説明

塗被紙

【課題】 本発明は紙に塗布するための塗布用組成物及び当該塗布用組成物を塗布した塗被紙を提供する。
【解決手段】 紙に塗布するための組成物であって、A 合成樹脂ラテックス;B スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びにC 炭酸カルシウムを含む上記塗布用組成物。当該塗布用組成物を紙材料の少なくとも片面に塗布してなる塗被紙。当該塗被紙は、防湿紙や紙製養生シート等に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙に塗布するための組成物及び当該塗布用組成物を紙に塗布することにより得られた防湿紙や紙製養生シート等の塗被紙に関する。さらに詳細には、PPC用紙用防湿包装紙、新聞用紙用防湿包装紙等に使用して優れた防湿性、離解性、防滑性、撥水性、及び耐ブロッキング性を有する防湿紙に関するものである。また紙製養生シートに関し、優れた撥水性、防湿性、防滑性、及び耐ブロッキング性を有し、更に離解性に優れている為、施工後に不必要になったシートは紙資源として再利用が可能である紙製養生シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の防湿紙は、合成樹脂ラテックスと無機顔料の混合物が一般的に知られている(例えば、特許文献1〜4を参照)。また従来の養生シートは、炭酸カルシウム含有ポリエチレンフィルムシート等が知られている(例えば、特許文献5を参照)。
【0003】
従来技術による防湿紙は防湿性が弱く、塗工量を増やさないと十分な防湿性能を持たせる事が出来ず、高温での乾燥工程が必要となっていた。防湿性能を維持させる為に最適な塗工量は20.0±0.5g/m(solid)が一般的だが、それ以下の塗工量であれば極端に防湿性能は弱くなり、またそれ以上では乾燥不足によって皮膜形成が十分に行えず、防湿性能は期待できなかった。乾燥温度も重要で、150℃以上の高温乾燥を行わないと防湿性能は維持出来ず、それ以下であれば極端に防湿性能は弱かった。その為に最適塗工量以上に塗工し、さらに乾燥を十分行えるように必要以上の乾燥を行っていた場合もあった。更に離解性も不十分でリサイクルに不向きであった。
【0004】
また養生シート技術では諸性能は十分発揮しているが、施工後に不必要になったシートは焼却、埋立て処分の必要があった。これでは近年重要視されているゴミの問題が大きく残る。
【0005】
一方、紙又は板紙用防湿剤の製造方法として、ナフサ分解時に副生される沸点範囲−20〜250℃の留分をフリーデルクラフト型反応によって重合して得られた軟化点が40〜90℃の合成炭化水素樹脂92〜98重量%(α,β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂基準)にα,β不飽和多塩基性酸2〜8重量%(α,β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂基準)を付加してα,β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂40〜88重量%(エマルジョンA基準)を生成させた後、融点50〜80℃のワックス10〜50重量%(エマルジョンA基準)及びノニオン型界面活性剤2〜10重量%(エマルジョンA基準)を加え、さらに無機アルカリ及び/又は有機アルカリを加えて乳化分散し、得られたエマルジョンA、50〜80重量%(紙又は板紙用防湿剤基準)にスチレン−アクリル系エマルジョンB、20〜50重量%(紙又は板紙用防湿剤基準、固型換算)を混合する方法があった(特許文献6を参照)。しかし、特許文献6には、ここで得られる防湿剤を合成樹脂ラテックス及び炭酸カルシウムと組み合わせた場合、顕著な効果を有する防湿紙や養生シートが得られることが教示も示唆もされていない。
【0006】
さらに、紙又は板紙用防湿剤の製造法として、A.重合反応混合物の総重量を基準に、乳化重合用モノマーとして、a)アクリル酸ステアリル及び/又はメタクリル酸ステアリルを10〜30重量部;b)疎水性モノマーを20〜50重量部;並びにc)アクリル酸アルキル及び/又はメタクリル酸アルキルを20〜50重量部;使用し、d)乳化重合用分散剤として、スチレン−アクリル酸とメタクリル酸ステアリル又はアクリル酸ステアリルとを塊状重合させた樹脂のアルカリ塩を使用し、e)乳化重合用助剤としてアニオン系界面活性剤及び/又はノニオン系界面活性剤を使用して乳化重合させて乳化重合物を得ること、B.別に、α,β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、ワックス及びノニオン型界面活性剤と、無機アルカリ及び/又は有機アルカリとを加えて乳化分散させ乳化分散物を得ること、並びにC.Aの乳化重合物とBの乳化分散物とを混合して分散させること、を含む方法があった(特許文献7を参照)。しかし、特許文献7も、ここで得られる防湿剤を合成樹脂ラテックス及び炭酸カルシウムと組み合わせた場合、顕著な効果を有する防湿紙や養生シートが得られることを教示も示唆もしていない。
【0007】
【特許文献1】特開平11‐335999号公報(要約、特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2000‐220094号公報(要約、特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2000‐255626号公報(要約、特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2003‐213596号公報(要約、特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開平9‐317190号公報(要約、特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開平5−262956号公報(請求項1等)
【特許文献7】特開平8−239407号公報(請求項1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、紙に塗布して防湿紙や紙製養生シート等の塗被を得るための塗布用組成物を提供することにある。
本発明の別の目的は、上述したような従来の防湿紙の欠点のない、低塗工量、低温乾燥で通常の防湿性はもちろんの事、十字折れ防湿性においても優れた性能を発揮し、更に離解性、防滑性、撥水性、耐ブロッキング性も有する防湿紙を提供することにある。
【0009】
さらに本発明の目的は、従来のポリエチレン製養生シートと遜色のない特性を有し、離解性が優れ、故紙に再利用でき、ゴミの問題のない紙製養生シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を行った結果、合成樹脂ラテックス;スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びに炭酸カルシウムを含む塗布用組成物を紙に塗布した塗被紙が低塗工量、低温乾燥で通常の防湿性はもちろんの事、十字折れ防湿性においても優れた性能を発揮し、更に離解性、防滑性、撥水性、耐ブロッキング性も有する防湿紙として、またポリエチレン製養生シートと遜色のない特性を有し、離解性が優れ、故紙に再利用でき、ゴミの問題のない紙製養生シートとして有用であることを見出し本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、紙に塗布するための組成物であって、
A 合成樹脂ラテックス;
B スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びに
C 炭酸カルシウム
を含む上記塗布用組成物にある。
【0012】
さらに本発明は、
A 合成樹脂ラテックス;
B スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びに
C 炭酸カルシウム
を含む塗布用組成物を紙材料の少なくとも片面に塗布してなる塗被紙にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗布用組成物で塗布した塗被紙は、従来の防湿紙の欠点のない、低塗工量、低温乾燥で通常の防湿性はもちろんの事、十字折れ防湿性においても優れた性能を発揮し、更に離解性、防滑性、撥水性、耐ブロッキング性も有し、防湿紙として顕著な効果を有する。当該防湿紙は、PPC用紙用防湿包装紙、新聞用紙用防湿包装紙等に使用できる。
【0014】
さらに当該塗被紙は、従来のポリエチレン製養生シートと遜色のない特性を有し、離解性が優れ、施工後に不必要となったシートは紙資源として再利用でき、ゴミの問題がなく、紙製養生シートとして顕著な効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の紙に塗布するための組成物は、
A 合成樹脂ラテックス;
B(1) 乳化重合物の固形分を100重量部とした場合を基準に
a) スチレン、α‐メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種又はそれ以上の成分と(メタ)アクリル酸とを重合させたもののアルカリ塩を10〜40重量部(乳化重合用分散剤)、
b) スチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種又はそれ以上の成分を60〜90重量部使用して乳化重合させてなる乳化重合物;
B(2) 乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準に
a) α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂を50〜80重量部、
b) パラフィン系ワックスを10〜40重量部、
c) 天然(合成)ワックスを3〜15重量部、
d) 直鎖系ノニオン系界面活性剤を1〜8重量部、及び
e) 特定の油性ノニオン系界面活性剤を3〜10重量部併用し、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物;並びに
C 炭酸カルシウムを含む。
【0016】
当該塗布用組成物の各成分の混合割合は、A及びB成分の総重量を100重量部とした場合、A成分が30〜60重量部、好ましくは35〜55重量部、最も好ましくは40〜50重量部、B成分が40〜70重量部、好ましくは45〜65重量部、最も好ましくは50〜60重量部から構成され、C成分はA及びB成分の総重量100重量部当り20〜50重量部、好ましくは25〜45重量部、最も好ましくは30〜40重量部の割合で含む。
【0017】
本発明で使用する合成樹脂ラテックスは、主に形成された皮膜に柔軟性、追随性を与え、例えばシートが折れ曲がったりしたときに折れ曲がった箇所からの湿気や水の侵入を防ぐことができる。本発明で使用できる合成樹脂ラテックスにはスチレンブタジエンラテックス(SBR)、メチルメタクリレートブタジエンラテックス(MBR)、アクリロニトリルブタジエンラテックス(NBR)等があり、防湿性、柔軟性、経済性を考慮すれば、スチレンブタジエンラテックスが好ましい。合成樹脂ラテックスは、例えば、SBRラテックスは、旭化成工業(株)製 A−6130、A−6925、A−6950として入手できる。
【0018】
本発明で使用するB(1)成分のスチレン−アクリル系乳化重合物は、前記B(2)成分の乳化分散物との相容性を良くし、均一な防湿層の皮膜を形成することができる。
スチレン−アクリル系乳化重合物を得る乳化重合に使用する乳化重合用分散剤はスチレン、α−メチルスチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種又はそれ以上の成分と(メタ)アクリル酸とを重合させたもののアルカリ塩が適しており、特にアンモニウム塩が好ましい。乳化重合物中の固形分の100重量部当り、各成分の総重量が10〜40重量部、好ましくは、10〜30重量部、より好ましくは15〜25重量部の範囲で使用できる。
【0019】
本発明の乳化重合に使用できるモノマーにはスチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種又はそれ以上のモノマーがあり、モノマーの量は乳化重合物中の固形分100重量部当り、前記各成分の総重量が60〜90重量部、好ましくは70〜90重量部、より好ましくは75〜85重量部の範囲で使用できる。前記各モノマー成分の使用範囲は任意に設定できるが、スチレン対(メタ)アクリル酸アルキルエステルの相対割合は、重量基準で、一般的に30〜70:70〜30、好ましくは35〜65:65〜35、最も好ましくは40〜60:60〜40である。
【0020】
本発明で使用できる(メタ)アクリル酸アルキルエステルには、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸タ−シャルブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等がある。製造される乳化重合物の皮膜性、柔軟性を考慮すれば、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸2‐エチルヘキシルが好ましい。
【0021】
本発明の乳化重合物のガラス転移点は、−15〜35℃、好ましくは−5〜25℃、最も好ましくは5〜15℃が望ましい。ガラス転移点が35℃を超えると低温(例えば、130℃)乾燥処理では塗工表面温度がガラス転移点を超えないことも予想され、皮膜形成が充分に行えない可能性がある。また、高温(例えば、150℃)で乾燥処理しても皮膜にクラックが入りやすく性能が維持できない。上記範囲のガラス転移点を採用することにより、低温(例えば、130℃)でもガラス転移点を超え、充分な皮膜を形成できる。ガラス転移点が−15℃未満であれば皮膜形成は出来るが、皮膜に粘りが出て、紙材料シートの片面側に保護層形成用組成物を塗布し巻き取った場合、無塗工面と塗工面とでブロッキングを起す可能性がある。
【0022】
本発明の塗布用組成物に使用する乳化重合用分散剤の重合方法は当業界で公知の方法を使用することができる。例えば重合反応容器に必須成分である(メタ)アクリル酸と、スチレン、α−メチルスチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される一種又はそれ以上(各モノマー成分の使用範囲は任意に設定することができる)と、そしてさらに界面活性剤及び水を入れ、撹拌下に約60〜65℃に加温する。前記の温度を維持させながら過硫酸アンモニウムのような触媒を入れ、70〜80分、70〜80℃で維持する。さらに過硫酸アンモニウムのような触媒を入れ、40〜50分、同一温度で維持し反応を終了させ、アルカリを入れ乳化させる。
【0023】
乳化重合物の重合方法は、当業界で公知の方法を使用することができる。例えば重合反応容器に乳化重合用分散剤及び水を入れ、撹拌下に78〜85℃に加温する。乳化重合用分散剤として、前記で特定した乳化重合用分散剤を使用することが好ましい。前記の温度を維持させながら、過硫酸アンモニウムのような触媒を入れ、別に調製した所定量のスチレンと、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(一種又はそれ以上を使用することができ、各モノマー成分の使用範囲は任意に設定することができる)との混合物を約2〜3時間にわたって滴下する。滴下後、約2〜2.5時間、同一温度で維持し、反応を終了させる。
【0024】
本発明で使用する乳化分散物(B(2)成分)は、ナフサ分解時に副生する沸点範囲−20〜250℃の留分をフリーデルクラフト反応によって重合して得られた軟化点が40〜90℃の合成炭化水素樹脂92〜98重量%(α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂基準)にα、β不飽和多塩基性酸2〜8重量%、好ましくは3〜5重量%を付加してα、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂50〜80重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)を生成させた後、融点50〜80℃のパラフィンワックスを10〜40重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)、天然(合成)ワックス3〜15重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)及び直鎖系ノニオン系界面活性剤を1〜8重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)を加え、さらに特定の油性ノニオン系界面活性剤を3〜10重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)を添加し、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを加えて中和し乳化分散させ、乳化分散物を得る。
【0025】
本発明で使用するα、β不飽和多塩基性酸は、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及び無水マレイン酸等から少なくとも一種選択できる。ワックス類は、パラフィンワックス、酸化パラフィンワックス、天然ワックス類、水添石油樹脂、水添ロジン等から少なくとも一種選択できる。パラフィンワックスは融点50〜80℃のワックスを任意に選定でき、天然ワックスとしてはカルナバワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等から任意に選択できる。上述したように、パラフィンワックスの使用量は10〜40重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)の範囲であり、天然(合成)ワックスの使用量は3〜15重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)の範囲である。
【0026】
本発明で使用する直鎖系ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル等を、乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準に、1〜8重量部、好ましくは2〜5重量部加える。
【0027】
本発明の特定の油性ノニオン性界面活性剤には、ヘキサステアリン酸POE(6)ソルビット、モノラウリン酸POE(6)ソルビット、テトラヘキサステアリン酸POE(60)ソルビット、テトラオレイン酸POE(6)ソルビット、テトラオレイン酸POE(30)ソルビット、テトラオレイン酸POE(40)ソルビット、テトラオレイン酸POE(60)ソルビット等がある。当該油性ノニオン性界面活性剤は、一般の親水性を有する界面活性剤と異なり、防湿性、撥水性を損なわず乳化させることができるという特徴を有する。製造される乳化分散物の撥水性、乳化性付与性能を考慮すれば、ヘキサステアリン酸POE(6)ソルビットが好ましい。
【0028】
本発明の乳化分散物に使用できるアルカリには、無機アルカリとして、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等があり、有機アルカリとして、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン、アミノアルコール、ジメチルアミン等がある。
【0029】
B成分の乳化重合物と乳化分散物との混合割合は、混合物100重量部を基準に、40〜90:10〜60であり、好ましくは45〜85:15〜55、最も好ましくは50〜80:20〜50の範囲である。
【0030】
本発明で使用する炭酸カルシウムの比表面積は20000(cm/g)以下が望ましく、それ以上であれば粒子が防湿層に埋没するおそれがあり、防滑性は期待出来ない。故に比表面積は20000(cm/g)以下が望ましい。
【0031】
本発明の塗布用組成物は、前述の合成樹脂ラテックス、スチレン−アクリル系乳化重合物と乳化分散物との混合物、及び炭酸カルシウムの各成分を単に均一に混合するのみで製造することができる。また、スチレン−アクリル系乳化重合物と分散物との混合物はそれぞれ単独でも均一に混合することができる。
【0032】
本発明の塗被紙に使用できる紙材料には、晒しクラフト紙、未晒しクラフト紙、ライナー紙、新聞用紙等がある。塗被紙の用途や紙材料の種類等に応じて強度や重量を調整するために、坪量を変動できる。一般的には、坪量を50〜120g/mに設定でき、好ましくは、60〜100g/mに、最も好ましくは、65〜85g/mに設定できる。
【0033】
本発明の塗被紙は、上記保護層形成用組成物を紙材料の片面又は両面に塗工することにより製造することができる。塗工するための塗工装置には、エアーナイフ、ブレードコーター、リバーシブルコーター、カーテンコーター、ロールコーター等がある。塗工量は、塗被紙を保護したい期間や塗被紙の置かれる環境等により変動できるが、一般に5〜20g/mの範囲、好ましくは10〜18g/mの範囲、最も好ましくは、15〜18g/mの範囲である。
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0035】
(参考例1 乳化重合用分散剤の製造)
反応容器にスチレン60g、メタクリル酸60g、n‐ブチルメタクリレート5g、α‐メチルスチレン15g、n‐ドデシルメルカプタン9g、イオン交換水449g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(70%)2gを入れ、攪拌下、60℃に加温した。これに触媒として過硫酸アンモニウム0.8gを添加した後、75℃で70分、次いで過硫酸アンモニウム0.3gを添加し、65℃で50分の反応を行った。反応終了後冷却し、イオン交換水400g、アンモニア水(25%)48gを添加して固形分15%、pH9.0、粘度250mPa・sの乳化重合用分散剤を得た。
【0036】
(参考例2 乳化重合物の製造)−B(1)成分の製造−
4つ口フラスコに実施例1で得られた乳化重合用分散剤370g及びイオン交換水313gを加え、攪拌下、80℃に加温した。これに触媒として過硫酸アンモニウム1.6gを添加した後、別に混合したスチレン148g、n‐ブチルアクリレート59g、アクリル酸2‐エチルヘキシル104g、n‐ドデシルメルカプタン4gからなるモノマー混合物を2時間かけて滴下した。過硫酸アンモニウム0.6gを追加した後、80℃に保ったまま攪拌下で2時間熟成させた後冷却し、固形分37%、pH9.0、粘度450mPa・sの乳化重合物を得た。
【0037】
(参考例3 乳化分散物の製造)−B(2)成分の製造−
ナフサ分解時に副生する沸点範囲−20〜250℃の留分をフリーデルクラフト反応によって重合して得られた軟化点64℃の合成炭化水素樹脂96.5gを反応釜にし込み、加熱溶融し、系内温度を180〜190℃に調整し、無水マレイン酸3.5gを加え攪拌下徐々に昇温して系内温度を200〜210℃で5時間反応を行った。次に得られたマレイン化合成炭化水素樹脂を60g(全仕込量100g当り)と、融点62.7℃のパラフィンワックス30g、ポリオキシエチレンセチルエーテル5g、ヘキサステアリン酸POE(6)ソルビット5gを乳化釜にし込み、100〜120℃で加熱溶融する。系内温度を100〜110℃に調整した後、水酸化カリウム(49%)4.3gをさらに加える。次に70〜80℃の温水を徐々に添加し固形分40%のエマルションを得た。得られたエマルションを乳化分散物とする。
【0038】
(実施例1)
合成樹脂ラテックス(A成分)、上記の方法で得た乳化重合物と乳化分散物との混合物(B成分)、及び炭酸カルシウム(C成分)を表1に示す混合比率(重量部)で混合して本発明の塗布用組成物を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
合成樹脂ラテックスは旭化成株式会社製A‐6950,炭酸カルシウムは備北粉化工業株式会社製BF300を用いた。
下記の材料・条件を用いて上記塗布用組成物を紙材料に塗工し、防湿紙及び紙製養生シートを得た。
【0041】
[性能試験]
本発明の防湿紙の性能について、試料用紙の普通の状態における透湿度、十字折れ透湿度、撥水度、防滑性、耐ブロッキング性、及び離解性を乾燥温度変化とともに比較した。また、紙製養生シートの性能については市販のポリエチレンフィルム養生シート(萩原工業(株)製 販売名:ブルーシート#2500)と比較した。
【0042】
(防湿紙塗工条件)
原紙 : 未晒しクラフト紙 坪量75g/m
塗工量 : 5,10,15,20g/m(solid)
塗工方法 : バーコーター
乾燥条件 : 130℃および150℃で20秒間乾燥(熱風乾燥)
【0043】
(紙製養生シート塗工条件)
原紙 : ライナー紙 坪量160g/m
塗工量 : 5,10,15,20g/m(solid)
塗工方法 : バーコーター
乾燥条件 : 130℃で20秒間乾燥(熱風乾燥)
【0044】
(防湿性試験)
透湿度はJIS Z 0208(カップ法)に準じ、十字折れ透湿度については、耐寒試験用屈折装置で十字折れ目を付けた後測定した。透湿度は値が低い程防湿性能が高い。
(撥水性試験)
撥水性試験はJIS P 8137「紙及び板紙のはっ水度試験方法」に準じた。
(防滑性試験)
防滑性試験はJIS P 8147(傾斜法)に準じ、同一箇所を連続10回平均で判定した。
【0045】
(耐ブロッキング性試験)
塗布試料を10cm角に切り取り、塗工面−非塗工面を重ねステンレス板の挟み4kgの錘を乗せ80℃の雰囲気下で1時間置き、剥がした時の状態を観察して判定する。判定は塗工面の被覆薬剤が非塗工面に全く付着せず、簡単に剥がれる場合を良好とし、塗工面の被覆薬剤が非塗工面に付着して剥がれにくい場合を不良とした。
【0046】
(離解性試験)
紙料20gを手で3cm角程にカット後、家庭用ミキサー(100V)に清水780mlと共に投入し5分間離解した。離解後のスラリーを8リットルまで希釈し、丸型抄紙機にて坪量50g/mの手抄きを行い、離解度を目視判定する。判定はパルプが均一に分散して抄かれている場合を良好とし、パルプが部分的に凝集して不均一に抄かれている場合を不良とした。
【0047】
(防湿紙試験結果)
表2〜表6に試験結果を示す。
(防湿性)
【0048】
【表2】

【0049】
上記の結果から、本発明の防湿剤を塗工した未晒しクラフト紙は従来の防湿剤を塗工したものと比較して低温乾燥でも防湿性能が顕著に優れている事が分った。
(撥水性試験)
【0050】
【表3】

【0051】
上記の結果より、配合例‐1〜4は全ての塗工条件でR10を示し、良好である事が分った。
(防滑性試験)
【0052】
【表4】

【0053】
上記の結果から、本発明の防湿剤を塗布した未晒しクラフト紙は従来の防湿剤を塗布した従来品のものと同様に良好な防滑性能を示す事が分った。
(耐ブロッキング性試験)
【0054】
【表5】

【0055】
上記の結果から、本発明の防湿剤を塗布した未晒しクラフト紙は従来の防湿剤を塗布した従来品のものと同様に良好な耐ブロッキング性能を示す事が分った。
(離解性試験)
【0056】
【表6】

【0057】
離解良好 5⇔1離解不良
上記の結果から、本発明の防湿剤を塗布した未晒しクラフト紙は従来の防湿剤を塗布した従来品のものと比べて離解性能に優れている事が分った。
【0058】
(養生シート試験結果)
表7〜表11に試験結果を示す。
(防湿性)
【0059】
【表7】

【0060】
上記の結果から、本発明の紙製養生シートは炭酸カルシウム含有ポリエチレンフィルムと同等の性能を有している事が分った。
(撥水性試験)
【0061】
【表8】

【0062】
上記の結果から、本発明の紙製養生シートは炭酸カルシウム含有ポリエチレンフィルムより性能が優れている事が分った。
(防滑性試験)
【0063】
【表9】

【0064】
上記の結果から、本発明の紙製養生シートは炭酸カルシウム含有ポリエチレンフィルムと同等の性能を有している事が分った。
(耐ブロッキング性試験)
【0065】
【表10】

【0066】
上記の結果から、本発明の紙製養生シートは炭酸カルシウム含有ポリエチレンフィルムと同等の性能を有している事が分った。
(離解性試験)
【0067】
【表11】

【0068】
離解良好 5⇔1離解不良
上記の結果から、本発明の紙製養生シートは故紙の再利用に適していることが分った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙に塗布するための組成物であって、
A 合成樹脂ラテックス;
B スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びに
C 炭酸カルシウム
を含む上記塗布用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布用組成物を紙材料の少なくとも片面に塗布してなる塗被紙。
【請求項3】
前記塗被紙が防湿紙または紙製養生シートである請求項2に記載の塗被紙。

【公開番号】特開2006−265748(P2006−265748A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81699(P2005−81699)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(591023642)中越パルプ工業株式会社 (5)
【出願人】(391014480)近代化學工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】