説明

塗装方法

【課題】
本発明は、塗装時の塗り残し、ムラ、ハジキ等を防止する水性被覆液の塗装方法に関するものである。
【解決手段】
第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む基材の上に、有機質樹脂(A)、水性媒体(B)、退色性色素(C)を含み、前記退色性色素(C)の濃度が0.01〜100mg/Lである水性被覆液を塗装することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や土木構造物等の保護のために、有機質樹脂等を主成分とする被覆液によって、透明な保護膜を形成することが行われている。最近では、環境を配慮した水性タイプの被覆液が種々提供されている。
但し、このような透明な被覆液では、作業時における塗り残し、塗りムラ等が問題となる場合がある。この問題に対処する手法のひとつとして、被覆液に退色性色素を添加することが知られている。
具体的に、特許文献1には、樹脂エマルションと食用色素を含有する退色性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−285098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献の被覆液は、作業時においては着色された状態であり、被膜形成後、光等に曝されることによって透明化するものである。しかしながら、このような被覆液は、被塗面の状態や周辺環境等によっては、色素の色残りが生じる場合があり、退色速度の点において改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む金属塩を含む基材の上に、有機質樹脂(A)、水性媒体(B)、退色性色素(C)を含む水性被覆液を塗装することによって、作業時の塗り残し、塗りムラ等を防止するとともに、透明な被膜が形成できることを見出し、本発明の完成に到った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む基材の上に、
有機質樹脂(A)、水性媒体(B)、退色性色素(C)を含み、前記退色性色素(C)の濃度が0.01〜100mg/Lである水性被覆液を塗装することを特徴とする塗装方法。
2.退色性色素(C)が、化合物中に少なくともハロゲン基、硫酸基、硫酸水素基、硝酸基、リン酸基、リン酸水素基、炭酸基、炭酸水素基、カルボン酸基から選ばれる1種以上のアニオン性基を含むことを特徴とする1.に記載の塗装方法。
3.基材が第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の2価以上の金属元素を含むものであり、
退色性色素(C)が、化合物中に少なくともハロゲン基、硫酸基、カルボン酸基から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする1.に記載の塗装方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗装方法は、水性被覆液が色素によって着色されているため、作業時の塗り残し、塗りムラ等を防止することができる。さらに、被膜形成後は、色素が速やかに退色するため、早期に透明な保護膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0009】
本発明の塗装方法で使用する水性被覆液は、第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む基材の上に塗装するものであり、基材の保護、例えば、耐水性、耐候性、耐汚染性等の表面保護性を高めることができるものである。
【0010】
本発明の水性被覆液は、有機質樹脂(A)、水性媒体(B)、退色性色素(C)を含むものであり、退色性色素(C)の濃度が0.01〜100mg/L(好ましくは0.05〜80mg/L)であることを特徴とする。
このような水性被覆液は、退色性色素(C)を含有することにより、塗装作業時には着色されており、塗装作業時の塗り残し、塗りムラ等を防止することができる。さらに、塗装後は、基材中の金属元素が水性被覆液中に溶出され、該金属元素(金属イオン)によって退色性色素(C)の色素の退色が早められ、早期に透明な被膜を形成することができる。
【0011】
退色性色素(C)の濃度が0.01mg/Lより低い場合は、色素による発色性が乏しく、塗装したか否かの確認や塗付け量の確認が難しくなる。一方、100mg/Lより高い場合は、退色に時間がかかる場合がある。なお、退色性色素(C)の濃度とは、水性媒体(B)1リットル中に含まれる重量のことである。
【0012】
このような退色性色素(C)としては、光、pH、温度等の外部刺激によって、経時的に退色する色素であり、水性媒体(B)に溶解するものであれば特に限定されない。
退色性色素(C)としては、例えば、化合物中に少なくともハロゲン基、硫酸基、硫酸水素基、硝酸基、リン酸基、リン酸水素基、炭酸基、炭酸水素基、カルボン酸基から選ばれる1種以上のアニオン性基を含むものが好ましい。これらは、水性媒体(B)中でイオン解離し、容易に溶解させることができる。
このような退色性色素(C)としては、例えば、食用青色1号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用緑色3号等の食用染料等が挙げられる。
本願発明ではこのような退色性色素(C)を用い、被膜形成後に無色透明の被膜を形成するものであるが、本発明の効果を損なわない程度に、染料、顔料等を含む着色された被膜を形成するものでもよい。
【0013】
有機質樹脂(A)としては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、バイオガム、ガラクトマンナン誘導体、アルギン酸誘導体、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等の水溶性樹脂及び/または水分散性樹脂(樹脂エマルション)が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。これらは架橋反応性を有するものであってもよい。
【0014】
水性媒体(B)としては、主に水を媒体とするものであり、必要に応じ、低級アルコール、多価アルコール、アルキレンオキサイド含有化合物等の水溶性化合物が混合されていてもよい。
特に、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブタノール等の低級アルコールを含むものが好ましく用いられる。低級アルコールを含む場合、水性被覆液が基材に浸透しやすく、強靭な塗膜を形成することができるとともに、基材中の金属元素が溶出されやすく、退色を早めることができる。
【0015】
本発明の水性被覆液は、有機質樹脂(A)、水性媒体(B)、退色性色素(C)以外の成分を本願発明の効果を損なわない程度に適宜混合することもできる。
このような成分としては、無機粒子、金属塩、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒、光触媒、架橋剤、繊維等が挙げられる。
【0016】
無機粒子としては、特に、平均一次粒子径が1nm以上200nm以下、好ましくは3nm以上100nm以下のマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、白金、金、シリコン、ゲルマニウム、錫等の金属元素を含む無機粒子が好ましい。無機粒子は、詳細は明らかでないが、色素の退色をより早める効果があり、また、上記粒子径の範囲では透明性を有する。
本発明では特に、シリコン元素を含む無機粒子を含むことが好ましく、退色性色素の退色速度をより早めることができる。シリコン元素を含む無機粒子としては、例えば、シリカゾル等が挙げられる。これらは、珪酸ソーダ、シリケート化合物を原料として製造することができ、酸性タイプ〜塩基性タイプ(好ましくは、中性タイプ〜塩基性タイプ)のもの、またなんらかの表面処理が施されたものでもよい。
【0017】
金属塩としては、特に、第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素を含むものが好ましく、このような金属塩を含むことにより、色素の退色を早めることができる。
【0018】
本発明の水性被覆液の固形分は、20重量%以下、好ましくは0.1重量%以上10重量%以下である。本発明における水性被覆液の固形分は、使用時における固形分であり、製造、保管、運搬時には高固形分とし、使用時に適宜希釈して前記固形分となるものを含む。
【0019】
本発明の塗装方法で使用する基材としては、第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む金属塩が含まれるものであれば特に限定されない。
第1族元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等、第2族元素としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等、遷移元素は周期表における第3族元素から第11族元素に属する金属元素であり、例えば、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、銀等が挙げられる。
本発明では特に、退色性色素(C)に含まれるアニオン基が、ハロゲン基、硫酸基等の1価のアニオン基である場合、第2族元素、遷移元素から選ばれる2価以上の金属元素(さらに好ましくは、第2族元素の金属元素)を含む金属塩を含む基材を用いることによって、色素の退色をより早めることができる。
【0020】
また、基材表面の第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素濃度が、1mg/m以上10g/m以下(さらに好ましくは5mg/m以上7g/m以下)であることが好ましい。
なお、金属元素濃度の測定は、走査型電子顕微鏡(日本電子製:JSM5301LV)を用いて、表面元素分析(EDS)にて行った。
【0021】
このような基材としては、主に建築物や土木構造物等の基材が挙げられる。具体的には、例えば、石膏ボード、コンクリート、モルタル、スレート板、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、ALC板、サイディング板、金属、陶磁器、焼成タイル、磁器タイル、合板、自然石、人工石、押出成形板、木材、ガラス、プラスチック板、合成樹脂等が挙げられ、また基材表面は、なんらかの表面処理剤が施されたものでもよい。
【0022】
また、基材表面に施される表面処理剤としては、第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素を含むものであり、例えば、該金属元素の炭酸塩、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、等の化合物を含むものが挙げられる。このような物質が表面処理剤中に含まれることにより、水性被覆液の色素の退色をより早めることができる。
【0023】
このような基材の上に、水性被覆液を塗装する際には、スプレー塗り、刷毛塗り、ローラー塗り、ウェス拭き等の塗装手段を適宜採用することができる。
水性被覆液の塗付け量は、通常0.005〜0.5kg/m、好ましくは0.01〜0.3kg/m程度である。この範囲であれば、複数回重ね塗りしてもよい。水性被覆液の乾燥は通常、常温で行えばよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0025】
<基材>
・基材A:天然石(100×100×5cm)、金属元素濃度6.6g/m
・基材B:磁器タイル(100×100×5cm)、金属元素濃度9.1g/m
・基材C:スレート板(100×100×5cm)、金属元素濃度10.7g/m
・基材D:基材Cの上に、下塗り塗料Aを塗付け量0.1kg/mで塗付し、温度25℃、相対湿度50%にて24時間静置させたものを基材Dとした(金属元素濃度0g/m
下塗り塗料A:結合剤:アクリルシリコンエマルション(組成:2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメタクリレート、メタクリル酸)、固形分50wt%(媒体:純水(金属イオン濃度0mg/L))
・基材E:基材Cの上に、下塗り塗料Bを塗付け量0.1kg/mで塗付し、温度25℃、相対湿度50%にて24時間静置させたものを基材Eとした(金属元素濃度1.2mg/m
下塗り塗料B:結合剤:アクリルシリコンエマルション(組成:2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメタクリレート、メタクリル酸)、固形分50wt%(媒体:金属イオン水溶液(金属イオン濃度:120mg/L))
・基材F:基材Cの上に、下塗り塗料Cを塗付け量0.1kg/mで塗付し、温度25℃、相対湿度50%にて24時間静置させたものを基材Fとした(金属元素濃度0.5mg/m
下塗り塗料C:結合剤:アクリルシリコンエマルション(組成:2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメタクリレート、メタクリル酸)、固形分50wt%(媒体:金属イオン水溶液(金属イオン濃度:50mg/L))
・基材G:基材Cの上に、下塗り塗料Dを塗付け量0.1kg/mで塗付し、温度25℃、相対湿度50%にて24時間静置させたものを基材Gとした(金属元素濃度7.8mg/m
下塗り塗料D:結合剤:アクリルシリコンエマルション(組成:2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメタクリレート、メタクリル酸)、固形分50wt%(媒体:金属イオン水溶液(金属イオン濃度:780mg/L))
【0026】
<水性被覆液>
表1に示す配合にて、下記に示す樹脂、退色性色素、媒体を混合し、水性被覆液を作製した。
樹脂A:アクリルシリコンエマルション(組成:2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメタクリレート、メタクリル酸)、固形分45wt%、媒体:純水(金属イオン0mg/L)
退色性色素A:食用赤色3号、エリスロシン、アニオン基:ヨード基、カルボン酸基
退色性色素B:食用青色1号、フリリアントブルーFCF、アニオン基:スルホン酸基
退色性色素C:食用赤色104号、フロキシン、アニオン基:クロロ基、ブロモ基、カルボン酸基
媒体A:純水(金属イオン0mg/L)
【0027】
(実験例)
表2に示す基材の上に、水性被覆液を塗付け量0.1kg/mで刷毛にて塗付し、水性被覆液の塗装作業性を評価した。
評価は、5:塗装した箇所が明確に着色され塗装作業性に優れていた、から、1:塗装した箇所と塗装していない箇所がわかりにくかった、もしくは塗装にムラが生じた、の5段階評価で行った。なお、評価結果は表2に示す。
また、塗装後、温度25℃で、直射日光が当たらない北面屋内の窓内側にて、48時間静置させ、塗装直後と48時間静置後の表面色を評価した。評価は、5:表面は白色であり水性被覆液の色は消色していた、から、1:表面は水性被覆液による色であり消色していなかった、の5段階評価で行った。なお、評価結果は表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1族元素、第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む基材の上に、
有機質樹脂(A)、水性媒体(B)、退色性色素(C)を含み、前記退色性色素(C)の濃度が0.01〜100mg/Lである水性被覆液を塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
退色性色素(C)が、化合物中に少なくともハロゲン基、硫酸基、硫酸水素基、硝酸基、リン酸基、リン酸水素基、炭酸基、炭酸水素基、カルボン酸基から選ばれる1種以上のアニオン性基を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
基材が第2族元素、遷移元素から選ばれる1種以上の2価以上の金属元素を含むものであり、
退色性色素(C)が、化合物中に少なくともハロゲン基、硫酸基、カルボン酸基から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。


【公開番号】特開2012−61436(P2012−61436A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208667(P2010−208667)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(599071496)ベック株式会社 (98)
【Fターム(参考)】