説明

塗膜形成装置

【課題】設備コストが低廉な、異物の付着による塗装不良の発生が防止され、安定した塗装が可能な塗膜形成装置を提供する。
【解決手段】本発明の塗膜形成装置は被塗装物5をその軸を鉛直方向に保持する被塗装物保持部と、内部に塗料を収納するとともに、被塗装物保持部により保持された被塗装物5を内側に通すための円形の切り欠き部6aを備えて、下方へ移動しながら切り欠き部6a付近に位置する部分の被塗装物5の外側面に塗料を塗布する環状塗布ヘッドと、切り欠き部6aに設けられて被塗装物5の被塗装面5aを摺動し、切り欠き部6aと被塗装面5aとの間からの塗料7の漏出を防止するシール部12と、環状塗布ヘッド6の動きに従動して被塗装物5の被塗装面5a全周を摺動しながら被塗装面5aの異物を除去する、軟質部材からなる環状のブレード13を環状塗布ヘッド6の下方に備えた異物除去部と、を備えた塗膜形成装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端状ベルト形状物を含む円筒形状、および、円柱形状の基体への塗膜形成を行うための塗膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の原理に基づく複写機、および、プリンタにおいて、トナーによる未定着画像を有する用紙を加圧しながら加熱することによってトナーを溶融して用紙に定着させる定着プロセスが存在する。
【0003】
このような定着プロセスで用いられる定着ローラあるいは定着ベルトなどの定着部材として、基材上に耐熱性ゴム(シリコンゴム)による弾性層(100〜300μm程度)を形成した上に、プライマ(接着剤)を塗布して、離型層(フッ素樹脂)を20〜30μm程度形成したものが用いられる。
【0004】
従来、このような離型層を形成するための工法としてはスプレーコーテイング塗装が考えられ、一般的に用いられてきた。しかし、スプレーコーティングは塗着効率が20〜30%と低く、結果として70〜80%の塗料を捨ていることとなり、塗料のこのような利用効率の低さが問題であった。
【0005】
また、フッ素樹脂は塗装も難しく、1回に20〜30μmの膜を形成するように塗布すると、塗料がはじかれて表面欠陥ができてしまうので、このような欠陥を防止するためには薄い層を何層も重ねるようにして塗装する必要があり、手間と時間もかかると云う問題があった。
【0006】
一方、これらの欠点を補う工法として浸漬塗装法が考えられる。この方法では塗料を容れた液槽に被塗装物を浸したのち、引き上げることで塗料を被塗装物に付着させてその表面に塗膜を形成する方式であるため、塗着効率は90%以上と非常によく、塗料の無駄が少ない。しかし、この方式では、液槽には被塗装物が完全に浸るだけの液量が必要となり、例えば電子写真の原理を用いた複写機やプリンタに用いられるベルト状やローラ形状の部品を、その軸方向に完全に浸すと液層の大きさは400mm程度の深さが必要となり、液槽が大きくなって大量の塗料が必要になると云う問題がある。
【0007】
これらの欠点を回避すべく考案されたのが、特公平8−23698号公報(特許文献1)で提案されたような、液槽部をシールして被塗装物に対して相対的に動かすことにより少ない塗料必要量で浸漬塗装を実現する方式である。上記公報記載の事例では連続的に塗装する例であるが、このリングコートは連続的ではなく例えばここの被塗装物を一つずつに塗装する場合にもこの方式を応用することができる。
【0008】
しかしながら、この場合の問題点としては被塗装物を塗装している時はそれとシール部材により液漏れを防ぐことができるが、塗装が終了し被塗装物を外してしまうと塗料が漏れることとなる。このため、被塗装物と同径のマスクを用いて塗装が終了した場合であっても塗料がこぼれないようにシールが形成されるようにしている。
【0009】
しかし上記の方式では被塗装物にシール部材が接触しながら液槽が下降するため、被塗装物の表面に異物が付着しているとシール部材と被塗装物との間に挟まり、塗料が掻きとられ、被塗装物の軸方向に線状に塗膜が形成されない部分が生じる問題がある。
【0010】
このような問題を回避するためには異物の付着がないように、塗装環境全体をクリーン化することで対応可能であるが、このとき、建屋・空調等付帯設備も大型化し、設備コストが著しく上昇すると云う問題が生じる。
【特許文献1】特公平8−23698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、建屋・空調等付帯設備の大型化が不要で、設備コストが低廉な、異物の付着による塗装不良の発生が防止され、安定した塗装が可能な塗膜形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の塗膜形成装置は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、円筒形状または円柱形状の被塗装物の外側の被塗装面に対して塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置であって、前記被塗装物をその軸を鉛直方向に保持する被塗装物保持部、内部に前記塗料を収納するとともに、前記被塗装物保持部により保持された前記被塗装物を内側に通すための円形の切り欠き部を備えて、下方へ移動しながら該切り欠き部付近に位置する部分の前記被塗装物の外側面に塗料を塗布する環状塗布ヘッド、及び、前記切り欠き部に設けられて前記被塗装物の被塗装面を摺動し、前記切り欠き部と前記被塗装面との間からの塗料の漏出を防止するシール部、及び、前記環状塗布ヘッドの動きに従動して前記被塗装物の被塗装面全周を摺動しながら該被塗装面の異物を除去する、軟質部材からなる環状のブレードを前記環状塗布ヘッドの下方に備えた異物除去部、を備えた塗膜形成装置である。
【0013】
また、本発明の塗膜形成装置は、請求項2に記載の通り、請求項1記載の塗膜形成装置において、前記環状のブレードがフッ素ゴムからなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の塗膜形成装置は、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の塗膜形成装置において、環状のブレードの被塗装物の被塗装面を摺動する摺動部が、軟質部材からなる板状部材を前記被塗装物の被塗装面の外径より小さい内径となるよう、該板状部材の面に対して垂直に切断されてなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の塗膜形成装置は、請求項4に記載の通り、請求項3に記載の塗膜形成装置において、前記環状のブレードの、被塗装物の被塗装面を摺動する摺動部付近の部分が粘着性を有していることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の塗膜形成装置は、請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の塗膜形成装置において、前記異物除去部が上記環状のブレードを複数備えていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の塗膜形成装置は、請求項6に記載の通り、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の塗膜形成装置において、前記異物除去部の上記環状のブレードが脱着可能であり、かつ、該ブレードを所定の位置に装着可能とする位置決め機構が備えられていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の塗膜形成装置は、請求項7に記載の通り、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の塗膜形成装置において、前記ブレードに付着した異物を除去するブレード異物除去手段が備えられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の塗膜形成装置は、塗装環境全体をクリーン化するための建屋・空調等付帯設備の大型化が不要となり、設備コストが低廉な、異物の付着による塗装不良の発生が防止され、安定した塗装が可能で加工品質が高い塗膜形成装置である。
【0020】
また、請求項2に記載の塗膜形成装置では上記効果に加えて、ブレードの材質をフッ素ゴムとすることで、溶剤系塗料が使用できて塗料選択の幅が広がり、耐摩耗性も高くなるのでブレードの長寿命化が可能となって、交換頻度も少なくなるので、低コスト化が可能となる。
【0021】
また、請求項3に記載の塗膜形成装置では上記効果に加えて、被塗装物表面にブレードが円周状に線接触することで、面接触する場合よりもブレード先端の接触圧力が増すために異物をより掻き落としやすくなり、清掃性が向上し、より高い異物除去能が得られる。
【0022】
また、請求項4に記載の塗膜形成装置では上記効果に加えて、ブレードの一方の面の、稜線部付近の部分が粘着性を有するので、この部分で被塗装物表面から掻き落とした異物を保持することでブレードの交換頻度を減らすことが可能となるので、設備稼働率が向上する。
【0023】
また、請求項5に記載の塗膜形成装置では上記効果に加えて、異物除去部が複数のブレードを有するので、より高い異物除去能力が得られ、不良の発生をより効果的に防止することができるとともに、ブレードの交換頻度をさらに減らすことが可能となるので、設備稼働率が向上する。
【0024】
また、請求項6に記載の塗膜形成装置では上記効果に加えて、前記異物除去部の上記環状のブレードが脱着可能であり、かつ、ブレードを所定の位置に装着可能とする位置決め機構を有するので、ブレードの交換を行っても、水平方向の位置ずれなしに再度取り付けることができ、ブレードの取り付け位置不正による異物除去能力不足を確実に防止することができるとともに、ブレードの取り付けが容易となり、その取り付け時間を短縮することができて設備稼働率が向上する。
【0025】
また、請求項7に記載の塗膜形成装置では上記効果に加えて、ブレードに付着した異物を除去することができるので、ブレードの清掃や交換、及び、それらに伴う除去及び取り付け時間が不要となって設備稼働率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の塗膜形成装置において、塗布対象となるのは外側の被塗装面が円筒状の物品であり、このような物として円筒形状または円柱形状の被塗装物が挙げられ、これらには無端状ベルト、無端状フィルムなどの柔軟な無端状物も含まれる。ここで、これら柔軟な材料からなる無端状物の場合には、内部ないし端部に円筒形状または円柱形状の型をセットする等により、円筒形状または円柱形状の被塗装物同様に塗布対象とすることができる。
【0027】
ここで、このような無端状ベルトの一例として、図1には電子写真装置の定着装置に用いられる定着ベルトの構成を示すモデル図を示す。この例では、ポリイミドなどからなる耐熱性樹脂、あるいは、金属などからなるベルト基材1の外周面上にプライマ層4を介してシリコーンゴムなどの耐熱性を有するエラストマーからなる弾性層2、さらにプライマ層4を介して、この例ではフッ素系樹脂からなる離型層3が、それぞれ形成されている。ここで、本発明の塗膜形成装置はこのような定着ベルトの、フッ素系樹脂からなる離型層3の形成時に好適に応用できる。
【0028】
以下、本発明の塗膜形成装置について、図を用いて説明する。図2及び図3は本発明の塗膜形成装置の主要部のモデル断面図であり、図2は無端状ベルトである定着ベルト中間素材(被塗装物5)の外表面に、フッ素系樹脂塗料を塗布している途中の状態を、図3は塗布終了直後の状態を、それぞれ示す。
【0029】
円筒状の被塗装物5はこの例では離型層以外はすでに形成されている定着ベルト中間素材(無端状ベルト)であり、柔軟な素材からなるが、図2(b)にモデル的に断面図を示すような、両端に差し込み小径部18aと、該小径部のそれぞれに環状のシール部(この場合はOリング)21を有する補助円筒18を、その両端に差しこむことにより筒形状が維持される。このように両端に補助円筒18をセットされた被塗装物5は、その補助円筒18を被塗装物保持部として塗膜形成装置の図示しないチャックによって保持し、マンドレルによってその軸を鉛直方向に保持させる。ここで、被塗装物保持部としては被塗装物をその軸を鉛直方向に保持させることができればよく、上記チャック及びマンドレル以外の手段、例えば円柱状のスタンド等を用いても良い。
【0030】
図2及び図3に示すのは、円筒形状または円柱形状の被塗装物5の外側の被塗装面5aに対して塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置であって、被塗装物5をその軸を鉛直方向に保持する被塗装物保持部と、内部に塗料7を収納するとともに、被塗装物保持部により保持された被塗装物5を内側に通すための円形の切り欠き部6aを備えて、下方へ移動しながら切り欠き部6a付近に位置する部分の前記被塗装物5の外側面に塗料7を塗布する環状塗布ヘッド6と、切り欠き部6aに設けられて被塗装物5の被塗装面5aを摺動し、切り欠き部6aと被塗装面5aとの間からの塗料7の漏出を防止するシール部と、環状塗布ヘッド6の動きに従動して被塗装物5の被塗装面5a全周を摺動しながら被塗装面5aの異物を除去する、軟質部材からなる環状のブレードを環状塗布ヘッド6の下方に備えた異物除去部αと、を備えた塗膜形成装置である。
【0031】
図2及び図3中符号5bは塗装されて形成された塗膜である。
【0032】
被塗装物5は補助円筒18により、塗膜形成装置の所定の位置に上述のようにその軸が鉛直方向に一致するようにセットされる。
【0033】
環状塗布ヘッド6は環状の液槽であり、符号7で示す塗料(本例ではフッ素樹脂のディスパージョン)が容れられている。液槽底部には塗料供給管が設けられ、この塗料供給管から図中Aの矢印で示したように、図示しない送液ポンプなどの塗料定量供給装置を介して図示しない塗料タンクから塗料が供給される。
【0034】
環状塗布ヘッド6の上にはその液槽全体を覆うカバー8が取り付けられ、塗料(あるいはその成分)の揮発やごみの混入を防止する。カバー8には下方に突出する凸状の壁9が設けられて環状塗布ヘッド6の塗料の液中まで到達しており、環状塗布ヘッド6の液槽の縁と凸状の壁9とで形成される空間10は、環状塗布ヘッド6の塗料中に気泡が発生した場合に、その気泡が被塗布物5表面へ気泡が達しないように保持するトラップ部となる(ここで、気泡を含む塗料が被塗布物5に塗布されると、均一な塗膜の形成の妨げとなることがある)。
【0035】
環状塗布ヘッド6内の液面の高さは変位センサ11で測定が可能であり、変位センサ11としては、例えば超音波式のセンサを用いることができる。このような変位センサ11で液面を検出し、後述するように上述の図示しない送液ポンプを制御して液面を一定に保つ。
【0036】
環状塗布ヘッド6には円形の切り欠き部6aが設けられ、この部分の内側に前記被塗装物保持部により保持された被塗装物5を通すことができる。
【0037】
円形の切り欠き部6aに設けられた環状のシール12(ゴムなどの柔軟な素材からなる)は、被塗装物5の被塗装面5aあるいは補助円筒18の表面を摺動し、切り欠き部6aと被塗装面5aあるいは補助円筒18との間からの塗料の漏出を防止する。なお、被塗装物5の中心軸と、環状のシール12の中心は完全に一致することがより高い液漏れ防止効果が得られるので好ましい。本例では後述するようにボールローラ15により両者の中心が容易に一致するようになっている。
【0038】
上記環状塗布ヘッド6の下方への動きに従動して被塗装物5の被塗装面5a全周を摺動しながら下方へ移動し、その際、被塗装面5aに付着している異物を除去する(掻き取る)、軟質部材からなる環状のブレード13とブレード固定ベース14とからなる異物除去部αが環状塗布ヘッド6の下方に設けられている。
【0039】
ブレード13は軟質材料からなるが、その中でも弾性材料からなることが好ましく、塗料として特に溶剤系塗料を使用する場合を想定すると、フッ素ゴムからなることが耐久性の点で望ましい。
【0040】
ここで、このような装置において、被塗装物5の表面に付着しやすい異物としては、塗装雰囲気中に漂う埃や塗装後の補助円筒18の表面に固着した塗料かすが補助円筒の交換時に落下したものが挙げられる。
【0041】
環状塗布ヘッド6が下降するにつれ、ブレード13先端の接触部は被塗装物5の被塗装面5aに接触しながら摺動し、ブレード13の先端部に被塗装面5aに付着した異物が引っ掛かり、被塗装面5aの表面から脱離しされ、あるいは、ブレード13の先端部分に付着してそこで溜まることで被塗装物5の被塗装面5a全体の異物を塗装直前に効果的に除去することができる。またブレード13を複数にすることでさらに異物除去効果を高めることが可能となる。
【0042】
ここで図4にモデル的に示すように環状のブレード13の被塗装物5の被塗装面5aを摺動する摺動部が、軟質部材からなる板状部材を被塗装物5の被塗装面5aの外径より小さい内径となるよう、板状部材の面に対して垂直に切断してなるときには、板状部材の一方の面と切断面との間の稜線部のみが、被塗装物5の被塗装面5aに接触しながら摺動するようになる。このように、ブレード13の内周の先端の接触部が被塗装物5の被塗装面5aと線接触しながら摺動することで、異物の巻き込みを低減することが可能となり、より効果の高い異物除去が可能となる。さらに、異物除去部αが環状のブレード13を複数備えることにより効果の高い異物除去が可能となる。
【0043】
また、図5にモデル的に示すように、ブレード13の上記一方の面の、稜線部付近の部分に粘着部19(例えば両面粘着テープを取り付ける、粘着剤を塗布する等による)を設けて粘着性を付与させることにより、ブレード13の異物保持性を向上させることにより、ブレード13の交換回数や清掃をさらに減らすことが可能となる。
【0044】
ここで、ブレード13は脱着可能とすることで、交換が可能となり、より完全な清掃が可能となるが、このとき、例えば装置側やブレード固定ベースに位置決めピンを設けるとともにブレード13にこのピンに対応する孔を設ける、あるいは、装置側やブレード固定ベースに位置決め凸部を設けるとともにブレード13にこの凸部に対応する凹部を設ける等の、位置決め機構を設けることにより、ブレード13の取り外し後の再取り付けの際に、ブレードの取り付け位置不正(特に図2中横方向のずれ)による異物除去能力不足を確実に防止することができるとともに、ブレードの正確な箇所への取り付けが容易となり、取り付け時間を短縮することができて設備稼働率が向上する。
【0045】
次にこのような塗膜形成装置を用いた塗装動作を説明する。
【0046】
図2(a)において、環状塗布ヘッド6は一軸アクチュエータ17により被塗装物5である定着ベルト5の被塗装面5aの途中までの塗装が行われた状態が示されている。
【0047】
被塗装物5はその両端に嵌装された補助円筒18が図示しないチャック(被塗装物保持部)18により両端が保持され、その軸が垂直になるようにして装置のマンドレルに固定する。
【0048】
一軸アクチュエータ17によりベース板16および環状塗布ヘッド6を徐々に下方へ移動させながら、被塗装物5の塗装開始の位置に環状塗布ヘッド6を位置決めする。
【0049】
その後、一軸アクチュエータ17により、ベース板16および環状塗布ヘッド6上から下方向に移動させることで被塗装物5の被塗装面5aを環状塗布ヘッド6内の塗料7に接触させながら塗装する。
【0050】
環状塗布ヘッド6はボールローラ15より支持されるフローテイング構造を有しているため、塗装時には、環状シール12の中心が被塗装物5の中心軸と一致するように自動的にセンタリングされる。
【0051】
ブレード13は、ブレード固定ベース14を介して、ベース板16に締結されている。またベース板16とブレード固定ベース14は図示しない位置決めピン及びそれに対応する位置決め孔により位置決めされてベース板16に固定されており、脱着時に再現性が確保できるようになっていて、再送着後も安定した異物除去性が得られるようになっている。
【0052】
また、図2(b)及び図3ではブレード13を2個用いている例を示したが、ブレード13は2個ないしそれ以上の複数個を重ねあわせて使用することで異物除去性が向上する。さらにブレード13の先端部に粘着性を持たせることで、除去した異物を保持できるためにブレード13の交換や清掃回数を減らして、繰り返し使用可能とすることができる。
【0053】
図3は、環状塗布ヘッド6がほぼ最終下降位置まで達した状態を示す。環状塗布ヘッド6が下降して、塗料7の液面上に被塗布物5の被塗布面5aが全部位置するようになったら、補助円筒18から塗布作業が終了した被塗布物5を、チャックを解除して塗膜形成装置のマンドレルから外すことができる。
【0054】
図6及び図7にモデル的に示すように、最終下降位置時の円形ブレードに付着した異物を除去するブレード異物除去手段20(これらにはエアーを吸引することにより異物を除去する例を示したが、他の方法、たとえば拭き取って除去しても良い)を設けることにより、ブレードに付着した異物を除去することができるので、ブレードの清掃や交換、及び、それらに伴う除去及び取り付け時間が不要となって設備稼働率が向上する。
【0055】
被塗布物5をマンドレルから外した後、その後、環状塗布ヘッド6は補助円筒18に環状シール12とブレード13とが接した状態で補助円筒18と共に一軸アクチュエータ17によって次の被塗装物5の塗装開始位置まで上昇させて待機させる。
【0056】
この上昇動作中に液面検出用の変位センサ11によって液面を測定し、塗装により減少したのと同量の塗料を塗料定量供給装置より供給することで環状塗布ヘッド6は塗装開始前に常に同量で、かつ、塗料液面の高さが一定の塗料を蓄えていることとなり、塗装を繰り返し行っても安定した塗装が可能となる。
【0057】
塗料供給時に塗料中に気泡が混入した場合は、前述の空間10にトラップされる。カバー8に下方に向かって液中まで没する壁9が設けてあるので、気泡は円形の切り欠き部6a側へ達することが防止されているので、このような気泡は被塗装物の表面に触れることがないので、気泡による塗装斑が予め防止されている。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の塗膜形成装置は、設備コストが低廉な、異物の付着による塗装不良の発生が防止され、安定した塗装が可能な塗膜形成装置であるので、定着ベルトなどの円筒形状または円柱形状の被塗装物の外側の被塗装面に対して塗料を塗布して塗膜を形成する用途に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の塗膜形成装置による塗膜形成により、塗布可能な被塗装物の一例として、電子写真装置の定着装置に用いられる定着ベルトの構成を示すモデル図である。
【図2】本発明の塗膜形成装置の主要部のモデル断面図である。(a)塗布工程途中の状態を示す図である。(b)被塗装物下端付近のモデル拡大断面図である。
【図3】本発明の塗膜形成装置の主要部のモデル断面図であり、塗布工程終了直前の状態を示す図である。
【図4】環状のブレード付近のモデル拡大断面図である。
【図5】粘着性を部分的に付与させた環状のブレード付近のモデル拡大断面図である。
【図6】異物除去手段20の一例を示すモデル図である。
【図7】異物除去手段20の一例を示すモデル斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1 ベルト基材
2 弾性層
3 離型層
4 プライマ層
5 被塗装物
5a 被塗装面
5b 塗膜
6 環状塗布ヘッド
6a 円形の切り欠き部
7 塗料
8 カバー
9 壁
10 空間
11 変位センサ
12 環状のシール
13 環状のブレード
14 ブレード固定ベース
15 ボールローラ
16 ベース板
17 一軸アクチュエータ
18a 差し込み小径部
18 補助円筒
19 粘着部
20 ブレード異物除去手段
21 シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状または円柱形状の被塗装物の外側の被塗装面に対して塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置であって、
前記被塗装物をその軸を鉛直方向に保持する被塗装物保持部と、
内部に前記塗料を収納するとともに、前記被塗装物保持部により保持された前記被塗装物を内側に通すための円形の切り欠き部を備えて、下方へ移動しながら該切り欠き部付近に位置する部分の前記被塗装物の外側面に塗料を塗布する環状塗布ヘッドと、
前記切り欠き部に設けられて前記被塗装物の被塗装面を摺動し、前記切り欠き部と前記被塗装面との間からの塗料の漏出を防止するシール部と、
前記環状塗布ヘッドの動きに従動して前記被塗装物の被塗装面全周を摺動しながら該被塗装面の異物を除去する、軟質部材からなる環状のブレードを前記環状塗布ヘッドの下方に備えた異物除去部と、
を備えた塗膜形成装置。
【請求項2】
前記環状のブレードがフッ素ゴムからなることを特徴とする請求項1記載の塗膜形成装置。
【請求項3】
前記環状のブレードの被塗装物の被塗装面を摺動する摺動部が、軟質部材からなる板状部材を前記被塗装物の被塗装面の外径より小さい内径となるよう、該板状部材の面に対して垂直に切断されてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗膜形成装置。
【請求項4】
前記環状のブレードの、被塗装物の被塗装面を摺動する摺動部付近の部分が粘着性を有していることを特徴とする請求項3に記載の塗膜形成装置。
【請求項5】
前記異物除去部が上記環状のブレードを複数備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の塗膜形成装置。
【請求項6】
前記異物除去部の上記環状のブレードが脱着可能であり、かつ、該ブレードを所定の位置に装着可能とする位置決め機構が備えられていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の塗膜形成装置。
【請求項7】
前記ブレードに付着した異物を除去するブレード異物除去手段が備えられていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の塗膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−68236(P2008−68236A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251496(P2006−251496)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】