説明

塗装鋼板の製造方法

【課題】塗膜中にアルミニウム粒子を分散させた塗装鋼板であって、強アルカリ性の環境下においてもアルミニウム粒子の溶出を抑制することができる塗装鋼板を提供すること。
【解決手段】耐熱性樹脂、フッ素樹脂および未被覆アルミニウム粒子を含むトップ塗料を、鋼板の表面に塗布し、焼き付ける。耐熱性樹脂としては、その分子鎖の両末端に水酸基を有する、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂もしくはポリアミドイミド樹脂またはこれらの組み合わせを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルカリ性に優れた塗装鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品を加熱する際にふっくら感を与えるため、加熱室内に水蒸気を供給する電子レンジが開発されている。このようなスチーム機能を有する電子レンジでは、蒸発皿を加熱して蒸発皿内の水を煮沸させることで、水蒸気を発生させている(例えば、特許文献1〜3参照)。蒸発皿の材料としては、セラミック、ステンレスやアルミニウムなどの金属材料、金属材料に塗装を施した塗装鋼板などが使用されている。
【0003】
蒸発皿の材料として塗装鋼板を用いる場合、蒸発皿の意匠性(メタリック感)を高めるために、塗膜中にアルミニウム粒子を分散させることがある。このように塗膜中にアルミニウム粒子を分散させる場合、アルミニウム粒子の耐薬品性(耐酸性、耐アルカリ性)を向上させる観点から、不飽和カルボン酸またはその誘導体の熱硬化性樹脂の皮膜で被覆されたアルミニウム粒子を使用するのが一般的である(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−343844号公報
【特許文献2】特開2005−055142号公報
【特許文献3】特開2008−170149号公報
【特許文献4】特開2003−064283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スチーム機能を有する電子レンジでは、水道水の補給および煮沸を繰り返し行うため、蒸発皿には水道水の水垢(カルシウムやマグネシウムなど)が大量に蓄積する。この水垢に水が付着すると強アルカリ性の水溶液となるが、両性金属であるアルミニウムはこの水溶液に容易に溶解してしまう。したがって、塗膜中にアルミニウム粒子を分散させた塗装鋼板を成形加工した蒸発皿では、塗膜中のアルミニウム粒子の溶出が問題となる。
【0006】
強アルカリ性の環境下では、熱硬化性樹脂の皮膜で被覆されたアルミニウム粒子を使用した場合であっても、時間の経過とともに塗膜からアルミニウム粒子が溶出してしまう。したがって、樹脂被覆アルミニウム粒子を塗膜中に分散させた塗装鋼板を成形加工した蒸発皿であっても、時間の経過とともに塗膜からアルミニウム粒子が溶出してしまい、塗膜の変色やアルミニウム塩の析出などによる意匠性の低下、アルミニウム塩の析出による清掃回数の増加、塗膜が多孔質状になることによる耐食性の低下などの問題が生じる。これらの問題により、塗膜中にアルミニウム粒子を分散させた塗装鋼板を成形加工した蒸発皿は、長期間の使用に耐えられるものではなかった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、塗膜中にアルミニウム粒子を分散させた塗装鋼板であって、強アルカリ性の環境下においてもアルミニウム粒子の溶出を抑制することができる塗装鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、脱水縮合可能な所定の耐熱性樹脂に、有機樹脂で被覆されていないアルミニウム粒子を配合したトップ塗料を用いてトップ塗膜を形成することで上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の塗装鋼板の製造方法に関する。
[1]鋼板を準備するステップと、耐熱性樹脂、フッ素樹脂および未被覆アルミニウム粒子を含むトップ塗料を前記鋼板の表面に塗布するステップと、前記鋼板の表面に塗布されたトップ塗料を焼き付けるステップとを有し;前記耐熱性樹脂は、その分子鎖の両末端に水酸基を有する、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂もしくはポリアミドイミド樹脂またはこれらの組み合わせである、塗装鋼板の製造方法。
[2]前記未被覆アルミニウム粒子は、アスペクト比が10以上の鱗片状である、[1]に記載の塗装鋼板の製造方法。
[3]前記未被覆アルミニウム粒子は、平均粒径が6〜60μmの範囲内である、[1]または[2]に記載の塗装鋼板の製造方法。
[4]前記トップ塗料中の前記未被覆アルミニウム粒子の配合量は、前記耐熱性樹脂に対して0.1〜50質量%の範囲内である、[1]〜[3]のいずれかに記載の塗装鋼板の製造方法。
[5]前記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である、[1]〜[4]のいずれかに記載の塗装鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強アルカリ性環境下においても長期間使用されうる、耐熱性、耐食性、非粘着性および意匠性に優れた塗装鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1Aは、実施例1におけるNaOH水溶液に浸漬する前のNo.4の塗装鋼板の塗膜断面を示す電子顕微鏡写真である。図1Bは、実施例1におけるNaOH水溶液に浸漬した後のNo.4の塗装鋼板の塗膜断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】図2Aは、実施例1におけるNaOH水溶液に浸漬する前のNo.1の塗装鋼板の塗膜断面を示す電子顕微鏡写真である。図2Bは、実施例1におけるNaOH水溶液に浸漬した後のNo.1の塗装鋼板の塗膜断面を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の塗装鋼板の製造方法は、1)鋼板(塗装原板)を準備する第1のステップと、2)トップ塗料を準備する第2のステップと、3)トップ塗料を鋼板の表面に塗布する第3のステップと、4)鋼板の表面に塗布されたトップ塗料を焼き付ける第4のステップとを有する。
【0013】
1)第1のステップ
第1のステップでは、塗装原板となる鋼板を準備する。
【0014】
[塗装原板]
塗装原板となる鋼板の種類は、特に限定されない。塗装原板となる鋼板の例には、亜鉛めっき鋼板(電気Znめっき、溶融Znめっき)、合金化亜鉛めっき鋼板(溶融Znめっき後に合金化処理した合金化溶融Znめっき)、亜鉛合金めっき鋼板(溶融Zn−Mgめっき、溶融Zn−Al−Mgめっき、溶融Zn−Alめっき)、溶融Alめっき鋼板、溶融Al−Siめっき鋼板、ステンレス鋼板などが含まれる。高温環境における耐食性を向上させる観点からは、溶融Al−Siめっき鋼板が好ましい。
【0015】
塗装原板としてめっき鋼板を使用する場合、めっき原板の種類は、特に限定されず、例えば低炭素鋼や中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼などからなる鋼板が使用されうる。良好なプレス成形性が必要とされる場合は、めっき原板としては、低炭素Ti添加鋼、低炭素Nb添加鋼などからなる深絞り用鋼板が好ましい。
【0016】
塗装原板としてめっき鋼板を使用する場合であって、高温環境における耐食性に加えて、さらに加工部耐食性も要求される場合は、塗装原板として、めっき層を形成した後にさらに焼鈍した溶融Al−Siめっき鋼板を使用すればよい。180度折り曲げ加工などの曲げ加工を行った部位では、めっき層にクラックや剥離などの欠陥が発生して、めっき原板が露出する可能性がある。このようにめっき原板が露出してしまうと、スチーム機能を有する電子レンジまたはオーブンレンジの庫内などの厳しい腐食環境下では、めっき原板が露出している部位において赤錆が発生してしまい、見栄えが低下するおそれがある。このように加工部耐食性が問題となる場合は、めっき層を形成した後にさらに焼鈍した溶融Al−Siめっき鋼板を使用すればよい。溶融Al−Siめっき層を形成した後にさらに焼鈍することで、溶融Al−Siめっき層を軟質化することができる。その結果、溶融Al−Siめっき層は、圧縮、引っ張りを伴う複合加工によってもクラックの発生や剥離が生じず、加工に追従した変形が可能になる。したがって、複合加工を行っても、めっき原板を露出させるクラックや剥離などの欠陥が発生せず、加工部耐食性を向上させることができる。
【0017】
溶融Al−Siめっき層を焼鈍するには、めっき層を形成した溶融Al−Siめっき鋼板を350〜500℃で30分間以上保持すればよい(特開昭62−50454号公報参照)。このとき、溶融Al−Siめっき浴から引き上げてから焼鈍するまでの冷却速度を調整することで、めっき層とめっき原板との界面に形成される合金層の膜厚を薄くすることができ、溶融Al−Siめっき層の加工性をより向上させることができる。具体的には、溶融Al−Siめっき浴(浴温640℃以上)から引き上げられた鋼板(鋼帯)を平均冷却速度10℃/秒以上で400℃まで冷却した後に、350〜500℃で30分間以上加熱することが好ましい(特開2000−256816号公報参照)。
【0018】
また、高温耐食性および加工部耐食性に加えて、さらに切断端面部耐食性も要求される場合は、塗装原板として耐食性に優れるステンレス鋼板を使用することが考えられる。しかし、ステンレス鋼はアルミニウムなどに比べてマイクロ波の反射効率が低いため、塗装ステンレス鋼板を電子レンジの庫内材として使用すると、加熱効率の低下および消費電力の増加に繋がるおそれがある。このような場合は、マイクロ波の反射効率が高いAlめっき層またはAl−Siめっき層を形成したAlめっきステンレス鋼板を塗装原板とすることが好ましい。Alめっきステンレス鋼板は、高温耐食性、加工部耐食性および切断端面部耐食性に加えて、マイクロ波の反射効率も優れているため、電子レンジの庫内材として使用する塗装鋼板の塗装原板として好ましい。
【0019】
塗装原板としてAlめっきステンレス鋼板を使用する場合、めっき原板を構成するステンレス鋼の種類は、特に限定されないが、一般的に10〜35質量%のCrを含有するステンレス鋼が好ましい。好適なステンレス鋼の例としては、質量%で、Cr:10.5〜35質量%、C:0.08質量%以下、Si:1質量%以下、Mn:1質量%以下、N:0.02質量%以下であり、さらに必要に応じて、Ti:0.3質量%以下、Ni:0.6質量%以下、Nb:0.8質量%以下、Cu:1質量%以下、V:0.08質量%以下、B:0.01質量%以下、の1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
【0020】
Alめっきステンレス鋼板を作製するには、例えば、上記ステンレス鋼板の表面にFeやFe−B、Ni,Fe−Niなどのプレめっき層を形成した後に、このプレめっき層の上に溶融Al−Siめっき層を形成すればよい(特開平5−195182号公報参照)。プレめっき層は、溶融Alめっき層に対するステンレス鋼板表面の濡れ性を向上させる。プレめっき層の付着量は、片面あたり0.05〜5g/mの範囲内が好ましい。また、溶融Alめっき層の付着量は、両面あたり20〜120g/mの範囲内が好ましく、40〜100g/mの範囲内がより好ましい。
【0021】
[化成処理皮膜]
塗装原板となる鋼板は、耐食性および塗膜密着性を向上させる観点から、化成処理皮膜を形成されていてもよい。この場合、化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。化成処理皮膜の膜厚は、塗装原板の腐食の抑制および塗膜密着性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/mとなるように膜厚を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/mの範囲内となるように膜厚を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、付着量が5〜500mg/mとなるように膜厚を調整すればよい。
【0022】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法で塗装原板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2〜10秒の範囲内が好ましい。
【0023】
[プライマー塗膜]
塗装原板となる鋼板は、耐食性および塗膜密着性を向上させる観点から、鋼板表面または化成処理皮膜の表面にプライマー塗膜を形成されていてもよい。プライマー塗膜の構成は、特に限定されない。通常、プライマー塗膜は、有機樹脂をベースとして防錆顔料を含有する。有機樹脂の種類および防錆顔料の種類は、特に限定されない。有機樹脂は、後述するトップ塗膜と同様の耐熱性樹脂が用いられうるが、必ずしもトップ塗膜と同一である必要はない。防錆顔料の例には、リン酸マグネシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウムなどが含まれる。
【0024】
プライマー塗膜は、透明でもよいが、任意の着色顔料を加えて着色されていてもよい。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄などが含まれる。また、プライマー塗膜には、鱗片状無機質添加材や無機質繊維などを加えて塗膜硬度および耐摩耗性を向上させてもよい。鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、硫酸バリウムフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、合成アルミナフレーク、シリカフレークなどが含まれる。また、無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。
【0025】
プライマー塗膜の膜厚は、特に限定されないが、0.5〜30μmの範囲内が好ましい。膜厚が0.5μm未満の場合、耐食性および塗膜密着性の効果が十分に得られない可能性がある。また、プライマー塗膜が着色塗膜の場合は、塗装原板を隠蔽するために3μm以上の膜厚が好ましい。一方、膜厚が30μm超の場合、塗膜表面が柚子肌状になって外観が劣化するとともに、焼き付ける際にワキが発生しやすくなる。
【0026】
プライマー塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、有機樹脂や防錆顔料などを含むプライマー塗料を化成処理鋼板の表面に塗布し、焼き付ければよい。プライマー塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。また、焼き付け温度は、到達板温で300℃〜400℃の範囲内が好ましく、焼き付け時間は、30〜180秒の範囲内が好ましい。
【0027】
2)第2のステップ
第2のステップでは、鋼板表面に塗布するトップ塗料を準備する。トップ塗料は、耐熱性樹脂をベースとしてフッ素樹脂および未被覆アルミニウム粒子を含有する。
【0028】
[耐熱性樹脂]
ベースとなる耐熱性樹脂としては、分子鎖の両末端に水酸基(−OH)を有する、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂もしくはポリアミドイミド樹脂またはこれらの組み合わせが使用される。本発明の製造方法では、ベースとなる耐熱性樹脂として、分子鎖の両末端に水酸基(−OH)を有する、脱水縮合可能な樹脂を使用することを一つの特徴とする。これらの分子鎖の両末端に水酸基を有する樹脂は、塗膜焼成時に脱水縮合により高分子量化する。
【0029】
分子鎖の両末端に水酸基を有するポリエーテルスルホン樹脂は、例えば式(1)で示される。分子鎖の両末端に水酸基を有するポリフェニルスルフィド樹脂は、例えば式(2)で示される。分子鎖の両末端に水酸基を有するポリアミドイミド樹脂は、例えば式(3)で示される。式(1)〜(3)におけるl〜nを調整して、後述の樹脂分子量に調整すればよい。
【化1】

【0030】
焼き付ける前の耐熱性樹脂の分子量(ポリスチレン換算数平均分子量)は、特に限定されないが、5000〜50000の範囲内が好ましく、15000〜30000の範囲内がより好ましい。分子量が小さすぎる場合、脱水縮重合による分子間の架橋密度が大きくなりすぎ、トップ塗膜の加工性が低下してしまう。また、分子量が大きすぎる場合、溶剤に対する溶解度が低下して塗料を形成するのが困難となり、かつ軟化点が高くなってトップ塗料の焼き付け温度が上昇してしまう。耐熱性樹脂のポリスチレン換算数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0031】
[溶剤]
トップ塗料の溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などの非プロトン性極性溶剤;ジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)やジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)などのエーテル類;塩化メチレンや四塩化炭素などの脂肪族炭化水素の塩化物などが用いられる。これらの溶剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、これらの溶剤に、樹脂の溶解性を低下させない範囲でキシレンなどの炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコールなどの溶剤を添加してもよい。
【0032】
[フッ素樹脂]
トップ塗膜に非粘着性を付与するために、トップ塗料にはフッ素樹脂が配合される。フッ素樹脂の種類は、特に限定されないが、非粘着性および耐熱性を付与する観点から融点が270℃以上の熱溶融性フッ素樹脂が好ましい。そのようなフッ素樹脂の例には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレンなどの重合体または共重合体が含まれる。これらの中では、非粘着性の持続性および耐熱性の観点から、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が特に好ましい。
【0033】
上記熱溶融性フッ素樹脂は、平均粒径が1μm以下の粒子状であることが好ましい。ここで「平均粒径」とは、溶媒中に分散させた熱溶融性フッ素樹脂粒子の粒度分布をレーザ回折法にて測定し、積算分布が50%になる粒子径(D50、中位径、median径)をいう。平均粒径が1μm以下の熱溶融性フッ素樹脂粒子は、塗膜焼成時に容易に溶融し、トップ塗膜の表面にフッ素樹脂からなる薄膜を形成する。この薄膜をより確実に形成するためには、熱溶融性フッ素樹脂粒子の平均粒径は、0.5μm以下であることが特に好ましい。熱溶融性フッ素樹脂粒子の平均粒径(D50)は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD−1100;株式会社島津製作所)を用いて、レーザ回折法により測定することができる。
【0034】
フッ素樹脂の配合量は、ベースとなる耐熱性樹脂に対し10〜200質量%の範囲内が好ましく、50〜150質量%の範囲内がより好ましく、80〜120質量%の範囲内が特に好ましい。配合量が10質量%未満の場合、非粘着性を十分に発揮させることができない。一方、配合量が200質量%超の場合、化成処理皮膜やプライマー塗膜などに対するトップ塗膜の密着性が低下しやすい。
【0035】
[未被覆アルミニウム粒子]
トップ塗膜に意匠性(メタリック感)を付与するために、トップ塗料にはアルミニウム粒子が配合される。本発明の製造方法では、アルミニウム粒子として「未被覆アルミニウム粒子」をトップ塗膜に配合することを一つの特徴とする。ここで「未被覆アルミニウム粒子」とは、粒子表面が有機樹脂で被覆されておらず、粒子表面(主として酸化アルミニウムからなる)の少なくとも一部が外部に露出しているアルミニウム粒子を意味する。製造工程によっては、アルミニウム粒子の表面に脂肪酸などの粉砕助剤が付着していることがあるが(特許文献4参照)、粒子表面が有機樹脂で被覆されていなければ、粉砕助剤が付着していても「未被覆アルミニウム粒子」に該当する。未被覆アルミニウム粒子は、アルミニウムのみから構成されていてもよいし、アルミニウム基合金から構成されていてもよい。アルミニウムの純度は、特に限定されない。
【0036】
未被覆アルミニウム粒子の形状は、鱗片状(フレーク状)、粒状、板状、塊状など特に限定されないが、塗膜に意匠性(メタリック感)を付与する観点からは、鱗片状であることが好ましい。未被覆アルミニウム粒子の形状が鱗片状の場合、そのアスペクト比は、10以上が好ましく、15以上が特に好ましい。アスペクト比が10未満の場合、塗膜中における未被覆アルミニウム粒子の配向性が乱れてしまい、光輝感を十分に向上させることができないおそれがある。なお、本明細書において「アルミニウム粒子のアスペクト比」とは、「平均粒径(D50)/平均厚み」を意味する。また、「平均粒径」とは、溶媒中に分散させたアルミニウム粒子の粒度分布をレーザ回折法にて測定し、積算分布が50%になる粒子径(D50、中位径、median径)をいう。アルミニウム粒子の平均粒径(D50)は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD−1100;株式会社島津製作所)を用いて、レーザ回折法により測定することができる。アルミニウム粒子の平均厚みは、走査型電子顕微鏡(例えば、S−3700N;株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて、断面観察により測定することができる。
【0037】
未被覆アルミニウム粒子の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、6〜60μmの範囲内が好ましく、7〜40μmの範囲内がより好ましい。平均粒径が6μm未満の場合、光輝感を十分に向上させることができない。一方、平均粒径が60μm超の場合、未被覆アルミニウム粒子の一部がトップ塗膜から突出して、耐食性が低下するおそれがある。前述の通り、アルミニウム粒子の平均粒径(D50)は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD−1100;株式会社島津製作所)を用いて、レーザ回折法により測定することができる。
【0038】
未被覆アルミニウム粒子の配合量は、ベースとなる耐熱性樹脂に対し0.1〜50質量%の範囲内が好ましく、0.5〜30質量%の範囲内がより好ましい。配合量が0.1質量%未満の場合、光輝感を十分に向上させることができない。一方、配合量が50質量%超の場合、トップ塗膜の凝集力が低下してしまい、トップ塗膜の加工性が低下してしまうおそれがある。
【0039】
[その他の顔料]
トップ塗膜を着色するために、任意の着色顔料をトップ塗料に配合してもよい。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄などが含まれる。また、トップ塗膜の塗膜硬度および耐摩耗性を向上させるために、鱗片状無機質添加材や無機質繊維などをトップ塗料に配合してもよい。鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、シリカフレークなどが含まれる。また、無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。
【0040】
3)第3のステップ
第3のステップでは、第2のステップで準備したトップ塗料を、第1のステップで準備した鋼板の表面に塗布する。
【0041】
トップ塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法、浸漬法などが含まれる。
【0042】
トップ塗料の塗布量は、特に限定されないが、第4のステップで焼き付けた後の膜厚が5〜40μmの範囲内となる量であることが好ましい。乾燥膜厚が5μm未満の場合、非粘着性を十分に持続させることができない。一方、乾燥膜厚が40μm超の場合、塗膜表面が柚子肌状になって外観が劣化するとともに、焼き付ける際にワキが発生しやすくなる。加工性の観点からは、トップ塗膜の膜厚は、5〜20μmの範囲内が好ましい。
【0043】
4)第4のステップ
第4のステップでは、第3のステップで塗布されたトップ塗料を焼き付ける。この工程により、ベースとなる耐熱性樹脂は、脱水縮重合により高分子量化(硬化)する。また、フッ素樹脂は、トップ塗膜の表面に移動して薄膜を形成する。
【0044】
焼き付け温度は、到達板温で350℃〜450℃の範囲内が好ましく、焼き付け時間は、60〜300秒の範囲内が好ましい。この条件で焼き付けると、ベースとなる耐熱性樹脂が脱水縮重合により十分に硬化する。また、十分な量のフッ素樹脂をトップ塗膜の表面に移動させて、優れた非粘着性を発揮させることができる。
【0045】
以上の手順により、トップ塗膜内にアルミニウム粒子が分散し、かつトップ塗膜の表層にフッ素樹脂からなる薄膜が形成されている塗装鋼板(以下「本発明の塗装鋼板」ともいう)を製造することができる。
【0046】
本発明の塗装鋼板では、鋼板表面(あるいは化成処理皮膜またはプライマー塗膜の上)にトップ塗膜が形成されている。トップ塗膜の表層には、フッ素樹脂からなる層が形成されており、その下に耐熱性樹脂をマトリックスとする層が形成されている。アルミニウム粒子は、この耐熱性樹脂層内に分散する(図2A参照)。
【0047】
前述の通り、従来の塗装鋼板には、強アルカリ環境下においてはアルミニウム粒子が溶出してしまうという問題があった。すなわち、耐アルカリ性に優れているとされる、有機樹脂(例えば、アクリル樹脂)の皮膜で被覆されたアルミニウム粒子を使用した場合であっても、長時間使用すると、有機樹脂が徐々に分解して樹脂とアルミニウム粒子との密着性が低下し、有機樹脂とアルミニウム粒子との界面にアルカリ成分が侵入して、アルミニウム粒子が溶出してしまっていた。
【0048】
これに対し、本発明の塗装鋼板では、トップ塗料を焼き付ける際に、耐熱性樹脂の水酸基とアルミニウム粒子表面の酸化皮膜の水酸基とが脱水縮合することにより、耐熱性樹脂とアルミニウム粒子が強固に密着していると考えられる。その結果、本発明の塗装鋼板では、耐熱性樹脂とアルミニウム粒子との界面にアルカリ成分が侵入することができず、アルミニウム粒子の溶出を防ぐことができる。
【0049】
このように、本発明の製造方法によれば、塗膜中にアルミニウム粒子を分散させた塗装鋼板であって、強アルカリ性の環境下においてもアルミニウム粒子が溶出しない塗装鋼板を製造することができる。
【0050】
また、本発明の塗装鋼板は、強アルカリ環境下においてもアルミニウム粒子が溶出せず、トップ塗膜の緻密性が維持される(多孔質状にならない)ため、強アルカリ環境下においても優れた耐食性を発揮することができる。さらに、本発明の塗装鋼板は、その表面にフッ素樹脂層が形成されているため、優れた非粘着性を発揮することができる。さらに、本発明の塗装鋼板は、耐熱性樹脂を高分子量化(硬化)させてトップ塗膜を形成しているため、耐熱性に優れている。
【0051】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0052】
[実施例1]
1.塗装鋼板の作製
板厚0.5mmのSPCCを基材として、片面めっき付着量40g/mの溶融Al−9%Siめっき鋼板を作製した。本実施例では、この溶融Al−9%Siめっき鋼板を塗装原板とした。塗装原板の表面を脱脂した後、表1に示す組成のクロムフリー化成処理液をTiおよびZrの総金属元素換算付着量が3.5mg/mとなるようにバーコーターで塗布した。化成処理液を塗布した鋼板を到達板温100℃で10秒間加熱して、化成処理皮膜を形成した。
【表1】

【0053】
次いで、化成処理された塗装原板の表面に、プライマー塗料を塗布し、到達板温360℃で90秒間焼き付けて、乾燥膜厚5μmのプライマー塗膜を形成した。プライマー塗料は、溶剤(N−メチル−2−ピロリドン(NMP)50%、メチルイソブチルケトン(MIBK)20%、キシレン30%)に、耐熱性樹脂および防錆顔料を添加して調製した。
【0054】
耐熱性樹脂は、数平均分子量が22000〜24000の両末端に水酸基を有するポリエーテルスルホン樹脂(商品名PES5003P;住友化学工業株式会社)、または数平均分子量が17000〜19000の両末端に塩素基を有するポリエーテルスルホン樹脂(商品名PES4100P;住友化学工業株式会社)を使用した。防錆顔料は、リン酸ジルコニウムを使用した。プライマー塗料中の防錆顔料の配合量は、18質量%とし、耐熱樹脂の配合量は11質量%とした。
【0055】
次いで、プライマー塗膜の上にトップ塗料を塗布し、到達板温400℃で90秒間焼き付けて、乾燥膜厚10μmのトップ塗膜を形成した。トップ塗料は、プライマー塗料と同じ溶剤に耐熱性樹脂、熱溶融性フッ素樹脂粒子およびアルミニウム粒子を添加して調製した。
【0056】
耐熱性樹脂は、プライマー塗料と同じものを使用した。熱溶融性フッ素樹脂粒子は、平均粒径が0.2μmのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体粒子(ネオフロンAP;ダイキン工業株式会社)を使用した。アルミニウム粒子は、その表面に不飽和脂肪酸(オレイン酸)のみが付着しているアルミニウム粒子(アルペースト;東洋アルミニウム株式会社)、またはその表面がアクリル系樹脂で被覆されているアルミニウム粒子(アルペーストFZ;東洋アルミニウム株式会社)を使用した。アルミニウム粒子のアスペクト比は、いずれも20であり、アルミニウム粒子の平均粒径(D50)は、いずれも32μmである。トップ塗料中の耐熱性樹脂の配合量は、プライマー塗料と同じである。熱溶融性フッ素樹脂粒子の配合量は3質量%とし、アルミニウム粒子の配合量は7質量%とした。
【0057】
2.耐アルカリ性試験
各塗装鋼板(No.1〜4)から試験片(50mm×50mm)を切り出し、耐アルカリ性試験を実施した。各試験片を95℃の2%NaOH水溶液(pH14)に70時間浸漬し、変色の有無により耐アルカリ性を評価した。変色がまったく見られなかった場合を「○」、やや変色した場合を「△」、顕著に変色した場合を「×」と評価した。各塗装鋼板の耐アルカリ性試験の結果を表2に示す。各塗装鋼板において、プライマー塗膜に含まれる耐熱性樹脂の種類と、トップ塗膜に含まれる耐熱性樹脂の種類とは同一である。
【0058】
【表2】

【0059】
図1は、No.4の塗装鋼板(比較例)の、NaOH水溶液に浸漬させる前の塗膜断面を示す電子顕微鏡(SEM)写真(図1A)およびNaOH水溶液に浸漬させた後の塗膜断面を示す電子顕微鏡(SEM)写真(図1B)である。図2は、No.1の塗装鋼板(実施例)の、NaOH水溶液に浸漬させる前の塗膜断面を示す電子顕微鏡(SEM)写真(図2A)およびNaOH水溶液に浸漬させた後の塗膜断面を示す電子顕微鏡(SEM)写真(図2B)である。図1および図2の写真において、「P」はプライマー塗膜、「T」はトップ塗膜を示し、「F」はフッ素樹脂層(黒色)、「Al」はアルミニウム粒子(白色)を示している。また、図1Bの写真において、「*」はアルミニウム粒子が抜けた箇所(黒色)を示している。
【0060】
表2に示されるように、No.2〜4の塗装鋼板(比較例)では、NaOH水溶液に浸漬すると鋼板表面が変色してしまった。これは、図1に示されるように、NaOH水溶液に浸漬したことで、トップ塗膜からアルミニウム粒子が溶出しまったためと考えられる(図1Bの「*」参照)。これに対し、No.1の塗装鋼板(実施例)では、NaOH水溶液に浸漬しても変色がほとんど観察されなかった。また、図2に示されるように、NaOH水溶液に浸漬した後も、トップ塗膜からアルミニウム粒子が溶出していなかった(図2Bの「Al」参照)。
【0061】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板は、強アルカリ性の環境下においてもアルミニウム粒子が溶出せず、意匠性(メタリック感)を維持できることがわかる。
【0062】
[実施例2]
実施例2では、塗装原板のめっき層を焼鈍することで、塗装鋼板の加工部耐食性も向上させうることを示す。
【0063】
1.塗装鋼板の作製
塗装原板として、以下の2種類の溶融Al−9%Siめっき鋼板を準備した。塗装原板Aと塗装原板Bとは、めっき層を形成した後に焼鈍処理を行ったかどうかという点のみ異なる。
[塗装原板A]
・溶融Al−9%Siめっき鋼板
・基材:板厚0.5mmのSPCC
・片面めっき付着量:40g/m
・めっき層を形成した後に焼鈍処理無し
[塗装原板B]
・溶融Al−9%Siめっき鋼板
・基材:板厚0.5mmのSPCC
・片面めっき付着量:40g/m
・めっき層を形成した後に焼鈍処理有り(420℃で30時間加熱)
【0064】
塗装原板Aおよび塗装原板Bを用いて、実施例1のNo.1の塗装鋼板と同様の手順で塗装鋼板(No.5、6)を作製した。塗装原板Aを用いたNo.5の塗装鋼板は、実施例1のNo.1の塗装鋼板と同じものである。No.5の塗装鋼板とNo.6の塗装鋼板とは、塗装原板の種類のみが異なる。
【0065】
2.加工部耐食性試験
各塗装鋼板(No.5、6)から試験片を切り出し、加工部耐食性試験を実施した。180度密着折り曲げ加工を行った後、各試験片の端面をシールした。加工後の各試験片について、JIS K2246に準拠して70℃で200時間湿潤試験を行った。試験後、各試験片の表面に赤錆が発生しているか否かを観察して、加工部耐食性を評価した。赤錆の発生が無い場合を「○」、赤錆の発生がある場合を「×」と評価した。表3は、各塗装鋼板の分析結果を示す表である。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示されるように、めっき層を焼鈍していない塗装原板Aを使用したNo.5(No.1)の塗装鋼板では、加工部において赤錆が発生していた。これは、加工時にめっき層などにクラックが発生して、下地鋼が露出したためと考えられる。一方、めっき層を焼鈍した塗装原板Bを使用したNo.6の塗装鋼板では、赤錆が全く発生しなかった。これは、めっき層を焼鈍して軟質化することで、加工時にめっき層にクラックが発生するのが抑制されたためと考えられる。
【0068】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板は、めっき層を焼鈍した塗装原板を使用することで、加工部耐食性も向上させうることがわかる。
【0069】
[実施例3]
実施例3では、塗装原板としてAlめっきステンレス鋼板を使用することで、塗装原板としてステンレス鋼板を使用した場合に比べて、塗装鋼板のマイクロ波反射特性を向上させうることを示す。
【0070】
1.塗装鋼板の作製
塗装原板として、以下の2種類のフェライト系ステンレス鋼板を準備した。
[塗装原板C]
・溶融Al−9%Siめっきステンレス鋼板
・基材:板厚0.5mmのフェライト系ステンレス鋼板(Cr:11.16質量%、C:0.006質量%、Si:0.57質量%、Mn:0.2質量%、N:0.008質量%、Ni:0.12質量%、Ti:0.19質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼)
・片面めっき付着量:40g/m
[塗装原板D]
・フェライト系ステンレス鋼板(Cr:17.03質量%、C:0.007質量%、Si:0.11質量%、Mn:0.17質量%、N:0.01質量%、Ti:0.19質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼)
・板厚:0.5mm
【0071】
塗装原板Cおよび塗装原板Dを用いて、実施例1のNo.1の塗装鋼板と同様の手順で塗装鋼板(No.7、8)を作製した。
【0072】
2.マイクロ波反射特性試験
各塗装鋼板(No.7、8)について、マイクロ波の反射特性を評価した(JIS C9250参照)。市販の電子レンジの加熱室の壁面のうち、マグネトロンが配置されている面を除く全面に、No.7またはNo.8の塗装鋼板をトップ塗膜が内側を向くように貼り付けた。そして、加熱室底面の中央部に、容量1000mLのビーカーを2個互いに接するように並べ、各ビーカーに水温10±1℃の水を1000mL入れた。この状態で、水2000mLを所定の出力(300W、500Wまたは800W)で2分間加熱し、加熱前後の水温を測定した。測定された加熱前後の平均水温の値から、以下の式により、単位時間あたりの水に吸収されたエネルギー(W)を算出した。
単位時間あたりの水に吸収されたエネルギー(W)
=水の比熱×水の重量(g)×平均水温の上昇値(℃)/加熱時間(秒)
=4.2×2000(g)×(T2−T1)(℃)/120(秒)
=70×(T2−T1)
ここで、「T1」は加熱前の平均水温(℃)であり、「T2」は加熱後の平均水温(℃)である。
【0073】
表4は、電子レンジの出力と、単位時間あたりの水に吸収されたエネルギーとの関係を示す表である。
【表4】

【0074】
No.7の塗装鋼板(めっき原板:溶融Al−9%Siめっき層ステンレス鋼板)を庫内材とした場合と、No.8の塗装鋼板(めっき原板:ステンレス鋼板)を庫内材とした場合とを比較すると、No.7の塗装鋼板を使用した場合の方が、すべての設定出力において水に吸収されたエネルギーが大きかった。これは、ステンレス鋼板よりも、溶融Al−9%Siめっき層ステンレス鋼板の方がマイクロ波の反射特性に優れているためと考えられる。
【0075】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板では、塗装原板としてAlめっきステンレス鋼板を使用することで、塗装原板としてステンレス鋼板を使用した場合に比べて、マイクロ波反射特性を向上させうることがわかる。
【0076】
[実施例4]
実施例4では、塗装原板としてAlめっきステンレス鋼板を使用することで、塗装原板としてAlめっき鋼板を使用した場合に比べて、塗装鋼板の端面部耐食性も向上させうることを示す。
【0077】
1.塗装鋼板の作製
塗装原板として、以下の2種類の溶融Al−9%Siめっき鋼板を準備した。塗装原板Eと塗装原板Fとは、めっき原板がステンレス鋼板かどうかという点のみ異なる。
[塗装原板E]
・溶融Al−9%Siめっきステンレス鋼板
・基材:板厚0.5mmのステンレス鋼板(Cr:11.16質量%、C:0.006質量%、Si:0.57質量%、Mn:0.2質量%、N:0.008質量%、Ni:0.12質量%、Ti:0.19質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼)
・片面めっき付着量:40g/m
[塗装原板F]
・溶融Al−9%Siめっき鋼板
・基材:板厚0.5mmのSPCC
・片面めっき付着量:40g/m
【0078】
塗装原板Eおよび塗装原板Fを用いて、実施例1のNo.1の塗装鋼板と同様の手順で塗装鋼板(No.9、10)を作製した。塗装原板Fを用いたNo.10の塗装鋼板は、実施例1のNo.1の塗装鋼板と同じものである。No.9の塗装鋼板とNo.10の塗装鋼板とは、塗装原板の種類のみが異なる。
【0079】
2.端面部耐食性試験
各塗装鋼板から試験片を切り出し、端面部耐食性試験を実施した。各試験片について、JIS K2246に準拠して70℃で200時間湿潤試験を行った。試験後、各試験片の切断面に赤錆が発生しているか否かを観察して、端面部耐食性を評価した。切断端面全体の長さ(試験片の周囲長;厚さは考慮しない)に対する赤錆が発生している部分の長さを「赤錆発生率」として、赤錆発生率が5%未満の場合を「○」、5%以上30%未満の場合を「△」、30%以上の場合を「×」と評価した。表5は、端面部耐食性試験の結果を示す表である。
【0080】
【表5】

【0081】
表5に示されるように、めっき原板がSPCCの塗装原板Fを使用したNo.10(No.1)の塗装鋼板では、切断端面部において赤錆が発生していた。一方、めっき原板がステンレス鋼板の塗装原板Eを使用したNo.9の塗装鋼板では、赤錆が全く発生しなかった。
【0082】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板では、塗装原板としてAlめっきステンレス鋼板を使用することで、塗装原板としてAlめっき鋼板を使用した場合に比べて、塗装鋼板の端面部耐食性も向上させうることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の塗装鋼板は、耐アルカリ性、耐熱性、耐食性、非粘着性および意匠性に優れているため、例えば水蒸気供給機能を有する過熱調理器の加熱室内の部材用のプレコート鋼板として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を準備するステップと、
耐熱性樹脂、フッ素樹脂および未被覆アルミニウム粒子を含むトップ塗料を前記鋼板の表面に塗布するステップと、
前記鋼板の表面に塗布されたトップ塗料を焼き付けるステップと、を有し、
前記耐熱性樹脂は、その分子鎖の両末端に水酸基を有する、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂もしくはポリアミドイミド樹脂またはこれらの組み合わせである、塗装鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記未被覆アルミニウム粒子は、アスペクト比が10以上の鱗片状である、請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記未被覆アルミニウム粒子は、平均粒径が6〜60μmの範囲内である、請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記トップ塗料中の前記未被覆アルミニウム粒子の配合量は、前記耐熱性樹脂に対して0.1〜50質量%の範囲内である、請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である、請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−194872(P2011−194872A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151158(P2010−151158)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】