塗装システム及び塗装方法
【課題】設備全体のコンパクト化を図るとともに、多品種少量生産に容易に対応することができ、効率的な塗装作業を遂行することを可能にする。
【解決手段】塗装システム10は、中塗り塗装工程14、上塗り塗装工程16及び上塗りクリア塗装工程18が、塗装流れ方向に沿って配設される。中塗り塗装工程14は、第1中塗り塗装ステーション30a〜第4中塗り塗装ステーション30dを互いに並列して設けるとともに、前記上塗り塗装工程16は、第1上塗り塗装ステーション34a〜第6上塗り塗装ステーション34fを互いに並列して設ける。少なくとも第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cは、塗装色の異なる複数台の塗装ロボット36a、36b及び36cを備えている。
【解決手段】塗装システム10は、中塗り塗装工程14、上塗り塗装工程16及び上塗りクリア塗装工程18が、塗装流れ方向に沿って配設される。中塗り塗装工程14は、第1中塗り塗装ステーション30a〜第4中塗り塗装ステーション30dを互いに並列して設けるとともに、前記上塗り塗装工程16は、第1上塗り塗装ステーション34a〜第6上塗り塗装ステーション34fを互いに並列して設ける。少なくとも第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cは、塗装色の異なる複数台の塗装ロボット36a、36b及び36cを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物の外板及び内板の一部に対して塗装処理を施す少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程を備える塗装システム及び塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被塗装物、例えば、自動車車体の塗装ラインでは、ホワイトボディに対して防錆のための下塗り塗装工程(電着塗装)、中塗り塗装工程、上塗り塗装工程及び上塗りクリア塗装工程等が施されるとともに、各工程間には、焼き付け乾燥工程が設けられている。
【0003】
この種の塗装ラインにおいて、塗装ロボットの台数を削減するとともに、各塗装ブース(塗装ステーション)に供給される運動エネルギを節約することを目的とした塗装装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
この塗装装置は、図11に示すように、中塗り工程と焼付け工程との間に設定される上塗り工程に適用されている。この塗装装置は、それぞれユニット化されたベース塗装用の塗装ブース1と、クリア塗装用の塗装ブース2とを有し、前記塗装ブース1、2は、1つの搬送経路3に沿って直列に配置されている。塗装ブース1、2には、それぞれ複数の吹き付け塗装ロボット4、5が配置されている。
【0005】
上側の塗装装置を第1モジュールA、下側の塗装装置を第2モジュールBとするとともに、第1モジュールA及び第2モジュールBの生産能力は、それぞれ最小生産量に設定されている。そして、生産量を増大させるには、第1モジュールA及び第2モジュールBを同時に並行して稼動させる一方、生産能力を低下させる際には、例えば、第2モジュールBを停止させている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−129449号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の塗装ラインでは、同一の塗装条件に設定された第1モジュールA及び第2モジュールBが、生産量に対応して並列されているだけである。ところが、自動車車体の塗装色は、多種類に設定されるとともに、上塗り塗装を2回行う場合の他、クリア塗装を2回行う場合もある。従って、この種の多様化に適用するためには、多数の塗装ラインを設けなければならず、塗装設備全体が相当に大型化且つ複雑化する。これにより、上記の従来技術では、近年の塗装色の多色化や多品種少量生産に対応することができないという問題がある。
【0008】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、設備全体のコンパクト化を図るとともに、多品種少量生産に容易に対応することができ、効率的な塗装作業を遂行することが可能な塗装システム及び塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被塗装物の外板及び内板の一部に対して塗装処理を施す少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程を備える塗装システムに関するものである。そして、中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程は、塗装条件の異なる、例えば、塗装色の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けている。
【0010】
また、塗装システムは、上塗りクリア塗装工程を含むとともに、前記上塗りクリア塗装工程は、塗装条件の異なる、例えば、1層目のクリア塗装と2層のクリア塗装とを行う2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けることが好ましい。
【0011】
さらに、中塗り塗装工程と上塗り塗装工程との間、及び前記上塗り塗装工程と上塗りクリア塗装工程との間には、それぞれセッティング部及び加熱部が配設されることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明は、被塗装物の外板及び内板の一部に対して少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程で塗装を施す塗装方法に関するものである。そして、中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けており、所望の塗装条件に対応する塗装ステーションを選択して前記被塗装物に塗装が行われている。
【0013】
また、塗装方法は、上塗りクリア塗装工程を有するとともに、前記上塗りクリア塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列してを設けており、所望の塗装条件に対応する塗装ステーションを選択して前記被塗装物に塗装を行うことが好ましい。
【0014】
さらに、被塗装物は、各塗装ステーションを介して所望の塗装条件による塗装が行われた後、セッティング部及び加熱部を順次通過することが好ましい。さらにまた、被塗装物は、セッティング部及び加熱部を通過した後、必要に応じて再度所定の塗装ステーションに戻って、他の塗装条件による塗装を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程に、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションが互いに並列して設けられている。このため、塗装条件の変更、例えば、塗装色の色替えに際して、所望の塗装色を有する塗装ステーションを選択するだけでよく、色替え用の段取り替えや機種変更用の段取り替えが迅速且つ容易に遂行される。従って、多品種少量生産に容易に対応することができるとともに、効率的な塗装作業を遂行することが可能になる。
【0016】
しかも、各塗装ステーションでは、塗装作業の迅速化が図られるため、塗装ロボットをドア開閉用ロボットとして兼用させても、前記塗装作業全体の遅延が惹起されることがない。これにより、ロボット台数が良好に削減されるとともに、設備全体のコンパクト化が容易に図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る塗装システム10の概略構成説明図である。
【0018】
塗装システム10は、互いに平行して塗装流れ方向(矢印X方向)に延在する第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bを備える。第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bは、塗装流れ方向上流から下流に向かって配置される中塗り塗装工程14、上塗り塗装工程16及び上塗りクリア塗装工程18を有する。
【0019】
第1塗装ライン12aは、中塗り塗装工程14と上塗り塗装工程16との間に、第1セッティング部20a及び第1乾燥炉(加熱部)22aを配設するとともに、第2塗装ライン12bは、同様に前記中塗り塗装工程14と前記上塗り塗装工程16との間に、第2セッティング部20b及び第2乾燥炉22bを配設する。
【0020】
第1塗装ライン12aは、上塗り塗装工程16と上塗りクリア塗装工程18との間に、第3セッティング部20c及び第1プレヒート部(加熱部)24aを配設する一方、第2塗装ライン12bは、前記上塗り塗装工程16と前記上塗りクリア塗装工程18との間に、第4セッティング部20d及び第2プレヒート部24bを配置する。
【0021】
第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bは、上塗りクリア塗装工程18の下流側に、第5セッティング部20e及び第3乾燥炉22cを共通に設けている。
【0022】
中塗り塗装工程14は、矢印X方向に直交する矢印Y方向に沿って、第1中塗り塗装ステーション30a、第2中塗り塗装ステーション30b、第3中塗り塗装ステーション30c及び第4中塗り塗装ステーション30dを互いに並列して設ける。
【0023】
第1中塗り塗装ステーション30a〜第4中塗り塗装ステーション30dは、それぞれ複数台の塗装ロボット32a、32b、32c及び32dを備える。塗装ロボット32a〜32dは、被塗装物である車体Wの外板及び内板の一部に対して中塗り塗装処理を施すとともに、少なくとも一部がドア開閉用ロボットとしての機能を兼用している。
【0024】
第1中塗り塗装ステーション30aと第2中塗り塗装ステーション30bとは、第1塗装ライン12aに搬送される車体Wに対し、それぞれ塗装条件の異なる、例えば、塗装色の異なる2つの塗装ステーションを構成している。
【0025】
第3中塗り塗装ステーション30cと第4中塗り塗装ステーション30dとは、第2塗装ライン12bに沿って搬送される車体Wに対し、それぞれ塗装条件の異なる塗装を選択的に行う2つの塗装ステーションを構成している。
【0026】
第1セッティング部20a及び第2セッティング部20bは、中塗り塗装処理が終了した車体Wに対し、塗装の手直しを行ったり、溶剤を気化させたり、塗料を落ち着かせたりするためのステーションであり、第1乾燥炉22a及び第2乾燥炉22bは、塗膜を乾燥させるためのステーションである。
【0027】
上塗り塗装工程16は、第1上塗り塗装ステーション34a、第2上塗り塗装ステーション34b、第3上塗り塗装ステーション34c、第4上塗り塗装ステーション34d、第5上塗り塗装ステーション34e及び第6上塗り塗装ステーション34fを矢印Y方向に沿って互いに並列して設ける。第1上塗り塗装ステーション34a〜第6上塗り塗装ステーション34fは、それぞれ複数台の塗装ロボット36a、36b、36c、36d、36e及び36fを備える。
【0028】
第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cは、第1塗装ライン12aに沿って搬送される車体Wに対し、それぞれ塗装条件の異なる、例えば、塗装色の異なる上塗り塗装処理を選択的に施す一方、第4上塗り塗装ステーション34d〜第6上塗り塗装ステーション34fは、第2塗装ライン12bに沿って搬送される車体Wに対し、それぞれ塗装色の異なる塗装処理を選択的に施す。
【0029】
なお、例えば、第1上塗り塗装ステーション34aと第2上塗り塗装ステーション34bとを同一の塗装色に設定する一方、第4上塗り塗装ステーション34dと第5上塗り塗装ステーション34eとを同一の塗装色に設定することにより、各車体Wに対し、2種類の異なる上塗り塗装処理を選択的に施すこともできる。
【0030】
第3セッティング部20c及び第4セッティング部20dは、上記の第1セッティング部20aと同様であるとともに、第1プレヒート部24a及び第2プレヒート部24bは、上塗り塗装後の車体Wに対し、プレヒート処理を施す。
【0031】
具体的には、第1プレヒート部24a及び第2プレヒート部24bは、上塗り塗装処理が終了した車体Wに対し、上塗り塗料の塗着固形分を適切な範囲にするために、前記上塗り塗料を仮乾燥させるステーションであり、例えば、赤外線照射装置及び/又は熱風供給装置等を備えている。
【0032】
上塗りクリア塗装工程18は、第1上塗りクリア塗装ステーション38a、第2上塗りクリア塗装ステーション38b及び第3上塗りクリア塗装ステーション38cを備える。第1上塗りクリア塗装ステーション38a〜第3上塗りクリア塗装ステーション38cは、それぞれ複数台の塗装ロボット40a、40b及び40cを備える。
【0033】
第1上塗りクリア塗装ステーション38a及び第3上塗りクリア塗装ステーション38cは、第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bに沿って搬送される各車体Wに対し、後述するように、一層目のクリア層を形成する。第2上塗りクリア塗装ステーション38bは、第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bの各車体Wのクリア層上に、二層目のクリア層(オーバーコートクリア)を形成する。
【0034】
第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bは、各車体Wを第1プレヒート部24a及び第2プレヒート部24bの下流から上塗り塗装工程16の上流に戻すための第1リターンライン42と、前記車体Wを第3乾燥炉22cの下流から上塗りクリア塗装工程18の上流に戻すための第2リターンライン44とを有する。
【0035】
なお、第1中塗り塗装ステーション30a〜第4中塗り塗装ステーション30d、第1上塗り塗装ステーション34a〜第6上塗り塗装ステーション34f及び第1上塗りクリア塗装ステーション38a〜第3上塗りクリア塗装ステーション38cは、それぞれ個別に空調される空調ブースを構成している。
【0036】
このように構成される塗装システム10の動作について、本発明に係る塗装方法との関連で、以下に説明する。
【0037】
先ず、図2に示すように、車体Wの車体表面Waに対して標準タイプの塗装パターンを施す場合について説明する。この標準タイプでは、車体表面Waに電着層46、中塗り層48、ベース層(上塗り層)50及びクリア層52が、順次、形成される。
【0038】
そこで、標準タイプの塗装処理について、図3に示すフローチャートに沿って詳細に説明する。車体表面Waには、予め下塗り塗装工程(図示せず)により水溶性塗料を用いた電着塗装が施されて、電着層46が形成される(ステップS1)。
【0039】
車体Wは、電着層46に図示しない乾燥炉で乾燥処理が施された後(ステップS2)、第1塗装ライン12aを介して中塗り塗装工程14に搬送される。なお、第2塗装ライン12bは、第1塗装ライン12aと同様に塗装処理が施されるものであり、以下、第1塗装ライン12aについてのみ説明する。
【0040】
中塗り塗装工程14において、車体Wは、所望の塗装色に対応して、例えば、第1中塗り塗装ステーション30aに供給される。この第1中塗り塗装ステーション30aでは、複数の塗装ロボット32aを介して車体Wの外板の塗装を行うとともに、任意の塗装ロボット32aによるドア開放操作が行われ、前記車体Wの内板の一部に対して塗装処理が施される。これにより、電着層46上に中塗り層48が形成される(ステップS3)。
【0041】
第1中塗り塗装ステーション30aによる中塗り塗装が施された車体Wは、第1セッティング部20aに搬送されて塗装の手直し等の処理が施された後、第1乾燥炉22aに搬入される。車体Wは、第1乾燥炉22aで塗料の乾燥処理が施された後(ステップS4)、上塗り塗装工程16に搬送される。
【0042】
上塗り塗装工程16では、車体Wに対応して第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cがそれぞれ異なる塗料色に応じて設定されており、前記車体Wは、例えば、前記第1上塗り塗装ステーション34aに搬入される。この第1上塗り塗装ステーション34aには、複数台の塗装ロボット36aが設けられており、前記車体Wの外板及び内板の一部に対し、上塗り塗装処理が施されて中塗り層48上にベース層50が形成される(ステップS5)。
【0043】
上塗り塗装処理後の車体Wは、第3セッティング部20cに送られて塗装の手直し等の処理が施された後、第1プレヒート部24aに送られる。車体Wは、第1プレヒート部24aで所定の温度にプレヒートされた後(ステップS6)、上塗りクリア塗装工程18の中、例えば、第1上塗りクリア塗装ステーション38aに送られる。この第1上塗りクリア塗装ステーション38aでは、複数の塗装ロボット40aによりベース層50上にクリア層52が形成される(ステップS7)。
【0044】
そして、上塗りクリア塗装が終了した車体Wは、第5セッティング部20eに送られ、さらに、第3乾燥炉22cで乾燥処理が施されて(ステップS8)、次段の工程に送り出される。
【0045】
次に、図4に示す第1塗装パターンによる塗装処理について説明する。この第1塗装パターンでは、車体表面Wa上に電着層46、中塗り層48、第1ベース層50a、第2ベース層50b及びクリア層52が形成される。
【0046】
そこで、図5に示すフローチャートに沿って、以下に詳細に説明すると、先ず、前述のステップS1〜ステップS4と同様に、ステップS11〜ステップS14が行われる。さらに、車体Wは、上塗り塗装工程16の中、例えば、第1上塗り塗装ステーション34aに送られて第1ベース層50aが形成される(第1ステップS15)。
【0047】
第1ベース層50aが形成された車体Wは、第3セッティング部20c及び第1プレヒート部24aを通った後(ステップS16)、第1リターンライン42を介して上塗り塗装工程16の上流側に戻される。そして、車体Wは、例えば、第2上塗り塗装ステーション34bに送られ、複数台の塗装ロボット36bを介して第1ベース層50a上に第2ベース層50bが形成される(ステップS17)。
【0048】
第2ベース層50bが形成された車体Wは、第3セッティング部20c及び第1プレヒート部24aを通ってプレヒートされた後(ステップS18)、上塗りクリア塗装工程18を構成する第1上塗りクリア塗装ステーション38aに送られてクリア層52が形成される(ステップS19)。上塗りクリア塗装終了後の車体Wは、第5セッティング部20e及び第3乾燥炉22cを通って乾燥処理された後(ステップS20)、次なる工程へと搬出される。
【0049】
さらにまた、図6に示す第2塗装パターンによる塗装処理について説明する。この第2塗装パターンでは、車体表面Wa上に電着層46、中塗り層48、第1ベース層50a、第2ベース層50b、第1クリア層52a及び第2クリア層52bが形成される。
【0050】
この第2塗装パターンでは、図7に示すフローチャートに沿って塗装処理が施されるものであり、ステップS31〜ステップS38までは、前述したステップS11〜ステップS18と同様に行われる。
【0051】
そして、第2ベース層50bが形成された車体Wは、第1プレヒート部24aから第1上塗りクリア塗装ステーション38aに送られて、前記第2ベース層50b上に第1クリア層52aが形成される(ステップS39)。第1クリア層52aが形成された車体Wは、第5セッティング部20e及び第3乾燥炉22cを通って乾燥処理された後(ステップS40)、第2リターンライン44を通って上塗りクリア塗装工程18の上流側に一旦戻される。
【0052】
車体Wは、例えば、第2上塗りクリア塗装ステーション38bに送られ、複数台の塗装ロボット40bを介して第1クリア層52a上に第2クリア層52bが形成される(ステップS41)。第2クリア層52bが形成された車体Wは、第5セッティング部20e及び第3乾燥炉22cを通って乾燥された後(ステップS42)、次なる工程へと搬出される。
【0053】
この場合、本実施形態では、第1塗装ライン12aにおいて、中塗り塗装工程14には、それぞれ塗装条件の異なる第1中塗り塗装ステーション30aと第2中塗り塗装ステーション30bとが、互いに並列して設けられる一方、上塗り塗装工程16には、それぞれ塗装条件の異なる第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cが、互いに並列して設けられている。さらに、上塗りクリア塗装工程18には、第1塗装ライン12aに対応して第1上塗りクリア塗装ステーション38aと、第2塗装ライン12bを兼用する第2上塗りクリア塗装ステーション38bとが、互いに並列して設けられている。このため、塗装条件の変更、例えば、塗装色の色替えに際して、色替え用の段取り替えや機種変更用の段取り替えが迅速且つ容易に遂行される。
【0054】
具体的には、塗装システム10を構成する第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cを用いて車体Wに上塗り塗装を施す際と、図8に示すように、内板塗装ステーション60、第1外板塗装ステーション62及び第2外板塗装ステーション64が直列に配置される従来の上塗り塗装工程66を用いて前記車体Wに上塗り塗装を施す際と、について説明する。
【0055】
従来の上塗り塗装工程66では、車体Wのフード(ボンネット)を開放保持するオープナー67と、ドア開閉用ロボット68とを備える。内板塗装ステーション60、第1外板塗装ステーション62及び第2外板塗装ステーション64には、それぞれ複数台の塗装ロボット70a、70b及び70cが配設されている。
【0056】
従来の上塗り塗装工程66では、図9に示すように、先ず、オープナー67によりフードが開放保持された状態で、フード内板側の塗装が行われる。次いで、ドア開閉用ロボット68によりドアが開放された状態で、塗装ロボット70aによる車体Wの内板の塗装が行われる。
【0057】
そして、ドアが閉じられた後、第1外板塗装ステーション62による車体Wの外板の塗装が開始される前に、所定の色替え時間だけ塗装処理が中断される。この色替え時間は、実質的に、塗装色の色替えが行われない際及び塗装色の色替えが行われる際に共通に設定されたものであり、必要に応じてこの色替え時間内にカップ洗浄等を含む段取り替え作業が行われている。
【0058】
所定の色替え時間が経過した後、車体Wには、第1外板塗装ステーション62を構成する塗装ロボット70bを介して外板の塗装が行われる。さらに、所定の色替え時間だけ塗装が停止された後、車体Wは、第2外板塗装ステーション64を構成する塗装ロボット70cを介して外板の塗装が行われる。
【0059】
これに対して、本実施形態の上塗り塗装工程16では、図10に示すように、例えば、第1上塗り塗装ステーション34aにより車体Wの外板及び内板の一部の上塗り塗装を行う際、先ず、左側の塗装ロボット36aによりフードが開放保持された状態で、右側の塗装ロボット36aを介してフードの塗装が行われる。次に、右側の塗装ロボット36aでフードが開放保持された状態で、左側の塗装ロボット36aによりフードの残余の塗装が行われる。
【0060】
さらに、各塗装ロボット36aによりドアが開放された状態で、内板の一部の塗装が行われると、前記塗装ロボット36aがドアを閉塞するとともに、使用済みの塗装ロボット36aのカップ洗浄が行われた後、左右の塗装ロボット36aにより車体Wの外板の塗装が行われる。そして、使用済みの塗装ロボット36aのカップ洗浄が行われる一方、他の塗装ロボット36aにより車体Wの外板の塗装が行われる。
【0061】
このように、従来の上塗り塗装工程66では、内板塗装ステーション60、第1外板塗装ステーション62及び第2外板塗装ステーション64においてそれぞれ塗装が行われた後、所定の色替え時間だけ塗装が中断されている。この色替え時間は、実際のカップ洗浄に係る時間に比べて長時間を要しており、塗装作業が不要に停止されて、塗装作業全体が相当に長時間化するという問題がある。
【0062】
これに対して、本実施形態では、第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cが、それぞれ塗装色の異なる塗料を塗布可能に待機しており、色替え時には、車体Wを第1上塗り塗装ステーション34aから、例えば、第2上塗り塗装ステーション34bに移送するだけでよい。これにより、特に、多品種少量生産に容易に対応することができるとともに、効率的な塗装作業を遂行することが可能になるという効果を得られる。
【0063】
しかも、不要な色替え待機時間が削除されるため、塗装作業全体が容易に迅速且つ短時間で遂行される。このため、例えば、塗装ロボット36aをドア開閉用ロボットとして兼用させても、塗装作業全体の遅延が惹起されることはない。従って、ロボット数が良好に削減されて設備全体のコンパクト化を図るとともに、経済的であるという利点がある。
【0064】
さらに、従来の上塗り塗装工程66では、内板塗装ステーション60から第2外板塗装ステーション64までを覆って空調ブースを設ける必要があり、この空調ブースの全長は、車体Wの搬送路を含むために長尺化してしまう。これに対して、本実施形態では、例えば、第1上塗り塗装ステーション34aを覆う空調ブースは、車体Wを囲繞する範囲に限定されるため、空調エネルギを良好に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る塗装システムの概略構成説明図である。
【図2】標準タイプの塗装パターンの説明図である。
【図3】前記標準タイプの塗装パターンの処理フローチャートである。
【図4】第1塗装パターンの説明図である。
【図5】前記第1塗装パターンの処理フローチャートである。
【図6】第2塗装パターンの説明図である。
【図7】前記第2塗装パターンの処理フローチャートである。
【図8】従来の上塗り塗装工程の説明図である。
【図9】前記従来の上塗り塗装工程のタイムチャートである。
【図10】本実施形態の上塗り塗装工程のタイムチャートである。
【図11】特許文献1の上塗り工程の説明図である。
【符号の説明】
【0066】
10…塗装システム 12a、12b…塗装ライン
14…中塗り塗装工程 16…上塗り塗装工程
18…上塗りクリア塗装工程 20a〜20e…セッティング部
22a〜22c…乾燥炉 24a、24b…プレヒート部
30a〜30d…中塗り塗装ステーション
32a〜32d、36a〜36f、40a〜40c…塗装ロボット
34a〜34f…上塗り塗装ステーション
38a〜38c…上塗りクリア塗装ステーション
42、44…リターンライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物の外板及び内板の一部に対して塗装処理を施す少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程を備える塗装システム及び塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被塗装物、例えば、自動車車体の塗装ラインでは、ホワイトボディに対して防錆のための下塗り塗装工程(電着塗装)、中塗り塗装工程、上塗り塗装工程及び上塗りクリア塗装工程等が施されるとともに、各工程間には、焼き付け乾燥工程が設けられている。
【0003】
この種の塗装ラインにおいて、塗装ロボットの台数を削減するとともに、各塗装ブース(塗装ステーション)に供給される運動エネルギを節約することを目的とした塗装装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
この塗装装置は、図11に示すように、中塗り工程と焼付け工程との間に設定される上塗り工程に適用されている。この塗装装置は、それぞれユニット化されたベース塗装用の塗装ブース1と、クリア塗装用の塗装ブース2とを有し、前記塗装ブース1、2は、1つの搬送経路3に沿って直列に配置されている。塗装ブース1、2には、それぞれ複数の吹き付け塗装ロボット4、5が配置されている。
【0005】
上側の塗装装置を第1モジュールA、下側の塗装装置を第2モジュールBとするとともに、第1モジュールA及び第2モジュールBの生産能力は、それぞれ最小生産量に設定されている。そして、生産量を増大させるには、第1モジュールA及び第2モジュールBを同時に並行して稼動させる一方、生産能力を低下させる際には、例えば、第2モジュールBを停止させている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−129449号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の塗装ラインでは、同一の塗装条件に設定された第1モジュールA及び第2モジュールBが、生産量に対応して並列されているだけである。ところが、自動車車体の塗装色は、多種類に設定されるとともに、上塗り塗装を2回行う場合の他、クリア塗装を2回行う場合もある。従って、この種の多様化に適用するためには、多数の塗装ラインを設けなければならず、塗装設備全体が相当に大型化且つ複雑化する。これにより、上記の従来技術では、近年の塗装色の多色化や多品種少量生産に対応することができないという問題がある。
【0008】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、設備全体のコンパクト化を図るとともに、多品種少量生産に容易に対応することができ、効率的な塗装作業を遂行することが可能な塗装システム及び塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被塗装物の外板及び内板の一部に対して塗装処理を施す少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程を備える塗装システムに関するものである。そして、中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程は、塗装条件の異なる、例えば、塗装色の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けている。
【0010】
また、塗装システムは、上塗りクリア塗装工程を含むとともに、前記上塗りクリア塗装工程は、塗装条件の異なる、例えば、1層目のクリア塗装と2層のクリア塗装とを行う2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けることが好ましい。
【0011】
さらに、中塗り塗装工程と上塗り塗装工程との間、及び前記上塗り塗装工程と上塗りクリア塗装工程との間には、それぞれセッティング部及び加熱部が配設されることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明は、被塗装物の外板及び内板の一部に対して少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程で塗装を施す塗装方法に関するものである。そして、中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けており、所望の塗装条件に対応する塗装ステーションを選択して前記被塗装物に塗装が行われている。
【0013】
また、塗装方法は、上塗りクリア塗装工程を有するとともに、前記上塗りクリア塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列してを設けており、所望の塗装条件に対応する塗装ステーションを選択して前記被塗装物に塗装を行うことが好ましい。
【0014】
さらに、被塗装物は、各塗装ステーションを介して所望の塗装条件による塗装が行われた後、セッティング部及び加熱部を順次通過することが好ましい。さらにまた、被塗装物は、セッティング部及び加熱部を通過した後、必要に応じて再度所定の塗装ステーションに戻って、他の塗装条件による塗装を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程に、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションが互いに並列して設けられている。このため、塗装条件の変更、例えば、塗装色の色替えに際して、所望の塗装色を有する塗装ステーションを選択するだけでよく、色替え用の段取り替えや機種変更用の段取り替えが迅速且つ容易に遂行される。従って、多品種少量生産に容易に対応することができるとともに、効率的な塗装作業を遂行することが可能になる。
【0016】
しかも、各塗装ステーションでは、塗装作業の迅速化が図られるため、塗装ロボットをドア開閉用ロボットとして兼用させても、前記塗装作業全体の遅延が惹起されることがない。これにより、ロボット台数が良好に削減されるとともに、設備全体のコンパクト化が容易に図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る塗装システム10の概略構成説明図である。
【0018】
塗装システム10は、互いに平行して塗装流れ方向(矢印X方向)に延在する第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bを備える。第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bは、塗装流れ方向上流から下流に向かって配置される中塗り塗装工程14、上塗り塗装工程16及び上塗りクリア塗装工程18を有する。
【0019】
第1塗装ライン12aは、中塗り塗装工程14と上塗り塗装工程16との間に、第1セッティング部20a及び第1乾燥炉(加熱部)22aを配設するとともに、第2塗装ライン12bは、同様に前記中塗り塗装工程14と前記上塗り塗装工程16との間に、第2セッティング部20b及び第2乾燥炉22bを配設する。
【0020】
第1塗装ライン12aは、上塗り塗装工程16と上塗りクリア塗装工程18との間に、第3セッティング部20c及び第1プレヒート部(加熱部)24aを配設する一方、第2塗装ライン12bは、前記上塗り塗装工程16と前記上塗りクリア塗装工程18との間に、第4セッティング部20d及び第2プレヒート部24bを配置する。
【0021】
第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bは、上塗りクリア塗装工程18の下流側に、第5セッティング部20e及び第3乾燥炉22cを共通に設けている。
【0022】
中塗り塗装工程14は、矢印X方向に直交する矢印Y方向に沿って、第1中塗り塗装ステーション30a、第2中塗り塗装ステーション30b、第3中塗り塗装ステーション30c及び第4中塗り塗装ステーション30dを互いに並列して設ける。
【0023】
第1中塗り塗装ステーション30a〜第4中塗り塗装ステーション30dは、それぞれ複数台の塗装ロボット32a、32b、32c及び32dを備える。塗装ロボット32a〜32dは、被塗装物である車体Wの外板及び内板の一部に対して中塗り塗装処理を施すとともに、少なくとも一部がドア開閉用ロボットとしての機能を兼用している。
【0024】
第1中塗り塗装ステーション30aと第2中塗り塗装ステーション30bとは、第1塗装ライン12aに搬送される車体Wに対し、それぞれ塗装条件の異なる、例えば、塗装色の異なる2つの塗装ステーションを構成している。
【0025】
第3中塗り塗装ステーション30cと第4中塗り塗装ステーション30dとは、第2塗装ライン12bに沿って搬送される車体Wに対し、それぞれ塗装条件の異なる塗装を選択的に行う2つの塗装ステーションを構成している。
【0026】
第1セッティング部20a及び第2セッティング部20bは、中塗り塗装処理が終了した車体Wに対し、塗装の手直しを行ったり、溶剤を気化させたり、塗料を落ち着かせたりするためのステーションであり、第1乾燥炉22a及び第2乾燥炉22bは、塗膜を乾燥させるためのステーションである。
【0027】
上塗り塗装工程16は、第1上塗り塗装ステーション34a、第2上塗り塗装ステーション34b、第3上塗り塗装ステーション34c、第4上塗り塗装ステーション34d、第5上塗り塗装ステーション34e及び第6上塗り塗装ステーション34fを矢印Y方向に沿って互いに並列して設ける。第1上塗り塗装ステーション34a〜第6上塗り塗装ステーション34fは、それぞれ複数台の塗装ロボット36a、36b、36c、36d、36e及び36fを備える。
【0028】
第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cは、第1塗装ライン12aに沿って搬送される車体Wに対し、それぞれ塗装条件の異なる、例えば、塗装色の異なる上塗り塗装処理を選択的に施す一方、第4上塗り塗装ステーション34d〜第6上塗り塗装ステーション34fは、第2塗装ライン12bに沿って搬送される車体Wに対し、それぞれ塗装色の異なる塗装処理を選択的に施す。
【0029】
なお、例えば、第1上塗り塗装ステーション34aと第2上塗り塗装ステーション34bとを同一の塗装色に設定する一方、第4上塗り塗装ステーション34dと第5上塗り塗装ステーション34eとを同一の塗装色に設定することにより、各車体Wに対し、2種類の異なる上塗り塗装処理を選択的に施すこともできる。
【0030】
第3セッティング部20c及び第4セッティング部20dは、上記の第1セッティング部20aと同様であるとともに、第1プレヒート部24a及び第2プレヒート部24bは、上塗り塗装後の車体Wに対し、プレヒート処理を施す。
【0031】
具体的には、第1プレヒート部24a及び第2プレヒート部24bは、上塗り塗装処理が終了した車体Wに対し、上塗り塗料の塗着固形分を適切な範囲にするために、前記上塗り塗料を仮乾燥させるステーションであり、例えば、赤外線照射装置及び/又は熱風供給装置等を備えている。
【0032】
上塗りクリア塗装工程18は、第1上塗りクリア塗装ステーション38a、第2上塗りクリア塗装ステーション38b及び第3上塗りクリア塗装ステーション38cを備える。第1上塗りクリア塗装ステーション38a〜第3上塗りクリア塗装ステーション38cは、それぞれ複数台の塗装ロボット40a、40b及び40cを備える。
【0033】
第1上塗りクリア塗装ステーション38a及び第3上塗りクリア塗装ステーション38cは、第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bに沿って搬送される各車体Wに対し、後述するように、一層目のクリア層を形成する。第2上塗りクリア塗装ステーション38bは、第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bの各車体Wのクリア層上に、二層目のクリア層(オーバーコートクリア)を形成する。
【0034】
第1塗装ライン12a及び第2塗装ライン12bは、各車体Wを第1プレヒート部24a及び第2プレヒート部24bの下流から上塗り塗装工程16の上流に戻すための第1リターンライン42と、前記車体Wを第3乾燥炉22cの下流から上塗りクリア塗装工程18の上流に戻すための第2リターンライン44とを有する。
【0035】
なお、第1中塗り塗装ステーション30a〜第4中塗り塗装ステーション30d、第1上塗り塗装ステーション34a〜第6上塗り塗装ステーション34f及び第1上塗りクリア塗装ステーション38a〜第3上塗りクリア塗装ステーション38cは、それぞれ個別に空調される空調ブースを構成している。
【0036】
このように構成される塗装システム10の動作について、本発明に係る塗装方法との関連で、以下に説明する。
【0037】
先ず、図2に示すように、車体Wの車体表面Waに対して標準タイプの塗装パターンを施す場合について説明する。この標準タイプでは、車体表面Waに電着層46、中塗り層48、ベース層(上塗り層)50及びクリア層52が、順次、形成される。
【0038】
そこで、標準タイプの塗装処理について、図3に示すフローチャートに沿って詳細に説明する。車体表面Waには、予め下塗り塗装工程(図示せず)により水溶性塗料を用いた電着塗装が施されて、電着層46が形成される(ステップS1)。
【0039】
車体Wは、電着層46に図示しない乾燥炉で乾燥処理が施された後(ステップS2)、第1塗装ライン12aを介して中塗り塗装工程14に搬送される。なお、第2塗装ライン12bは、第1塗装ライン12aと同様に塗装処理が施されるものであり、以下、第1塗装ライン12aについてのみ説明する。
【0040】
中塗り塗装工程14において、車体Wは、所望の塗装色に対応して、例えば、第1中塗り塗装ステーション30aに供給される。この第1中塗り塗装ステーション30aでは、複数の塗装ロボット32aを介して車体Wの外板の塗装を行うとともに、任意の塗装ロボット32aによるドア開放操作が行われ、前記車体Wの内板の一部に対して塗装処理が施される。これにより、電着層46上に中塗り層48が形成される(ステップS3)。
【0041】
第1中塗り塗装ステーション30aによる中塗り塗装が施された車体Wは、第1セッティング部20aに搬送されて塗装の手直し等の処理が施された後、第1乾燥炉22aに搬入される。車体Wは、第1乾燥炉22aで塗料の乾燥処理が施された後(ステップS4)、上塗り塗装工程16に搬送される。
【0042】
上塗り塗装工程16では、車体Wに対応して第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cがそれぞれ異なる塗料色に応じて設定されており、前記車体Wは、例えば、前記第1上塗り塗装ステーション34aに搬入される。この第1上塗り塗装ステーション34aには、複数台の塗装ロボット36aが設けられており、前記車体Wの外板及び内板の一部に対し、上塗り塗装処理が施されて中塗り層48上にベース層50が形成される(ステップS5)。
【0043】
上塗り塗装処理後の車体Wは、第3セッティング部20cに送られて塗装の手直し等の処理が施された後、第1プレヒート部24aに送られる。車体Wは、第1プレヒート部24aで所定の温度にプレヒートされた後(ステップS6)、上塗りクリア塗装工程18の中、例えば、第1上塗りクリア塗装ステーション38aに送られる。この第1上塗りクリア塗装ステーション38aでは、複数の塗装ロボット40aによりベース層50上にクリア層52が形成される(ステップS7)。
【0044】
そして、上塗りクリア塗装が終了した車体Wは、第5セッティング部20eに送られ、さらに、第3乾燥炉22cで乾燥処理が施されて(ステップS8)、次段の工程に送り出される。
【0045】
次に、図4に示す第1塗装パターンによる塗装処理について説明する。この第1塗装パターンでは、車体表面Wa上に電着層46、中塗り層48、第1ベース層50a、第2ベース層50b及びクリア層52が形成される。
【0046】
そこで、図5に示すフローチャートに沿って、以下に詳細に説明すると、先ず、前述のステップS1〜ステップS4と同様に、ステップS11〜ステップS14が行われる。さらに、車体Wは、上塗り塗装工程16の中、例えば、第1上塗り塗装ステーション34aに送られて第1ベース層50aが形成される(第1ステップS15)。
【0047】
第1ベース層50aが形成された車体Wは、第3セッティング部20c及び第1プレヒート部24aを通った後(ステップS16)、第1リターンライン42を介して上塗り塗装工程16の上流側に戻される。そして、車体Wは、例えば、第2上塗り塗装ステーション34bに送られ、複数台の塗装ロボット36bを介して第1ベース層50a上に第2ベース層50bが形成される(ステップS17)。
【0048】
第2ベース層50bが形成された車体Wは、第3セッティング部20c及び第1プレヒート部24aを通ってプレヒートされた後(ステップS18)、上塗りクリア塗装工程18を構成する第1上塗りクリア塗装ステーション38aに送られてクリア層52が形成される(ステップS19)。上塗りクリア塗装終了後の車体Wは、第5セッティング部20e及び第3乾燥炉22cを通って乾燥処理された後(ステップS20)、次なる工程へと搬出される。
【0049】
さらにまた、図6に示す第2塗装パターンによる塗装処理について説明する。この第2塗装パターンでは、車体表面Wa上に電着層46、中塗り層48、第1ベース層50a、第2ベース層50b、第1クリア層52a及び第2クリア層52bが形成される。
【0050】
この第2塗装パターンでは、図7に示すフローチャートに沿って塗装処理が施されるものであり、ステップS31〜ステップS38までは、前述したステップS11〜ステップS18と同様に行われる。
【0051】
そして、第2ベース層50bが形成された車体Wは、第1プレヒート部24aから第1上塗りクリア塗装ステーション38aに送られて、前記第2ベース層50b上に第1クリア層52aが形成される(ステップS39)。第1クリア層52aが形成された車体Wは、第5セッティング部20e及び第3乾燥炉22cを通って乾燥処理された後(ステップS40)、第2リターンライン44を通って上塗りクリア塗装工程18の上流側に一旦戻される。
【0052】
車体Wは、例えば、第2上塗りクリア塗装ステーション38bに送られ、複数台の塗装ロボット40bを介して第1クリア層52a上に第2クリア層52bが形成される(ステップS41)。第2クリア層52bが形成された車体Wは、第5セッティング部20e及び第3乾燥炉22cを通って乾燥された後(ステップS42)、次なる工程へと搬出される。
【0053】
この場合、本実施形態では、第1塗装ライン12aにおいて、中塗り塗装工程14には、それぞれ塗装条件の異なる第1中塗り塗装ステーション30aと第2中塗り塗装ステーション30bとが、互いに並列して設けられる一方、上塗り塗装工程16には、それぞれ塗装条件の異なる第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cが、互いに並列して設けられている。さらに、上塗りクリア塗装工程18には、第1塗装ライン12aに対応して第1上塗りクリア塗装ステーション38aと、第2塗装ライン12bを兼用する第2上塗りクリア塗装ステーション38bとが、互いに並列して設けられている。このため、塗装条件の変更、例えば、塗装色の色替えに際して、色替え用の段取り替えや機種変更用の段取り替えが迅速且つ容易に遂行される。
【0054】
具体的には、塗装システム10を構成する第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cを用いて車体Wに上塗り塗装を施す際と、図8に示すように、内板塗装ステーション60、第1外板塗装ステーション62及び第2外板塗装ステーション64が直列に配置される従来の上塗り塗装工程66を用いて前記車体Wに上塗り塗装を施す際と、について説明する。
【0055】
従来の上塗り塗装工程66では、車体Wのフード(ボンネット)を開放保持するオープナー67と、ドア開閉用ロボット68とを備える。内板塗装ステーション60、第1外板塗装ステーション62及び第2外板塗装ステーション64には、それぞれ複数台の塗装ロボット70a、70b及び70cが配設されている。
【0056】
従来の上塗り塗装工程66では、図9に示すように、先ず、オープナー67によりフードが開放保持された状態で、フード内板側の塗装が行われる。次いで、ドア開閉用ロボット68によりドアが開放された状態で、塗装ロボット70aによる車体Wの内板の塗装が行われる。
【0057】
そして、ドアが閉じられた後、第1外板塗装ステーション62による車体Wの外板の塗装が開始される前に、所定の色替え時間だけ塗装処理が中断される。この色替え時間は、実質的に、塗装色の色替えが行われない際及び塗装色の色替えが行われる際に共通に設定されたものであり、必要に応じてこの色替え時間内にカップ洗浄等を含む段取り替え作業が行われている。
【0058】
所定の色替え時間が経過した後、車体Wには、第1外板塗装ステーション62を構成する塗装ロボット70bを介して外板の塗装が行われる。さらに、所定の色替え時間だけ塗装が停止された後、車体Wは、第2外板塗装ステーション64を構成する塗装ロボット70cを介して外板の塗装が行われる。
【0059】
これに対して、本実施形態の上塗り塗装工程16では、図10に示すように、例えば、第1上塗り塗装ステーション34aにより車体Wの外板及び内板の一部の上塗り塗装を行う際、先ず、左側の塗装ロボット36aによりフードが開放保持された状態で、右側の塗装ロボット36aを介してフードの塗装が行われる。次に、右側の塗装ロボット36aでフードが開放保持された状態で、左側の塗装ロボット36aによりフードの残余の塗装が行われる。
【0060】
さらに、各塗装ロボット36aによりドアが開放された状態で、内板の一部の塗装が行われると、前記塗装ロボット36aがドアを閉塞するとともに、使用済みの塗装ロボット36aのカップ洗浄が行われた後、左右の塗装ロボット36aにより車体Wの外板の塗装が行われる。そして、使用済みの塗装ロボット36aのカップ洗浄が行われる一方、他の塗装ロボット36aにより車体Wの外板の塗装が行われる。
【0061】
このように、従来の上塗り塗装工程66では、内板塗装ステーション60、第1外板塗装ステーション62及び第2外板塗装ステーション64においてそれぞれ塗装が行われた後、所定の色替え時間だけ塗装が中断されている。この色替え時間は、実際のカップ洗浄に係る時間に比べて長時間を要しており、塗装作業が不要に停止されて、塗装作業全体が相当に長時間化するという問題がある。
【0062】
これに対して、本実施形態では、第1上塗り塗装ステーション34a〜第3上塗り塗装ステーション34cが、それぞれ塗装色の異なる塗料を塗布可能に待機しており、色替え時には、車体Wを第1上塗り塗装ステーション34aから、例えば、第2上塗り塗装ステーション34bに移送するだけでよい。これにより、特に、多品種少量生産に容易に対応することができるとともに、効率的な塗装作業を遂行することが可能になるという効果を得られる。
【0063】
しかも、不要な色替え待機時間が削除されるため、塗装作業全体が容易に迅速且つ短時間で遂行される。このため、例えば、塗装ロボット36aをドア開閉用ロボットとして兼用させても、塗装作業全体の遅延が惹起されることはない。従って、ロボット数が良好に削減されて設備全体のコンパクト化を図るとともに、経済的であるという利点がある。
【0064】
さらに、従来の上塗り塗装工程66では、内板塗装ステーション60から第2外板塗装ステーション64までを覆って空調ブースを設ける必要があり、この空調ブースの全長は、車体Wの搬送路を含むために長尺化してしまう。これに対して、本実施形態では、例えば、第1上塗り塗装ステーション34aを覆う空調ブースは、車体Wを囲繞する範囲に限定されるため、空調エネルギを良好に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る塗装システムの概略構成説明図である。
【図2】標準タイプの塗装パターンの説明図である。
【図3】前記標準タイプの塗装パターンの処理フローチャートである。
【図4】第1塗装パターンの説明図である。
【図5】前記第1塗装パターンの処理フローチャートである。
【図6】第2塗装パターンの説明図である。
【図7】前記第2塗装パターンの処理フローチャートである。
【図8】従来の上塗り塗装工程の説明図である。
【図9】前記従来の上塗り塗装工程のタイムチャートである。
【図10】本実施形態の上塗り塗装工程のタイムチャートである。
【図11】特許文献1の上塗り工程の説明図である。
【符号の説明】
【0066】
10…塗装システム 12a、12b…塗装ライン
14…中塗り塗装工程 16…上塗り塗装工程
18…上塗りクリア塗装工程 20a〜20e…セッティング部
22a〜22c…乾燥炉 24a、24b…プレヒート部
30a〜30d…中塗り塗装ステーション
32a〜32d、36a〜36f、40a〜40c…塗装ロボット
34a〜34f…上塗り塗装ステーション
38a〜38c…上塗りクリア塗装ステーション
42、44…リターンライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の外板及び内板の一部に対して塗装処理を施す少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程を備える塗装システムであって、
前記中塗り塗装工程及び前記上塗り塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けることを特徴とする塗装システム。
【請求項2】
請求項1記載の塗装システムにおいて、上塗りクリア塗装工程を含むとともに、
前記上塗りクリア塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けることを特徴とする塗装システム。
【請求項3】
請求項2記載の塗装システムにおいて、前記中塗り塗装工程と前記上塗り塗装工程との間、及び前記上塗り塗装工程と前記上塗りクリア塗装工程との間には、それぞれセッティング部及び加熱部が配設されることを特徴とする塗装システム。
【請求項4】
被塗装物の外板及び内板の一部に対して少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程で塗装を施す塗装方法であって、
前記中塗り塗装工程及び前記上塗り塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けており、所望の塗装条件に対応する塗装ステーションを選択して前記被塗装物に塗装を行うことを特徴とする塗装方法。
【請求項5】
請求項4記載の塗装方法において、上塗りクリア塗装工程を有するとともに、前記上塗りクリア塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けており、所望の塗装条件に対応する塗装ステーションを選択して前記被塗装物に塗装を行うことを特徴とする塗装方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の塗装方法において、前記被塗装物は、各塗装ステーションを介して所望の塗装条件による塗装が行われた後、セッティング部及び加熱部を順次通過することを特徴とする塗装方法。
【請求項7】
請求項6記載の塗装方法において、前記被塗装物は、前記セッティング部及び前記加熱部を通過した後、必要に応じて再度所定の塗装ステーションに戻って、他の塗装条件による塗装を行うことを特徴とする塗装方法。
【請求項1】
被塗装物の外板及び内板の一部に対して塗装処理を施す少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程を備える塗装システムであって、
前記中塗り塗装工程及び前記上塗り塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けることを特徴とする塗装システム。
【請求項2】
請求項1記載の塗装システムにおいて、上塗りクリア塗装工程を含むとともに、
前記上塗りクリア塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けることを特徴とする塗装システム。
【請求項3】
請求項2記載の塗装システムにおいて、前記中塗り塗装工程と前記上塗り塗装工程との間、及び前記上塗り塗装工程と前記上塗りクリア塗装工程との間には、それぞれセッティング部及び加熱部が配設されることを特徴とする塗装システム。
【請求項4】
被塗装物の外板及び内板の一部に対して少なくとも中塗り塗装工程及び上塗り塗装工程で塗装を施す塗装方法であって、
前記中塗り塗装工程及び前記上塗り塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けており、所望の塗装条件に対応する塗装ステーションを選択して前記被塗装物に塗装を行うことを特徴とする塗装方法。
【請求項5】
請求項4記載の塗装方法において、上塗りクリア塗装工程を有するとともに、前記上塗りクリア塗装工程は、塗装条件の異なる2以上の塗装ステーションを互いに並列して設けており、所望の塗装条件に対応する塗装ステーションを選択して前記被塗装物に塗装を行うことを特徴とする塗装方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の塗装方法において、前記被塗装物は、各塗装ステーションを介して所望の塗装条件による塗装が行われた後、セッティング部及び加熱部を順次通過することを特徴とする塗装方法。
【請求項7】
請求項6記載の塗装方法において、前記被塗装物は、前記セッティング部及び前記加熱部を通過した後、必要に応じて再度所定の塗装ステーションに戻って、他の塗装条件による塗装を行うことを特徴とする塗装方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−283155(P2007−283155A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109664(P2006−109664)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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