説明

塗装方法

【課題】 視界は遮りつつ光は採り入れる部材としてガラスやプラスチックを用いる場合があるが、和紙を用いた障子のような外観を呈する製品については、専用機器を必要としない、少量多品種製造に向いた方策というものがなかった。
【解決手段】 ガラス又はプラスチックより成る光透過性材料の表面に、エアスプレーガンを用いて塗料を塗布する方法であって、20℃環境下で0.12〜1.0パスカル秒の粘度の塗料を、0.05MPa以上0.5MPa以下のエア噴出圧でまばらに吐出させ、次いで、二次塗装を施し吐出された材料表面を均一に被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランダムな長さに分断された線状塗料と、粒状塗料とを、まばらに展開固定させることで、ガラスやプラスチックの表面に繊維状模様を表現するための新規な塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、書架、食器棚、等々の開閉扉材料に、透視性を付与すべく透明ガラス板を採用することは従来よりしばしば行なわれている。又、照明器具のカバーについても、電球部分の保護、或いはデザイン上の要求から、光透過性を有するプラスチックやガラス製の材料を採用することが多い。
【0003】
そうした際、透明度・遮蔽度・光透過性、等々は、使用目的により適宜選択されることになる。即ち、透明度を上げて内容物(書籍や食器、その他)を見えるようにする場合には透明ガラスを主体に製作し、照明器具カバーの多くに見られるように光は透過させるが中の電球は形状を明らかにしたくないという場合には、非透明にしつつ一定の光透過性は残存させるという形で製作している。
【0004】
これを板ガラスを例にとって述べると、視界を遮ることがない「フロート板ガラス」が採用される場合と、視界を遮る「磨りガラス」「型板ガラス」「チェッカーガラス」「モールガラス」等が採用される場合とがある。価格は、「フロート板ガラス」が最も安価、「チェッカーガラス」「モールガラス」は国内では製造されておらず全てが輸入品であるため高価になる。製品メーカーとしては、視界を遮るためのガラスはこれら「磨りガラス」「型板ガラス」「チェッカーガラス」「モールガラス」等の中から選択することとなるわけであるが、現実にはこれだけの種類からであると、ユーザーの多様な要求に対応しきれない。
【0005】
そこで製品メーカー、或いはそこに部材を納入する部品メーカーでは、材料ガラス(主としてフロート板ガラス或いは型板ガラス)に加工を施して、遮蔽ガラスや装飾ガラスを得るという手法が一般的である。この加工によって、例えばステンドグラス風の装飾ガラスも提供できるようになっている。
【特許文献1】特開平10−147100号
【0006】
一方我が国は、視界は遮りつつ光は採り入れる仕切り構造体として「障子」を長く採用している歴史があり、「紙を透過する光」を愛でる傾向にある。特に、細かな繊維の中に粗い繊維が散在する和紙の場合には、光が透過すると複雑な模様を目にすることとなる。そうしたこともあって、板ガラスにおいても和紙の外観を呈するものを好むユーザーは多く、メーカーとしてもこの要望に応えるべくいくつかの方策が提案され、講じられてもいる。代表的な手法としては、フロート板ガラス或いは型板ガラスの表面に、和紙柄が印刷されたプラスチックフィルムを貼着する方法がある。その他、和紙に溶融プラスチックを含浸したものを硬化させるといった方法もある。
【特許文献2】特開2002−079612
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところがこうした従来の加工方法は大量生産的手法であって、提供される製品は画一的なものとならざるを得ず、多様化するユーザーの要望に的確に応え得るものとはなっていない。例えば、原料ガラス板をユーザー希望の形状(例えば円形)にカットし、その周縁部分だけが和紙風になるようにするといったことは、想定されていないわけである。
また、和紙風装飾ガラス製作の主流となっている和紙柄印刷フィルム貼着方法の場合には貼着作業それ自体が面倒であって実際、貼着作業に要するコストが製品価格を大きく押し上げているという現実があり、望ましいものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような現状に鑑み、本発明者は長年鋭意研究の結果、遂に本発明方法を成したものであり、その特徴とするところは、ガラス又はプラスチックより成る光透過性材料の表面に、エアスプレーガンを用いて塗料を塗布する方法であって、20℃環境下で0.12〜1.0パスカル秒の粘度の塗料を、0.05MPa以上0.5MPa以下のエア噴出圧でまばらに吐出させ、次いで、二次塗装を施し吐出された材料表面を均一に被覆する点にある。
【0009】
ここで「光透過性材料」とは文字通り、照射された光が少なくとも一部通過し、背面側から視認できる機能を有する材料を意味し、ガラスとプラスチックが該当する。無色透明板ガラスのみならず、有色透明板ガラス、磨りガラス、型板ガラス、等々の平板状のガラス、及びそれに相当する成形が成されたプラスチック板であっても良いし、平板に限らず立体形状、例えば円筒形状・円錐形状・直方体形状その他に成形されたガラスやプラスチックであっても良いものとする。
【0010】
本発明においては、この光透過性材料の表面に二種の塗装が順次施される。本発明の最大の特徴は最初の塗装の手法にあるが、その後施される二次塗装を塗装工程に含む点も必須であって重要な役割を持っている。
【0011】
最初の塗装(一次塗装)は、20℃環境下で0.12〜1.0パスカル秒の粘度の塗料を、エアスプレーガンを用いて、0.05MPa以上0.5MPa以下のエア噴出圧でまばらに吐出させる、という方法で行なう。
【0012】
使用するエアスプレーガン自体は、ハンディータイプの汎用品(詳述すれば、塗料ノズル径0.8〜1.5mm、空気使用量75〜300mL/分、塗料噴出量50〜300mL/分という性能のガン)で良く、特殊な構造のものを用いる必要はない。そして20℃環境下で0.12〜1.0パスカル秒という範囲の粘度は、エアスプレーガンを用いる塗布作業で採用される塗料としては極めて粘度が高い。しかしながら、上記条件で作動させると塗料は、ノズルから最初は糸状、且つ連続する形で吐出され、空中でちぎれ、ランダムな長さに分断された線状塗料と、粒状塗料とになって被加工面に達する。空中でちぎれる理由は定かでないが、飛行速度、空気抵抗、塗料自身の表面張力、等が関与しているのではないかと想像される。ランダムな長さに分断された線状塗料と、粒状塗料とは、ノズルから離れるに従って拡がってゆくので、塗装作業において材料とエアスプレーガンとの距離を変えると、付着塗料のまばらさも当然変わる。本発明者が試作実験した範囲では、粘度0.5パスカル秒程度の塗料の場合には、エアスプレーガンを水平方向に向けて塗料を吐出させ、そのノズルから高さ10cm、水平距離50cm程度の位置に落下させた時が最も美しい和紙風模様が得られた。
【0013】
使用し得る塗料の詳細については特に限定するものではなく、エアスプレーガンによって吹き付け塗装することのできるタイプの塗料であれば基本的に使用可能である。但し、光透過性材料にガラスを選んだ場合には、塗料の密着性が悪くなることも考えられる。その場合には、熱硬化型樹脂を主剤とする塗料を用いると好適である。本発明者が試作実験した範囲では特に、2液型アクリル樹脂塗料が最適であった。
【0014】
塗料を吐出させる際のエア噴出圧は、0.05MPa以上0.5MPa以下であり、従来の圧と大きく変わるものではない。本来は微小な粒状体を霧状に噴出するスプレーガンを用いて、糸状塗料を噴出させるという目的を適えるために、塗料粘度に応じたエア圧調整が必要である。即ち、粘度が低い(0.12パスカル秒に近いもの)場合にはエア圧を低い目に、粘度が高い(1.0パスカル秒に近いもの)場合にはエア圧を高い目にしておく必要がある。そして基本的に吐出される塗料は、粘度の低い塗料の場合には細い糸状体、粘度の高い糸状体の場合には太い糸状体となる。従って、糸状体の太さは塗料粘度の調整で変え、更にその粘度に応じてエア圧を調整することになる。
【0015】
この塗装工程(一次塗装)が済んだ段階で材料表面には、ランダムな長さに分断された線状塗料と粒状塗料がまばらに密着している。本発明においてはこの状態で、二次塗装を施す。二次塗装は、一次塗装が施された面全面に対して行なう均一塗装であり、従前の手法と変わるものではない。一次塗装の塗料を加工面により確実に密着させることが第一の目的であるが、光透過性を残したまま視界を遮るマスキング効果、塗装面をより和紙風にする効果、等々の利点もある。
使用する塗料は、光透過性材料(加工対象物)との接着性さえ確保できれば何ら限定しない。また、無色の塗料であっても色のついているものであっても、透明であっても不透明であっても良いものとする。二次塗装の塗膜厚は、薄すぎると一次塗装で密着した塗料の保護効果が維持できないし、厚すぎるとコスト上の問題があるばかりか、塗料によっては光透過性が極端に落ちる可能性もある。障子程度の光透過性を確保するために、乳白色の塗膜を形成した場合、本発明者が実験した範囲では、5〜30μm程度、特に好ましくは10〜20μmの範囲の膜厚が好適であった。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法は、以下述べる如き効果をする極めて高度な発明である。
(1) 少量多品種の製品製造が可能である。即ち、塗装対象物ごとに作業者が、個々施してゆくという塗装の形態であるので、多様なユーザーニーズに充分対応できる。
(2) 隠蔽着色塗装に用いられている汎用エアスプレーガンをそのまま採用して本発明塗装を完成することができる。
(3)二次塗装によって、塗料の定着性が確実に確保できるので、充分な塗膜強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面に基づいて本発明方法をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明に係る塗装方法の第一段階である、一次塗装の形態を概略的に示したものであり、一次塗装は、エアスプレーガン1からやや離れた位置に加工材料2を置き、塗料を吐出するという方法で行なうものである。本例のエアスプレーガン1には、空気圧縮機・空気タンク・エアトランスホーマ・塗料圧送タンク等が付帯しているが描出は省略している。これらの機器或いは加工材料の配置状況などに関しては、従来の均一塗装と大きく異なるところはない。しかし装填される塗料の性状が特殊であることから、エアスプレーガン1から吐出される塗料は、糸状体と粒状体とが混じった状態となり、これらがまばらに加工材料2上に乗ることになる。なお本例においては加工材料2として、無色透明のフロート板ガラスを用いた。
【0019】
図2は、一次塗装が完了した加工材料2の表面状態の一例を示すものであり、塗料3は線状部31と粒状部32とがランダムに散在する形で表面を覆う。本例の場合には加工材料2がガラス製であるため、塗料との密着性を十分なものとすべく、塗料3として2液型アクリル樹脂塗料(白色)を用いた。これは熱硬化性樹脂を主剤としており、塗装後加熱することで密着性を確保している。
なお、塗料3の線状部31の「線」の方向は、エアスプレーガン1からの吐出方向に揃う傾向にあるので、図の如く線状部31の方向もランダムにする場合には、エアスプレーガン1に対して加工材料2の配置位置が変わるように、エアスプレーガン1又は加工材料2を動かすようにするのが好ましい。但し、線状部31の方向をランダムにする場合というのは、和紙の繊維状態を模した塗装にする場合には必須であるが、本発明方法はこれに限定するものではないので、エアスプレーガン1又は加工材料2を動かすようにするという工程は必須のものではない。また塗布する塗料3の量は、塗料粘度、塗布時間、等々によって適宜調整すべきものであり、当然ながら少なければ遮蔽効果が減少し、多ければ光透過性が減少することになる。本発明者が実験した範囲では、1平方メートル当たり50〜150グラム程度の塗布量で一次塗装した場合には、一見すると和紙と見間違うような塗装面が形成され美麗な仕上がりとなった。
【0020】
次に、一次塗装を施した面に対して、被覆塗料4を塗布する作業(二次塗装)を施す。二次塗装もエアスプレーガンを用いて行なうものであるが、この塗装は従来の形態と同様で良い。即ち、均一な膜厚形成を得るために、微細な粒状塗料を噴霧するという作業となる。本例においては、和紙に近い外観となすため白色塗料を用いて、膜厚10〜20μm程度の乳白色層を形成させたが、無色透明の塗料を用いても良いし、他色の塗料を用いても良い。
【0021】
こうして得られた塗装面は、概略図である図3の如く、無色透明ガラスである加工材料2の上に、白色塗料からなる塗料3部分がまばらに配置され、表面全体が被覆塗料4で覆われ乳白色層が形成されることとなる。
【0022】
ここまで、無色透明のフロート板ガラスに対して本発明方法を施した例を説明してきたが、透明板ガラスの代わりに半透明板ガラスを用いても、透明又は半透明のプラスチックを用いても良い。又、平板状ではなくても良い。
図4(a)乃至(c)はそうした例を示すものである。同図(a)は、本発明塗装方法を加工材料の片面に対して施し、他方面に目地模様Aを施すことで、他方面側からの外観が「障子」風になるようにした例、同図(b)は、円筒形状体の内側表面に本発明塗装方法を施した例、同図(c)は、鏡用ガラス板の表面(金属蒸着層Mが配置された面とは反対側の表面)の周縁部から内側に向かって一次塗装の密度が小さくなるようにすることで鏡像にグラデーションがかかるようにした例、をそれぞれ示している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る塗装方法における、一次塗装の形態を概略的に示した斜視図である。
【図2】一次塗装が完了した段階での加工材料の表面状態の一例を示す平面図である。
【図3】本発明に係る塗装方法の一例を施した加工材料の表面状態の概略断面図である。
【図4】(a)乃至(c)はいずれも、本発明に係る塗装方法を施した状態の他の例を示すものであり、全て概略斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
1 エアスプレーガン
2 加工材料
3 塗料
31 線状部
32 粒状部
4 被覆塗料
A 目地模様
M 金属蒸着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス又はプラスチックより成る光透過性材料の表面に、エアスプレーガンを用いて塗料を塗布する方法であって、20℃環境下で0.12〜1.0パスカル秒の粘度の塗料を、0.05MPa以上0.5MPa以下のエア噴出圧でまばらに吐出させ、次いで、二次塗装を施し吐出された材料表面を均一に被覆することを特徴とする塗装方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate