説明

塗膜形成性組成物

【課題】 安定した透明性を有し、かつ、化学的安定性、塗布加工性、シール性等に優れた高機能性の低揮発性塗布用組成物を提供する。
【解決手段】 ポリブテン98〜80質量部と、炭素数13〜18のジアリールアルカンおよび炭素数22以上24以下の非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素の少なくとも一種を2〜20質量部(全体を合わせて100質量部とする。)と、を含む塗膜形成性組成物による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性が小さく、化学的安定性、塗布適性、透明性およびシール性に優れた塗膜形成性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から、溶媒が揮発しないで塗布適性およびシール性に優れた塗膜形成性組成物への要求が高まり、化学的に安定で塗布適性およびシール性に優れたポリブテンにポリオレフィン系合成樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)を配合した塗膜形成性組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
しかしながら、これら組成物から得られた塗膜中のポリオレフィン系合成樹脂が結晶化して透明性が低下することがある。また、これにさらに顔料を配合した組成物では、塗膜中のポリオレフィン系合成樹脂が結晶化すると、隠蔽力には影響は無くとも、その色彩に変化が生じるおそれがある。また近年、更なる塗布性能の向上が要求されており、そのために、塗膜形成性組成物の低粘度化が求められているが、ポリオレフィン系合成樹脂によって解決することは困難である。
【特許文献1】特公平5−58220号公報
【特許文献2】実用新案登録第2575986号公報
【特許文献3】特開2003−268293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、揮発性の有機溶剤を含まない、化学的安定性、塗布適性、シール性、および安定した透明性に優れた塗膜形成性組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、顔料を配合した場合にその色彩を長期間保持する塗膜形成性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1は、数平均分子量が700以上10000以下のポリブテン98〜80質量部と炭素数13以上18以下のジアリールアルカンおよび炭素数22以上24以下の非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素の少なくとも一種を2〜20質量部(全体を合わせて100質量部とする。)と、を含む塗膜形成性組成物に関するものである。
【0005】
本発明の第2は、ジアリールアルカンが、フェニルキシリルエタンを含むことを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成性組成物に関するものである。
【0006】
本発明の第3は、非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素が、ジスチリルキシレンを含むことを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成性組成物に関するものである。
【0007】
本発明の第4は、比重が6以下の無機顔料を0.1〜10質量部含むことを特徴とする請求項1〜3に記載の塗膜形成性組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる塗膜形成性組成物は、以下の優れた特性を有する。
(1)比較的高粘度のポリブテンと比較的低粘度のジアリールアルカンおよび非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素とは、両者の親和性が優れるため容易に混合し、ポリブテンに優れた塗布加工性が付与されるにもかかわらず、ポリブテンのシール性が保持され、また、ジアリールアルカンおよび非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素の揮発性が抑制される。
(2)ポリブテン、ジアリールアルカン、非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素はすべて透明で、かつ、相互の親和性が優れるため極めて容易にかつ均一に混和して、相分離を生じないため広範な温度で透明性が保たれ、また、透明性の高い、化学的に安定な混合物を生成する。
(3)脂肪族炭化水素化合物としてのポリブテン、芳香族炭化水素化合物としてのジアリールアルカンおよび非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素の少なくとも一種を含有するため、各種顔料が容易に系内に分散し、その透明性との相乗効果により、色彩が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
ポリブテンはイソブテンを主たるモノマーとして重合してなる重合体であって、イソブテンのホモポリマーまたはイソブテンとn−ブテンのコポリマーなどがある。これらは、市場から容易に入手できる(例えば、新日本石油化学(株)製:日石ポリブテン、テトラックス等。)。また、公知の製造方法で得られるものはすべて使用できる。ポリブテンは、主として、本発明の塗膜形成性組成物を塗布した際の塗膜形成後の形状保持特性とシール性とに関与し、数平均分子量は700以上10000以下が好ましく、組成物中に98〜80質量部含まれることが必要である。80質量部未満であると、形状保持特性とシール性に問題が生じることがある。ポリブテンは、単一種類を使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0010】
本発明においては、組成物中に2〜20質量部の炭素数13以上18以下のジアリールアルカンおよび炭素数22以上24以下の非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素の少なくとも一種を含有する。これらの芳香族炭化水素(以下総称して「アリールアルカン類」ということがある。)は、主として組成物を低粘度化して塗布工程における流動性向上に寄与する。組成物中のアリールアルカン類が2質量部未満であると低粘度化による塗布工程の改良効果が十分に発揮できないことがあり、20質量部を越えるとシール性が劣ることがある。炭素数が13以下であると揮発性を有することがあり、24以上であると粘度改良効果が十分でなく、また、透明性に悪影響を与えることがある。
【0011】
ジアリールアルカンの具体例としては、ジフェニルメタン、フェニルキシリルエタン、フェニルエチルフェニルエタン、フェニルクミルエタン、フェニル−sec−ブチルフェニルエタン、フェニル−sec−ブチルフェニルメタン、ベンジルトルエン、ベンジルキシレンなどが挙げられる。非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素の具体例としては、ジベンジルベンゼン、ジベンジルトルエン、ジ(α―メチルベンジル)ベンゼン、ジ(α―メチルベンジル)キシレン、ジスチレン化トルエン、ジスチレン化キシレン、ジフェニルキシリルブタンなどが挙げられる。
当該アリールアルカン類としては、流動性改良、透明性の改良のバランスから、炭素数13以上18以下のジアリールアルカンを含むことが好ましい。特に、3〜15質量部含むことが好ましい。
【0012】
炭素数13以上18以下のジアリールアルカンの製造方法は公知であり、例えば、ゼオライト触媒の存在下に、芳香族化合物にスチレン類を反応させてジアリールアルカン、特に1,1−ジアリールエタンを製造する方法が、例えば米国特許第5073655号公報、米国特許第5866733号公報、日本国特許特開2003−119159号公報等に掲載されている。炭素数22以上24以下の非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素は当該製造工程において、生成したジアリールアルカンとスチレン類とがさらに反応して併産される。このような方法で製造され市販されているジアリールアルカンで、1,1−ジアリールエタンを主成分として含むものとしては、例えば、新日本石油化学(株)製の「SAS296」、芳香族環を3個有する芳香族炭化水素で、ジスチリルキシレンを主成分として含むものとしては、例えば、新日本石油化学(株)製の「SAS−LH」が挙げられる。
【0013】
本発明で使用できるジアリールアルカン、非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素は、炭素数が規定範囲内であればその構造に特に制限はなく、これらを単独で使用しても、2種以上を混合して使用しても良い。また、その製造方法にも制限はないが、上述の例のように、酸触媒の存在下にスチレン(誘導体を含む。)と芳香族炭化水素化合物とを反応させて得られるものが、不純物を含まないことから好ましい。
アリール基が有する置換基にも特に制限は無いが、使用期間が長期にわたる場合あるいは塗装対象物が強酸性あるいは強アルカリ性の場合には、炭素数4以下のアルキル基、好ましくは炭素数3以下のアルキル基、のみを置換基とするものまたは置換基を有しないものがポリブテンとの親和性が大きく、また化学的安定性が向上するため好ましい。
【0014】
なお、アリールアルカン類を構成する炭素数の減少に伴い、添加量が多い場合には揮発性の問題が生じてくるので、上述した中でも炭素数14以上のジアリールアルカンが好ましい。また、炭素数の増加に従って、低温領域での流動性改良効果が低減してくるので、特に好ましいアリールアルカン類は,炭素数16のジアリールアルカンであり、化学的安定性をも考慮した場合は、炭素数16の1−フェニル−1−キシリルエタン、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン等である。フェニルキシリルエタンを含むジアリールアルカンは市場から容易に入手でき、具体例をあげれば、新日本石油化学(株)製「日石ハイゾールSAS296」がある。
【0015】
本発明にかかる塗膜形成性組成物は、そのまま透明性塗膜形成性組成物として使用してもよいし、有機あるいは無機顔料を含有させて隠蔽性塗膜形成性組成物として使用してもよい。後者の場合は、その基材としての透明性と化学的安定性に加え、脂肪族化合物としてのポリブテンと芳香族化合物としてのアリールアルカン類を含有することから各種顔料を系内に分散させることが容易であり、極めて優れた安定した色彩を有する隠蔽性塗膜形成性組成物を与えることができる。この点からも、組成物中にアリールアルカン類を2質量部以上添加することが好ましく、2質量部以下であると顔料の分散安定性が十分に発揮できないことがある。また、顔料の配合量は組成物100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲とするのがよく、0.1質量部未満であると充分な隠蔽性を付与できず、10質量部を超えると塗膜工程が低下する。
【0016】
なお、無機顔料を使用する場合には、組成物中での沈降防止の観点から、比重が6以下のものが好ましい。特に、平均粒子径1μm以下で、かつ、比重が5以下のものが好ましい。無機顔料の中では、特に、二酸化チタンは、これらの条件を満たすことに加え、隠蔽力が高く、最も好ましい例として挙げることができる。
【0017】
本発明の塗膜形成性組成物を製造する際に、上記のポリブテンおよびアリールアルカン類を混合する場合の混合方法、混合に用いる機器は公知のものを使用することができ特に制限はない。
また、本発明の組成物の効果を損なわない範囲で、顔料の分散助剤、チキソトロピー剤、湿潤剤、有機着色剤、粘度調整剤、防腐剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、ポリオレフィン、オレフィンワックス、炭素数19以上のジアリールアルカン等を添加してもよい。
【0018】
本発明に係る塗膜形成性組成物は、例えばロールやハケ等による一般的な塗布に限らず、浸漬による展開塗布、充填あるいは注入等による塗布等、各種の塗膜を形成する方法により用いられる。すなわち、本発明の組成物は適宜の剪断応力下に十分な流動性を有しているので、これらのいずれの塗布方法によっても好ましく使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例および比較例を挙げ本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で使用した成分は次の通りである。
(A)ポリブテン
(a1)日石ポリブテン「HV−300」(新日本石油化学(株)製)、
数平均分子量=1400
(a2)日石ポリブテン「HV−1900」(新日本石油化学(株)製)、
数平均分子量=2900
【0020】
(B)アリールアルカン類
(b1):化学式1で表される炭素数16のジアリールアルカン(1−フェニル−1−キシリルエタン)。沸点296℃、40℃の粘度が5.0cSt(mm/s)、75℃の粘度が2.2cSt(mm/s)。
(b2):化学式2で表される炭素数24の非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素化合物(ジスチレン化キシレン)。流動点5℃、40℃での粘度が300cSt(mm/s)、75℃の粘度が25cSt(mm/s)。
その他、比較例において低密度ポリエチレンおよびキシレンを使用した。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
(C)無機顔料
(c1)二酸化チタン:KA−10(アナターゼ型)(チタン工業(株)製)
比重=3.9、平均粒径=0.3〜0.5μm
【0024】
〔組成物の製造〕
(1)500ccのビーカーの底面から2〜3mmの位置に攪拌羽根(直径50mm、羽根数=4)をセットした。
(2)表1に示した組成の各成分合計350gを該ビーカーに投入した。
(3)ついで内容物を適宜攪拌しながら約140℃まで加温し、同温度で攪拌を630rpmで15分間保持後、攪拌羽根を除去し組成物を得た。
【0025】
〔各組成物の揮発性の評価〕
JIS C−2101に準拠して、98℃で5時間保持後の加熱減量(%)を測定した。
〔無機顔料の沈降性の優劣評価〕(実施例5および比較例1)
(1)所定の組成物に無機顔料c1を7g添加し、15分間攪拌を継続した。
(2)攪拌を停止し攪拌機を取り去り、10分間静置した後にビーカーを傾斜して液状物をビーカー外へ取り出した。
(3)ビーカー底部に残った無機顔料を秤量し、この質量を当初添加量(7g)で除して、沈降率(%)とした。沈降率が小さいほど顔料の分散性に優れている。
【0026】
〔塗膜外観と塗装工程時の優劣評価〕
140℃に保温された各組成物を鉄板上にハケで塗布した。塗膜外観評価として平滑性、透明性を、塗装工程における性能評価として伸展性を、それぞれ○、△、×の3段階で相対評価した。透明性は4℃に保持した冷蔵庫中で24時間保管後に目視で観察した。
平滑性の評価においては、目視観察により、極めて平滑な仕上がり面を有する場合を○、平滑な仕上がり面を有する場合を△、膨れを有する仕上がり面を有する場合を×とした。
透明性の評価においては、目視観察により、極めて均一で高い透明性を有する場合を○、多少のムラを有する場合を△、多少のムラを有しかつその一部が濁りを有する場合を×とした。
伸展性の評価においては、塗布工程の作業において、1〜2回の塗布作業で伸展が完了場合を○、3〜4回の塗布作業で伸展が完了する場合をを△、3〜4回の塗布作業に加えてさらに仕上げを要する場合を×とした。
加熱減量が小さく、塗膜外観および塗膜工程の評価の総合的評価が優れているものがシール性能に優れていると判断できる。
【0027】
表1に評価結果を示す。
本発明の実施態様であるジアリールアルカンを含有してなる組成物(実施例1〜5)はキシレンを含有してなる組成物(比較例2)と同等の塗膜外観特性(平滑性、透明性)、塗膜工程特性(伸展性)を有しながら、加熱減量が0.1%以下であり、1.5%の加熱減量を示すキシレンを含有してなる組成物(比較例2)に比べてシール性が格段に優れることが判る。また、顔料を添加した場合(実施例5と比較例1)においては、実施例5の顔料沈降率が1%以下であり、1.5%の沈降率を示すキシレンを含有してなる組成物(比較例5)より優れることが判る。ジアリールアルカンと比縮合型3環芳香族炭化水素を含む組成物(実施例7)は、実施例1〜5と同じ性能を示した。
【0028】
非縮合型3環芳香族炭化水素を含有してなる組成物(実施例6)は、キシレンを含有してなる組成物(比較例2)と同等の塗膜外観特性(平滑性、透明性)と多少劣る塗膜工程特性(伸展性)を有するが、加熱減量が0.1%以下であり、1.5%の加熱減量を示すキシレンを含有してなる組成物(比較例2)に比べてシール性が格段に優れることが判る。なお、低密度ポリエチレンを含有するもの(比較例3)は、実施例に比較すると優れたものとはいえない。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る塗膜形成性組成物は、安定した透明性を有し、かつ、化学的安定性、塗布加工性、低揮発性、シール性等に優れ、また含量分散性にも優れている、高機能性の塗膜形成性組成物であり、各種構造物、機械器具、電気・電子機器等のシール性塗膜に使用するのに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が700以上10000以下のポリブテンを98〜80質量部と、炭素数13以上18以下のジアリールアルカンおよび炭素数22以上24以下の非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素の少なくとも一種を2〜20質量部(全体を合わせて100質量部とする。)とを含む塗膜形成性組成物。
【請求項2】
ジアリールアルカンが、フェニルキシリルエタンを含むことを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成性組成物。
【請求項3】
非縮合型の芳香族環を3個有する芳香族炭化水素が、ジスチレン化キシレンを含むことを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成性組成物。
【請求項4】
比重が6以下の無機顔料を0.1〜10質量部含むことを特徴とする請求項1〜3に記載の塗膜形成性組成物。

【公開番号】特開2006−16535(P2006−16535A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196872(P2004−196872)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000231682)新日本石油化学株式会社 (33)
【Fターム(参考)】