説明

塗装用スプレーガン

【課題】ノズル空気孔自体を改良し、空気キャップと前記ノズルとの間に形成された環状通路内の気流の偏りを防止することができる新たな構造のノズル空気孔を備えたスプレーガンの提供を図る。
【解決手段】
スプレーガンにおける空気キャップ15の後方に配置されるノズル13が、筒部31と、その外周方向に張り出して形成されたフランジ32とを備える。フランジ32に設けられたノズル空気孔36は、フランジ32の先端面における流出口40の開口が、フランジ32の基端面における流入口39の開口よりも、大きく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、塗装用スプレーガン、特に、低圧用のスプレーガンの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塗装用スプレーガンは、その先端において、空気キャップと、空気キャップの後方に配置されるノズルとを備え、これによって塗料を霧状に噴射するようにしている。詳しくは、前記ノズル本体は、塗料を基端側から先端側に通す中央孔を備えた筒部と、前記筒部の外周方向に張り出して形成されたフランジとを備える。前記フランジは、塗料を吐出するための空気を前記フランジの基端面から先端面に流出させるノズル空気孔を備えるものである。このノズルの先端側に装着される空気キャップは、塗料吐出孔と、この塗料吐出孔の周囲に形成された霧化空気孔とを備えるものであり、さらに通常一対の角部が先端に突出するように形成され、この角部には、パターン形成用の空気を吐出するパターン空気孔を備えている。この霧化空気孔と前記ノズル空気孔とは、空気キャップとノズルとの間に形成された環状通路を介してつながっており、塗料吐出孔からの塗料を、霧化空気孔から噴出される空気によって吸い出して霧化させて噴霧するようにし、さらにパターン空気孔から噴射する空気を衝突させて扇状の偏平なパターンを形成するようにしている。
【0003】
この空気キャップの内圧が150kPaを越える通常のスプレーガンにあっては、霧化効率は良好であるものの、噴霧される塗料粒子の飛散と、オーバースプレーによる塗料損失が大きいという欠点が指摘されている。そのため、近年では、空気キャップの内圧が100kPa以下の低圧の圧縮空気によって噴霧する低圧スプレーガンが広く使用されるようになっている。ところが、空気の圧力を抑えると、空気キャップと前記ノズルとの間に形成された環状通路内における気流の偏りによって、塗料粒子の微細化に部分的な不良が生じたり、パターン形状に偏りが生ずるという問題が発生する。
【0004】
そのため、特許文献1、2にあっては、ノズル空気孔の前記流出口の前方に遮蔽板を配置し、この遮蔽板にノズル空気孔からの空気を衝突させることによって、環状通路内での偏りを防止することを提案している。これらの発明は、ノズル空気孔については、従来の高圧用のスプレーガンの構造をそのまま採用し、ノズル空気孔よりも先端側での圧縮空気の衝突によって、問題の解決を図ろうとするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2693402号公報
【特許文献2】特開2006−247538公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、ノズル空気孔自体を改良し、空気キャップと前記ノズルとの間に形成された環状通路内の気流の偏りを防止することができる新たな構造のノズル空気孔を有するスプレーガンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、
空気キャップと、空気キャップの後方に配置されるノズルとを備え、
前記ノズルは、塗料を基端側から先端側に通す中央孔を備えた筒部と、前記筒部の外周方向に張り出して形成されたフランジとを備え、
前記フランジは、塗料を吐出するための空気を前記フランジの基端面から先端面に流出させるノズル空気孔を備え、
前空気キャップは、塗料吐出孔と、前記塗料吐出孔の周囲に形成された霧化空気孔とを備え、
前記霧化空気孔と前記ノズル空気孔とは、前記空気キャップと前記ノズルとの間に形成された環状通路を介してつながっており、前記塗料吐出孔からの塗料を前記霧化空気孔から吐出される空気によって霧化させる塗装用スプレーガンにおいて、
前記ノズル空気孔は、前記フランジの前記先端面における流出口の開口が、前記フランジの前記基端面における流入口の開口よりも、大きく形成されていることを特徴とする塗装用スプレーガンを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本願発明は、ノズル空気孔の一定のままとする従来の構造に代えて、ノズル空気孔を孔の途中で変化させて、流出口の開口を流入口の開口よりも大きく形成するという新たな構造を提供することにより、塗料粒子の微細化不良やパターン形状の偏りを防止して、良好な塗料噴霧を実現することができたものである。
【0009】
具体的には、本願発明にあっては、狭い流入口からノズル空気孔に入る圧縮空気は、大きな流出口より流出する際に広がることで、環状通路内での気流の偏りを緩和するものであると考えられる。
これにより、ノズル空気孔の流出口の前方に遮蔽板を設けなくても、低圧スプレーガンにおける良好な塗料噴霧を実現し得たものである。
【0010】
また、本願発明は、ノズル空気孔の構造自体を改良するものであるため、従来の遮蔽板との併用も可能であり、これにより、環状通路内での空気の均質化をより一層図ることができる。
なお、本願発明は、空気キャップの内圧が150kPaを越える通常のスプレーガンにおいても採用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願発明の実施の形態に係るスプレーガンの断面図である。
【図2】同スプレーガンの霧化装置の拡大断面図である。
【図3】(A)は同霧化装置の要部拡大図、(B)〜(E)はそれぞれ変更例を示す要部拡大図である。
【図4】本願発明の他の実施の形態に係るスプレーガンの霧化装置の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき本願発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係るスプレーガンは、スプレーガン本体11とその先端に配置された霧化装置12とをそなえる。霧化装置12は、ノズル13とニードル弁14と空気キャップ15とを備える。ノズル13は、筒部31と、筒部31の径外側に張り出したフランジ32とを備える。
【0014】
スプレーガン本体11には、圧縮空気導入路16と塗料供給路17とが形成されている。圧縮空気導入路16は分岐路18に接続され、分岐路18は、空気を内側路19と外側路20に分配する。内側路19に分配された空気は霧化用の空気となり、外側路20に分配された空気はパターン形成用の空気となる。
【0015】
塗料供給路17は、ノズル13の筒部31に塗料を供給するもので、塗料は、ノズル13の中心部を貫通する中央孔34を経て、先端の塗料噴出口35から外部に流出する。
【0016】
ノズル13の基端には雄ネジ33が形成され、スプレーガン本体11の先端凹部にねじ込まれ、上記の塗料供給路17とノズル13の中央孔34の基端とを液密に接続している。
【0017】
前述のように、ノズル13の中央孔34の先端には塗料噴出口35が設けられ、中央孔34の内部にはニードル弁14が前後に移動可能に配置されている。中央孔34の基端から流入した塗料は、中央孔34内を通って塗料噴出口35から噴出する。ニードル弁14は前後動することで、弁の開度を調整し、塗料の噴出量を調整する。なおノズル13は一体形成されているが、塗料噴出口35が設けられた先端部分のノズルチップをノズル本体と別体に形成して一体化してもよい。
【0018】
ノズル13がスプレーガン本体11に組み込まれた状態で、フランジ32は内側路19と外側路20とをシート部で仕切る。外側路20からの空気はノズル13の外周を迂回して空気キャップ15のパターン空気孔54から噴射される。パターン空気孔54は、空気キャップ15の先端に突出するように形成された一対の角部55に形成され、パターン形成用の空気を噴射する。
【0019】
内側路19からの空気は、ノズル13のフランジ32の前後に貫通したノズル空気孔36を通過して、空気キャップ15の空気孔51から噴出する。この例では、空気孔51は、ノズル13の塗料噴出口35の外周側に環状に形成された主空気孔52と、主空気孔52の外側に複数個分散して形成された補助空気孔53とを備える。
【0020】
ノズル空気孔36についてさらに詳しく説明する。ノズル空気孔36は、通常円周上に2個以上(この例では6個)設けられたもので、フランジ32の基端面37に形成された流入口39から、先端面38に形成された流出口40との間を結ぶ。図のノズル空気孔36は、中央孔34の軸方向と平行に形成されているが、斜めに角度をもって形成してもよい。流入口39は前述の内側路19に開口し、流出口40は環状通路21に開口している。環状通路21は、ノズル13の先端面38と空気キャップ15の中央部分の後端面56との間の空間であり、この空間によって空気が整流され、主空気孔52から噴射する。空気キャップ15の内圧が150kPaを越える通常のスプレーガンにあっては、従来の一般的な構造で均一に整流され、良好な噴射パターンを得ることができるが、100kPa以下の低圧スプレーガンでは、環状通路21内の気流に偏在が生じ、良好な噴射パターンを得ることが困難となる場合がある。そこで、本発明では、図2、図3(A)に示すように、ノズル空気孔36の流出口40の開口を、流入口39の開口よりも大きく形成した。このように、狭い流入口39からノズル空気穴36内に流入した圧縮空気が広い流出口40を経て環状通路21に流出する。この流出の際の気流の拡散効果によって、低圧の圧縮空気であっても、環状通路21内における気流の偏在を抑制することができ、良好な霧化状態を得ることがきる。
【0021】
図3(A)に示す例は、ノズル空気孔36は、先端側の大径部41と基端側の小径部42とを段部43を介して形成したものである。流出口40の断面積bは、特には限定されないが、流入口39の断面積aの約2〜25倍が好ましい。また、小径部42の軸方向長さcは、特には限定されないが、大径部41の軸方向長さdの約3〜70%とすることが好ましい。
【0022】
流出口40の断面積bが流入口39の断面積aの25倍よりも大きい場合、相対的に流入口39の断面積aが小さくなり過ぎ、充分な空気量を得られないおそれがあり、逆に、流出口40の断面積bが流入口39の断面積aの2倍より小さい場合には、相対的に流入口・流出口の大きさがそれほど変わらず、十分な効果が得られないか、得られても大変小さくなるおそれがある。また、小径部42の軸方向長さcが大径部41の軸方向長さdの70%より大きい場合、空気を均質化する為の空間が狭くなり、空気を均質化する効果が得られないか、得られても大変小さくなるおそれがあり、逆に、小径部42の軸方向長さcが大径部41の軸方向長さdの3%より小さい場合には、空気流入口部分の壁が大変薄くなり、強度面から耐久性の確保が難くなるおそれがある。但し、これらの条件は、スプレーガンの他の諸条件(圧縮空気の圧力、塗料の種類や粘度などの諸条件、装置全体の大きさや求められる噴射効率等々)によって変化するものであり、これに限定して本願発明を理解するべきではない。
【0023】
次に、ノズル13は全てを一体形成する他、図3(B)に示すように、一部を別体に形成して組み付けるようにしてもよい。この図3(B)では、流入口39の部分のみを開口調整部材44に形成し、これをノズル13の本体の後端に配置したもので、ノズル13本体側の大径部41と、開口調整部材44側の小径部42とを連続させたものである。
【0024】
次に、大径部41は、図3(C)に示すように、基端側から先端の流出口40に向かうに従って、徐々に径が拡大するテーパ孔としてもよく、図3(D)に示すように3段(若しくはそれ以上の多段)に形成してもよい。また、大径部41と小径部42とは同心状に連続する必要はなく、図3(E)に示すように、その軸芯をずらして、屈曲したノズル空気孔36とすることもできる。以上の各例では、大径部41を小径部42よりも長く形成したが、逆でもよく、同じ長さでもよい。
【0025】
また、図4に示すように、流出口40の先端に間隔を置いて、遮蔽板45を設けるようにしてもよい。この遮蔽板45としては、特許文献1や2に記載のものを採用することができる。
【0026】
本発明は、手動で弁の開閉を行うスプレーガンに適用できることは勿論、作動エアの働きにより自動的にスプレー作業を制御される、いわゆる自動スプレーガンにおいても実施することができる。また、低圧のスプレーガンにおいてその優秀性がより明らかになるが、高圧のスプレーガンに使用することを妨げるものではない。
【0027】
なお、上述の実施の形態のように、ノズル空気孔36を複数段に形成したりテーパ孔にすると、加工コストが上昇すると思われるが、フランジ32の前後両側からドリル加工等を行なうことで、1本のドリルで貫通させる場合よりも加工し易く、ドリルの損傷の可能性も減少させることができる。よって、加工コストの点では従来と同等又は削減できると考えられる。
また、流入口39側の径を変更するだけで、内側路19と外側路20との流量調整を同時に行なうことができるものである。
【符号の説明】
【0028】
11 スプレーガン本体
12 霧化装置
13 ノズル
14 ニードル弁
15 空気キャップ
16 圧縮空気導入路
17 塗料供給路
18 分岐路
19 内側路
20 外側路
21 環状通路
31 筒部
32 フランジ
33 雄ネジ
34 中央孔
35 塗料噴出口
36 ノズル空気孔
37 基端面
38 先端面
39 流入口
40 流出口
41 大径部
42 小径部
43 段部
44 開口調整部材
45 遮蔽板
51 空気孔
52 主空気孔
53 補助空気孔
54 パターン空気孔
55 角部
56 後端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気キャップと、空気キャップの後方に配置されるノズルとを備え、
前記ノズルは、塗料を基端側から先端側に通す中央孔を備えた筒部と、前記筒部の外周方向に張り出して形成されたフランジとを備え、
前記フランジは、塗料を吐出するための空気を前記フランジの基端面から先端面に流出させるノズル空気孔を備え、
前空気キャップは、塗料吐出孔と、前記塗料吐出孔の周囲に形成された霧化空気孔とを備え、
前記霧化空気孔と前記ノズル空気孔とは、前記空気キャップと前記ノズルとの間に形成された環状通路を介してつながっており、前記塗料吐出孔からの塗料を前記霧化空気孔から吐出される空気によって霧化させる塗装用スプレーガンにおいて、
前記ノズル空気孔は、前記フランジの前記先端面における流出口の開口が、前記フランジの前記基端面における流入口の開口よりも、大きく形成されていることを特徴とする塗装用スプレーガン。
【請求項2】
前記塗装用スプレーガンが低圧スプレーガンであり、
前記ノズル空気孔の前記流出口の前方に遮蔽板が配置されていないことを特徴とする請求項1記載の塗装用スプレーガン。
【請求項3】
前記塗装用スプレーガンが低圧スプレーガンであり、
前記ノズル空気孔の前記流出口の前方に遮蔽板が配置されていることを特徴とする請求項1記載の塗装用スプレーガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−17933(P2013−17933A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151843(P2011−151843)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000112200)ピーアイエー株式会社 (4)
【Fターム(参考)】