説明

塗装設備

【課題】 自動車ボディ用塗装設備の生産能率を向上させる。
【解決手段】 塗装ゾーン1、静置ゾーン2、仮乾燥ゾーン3、重ね塗装ゾー6ンに対して自動車ボディBを搬送装置により順次に通過させる塗装設備において、静置ゾーン2で、又は、塗装ゾーン1の出口部で自動車ボディBのドアdを自動的に開いてドア部を開放状態にするドア開放手段13を設ける、又は、静置ゾーン2でミスト排出用空気MAを自動車ボディBの開口部を通じて自動車ボディBの内部に噴流状態で吹き込む空気噴出手段17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車ボディ用の塗装設備に関し、
詳しくは、塗料の噴霧により自動車ボディを塗装する塗装ゾーンと、
この塗装ゾーンから搬出される自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストをボディ外部に流出させる静置ゾーンと、
この静置ゾーンから搬出される自動車ボディを乾燥用加熱空気の流れの中に置いて、その自動車ボディの塗膜の固形分率を調整する仮乾燥ゾーンと、
この仮乾燥ゾーンから搬出される自動車ボディの塗膜上に塗装を行う重ね塗装ゾーンとを設け、
これら塗装ゾーン、静置ゾーン、仮乾燥ゾーン、重ね塗装ゾーンに対して自動車ボディを搬送装置により順次に通過させる塗装設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の塗装設備では、ドアが閉じられた状態で塗装ゾーンから搬出される自動車ボディを所定時間の間、静置ゾーンにおいて放置することで、塗膜を安定させるとともに、自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミスト(すなわち、塗着せずに浮遊状態でボディ内に残った噴霧塗料)をボディ外部に流出させて排除し、これにより、その浮遊塗料ミストが自動車ボディとともに次の仮乾燥ゾーンに持ち込まれることに原因する塗装不良(つまり、持ち込まれた塗料ミストにより仮乾燥ゾーンの内部が汚れて、その汚れにより生じたゴミが塗膜に付着することによる塗装不良)の発生を防止するようにしていた。
【0003】
また、ドアが閉じられた状態で静置ゾーンから搬出される自動車ボディを仮乾燥ゾーンにおいて所定時間の間、乾燥用加熱空気の流れの中に置くことで塗膜の乾燥を促進して、塗膜の固形分率を次の重ね塗装ゾーンでの塗装に適した値まで調整するようにしていた。
【0004】
なお、この種の塗装設備では、仮乾燥ゾーンにおいて乾燥用加熱空気による加熱と赤外線による加熱とを併用して塗膜の乾燥を促進する場合も多く、また、仮乾燥ゾーンで昇温した自動車ボディ及びその塗膜を重ね塗装ゾーンでの塗装に適した温度に冷却する冷却ゾーンを仮乾燥ゾーンと重ね塗装ゾーンとの間に介在させる場合も多い。
【0005】
【特許文献1】特開2003−236437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来の塗装設備では、静置ゾーンにおいて天井のほぼ全面から換気用空気を下向きに供給するゾーン換気を実施するにしても、自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストは自動車ボディの窓部から漂い出る状態でボディ外部に流出するだけで、特にボディ内の下部に残る浮遊塗料ミストは停滞傾向が強くてボディ外部に流出し難く、この為、自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストを静置ゾーンにおいて十分にボディ外部に流出させるのにかなりの長時間を要して、設備全体としての生産能率が低く制限される、また、列状に搬送される自動車ボディを順次に塗装する場合では、静置ゾーンの必要ゾーン長が大きくなって設備の構築面でも不利になる問題があった。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、合理的な改良により上記の如き問題を効果的に解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕本発明の第1特徴構成は塗装設備に係り、その特徴は、
塗料の噴霧により自動車ボディを塗装する塗装ゾーンと、
この塗装ゾーンから搬出される自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストをボディ外部に流出させる静置ゾーンと、
この静置ゾーンから搬出される自動車ボディを乾燥用加熱空気の流れの中に置いて、その自動車ボディの塗膜の固形分率を調整する仮乾燥ゾーンと、
この仮乾燥ゾーンから搬出される自動車ボディの塗膜上に塗装を行う重ね塗装ゾーンとを設け、
これら塗装ゾーン、静置ゾーン、仮乾燥ゾーン、重ね塗装ゾーンに対して自動車ボディを搬送装置により順次に通過させる塗装設備において、
前記静置ゾーンで、又は、前記塗装ゾーンの出口部で自動車ボディのドアを自動的に開いてドア部を開放状態にするドア開放手段を設けてある点にある。
【0009】
つまり、この第1特徴構成によれば、静置ゾーンで又は塗装ゾーンの出口部で自動車ボディのドアがドア開放手段により開かれてドア部が開放状態にされることにより、静置ゾーンでは、開放されたドア部の分、自動車ボディの開口部を面積的に大きくしてボディ内部に対する通気性を大きく高めた状態でボディ内の浮遊塗料ミストをボディ外部に流出させることができ、また、ドアが閉じられた状態ではボディ内の下部に停滞し易い浮遊塗料ミストも開放されたドア部から速やかにボディ外部に流出させることができ、これにより、塗装ゾーンから搬出される自動車ボディの内部に浮遊塗料ミストが残ることに対し、その浮遊塗料ミストを静置ゾーンにおいて十分にボディ外部に流出させるのに要する時間を従来設備に比べ効果的に短縮することができて、設備全体の生産能率を高めることができ、また、列状に搬送される自動車ボディを順次に塗装する場合では、静置ゾーンの必要ゾーン長を短くすることができて、設備の構築面でも有利にすることができる。
【0010】
そしてまた、第1特徴構成によれば、静置ゾーンで又は塗装ゾーンの出口部で自動車ボディのドアがドア開放手段により開かれることで、静置ゾーンに続く仮乾燥ゾーンでも自動車ボディをドア部の開放状態で乾燥用加熱空気の流れの中に置くことができて、従来設備の如くドアを閉じた状態の自動車ボディを乾燥用加熱空気の流れの中に置くのに比べ、ボディ内部に対する乾燥用加熱空気の流通も良好にすることができ、これにより、仮乾燥ゾーンにおいて自動車ボディ内側の塗膜の乾燥も効果的に促進することができる。
【0011】
すなわち、従来設備では、仮乾燥ゾーンにおいてボディ外側の塗膜に比べボディ内側の塗膜の乾燥が進み難く、この為、ボディ外側の塗膜の固形分率、及び、ボディ内側の塗膜の固形分率をともに次の重ね塗装ゾーンでの塗装に適した値まで調整するのに長時間を要する問題もあったが、第1特徴構成によれば、上記の如く仮乾燥ゾーンでのボディ内側の塗膜の乾燥も効果的に促進できることで、仮乾燥ゾーンにおいてボディ外側の塗膜の固形分率、及び、ボディ内側の塗膜の固形分率をともに次の重ね塗装ゾーンでの塗装に適した値まで調整するのに要する時間も効果的に短縮することができ、この点からも、設備全体の生産能率を一層効果的に高めることができ、また、列状に搬送される自動車ボディを順次に塗装する場合では、仮乾燥ゾーンの必要ゾーン長も短くすることができて、設備の構築面でも一層有利にすることができる。
【0012】
なお、第1特徴構成の実施において、自動車ボディのドアを自動的に開く具体的な方式としては、自動車ボディが所定位置まで搬送されたとき、その自動車ボディのドアをワンハンド型のロボットにより開く方式や、自動車ボディに対する搬送力を利用してドアを開く方式など、種々の方式を採用できる。
【0013】
また、第1特徴構成の実施においては、必ずしもドア部の開放状態を仮乾燥ゾーンまで維持する必要はなく、場合によっては仮乾燥ゾーンにおいてドアを自動的に、ないしは人為操作により閉じるようにしてもよく、そしてまた、仮乾燥ゾーンと重ね塗装ゾーンとの間に冷却ゾーンや後静置ゾーンを設ける場合など、それら冷却ゾーンや後静置ゾーンにおいてドア部の開放状態を維持するか否かも種々の条件等に応じて決定すればよい。
【0014】
〔2〕本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記ドア開放手段を、ドアの開き操作として自動車ボディを傾斜姿勢にすることで重力により自動車ボディのドアを開く構成にしてある点にある。
【0015】
つまり、この第2特徴構成によれば、自動車ボディを傾斜姿勢にして重力によりドアを開くから、例えば、ドアの一部を把持してその把持状態での引き操作や押し操作によりドアを開くなどの方式を採るに比べ、ドアを開く機構の構造を簡素にすることができて、設備コスト面で有利にすることができる。
【0016】
なお、第2特徴構成の実施においては、自動車ボディを傾斜姿勢にしてドアを開いた後、そのドアを開き状態に保ったままで自動車ボディを傾斜姿勢から水平姿勢に復帰させるようにし、これにより、静置ゾーンや後続の仮乾燥ゾーンにおいて自動車ボディを従前と同様に水平姿勢で搬送できるようにするのが望ましい。
【0017】
〔3〕本発明の第3特徴構成は、第1又は第2特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記静置ゾーンで、前記ドア開放手段によりドアが開かれた自動車ボディの内部に対しミスト排出用の空気を自動車ボディの開口部を通じて噴流状態で吹き込む空気噴出手段を設けてある点にある。
【0018】
つまり、この第3特徴構成によれば、ドア部の開放により自動車ボディの開口部を面積的に大きくしてボディ内部に対する通気性を大きく高めることと、空気噴出手段によりミスト排出用空気を自動車ボディの開口部を通じて噴流状態でボディ内部へ吹き込むこととの協働により、自動車ボディ内の浮遊塗料ミストを一層効果的にボディ外部へ流出させることができ、これにより、自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストを静置ゾーンにおいて十分にボディ外部に流出させるのに要する時間を一層効果的に短縮することができて、設備全体の生産能率を一層効果的に高めることができ、また、列状に搬送される自動車ボディを順次に塗装する場合では、静置ゾーンの必要ゾーン長を一層短くすることができて、設備の構築面でも一層有利にすることができる。
【0019】
なお、第3特徴構成の実施において、ミスト排出用空気の噴流状態での吹き込みとは、静置ゾーンにおいて例えば天井のほぼ全面から換気用空気を下向きに供給するなどのゾーン換気を実施する場合、その換気用空気の流速よりも大きな流速の気流束状態でミスト排出用空気を自動車ボディの開口部を通じて自動車ボディの内部に吹き込むことを言うものである。
【0020】
また、第3特徴構成の実施において、噴出したミスト排出用空気を通過させる自動車ボディの開口部は、窓部などの元々開放された開口部に限られるものではなく、ドア開放手段により開放状態にしたドア部であってもよい。
【0021】
第3特徴構成の実施において、自動車ボディの内部に対するミスト排出用空気の吹き込み向きは、対象とする自動車ボディの形状などに応じて決定すればよいが、その吹き込み向きを斜め下向きにすれば、ボディ内の下部に停滞し易い浮遊塗料ミストを一層効果的にボディ外部に流出させることができる。
【0022】
第1〜第3特徴構成の実施においては、ドア開放手段により開放状態にしたドア部を仮乾燥ゾーンにおいても開放状態に維持するとともに、仮乾燥ゾーンにおいて乾燥用の加熱空気を自動車ボディの開口部を通じて自動車ボディの内部に吹き込む状態でゾーン内に供給するようにし、これにより、仮乾燥ゾーンでのボディ内側の塗膜の乾燥を一層促進するのが望ましい。
【0023】
〔4〕本発明の第4特徴構成は塗装設備に係り、その特徴は、
塗料の噴霧により自動車ボディを塗装する塗装ゾーンと、
この塗装ゾーンから搬出される自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストをボディ外部に流出させる静置ゾーンと、
この静置ゾーンから搬出される自動車ボディを乾燥用加熱空気の流れの中に置いて、その自動車ボディの塗膜の固形分率を調整する仮乾燥ゾーンと、
この仮乾燥ゾーンから搬出される自動車ボディの塗膜上に塗装を行う重ね塗装ゾーンとを設け、
これら塗装ゾーン、静置ゾーン、仮乾燥ゾーン、重ね塗装ゾーンに対して自動車ボディを搬送装置により順次に通過させる塗装設備において、
前記静置ゾーンで自動車ボディの内部に対しミスト排出用の空気を自動車ボディの開口部を通じて噴流状態で吹き込む空気噴出手段を設けてある点にある。
【0024】
つまり、この第4特徴構成によれば、ドアが閉じられた状態で塗装ゾーンから搬出される自動車ボディを単に静置ゾーンにおいて放置する従来設備に比べ、空気噴出手段による自動車ボディの内部へのミスト排出用空気の噴流状態での吹き込みにより、自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストのボディ外部への流出を促進することができ、これにより、第1特徴構成と同様、塗装ゾーンから搬出される自動車ボディの内部に浮遊塗料ミストが残ることに対し、その浮遊塗料ミストを静置ゾーンにおいて十分にボディ外部に流出させるのに要する時間を従来設備に比べ効果的に短縮することができて、設備全体の生産能率を高めることができ、また、列状に搬送される自動車ボディを順次に塗装する場合では、静置ゾーンの必要ゾーン長を短くすることができて、設備の構築面でも有利にすることができる。
【0025】
なお、第4特徴構成の実施において、ミスト排出用空気の噴流状態での吹き込みとは、第3特徴構成と同様、静置ゾーンにおいて例えば天井のほぼ全面から換気用空気を下向きに供給するなどのゾーン換気を実施する場合、その換気用空気の流速よりも大きな流速の気流束状態でミスト排出用空気を自動車ボディの開口部を通じて自動車ボディの内部に吹き込むことを言うものである。
【0026】
また、第4特徴構成の実施において、自動車ボディの内部に対するミスト排出用空気の吹き込み向きは、第3特徴構成と同様、対象とする自動車ボディの形状などに応じて決定すればよいが、その吹き込み向きを斜め下向きにすれば、自動車ボディ内の下部に停滞し易い浮遊塗料ミストを一層効果的にボディ外部に流出させることができる。
【0027】
〔5〕本発明の第5特徴構成は、第3又は第4特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記空気噴出手段を、自動車ボディの搬送方向における下手側から上手側へ向けてミスト排出用空気を噴出する構成にしてある点にある。
【0028】
つまり、この第5特徴構成によれば、静置ゾーンにおいてミスト排出用空気を自動車ボディの内部に吹き込むのに、ミスト排出用空気を自動車ボディの搬送方向における下手側から上手側向きに噴出して自動車ボディの内部に吹き込むから、その吹き込んだミスト排出用空気によりボディ内の浮遊塗料ミストを自動車ボディの搬送方向における上手側(すなわち、仮乾燥ゾーンとは反対側)へ案内する状態でボディ外部へ流出させることができ、これにより、静置ゾーンにおいてミスト排出用空気の吹き込みによりボディ外部に流出させた浮遊塗料ミストが仮乾燥ゾーンに流入するのを効果的に防止することができて、浮遊塗料ミストの流入による仮乾燥ゾーンでの汚れの発生、及び、その汚れに原因する塗装不良の発生を一層効果的に防止することができる。
【0029】
なお、第5特徴構成の実施において、自動車ボディ搬送方向における下手側から上手側へ向けての空気噴出とは、厳密に自動車ボディの搬送方向に沿う方向での下手側から上手側へ向けての空気噴出に限られるものではなく、平面視や側面視において自動車ボディの搬送方向に対し傾斜する方向での下手側から上手側へ向けての空気噴出であってもよい。
【0030】
〔6〕本発明の第6特徴構成は、第3〜第5特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記空気噴出手段を、自動車ボディが設定搬送位置にあるとき自動的にミスト排出用空気を噴出する構成にしてある点にある。
【0031】
つまり、この第6特徴構成によれば、上記の設定搬送位置として、空気噴出手段が自動車ボディの内部に対し自動車ボディの開口部を通じてミスト排出用空気を適切に吹き込める位置を設定しておくことにより、自動車ボディの内部に対しミスト排出用空気を適切に吹き込めない状況の下でのミスト排出用空気の噴出で、空気噴出動力の浪費を招いたり、ボディ外側の塗膜に悪影響を与える等のことを防止することができ、この点、設備の運転コスト面や塗装品質の向上面などで一層有利にすることができる。
【0032】
〔7〕本発明の第7特徴構成は、第3〜第6特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記空気噴出手段を、自動車ボディの内部に対して吹き込むミスト排出用空気の噴出向きを経時的に変化させる構成にしてある点にある。
【0033】
つまり、この第7特徴構成によれば、静置ゾーンにおいて自動車ボディの内部に対しミスト排出用空気を単純に一定の噴出向きで吹き込むに比べ、その噴出向きの経時的変化によりミスト排出用空気を自動車ボディ内の各部に行き渡らせることができ、これにより、静置ゾーンにおいて自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストを一層効果的にボディ外部へ流出させることができる。
【0034】
なお、第7特徴構成の実施においては、自動車ボディにおける1つの開口部からのミスト排出用空気の吹き込みにおいて、そのミスト排出用空気の噴出向きを経時的に変化させる実施形態に限らず、噴出したミスト排出用空気を通過させる自動車ボディ開口部の変更を伴う状態でミスト排出用空気の噴出向きを経時的に変化させる実施形態を採るようにしてもよい。
【0035】
〔8〕本発明の第8特徴構成は、第1〜第7特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記静置ゾーンにおける天井のほぼ全面から換気用空気を下向きに供給し、かつ、前記静置ゾーンの床部から静置ゾーン内の空気を排出する静置ゾーン換気手段を設けてある点にある。
【0036】
つまり、この第8特徴構成によれば、静置ゾーンにおいて第1特徴構成又は第4特徴構成の実施により効果的に自動車ボディの外部へ流出させた浮遊塗料ミストを、上記静置ゾーン換気手段によるゾーン換気により静置ゾーンから速やかに排出することができ、これにより、静置ゾーンにおいてボディ外部に流出させた浮遊塗料ミストが仮乾燥ゾーンに流入するのを効果的に防止することができて、浮遊塗料ミストの流入による仮乾燥ゾーンでの汚れの発生、及び、その汚れに原因する塗装不良の発生を一層効果的に防止することができる。
【0037】
なお、第8特徴構成の実施においては、塗装ゾーンや重ね塗装ゾーンに対して装備されるのと同様の塗料ミスト捕集手段、すなわち、床部からの排出空気に含まれる塗料ミストを捕集して排出空気を浄化する手段を静置ゾーンに対しても装備するのが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
図1は自動車ボディ用の塗装設備を示し、1は塗装ゾーン、2は静置ゾーン、3は仮乾燥ゾーン、4は冷却ゾーン、5は後静置ゾーン、6は重ね塗装ゾーンであり、これら連続するトンネル状のゾーン1〜6に対して、被塗物としての自動車ボディBを搬送台車7に載置した状態でかつ所定間隔の縦列状態にして搬送装置(図示を省略)により順次に通過させることで、それら自動車ボディBを順次に塗装する。
【0039】
塗装ゾーン1及び重ね塗装ゾーン6には、図2に示す如く、塗装ロボット8ないし自動塗装機を配置してあり、これら塗装ロボット8や自動塗装機に装備した塗料噴霧機8aにより塗料を自動車ボディBに噴霧することで、それら塗装ゾーン1や重ね塗装ゾーン6に搬入された自動車ボディBを塗装する。そして例えば、塗装ゾーン1では水を溶媒とする水系塗料によるベース塗装を自動車ボディBに施すのに対し、重ね塗装ゾーン6では塗装ゾーン1で施した水系塗料によるベース塗装の塗膜の上にクリア塗料の塗膜を形成するクリア塗装を自動車ボディBに施す。
【0040】
塗装ゾーン1及び重ね塗装ゾーン6は、天井給気チャンバ9に供給される清浄な換気用空気SAを天井1a,6aのほぼ全面からゾーン内に下向き層流状に供給するとともに、格子床1b,6bを通じてゾーン内の空気を下方へ排出する構造にしてあり、また、塗装ゾーン1及び重ね塗装ゾーン6における格子床1b,6bの下方には、それら格子床1b,6bを通じてゾーン内から排出される空気EAに含まれる塗料ミスト(すなわち、自動車ボディBに塗着することなくゾーン外に排出された噴霧塗料)を捕集する塗料ミスト捕集装置10を配備してある。
【0041】
この塗料ミスト捕集装置10は、ゾーン内からの排出空気EAを洗浄水流下板10aからの流下洗浄水Wとともに絞り流路10bに対して高速通過させることにより、排出空気EA中の塗料ミストを洗浄水Wに捕捉させて排出空気EAを浄化するものであり、絞り流路10bは平面視で自動車ボディ搬送方向に延びるスリット状にして自動車ボディ搬送経路の下方箇所に配設してある。
【0042】
静置ゾーン2は、塗装ゾーン1で自動車ボディBに形成した塗膜を落ち着かせるとともに、塗装ゾーン1から搬出された自動車ボディBの内部に残る浮遊塗料ミストをボディ外部に流出させるゾーンであり、この静置ゾーン2は、塗装ゾーン1と同様、図3に示す如く天井給気チャンバ11に供給される清浄な換気用空気SAを天井2aのほぼ全面からゾーン内に下向き層流状に供給するとともに、格子床2bを通じてゾーン内の空気を下方へ排出する構造にしてある。
【0043】
また、静置ゾーン2における格子床2bの下方には、塗装ゾーン1や重ね塗装ゾーン6に対する塗料ミスト捕集装置10に比べ簡易ではあるが、格子床2bを通じてゾーン内からの排出される空気EAを洗浄水流下板12aからの流下洗浄水Wとともに円筒状の絞り流路12bに対して高速通過させることにより、その排出空気EA中の塗料ミスト(すなわち、静置ゾーン2において自動車ボディBの内部から流出した塗料ミスト)を洗浄水Wに捕捉させて排出空気EAを浄化する塗料ミスト捕集装置12を装備してある。
【0044】
そして、この静置ゾーン2において自動車ボディB内の浮遊塗料ミストをボディ外部へ流出させるのに、本実施形態では、自動車ボディBが塗装ゾーン1から静置ゾーン2に搬入された際、その自動車ボディBを載置した搬送台車7の後部(換言すれば、自動車ボディ搬送方向における上手側部分)を油圧等により持ち上げて、自動車ボディBを同図3において鎖線で示す如き前下がりの傾斜姿勢にすることで、自動車ボディBのドアdを重力により開き、それに続き、その搬送台車7の後部を下降させて自動車ボディBを水平姿勢に復帰させることで、自動車ボディBのドア部を図1(ロ)に示す如き開放状態にするドア開放装置13を静置ゾーン2に装備してある。
【0045】
つまり、このドア開放装置13により自動車ボディBのドアdを開いてドア部を開放状態にすることで、静置ゾーン2において自動車ボディBの内部に残る浮遊塗料ミストを円滑かつ速やかにボディ外部に流出させるようにしてある。
【0046】
仮乾燥ゾーン3は、静置ゾーン2から搬出される自動車ボディBを乾燥用加熱空気HAの流れの中に置くことで、塗装ゾーン1で自動車ボディBに形成した塗膜の乾燥を促進して、その塗膜の固形分率を後続の重ね塗装ゾーン6での塗装に適した値まで調整するゾーンであり、図4に示す如く、この仮乾燥ゾーン3の天井部及び両側壁部には、周部給気チャンバ14に供給される乾燥用加熱空気HAを自動車ボディBに向けて噴出する多数の加熱空気ノズル15を設け、また、仮乾燥ゾーン3の底部には、仮乾燥ゾーン3内の加熱空気を排出する排気口16を自動車ボディ搬送方向に並べて形成してある。
【0047】
この仮乾燥ゾーン3において自動車ボディBの塗膜の乾燥を乾燥用加熱空気HAにより促進するのに、本実施形態では、ドア開放装置13によるドアdの開き操作で開放状態にしたドア部を静置ゾーン2に続き図1(ロ)に示す如く開放状態に維持して、自動車ボディBの内部に対する乾燥用加熱空気HAの流通を良好にし、これにより、自動車ボディBにおける内側塗膜の乾燥が外側塗膜に比べ遅れることを抑止する。
【0048】
なお、仮乾燥ゾーン3に続く冷却ゾーン4では、冷却用空気をゾーン内に供給することで、仮乾燥ゾーン3において昇温した自動車ボディB、及び、その塗膜を後続の重ね塗装ゾーン6での塗装に適した温度まで冷却し、また、冷却ゾーン4に続く後静置ゾーン5では、冷却ゾーン4で冷却した塗膜を重ね塗装ゾーン6での塗装に先立ち温度的に安定させる。
【0049】
そして、本実施形態では、自動車ボディBが後静置ゾーン5から重ね塗装ゾーン6に搬入された際、その自動車ボディBのドアdを適当な閉じ機構により自動的に(ないしは手動により)閉じ、それまで開放状態に保っていたドア部を閉じた状態で所要の塗装を重ね塗装ゾーン6において自動車ボディBに施す。
【0050】
〔別の実施形態〕
次に本発明の別実施形態を列記する。
前述の実施形態では自動車ボディBのドアdを開くのに、自動車ボディBを傾斜姿勢にすることで重力によりドアdを開く例を示したが、本発明の実施においてドアdの開き操作方式は、この方式に限られるものではない。
【0051】
また、前述の実施形態ではドアdの開き操作を静置ゾーン2で行う例を示したが、場合によっては、ドアdの開き操作を塗装ゾーン1の出口部で行うようにしてもよい。
【0052】
静置ゾーン2において自動車ボディB内に残る浮遊塗料ミストをボディ外部へ効果的に流出させるのに、前述の実施形態では自動車ボディBのドアdをドア開放手段(ドア開放装置13)により開いてドア部を開放状態にする例を示したが、これに代え、図5に示す如く、ミスト排出用の空気MAを空気噴出手段17により自動車ボディBの開口部を通じて噴流状態で自動車ボディBの内部に吹き込むことで、静置ゾーン2において自動車ボディB内の浮遊塗料ミストをボディ外部へ効果的に流出させるようにしてもよい。
【0053】
また、自動車ボディBのドアdをドア開放手段13により開いてドア部を開放状態にすることと、空気噴出手段17によりミスト排出用空気MAを自動車ボディBの内部に吹き込むこととの併用により、静置ゾーン2において自動車ボディB内の浮遊塗料ミストをボディ外部へ効果的に流出させるようにしてもよい。
【0054】
なお、図5は、塗装ゾーン1に対する天井給気チャンバ9からの空気分流路17aと、その空気分流路17aに装備したブースタファン17bと、空気分流路17aを開閉するダンパ17cと、自動車ボディ搬送方向の下手側から上手側へ向けて斜め下向きに空気を噴出する空気ノズル17dとで上記の空気噴出手段17を構成した例を示し、この例では、塗装ゾーン1に対する天井給気チャンバ9から空気分流路17aへ分流した空気をブースタファン17bにより加圧して空気ノズル17dから噴出させることにより、その噴出空気をミスト排出用空気MAとして自動車ボディBのフロント窓部を通じ自動車ボディB内に吹き込むようにしてある。
【0055】
また、図5に示す例では、自動車ボディBが静置ゾーン2内における設定搬送位置にあることを検出する位置センサ18、及び、この位置センサ18の検出情報に基づきダンパ17cの開閉及びブースタファン17bの発停を行う噴射制御器19を設け、これにより、自動車ボディBが静置ゾーン2において設定搬送位置にあるとき自動的にミスト排出用空気MAを空気ノズル17dから噴出させる構成にしてある。
【0056】
静置ゾーン2において空気噴出手段17によりミスト排出用空気MAを自動車ボディBの内部に吹き込む場合、図5に示す空気ノズル17dの縦方向や横方向への首振り等によりミスト排出用空気MAの噴出向きを経時的に変化させるようにしてもよく、また、噴出したミスト排出用空気MAを通過させる自動車ボディ開口部の順次変更を伴う形態でミスト排出用空気MAの噴出向きを変化させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は自動車ボディ用の塗装設備において利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】塗装ゾーンから重ね塗装ゾーンに至る部分の側面図及び平面図
【図2】塗装ゾーン及び重ね塗装ゾーンの横断面図
【図3】静置ゾーンの側面図
【図4】仮乾燥ゾーンの横断面図
【図5】別実施形態を示す静置ゾーンの側面図
【符号の説明】
【0059】
B 自動車ボディ
1 塗装ゾーン
2 静置ゾーン
HA 乾燥用加熱空気
3 仮乾燥ゾーン
6 重ね塗装ゾーン
d ドア
13 ドア開放手段
MA ミスト排出用空気
17 空気噴出手段
6a 天井
SA 換気用空気
6b 床部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料の噴霧により自動車ボディを塗装する塗装ゾーンと、
この塗装ゾーンから搬出される自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストをボディ外部に流出させる静置ゾーンと、
この静置ゾーンから搬出される自動車ボディを乾燥用加熱空気の流れの中に置いて、その自動車ボディの塗膜の固形分率を調整する仮乾燥ゾーンと、
この仮乾燥ゾーンから搬出される自動車ボディの塗膜上に塗装を行う重ね塗装ゾーンとを設け、
これら塗装ゾーン、静置ゾーン、仮乾燥ゾーン、重ね塗装ゾーンに対して自動車ボディを搬送装置により順次に通過させる塗装設備であって、
前記静置ゾーンで、又は、前記塗装ゾーンの出口部で自動車ボディのドアを自動的に開いてドア部を開放状態にするドア開放手段を設けてある塗装設備。
【請求項2】
前記ドア開放手段を、ドアの開き操作として自動車ボディを傾斜姿勢にすることで重力により自動車ボディのドアを開く構成にしてある請求項1記載の塗装設備。
【請求項3】
前記静置ゾーンで、前記ドア開放手段によりドアが開かれた自動車ボディの内部に対しミスト排出用の空気を自動車ボディの開口部を通じて噴流状態で吹き込む空気噴出手段を設けてある請求項1又は2記載の塗装設備。
【請求項4】
塗料の噴霧により自動車ボディを塗装する塗装ゾーンと、
この塗装ゾーンから搬出される自動車ボディの内部に残る浮遊塗料ミストをボディ外部に流出させる静置ゾーンと、
この静置ゾーンから搬出される自動車ボディを乾燥用加熱空気の流れの中に置いて、その自動車ボディの塗膜の固形分率を調整する仮乾燥ゾーンと、
この仮乾燥ゾーンから搬出される自動車ボディの塗膜上に塗装を行う重ね塗装ゾーンとを設け、
これら塗装ゾーン、静置ゾーン、仮乾燥ゾーン、重ね塗装ゾーンに対して自動車ボディを搬送装置により順次に通過させる塗装設備であって、
前記静置ゾーンで自動車ボディの内部に対しミスト排出用の空気を自動車ボディの開口部を通じて噴流状態で吹き込む空気噴出手段を設けてある塗装設備。
【請求項5】
前記空気噴出手段を、自動車ボディの搬送方向における下手側から上手側へ向けてミスト排出用空気を噴出する構成にしてある請求項3又は4記載の塗装設備。
【請求項6】
前記空気噴出手段を、自動車ボディが設定搬送位置にあるとき自動的にミスト排出用空気を噴出する構成にしてある請求項3〜5のいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項7】
前記空気噴出手段を、自動車ボディの内部に対して吹き込むミスト排出用空気の噴出向きを経時的に変化させる構成にしてある請求項3〜6のいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項8】
前記静置ゾーンにおける天井のほぼ全面から換気用空気を下向きに供給し、かつ、前記静置ゾーンの床部から静置ゾーン内の空気を排出する静置ゾーン換気手段を設けてある請求項1〜7のいずれか1項に記載の塗装設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−272165(P2006−272165A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95051(P2005−95051)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000149790)株式会社大気社 (136)
【Fターム(参考)】