説明

塗装方法

【課題】光触媒塗膜への密着性に優れた塗膜を形成することができ、光触媒塗膜の改装に適した塗装方法を提供する。
【解決手段】基材上に設けられた光触媒塗膜に対し、エポキシ基、アミノ基、及び加水分解性シリル基から選ばれる1種以上の官能基を有する結合材成分、並びに、有機珪素化合物、金属化合物、ピペリジン化合物等の化合物を含む被覆材を塗付する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁や屋根、あるいは土木構造物の表面等において、汚れ防止機能、大気浄化機能等を発揮させること目的として、光触媒活性を有する材料を用いることが提案されている。例えば、特開平10−251558号公報(特許文献1)には、下地処理を施した基材に、加水分解性ケイ素化合物または溶剤可溶性フッ素樹脂と、光触媒活性を有する酸化チタン等を含む塗料を塗付し、塗膜を形成することが記載されている。また、特開平10−265713号公報(特許文献2)には、アルコキシル基含有樹脂成分と、光触媒活性を有する粉末等を含有する塗料組成物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−251558号公報
【特許文献2】特開平10−265713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載されるような材料で形成された光触媒塗膜においては、経時的に割れが生じたり、光沢が低下するといった不具合が生じやすい傾向がある。また、塗装対象となる基材に対し、均一な塗膜を形成することが難しく、部分的にムラを生じるおそれがある。このような塗装ムラが生じた場合は、汚れ具合の状況にもムラが生じ、美観性を著しく損うこととなってしまう。
【0005】
このような不具合が生じた光触媒塗膜に対しては、改装が必要となってくる。ところが、ただ単に一般的な被覆材で改装を行うのみでは、光触媒塗膜への密着性を十分に確保することが難しく、剥れ、膨れ等を生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたもので、光触媒塗膜への密着性に優れた塗膜を形成することができ、光触媒塗膜の改装に適した塗装方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の官能基を有する結合材成分、並びに有機珪素化合物、金属化合物、ピペリジン化合物等の化合物を含有する被覆材を用いることに想到し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.基材上に設けられた既存塗膜に対し、被覆材を塗付して改装を行う塗装方法であって、
前記既存塗膜は、光触媒を含む光触媒塗膜であり、
前記被覆材は、
エポキシ基、アミノ基、及び加水分解性シリル基から選ばれる1種以上の官能基を有する結合材成分、並びに、有機珪素化合物(P)、鉄、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、及びマンガンから選ばれる金属化合物(Q)、ピペリジン化合物(R)から選ばれる1種以上の化合物を含むものであることを特徴とする塗装方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、光触媒塗膜の改装に適した塗装方法である。本発明によれば、光触媒塗膜への密着性に優れた塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明は、基材上に設けられた既存塗膜に対し、被覆材を塗付して改装を行う塗装方法に関するものである。
このうち、基材は、建築物、土木構造物等において使用可能なものであればよい。このような基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、スレート板、珪酸カルシウム板、ALC板、押出成型板、スレート瓦、セメント瓦、新生瓦、磁器タイル、サイディングボード、金属板、合板等が挙げられる。
【0012】
本発明では、上記基材上に、既存塗膜として光触媒を含む光触媒塗膜を有するものを塗装対象とする。このような光触媒塗膜は、太陽光等の照射によって光励起を生じるものであればよい。具体的には、二酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン等の光触媒を有する塗膜が挙げられる。
【0013】
上記既存塗膜に対し、本発明では、特定の官能基を有する結合材成分、並びに有機珪素化合物(P)、金属化合物(Q)、ピペリジン化合物(R)から選ばれる1種以上の化合物を含有する被覆材を塗付する。
本発明では、このような被覆材を用いることにより、光触媒塗膜への密着性を十分に確保することができ、剥れ、膨れ等の発生を防止することが可能となる。この効果が奏される理由は明らかではないが、被覆材に含まれる上記特定官能基が、光触媒塗膜表面の親水性官能基等との相互作用によって密着性を高めること、さらには、有機珪素化合物、金属化合物、ピペリジン化合物等が既存塗膜における光触媒の活性を抑えることにより、長期にわたり密着性が保持されるものと考えられる。
【0014】
被覆材における結合材成分のうち、エポキシ基を有するものとしては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂等の各種エポキシ樹脂;グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が共重合されたビニル系樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等のエポキシ基含有化合物等が挙げられる。
【0015】
結合材成分のうち、アミノ基を有するものとしては、例えば、脂肪族ジアミン類、アルキレンポリアミン類、ポリメチレンジアミン類、ポリアルキレンポリアミン類等のポリアミン;重合脂肪酸とポリアミンとの縮合反応生成物からなるポリアミドアミン;アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が共重合されたビニル系樹脂等が挙げられる。
【0016】
結合材成分のうち、加水分解性シリル基を有するものとしては、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン類;イソシアネート官能性シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシラン等が共重合されたビニル系樹脂等が挙げられる。
【0017】
被覆材中の結合材成分としては、上記官能基を1種以上含むものを使用するが、とりわけ2種以上含むものが好適である。この場合、上述のような成分を2種以上組み合わせて使用してもよいし、1分子中に上記官能基を2種以上含むものを使用することもできる。1分子中に上記官能基を2種以上含む化合物の具体例としては、例えば、アミノ基及び加水分解性シリル基を有する化合物、エポキシ基及び加水分解性シリル基を有する化合物等が使用できる。このうちアミノ基及び加水分解性シリル基を有する化合物としては、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン等が挙げられる。エポキシ基及び加水分解性シリル基を有する化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルシラン等が挙げられる。
【0018】
本発明における被覆材は、上記成分に加え、有機珪素化合物(P)、金属化合物(Q)、ピペリジン化合物(R)から選ばれる1種以上の化合物を必須成分として含むものである。このような化合物は、既存塗膜上に被覆材の塗膜が形成された際、既存塗膜表面の光触媒の活性を低下させること等により、本発明の効果向上に寄与しているものと考えられる。
被覆材における有機珪素化合物(P)としては、例えば、ポリシロキサン化合物が好適である。このようなポリシロキサン化合物は、(RSiO)で示される主鎖を有する(Rはアルキル基等の有機基)ものであり、具体的にはポリジメチルシロキサン化合物等が挙げられる。ポリシロキサン化合物は、結合材と化学的に結合したものであってもよい。
このような有機珪素化合物(P)は、固形分重量比率において結合材:有機珪素化合物が、好ましくは100:0.1〜50(より好ましくは100:0.2〜30)となるように調製すればよい。
【0019】
金属化合物(Q)としては、鉄、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、及びマンガンから選ばれるものが使用できる。とりわけ、鉄、アルミニウム、ジルコニウムから選ばれる金属化合物が好適である。
金属化合物(Q)としては、例えば、上記金属元素を含む塩化物、臭化物、酢酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、しゅう酸塩、硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩等が使用できる。
このような金属化合物(Q)は、固形分重量比率において結合材成分:金属化合物が、通常100:0.1〜10(好ましくは100:0.2〜5)となるように調製すればよい。
【0020】
また、ピペリジン化合物(R)としては、ピペリジル基を有する化合物が使用でき、具体的には、例えば、ビス(2,2,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。ピペリジン化合物(R)は、結合材と化学的に結合したものであってもよい。
このようなピペリジン化合物(R)は、固形分重量比率において結合材:ピペリジン化合物が、好ましくは100:0.1〜20(より好ましくは100:0.2〜5)となるように調製すればよい。
【0021】
上記各被覆材は、本発明の効果が損われない限り、例えば顔料、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、撥水剤、架橋剤、酸化防止剤、触媒等を含むものであってもよい。
【0022】
上記各被覆材を塗付する際には、スプレー塗り、刷毛塗り、ローラー塗り等の塗装手段を適宜採用することができる。被覆材の塗付け量は、本発明の効果が奏される範囲内で適宜設定すればよい。具体的には、被覆材の形態にもよるが、通常は0.1〜5kg/m程度である。被覆材の乾燥は、通常常温で行えばよい。
本発明では、上記被覆材の塗付後、必要に応じ上塗材等を塗付することも可能である。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0024】
(実施例1)
既存塗膜としてアナターゼ酸化チタン含有光触媒塗膜(励起波長:200〜380nm)を有するスレート板を試験基材として用いた。この試験基材に対し、エポキシ樹脂60重量部、ポリアミン40重量部、ポリジメチルシロキサン化合物1重量部を含む被覆材を塗付け量0.2kg/mでスプレー塗りし、標準状態(温度23℃、相対湿度50%)にて2時間乾燥後、アクリル樹脂系上塗材を塗付け量0.3kg/mでスプレー塗りし、標準状態で7日間養生することにより、試験体を作製した。
以上の方法で得られた試験体につき、促進耐候性試験機「アイスーパーUVテスター」(岩崎電気株式会社製)にて50時間曝露を行った後、クロスカット法(4×4mm・25マス)により、密着性を評価したところ、24/25となった。なお、この評価では、値が大きいほど密着性に優れていることを示している。
【0025】
(実施例2)
実施例1と同様の試験基材に対し、アミノ基含有アクリル樹脂75重量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン25重量部、ポリジメチルシロキサン化合物1重量部を含む被覆材を塗付け量0.2kg/mでスプレー塗りし、標準状態にて2時間乾燥後、アクリル樹脂系上塗材を塗付け量0.3kg/mでスプレー塗りし、標準状態で7日間養生することにより、試験体を作製した。
以上の方法で得られた試験体につき、実施例1と同様の試験を行ったところ、密着性の評価は、25/25となった。
【0026】
(実施例3)
実施例1と同様の試験基材に対し、エポキシ樹脂60重量部、ポリアミン40重量部、硝酸アルミニウム3重量部を含む被覆材を塗付け量0.2kg/mでスプレー塗りし、標準状態にて2時間乾燥後、アクリル樹脂系上塗材を塗付け量0.3kg/mでスプレー塗りし、標準状態で7日間養生することにより、試験体を作製した。
以上の方法で得られた試験体につき、実施例1と同様の試験を行ったところ、密着性の評価は、23/25となった。
【0027】
(実施例4)
実施例1と同様の試験基材に対し、エポキシ樹脂60重量部、ポリアミン40重量部、ピペリジン化合物(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート)2重量部を含む被覆材を塗付け量0.2kg/mでスプレー塗りし、標準状態にて2時間乾燥後、アクリル樹脂系上塗材を塗付け量0.3kg/mでスプレー塗りし、標準状態で7日間養生することにより、試験体を作製した。
以上の方法で得られた試験体につき、実施例1と同様の試験を行ったところ、密着性の評価は、24/25となった。
【0028】
(比較例1)
実施例1と同様の試験基材に対し、カルボキシル基含有アクリル樹脂からなる被覆材を塗付け量0.2kg/mでスプレー塗りし、標準状態にて2時間乾燥後、アクリル樹脂系上塗材を塗付け量0.3kg/mでスプレー塗りし、標準状態で7日間養生することにより、試験体を作製した。
以上の方法で得られた試験体につき、実施例1と同様の試験を行ったところ、密着性の評価は、2/25となった。
【0029】
(比較例2)
実施例1と同様の試験基材に対し、エポキシ樹脂60重量部、ポリアミン40重量部を含む被覆材を塗付け量0.2kg/mでスプレー塗りし、標準状態にて2時間乾燥後、アクリル樹脂系上塗材を塗付け量0.3kg/mでスプレー塗りし、標準状態で7日間養生することにより、試験体を作製した。
以上の方法で得られた試験体につき、実施例1と同様の試験を行ったところ、密着性の評価は、18/25となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられた既存塗膜に対し、被覆材を塗付して改装を行う塗装方法であって、
前記既存塗膜は、光触媒を含む光触媒塗膜であり、
前記被覆材は、
エポキシ基、アミノ基、及び加水分解性シリル基から選ばれる1種以上の官能基を有する結合材成分、並びに、有機珪素化合物(P)、鉄、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、及びマンガンから選ばれる金属化合物(Q)、ピペリジン化合物(R)から選ばれる1種以上の化合物を含むものであることを特徴とする塗装方法。


【公開番号】特開2010−253466(P2010−253466A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71680(P2010−71680)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(599071496)ベック株式会社 (98)
【Fターム(参考)】