説明

塗膜転写具

【課題】未使用時に長時間外気に曝露されることで生じうる、塗膜の変色、経時劣化、埃の付着等による、転写テープの転写面へ転写するための粘着力の低下を防止することができる塗膜転写具を提供する。
【解決手段】前端に開口を有するケース内に供給リールと巻取りリールを配設し、前記開口より転写ヘッドを突出させ、前記供給リールに巻回した転写テープを繰出し、前記転写ヘッドの前端で反転させて前記巻取りリールに巻取らせるようにした塗膜転写具であって、前記転写テープ(1)が、第一基材(2)、塗膜(4)、第二基材(3)が順次積層されてなる三層構造であり、塗膜(4)は、第一基材(2)に形成された軽剥離面(2b)を介して接触するとともに、第二基材(3)に形成された重剥離面(3a)を介して接触しており、転写時には、第一基材、第二基材の順に塗膜から剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手で把持して紙面等を押圧しながら移動させることにより、供給リールから繰出される転写テープに塗布されている塗膜を、紙面等に転写する塗膜転写具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塗膜転写具は前端が開口するケース内に供給リールと巻取りリールを配設し、該開口より転写ヘッドの前端を突出させ、供給リールに巻回した転写テープ(基材の片面に塗膜を形成したもの)を繰出し、前記転写ヘッドの前端で反転させて巻取りリールに巻取らせるようにした構造が一般的である(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、塗膜付きテープを、紙面等における所望の箇所へ正確に押し付けるため、視認性を向上させる目的で転写ヘッドを供給リールから離して配置したものもある(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら上記構造の塗膜転写具では、転写テープが供給リールから引出されてから転写ヘッドの前端で反転するまでは、ケースの開口によって転写テープの塗膜が常に外気に曝露された状態となるため、未使用時に長時間外気に曝露されることによる塗膜の経時劣化や、塗膜への埃の付着等によって、被転写面へ転写するための粘着力が低下するという問題がある。また、塗膜が紫外線で変色(黄変)するという問題もある。
【0005】
特許文献1、2に記載されている塗膜転写具では、ケース本体より突出している部分の未使用の塗膜面を覆うカバーを設け、不使用時において転写テープの塗膜面に埃が付着しないようにすることで、粘着力の低下を防止しているが、かかる構造では、ケース内部の転写ヘッドと供給リールの間の未使用の塗膜面は外気に曝された状態になってしまうため、依然として上記の問題が生じうる。
【0006】
特許文献4には、供給リールを転写ヘッドに近い位置にするとともに、転写テープの基材を外側にして供給リールに巻き付けることで、塗膜を外気と遮断し、劣化をなくせることが記載されている。供給リールが転写ヘッドに近い程劣化は少なくなるが、転写ヘッドと供給リールの間の未使用の塗膜面は、依然として外気に曝露された状態になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−054190号公報(段落〔0034〕、図1)
【特許文献2】特開2008−302598号公報(段落〔0063〕、図1)
【特許文献3】特開2000−094889号公報(段落〔0067〕、図1)
【特許文献4】特開平11−268485号公報(特許請求の範囲、段落〔0011〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の事情に鑑み、未使用時に長時間外気に曝露されることで生じる、塗膜の経時劣化、埃の付着あるいは変色等による、転写テープを被転写面へ転写するための粘着力の低下や転写された塗膜の美観の低下を防止することができる塗膜転写具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、下記の構成の塗膜転写具を提供する。
【0010】
(1)前端に開口を有するケース内に供給リールと巻取りリールを配設し、前記開口より転写ヘッドを突出させ、前記供給リールに巻回した転写テープを繰出し、前記転写ヘッドの前端で反転させて前記巻取りリールに巻取らせるようにした塗膜転写具であって、
前記転写テープが、第一基材、塗膜、第二基材が順次積層されてなる三層構造であり、塗膜は、第一基材とは該基材に形成された軽剥離面を介して接触するとともに、第二基材とは該基材に形成された重剥離面を介して接触しており、転写時には、第一基材、第二基材の順に塗膜から剥離することを特徴とする塗膜転写具。
(2)前記転写ヘッドに、回動自在に支持されたローラーを複数配設し、供給リールから繰り出された転写テープの第一基材及び第二基材を、それぞれ前記ローラー部分で反転するようにしたことを特徴とする前記(1)に記載の塗膜転写具。
(3)前記ローラーで反転された第一基材及び第二基材が、巻取りリールに至るまでの経路の適所に、弾性部材を配置したことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の塗膜転写具。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗膜転写具は、上記のように構成されているので、以下の様な効果が得られる。
請求項1記載の塗膜転写具によれば、転写テープを、基材の間に塗膜を有するように構成しているので、供給リールから引出された転写テープが転写ヘッドの前端で反転するまでの曝露領域に対し、塗膜に密閉空間を作り出し、転写直前まで塗膜を外気に曝露させないようにすることができる。その結果、塗膜の経時劣化を防ぐことが可能になり、長時間の未使用の後でも、被転写面へ転写するための粘着力が低下することなく、また、塗膜が変色することもない。しかも、塗膜に対する剥離強度の異なる基材の間に塗膜を有するように構成しているので、塗膜が先に剥離する第一基材に移行することなく、第二基材とともに転写位置まで繰出されるので、塗膜を確実に被転写面へ転写させることが可能となる。
【0012】
本発明の請求項2記載の塗膜転写具によれば、転写ヘッドに、回動自在に支持されたローラーを複数設けているので、供給リールから繰出された転写テープの第一基材と第二基材を、それぞれローラーで反転させ、別々の経路に誘導し、巻取りリールに巻き取らせることが可能となる。
【0013】
請求項3記載の塗膜転写具によれば、ローラーで反転された第一基材と第二基材の少なくともどちらか一方が接するように、弾性部材を配置したことにより、ローラーから巻取りリールまでの経路において、使用にともない変位する第一基材と第二基材の長さの差異を補正し、各基材が弛むことなく巻取りリールに巻取ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の塗膜転写具で採用する転写テープの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1の塗膜転写具を示す図であり、(a)は全体を示す概略斜視図、(b)は転写ヘッド部分の概略拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態2の塗膜転写具を示す図であり、(a)は全体を示す概略斜視図、(b)は概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の塗膜転写具の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本発明の塗膜転写具で採用する転写テープの斜視図である。
【0016】
本発明の塗膜転写具においては、図1に示すように、転写テープとして、第一基材、塗膜、第二基材が順次積層されてなる三層構造を有する、ダブルセパレータタイプの転写テープを採用する。図1において、1は転写テープ、2は第一基材、2aは第一基材が第二基材と接する側の剥離面、2bは第一基材に形成された軽剥離面、3は第二基材、3aは第二基材に形成された重剥離面、3bは第二基材が第一基材と接する側の剥離面、4は塗膜(粘着層)である。
【0017】
ここで、本発明では、塗膜(粘着層)に対する剥離強度が小さい側の面、すなわち第一基材と塗膜が接する剥離面を「軽剥離面」といい、一方、塗膜に対する剥離強度が大きい側の面、すなわち第二基材と塗膜が接する剥離面を「重剥離面」という。
【0018】
転写テープ1は、図1に示すように、塗膜4が、第一基材2に形成された軽剥離面2bと、第二基材3に形成された重剥離面3aに接触するように構成されており、第二基材3の塗膜4と接する側の反対面3bが内側に、かつ第一基材2の塗膜4と接する側の反対面2aが外側になるように、パンケーキ状に巻回されたものが用いられる。
【0019】
転写テープ1において、第一基材2及び第二基材3は、上記した条件を満たすものであれば、同種を又は二種を組み合せて使用することができる。
【0020】
同種の基材の組合せとしては、例えば、剥離強度の異なる二種類の剥離剤を用いて、片面に軽剥離面、反対側の面に重剥離面を形成した基材を二枚準備し、一方の基材に対して他方の基材を裏返した状態で、これら両基材で塗膜を挟み込むことにより、塗膜の片面には軽剥離面を有する基材、塗膜の反対側の面には強剥離面を有する基材を積層した本発明の転写テープを得ることができる。
【0021】
異種の基材の組合せとしては、例えば、剥離強度の異なる二種類の剥離剤を用いて、一方の基材には両面に軽剥離面を設け、他方の基材には片面に軽剥離面、反対側の面に重剥離面を設け、重剥離面を有する基材の重剥離面が塗膜側になるように、両面が軽剥離面の基材はどちらの面でもよいので塗膜と積層することにより、本発明の転写テープを得ることができる。あるいは、一方の基材には両面に重剥離面を設け、他方の基材には片面に軽剥離面、反対側の面に重剥離面を設けた二種の基材としても良い。異種の基材を組合せる場合は、一方の基材の両面を軽剥離面とするか、あるいは重剥離面とするかによって、基材同士が接する面の剥離強度が異なってくるので、基材の材質に応じて、適宜選択すればよい。また、異種の基材の組合せにおいては、基材同士が接する面に用いる剥離剤を、軽剥離面あるいは重剥離面を形成する剥離剤とは無関係に、基材の材質に応じて適宜選択することもでき、この場合には3種類または4種類の剥離剤を用いることとなる。
【0022】
剥離処理を施す基材としては、プラスチックフィルム等のプラスチック系基材、薄葉紙等の紙系基材、金属箔等の金属系基材、これらの積層体(例えば、プラスチック系基材と他の基材との積層体、プラスチックフィルム同士の積層体など)等の適宜な薄葉体を用いることができる。強度や透明性、剥離処理のし易さの観点からは、プラスチックフィルムが好適であり、素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0023】
本発明の転写テープ1は、厚さ3〜60μmの第一基材2及び第二基材3の両面に、シリコン樹脂等の離型剤を塗布して所定の剥離処理を施し、得られた第二基材3の重剥離処理面3aに粘着剤を塗布、乾燥した後、第一基材2の軽剥離処理面2bを貼着することにより作製されるものが好適に用いられる。粘着剤としては、アクリル樹脂系、ビニル樹脂系、ロジン系、ゴム系等の粘着剤、或いはこれらの粘着剤に架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤、充填剤、増粘剤、pH調整剤、消泡剤等の助剤を適宜配合したものが用いられる。粘着層の厚さは、通常、乾燥後において約0.3〜60μmの範囲である。
【0024】
次に、上記の転写テープ1を搭載した塗膜転写具の具体例を詳細に説明する。
【0025】
図2は、本発明の実施形態1に係る塗膜転写具を示す図であり、(a)は全体を示す概略斜視図、(b)は転写ヘッド部分の概略拡大断面図である。
【0026】
図2に示す、本発明の塗膜転写具10は、前端に開口を有するケース11内に、ギヤ18を介して互いに連動する供給リール12と巻取りリール13を配設し、前記開口より転写ヘッド14を突出させ、供給リール12に巻回した転写テープ1を繰出し、塗膜面を外側として、転写ヘッド14の前端の転写ローラー17で反転させて、巻取りリール13に巻取らせるようにした塗膜転写具である点では、従来と同様である。
【0027】
本発明の塗膜転写具10では、三層構造の転写テープ1を搭載するため、塗膜4を転写させる前に、第一基材を剥離させることが必要となる。図2(a)の斜視図において点線で示すように、塗膜4から先に剥離する第一基材2を反転させる剥離ローラー16と、塗膜転写後に第二基材3を反転させる転写ローラー17とが、配備されている。剥離ローラー16及び転写ローラー17は、ともに、転写ヘッド14における両ガイド片15の下端縁の左右に穿設された軸孔に、ローラー両端の突軸が、回動自在に枢着されている。
【0028】
供給リール12から繰出された転写テープ1のうち、第一基材2は、剥離ローラー16により反転した後、巻取りリール13によって巻き取られ、第一基材が剥離された後、第二基材3と塗膜4から構成される転写テープは、転写ローラー17の先端面において、転写テープより塗膜4が剥離されて、紙面等の被転写面に転写され、塗膜剥離後の第二基材3は反転した後、巻取りリール13によって巻き取られる。よって、転写時には、第一基材、第二基材の順に塗膜から剥離する。
【0029】
剥離ローラー16は、転写時において邪魔にならないように、転写ローラー17よりも供給リール12に近い側に配備されている。
【0030】
第一基材、塗膜、第二基材が順次積層されてなる三層構造を有する転写テープ1を搭載する場合は、図1に示すように、塗膜4が、先に剥離される第一基材2の軽剥離面2bと接触し、且つ、後に剥離される第二基材3の重剥離面3aと接触するように積層した積層物を、パンケーキ状にしたものを、供給リール12に搭載しておくと、塗膜転写具10の使用時において、塗膜4が先に剥離する第一基材2に移行することがない。
【0031】
なお、実施形態1では、剥離ローラー16と転写ローラー17を転写ヘッド14に配設した例を示しているが、さらに回動自在に枢着したローラーを、剥離ローラー16に連設することにより、第一基材2の剥離時期を調整したり、或いは、剥離後の第一基材2が巻取りリール13に至るまでの経路を調整しても良い。
【0032】
図3は、本発明の実施形態2に係る塗膜転写具を示す図であり、(a)は全体を示す概略斜視図、(b)は概略断面図である。
【0033】
図3に示す実施形態の塗膜転写具20は、実施形態1の塗膜転写具において、剥離ローラー16によって反転された第一基材2、及び/又は、転写ローラー17によって反転された第二基材3に接するように、弾性部材21が配置されている。なお、図3において、実施形態1の塗膜転写具10と同じ部材には同じ符号を付している。
【0034】
弾性部材21は、使用によって変位する基材の長さを補正するための部材であるため、形状や材質は特に限定されるものではなく、ローラー16、17で反転された第一基材2及び第二基材3が、巻取りリール13に至るまでの経路の適所に設ければよい。
【0035】
弾性部材21は、全体が弾性変形可能な材料(いわゆる、弾性体)で形成されていると、材料が可撓性を有するため、基材との接触時に、基材に均一にテンションを掛けることができるとともに、安定したテープ走行が可能となり、被転写面を傷付けることがない。弾性変形可能な材料は、汎用の材料であってよく、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、エラストマーなどの樹脂材料、および弾性金属材料が挙げられる。
【0036】
図3は、供給リール12の後方に、半円形に加工した弾性部材21をケース11内に取り付けた一例であり(22は固定具である)、反転された基材2及び基材3を、弾性部材21の端部に接触させ、反転された基材にテンションを掛けることにより、基材が弛むことなく巻取りリール13に巻き取ることができる。
【0037】
以上、本発明に係る塗膜転写具の実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の塗膜転写具は、粘着テープ、修正テープ、蛍光テープ等の三層構造に構成したテープ類を搭載して使用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 転写テープ
2 第一基材
2a 剥離面
2b 軽剥離面
3 第二基材
3a 重剥離面
3b 剥離面
4 塗膜
10 塗膜転写具
11 ケース
12 供給リール
13 巻取りリール
14 転写ヘッド
15 ガイド片
16 剥離ローラー
17 転写ローラー
18 ギヤ
20 塗膜転写具
21 弾性部材
22 固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端に開口を有するケース内に供給リールと巻取りリールを配設し、前記開口より転写ヘッドを突出させ、前記供給リールに巻回した転写テープを繰出し、前記転写ヘッドの前端で反転させて前記巻取りリールに巻取らせるようにした塗膜転写具であって、
前記転写テープが、第一基材、塗膜、第二基材が順次積層されてなる三層構造であり、塗膜は、第一基材とは該基材に形成された軽剥離面を介して接触するとともに、第二基材とは該基材に形成された重剥離面を介して接触しており、転写時には、第一基材、第二基材の順に塗膜から剥離することを特徴とする塗膜転写具。
【請求項2】
前記転写ヘッドに、回動自在に支持されたローラーを複数配設し、供給リールから繰り出された転写テープの第一基材及び第二基材を、それぞれ前記ローラー部分で反転するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の塗膜転写具。
【請求項3】
前記ローラーで反転された第一基材及び第二基材が、巻取りリールに至るまでの経路の適所に、弾性部材を配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の塗膜転写具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−121182(P2012−121182A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272133(P2010−272133)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000134589)株式会社トンボ鉛筆 (158)
【Fターム(参考)】