説明

塗膜強度試験方法

【課題】塗膜の引張試験に用いる試験片を容易に作製し、実製品における塗装条件と同様の条件で、塗膜の評価を容易に行う。
【解決手段】測定対象の塗膜よりも伸び率が大きく、かつ破断強度が小さな素材からなる試験シール11を筐体15に貼り付けた状態で塗料を塗布して試験シール11の表面上に塗膜16を形成し、試験シール11と塗膜16とが合体した状態の引張試験片17を得る。この引張試験片17を用いて引張試験を行い、試験シール11よりも先に破断する塗膜16の伸び率および破断強度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装された塗膜の伸び率および破断強度を測定する塗膜強度試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装された塗膜の性質を評価するために、塗膜の引張試験を行い、塗膜の伸び率および破断強度を測定している。この引張試験に用いる試験片を作製する方法の一例として、図6に示すような、難付着材を使用した試験片作製方法が知られている。
【0003】
この方法では、図6(a)に示すように、ポリエチレンからなるシート1に離型剤を塗布した後、図6(b)に示すように、塗料をスプレー塗装によりシート1に吹きつけ、塗膜2を形成する。そして、図6(c)に示すように、カッタにより塗膜2を短冊形に切断し、試験片3を得る。この試験片3をシート1から剥がしとり、引張試験機にセットして引張試験を行う。
【0004】
また、塗膜強度試験の試験片を作製する他の方法として、水銀アマルガム法が知られている。この水銀アマルガム法では、スズメッキ鋼板に塗料を塗布し、乾燥後に塗膜が形成されたスズメッキ鋼板を短冊形に切断する。そして、塗膜が形成された短冊形のスズメッキ鋼板の一端側を水銀に接触させると、瞬時のうちにスズと水銀とが合金となって塗膜がはがれ、試験片が得られる(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】坪田実「塗膜の物理的な強さ(1)」、塗装技術、1994年7月号、p.126
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような難付着材を使用した方法や水銀アマルガム法では、試験片の作製時に塗膜が基材から剥離させ難い、試験片形状に切断する際に損傷させる、などの理由により、試験片の作製が困難となる場合があった。また、塗膜の切断部には微小クラックが発生することがあり、この影響で引張試験の測定結果のバラツキが大きくなり、塗膜の評価が困難となる場合があった。これらは特に脆い塗膜において顕著となる。
【0006】
さらに、試験片の作製時に、塗膜の膜厚や塗料の乾燥条件等の塗装条件を実製品における塗装条件と同一にすることが困難なため、実製品における塗装条件と同様の条件での塗膜の評価を行うことが困難であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、塗膜の引張試験に用いる試験片を容易に作製し、実製品における塗装条件と同様の条件で、塗膜の評価を容易に行うことができる塗膜強度試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の塗膜強度試験方法は、塗膜の伸び率および破断強度を測定する塗膜強度試験方法であって、測定対象の塗膜よりも伸び率が大きく、かつ破断強度が小さな素材からなり、被塗装物に貼り付けるための粘着部を有するシート状の試験シールを前記被塗装物に貼り付けた状態で塗料を塗布して前記試験シールの表面上に塗膜を形成するステップと、前記塗膜が形成された前記試験シールを前記被塗装物から取り外して前記塗膜と前記試験シールとが合体した状態の引張試験片を得るステップと、引張試験機を用いて前記引張試験片の引張試験を行い、前記試験シールよりも先に破断する前記塗膜の伸び率および破断強度を測定するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗膜強度試験方法によれば、塗膜の引張試験に用いる試験片を容易に作製し、実製品における塗装条件と同様の条件で、塗膜の評価を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は本発明の実施の形態に係る塗膜強度試験方法で用いるシート状の試験シールを示す平面図である。図1に示すように、試験シール11はダンベル型であり、その長手方向両端には、引張試験を行う際に万能引張試験機のチャックに把持される被把持部12,13が設けられ、被把持部12,13の一方面側の端部には粘着性を有する粘着部12a,13aがそれぞれ設けられている。
【0012】
試験シール11の素材としては、測定対象の塗膜より伸び率が十分に大きく、かつ破断強度が十分に小さい素材が用いられる。また、塗料を塗布した場合に、はじきが発生せず濡れ性が多少確保できる程度の付着相性の弱い素材であることが好ましい。このような素材として、例えばポリエチレンが試験シール11に用いられる。
【0013】
試験シール11の厚さは20μm程度が好適である。試験シール11の厚さが薄すぎると破れやすくなり、取り扱いが困難になる。また、平行部14の幅aは3〜4mmであることが好ましい。さらに、試験シール11の標点間長さbは、被塗装物の形状に合わせて20〜50mmであることが好ましい。幅aおよび標点間長さbが上記の範囲を逸脱すると、万能引張試験機を用いた引張試験を行うことが困難となり、測定精度が低下する。
【0014】
次に、上記のような試験シール11を用いて塗膜強度試験を行う手順について説明する。
【0015】
図2(a),(b)は試験シール11上に塗膜を形成する手順を説明するための図である。まず、図2(a)に示すように、試験シール11を粘着部12a,13aにより被塗装物である筐体15に貼り付ける。そして、この状態で、測定対象とする塗料をスプレー塗装により試験シール11および筐体15に吹きつけ、乾燥させて試験シール11上に塗膜16を形成する。この際、塗膜16の膜厚や塗料の乾燥条件等の塗装条件は、実製品の生産ラインにおける塗装条件と同様にする。
【0016】
次いで、図2(b)に示すように、塗膜16が形成された試験シール11を筐体15から剥離させる。粘着部12a,13aは試験シール11の端部に設けられており、標点間長さbに対応する部分には粘着部分がないので、塗装時において、試験シール11と筐体15との間に僅かの隙間ができる。このため、塗料が乾燥して塗膜16が形成された状態になっても、試験シール11を筐体15から容易に剥離させることができる。なお、粘着部12a,13aを切り落とすことにより試験シール11を筐体15から取り外してもよい。
【0017】
上記のような手順により、図3に示すような、試験シール11と塗膜16とが合体した状態の引張試験片17を得る。
【0018】
次に、図4に示すように、引張試験片17を万能引張試験機のチャック18a,18bで把持して引張試験片17の長手方向に引張ることにより引張試験を実施する。この際、引張速度は1%歪/分とすることが好ましい。1%歪/分のゆっくりとした引張速度で引張試験を実施することで、脆い(伸び率が小さい)塗膜でも適切に伸び率および破断強度を測定することができる。
【0019】
上記の方法で4種類の塗料A〜Dを用いて実施した引張試験の結果を図5に示す。図5には試験シール11のみの引張試験の結果も合わせて示している。図5に示すように、試験シール11は、測定対象である塗膜16より、伸び率が十分に大きく、かつ破断強度が十分に小さいため、試験シール11と塗膜16とが合体した状態で引張試験を実施すれば、塗膜16の方が先に破断する。このため、この塗膜16が破断した際の測定値を用いて塗膜16の伸び率および破断強度を求めることができる。
【0020】
例えば塗料Aにおいては、塗膜16が破断した際に測定された伸び率が約5%である。また、この際の試験シール11と塗膜16とを合わせた引張試験片17における応力が約45MPaであり、塗膜16の破断時の試験シール11単体における応力が約12MPaである。これにより、測定対象の塗膜16単体の伸び率が約5%、破断強度が約33MPaと求められる。
【0021】
同様に、塗料Bの場合の伸び率は約3%、破断強度は約14MPa、塗料Cの場合の伸び率は約6%、破断強度は約10MPa、塗料Dの場合の伸び率は約3%、破断強度は約5MPaと求められる。このように塗料B,Dのような伸び率の小さい脆い塗膜の場合でも、伸び率および破断強度を容易に測定することができる。また、得られた伸び率や破断強度のデータは相対評価として簡易的に利用することができる。
【0022】
上記説明のように本実施の形態によれば、試験シール11を筐体15に貼り付けた状態で塗料を塗布して試験シール11の表面上に塗膜16を形成し、試験シール11と塗膜16とが合体した状態の引張試験片17を用いて引張試験を行うので、引張試験の試験片を容易に作製することができ、これまで試験片の作製が困難であった脆い性質の塗膜でも容易に引張試験を実施することができる。
【0023】
また、試験片形状に加工するための切断工程がないため、塗膜に微小クラックが発生しないことから、微小クラックに起因する引張試験の測定結果のバラツキを低減することができる。
【0024】
また、被塗装物に直接貼り付けた状態で塗膜16を形成するため、実製品における塗装条件と同様の条件で形成された塗膜の伸び率および破断強度を測定し、塗膜の評価を行うことができる。また、この測定結果を利用することで、生産ラインの乾燥条件などの塗装条件が塗膜の性質に与える影響を調査することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る塗膜強度試験方法で用いる試験シールを示す平面図である。
【図2】試験シール上に塗膜を形成する手順を説明するための図である。
【図3】引張試験片を示す斜視図である。
【図4】引張試験の工程を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る塗膜強度試験方法による引張試験の結果を示す図である。
【図6】難付着材を使用した従来の試験片作製方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
1…シート、2…塗膜、3…試験片、11…試験シール、12,13…被把持部、12a,13a…粘着部、14…平行部、15…筐体、16…塗膜、17…引張試験片、18a,18b…チャック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜の伸び率および破断強度を測定する塗膜強度試験方法であって、
測定対象の塗膜よりも伸び率が大きく、かつ破断強度が小さな素材からなり、被塗装物に貼り付けるための粘着部を有するシート状の試験シールを前記被塗装物に貼り付けた状態で塗料を塗布して前記試験シールの表面上に塗膜を形成するステップと、
前記塗膜が形成された前記試験シールを前記被塗装物から取り外して前記塗膜と前記試験シールとが合体した状態の引張試験片を得るステップと、
引張試験機を用いて前記引張試験片の引張試験を行い、前記試験シールよりも先に破断する前記塗膜の伸び率および破断強度を測定するステップと
を含むことを特徴とする塗膜強度試験方法。
【請求項2】
前記試験シールは、ポリエチレンからなることを特徴とする請求項1に記載の塗膜強度試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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