測定対象領域の複数箇所で塗膜のインピーダンス測定を行ない、これらの測定データに基づいて、測定対象領域の塗膜のインピーダンスの標準偏差を算出し、その標準偏差値に基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を求めることを特徴とする請求項7又は8記載の塗膜劣化診断方法。
【請求項10】
同一測定対象領域における経年測定データが複数ある場合には、これらの経年測定データに基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を求めることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の塗膜劣化診断方法。
【請求項1】
塗膜を表面に有する下地金属に接続端子を接続し、前記塗膜の表面に測定プローブを接続することで測定回路を構成し、
前記測定プローブと前記接続端子との間に交流電圧を出力する電圧出力回路及び前記測定回路に流れた電流を検出する電流検出回路を備えてなるインピーダンス測定部より得られる測定データと外部より与えられる測定条件データとに基づいて塗膜のインピーダンスを算出し、前記塗膜の電気的特性の劣化度を診断する診断部とで構成される塗膜劣化診断装置において、
前記塗膜の膜厚を測定する膜厚測定手段と、
前記膜厚測定手段により1つの測定対象領域について測定された複数箇所の膜厚データのばらつきを評価し、その評価結果に基づき前記領域についてインピーダンス測定の適否を判断する測定適否判断手段とを備えて構成されることを特徴とする塗膜劣化診断装置。
【請求項2】
前記診断部は、算出した塗膜のインピーダンスデータを保存するメモリと、
今回算出した前記塗膜のインピーダンス値と、初期測定時におけるインピーダンス値との差が、予め設定したしきい値より大きい場合には、前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を表示手段に表示させる劣化推定手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の塗膜劣化診断装置。
【請求項3】
前記診断部は、前記インピーダンス測定部によって測定された複数のデータに基づいて、測定対象領域の塗膜のインピーダンスの平均値,最小値,最大値を算出し、
前記劣化推定手段は、前記平均値,最小値,最大値に基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項2記載の塗膜劣化診断装置。
【請求項4】
前記診断部は、前記インピーダンス測定部によって測定された複数のデータに基づいて、測定対象領域の塗膜のインピーダンスの標準偏差を算出し、
前記劣化推定手段は、前記標準偏差に基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項2又は3記載の塗膜劣化診断装置。
【請求項5】
前記劣化推定手段は、前記メモリ内に同一測定対象領域の経年測定データが複数保存されている場合には、これらの経年測定データに基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の塗膜劣化診断装置。
【請求項6】
塗膜を表面に有する下地金属に接続端子を接続し、前記塗膜の表面に測定プローブを接続して、それらの間に交流電圧を印加した場合に流れた電流を検出し、前記電圧及び電流のデータ並びに測定条件から塗膜のインピーダンスを算出し、算出したインピーダンスから前記塗膜の電気的特性の劣化度を診断する塗膜劣化診断方法において、
前記塗膜の膜厚を1つの測定対象領域について複数箇所で測定し、測定した膜厚のばらつきを評価し、その評価結果に基づき前記領域についてインピーダンス測定を行なうか否かを判断する塗膜劣化診断方法。
【請求項7】
今回算出した前記塗膜のインピーダンス値と、初期測定時におけるインピーダンス値との差が、予め設定したしきい値より大きい場合には、前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を求めることを特徴とする請求項6記載の塗膜劣化診断方法。
【請求項8】
測定対象領域の複数箇所で塗膜のインピーダンス測定を行ない、これらの測定データに基づいて、測定対象領域の塗膜のインピーダンスの平均値,最大値,最小値を算出し、これらに基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を求めることを特徴とする請求項7記載の塗膜劣化診断方法。
【請求項9】
測定対象領域の複数箇所で塗膜のインピーダンス測定を行ない、これらの測定データに基づいて、測定対象領域の塗膜のインピーダンスの標準偏差を算出し、その標準偏差値に基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を求めることを特徴とする請求項7又は8記載の塗膜劣化診断方法。
【請求項10】
同一測定対象領域における経年測定データが複数ある場合には、これらの経年測定データに基づいて前記塗膜の電気的特性の劣化推移を表わす劣化推移曲線を求めることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の塗膜劣化診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−101184(P2007−101184A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287271(P2005−287271)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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