説明

塗装面検査方法および清拭除塵布

【課題】被塗装面に付着した埃等を十分に拭き取りつつ、被塗装面の微細な突起を高い精度で検知することが可能な塗装面検査方法を提供する。
【解決手段】この塗装面検査方法は、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をラッセル編みして得た製編生地2を、その長さ方向に溶断して形成された清拭除塵布1を用いて、被塗装面に付着した埃等を拭き取る一方で、清拭除塵布1のラッセル編みの編み目S1に被塗装面の微細な突起Tが入り込み、引っ張り伸びしない編み目S1の周囲の繊維f1が突起Tに引っ掛かることによる触感で突起Tを検知することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の被塗装面の微細な突起を触感で検知する塗装面検査方法および該塗装面検査方法で用いられる清拭除塵布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のボデー等の被塗装物では、プレス時や溶接時に発生した微粉末等の異物が塗装前の被塗装面に付着したり、中塗り塗装時の十分に乾燥していない塗装面に空気中の浮遊物等の異物が付着したりすることに起因して、塗装完了面に微細な突起(塗装ブツという)が形成されることがある。このような塗装ブツを放置したまま一連の塗装作業が終了した場合、最終的な仕上がり段階での塗装面の美的外観が大きく損なわれることがあるため、塗装作業前や塗装作業中の所定段階において被塗装面に付着した異物やその異物による塗装ブツを探し出して(検知して)除去する必要がある。
【0003】
上記塗装ブツの検知方法として、従来、作業者の目視による検知が行われていた。具体的には、被塗装面に多方向から一度に光を照射し、被塗装面に形成された陰影によって塗装ブツを検知していた。ところが、この方法では、長時間(例えば、3時間程度)連続して作業すると、目の疲労から塗装ブツを見落としやすくなるという不都合があった。
【0004】
そこで、作業者の手に薄いフィルター状の手袋を装着し、その手袋を介して被塗装面に触れることで、被塗装面の塗装ブツを触感で検知する方法が提案されている(特許文献1参照)。なお、被塗装面に素手で直接触れることにより塗装ブツを検知することも可能であるが、この場合、手の表面に負担がかかるとともに被塗装面に手の皮脂が付着するおそれがある。
【0005】
上記特許文献1に記載の検知方法により塗装ブツを検知した場合には、研磨布や砥石等を用いて被塗装面から塗装ブツを削り取ることで被塗装面を平滑にする作業が行われる。また、この作業と並行して、削り取られた塗装ブツの微小片や空気中の浮遊物等の異物が被塗装面に付着して新たな塗装ブツとなるのを防ぐために、被塗装面を清拭する作業が行われる。
【0006】
そして、上記特許文献1には、塗装ブツを検知するための上記手袋を用いて、被塗装面に付着した埃等を拭き取る手段が開示されている。
【特許文献1】特開2005−9045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記特許文献1の更なる改良であって、編み目の周囲の繊維または糸が実質的に引っ張り伸びしないというラッセル編みまたはトリコット編み特有のロック機能に着目してなされたものであり、被塗装面に付着した埃等を十分に拭き取りつつ、被塗装面の微細な突起を高い精度で検知することが可能な塗装面検査方法および清拭除塵布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の請求項1に記載の塗装面検査方法は、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をラッセル編みして得た製編生地、または、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をトリコット編みして得た製編生地を、その長さ方向に切断して形成された清拭除塵布を用いて、被塗装面に付着した埃等を拭き取る一方で、前記清拭除塵布のラッセル編みまたはトリコット編みの編み目に前記被塗装面の微細な突起が入り込み、引っ張り伸びしない前記編み目の周囲の繊維または糸が前記突起に引っ掛かることによる触感で前記突起を検知することを特徴とする。
【0009】
この請求項1に記載の塗装面検査方法では、ラッセル編みまたはトリコット編みにより形成された編み目に被塗装面の突起が入り込んだときに、編み目の周囲の繊維(または糸)が実質的に引っ張り伸びしないので、突起に繊維が引っ掛かると、その衝撃が直ちに手に触感として伝わる。これにより、被塗装面の微細な突起を高い精度で検知することができる。また、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をラッセル編みして得た製編生地、または、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をトリコット編みして得た製編生地を切断して形成された清拭除塵布を用いたので、被塗装面に付着した埃等を十分に拭き取ることができる。なお、ここでの「切断」とは、インパルス溶断装置等による溶断や、押切機等による裁断を含む。
【0010】
上記請求項1に記載の塗装面検査方法において、好ましくは、前記清拭除塵布が、前記製編生地を幅方向に2つ折りし、その2つ折りした生地をその長さ方向に溶断しかつ溶断端末を溶着して袋状に形成されている(請求項2)。このようにすれば、袋状の清拭除塵布は、開口部と、2つ折りされた底部と、これらの間の両側部とを有する。そして、上記開口部は、ラッセル編みまたはトリコット編みの生地の端部で形成されていてフィラメント切れが無い。また、上記両側部は、溶断された端末であって溶着しているので、糸クズ(リント)の脱落が無い。更に、上記底部は、2つ折りされた部分からなり、糸クズの脱落が無い。更にまた、開口部から手の先を入れて拭く使用形態を採ることができる袋状に形成されているので、形崩れがなくて拭き易く、しかも汚れたら上下面を逆さにするか或いは新しいものに替えることで、簡単に拭き面を替えることができる。
【0011】
上記請求項1または2に記載の塗装面検査方法において、前記清拭除塵布は、幅寸法が10cm以上30cm以下で、長さ寸法が10cm以上120cm以下であることが好ましい(請求項3)。このようにすれば、使い易い深さ寸法の清拭除塵布が得られる。
【0012】
上記請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装面検査方法において、前記ラッセル編みの製編生地からなる清拭除塵布は、長さ方向に延びる鎖編みの本数が1インチ当り6本以上28本以下であることが好ましい(請求項4)。
【0013】
上記請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装面検査方法において、前記トリコット編みの製編生地からなる清拭除塵布は、長さ方向に延びる鎖編みの本数が1インチ当り6本以上34本以下であることが好ましい(請求項5)。
【0014】
上記請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗装面検査方法において、好ましくは、前記清拭除塵布が、埃付着用の粘着剤を有する(請求項6)。このようにすれば、自動車等の被塗装面を拭き取った埃が空中に飛散しないように粘着剤に付着させ得る。
【0015】
また、この発明の請求項7に記載の清拭除塵布は、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をラッセル編みして得た製編生地を幅方向に折り畳み、その折り畳んだ生地をその長さ方向に溶断しかつ溶断端末を溶着して袋状に形成された清拭除塵布であって、幅寸法が10cm以上30cm以下で、長さ寸法が10cm以上120cm以下で、長さ方向に延びる鎖編みの本数が1インチ当り6本以上28本以下であることを特徴とする。
【0016】
また、この発明の請求項8に記載の清拭除塵布は、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をトリコット編みして得た製編生地を幅方向に折り畳み、その折り畳んだ生地をその長さ方向に溶断しかつ溶断端末を溶着して袋状に形成された清拭除塵布であって、幅寸法が10cm以上30cm以下で、長さ寸法が10cm以上120cm以下で、長さ方向に延びる鎖編みの本数が1インチ当り6本以上34本以下であることを特徴とする清拭除塵布。
【0017】
これらの請求項7または8に記載の清拭除塵布では、当該清拭除塵布を用いて自動車等の被塗装面を拭くときに、ラッセル編みまたはトリコット編みにより形成された編み目の周囲の繊維(または糸)が実質的に引っ張り伸びしないので、被塗装面の突起がラッセル編みまたはトリコット編みの編み目に入り込んだ場合、突起が繊維に引っ掛かると、その衝撃が直ちに手に触感として伝わる。これにより、被塗装面の微細な突起を高い精度で検知することができる。また、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をラッセル編みして得た製編生地、または、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をトリコット編みして得た製編生地を溶断して形成された清拭除塵布を用いれば、被塗装面に付着した埃等を十分に拭き取ることができる。また、例えば2つ折りして形成された袋状の清拭除塵布は、開口部と、2つ折りされた底部と、これらの間の両側部とを有する。そして、上記開口部は、ラッセル編みまたはトリコット編みの生地の端部で形成されていてフィラメント切れが無い。また、上記両側部は、溶断された端末であって溶着されているので、糸クズ(リント)の脱落が無い。更に、上記底部は、2つ折りされた部分からなり、糸クズの脱落が無い。更にまた、開口部から手の先を入れて拭く使用形態を採ることができる袋状に形成されているので、形崩れがなくて拭き易く、しかも汚れたら上下面を逆さにするか或いは新しいものに替えることで、簡単に拭き面を替えることができる。また、清拭除塵布の各寸法を上記範囲に設定することで、使い易い深さ寸法の清拭除塵布が得られる。
【0018】
上記請求項7または8に記載の清拭除塵布において、埃付着用の粘着剤を有することが好ましい(請求項9)。このように構成すれば、自動車等の被塗装面を拭き取った埃が空中に飛散しないように粘着剤に付着させ得る。
【発明の効果】
【0019】
この発明の塗装面検査方法および清拭除塵布によれば、ラッセル編みまたはトリコット編みにより形成された編み目に被塗装面の突起が入り込んだときに、編み目の周囲の繊維(または糸)が実質的に引っ張り伸びしないので、突起に繊維が引っ掛かると、その衝撃が直ちに手に触感として伝わる。その結果、被塗装面の微細な突起を高い精度で検知することができる。また、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をラッセル編みして得た製編生地、または、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をトリコット編みして得た製編生地を溶断して形成された清拭除塵布を用いたので、被塗装面に付着した埃等を十分に拭き取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0021】
図1〜図3に、合成繊維からなる長繊維をラッセル編みして得た製編生地から清拭除塵布を製造する工程を示す。図1は製編生地2を示す平面図、図2は製編生地2を幅方向に2つ折りした状態を示す平面図、図3は2つ折りした状態の製編生地2を、2つ折り部分2bとは反対方向(A方向)から見た正面図である。まず、本発明の一実施形態による清拭除塵布1の構成および製造方法について説明する。
【0022】
この製編生地2は、図1に示すように、例えば幅寸法W1が20cm以上60cm以下の或る一定寸法の生地であって、その長手方向Lに製編されつつ送られるようになっている。
【0023】
本実施形態では、仕上がった製編生地2における1インチ当りのゲージ数が6以上28以下で、1インチ当りのコース数が30以上60以下となるように、ラッセル編みにより製編が行われる。なお、上記「1インチ当りのゲージ数」とは、製編生地2の1インチ(約2.54cm)の幅に何本の鎖編21が配されているかを示す数値であり、例えば図4に示したラッセル編みにおいて、図示範囲の幅寸法が1インチと仮定すると、1インチ当りのゲージ数は5となる。また、上記「1インチ当りのコース数」とは、製編生地2の鎖編21の1インチの長さに何個のループ(鎖)が配されているかを示す数値であり、図4に示したラッセル編みにおいて、図示範囲の長さ寸法が1インチと仮定すると、1インチ当りのコース数は7となる。
【0024】
また、製編生地2に使用される糸使いとしては、例えばポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロン等の合成繊維からなる長繊維またはその加工糸であり、1本当りの太さが30デニール(糸や繊維の太さの単位。長さ450mで0.05gのものを1デニールとし、長さが同じで重さが2倍・3倍ならば2デニール・3デニールとする。)以上500デニール以下のものを好適に使用することができる。
【0025】
続いて、得られた製編生地2を、図1に一点鎖線にて示す部分2bで幅方向に2つ折りし、つまり幅寸法〔W1〕/2の2つ折り生地2Aを作り(図2参照)、その2つ折り生地2Aを、図3に示すように、所定位置に設けたインパルス溶断装置3により所定長さ(本実施形態では、10cm以上120cm以下)に溶断して清拭除塵布1にする。
【0026】
なお、上記製編生地2を、幅方向に4つ折りして4つ折り生地を作り、その4つ折り生地をインパルス溶断装置3により所定長さに溶断することで清拭除塵布を作製してもよい。
【0027】
このようにして製造された清拭除塵布1は、幅方向に2つ折りされた部分2bが底部1aとなり、その底部1aとは反対側が製編生地2の幅方向両端2cからなる開口部1bとなり、インパルス溶断装置3により溶断された部分が両側面1cとなった、袋状に形成される。なお、製編生地2の幅寸法W1を20cm以上60cm以下としたのは、その半分の深さ寸法の使い易い清拭除塵布1が得られるようにするためである。
【0028】
上記製編生地2は、図4に示すように、鎖編21と挿入糸22とで構成され、各鎖編21においてループの端が上段のコースに連結されているたて編組織となっていて、幅方向の両端には糸の端が無い組織である。なお、製編生地2としては、合成繊維からなる長繊維の加工糸をラッセル編みしたものを含む。
【0029】
上記インパルス溶断装置3は、図2および図3に示すように2つ折り生地2Aをその表裏両側から挟んで、受け板3aと溶断部3bとが設けられたもので、受け板3a及び溶断部3bは生地2Aの幅寸法〔W1〕/2よりも若干長い寸法の長さを有する。本実施形態では受け板3aを固定、溶断部3bを受け板3aに対して接離するように構成され、かつ、溶断部3bにパルス電流を一定時間だけ供給し、その溶断部3bを、間に生地2Aを挟んだ状態で受け板3aに押し付け、パルス電流の供給が終了して一定時間経過後に溶断部3bが受け板3aから遠ざかるようになっている。
【0030】
このインパルス溶断装置3による清拭除塵布1の溶断は、パルス電流の供給により加熱した溶断部3bが受け板3a側へ押し付けられ、これにより生地2Aから分離されることで行われる。そして、溶断された清拭除塵布1の溶断端末は、溶断部3bが清拭除塵布1の溶断部分を押し付けたままでパルス電流の供給終了に伴って冷却していき、その後に前記清拭除塵布1の溶断部分から遠ざかるので、生地2Aの表裏部分が溶着した状態とされる。この溶着した部分が上記側面1cとなる。なお、もう一方の片端末は同様にして既に溶着された側面1cであり、清拭除塵布1の幅寸法L1としては、開口部1bに手の先が入る寸法、例えば10cm以上20cm以下の任意の寸法に設定される。
【0031】
また、上述したインパルス溶断装置の代わりに、生地を溶断して清拭除塵布を分離でき、しかも清拭除塵布の両端を溶着できるような溶断溶着装置、例えば一定幅の溶着部分を形成してその溶着部分の途中位置をカットする構成の溶断溶着装置などを用いることも可能である。
【0032】
よって、得られた清拭除塵布1は、その両側面1cがそれぞれ溶着された状態で、かつ開口部1bが製編生地2の幅方向両端2cからなる袋状に形成され、2つ折り部分2bは底部1aとして機能する。
【0033】
したがって、この実施形態の清拭除塵布1は、合成繊維からなる長繊維をラッセル編みして得た製編生地2を溶断して形成されているので、被塗装面に付着した埃等を十分に拭き取ることができる。また、この清拭除塵布1は、開口部1bが解け難いラッセル編みからなる製編生地2の幅方向両端2cで形成され、また両側面1cが溶着されており、底部1aが2つ折り部分2bで形成されているので、4辺の全てにおいて、糸クズ(リント)の脱落が無い。加えて、摩擦の少ないラッセル編みによる製編のためフィラメント切れが無く、また自動車等の被塗装面を拭き取り時にバリに当たっても編み地のため糸クズの脱落が無い。
【0034】
また、この清拭除塵布1は、開口部1bに手の先を入れて拭く使用状態を採ることができる袋状に形成されているので、形崩れがなくて拭き易く、しかも汚れたら上下面を逆にするか或いは新しいものに替えることで、簡単に拭き面を替えることができる。加えて、被塗装面と手との間が生地1枚分の薄肉となっているので、被塗装面の凹凸や、異物の検知が容易である。
【0035】
更に、清拭除塵布1に粘着剤、例えば油や樹脂、或いは油脂ワックス等を含浸等させた構成とすることにより、自動車等の被塗装面を拭き取った埃が空中に飛散しないように粘着剤に付着させ得る。なお、粘着剤としては、上記以外で埃を付着し得るものも含むことは勿論である。
【0036】
次に、上記構成の清拭除塵布1を用いた塗装面検査方法について説明する。
【0037】
自動車のボデー等の被塗装物では、プレス時や溶接時に発生した微粉末等の異物が塗装前の被塗装面に付着したり、中塗り塗装時の十分に乾燥していない塗装面に空気中の浮遊物等の異物が付着したりすることに起因して、塗装完了面に微細な突起(塗装ブツという)が形成されることがある。このような塗装ブツを放置したまま一連の塗装作業が終了した場合、最終的な仕上がり段階での塗装面の美的外観が大きく損なわれることがあるため、塗装作業前や塗装作業中の所定段階において被塗装面に付着した異物やその異物による塗装ブツを探し出して(検知して)除去する必要がある。
【0038】
上記要望に応えるべく、作業者は、一方の手で研磨紙等の研磨部材を保持し、他方の手に袋状の清拭除塵布1を装着する。そして、当該作業者は、被塗装物の乾燥した被塗装面を他方の手で撫でながら、清拭除塵布1を介して手の触感によって被塗装面の塗装ブツを検知する。
【0039】
そして、被塗装面の塗装ブツを検知した場合、作業者は、一方の手に保持した研磨部材で被塗装面を研磨して被塗装面から塗装ブツを削り取る作業と、清拭除塵布1を装着した他方の手で被塗装面を撫でて塗装ブツを検知する作業とを行う。これらの作業は、塗装ブツが完全に除去されて被塗装面が平滑になるまで繰り返し行われる。また、前記作業と並行して、削り取られた塗装ブツの微小片や空気中の浮遊物等の異物が被塗装面に付着するのを防ぐべく、清拭除塵布1を用いて被塗装面を清拭する作業を行う。
【0040】
したがって、この実施形態の清拭除塵布1を用いた塗装面検査方法では、ラッセル編みにより形成された編み目S1に被塗装面の突起Tが入り込んだときに(図5(a)参照)、編み目S1の周囲の繊維(または糸)f1がロックされて実質的に引っ張り伸びしないので、図5(b)に示すように清拭除塵布1の移動(矢印参照)によって突起Tに繊維f1が引っ掛かると、その衝撃が直ちに手に触感として伝わる。これに対して、編み目S2の周囲の繊維f2が容易に引っ張り伸びする製編生地からなる清拭除塵布を用いた場合には、突起Tに繊維f2が引っ掛かると、図5(c)に示すように編み目S2の周囲の繊維f2が引っ張り伸びするため、その衝撃が手に伝わりにくい。これらのことから、本実施形態の清拭除塵布1を用いた塗装面検査方法では、被塗装面の微細な突起を高い精度で検知することができる。
【0041】
なお、この実施形態では、2つ折りしたときに清拭除塵布の深さ寸法と等しくなる幅寸法のラッセル編みによる製編生地を用いて清拭除塵布を製造する例について説明したが、これに限らず、折り畳んだときに清拭除塵布の深さ寸法よりも十分に長い幅寸法のラッセル編みによる製編生地を裁断した裁断生地を用いて清拭除塵布を製造してもよい。この場合、製編生地がラッセル編みによるため、裁断生地の幅方向の一端または両端がカットされていたとしても、上記実施形態とほぼ同様の効果を得ることが可能である。
【0042】
また、この実施形態では、合成繊維からなる長繊維をラッセル編みして得た製編生地2(図4参照)を用いて清拭除塵布を形成する例について示したが、これに限らず、合成繊維からなる長繊維をトリコット編みして得た製編生地102(図6参照)を用いて清拭除塵布を形成してもよく、これによっても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、この場合、仕上がった製編生地102における1インチ当りのゲージ数が6以上34以下で、1インチ当りのコース数が30以上60以下となるように、トリコット編みにより製編が行われるのが好ましい。
【実施例】
【0043】
次に、上記実施形態による清拭除塵布1に対応する試料A〜Dを作製し、それらの特性を比較する実験を行った。この実験では、試料(清拭除塵布1)A〜Dを以下の表1に示すように設定した。
【0044】
【表1】

【0045】
すなわち、試料Aは、ラッセル編みで製編されており、原糸として、ループ糸に75デニール(d)のレギュラー糸を、つなぎ糸に150デニールのウーリー糸を使用している。そして、試料Aでは、製編された生地の1インチ当りのゲージ数が9となるように、製編が行われた。
【0046】
また、試料Bは、ラッセル編みで製編されており、原糸として、ループ糸に75デニールのレギュラー糸を、つなぎ糸に150デニールのウーリー糸を使用している。そして、試料Aでは、製編された生地の1インチ当りのゲージ数が11となるように、製編が行われた。
【0047】
また、試料Cは、ラッセル編みで製編されており、原糸として、ループ糸に75デニールのレギュラー糸を、つなぎ糸に150デニールのウーリー糸を使用している。そして、試料Aでは、製編された生地の1インチ当りのゲージ数が18となるように、製編が行われた。
【0048】
また、試料Dは、ラッセル編みで製編されており、原糸として、ループ糸に75デニールのレギュラー糸を、つなぎ糸に200デニールのエアージェット糸を使用している。そして、試料Aでは、製編された生地の1インチ当りのゲージ数が18となるように、製編が行われた。
【0049】
そして、上記4つの試料A〜Cの被塗装面に対する面検性および清拭性を調べたところ、以下の表2に示す結果が得られた。なお、面検性とは、被塗装面に形成された突起(塗装ブツ)を検知する精度に関するものであり、その精度が優れていると判断された場合を「○」で、非常に優れていると判断された場合を「◎」で示した。また、清拭性とは、被塗装面に付着した埃等の異物を拭き取る精度に関するものであり、その精度が優れていると判断された場合を「○」で、非常に優れていると判断された場合を「◎」で示した。
【0050】
【表2】

【0051】
すなわち、試料Aでは、面検性および清拭性ともに非常に優れていると判断された。また、試料Bでは、面検性が優れていると判断され、清拭性が非常に優れていると判断された。また、試料CおよびDでは、清拭性が優れていると判断され、面検性が非常に優れていると判断された。
【0052】
このように、上記実施形態の清拭除塵布1に対応する試料A〜Dは、面検性および清拭性ともに優れた精度を発揮することが判明した。特に、試料Aは、面検性および清拭性ともに非常に優れた精度でかつバランス良く発揮することも判明した。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】合成繊維からなる長繊維をラッセル編みして得た製編生地から清拭除塵布を製造する工程を示す図であって、製編生地を示す平面図である。
【図2】合成繊維からなる長繊維をラッセル編みして得た製編生地から清拭除塵布を製造する工程を示す図であって、製編生地を幅方向に2つ折りした状態を示す平面図である。
【図3】合成繊維からなる長繊維をラッセル編みして得た製編生地から清拭除塵布を製造する工程を示す図であって、幅方向に2つ折りした状態の製編生地を、2つ折り部分とは反対方向(A方向)から見た正面図である。
【図4】ラッセル編みの編み目を示す図である。
【図5】ラッセル編みのロック機能を説明するための略図である。
【図6】トリコット編みの編み目を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 清拭除塵布
2,102 製編生地
2A 2つ折り生地
3 インパルス溶断装置
S1 編み目
T 突起
f1 繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をラッセル編みして得た製編生地、または、合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をトリコット編みして得た製編生地を、その長さ方向に切断して形成された清拭除塵布を用いて、被塗装面に付着した埃等を拭き取る一方で、前記清拭除塵布のラッセル編みまたはトリコット編みの編み目に前記被塗装面の微細な突起が入り込み、引っ張り伸びしない前記編み目の周囲の繊維または糸が前記突起に引っ掛かることによる触感で前記突起を検知することを特徴とする塗装面検査方法。
【請求項2】
前記清拭除塵布が、前記製編生地を幅方向に2つ折りし、その2つ折りした生地をその長さ方向に溶断しかつ溶断端末を溶着して袋状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の塗装面検査方法。
【請求項3】
前記清拭除塵布は、幅寸法が10cm以上30cm以下で、長さ寸法が10cm以上120cm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗装面検査方法。
【請求項4】
前記ラッセル編みの製編生地からなる清拭除塵布は、長さ方向に延びる鎖編みの本数が1インチ当り6本以上28本以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装面検査方法。
【請求項5】
前記トリコット編みの製編生地からなる清拭除塵布は、長さ方向に延びる鎖編みの本数が1インチ当り6本以上34本以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装面検査方法。
【請求項6】
前記清拭除塵布が、埃付着用の粘着剤を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗装面検査方法。
【請求項7】
合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をラッセル編みして得た製編生地を幅方向に折り畳み、その折り畳んだ生地をその長さ方向に溶断しかつ溶断端末を溶着して袋状に形成された清拭除塵布であって、
幅寸法が10cm以上30cm以下で、長さ寸法が10cm以上120cm以下で、長さ方向に延びる鎖編みの本数が1インチ当り6本以上28本以下であることを特徴とする清拭除塵布。
【請求項8】
合成繊維からなる長繊維またはその加工糸をトリコット編みして得た製編生地を幅方向に折り畳み、その折り畳んだ生地をその長さ方向に溶断しかつ溶断端末を溶着して袋状に形成された清拭除塵布であって、
幅寸法が10cm以上30cm以下で、長さ寸法が10cm以上120cm以下で、長さ方向に延びる鎖編みの本数が1インチ当り6本以上34本以下であることを特徴とする清拭除塵布。
【請求項9】
埃付着用の粘着剤を有することを特徴とする請求項7または8に記載の清拭除塵布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−100133(P2008−100133A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282737(P2006−282737)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(390031923)協和産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】