説明

塗装品及びその製造方法

【課題】塗装品を構成する、樹脂組成物による成形品の機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性、及びこれに塗布する塗膜の外観・密着性、塗料の保存安定性・作業性のこれらすべてに優れる塗装品及びその製造方法。
【解決手段】荷重たわみ温度(TH)が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物による成形品表面に、カルボキシル基含有ビニル系単量体単位及びエポキシ基含有ビニル系単量体単位を構成成分とする共重合体を含有する塗膜を形成することを特徴とする塗装品及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日において、特にパソコン、携帯電話は我々の日常生活においては欠かせないものとなっている。パソコン、携帯電話には、小型化、薄型化、軽量化が求められていると共に、これらのハウジング材の塗装工程における工程簡略化が製造コスト削減の観点から望まれている。
従って、ハウジング材に使用される樹脂による成形品及び、塗料に対する要求性能はますます高いものとなってきている。ゆえに樹脂による成形品の機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性、及び塗膜の外観・密着性、塗料の保存安定性・作業性のこれらすべてに優れる塗装品が求められている。
【0003】
以上の背景において、荷重たわみ温度(TH)が100℃以上であるプラスチック、いわゆるエンジニアリングプラスチックは、その機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性等の優れた特性から金属代替材料として需要を伸ばしている。
一方、塗料の開発においては、エンジニアリングプラスチック等の樹脂による成形品に対して十分な密着性を有する塗料が不足しているという背景もあり、これまでに密着性向上や、塗装工程を簡略化させる等のために様々な手法が取られてきた。最近ではプライマー塗装や樹脂による成形品の表面処理を必要としない手法が多数提案されている。
そこで、特許文献1には水酸基含有アクリル系樹脂、またはカルボキシル基含有アクリル系樹脂にイソシアネート化合物を反応させた塗料と該塗料を繊維強化ポリアミドに塗工して得られる塗装品が提案されている。特許文献2にはバンパーなどの車両外装部品用塗料に必要な耐酸性雨性に優れたカルボキシル基及びエポキシ基含有2液型塗料が提案されている。特許文献3にはカルボキシル基及びエポキシ基を含有した塗料について記述がある。
【特許文献1】特開2007−16165号公報
【特許文献2】特開2005−325247号公報
【特許文献3】特開2007−177199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示されている塗装品は、樹脂による成形品が繊維強化ポリアミドからなるので、成形品の機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性、及び塗膜の外観・密着性については満足しているが、塗料に対して硬化剤であるイソシアネート化合物の添加が必要であり、塗料の保存安定性・作業性に問題がある。
特許文献2は、塗膜の外観・密着性については満足しているが、2液型塗料として、カルボキシル基含有共重合体を含む塗料とエポキシ基含有共重合体を含む塗料を混合して使用するため、それぞれの共重合体の溶剤に対する相溶性や共重合体同士の相溶性の不良により、得られる塗膜に白濁や光沢の低下といった外観不良が発生しやすいといった問題がある。更に、2液を混合した後の塗料の保存安定性・作業性の観点からも好ましいものとは言えなかった。さらに特許文献2には被塗装物である成形品に関する言及はなく、また、その成形品としての具体例はリン酸処理鋼板のみであり、成形品の機械的特性(剛性)を満足する塗装品を得るための具体的方法については示唆されていない。
特許文献3に示されている塗装品は、塗膜の外観・密着性、及び硬化型塗料の保存安定性・作業性を高める方法については記載されているものの、被塗装物である成形品に関する言及はない。また、被塗装物としての具体例は水研中塗ダル鋼板のみであり、成形品の機械的特性(剛性)を満足するための具体的方法については示唆していない。
すなわち従来は、塗装品を構成する、成形品の機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性、及び塗膜の外観・密着性、塗料の保存安定性・作業性のこれらすべてに優れる塗装品を得るための手段は見出されていなかった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、塗装品を構成する、樹脂組成物による成形品の機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性、及びこれに塗布する塗膜の外観・密着性、塗料の保存安定性・作業性のこれらすべてに優れる塗装品及びその製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の塗装品は、荷重たわみ温度(TH)が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物による成形品表面に、カルボキシル基含有ビニル系単量体単位及びエポキシ基含有ビニル系単量体単位を構成成分とする共重合体を含有する塗膜を形成することを特徴とする。
【0007】
前記熱可塑性樹脂組成物は芳香族ポリアミドを主成分としていると好ましい。
前記熱可塑性樹脂組成物は強化材を含有すると好ましい。
【0008】
本発明の塗装品製造方法は、荷重たわみ温度(TH)が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物による成形品表面に、カルボキシル基含有ビニル系単量体単位及びエポキシ基含有ビニル系単量体単位を構成成分とする共重合体を含む塗料を塗布した後、下記(1)式を満足する温度で加熱処理することを特徴としている。
80℃≦Ts<TH ・・・・・・(1)
(Ts:加熱温度(℃)、TH:熱可塑性樹脂組成物の荷重たわみ温度(℃))
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂組成物による成形品の機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性、及び塗膜の外観・密着性、塗料の保存安定性・作業性のこれらすべてに優れる塗装品及びその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の塗装品は、荷重たわみ温度(TH)が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物による成形品表面に、カルボキシル基含有ビニル系単量体単位及びエポキシ基含有ビニル系単量体単位を構成成分とする共重合体を含有する塗膜を形成することを特徴とする。
【0011】
〔成形品〕
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の成形品に用いる熱可塑性樹脂組成物の荷重たわみ温度(TH)は、100℃以上とし、130℃以上であると好ましく、150℃以上であると更に好ましい。一方、荷重たわみ温度(TH)の上限値は300℃であると好ましい。
熱可塑性樹脂組成物の加重たわみ温度(TH)が100℃以上であれば、該熱可塑性樹脂組成物からなる成形品表面に塗膜を形成する際の加熱処理温度を高温化させることが可能である。塗膜の加熱処理温度が高温であると、塗膜の外観、引掻き強度が向上する傾向にある。また300℃以下であると熱可塑性樹脂組成物の成形が容易になる。
尚、本発明に係る荷重たわみ温度(TH)とは、ISO 75−1に準拠した測定方法(荷重1.80MPa)で求めた値とする。
【0012】
荷重たわみ温度(TH)が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物は、例えばポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド等の熱可塑性樹脂を含む組成物であり、該組成物より得られる成形品は機械的特性(剛性)と寸法安定性に優れており、好ましい。
【0013】
更に、本発明の塗装品の塗膜外観(平滑性)を考慮すると、熱可塑性樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂は結晶性であることが好ましい。
結晶性の熱可塑性樹脂としてはポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。中でも、成形収縮率、剛性、耐衝撃性、熱溶融成形時の流動性の観点から、芳香族ポリアミドであるメタキシレンジアミンとアジピン酸の重縮合物であるポリアミドMXD6が好ましい。ポリアミドMXD6としては、レニー(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)等、市販されているものを使用することができる。
【0014】
本発明で使用される芳香族ポリアミドは、例えばポリプロピレン、変性ポリフェニレンエーテル、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)等とアロイ化されていてもよい。中でも、芳香族ポリアミドと変性ポリフェニレンエーテルとをアロイ化したものが塗装性、低反り性、耐衝撃性の観点から好ましい。これには、レニー(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)等の市販されているものを使用することができる。
【0015】
また、熱可塑性樹脂組成物には強化材等を含有させても良い。
熱可塑性樹脂組成物に含有させる強化材としては、例えば、ガラス繊維、無機質フィラー、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維等が挙げられる。中でも、引張強度、曲げ強度、耐熱性の観点からガラス繊維が好ましい。
また、熱可塑性樹脂組成物には強化材の他、熱安定剤、離型剤、着色剤、可塑剤、帯電防止剤等を含有させることが可能である。
【0016】
(成形方法)
本発明の成形品は、前記熱可塑性樹脂や強化材を含有する、荷重たわみ温度(TH)が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物を公知の方法で、熱溶融成形すると好ましい。熱溶融成形の方法として具体的には、射出成形法、押出成形法、中空成形法、圧縮成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも生産性、成形外観の観点から射出成形法が好ましい。
【0017】
本発明に係る成形品の形状は特に限定されるものではない。中でも、本発明の特徴である機械的特性(剛性)、寸法安定性及び薄肉成形性を考慮すると、成形品の厚みは好ましくは3mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。これら薄肉な成形品を用いることによって、本発明の塗装品において、機械的特性(剛性)、寸法安定性の効果をより顕著にすることができる。
【0018】
〔塗料〕
本発明の塗装品に使用する塗料は、カルボキシル基含有ビニル系単量体(以下、単量体(a)とする。)単位およびエポキシ基含有ビニル系単量体(以下、単量体(b)とする。)単位を構成成分とする共重合体を含有する。
【0019】
(カルボキシル基含有ビニル系単量体)
塗料に用いる、単量体(a)としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体;無水イタコン酸、無水マレイン酸等の酸無水基含有ビニル系単量体;イタコン酸モノメチル等のジカルボン酸のモノエステル等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、他のビニル系単量体との共重合性が良好であるという点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
なお、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸又はメタクリル酸」を、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル又はメタクリロイル」をそれぞれ意味する。
【0020】
(エポキシ基含有ビニル系単量体)
塗料に用いる、単量体(b)としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸6,7−エポキシへプチル、α−エチルアクリル酸6,7−エポキシへプチル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、前記単量体(a)および後述するその他のビニル系単量体(c)との共重合性が良好であるという点から、メタクリル酸グリシジルが好ましい。
【0021】
(その他の単量体)
塗料に含有される共重合体においては、単量体(a)及び単量体(b)以外にも、その他のビニル系単量体(以下、単量体(c)とする。)を必要に応じて併用することもできる。単量体(c)は、例えば、塗膜性能の改質や重合工程における単量体(a)のカルボキシル基と単量体(b)のエポキシ基との反応を緩和することを目的として使用できる。
【0022】
単量体(c)としては、特に制限されないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチルヘキサオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ−ブチロラクトン又はε−カプロラクトン等との付加物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又は2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の二量体又は三量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体などが挙げられる。
【0023】
上記単量体(c)は、1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、塗膜の硬度を向上させる成分としては、メチルメタクリレートやスチレンが好ましい。また、塗膜の外観を向上させる成分としては、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレートが好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」を、「(メタ)アクリロニトリル」は「アクリロニトリル又はメタクリロニトリル」をそれぞれ意味する。
【0024】
(共重合体)
本発明に係る共重合体は、以上の単量体(a)、単量体(b)を重合させて得るものであり、単量体(c)を共に重合させると好ましい。
【0025】
本発明に係る共重合体の質量平均粒子径は、30〜500μmの範囲内であることが好ましい。共重合体の質量平均粒子径が30μm以上である場合は、大気中への微粉の飛散が低減し、作業環境汚染や粉塵爆発性が低下する傾向にあると共に、粒子の流動性が向上し、取り扱い性が良好となる傾向にある。一方、500μm以下である場合は、懸濁重合時の分散安定性が向上する傾向にあると共に、得られた粒子の比表面積が増大し、有機溶剤への溶解性が向上する傾向にある。更に、共重合体の質量平均粒子径の下限値は80μm以上であることが特に好ましく、上限値は300μm以下であることが特に好ましい。
【0026】
本発明に係る共重合体の質量平均分子量は、特に制限されないが、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましい。共重合体の質量平均分子量が5,000以上の場合に、硬化塗膜の硬度が向上する傾向にある。一方、共重合体の質量平均分子量が200,000以下の場合に、種々の溶剤に対する溶解性が向上する傾向にあり、この共重合体を用いた塗料を高固形分化し易くなると共に、塗膜の外観が向上する傾向にある。更に、共重合体の質量平均分子量の下限値は、10,000以上であることが特に好ましく、上限値は、100,000以下であることが特に好ましい。
【0027】
本発明に係る共重合体のMw/Mn(質量平均分子量/数平均分子量)は、特に制限されないが、4以下であることが好ましい。粒状ビニル系重合体のMw/Mnが4以下の場合に、種々の溶剤に対する溶解性が向上する傾向にあり、この重合体を用いた塗料(熱硬化性樹脂組成物)を高固形分化し易くなると共に、塗膜の外観が向上する傾向にある。更には、共重合体のMw/Mnは3以下であることが特に好ましい。
【0028】
本発明に係る共重合体の酸価は、特に制限されないが、3〜300mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。共重合体の酸価が3mgKOH/g以上の場合に、硬化塗膜形成時のエポキシ基との反応性や、硬化塗膜の硬度が向上する傾向にある。一方、共重合体の酸価が300mgKOH/g以下の場合に、重合時のエポキシ基との反応が進行し難い傾向にあると共に、種々の溶剤に対する重合体粒子の溶解性が向上する傾向にある。更に、共重合体の酸価の下限値は5mgKOH/g以上が特に好ましく、上限値は250mgKOH/g以下が特に好ましい。
【0029】
本発明に係る共重合体において、使用する単量体(a)のカルボキシル基と単量体(b)のエポキシ基の当量比は、特に限定されないが、塗膜物性のバランスから1/100〜100/1であることが好ましく、1/75〜75/1であることがより好ましい。
【0030】
(重合方法)
重合方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合、非水分散重合法が用いられ、中でも懸濁重合法が好適に用いられる。
懸濁重合は、重合中において、水を媒体とすることや、溶剤を含まないため油滴粘度が高いこと、更には他の重合法に比べ、重合場のモノマー濃度が高く、比較的低温かつ短時間での重合が可能であることなどから、カルボキシル基とエポキシ基との反応が進行し難い傾向にある。その結果、熱硬化時の反応性及び熱硬化後の塗膜物性(外観、初期光沢、耐水性、耐溶剤性)に優れた硬化物を得られる。
更に、万一、重合中にカルボキシル基とエポキシ基との反応が進行した場合であっても、重合体は架橋粒子となり、系全体のゲル化には至らないので、安全性、作業性、工程通過性の面からも好ましい。
【0031】
また、一般に懸濁重合法で製造される重合体は、質量平均粒子径が10〜2000μm程度で、ほぼ真球に近い一次粒子となる。一方、乳化重合後に凝集またはスプレードライして製造される重合体は、一次粒子径が0.01〜1μm程度の凝集粒子となる。また、塊状重合、あるいは溶液重合後に脱溶剤して得た重合体を粉砕した場合には、重合体粒子の形状は不揃いとなり、粒度分布が広くなる。
本発明の好ましい質量平均粒子径は、30〜500μmである。従って、好ましい粒子径を得るためにも、本発明における重合方法は懸濁重合であると好ましい。
【0032】
以下、本発明における共重合体を懸濁重合法で製造する具体例を示す。まず、水性媒体中にビニル系単量体混合物(単量体(a)及び単量体(b)を含有し、単量体(c)が含有されていると好ましい混合物)、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤などを添加し、懸濁化させて水性懸濁液を得る。次にその水性懸濁液を加熱することにより重合反応を進行させ、重合後の水性懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥することにより、容易に共重合体を製造することができる。
得られた共重合体は固形粒子であるため、この状態ではカルボキシル基とエポキシ基との反応性が著しく低く、保存安定性が極めて良好となる。
【0033】
各単量体の量は特に限定されないが、ビニル系単量体混合物100質量部中、単量体(a)が0.5〜50質量部、単量体(b)が0.5〜50質量部、単量体(c)が0〜99質量部であることが好ましい。より好ましい範囲は、単量体(a)が1〜40質量部、単量体(b)が1〜40質量部、単量体(c)が20〜98質量部である。
【0034】
懸濁重合は、連鎖移動剤の存在下で行われる。連鎖移動剤としては、一級又は二級のメルカプト化合物(以下、連鎖移動剤(d)とする)を使用すると好ましい。これを使用することによって、塗膜の外観が良好となる傾向にある。
連鎖移動剤(d)としては、特に制限されないが、例えば、n−ブチルメルカプタン、sec−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)等のチオグリコール酸エステル類;β−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸3−メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)等のメルカプトプロピオン酸エステル類;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、連鎖移動定数の大きいn−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0035】
連鎖移動剤(d)の使用量は、特に限定されないが、ビニル系単量体混合物100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲内であることが好ましい。連鎖移動剤(d)の使用量が、0.1質量部以上である場合に、カルボキシル基とエポキシ基との反応が抑制される傾向がある。また、ラジカルの連鎖移動により、共重合体の分子量が低下し、塗膜の外観や初期光沢が向上する傾向にある。一方、連鎖移動剤の使用量が10質量部以下の場合に、未反応の単量体や連鎖移動剤の残存量が減少し、硬度や耐溶剤性が向上する傾向にある。連鎖移動剤(d)の使用量は更に、下限値が0.2質量部以上であることがより好ましく、上限値は5質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、あるいはこれら単量体の組み合わせからなる共重合体や、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−ス等が挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が好ましい。
なお、「(メタ)アクリル」は「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0037】
分散剤の使用量は、特に限定されないが、水性懸濁液中0.002〜5質量%の範囲内であることが好ましい。分散剤の量が0.002質量%以上である場合に懸濁重合時の分散安定性が良好となる傾向にある。一方、分散剤の量が5質量%以下である場合に、重合体の洗浄性、脱水性、乾燥性及び重合体粒子の流動性が良好となる傾向にある。更には、分散剤の使用量は0.01〜1質量%の範囲内であることが特に好ましい。
また、懸濁重合時の分散安定性向上を目的として、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等の電解質を更に用いることができる。
【0038】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。
【0039】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、ビニル系単量体混合物100質量部に対して、0.05〜10質量部の範囲内であることが好ましい。重合開始剤の使用量が0.05質量部以上である場合に、単量体の重合速度が向上し、比較的短時間で重合体を製造することが可能となる傾向にある。一方、10質量部以下の場合に、重合発熱が緩和され、重合温度制御が容易となる傾向にある。更に、重合開始剤の使用量の下限値は0.1質量部以上であるとより好ましく、上限値は5質量部以下であるとより好ましい。
【0040】
以上、ビニル系単量体混合物、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤などを水性媒体中に添加し、懸濁化させた水性懸濁液を加熱することにより重合反応を進行させて共重合体を得ることができる。
このときの重合温度は、特に限定されないが、30〜130℃の範囲内であることが好ましい。重合温度が30℃以上である場合、比較的短時間で重合体を製造することが可能となる傾向にある。一方、重合温度が130℃以下である場合、懸濁重合時の分散安定性が向上すると共に、カルボキシル基とエポキシ基との反応が進行し難い傾向にある。更に、重合温度の下限値は、50℃以上であることが特に好ましく、上限値は100℃以下であることが特に好ましい。
重合後の水性懸濁液は、濾過、洗浄、脱水、乾燥し、共重合体を得ると好ましい。
【0041】
(塗料)
本発明に係る共重合体を含む塗料(熱硬化性樹脂組成物)は、共重合体がその粒形状を保持したまま含有されている組成物に限られるものではなく、所望の溶剤に溶解してなるものであってもよい。特に、所望の溶剤に溶解してなる塗料が好適な実施形態である。また、この塗料には、必要に応じて硬化触媒等の添加剤を配合することもできる。本発明に係る塗料に含まれる共重合体はカルボキシル基とエポキシ基とを有する熱硬化性樹脂組成物であるので、所定温度に加熱すると両基が反応し、塗料が硬化する。
【0042】
本発明に係る共重合体を含む塗料には溶剤を含むことができる。用いる溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、1−ブトキシエトキシプロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコール誘導体;テトラヒドロフラン等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。
【0043】
溶剤の含有量は、所望する膜厚等を考慮すると好ましい。中でも、共重合体100質量部に対して、溶剤が200〜400質量部であると好ましい。200質量部以上であれば塗膜の光沢が向上する傾向にあり、400質量部以下であれば塗工に適した粘土を確保できる。
【0044】
本発明における塗料には必要に応じて硬化触媒を含有することができる。硬化触媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド、テトラn−ブチルアンモニウムホスフェート、テトラn−ドデシルアンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩;アリルトリフェニルホスフォニウムクロリド、n−アミルトリフェニルホスフォニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスフォニウムクロリド、ブロモメチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、エトキシカルボニルホスフォニウムブロミド、n−ヘプチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、メチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、テトラフェニルホスフォニウムブロミド等のホスフォニウム塩;等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0045】
硬化触媒の含有量は、塗膜の硬化性、塗料の貯蔵安定性を考慮すると好ましい。中でも、共重合体100質量部に対して、硬化触媒が0.1〜5質量部であると好ましい。0.1質量部以上であれば塗膜の硬化性が向上する傾向にあり、5質量部以下であれば、塗料の貯蔵安定性が向上する傾向にある。
【0046】
本発明の塗料には、以上述べた成分以外にも、必要に応じて、着色剤、充填剤、顔料分散剤、ゲル化防止剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、垂止め剤、ワックス等の各種添加剤を添加できる。
【0047】
〔塗装品〕
(塗膜形成)
本発明の塗装品は、本発明に係る成形品の表面に、本発明に係る塗料を塗布することで塗膜を形成させたものである。
塗膜の形成方法としては、例えば、スプレーコート、ロールコート、スピンコーター、はけ塗り、ディップコート等の方法で塗料を塗布する方法が挙げられ、特に限定されない。また、塗布は常温にて行うことができ、塗布後の塗膜は常温処理や加熱処理等適宜選択することができるが、塗膜の硬化性、密着性の観点から加熱処理を行うことが好ましい。
【0048】
本発明に係る塗料は本発明に係る成形品の表面に対して、塗料、プライマーとして好適に用いることができる。さらに本発明に係る塗料を、溶剤型熱可塑性アクリル樹脂塗料、溶剤型熱硬化性アクリル樹脂塗料、アクリル変性アルキド樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、メラミン樹脂塗料等に添加して使用すると、塗膜の耐溶剤性、外観、初期光沢、耐水性、耐酸性が向上する傾向にあるため好ましい。
また、本発明に係る塗料を塗布した後に、上塗り塗料としてウレタン塗料、ポリエステル塗料、メラミン塗料、エポキシ塗料を含有する塗料を用いてもよい。
【0049】
(加熱処理)
本発明に係る塗膜の加熱処理温度(Ts)は、80℃≦Ts<THの範囲が好ましく、さらに好ましくは80℃≦Ts<200℃である。これは加熱処理温度を80℃以上にすることでカルボキシル基とエポキシ基の反応を進行させ、塗膜の密着性、外観及び引掻き強度を向上させることができるためである。一方、加熱処理温度を200℃以下にすることで塗膜と基材の密着性が向上する傾向にある。さらに好ましくは130℃≦Ts<170℃である。
尚、ここでTsは加熱温度を示し、THは熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度を示す。
【0050】
本発明の塗装品における塗膜の厚みには、特に限定されるものではないが、塗膜の密着性、引掻き強度及び意匠性の観点から1μm〜500μmが好ましく、さらに好ましくは5μm〜200μmである。
【0051】
本発明の塗装品は、荷重たわみ温度が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物による成形品を用いているので、成形品の機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性、及び塗膜外観が良好である。更に塗料に、カルボキシル基含有ビニル系単量体単位及びエポキシ基含有ビニル系単量体単位を構成成分とする共重合体を含有させているので、塗膜の外観・密着性、塗料の保存安定性・作業性これらすべての性能を満足することができる。
従って、本発明の塗装品は一般機械、精密機器、携帯電話、パソコン、VTR、テレビ、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、アイロン、音響機器、冷蔵庫、エアコン、掃除機などの電気・電子機器部品、フューエルリッド、バンパー、フロントフェンダー、リアフェンダー、ドアパネル、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、ホイールキャップ、カウルなどの車両用外装部品、レジャースポーツ用品、土木建築用部材、玩具、化粧品容器、カバン等の用途で好適に使用できる。
【0052】
また、本発明における最良の具体例は、熱可塑性樹脂組成物としてReny NXG5945S(三菱エンジニアリングプラスチツクス社製;荷重たわみ温度:232℃(測定方法ISO75−1)、引張弾性率:17.0Gpa(測定方法ISO527−1)、曲げ弾性率:14.3Gpa(測定方法ISO178))を用い、射出成形にて厚みが0.9mmの板状の成形品を成形し、これにカルボキシル基含有ビニル系単量体単位およびエポキシ基含有ビニル系単量体単位を構成成分とする共重合体を含む塗料を塗布し、110〜160℃で30分加熱処理させた膜厚約15μmの塗膜を有する塗装品である。
これにより成形品の機械的特性(剛性)、寸法安定性、薄肉成形性、及び塗膜の外観・密着性、塗料の保存安定性・作業性これらすべての性能を満足することができ、例えば、携帯電話のハウジング材として使用することができるといった工業的利用価値の極めて高い塗装品を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下の記載において「部」は「質量部」を表すものとする。
また、本実施例及び比較例における各物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
【0054】
〔加重たわみ温度〕
ISO 75−1に準拠して、荷重1.80MPaにて測定した。
【0055】
〔密着性〕
塗膜に碁盤目状に1.5mm枡が100個得られるようにカッターナイフで切込みを入れ、その上を粘着テープで被覆した後、粘着テープを剥離した。粘着テープ剥離後の塗膜の様子を観察し、粘着テープ剥離後の1枡辺りの塗膜の残存率が90%以上のものを密着、90%未満のものを非密着とし、塗膜の密着した枡の数を数えた。
【0056】
〔寸法安定性〕
加熱処理後の塗装品を精密定盤(平坦度3〜5ミクロン)上に載せ、目視により塗装品の反りの有無を観察し、反りがなかった場合を○、反りがあった場合を×とした。
【0057】
〔塗膜の外観〕
塗膜表面を目視観察し、下記基準にて判定した。
「◎」:ブツが無く、平滑性に異常の無いもの。
「○」:ブツは無いが、平滑性に僅かな異常が見られるもの。
「△」:僅かにブツが見られるもの。
「×」:多量のブツが見られるもの。
【0058】
〔表面硬度〕
JIS K5400‐1990に準拠して所定硬度の鉛筆で塗膜表面の引掻き試験を行った。
【0059】
〔参考例1〕 塗料用共重合体GA−1の製造
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水170部、硫酸ナトリウム0.1部、分散剤(メタクリル酸スルホエチルとメチルメタクリレートの共重合体のナトリウム塩)0.02部を加えて撹拌し、均一な水溶液を得た。
次に、該水溶液に、メタクリル酸4部、メタクリル酸グリシジル6.6部、メチルメタクリレート57.4部、n−ブチルメタクリレート22部、n−ブチルアクリレート10部、n−ドデシルメルカプタン3.2部、ラウロイルパーオキサイド1.8部を加え、水性懸濁液(a)を得た。
更に、重合装置内を窒素置換し、該水性懸濁液を70℃に昇温して約1時間反応させた後、更に90℃に昇温して0.5時間保持する。その後、40℃に冷却して、粒状のビニル系重合体を含む水性懸濁液(b)を得た。
得られた該水性懸濁液(b)を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を得た。得られた濾過物を、脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥して、樹脂組成物(GA−1)を得た。
【0060】
〔参考例2〕 塗料用共重合体MB−1の製造
参考例1と同様にして、均一な水溶液を得た。
次に、該水溶液に、メチルメタクリレート66部、n−ブチルメタクリレート24部、n−ブチルアクリレート10部、n−ドデシルメルカプタン1.9部、ラウロイルパーオキサイド1.8部を加え、水性懸濁液(c)を得た。
更に、重合装置内を参考例1と同様にして、粒状ビニル系重合体を含む水性懸濁液(d)を得た。
得られた水性懸濁液(d)を参考例1と同様にして、濾過、洗浄、乾燥し、樹脂組成物(MB−1)を得た。
【0061】
〔参考例3〕
表1に示す成形品用樹脂の45mm×80mm、厚み0.9mmの平板を、型締め力50tの射出成形機を用いて、表1に示す成形条件にて射出成形し、成形品A及び成形品Bを得た。
【0062】
【表1】

【0063】
〔実施例1〕
参考例1で得た樹脂組成物(GA−1)を固形分が40%になるようにトルエンで溶解し、さらに、膜厚が約15μmになるようシンナー(プラネットPH−2シンナー#743 No2、オリジン電気社製)で希釈し塗料とする。
該塗料を、参考例3で得た成形品Aにスプレー塗布し、120℃下で30分加熱処理して、膜厚17μmの塗膜を有する塗装品を得た。
得られた塗装品における、塗膜の成形品Aへの密着性を評価したところ、粘着テープ剥離後も密着している枡は100枡中100枡であり、密着性は良好であった。また、加熱処理による塗装品の反りは確認されなかった。また、塗膜の外観はブツが無く、平滑性に異常の無いものであった。また、表面硬度は2Hであった。以上の結果を表2に示す。
【0064】
〔実施例2〕
加熱処理温度を80℃に変えた以外は実施例1と同様にして塗装品を得た。
得られた塗装品における、塗膜の成形品Aへの密着性を評価したところ、粘着テープ剥離後も密着している枡は100枡中100枡であり、密着性は良好であった。また、加熱処理による塗装品の反りは確認されなかった。また、塗膜の外観はブツが無く、平滑性に異常の無いものであった。また、表面硬度はHであった。以上の結果を表2に示す。
【0065】
〔比較例1〕
参考例1で得た樹脂組成物(GA−1)を参考例2で得た樹脂組成物(MB−1)に変えた以外は実施例1と同様にして塗装品を得た。
得られた塗装品において、加熱処理による塗装品の反りは確認されなかった。また、塗膜の外観はブツが無く、平滑性に異常の無いものであった。しかし、塗膜の成形品Aへの密着性を評価したところ、粘着テープ剥離後も密着している枡なく、密着性は不良であった。尚、表面硬度は、塗膜の成形品Aへの密着性不足のため評価できなかった。
【0066】
〔比較例2〕
成形品Aを参考例3で得た成形品Bに変えた以外は実施例1と同様にして塗装品を得た。
得られた塗装品における、塗膜の成形品Aへの密着性を評価したところ、粘着テープ剥離後も密着している枡は100枡中100枡であり、密着性は良好であった。また、塗膜の外観はブツが無く、平滑性に異常の無いものであった。しかし、加熱処理による塗装品の反りが確認された。尚、塗膜の鉛筆硬度は塗装品の変形により測定不能であった。
【0067】
【表2】

【0068】
表中の略号は以下の通りとする。
MAA :メタクリル酸
GMA :メタクリル酸グリシジル
MMA :メチルメタクリレート
n−BMA :n−ブチルメタクリレート
n−BA :n−ブチルアクリレート
【0069】
表2の結果より、実施例1及び2で得られた塗装品は密着性、寸法安定性共に良好であり、例えばパソコン、携帯電話をはじめとする電化製品のハウジング材料といったより高度な意匠性と寸法安定性が必要となる用途に使用することができる。さらに、加熱処理温度を120℃とした実施例1の塗装品は高い鉛筆硬度を有する。
一方、比較例1で得られた塗装品は、塗料用の共重合体がエポキシ基を有していないので塗膜の密着性が不良であり、例えばパソコン、携帯電話をはじめとする電化製品のハウジング材料といったより高度な意匠性が必要となる用途には使用が困難である。
また、比較例2で得られた塗装品は、塗料を塗布する成形品の荷重たわみ温度が100℃以下であるので、高温にした際の成形品の寸法安定性が不良であり、パソコン、携帯電話をはじめとする電化製品のハウジング材料といったより高度な寸法安定性が必要となる用途には使用が困難である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重たわみ温度(TH)が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物による成形品表面に、
カルボキシル基含有ビニル系単量体単位及び、エポキシ基含有ビニル系単量体単位を構成成分とする共重合体を含有する塗膜を形成した塗装品。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物が、芳香族ポリアミドを主成分としていることを特徴とする請求項1記載の塗装品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が、強化材を含有する請求項1記載の塗装品。
【請求項4】
荷重たわみ温度(TH)が100℃以上である熱可塑性樹脂組成物による成形品表面に、
カルボキシル基含有ビニル系単量体単位及びエポキシ基含有ビニル系単量体単位を構成成分とする共重合体を含む塗料を塗布した後、
下記(1)式を満足する温度で加熱処理する塗装品の製造方法。
80℃≦Ts<TH ・・・・・・(1)
(Ts:加熱温度(℃)、TH:熱可塑性樹脂組成物の荷重たわみ温度(℃))

【公開番号】特開2009−155533(P2009−155533A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337042(P2007−337042)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】