説明

塩分量の測定方法

【課題】試料中に含まれるクレアチニンを精度良く、かつ再現性良く定量することができるクレアチニン濃度の測定方法、測定デバイス、及び測定装置を提供すること。
【解決手段】本発明のクレアチニン濃度測定方法は、(A)クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含むクレアチニン定量用試薬と、クレアチニンを含む試料とを混合して、クレアチニンによって金属錯体を還元させる工程、(B)工程Aにおいて還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する工程、並びに(C)工程Bにおいて測定された還元された金属錯体の量に基づき、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を求める工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるクレアチニンや塩分の定量を行うための測定方法、測定デバイス、及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれるクレアチニン濃度の測定は、臨床化学や分析化学の分野において重要である。クレアチニンは筋肉の内在代謝の産物であるため、尿中のクレアチニン量は総筋肉質量を反映することが知られている。したがって、人間が一日に排泄する尿中のクレアチニン量は一般に個人ごとに一定であり、日間変動が無いといわれている。そのため、尿中のクレアチニン量は排泄される尿の濃淡の尺度として用いられることがある。また、尿中及び血中のクレアチニン量は尿毒症や腎機能の低下によって増減する。そのため、尿中または血中のクレアチニン量の測定により、尿毒症や腎機能の低下の有無を知ることができる。
【0003】
クレアチニン濃度の測定方法としては、アルカリ性のピクリン酸溶液を用いたヤッフェ(Jaffe)反応に基づく方法が知られている。この方法においては、ピクリン酸がクレアチニンと反応することにより得られる橙赤色の生成物を分光学的に測定する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他のクレアチニン濃度の測定方法として、クレアチニンと特異的に反応する酵素を用いる方法が知られている。酵素を用いる方法としては、例えば、クレアチニンデイミナーゼを用いてクレアチニンを分解する方法がある(例えば、特許文献2参照)。この方法では、クレアチニンの分解により生成するアンモニア量をpHや電位の変化などから測定することにより、クレアチニン濃度を得ている。
【0005】
酵素を用いる他の方法として、下記の式(1)〜(3)の反応により、クレアチニン濃度を測定する方法がある。
【0006】
クレアチニン+水 → クレアチン (1)
クレアチン+水 → サルコシン+尿素 (2)
サルコシン+水+酸素 →
グリシン+ホルムアルデヒド+過酸化水素 (3)
式(1)〜(3)の反応を触媒する酵素として、それぞれ順にクレアチニンアミドヒドロラーゼ(クレアチニナーゼ)、クレアチンアミジノヒドロラーゼ(クレアチナーゼ)、及びサルコシンオキシダーゼまたはサルコシンデヒドロゲナーゼが用いられる。ここで、クレアチニンの定量方法としては、例えば、ペルオキシダーゼとともにロイコ色素やトリンダー(Trinder)試薬を利用し、式(3)において生成した過酸化水素を呈色させて分光学的に定量する方法が用いられている(例えば、特許文献3参照)。また、他のクレアチニン定量方法として、式(3)において生成した過酸化水素を電極で電気化学的に酸化し、流れる電流からクレアチニンを定量する方法が用いられている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0007】
また、酵素を用いるさらに他の方法として、上記式(1)及び(2)の反応に加えて、上記式(3)の反応に代えて、サルコシンと電子伝達体(メディエータ)との反応を用いてクレアチニンを定量する方法が提案されている(例えば、特許文献6及び7参照)。
【0008】
特許文献6には、基板上に少なくとも一対の作用極及び対極を備え、電極上または電極周辺の基板上で試薬溶液を乾燥させることにより試薬を固定化したクレアチニンバイオセンサが開示されている。試薬溶液は、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ及びフェリシアン化カリウム(メディエータ)をpH7〜8.5の緩衝液中に溶解させることにより得ている。また、緩衝液のpHが7未満またはpHが8.5を超えると、酵素活性が低下するため好ましくないことが開示されている。
【0009】
特許文献7には、サルコシンオキシダーゼとともに、シクロデキストリンにより包摂されたメディエータを用い、比色法または電気化学的検出方法によりクレアチニンを定量することが開示されている。具体的には、シクロデキストリンにより包摂されるメディエータの例として、α−ナフトキノン(1,4−ナフトキノン)が挙げられている。しかし、特許文献7では、メディエータがシクロデキストリンに包摂されていない状態では、酵素を用いたクレアチニンの定量に不適切であることが開示されている。
【0010】
また、酵素を用いるさらに他の方法として、式(1)及び(2)の反応に加えて、式(3)の反応に代えて、サルコシンとテトラゾリウム指示薬との反応を用いて分光学的にクレアチニンを定量する方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。特許文献8には、クレアチニン定量用試薬組成物として、クレアチニン加水分解酵素、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ、テトラゾリウム指示薬であるチアゾリルブルー及びpH7.5のリン酸カリウムからなる混合試薬を用いることが開示されている。
【0011】
また、酵素を用いるさらに他の方法として、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ及びサルコシンデヒドロゲナーゼを用いて、クレアチニンをグリシンとホルムアルデヒドとに変えた後、生成したホルムアルデヒドを呈色剤により発色させ、その吸光度によりクレアチニンを定量する方法が提案されている(例えば、特許文献9参照)。特許文献9には、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ及び呈色剤に加えて、pH7.5のリン酸緩衝液と、ホルムアルデヒドの生成を促す反応促進剤としてフェリシアン化カリウムとを用い
ることが開示されている。
【0012】
また、酵素を用いるさらに他の方法として、クレアチニンの加水分解を触媒するポリマー、サルコシン酸化酵素及びメディエータを固定化した電極を用いて、クレアチニンを定量する方法が提案されている(例えば、特許文献10参照)。特許文献10には、メディエータとして、フェリシアン化カリウム、フェロセン、オスミウム誘導体、フェナジンメトサルフェート(PMS)などを用いることができることが開示されている。
【0013】
さらに他のクレアチニン定量方法として、1,4−ナフトキノン−2−スルホン酸カリウムを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献11、非特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第3705013号明細書
【特許文献2】特表2001−512692号公報
【特許文献3】特開昭62−257400号公報
【特許文献4】特表2003−533679号公報
【特許文献5】米国特許第5466575号明細書
【特許文献6】特開2006−349412号公報
【特許文献7】特開2005−118014号公報
【特許文献8】特開昭55−023998号公報
【特許文献9】特開昭54−151095号公報
【特許文献10】特開2003−326172号公報
【特許文献11】特開昭63−033661号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】サリバン、外1名、「クレアチニンの高特異的テスト」、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、1958年、第233巻、第2号、p.530−534(Sullivan,“A Highly Specific Test for Creatinine”,1958,Vol.233,No.2,p.530−534)
【非特許文献2】ナラヤナン、外1名、「クレアチニン:レヴュー」、クリニカル ケミストリー、1980年、第26巻、第8号、p.1119−1126(Narayanan,“Creatinine:A Review”,Clinical Chemistry,1980,Vol.26,No.8,p.1119−1126)
【非特許文献3】クーパー、外1名、「4つの尿中クレアチニン測定方法の評価」、クリニカル ケミストリー、1961年、第7巻、第6号、p.665−673(Cooper,“An Evaluation of Four Methods of Measuring Urinary Creatinine”,1961,Vol.7,No.6,P.665−673)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記従来の方法では、以下のような問題点があった。
【0017】
特許文献1に記載の方法においては、グリシン、ヒスチジン、グルタミン、セリン等のアミノ酸やタンパク質、グルコース等の糖、アセトン、ビリルビン等の妨害成分の影響を受けるため、上記物質を含む試料、例えば尿や血液などの生体試料中においてクレアチニンを正確に定量することは困難である。例えば、アミノ酸やグルコース等の糖は、ピクリン酸と反応してしまう。
【0018】
また、特許文献2に記載の方法においては、pHや電位の変化が不安定であるため、クレアチニンを正確に定量することは困難である。
【0019】
また、特許文献2〜10に記載の方法においては、試料中に塩分等のイオン種や尿素が存在すると、酵素が変性することにより、酵素の活性が低下する。そのため、試料中に含まれるイオン種や尿素の濃度によって、反応速度にばらつきが生じる。したがって、イオン種や尿素を含む試料、例えば尿や血液などの生体試料中のクレアチニンを定量する際には、試料中に含まれるイオン種や尿素の濃度によって測定結果に誤差が生じる。
【0020】
また、特許文献11及び非特許文献1に記載されている1,4−ナフトキノン−2−スルホン酸カリウムを用いる方法については、非特許文献2及び3において、測定結果の再現性が非常に低いという問題が報告されている。
【0021】
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑み、試料中に含まれるクレアチニンを精度良く、かつ再現性良く定量することができるクレアチニン濃度の測定方法、測定デバイス、及び測定装置を提供することを第1の目的とする。
【0022】
また、本発明は、尿中に含まれる塩分を精度良く、かつ再現性良く定量することができる塩分量の測定方法、測定デバイス、及び測定装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記従来の問題を解決するために、本発明のクレアチニン濃度測定方法は、
(A)クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含むクレアチニン定量用試薬と、クレアチニンを含む試料とを混合して、クレアチニンによって金属錯体を還元させる工程、
(B)工程Aにおいて還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する工程、並びに
(C)工程Bにおいて測定された還元された金属錯体の量に基づき、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を求める工程を含む。
【0024】
本発明の塩分量測定方法は、
(a)クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含むクレアチニン定量用試薬と、試料である尿とを混合して、尿中のクレアチニンによって試薬を還元させる工程、
(b)工程aにおいて還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する工程、
(c)尿の電気特性を測定する工程、及び
(d)工程bにおいて測定された還元された金属錯体の量と、工程cにおいて測定された電気特性とに基づいて、尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める工程を含む。
【0025】
工程cは工程aの前に行うか、工程bの後かつ工程dの前に行うことが好ましい。
【0026】
工程Aおよび工程aでは、混合後の試料のpHを2.5以上、7以下とすることが好ましく、3以上、6以下とすることがさらに好ましい。工程Aおよび工程aでは、試料にリン酸系緩衝剤をさらに混合することが好ましく、この場合、試料のpHを5〜6に調整することが特に好ましい。工程Aおよび工程aにおいて、試料にカチオン化親水性ポリマーを混合すると、クレアチニンと試薬との反応の再現性が向上する。カチオン化親水性ポリマーは、カチオン化グアガムであることが好ましい。
【0027】
本発明のクレアチニン濃度測定デバイスは、
上記クレアチニン濃度測定方法に用いられるデバイスであって、
クレアチニンを含む試料をクレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で収容するための試料収容室と、
試料収容室と連通し、試料収容室内に試料を導入するための試料導入口と、
試料収容室内に配置されたクレアチニン定量用試薬と、
試料収容室内に配置された2つ以上の電極、または試料収容室に形成された光学測定用の窓部と、を備え、
クレアチニン定量用試薬が、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含む。
【0028】
また、本発明の塩分量測定デバイスは、
上記塩分量測定方法に用いられるデバイスであって、
試料である尿をクレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で収容するための第1の試料収容室と、
第1の試料収容室と連通し、第1の試料収容室内に尿を導入するための第1の試料導入口と、
第1の試料収容室内に配置されたクレアチニン定量用試薬と、
第1の試料収容室内に配置された2つ以上の電極、または第1の試料収容室に形成された光学測定用の窓部と、
尿を収容するための第2の試料収容室と、
第2の試料収容室と連通し、第2の試料収容室内に尿を導入するための第2の試料導入口と、
第2の試料収容室内に配置された2つ以上の電極と、を備え、
クレアチニン定量用試薬が、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含む。
【0029】
本発明のクレアチニン濃度測定装置は、
上記クレアチニン濃度測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、
測定デバイスの試料収容室内において、クレアチニンによって還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する測定部、及び
測定部において測定された還元された金属錯体の量に基づき、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を求める演算部、を備える。
【0030】
本発明の塩分量測定装置は、
上記塩分量測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、
測定デバイスの第1の試料収容室内において、クレアチニンによって還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する第1の測定部、
測定デバイスの第2の試料収容室内において、尿の電気特性を測定する第2の測定部、及び
第1の測定部において測定された還元された金属錯体の量と、第2の測定部において測定された電気特性とに基づき、尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める演算部、を備える。
【発明の効果】
【0031】
本発明のクレアチニン濃度測定方法によれば、クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、試料中に含まれるクレアチニンを精度良く定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1におけるクレアチニン濃度測定デバイスの構成を示す分解斜視図である。
【図2】同実施の形態におけるクレアチニン濃度測定装置の外観を示す斜視図である。
【図3】同クレアチニン濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態2におけるクレアチニン濃度測定デバイスの構成を示す分解斜視図である。
【図5】同実施の形態におけるクレアチニン濃度測定装置の外観を示す斜視図である。
【図6】同クレアチニン濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態3における塩分量測定デバイスを第1の基板の第1の面からみた構成を示す分解斜視図である。
【図8】同塩分量測定デバイスを第1の基板の第2の面からみた構成を示す分解斜視図である。
【図9】同実施の形態における塩分量測定装置の外観を示す斜視図である。
【図10】同塩分量測定装置の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施例1における試料中のクレアチニン濃度と測定された電流値との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例4において第1の電極に印加された電位と測定された電流値との関係を示すグラフである。
【図13】同実施例における試料中のクレアチニン濃度と測定された電流値との関係を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例5における試料中のクレアチニン濃度と測定された電流値との関係を示すグラフである。
【図15】同実施例及び参考例のクレアチニン濃度測定デバイスを用いて測定された電流値のばらつきを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の発明者は、クレアチニンと、下記式(4)に記載の3価のアニオンであるヘキサシアノフェレート(慣用名:フェリシアネート)とが直接的に反応することを新たに見出した。この反応においては、クレアチニンに作用する酵素(例えばクレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチニンデイミナーゼ)およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、クレアチニンと3価のヘキサシアノフェレートとが反応して、クレアチニンの酸化物と、下記式(5)に記載の4価のアニオンであるヘキサシアノフェレート(慣用名:フェロシアネート)とが生成する。本発明者が分析した結果、メチルグアニジンおよびN−メチル尿酸が反応生成物として得られていることがわかった。そのため、この反応におけるクレアチニンの酸化物は、クレアトールであると推測される。
【0034】
[Fe(CN)6]3- (4)
[Fe(CN)6]4- (5)
また、本発明者は、クレアチニンと、下記式(6)に記載の3価のアニオンであるヘキサシアノルテネートとが直接的に反応することを新たに見出した。この反応においては、クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、クレアチニンと、3価のアニオンであるヘキサシアノルテネートとが反応して、クレアチニンの酸化物と、下記式(7)に記載の4価のアニオンであるヘキサシアノルテネートとが生成する。
【0035】
[Ru(CN)6]3- (6)
[Ru(CN)6]4- (7)
本発明は上記の新たな知見に基づいており、クレアチニン濃度測定用試薬として、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方を用いることを特徴とする。
【0036】
ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートは、通常、錯塩の状態で存在する。例えば固体の状態では、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートは、カウンターカチオンとともに錯塩を構成している。一方、溶液中では、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートの錯塩は電離しており、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートは溶媒和したアニオンの状態で存在する。
【0037】
クレアチニンと試薬との反応、特にクレアチニンと3価のヘキサシアノフェレートとの反応速度は、リン酸系緩衝剤の存在下で速くなる。また、リン酸系緩衝剤の存在下において、クレアチニンと試薬とを反応させる際、カチオン化親水性ポリマーが存在すると、反応の再現性が向上する。
【0038】
本発明のクレアチニン濃度測定方法は、
(A)クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含むクレアチニン定量用試薬と、クレアチニンを含む試料とを混合して、前記クレアチニンによって前記金属錯体を還元させる工程、
(B)前記工程Aにおいて還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する工程、並びに
(C)前記工程Bにおいて測定された前記還元された金属錯体の量に基づき、前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度を求める工程を含む。
【0039】
この方法によると、従来の測定方法と異なり、クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件において、クレアチニンとクレアチニン定量用試薬に含まれる金属錯体とが直接反応する。よって、塩分等のイオン種、尿素、タンパク質、アミノ酸、糖、アセトン、ビリルビンなどの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定方法よりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0040】
クレアチニン定量用試薬は、ヘキサシアノフェレートであることが好ましい。ヘキサシアノフェレートは、化学的に安定であり、かつクレアチニンと効率よく反応する。ヘキサシアノフェレートの錯塩としては、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウムなどを用いることができる。
【0041】
ヘキサシアノフェレートは、クレアチニンと反応する前は、3価のヘキサシアノフェレート、すなわちヘキサシアノフェレートの酸化体であっても、4価のヘキサシアノフェレート、すなわちヘキサシアノフェレートの還元体であってもよい。クレアチニン定量用試薬が、4価のヘキサシアノフェレートである場合は、試料中に溶解した4価のヘキサシアノフェレートを、3価へと酸化させればよい。3価のヘキサシアノフェレートは、例えば、4価のヘキサシアノフェレートを電極上で酸化することにより得ることができる。
【0042】
クレアチニン定量用試薬は、ヘキサシアノルテネートであってもよい。ヘキサシアノルテネートの錯塩としては、ルテニウムヘキサシアン化カリウム、ルテニウムヘキサシアン化ナトリウムなどを用いることができる。
【0043】
ヘキサシアノルテネートは、クレアチニンと反応する前は、3価のヘキサシアノルテネート、すなわちヘキサシアノルテネートの酸化体であっても、4価のヘキサシアノルテネート、すなわちヘキサシアノルテネートの還元体であってもよい。クレアチニン定量用試薬が、4価のヘキサシアノルテネートである場合は、試料中に溶解した4価のヘキサシアノルテネートを、3価へと酸化させればよい。3価のヘキサシアノルテネートは、例えば、4価のヘキサシアノルテネートを電極上で酸化することにより得ることができる。
【0044】
工程Aにおいて、試料に緩衝剤をさらに混合してもよい。
【0045】
緩衝剤としては、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸系緩衝剤、クエン酸系緩衝剤、フタル酸系緩衝剤、酢酸系緩衝剤、MES(2-Morpholinoethane sulfonic acid)緩衝剤などが挙げられる。緩衝剤を試料と混合することにより、試料のpHを3〜6に調整することが好ましい。特に、リン酸系緩衝剤を試料と混合することにより、試料のpHを5〜6に調整することが好ましい。
【0046】
クレアチニン定量用試薬がヘキサシアノフェレートである場合は、特に試料にリン酸系緩衝剤を混合することにより、試料のpHが5〜6に調整されることが好ましい。このようにすると、クレアチニンと3価のヘキサシアノフェレートとの直接反応の速度が速くなるため、測定時間を短縮することができる。
【0047】
リン酸系緩衝剤は、リン酸水素二カリウムとリン酸二水素カリウムとから構成されることが好ましい。これらのリン酸塩が試料中に溶解することによって、試料のpHを5〜6の範囲内に容易に調整することができる。
【0048】
試料におけるリン酸系緩衝剤の濃度(リン原子の濃度)は、5〜1100mMであることが好ましく、5〜500mMであることが、さらに好ましい。本発明者は、リン酸系イオンの濃度の増加に伴い、クレアチニンと3価のヘキサシアノフェレートとの反応の速度が速くなることを見出した。リン酸系緩衝剤の濃度が5mM以上であれば、十分な反応速度が得られる。また、1100mMはリン酸系緩衝剤の溶解度の上限である。
【0049】
工程Aでは、緩衝剤に加えて、さらに、カチオン化親水性ポリマーを試料に混合してもよい。ヘキサシアノフェレート、ヘキサシアノルテネート及びリン酸系緩衝剤は、アニオン性である。よって、カチオン化親水性ポリマーのカチオン基により、試薬が静電気的に引き寄せられ、試薬が均一になるものと予想される。そのため、再現性良く、試料中に含まれるクレアチニンを定量することができるものと考察される。
【0050】
試料におけるカチオン化親水性ポリマーの濃度は、0.02〜0.5重量%であることが好ましい。カチオン化親水性ポリマーの濃度が0.02重量%以上であれば、十分な再現性向上の効果が得られる。また、カチオン化親水性ポリマーの濃度が0.5重量%以下であれば、カチオン化親水性ポリマーが試料中に良好に溶解することができる。
【0051】
カチオン化親水性ポリマーとしては、カチオン化グアガム(cationic guar gum)が挙げられる。グアガムはマメ科の植物であるグアの種子の胚乳部から得られる多糖類である。カチオン化グアガムは、グアガムのカチオン化物である。本発明において用いるカチオン化グアガムとしては、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドが挙げられる。
【0052】
本発明のクレアチニン濃度測定方法においては、リン酸系緩衝剤に加えて、さらに、カチオン化親水性ポリマーを試料に混合することにより、試料のpHを5〜6の範囲内に調
整することが最も好ましい。
【0053】
還元された金属錯体の量を電気化学的に測定する場合、
例えば、工程Bは、
(D)試料に2つ以上の電極を接触させ、前記2つの電極間に電圧を印加する工程、及び
(E)前記2つの電極間に流れる電流値または電荷量を検出する工程を含む。
【0054】
また、工程Cは、
工程Eにおいて検出された電流値または電荷量に基づいて、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を求める工程を含む。
【0055】
このようにすると、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を電気化学的に容易に求めることができる。
【0056】
還元された金属錯体の量を光学的に測定する場合、
例えば、工程Bは、
(F)試料に入射光を照射する工程、及び
(G)試料を透過した透過光または試料において反射した反射光を検出する工程を含む。
【0057】
また、工程Cは、
工程Gにおいて検出された透過光または反射光の強度に基づいて、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を求める工程を含む。
【0058】
このようにすると、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を光学的に容易に求めることができる。
【0059】
本発明の塩分量測定方法は、試料として尿を用い、上記クレアチニン濃度測定方法の工程A及びBに加えて、下記の工程c及びdを含む。
【0060】
すなわち、本発明の塩分量測定方法は、
(a)クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含むクレアチニン定量用試薬と、試料である尿とを混合して、尿中のクレアチニンによって金属錯体を還元する工程、
(b)工程aにおいて還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する工程、並びに
(c)尿の電気特性を測定する工程、及び
(d)工程bにおいて測定された還元された金属錯体の量と、工程cにおいて測定された電気特性とに基づいて、尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める工程を含む。
【0061】
クレアチニン定量用試薬が溶解していない尿の電気特性は、尿中に含まれる電解質の濃度を反映している。尿中に含まれる電解質の濃度は、尿中に含まれる塩分の濃度と相関がある。塩分等の成分は、水分摂取、発汗などの影響を受け、濃縮または希釈されて尿中に排泄される。そのため、昼間、夜間を問わず随時に採取された尿である随時尿中に含まれる塩分等の尿中成分の濃度は、尿の濃縮及び希釈の影響を受けて変動する。
【0062】
一方、上述のように、クレアチニンは筋肉量に依存して産生されることから、単位時間当たりの尿中へのクレアチニンの排泄量は一定であることが知られている。そこで、随時尿を用いた場合であっても、例えば、測定された尿中成分濃度のクレアチニン濃度に対する比(尿中成分/クレアチニン比)を求めることにより、尿の濃縮及び希釈の影響を補正することができる。
【0063】
本発明の塩分量測定方法では、クレアチニン濃度を高精度かつ再現性良く反映している、工程bにおける測定値と、塩分濃度を反映している、工程cにおいて測定された電気特性とを用いる。これにより、尿の濃縮及び希釈の影響が高精度かつ再現性良く補正される。よって、尿中への塩分の排泄量を適切に反映する値を求めることができる。
【0064】
ここで、尿の電気特性としては、抵抗、導電率、インピーダンス、入力された電流(または電圧)信号に対して出力される電圧(または電流)信号、入力された交流信号の位相と出力される交流信号の位相との位相差等が挙げられる。
【0065】
工程dにおいて求められる尿中への塩分の排泄量を反映する値としては、クレアチニン単位量当たりの塩分量、単位時間(例えば1日)当たりの尿中塩分排泄量、単位時間(例えば1日)当たりの塩分摂取量等が挙げられる。
【0066】
本発明のクレアチニン濃度測定デバイスは、
クレアチニンを含む試料をクレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で収容するための試料収容室と、
試料収容室と連通し、試料収容室内に試料を導入するための試料導入口と、
試料収容室内に配置されたクレアチニン定量用試薬と、を備え、
クレアチニン定量用試薬は、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含み、上記クレアチニン濃度測定方法に用いられる。
【0067】
このデバイスによると、従来の測定デバイスと異なり、試料収容室内において、クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、クレアチニンと試薬に含まれる金属錯体とが直接反応する。よって、塩分等のイオン種、尿素、タンパク質、アミノ酸、糖、アセトン、ビリルビンなどの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。また、ヘキサシアノフェレート、ヘキサシアノルテネート及びリン酸系緩衝剤は、アニオン性であり、カチオン化親水性ポリマーのカチオン基により静電気的に引き寄せられるため、試薬が均一となるものと考えられる。そのため、再現性良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができるものと考察される。
【0068】
クレアチニン濃度測定デバイスは、試料収容室内にリン酸系緩衝剤を備えていてもよく、さらにカチオン化親水性ポリマーを備えていてもよい。
【0069】
クレアチニン濃度測定デバイスは、試料収容室内に2つ以上の電極、または試料収容室に形成された光学測定用の窓部をさらに備えていてもよい。
【0070】
このようにすると、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を電気化学的または光学的に容易に求めることができる。
【0071】
本発明の塩分量測定デバイスは、
試料である尿をクレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で収容するための第1の試料収容室と、
第1の試料収容室と連通し、第1の試料収容室内に尿を導入するための第1の試料導入口と、
第1の試料収容室内に配置されたクレアチニン定量用試薬と、
尿を収容するための第2の試料収容室と、
第2の試料収容室と連通し、第2の試料収容室内に尿を導入するための第2の試料導入
口と、
第2の試料収容室内に配置された少なくとも2つの電極と、を備え、
クレアチニン定量用試薬が、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含み、上記塩分量測定方法に用いられる。
【0072】
このデバイスによると、クレアチニン濃度を精度良く反映している、還元された金属錯体の量と、塩分濃度を反映している尿の電気特性とを効率的に測定することができる。上記還元された金属錯体の量と電気特性とを用いることにより、尿の濃縮及び希釈の影響が精度良く補正される。よって、尿中への塩分の排泄量を適切に反映する値を求めることができる。
【0073】
塩分量測定デバイスは、第1の試料収容室内に2つ以上の電極、または試料収容室に形成された光学測定用の窓部をさらに備えていてもよい。
【0074】
本発明のクレアチニン濃度測定装置は、
上記クレアチニン濃度測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、
測定デバイスの試料収容室内において、クレアチニンによって還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する測定部、及び
測定部において測定された還元された試薬の量に基づき、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を求める演算部を備える。
【0075】
この測定装置によると、上記のクレアチニン濃度測定デバイスを用いて、電気化学的または光学的に、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を測定することができる。
【0076】
光学的に試料中に含まれるクレアチニンの濃度を測定する場合、測定部は、例えば、測定デバイスの試料収容室内に入射する入射光を出射する光源、及び試料収容室内を透過した透過光または試料収容室内において反射した反射光を検出する受光器を有する。また、演算部は、受光器において検出された透過光または反射光の強度に基づいて試料中に含まれるクレアチニンの濃度を求める。
【0077】
クレアチニン濃度測定デバイスが、試料収容室内に配置された2つ以上の電極をさらに備える場合、測定部は、例えば、前記2つの電極間に電圧を印加する電圧印加部、及び前記2つの電極間に流れる電流値または電荷量を検出する検出部を有する。また、演算部は、検出部により検出された電流値または電荷量に基づいて、試料中に含まれるクレアチニンの濃度を求める。
【0078】
本発明の塩分量測定装置は、
上記塩分量測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、
測定デバイスの第1の試料収容室内において、クレアチニンによって還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する第1の測定部、
測定デバイスの第2の試料収容室内において、尿の電気特性を測定する第2の測定部、及び
第1の測定部において測定された還元された金属錯体の量と、第2の測定部において測定された電気特性とに基づき、尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める演算部を備える。
【0079】
この測定装置によると、高精度かつ再現性良く定量された尿中のクレアチニン濃度を用いて、測定された尿の電気特性に基づいて尿の濃淡を補正することができる。よって、高精度かつ再現性良く、尿中に含まれる塩分の量を求めることができる。
【0080】
試料としては、水溶液の他、血液、血清、血漿、尿、間質液、リンパ液、唾液などの体
液が挙げられる。特に、尿は非侵襲的に在宅での日常の健康管理を行うためには非常に有効的な試料である。これらの体液中のイオン種および尿素の濃度は比較的高いので、本発明の効果が非常に高く得られる。
【0081】
本発明における電極の材料としては、金、白金、パラジウムあるいはそれらの合金または混合物、及びカーボンのいずれかを少なくとも含む材料が好ましい。これらの材料は化学的及び電気化学的に安定であり、安定した測定を実現することができる。第3の電極として、電位の安定した電極、例えばAg/AgClや飽和カロメル電極のような参照電極を、上記2つの電極と組み合わせて使用してもよい。2つの電極のうち一方の電極の電位を第3の電極に対して規制すると、測定のための電位が安定するので好ましい。また、2つの電極のうち他方の電極として、例えばAg/AgClや飽和カロメル電極を用いても良い。
【0082】
本発明の測定デバイスにおいては、クレアチニン定量用試薬が乾燥状態で備えられ、試料収容室内に試料が導入されたときに試料に溶解するように配置されていることが好ましい。
【0083】
本発明の測定デバイスにおいては、緩衝剤及びカチオン化親水性ポリマーが乾燥状態で備えられ、試料収容室内に試料が導入されたときに試料に溶解するように配置されていることが好ましい。
【0084】
例えば、ガラス繊維や濾紙等から構成される多孔性の担体に、クレアチニン定量用試薬を含む溶液を含浸させた後、乾燥させることにより、クレアチニン定量用試薬を上記担体に担持させる。そして、当該担体を試料と接する部分に設ければよい。また、測定デバイスにおける試料と接する部分の壁面に、クレアチニン定量用試薬を含む溶液を直接塗布した後、乾燥することにより、クレアチニン測定用試薬を配置してもよい。クレアチニン定量用試薬を含む溶液に、緩衝剤やカチオン化親水性ポリマーを含ませてもよい。
【0085】
上記測定デバイスは、着脱可能な状態で測定装置の測定デバイス取付け部に取付けられることが好ましい。また、特に尿や血液などの生体液を用いる場合には、衛生的な観点から、測定デバイスは使い捨てであることが好ましい。
【0086】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0087】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係るクレアチニン濃度測定デバイス100について、図1を用いて説明する。図1は、測定デバイス100の構成を示す分解斜視図である。
【0088】
測定デバイス100は、電気化学的に試料中に含まれるクレアチニンの濃度を定量する方法に用いられる。測定デバイス100は、絶縁性の第1の基板102と、空気孔108を有する絶縁性の第2の基板104とが、スリット110を有する絶縁性のスペーサ106を挟んで組み合わされた構造を有している。第1の基板102、第2の基板104及びスペーサ106は、例えばポリエチレンテレフタレート製である。
【0089】
第1の基板102には、第1の電極112、第2の電極114、第1の電極112と電気的に接続された第1のリード122、及び第2の電極114と電気的に接続された第2のリード124が配置されている。また、第1の電極112及び第2の電極114上には、クレアチニン定量用試薬を含む試薬層130が配置されている。第1の基板102の寸法は、適宜設定すればよいが、例えば、幅が7mm程度、長さが30mm程度、厚みが0.7mm程度である。
【0090】
次に、測定デバイス100の製造方法について説明する。本実施の形態においては、クレアチニン定量用試薬としてヘキサシアノフェレートの錯塩であるフェリシアン化カリウムを用いている。
【0091】
まず、第1の基板102上に、樹脂製の電極パターンマスクを設置した状態で、パラジウムをスパッタリングする。これによって、第1の電極112、第2の電極114、第1のリード122、及び第2のリード124を形成する。第1の電極112及び第2の電極114は、それぞれ第1のリード122及び第2のリード124によって、後述するクレアチニン濃度測定装置の端子と電気的に接続される。
【0092】
次に、第1の基板102上に設けられた第1の電極112及び第2の電極114上に、フェリシアン化カリウム、リン酸二水素カリウム、及びリン酸水素二カリウムを溶解した水溶液、あるいはフェリシアン化カリウム、カチオン化グアガム、リン酸二水素カリウム、及びリン酸水素二カリウムを溶解した水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて一定量滴下する。その後、第1の基板102を室温〜30℃程度の環境に静置して乾燥させることにより、試薬層130を形成する。
【0093】
塗布する試薬を含む水溶液の濃度及び量は、必要とするデバイスの特性やサイズに応じて選択すればよい。例えば、試薬を含む水溶液中の3価のヘキサシアノフェレートの濃度は0.1M程度であり、水溶液の滴下量は1.4μL程度である。また、試薬を含む水溶液がカチオン化グアガムを含む場合、水溶液中のカチオン化グアガムの濃度は0.25重量%程度であり、滴下量は1.4μL程度である。
【0094】
試薬層130を形成する領域の面積は、試料に対する試薬の溶解性などを鑑みて適宜選択すればよいが、例えば、その面積を3mm2程度とする。
【0095】
次に、電極及び試薬層130が形成された第1の基板102、スペーサ106、及び第2の基板104を組み合わせる。第1の基板102、スペーサ106及び第2の基板104の各接合部分に接着剤を塗布し、これらを貼り合わせた後、押圧して静置し、接着させる。この方法に代えて、接着剤を塗布せずにこれらを組み合わせた後、市販の溶着機を用いて接合部分を熱または超音波によって溶着させてもよい。
【0096】
第1の基板102、スペーサ106及び第2の基板104を組み合わせたときに、第1の基板102と第2の基板104との間で、スペーサ106に設けられたスリット110により形成される空間部が、試料収容室として機能する。また、スリット110の開口部が試料導入口132として機能する。
【0097】
次に、本実施の形態に係るクレアチニン濃度測定装置200及びそれを用いたクレアチニン濃度測定方法について、図2及び3を用いて説明する。図2は、測定装置200の外観を示す斜視図であり、図3は測定装置200の構成を示すブロック図である。
【0098】
まず、測定装置200の構成について、図2を参照しながら説明する。
【0099】
測定装置200の筐体202には、測定デバイス100を取付けるための測定デバイス取付け部208、測定結果等が表示されるディスプレイ204、及び測定装置200によるクレアチニン濃度の測定を開始させるための測定開始ボタン206が設けられている。また、測定デバイス取付け部208の内部には、測定デバイス100の第1のリード122及び第2のリード124とそれぞれ電気的に接続される第1の端子及び第2の端子が設けられている。
【0100】
次に、測定装置200の筐体202内部の構成について、図3を参照しながら説明する。
【0101】
測定装置200は、筐体202内部に、電圧印加部302、電気信号検出部304、制御部306、計時部308、及び記憶部310を備えている。
【0102】
電圧印加部302は、測定デバイス取付け部208に取付けられた測定デバイス100の第1の電極112及び第2の電極114に、電圧または電位を印加する機能を有する。電圧または電位の印加は、測定デバイス100の第1のリード122及び第2のリード124とそれぞれ電気的に接続された第1の端子及び第2の端子を介して行われる。
【0103】
電気信号検出部304は、第1の電極112及び第2の電極114からの電気信号を、第1の端子及び第2の端子を介して検出する機能を有する。電気信号検出部304は、本発明における検出部に相当する。
【0104】
記憶部310には、クレアチニン濃度と電気信号検出部304により検出される電気信号との相関を表す検量線に相当する相関データが格納されている。記憶部310としては、例えば、RAM、ROM等のメモリを用いることができる。
【0105】
制御部306は、上記相関データを参照して、電気信号検出部304により検出された電気信号をクレアチニン濃度に換算する機能を有する。制御部306は、本発明における演算部に相当する。制御部306としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロコンピュータを用いることができる。
【0106】
次に、測定デバイス100及び測定装置200を用いた、本実施の形態に係るクレアチニン濃度測定方法について説明する。
【0107】
まず、使用者が測定デバイス100のリード側を、測定装置200の測定デバイス取付け部208に挿入する。これにより、測定デバイス100の第1のリード122及び第2のリード124と、測定デバイス取付け部208内部に設けられている第1の端子及び第2の端子とが、それぞれ接触することにより電気的に導通する。
【0108】
測定デバイス取付け部208に測定デバイス100が挿入されると、測定デバイス取付け部208内に設けられたマイクロスイッチからなる挿入検知スイッチが作動して、制御部306に信号を出力する。挿入検知スイッチからの出力信号により、制御部306が測定デバイス100の挿入を検知すると、制御部306が電圧印加部302を制御して、第1の端子及び第2の端子を介して、第1の電極112と第2の電極114との間に、試料導入を検知するための電圧(例えば0.2V)が印加される。
【0109】
次に、使用者が、測定デバイス100の試料導入口132に、試料を接触させる。この接触により、試料導入口132を通って測定デバイス100の試料収容室内に、試料(例えば0.6μL程度)が毛管現象により吸引され、試料収容室内が試料によって充填される。試料が第1の電極112及び第2の電極114に接触すると、試料を介して第1の電極112及び第2の電極114との間に電流が流れるようになる。そのため、それに起因する電気信号の変化を電気信号検出部304が検出する。
【0110】
電気信号検出部304からの出力信号により、試料収容室に試料が導入されたことを制御部306が検知すると、制御部306は、電圧印加部302を制御して、電圧印加部302による印加電圧を異なる電圧(例えば0Vまたは開回路)に切り替える。また、試料導入の検知に伴い、制御部306がタイマーである計時部308による計時を開始させる。
【0111】
試料収容室内に露出している試薬層130に試料が接触すると、試薬層130に含まれるフェリシアン化カリウムが試料中に溶解する。フェリシアン化カリウムが試料中に溶解
することにより、3価のヘキサシアノフェレートが生成する。生成した3価のヘキサシアノフェレートが、試料中に含まれるクレアチニンと直接反応することにより、クレアチニンの酸化物と、4価のヘキサシアノフェレートとが生成する。
【0112】
計時部308からの信号によって、所定時間(例えば、60秒)経過したことを制御部306が判断すると、制御部306は電圧印加部302を制御して、第1の電極112及び第2の電極114との間に、4価のヘキサシアノフェレートの濃度を測定するための電圧を印加する。例えば、第1の電極112が第2の電極114に比べて+0.5〜+0.6Vとなる電圧を印加する。このように電圧を印加してから一定時間(例えば5秒)後、第1の電極112と第2の電極114との間で流れる電流等の電気信号を、電気信号検出部304において測定する。このとき、第1の電極112では、4価のヘキサシアノフェレートが酸化される。よって、電気信号検出部304において測定される電気信号は、試料中に含まれるクレアチニン濃度に依存する。
【0113】
制御部306は、記憶部310に格納されている電気信号とクレアチニン濃度との相関を表す相関データを読み出し、それを参照する。これにより、電気信号検出部304において検出された電気信号を試料中のクレアチニン濃度に換算する。
【0114】
得られたクレアチニン濃度はディスプレイ204に表示される。ディスプレイ204にクレアチニン濃度が表示されることにより、ユーザはクレアチニン濃度測定が完了したことがわかる。得られたクレアチニン濃度は、計時部308により計時された時刻とともに記憶部310に保存されることが好ましい。
【0115】
測定デバイス100によれば、従来の測定デバイスと異なり、試料収容室内において、クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、クレアチニンと3価のヘキサシアノフェレートとが直接反応する。よって、塩分等のイオン種、尿素、タンパク質、アミノ酸、糖、アセトン、ビリルビンなどの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。また、ヘキサシアノフェレート及びリン酸系緩衝剤はアニオン性であって、カチオン化親水性ポリマーのカチオン基により静電気的に引き寄せられ、均一な試薬を形成すると予想される。そのため、再現性良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができるものと考察される。
【0116】
本実施の形態においては、クレアチニン定量用試薬としてヘキサシアノフェレートを用いる例を示したが、代わりにヘキサシアノルテネートを用いてもよい。クレアチニン定量用試薬としてヘキサシアノルテネートを用いる場合にも、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0117】
本実施の形態では、測定デバイスが1つの試薬層を備える例を示したが、これに限定されない。測定デバイスが、2つの試薬層、例えばクレアチニン定量用試薬を含む第1の試薬層と、リン酸系緩衝剤を含む第2の試薬層とを備えていてもよい。
【0118】
本実施の形態では、試料収容室に試料が導入されたことを制御部が検知することにより、電圧印加部による印加電圧が異なる電圧に切り替えられる例について示したが、これに限定されない。クレアチニンの濃度に依存した電流が得られる限り、必ずしも印加電圧を切り替える必要はない。測定に必要な電圧値(例えば、第1の電極が第2の電極に比べて+0.5V〜+0.6Vとなる電圧)を測定デバイスの挿入検知時から印加し、試料導入の検知後も、その電圧値を継続して印加してもよい。
【0119】
本実施の形態では、4価のヘキサシアノフェレートの濃度に対応する電気信号を得るための第1の電極への印加電位を、第2の電極に対して0.5〜0.6Vとする例を示したが、これに限定されることはない。第1の電極と第2の電極との間の電圧は、クレアチニンとの酸化還元反応により生成したクレアチニン定量用試薬に含まれる金属錯体の還元体(本実施の形態では4価のヘキサシアノフェレート)が酸化される電圧であればよい。
【0120】
本実施の形態では、試料導入の検知後、電気信号を検出するまでの時間(反応時間)を60秒とする例を示したが、必ずしもその値である必要はない。クレアチニン濃度の違いに対する電流値の差を有意に検出できる限り、反応時間は上記より短くてもよい。一方、反応時間をより長くした場合、クレアチニンと3価のアニオンであるヘキサシアノフェレートとの反応が完了状態あるいは定常状態に達する可能性が高まる。そのため、温度などの環境条件の影響を受けずにクレアチニンの存在量をより正確に定量しやすくなる。
【0121】
本実施の形態では、電極に電位を印加してから5秒後に電気信号を検出する例を示したが、この時間に限定されない。この時間は、クレアチニン濃度の違いに対する電気信号の差を有意に検出できる時間であればよい。
【0122】
また、電極系、リード、及び端子の形状、個数、配置等は、本実施の形態に限定されない。他の実施の形態についても同様である。
【0123】
なお、本実施の形態では、還元された金属錯体の量を測定する例を示したが、金属錯体の酸化体の減少量を測定することにより、間接的に金属錯体の還元体の量を得てもよい。
【0124】
測定デバイスの試料収容室内への試料の導入をより円滑にするために、レシチンをトルエンまたはその他の有機溶媒に溶解した溶液を、第2の基板の内壁に塗布して乾燥させることにより、レシチン層を形成してもよい。このような構造にすることにより、試料量をより再現性よく一定とすることができる。そのため、より精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0125】
クレアチニン濃度測定装置は、測定結果をSDカードなどの記憶媒体に記録するための記録部をさらに備えていてもよい。取り外し可能な記憶媒体に測定結果を保存することにより、測定結果を測定装置から容易に取り出すことができる。よって、分析関連業者に測定結果の分析を依頼することが容易になる。
【0126】
測定装置が、測定結果を測定装置外に送信するための送信部をさらに備えていてもよい。これにより、測定結果を、病院内の分析関連部門または分析関連業者等に送信することができる。よって、測定から分析までの時間を短縮することができる。
【0127】
測定装置が、分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析した結果を受信するための受信部をさらに備えていてもよい。これにより、分析結果を迅速に使用者にフィードバックすることができる。
【0128】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係るクレアチニン濃度測定デバイス400について、図4を用いて説明する。図4は、測定デバイス400の構成を示す分解斜視図である。
【0129】
測定デバイス400は、光学的に試料中に含まれるクレアチニンの濃度を定量する方法に用いられる。測定デバイス400は、第1の基板102と、空気孔108を有する第2の基板104とが、スリット110を有するスペーサ106を挟んで組み合わされた構造を有している。第1の基板102、第2の基板104及びスペーサ106は、例えばポリ
エチレンテレフタレート製である。
【0130】
測定デバイス400は、実施の形態1に係る測定デバイス100と異なり、第1の基板102には、第1の電極112、第2の電極114、第1のリード122、及び第2のリード124は配置されていない。また、第1の電極112及び第2の電極114上ではなく、第1の基板102上に、クレアチニン定量用試薬を含む試薬層130が配置されている。
【0131】
次に、測定デバイス400の製造方法について説明する。
【0132】
まず、第1の基板102上に、実施の形態1と同様のクレアチニン定量用試薬を含む水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて一定量滴下する。その後、第1の基板102を室温〜30℃程度の環境に静置して乾燥させることにより、試薬層130を形成する。塗布する試薬を含む水溶液の濃度及び量は、必要とするデバイスの特性やサイズに応じて選択すればよいが、例えば、実施の形態1と同様にすればよい。
【0133】
次に、試薬層130が形成された第1の基板102、スペーサ106、及び第2の基板104を組み合わせる。第1の基板102、スペーサ106及び第2の基板104の各接合部分に接着剤を塗布し、これらを貼り合わせた後、押圧して静置し、接着させる。この方法に代えて、接着剤を塗布せずに組み合わせた後、市販の溶着機を用いて接合部分を熱または超音波によって溶着させてもよい。
【0134】
第1の基板102、スペーサ106及び第2の基板104を組み合わせたときに、第1の基板102と第2の基板104との間で、スペーサ106に設けられたスリット110により形成される空間部が、試料収容室として機能する。また、スリット110の開口部が試料導入口132として機能する。
【0135】
次に、本実施の形態に係るクレアチニン濃度測定装置500及びそれを用いたクレアチニン濃度測定方法について、図5及び6を用いて説明する。図5は、測定装置500の外観を示す斜視図であり、図6は測定装置500の構成を示すブロック図である。
【0136】
まず、測定装置500の構成について、図5を参照しながら説明する。
【0137】
測定装置500の筐体202には、測定デバイス400を取付けるための測定デバイス取付け部208、測定結果等が表示されるディスプレイ204、及び測定装置500によるクレアチニン濃度の測定を開始させるための測定開始ボタン206が設けられている。
【0138】
次に、測定装置500の筐体202内部の構成について、図6を参照しながら説明する。
【0139】
測定装置500は、筐体202内部に、光源502、受光器504、制御部306、計時部308、及び記憶部310を備えている。
【0140】
光源502は、測定デバイス取付け部208に取付けられた測定デバイス400の試料収容室内に入射する光を出射する機能を有する。光源502から出射される光の波長は、クレアチニン定量用試薬中の金属錯体とクレアチニンとの反応に応じて吸収強度が変化する波長を選択すればよい。
【0141】
受光器504は、光源502から出射され、測定デバイス取付け部208に取付けられた測定デバイス400の試料収容室内において反射した光を検出する機能を有する。
【0142】
記憶部310には、クレアチニンの濃度と受光器504により検出される反射光の強度との相関を表す検量線に相当する相関データが格納されている。記憶部310としては、
例えば、RAM、ROM等のメモリを用いることができる。
【0143】
制御部306は、上記相関データを参照して、受光器504により検出される反射光の強度をクレアチニン濃度に換算する機能を有する。制御部306は、本発明における演算部に相当する。制御部306としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロコンピュータを用いることができる。
【0144】
次に、測定デバイス400及び測定装置500を用いた、本実施の形態に係るクレアチニン濃度測定方法について説明する。
【0145】
まず、使用者が測定デバイス400の、試料導入口132の反対側を測定装置500の測定デバイス取付け部208に挿入する。
【0146】
測定デバイス取付け部208に測定デバイス400が挿入されると、測定デバイス取付け部208内に設けられたマイクロスイッチからなる挿入検知スイッチが作動して、制御部306に信号を出力する。挿入検知スイッチからの出力信号により、制御部306が測定デバイス400の挿入を検知すると、制御部306は光源502を作動させる。これにより、測定デバイス400の試料収容室に光源502からの光が照射される。
【0147】
次に、使用者が、測定デバイス400の試料導入口132に、試料を接触させる。この接触により、試料導入口132を通って測定デバイス400の試料収容室内に、試料が毛管現象により吸引され、試料収容室内が試料によって充填される。試料が試料収容室内における光の照射位置に到達すると、試料収容室内の透過率が変化する。それに起因する反射光強度の変化を、受光器504が検出する。
【0148】
受光器504からの出力信号により、試料収容室に試料が導入されたことを制御部306が検知すると、制御部306がタイマーである計時部308による計時を開始させる。
【0149】
試料収容室内に露出している試薬層130と試料とが接触すると、試薬層130に含まれるフェリシアン化カリウムが試料中に溶解する。フェリシアン化カリウムが試料中に溶解することにより、3価のヘキサシアノフェレートが生成する。生成した3価のヘキサシアノフェレートが試料中に含まれるクレアチニンと直接反応することにより、クレアチニンの酸化物と、4価のヘキサシアノフェレートとが生成する。3価のヘキサシアノフェレートが4価のヘキサシアノフェレートに変化することにより、試料の吸収スペクトルが変化する。ここで、試料の吸収スペクトルの変化量は、生成した4価のヘキサシアノフェレートの濃度に依存する。
【0150】
計時部308からの信号によって、所定時間(例えば、60秒)経過したことを制御部306が判断すると、試料収容室内において反射した光の強度を受光器504において測定する。このとき、受光器504において測定される反射光の強度は、試料中に含まれるクレアチニン濃度に依存する。
【0151】
制御部306は、記憶部310に格納されているクレアチニン濃度と受光器504により検出される反射光の強度との相関を表す検量線に相当する相関データを読み出し、それを参照する。これにより、受光器504において検出された反射光の強度が、試料中のクレアチニン濃度に換算される。
【0152】
得られたクレアチニン濃度は、ディスプレイ204に表示される。ディスプレイ204にクレアチニン濃度が表示されることにより、ユーザは測定が完了したことがわかる。得られたクレアチニン濃度は、計時部308により計時された時刻とともに記憶部310に保存されることが好ましい。
【0153】
測定デバイス400によれば、従来の測定デバイスと異なり、試料収容室内において、クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、クレアチニンと3価のヘキサシアノフェレートとが直接反応する。よって、塩分等のイオン種、尿素、タンパク質、アミノ酸、糖、アセトン、ビリルビンなどの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。また、ヘキサシアノフェレート及びリン酸系緩衝剤はアニオン性であって、カチオン化親水性ポリマーのカチオン基により静電気的に引き寄せられ、均一な試薬を形成するものと予想される。そのため、再現性良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができるものと推察される。
【0154】
本実施の形態では、実施の形態1と同様に、測定デバイスが2つ以上の試薬層を備えていてもよい。
【0155】
本実施の形態では、試料導入の検知後、反射光強度を検出するまでの時間(反応時間)を60秒とする例を示したが、必ずしもその値である必要はない。クレアチニン濃度の違いに対する反射光強度の差を有意に検出できる限り、反応時間は上記より短くてもよい。一方、反応時間をより長くした場合、クレアチニンの存在量をより正確に定量しやすくなる。
【0156】
測定デバイスは、試料収容室内への試料の導入をより円滑にするために、実施の形態1と同様に、レシチン層を具備してもよい。
【0157】
実施の形態1と同様に、クレアチニン濃度測定装置が、測定結果をSDカードなどの記憶媒体に記録するための記録部をさらに備えていてもよい。また、測定装置が、測定結果を測定装置外に送信するための送信部をさらに備えていてもよい。さらに、測定装置が、分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析した結果を受信するための受信部をさらに備えていてもよい。
【0158】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3に係る塩分量測定デバイス700について、図7及び8を用いて説明する。図7は、測定デバイス700を第1の基板の第1の面側の構成を示す分解斜視図であり、図8は、第1の基板の第2の面側の構成を示す分解斜視図である。
【0159】
測定デバイス700は、試料である尿中に含まれるクレアチニンを電気化学的に測定するとともに、尿の電気特性を測定し、これらの測定結果を用いて、1日に排泄される尿中に含まれる塩分の量を推定する方法に用いられる。
【0160】
測定デバイス700においては、絶縁性の第1の基板102の第1の面702と、スリット110を有する絶縁性の第1のスペーサ106とが接しており、第1の基板102と、空気孔108を有する第2の基板104とが、第1のスペーサ106を挟んで組み合わされている。さらに、第1の基板102の第2の面802と、スリット710を有する絶縁性の第2のスペーサ706とが接しており、第1の基板102と、空気孔708を有する第3の基板704とが、第2のスペーサ706を挟んで組み合わされている。第1の基板102と、第1のスペーサ106、第2の基板104、第2のスペーサ706及び第3の基板704は、例えば、ポリエチレンテレフタレート製である。
【0161】
第1の基板102の第1の面702上には、実施の形態1に係る測定デバイス100と同様に、第1の電極112、第2の電極114、第1の電極112と電気的に接続された
第1のリード122、及び第2の電極114と電気的に接続された第2のリード124が配置されている。また、第1の電極112及び第2の電極114上には、クレアチニン定量用試薬を含む試薬層130が配置されている。
【0162】
一方、第1の基板102の第2の面802上には、第3の電極712、第4の電極714、第5の電極716、及び第6の電極718が配置されている。さらに、第2の面802上には、第3の電極712と電気的に接続された第3のリード722、第4の電極714と電気的に接続された第4のリード724、第5の電極716と電気的に接続された第5のリード726、及び第6の電極718と電気的に接続された第6のリード728が配置されている。第1の基板102の寸法は、適宜設定すればよいが、例えば、幅が7mm程度、長さが30mm程度、厚みが0.7mm程度である。
【0163】
次に、測定デバイス700の製造方法について説明する。
【0164】
まず、第1の基板102の第1の面702上に、樹脂製の電極パターンマスクを設置した状態で、パラジウムをスパッタリングする。これにより、第1の電極112、第2の電極114、第1のリード122、及び第2のリード124を形成する。第1の電極112及び第2の電極114は、それぞれ第1のリード122及び第2のリード124によって、後述する塩分量測定装置の端子と電気的に接続される。
【0165】
次に、第1の基板102の第2の面802上に、上記の電極パターンマスクとは異なるパターンを有する電極パターンマスクを設置した状態で、パラジウムをスパッタリングする。これにより、第3の電極712、第4の電極714、第5の電極716、第6の電極718、第3のリード722、第4のリード724、第5のリード726、及び第6のリード728を形成する。第3の電極712、第4の電極714、第5の電極716、及び第6の電極718は、それぞれ第3のリード722、第4のリード724、第5のリード726、及び第6のリード728によって、後述する塩分量測定装置の端子と電気的に接続される。
【0166】
次に、第1の基板102の第1の面702上に設けられた第1の電極112及び第2の電極114上に、実施の形態1と同様のクレアチニン定量用試薬を含む水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて一定量滴下する。その後、第1の基板102を室温〜30℃程度の環境に静置して乾燥させることにより、試薬層130を形成する。塗布する試薬を含む水溶液の濃度及び量は、必要とするデバイスの特性やサイズに応じて選択すればよいが、例えば、実施の形態1と同様にすればよい。
【0167】
次に、第1の基板102の第1の面702と第1のスペーサ106とが接し、第1の基板102の第2の面802と第2のスペーサ706とが接するように、第2の基板104、第1のスペーサ106、第1の基板102、第2のスペーサ706、及び第3の基板704を組み合わせる。各部材の各接合部分に接着剤を塗布し、これらを貼り合わせた後、押圧して静置し、接着させる。この方法に代えて、接着剤を塗布せずにこれらを組み合わせた後、市販の溶着機を用いて接合部分を熱または超音波によって溶着させてもよい。
【0168】
第1の基板102、第1のスペーサ106及び第2の基板104を組み合わせたときに、第1の基板102と第2の基板104との間で、第1のスペーサ106に設けられたスリット110により形成される空間部が、クレアチニン濃度測定用の第1の試料収容室として機能する。また、スリット110の開口部が第1の試料導入口132として機能する。
【0169】
一方、第1の基板102、第2のスペーサ706及び第3の基板704を組み合わせたときに、第1の基板102と第3の基板704との間で、第2のスペーサ706に設けら
れたスリット710により形成される空間部が、尿の電気特性測定用の第2の試料収容室として機能する。また、スリット710の開口部が第2の試料導入口732として機能する。
【0170】
次に、本実施の形態に係る塩分量測定装置900及びそれを用いた塩分量測定方法について、図9及び10を用いて説明する。図9は、測定装置900の外観を示す斜視図であり、図10は測定装置900の構成を示すブロック図である。
【0171】
まず、測定装置900の構成について、図9を参照しながら説明する。
【0172】
測定装置900の筐体202には、測定デバイス700を取付けるための測定デバイス取付け部208、測定結果等が表示されるディスプレイ204、及び測定装置900によるクレアチニン濃度及び尿の電気特性の測定を開始させるための測定開始ボタン206が設けられている。また、測定デバイス取付け部208の内部には、測定デバイス700の第1のリード122、第2のリード124、第3のリード722、第4のリード724、第5のリード726、及び第6のリード728とそれぞれ電気的に接続される第1の端子、第2の端子、第3の端子、第4の端子、第5の端子、及び第6の端子が設けられている。
【0173】
次に、測定装置900の筐体202内部の構成について、図10を参照しながら説明する。
【0174】
測定装置900は、筐体202内部に、電圧印加部302、電気信号検出部304、定電流交流電源902、電圧検出器904、制御部306、計時部308、及び記憶部310を備えている。
【0175】
電圧印加部302は、測定デバイス取付け部208に取付けられた測定デバイス700の第1の電極112及び第2の電極114に電圧または電位を印加する機能を有する。電圧または電位の印加は、測定デバイス700の第1のリード122及び第2のリード124とそれぞれ電気的に接続された第1の端子及び第2の端子を介して行われる。
【0176】
電気信号検出部304は、第1の電極112及び第2の電極114からの電気信号を、第1の端子及び第2の端子を介して検出する機能を有する。電気信号検出部304は、本発明における検出部に相当する。
【0177】
定電流交流電源902は、測定デバイス取付け部208に取付けられた測定デバイス700の第3の電極712と第6の電極718との間に一定の交流電流を印加する機能を有する。一定の交流電流の印加は、測定デバイス700の第3のリード722及び第6のリード728とそれぞれ電気的に接続された第3の端子及び第6の端子を介して行われる。印加する交流電流は、例えば、周波数が1kHz程度、電流値が0.1mA程度である。
【0178】
電圧検出器904は、第4の端子及び第5の端子を介して、第4の電極714と第5の電極716との間の電圧(交流電圧の実効値)を検出する機能を有する。
【0179】
記憶部310には、
(i)クレアチニンの濃度と電気信号検出部304により検出される電気信号との相関
を表す第1の検量線に相当する第1の相関データ、
(ii)塩分濃度と電圧検出器904により検出される電圧との相関を表す第2の検量線に相当する第2の相関データ、及び
(iii)1日当たりの尿中塩分排泄量とクレアチニン濃度により補正された塩分濃度と
の相関を表す第3の検量線に相当する第3の相関データ、が格納されている。
【0180】
記憶部310としては、例えば、RAM、ROM等のメモリを用いることができる。
【0181】
制御部306は、
(I)第1の相関データを参照して、電気信号検出部304により検出された電気信号
を、クレアチニン濃度に換算する機能、
(II)第2の相関データを参照して、電圧検出器904により検出された電圧を、塩分濃度に換算する機能、
(III)得られたクレアチニン濃度を用いて塩分濃度を補正する機能、及び
(IV)第3の相関データを参照して、補正後の塩分濃度を1日当たりの尿中塩分排泄量に換算する機能、を有する。
【0182】
制御部306は、本発明における演算部に相当する。制御部306としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロコンピュータを用いることができる。
【0183】
次に、測定デバイス700及び測定装置900を用いた、本実施の形態に係る尿中塩分量測定方法について説明する。
【0184】
まず、使用者が測定デバイス700のリード側を測定装置900の測定デバイス取付け部208に挿入する。これにより、測定デバイス700の第1のリード122、第2のリード124、第3のリード722、第4のリード724、第5のリード726、及び第6のリード728と、測定デバイス取付け部208内部に設けられている第1の端子、第2の端子、第3の端子、第4の端子、第5の端子、及び第6の端子とが、それぞれ電気的に導通する。
【0185】
測定デバイス取付け部208に測定デバイス700が挿入されると、測定デバイス取付け部208内に設けられたマイクロスイッチからなる挿入検知スイッチが作動して、制御部306に信号を出力する。挿入検知スイッチからの出力信号により、制御部306が測定デバイス700の挿入を検知すると、制御部306は、電圧印加部302を制御して、第1の端子及び第2の端子を介して、第1の電極112と第2の電極114との間に電圧(例えば0.2V)を印加する。
【0186】
次に、使用者が、測定デバイス700の第1の試料導入口132及び第2の試料導入口732に、試料を接触させる。この接触により、第1の試料導入口132及び第2の試料導入口732を通って、測定デバイス700の2つの試料収容室内に、試料が毛管現象により吸引され、2つの試料収容室内が試料によって充填される。
【0187】
第1の試料収容室において、試料が第1の電極112及び第2の電極114に接触すると、試料を介して第1の電極112及び第2の電極114間に電流が流れるようになる。そのため、それに起因する電気信号の変化を電気信号検出部304が検出する。
【0188】
電気信号検出部304からの出力信号により、第1および第2の試料収容室に試料が導入されたことを制御部306が検知する。
【0189】
第1および第2の試料収容室に試料が導入されたことを制御部306が検知すると、制御部306は、電圧印加部302を制御して、電圧印加部302による印加電圧を異なる電圧(例えば0Vまたは開回路)に切り替える。また、試料導入の検知に伴い、制御部306がタイマーである計時部308による計時を開始させる。
【0190】
第2の試料収容室への試料導入の検知に伴い、制御部306は、定電流交流電源902を制御して、第3の端子及び第6の端子を介して、第3の電極712と第6の電極718との間に一定の交流電流(例えば、周波数1kHz、電流値0.1mA)を印加する。交流電流の印加から所定時間経過後(例えば5秒後)に、電圧検出器904は、第4の電極
714と第5の電極716との間の電圧(交流電流の実効値)を測定する。
【0191】
制御部306は、記憶部310に格納されている塩分の濃度と電圧検出器904により検出される電圧との相関を表す第2の相関データを読み出し、それを参照する。これにより、電圧検出器904により検出された電圧を試料中の塩分濃度に換算する。得られた塩分濃度はディスプレイ204に表示される。
【0192】
第1の試料収容室において、試薬層130と試料とが接触すると、試薬層130に含まれるフェリシアン化カリウムが試料中に溶解する。フェリシアン化カリウムが試料中に溶解することにより、3価のヘキサシアノフェレートが生成する。生成した3価のヘキサシアノフェレートが試料中に含まれるクレアチニンと直接反応することにより、クレアチニンの酸化物と4価のヘキサシアノフェレートとが生成する。
【0193】
計時部308からの信号によって、所定時間(例えば、60秒)経過したことを制御部306が判断すると、制御部306は、電圧印加部302を制御して、第1の電極112と第2の電極114との間に、再度異なる電圧を印加する(例えば、第1の電極112が第2の電極114に比べて+0.5〜+0.6Vとなる電圧)。このように電圧を印加してから一定時間(例えば5秒)後、第1の電極112と第2の電極114との間で流れる電流等の電気信号を、電気信号検出部304において測定する。このとき、第1の電極112では、4価のヘキサシアノフェレートが酸化される。電気信号検出部304において測定される電気信号は、試料中に含まれるクレアチニン濃度に依存する。
【0194】
制御部306は、記憶部310に格納されている電気信号とクレアチニン濃度との相関を表す第1の相関データを読み出し、それを参照する。これにより、電気信号検出部304において検出された電気信号は試料中のクレアチニン濃度に換算される。
【0195】
次に、制御部306は、得られたクレアチニン濃度を用いて塩分濃度を補正する。続いて、制御部306は、記憶部310に格納されている1日当たりの尿中塩分排泄量とクレアチニン濃度により補正された塩分濃度との相関を表す第3の検量線に相当する第3の相関データを読み出し、それを参照する。これにより、補正後の塩分濃度を1日当たりの尿中塩分排泄量に換算する。
【0196】
得られたクレアチニン濃度及び1日当たりの尿中塩分排泄量は、ディスプレイ204に表示される。ディスプレイ204にクレアチニン濃度及び1日当たりの尿中塩分排泄量が表示されることにより、ユーザは測定が完了したことがわかる。得られたクレアチニン濃度及び1日当たりの尿中塩分排泄量は、計時部308により計時された時刻とともに記憶部310に保存されることが好ましい。
【0197】
測定装置900によれば、高い精度で測定されたクレアチニン濃度により補正された塩分濃度に基づいて、1日当たりの尿中塩分排泄量を算出できる。よって、1日当たりの尿中塩分排泄量を精度良く求めることができる。
【0198】
なお、本実施の形態においては、クレアチニン定量用試薬としてヘキサシアノフェレートを用いる例を示したが、代わりにヘキサシアノルテネートを用いてもよい。ヘキサシアノルテネートを用いる場合にも、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0199】
本実施の形態では、実施の形態1と同様に、測定デバイスが、2つ以上の試薬層を備えていてもよい。
【0200】
本実施の形態においても、クレアチニンの濃度に依存した電流が得られる限り、必ずしも電圧印加部による印加電圧を異なる電圧に切り替える必要はない。
【0201】
本実施の形態においても、第1の電極と第2の電極との間の電圧は、4価のヘキサシアノフェレートが酸化される電圧であればよい。
【0202】
本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、試料導入の検知後、電気信号を検出するまでの時間(反応時間)は限定されない。
【0203】
本実施の形態では、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加してから5秒後に電気信号を検出する例を示したが、この時間に限定されない。
【0204】
本実施の形態では、記憶部に、上記の第1〜第3の相関データが格納されている例を示したが、これに限定されない。これに代えて、電気信号検出部により検出される電気信号と、電圧検出器により検出される電圧と、単位時間当たり(例えば1日)の尿中塩分排泄量との相関を示す相関データが記憶部に格納されていてもよい。この場合は、クレアチニン濃度や塩分濃度を求めなくてもよい。電気信号検出部により検出される電気信号と、電圧検出器により検出される電圧とを用いて、単位時間当たりの尿中塩分排泄量を直接求めることができる。
【0205】
塩分量測定デバイスの試料収容室内への試料の導入をより円滑にするために、実施の形態1と同様のレシチン層を、第2の基板及び第3の基板の内壁に形成してもよい。
【0206】
塩分量測定装置が、測定結果をSDカードなどの記憶媒体に記録するための記録部をさらに備えていてもよい。
【0207】
塩分量測定装置が、測定結果を測定装置外に送信するための送信部をさらに備えていてもよい。
【0208】
塩分量測定装置が、分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析した結果を受信するための受信部をさらに備えていてもよい。
【実施例】
【0209】
(実施例1)
本発明に係るクレアチニン濃度測定方法の効果を確認するために以下の実験を行った。本実施例では、クレアチニン定量用試薬に含まれる金属錯体としてヘキサシアノフェレート、その錯塩であるフェリシアン化カリウム(ポタシウムフェリシアネート)を用いた。
【0210】
まず、400mMのリン酸水素二カリウム(和光純薬工業株式会社製、以下の実施例および参考例についても同様)の水溶液と、400mMのリン酸二水素カリウム(和光純薬工業株式会社製、以下の実施例および参考例についても同様)の水溶液とを調製した。pHメーターを用いてモニターしながら2つの水溶液を交互に混合することにより、得られる混合水溶液のpHを6に調整した。このようにして得られた400mMのリン酸系緩衝液(pH=6)に、フェリシアン化カリウムを濃度が400mMとなるよう溶解した。
【0211】
得られた水溶液をガラス製のセル容器に入れ、第1の電極、第2の電極、及び第3の電極を、それぞれ、前記セル容器中の水溶液に浸漬した。第1の電極としては、金電極(電極面積2mm2)を用いた。第2の電極は、長さ5cmの白金線をコイル状に巻くことに
より得た。第3の電極としては、Ag/AgCl(飽和KCl水溶液)参照極を用いた。
これら電極は全て、ビー・エー・エス株式会社の市販品である。第1の電極、第2の電極及び第3の電極の接続端子を、電気化学アナライザー(ALS社製、ALS−660A)の作用極、対極、参照極の接続端子にそれぞれ順に接続した。
【0212】
次に、濃度500mMのクレアチニン水溶液(和光純薬工業株式会社製、以下の実施例および参考例についても同様)を、前記セル容器中の水溶液に少量添加した。クレアチニン水溶液の添加量は、セル容器中の水溶液に含まれるクレアチニン濃度が所定の値になるよう測定毎に調整した。
【0213】
クレアチニンの添加とともに計時を開始し、クレアチニンの添加から10分後に、第3の電極に対して0.5Vの電位を第1の電極に印加した。そして、電位印加後5秒後の電流値を測定した。以上の実験は、室温(約25℃)で行った。
【0214】
セル容器中の水溶液に含まれるクレアチニン濃度が、0、1、2、5、10、20、30、40、及び50mMの場合について、それぞれ以上の測定を行った。
【0215】
図11は、測定された電流値をクレアチニン濃度に対してプロットしたグラフである。図11において、横軸はセル容器中の水溶液に含まれるクレアチニン濃度(mM)、縦軸は測定された電流値(μA)を示す。図11から明らかなように、得られた電流値は、セル容器中の水溶液に含まれるクレアチニン濃度の増加に対して直線的に増加し(すなわち、比例し)、電流値とクレアチニン濃度とは高い相関を示した。したがって、本発明に係るクレアチニン濃度測定方法により、得られる電流値に基づいてクレアチニンの定量を行うことが可能であることがわかる。
【0216】
測定後に、セル容器中に残った、クレアチニン濃度の異なる複数の水溶液について、カラムを用いたクロマトグラフィーにより、反応生成物の分析を行った。分析の結果、セル容器中の水溶液には、4価のヘキサシアノフェレートが生成していることがわかった。また、4価のヘキサシアノフェレートの生成量は、クレアチニン1分子あたり最大4分子であった。以上の分析結果から、本発明に係るクレアチニン濃度測定方法における反応を次のように説明することができる。
【0217】
試料中において、3価のヘキサシアノフェレートは、リン酸系緩衝剤の存在下、クレアチニンと反応して還元され、4価のヘキサシアノフェレートに変換される。すなわち、クレアチニンは、本反応によって3価のヘキサシアノフェレートに電子を供与し、酸化される。このとき、クレアチニンは、本反応によって、最大4電子の酸化を受けているものと考察することができる。第1の電極には、4価のヘキサシアノフェレートより電子を受容するような電位が印加されている。そのため、生成した4価のヘキサシアノフェレートは、第1の電極において、電気化学的に酸化される。これに伴い、第1の電極には電流が流れる。一定時間に生成する4価のヘキサシアノフェレートの濃度は、クレアチニン濃度に依存する。また、4価のヘキサシアノフェレートの酸化電流は、試料中に存在する4価のヘキサシアノフェレートの濃度に依存する。よって、得られる電流値は、クレアチニン濃度に依存する。
【0218】
(実施例2)
次に、本発明に係るクレアチニン濃度測定方法における好ましいpH範囲を調べるために、以下の実験を行った。実験に用いた試料の調製方法及び装置構成、並びに実験手順は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。ただし、本実施例においては、試料中のクレアチニン濃度は27mMとした。また、試料中に添加するリン酸系緩衝液のpHが、2、2.5、3、4、5、6、7、8、及び9の場合について、それぞれ実施例1と同様の測定を行った。
【0219】
表1に、電流値の測定結果を示す。pHが2.5〜7の領域、特に3〜6の領域において、顕著に電流値が大きく、かつ電流値が安定している。この結果から、前記pH領域において、クレアチニンの定量が特に感度良く、かつ高い再現性で測定できることがわかった。前記領域のうち、pH5〜6は、リン酸系緩衝剤によって付与できる。また、リン酸系緩衝剤の存在下で、クレアチニンと3価のヘキサシアノフェレートとの反応速度が速くなることがわかっている。したがって、リン酸系緩衝剤を試料と混合し、pHを5〜6に調整することが好ましい。また、このようなpHは、リン酸水素イオンとリン酸二水素イオンとによってもたらされる。よって、リン酸系緩衝剤として、例えばリン酸水素二カリウムまたはリン酸水素二ナトリウムと、リン酸二水素カリウムまたはリン酸二水素ナトリウムとを組み合わせて用いるのが好ましいと考えられる。また、pHが2.5〜7の領域においても電流値は得られており、クレアチニンの定量が可能である。
【0220】
【表1】

【0221】
(実施例3)
次に、本発明に係るクレアチニン濃度測定方法において、試料中に含まれ得る共存物質の影響を調べるため、以下の実験を行った。
【0222】
生体試料中に含まれ得る共存物質としては、イオン種、酵素変性剤、クレアチニンの酵素反応生成物、糖、アミノ酸等が挙げられる。そこで、本実施例では、共存物質の代表例として、試料中に溶解することによりイオン種を生成するNaCl、酵素変性剤である尿素、クレアチニンの酵素反応生成物であるクレアチン、サルコシン及びグリシン、糖であるグルコース、並びにアミノ酸であるヒスチジン、タウリン、グルタミン、及びセリンを用いた。
【0223】
実施例1と同様の手順により、濃度50mMのリン酸緩衝液(pH=6)を調製し、その緩衝液に、所定の濃度となるように、各共存物質を溶解した。室温25℃での測定と、反応を促進するために試料を60℃に加温しての測定とを行った。その他の試料の調製方法及び装置構成、並びに実験の手順は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0224】
表2に、用いた共存物質及びその濃度と、測定された電流値を示す。表2において、試料1は、共存物質を含まず、3mMのクレアチニンを含んでいるリン酸緩衝液である。また、試料2〜11は、表2に記載の各共存物質を含み、クレアチニンは含んでいない。表2において、測定された電流値は、試料1について測定された電流値を100とした場合の相対値を示している。
【0225】
表2から、いずれの共存物質を含む試料の場合も、クレアチニンを含み、共存物質が存在しない試料1と比べて、有意な電流は測定されなかったことがわかる。この結果から、本発明に係るクレアチニン濃度測定方法は、NaCl、尿素、クレアチン、サルコシン、グリシン、グルコース、ヒスチジン、タウリン、グルタミン、及びセリンのいずれの物質が試料中に含まれていても影響も受けないことがわかった。
【0226】
【表2】

【0227】
一方、ヤッフェ法のように、アルカリ性溶液中で酸化剤を用いてクレアチニンの定量を行う従来の方法においては、測定結果に与える糖やアミノ酸の影響は大きいことが知られている。これは、アルカリ性溶液中では、ピクリン酸がクレアチニンと同様に多くの有機分子と反応しやすいためである。
【0228】
比較例として、従来の酵素法により、同様の実験を行った。まず、7U/mLクレアチニンアミドヒドロラーゼ(クレアチニナーゼ)(東洋紡株式会社製、CNH−311)、10U/mLクレアチンアミジノヒドロラーゼ(クレアチナーゼ)(東洋紡株式会社製、CRH−221)、5U/mLサルコシンオキシダーゼ(東洋紡株式会社製、SAO−351)、及び100mMフェリシアン化カリウムを含む、50mMリン酸緩衝液(pH=7)を調製した。
【0229】
上記のリン酸緩衝液に、濃度が3mMとなるようにクレアチニンを添加し、試料12を調製した。
【0230】
試料12に、さらに共存物質として、濃度が0.5MとなるようにNaClを添加し、試料13を調製した。
【0231】
試料12に、さらに共存物質として、濃度が1Mとなるように尿素を添加し、試料14を調製した。
【0232】
試料12〜14について、反応を促進するために試料を40℃に加温した以外は、本実施例と同様の手順により実験を行った。
【0233】
表3に、比較例について得られた結果を示す。電流値は、試料12について測定された電流値を100とした相対値で示した。
【0234】
表3からわかるように、試料中に0.5MのNaClまたは1Mの尿素が存在するとき、共存物質が存在しない場合と比較して、クレアチニンに由来する電流値は大きく低下した。このような結果は、高濃度のNaClや尿素により、酵素タンパク質が変性されたためであると考えられる。これらの共存物質により、測定に用いた酵素の活性が25〜80%に低下することがわかった。酵素の変性の結果、酵素活性が低下して、一定時間における反応の進行が低下するため、電流値が減少したものと考えられる。このような傾向は室温においても同様であると考えられる。
【0235】
【表3】

【0236】
以上の結果から、本発明に係るクレアチニン濃度測定方法により、イオン種、尿素、クレアチニンの酵素反応生成物、糖、アミノ酸などの共存成分の影響を受けることなく、従来の測定方法よりも精度良く、試料中に含まれるクレアチニンを定量することができることがわかった。
【0237】
(実施例4)
本発明に係るクレアチニン濃度測定方法の効果を確認するために、以下の実験を行った。
【0238】
本実施例では、クレアチニン定量用試薬として、下記式(8)に示す、4価のアニオンであるヘキサシアノルテネートのカリウム塩(三津和化学薬品株式会社製)を用いた。
【0239】
K4[Ru(CN)6] (8)
まず、200mMのリン酸水素二カリウム水溶液と、200mMのリン酸二水素カリウム水溶液とを調製した。pHメーターを用いてモニターしながら、2つの水溶液を交互に混合することにより、得られる混合水溶液のpHを6に調整した。このようにして得られた200mMのリン酸系緩衝液(pH=6)に、式(8)に示すヘキサシアノルテネートのカリウム塩を濃度が1mMとなるよう溶解した。
【0240】
本実施例に用いたセル及び測定装置の構成は、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0241】
次に、濃度500mMのクレアチニン水溶液を、前記セル容器中の水溶液に少量添加した。クレアチニン水溶液の添加量は、セル容器中の水溶液に含まれるクレアチニン濃度が所定の値になるよう、測定毎に調整した。セル容器中の水溶液に含まれるクレアチニン濃度が、0、8、16、32、及び64mMの場合について、それぞれ以下の測定を行った。
【0242】
クレアチニン水溶液の添加後、電気化学アナライザー(ALS社製、ALS−660A)により、第1の電極に印加する電位を第3の電極に対して0.5Vから1Vへ掃引し、
続いて1Vから0.5Vへと掃引し、そのときに流れる電流を測定した。電位の掃引速度は1mV/秒とした。
【0243】
図12に、測定結果(サイクリックボルタモグラム)を示す。図12において、曲線A〜Eは、それぞれクレアチニン濃度が0、8、16、32、及び64mMの場合の測定結果を示している。クレアチニンが存在しない場合、0.75V付近を酸化還元電位とするヘキサシアノルテネートの第1の電極上での酸化還元反応が見られた。クレアチニンを添加することにより、0.8Vよりポジティブな電位での電流が有意に増加した。以上の結果は、クレアチニンがヘキサシアノルテネートの酸化体により酸化され、生成したヘキサシアノルテネートの還元体が第1の電極で酸化されていることを示唆している。すなわち、クレアチニンの電気化学的な触媒酸化反応が、ヘキサシアノルテネートを通して進行していることを示している。
【0244】
クレアチニン濃度が異なる各試料について、図12に示すサイクリックボルタモグラムから0.9Vにおける酸化電流値を求め、クレアチニン濃度が0の場合の酸化電流値との差を算出した。図13は、得られた酸化電流値の差をクレアチニン濃度に対してプロットしたグラフである。図13に示すように、得られた酸化電流値はクレアチニンの濃度の増大と共に増加した。したがって、本実施例のようにサイクリックボルタンメトリーを行い、酸化電流値を求めることにより、クレアチニンの定量を行うことができることがわかった。
【0245】
なお、本実施例においては、サイクリックボルタンメトリーにより酸化電流を測定したが、これに限定されない。これに代えて、例えば、第3の電極に対して0.9Vの一定電位を第1の電極に印加し、クレアチニンの添加から一定時間(例えば3分)後に流れる酸化電流を測定してもよい。この場合も、酸化電流値は、試料中に含まれるクレアチニンの濃度に応じて増加するため、クレアチニンの定量が可能である。
【0246】
(実施例5)
本発明に係るクレアチニン濃度測定方法の効果を確認するために、以下の実験を行った。
【0247】
本実施例では、ヘキサシアノフェレートの金属錯体として、フェリシアン化カリウム(ポタシウムフェリシアネート)、カチオン化親水性ポリマーとして、カチオン化グアガムを用いた。また、実施の形態1と同様の手順により、図1に示す構造を有するクレアチニン濃度測定デバイスを作製した。本実施例においては、カチオン化グアガムとして、市販のグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドを用いた。
【0248】
試薬層130を形成する際に用いた、試薬を含む水溶液は、以下のように調製した。まず、400mMのリン酸水素二カリウム水溶液と、400mMのリン酸二水素カリウム水溶液とを調製した。次に、pHメーターを用いてモニターしながら、2つの水溶液を交互に混合することにより、得られる混合水溶液のpHを6に調整した。最後に、このようにして得られた400mMのリン酸系緩衝液(pH=6)に、フェリシアン化カリウムを濃度が100mMとなるよう溶解させ、カチオン化グアガムを濃度が0.25重量%となるように溶解させることにより、試薬を含む水溶液が得られた。
【0249】
第1の電極112及び第2の電極114上に、上記の手順により調製された水溶液を1.4μL滴下することにより、試薬層130を形成した。試薬層130を形成する領域の面積は3mm2とした。また、作製されたクレアチニン濃度測定デバイスの試料収容室の
容積は0.6μLである。
【0250】
また、参考例として、試薬層を形成する際に用いた水溶液中にカチオン化グアガムを添
加しない点以外は、実施例1と同様の手順により、図1に示す構造を有するクレアチニン濃度測定デバイスを作製した。
【0251】
クレアチニン濃度測定デバイスの第1のリード、及び第2のリードに、電気化学アナライザー(ALS社製、ALS−660A)の作用極用の端子、及び対極、参照極用の2つの端子をそれぞれ接続した。その後、クレアチニン濃度測定デバイスの試料導入口に、試料であるクレアチニンを溶解した水溶液を接触させることにより、試料収容室内に0.6μLの試料を導入した。試料の導入から60秒経過後、上記電気化学アナライザーを用いて、第1の電極が第2の電極に比べて+0.6Vとなる電圧を印加した。電圧の印加から10秒後に、第1の電極と第2の電極との間に流れる電流を測定した。以上の実験は、室温(約25℃)で行った。
【0252】
クレアチニン濃度が、0、10、30、及び40mMの試料について、それぞれ以上の測定を行った。
【0253】
図14は、実施例5のクレアチニン濃度測定デバイスを用いて測定された電流値を、クレアチニン濃度に対してプロットしたグラフである。図14において、横軸は試料中に含まれるクレアチニン濃度(mM)、縦軸は測定された電流値(μA)を示す。図14から明らかなように、得られた電流値は、試料中に含まれるクレアチニン濃度の増加に対して直線的に増加し(すなわち、比例し)、電流値とクレアチニン濃度とは高い相関を示した。
【0254】
図15は、実施例5及び参考例のクレアチニン濃度測定デバイスを用いて測定された電流値のばらつき(変動係数)を示すグラフである。図15において、横軸は試料中に含まれるクレアチニン濃度(mM)、縦軸は変動係数(%)を示す。また、白の棒グラフが実施例5のデータ、黒の棒グラフが参考例のデータを示す。
【0255】
図15からわかるように、クレアチニン濃度の異なるいずれの試料について測定を行った場合でも、参考例に比べて、実施例5のクレアチニン濃度測定デバイスでは、変動係数が低くなっている。この結果から、試薬層にカチオン化グアガムを添加することにより、クレアチニン濃度測定の再現性が向上していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0256】
本発明は、試料、特に尿などの生体試料中に含まれるクレアチニンを定量する際に有用である。
【符号の説明】
【0257】
100、400 クレアチニン濃度測定デバイス
102 第1の基板
104 第2の基板
106 スペーサ(第1のスペーサ)
108、708 空気孔
110、710 スリット
112 第1の電極
114 第2の電極
122 第1のリード
124 第2のリード
130 試薬層
132 試料導入口(第1の試料導入口)
200、500 クレアチニン濃度測定装置
202 筺体
204 ディスプレイ
206 測定開始ボタン
208 測定デバイス取付け部
302 電圧印加部
304 電気信号検出部
306 制御部
308 計時部
310 記憶部
502 光源
504 受光器
700 塩分量測定デバイス
702 第1の面
704 第3の基板
706 第2のスペーサ
712 第3の電極
714 第4の電極
716 第5の電極
718 第6の電極
722 第3のリード
724 第4のリード
726 第5のリード
728 第6のリード
732 第2の試料導入口
802 第2の面
900 塩分量測定装置
902 定電流交流電源
904 電圧検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含むクレアチニン定量用試薬と、クレアチニンを含む試料とを混合して、前記クレアチニンによって前記金属錯体を還元させる工程、
(B)前記工程Aにおいて還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する工程、並びに
(C)前記工程Bにおいて測定された前記還元された金属錯体の量に基づき、前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度を求める工程を含む、クレアチニン濃度測定方法。
【請求項2】
工程Aにおいて混合後の前記試料のpHが、2.5以上、7以下である、請求項1に記載のクレアチニン濃度測定方法。
【請求項3】
工程Aにおいて混合後の前記試料のpHが、3以上、6以下である、請求項1に記載のクレアチニン濃度測定方法。
【請求項4】
前記工程Aにおいて、
前記試料にリン酸系緩衝剤をさらに混合する、請求項1に記載のクレアチニン濃度測定方法。
【請求項5】
前記工程Aにおいて、
前記試料にリン酸系緩衝剤をさらに混合することにより、前記試料のpHを5〜6に調整する、請求項1に記載のクレアチニン濃度測定方法。
【請求項6】
前記工程Aにおいて、
前記試料にカチオン化親水性ポリマーをさらに混合する、請求項1に記載のクレアチニン濃度測定方法。
【請求項7】
前記カチオン化親水性ポリマーが、カチオン化グアガムである、請求項6に記載のクレアチニン濃度測定方法。
【請求項8】
前記工程Bが、
(D)前記試料に2つ以上の電極を接触させ、前記2つの電極間に電圧を印加する工程、及び
(E)前記2つの電極間に流れる電流値または電荷量を検出する工程を含み、
前記工程Cにおいて、
前記工程Eにおいて検出された前記電流値または前記電荷量に基づいて、前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度を求める、請求項1に記載のクレアチニン濃度測定方法。
【請求項9】
前記工程Bが、
(F)前記試料に入射光を照射する工程、及び
(G)前記試料を透過した透過光または前記試料において反射した反射光を検出する工程を含み、
前記工程Cにおいて、
前記工程Gにおいて検出された前記透過光または前記反射光の強度に基づいて、前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度を求める、請求項1に記載のクレアチニン濃度測定方法。
【請求項10】
(a)クレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含むクレアチニン定量用試薬と、試料である尿とを混合して、前記尿中のクレアチニンによって前記金属錯体を還元させる工程、
(b)前記工程aにおいて還元された金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する工程、
(c)前記尿の電気特性を測定する工程、及び
(d)前記工程bにおいて測定された前記還元された金属錯体の量と、前記工程cにおいて測定された前記電気特性とに基づいて、前記尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める工程を含む、塩分量測定方法。
【請求項11】
前記工程cが、前記工程aの前に行われる、請求項10に記載の塩分量測定方法。
【請求項12】
前記工程cが、前記工程bの後かつ前記工程dの前に行われる、請求項10に記載の塩分量測定方法。
【請求項13】
前記工程aにおいて、
前記試料にリン酸系緩衝剤をさらに混合することにより、前記試料のpHを5〜6に調整する、請求項10に記載の塩分量測定方法。
【請求項14】
前記工程aにおいて、
前記試料にカチオン化親水性ポリマーをさらに混合する、請求項10に記載の塩分量測定方法。
【請求項15】
前記カチオン化親水性ポリマーが、カチオン化グアガムである、請求項14に記載の塩分量測定方法。
【請求項16】
クレアチニンを含む試料をクレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で収容するための試料収容室と、
前記試料収容室と連通し、前記試料収容室内に前記試料を導入するための試料導入口と、
前記試料収容室内に配置されたクレアチニン定量用試薬と、
前記試料収容室内に配置された2つ以上の電極、または前記試料収容室に形成された光学測定用の窓部と、
を備え、
前記試薬が、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含む、クレアチニン濃度測定デバイス。
【請求項17】
前記試料収容室内にリン酸系緩衝剤をさらに備える、請求項16に記載のクレアチニン濃度測定デバイス。
【請求項18】
前記試料収容室内にカチオン化親水性ポリマーをさらに備える、請求項16に記載のクレアチニン濃度測定デバイス。
【請求項19】
前記カチオン化親水性ポリマーが、カチオン化グアガムである、請求項18に記載のクレアチニン濃度測定デバイス。
【請求項20】
試料である尿をクレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で収容するための第1の試料収容室と、
前記第1の試料収容室と連通し、前記第1の試料収容室内に前記尿を導入するための第1の試料導入口と、
前記第1の試料収容室内に配置されたクレアチニン定量用試薬と、
前記第1の試料収容室内に配置された2つ以上の電極、または前記試料収容室に形成された光学測定用の窓部と、
前記尿を収容するための第2の試料収容室と、
前記第2の試料収容室と連通し、前記第2の試料収容室内に前記尿を導入するための第2の試料導入口と、
前記第2の試料収容室内に配置された2つ以上の電極と、を備え、
前記試薬が、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含む、塩分量測定デバイス。
【請求項21】
クレアチニンを含む試料をクレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で収容するための試料収容室と、前記試料収容室と連通し、前記試料収容室内に前記試料を導入するための試料導入口と、前記試料収容室内に配置されたクレアチニン定量用試薬と、前記試料収容室内に配置された2つ以上の電極、または前記試料収容室に形成された光学測定用の窓部と、を備え、前記試薬が、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含むクレアチニン濃度測定デ
バイスを取付けるための測定デバイス取付け部、
前記試料収容室内において、クレアチニンによって還元された前記金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する測定部、及び
前記測定部において測定された前記還元された金属錯体の量に基づき、前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度を求める演算部、を備えるクレアチニン濃度測定装置。
【請求項22】
前記測定部が、
前記試料収容室内に入射する入射光を出射する光源、及び
前記試料収容室内を透過した透過光または前記試料収容室内において反射した反射光を検出する受光器を有し、
前記演算部が、
前記受光器において検出された前記透過光または前記反射光の強度に基づいて前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度を求める、請求項21に記載のクレアチニン濃度測定装置。
【請求項23】
前記測定部が、
前記2つの電極間に電圧を印加する電圧印加部、及び
前記2つの電極間に流れる電流値または電荷量を検出する検出部を有し、
前記演算部が、
前記検出部により検出された前記電流値または前記電荷量に基づいて前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度を求める、請求項21に記載のクレアチニン濃度測定装置。
【請求項24】
試料である尿をクレアチニンに作用する酵素およびピクリン酸のいずれもが存在しない条件で収容するための第1の試料収容室と、前記第1の試料収容室と連通し、前記第1の試料収容室内に前記尿を導入するための第1の試料導入口と、前記第1の試料収容室内に配置されたクレアチニン定量用試薬と、前記第1の試料収容室内に配置された2つ以上の電極、または前記試料収容室に形成された光学測定用の窓部と、前記尿を収容するための第2の試料収容室と、前記第2の試料収容室と連通し、前記第2の試料収容室内に前記尿を導入するための第2の試料導入口と、前記第2の試料収容室内に配置された2つ以上の電極と、を備え、前記試薬が、ヘキサシアノフェレート及びヘキサシアノルテネートのうち少なくとも一方の金属錯体を含む塩分量測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、
前記第1の試料収容室内において、クレアチニンによって還元された前記金属錯体の量を、電気化学的または光学的に測定する第1の測定部、
前記第2の試料収容室内において、前記尿の電気特性を測定する第2の測定部、及び
前記第1の測定部において測定された前記還元された金属錯体の量と、前記第2の測定部において測定された前記電気特性とに基づき、前記尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める演算部を備える、塩分量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−151826(P2010−151826A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24487(P2010−24487)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【分割の表示】特願2009−541527(P2009−541527)の分割
【原出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】