説明

塩化ニッケル溶液の浄液方法

【課題】コバルト濃度の高い塩化ニッケル溶液からNi/Co比が3以下のコバルト沈殿物を得ることのできる安価な塩化ニッケル溶液の浄液方法の提供を課題とする。
【解決手段】高コバルト濃度のニッケル浸出液とニッケル電解廃液とを混合して塩化ニッケル溶液を得、該塩化ニッケル溶液を浄液するに際して、ニッケル濃度は90〜130g/L、コバルト濃度は1.0〜3.0g/Lの塩化ニッケル溶液を得、該塩化ニッケル溶液に酸化剤を加えて酸化還元電位を600〜1200mV(Ag/AgCl電極規準)とし、中和剤を用いてpHを4.0〜6.0とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ニッケル溶液の浄液方法に関し、さらに詳しくは、高コバルト濃度の塩化ニッケル溶液からNi/Co比が3以下のコバルト沈殿物を得ることのできる安価な塩化ニッケル溶液の浄液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属ニッケルを得る方法として、硫鉄ニッケル鉱((Fe,Ni))を熔錬して得られたニッケルマットを塩素浸出し、得たニッケル浸出液中の塩化物濃度、具体的にはニッケル濃度を130g/L以下になるように希釈して塩化ニッケル溶液を得た後、該塩化ニッケル液を浄液して清澄塩化ニッケル溶液を得、これを電解液として用い、不溶性アノードを用いてニッケルを電解採取し、電気ニッケルを得る方法が一般的である。この際、電解採取工程で生成され回収された塩素ガスは、前記ニッケルマットの浸出工程に使用する酸化剤としてその全量が再利用される。
【0003】
前記塩化ニッケル溶液を浄液する際には、浸出液に電解終液を添加して、130g/l以下のニッケルイオンと0.05〜0.2g/lの二価の鉄イオンと0.05〜0.2g/lのコバルトイオンとを含む塩化物溶液に調整した後、該溶液のpHを3.9〜4.1に維持しつつ、該溶液中に含まれる二価の鉄イオンとコバルトイオンの合量に対して当量以上となる塩素を吹き込んで酸化還元電位を1200〜1300mVとし、コバルトイオンをNi/Co比が2以下の澱物として除去する方法が提案されており、既に実用化されてきている(特許文献1 第1、2頁参照)。
【0004】
この方法は、コバルト、鉄、ニッケルなどの重金属イオンが、高価数の陽イオンになると、低いpH領域でも水酸化物として沈澱しやすい性質を利用したものである。この方法では、塩化ニッケル溶液中の二価のコバルトイオンと鉄イオンは、以下の式1に従い酸化され中和され水酸化物となり、コバルト沈殿物として沈殿する。
【0005】
2+ + 0.5Cl + 1.5NiCO + 1.5H
→ M(OH) + 1.5Ni2+ + Cl + 1.5CO ……式1
(但し、式中、Mは、Co、Feを表す。)
【0006】
この反応においては、コバルトイオンと鉄イオンのみが水酸化物を形成するのではなく、ニッケルイオンも同様に反応するため、ニッケルの共沈殿が生じる。
こうして得られたコバルト沈殿物を含む塩化ニッケル溶液は濾過装置で濾過された後、清澄塩化ニッケル溶液とコバルト沈殿物にされ、清澄塩化ニッケル溶液は電解採取工程に供され、コバルト沈殿物はニッケルとコバルトとを回収する工程に供される。
【0007】
ところで、近年、各種のスクラップや工程内中間物のリサイクルの活発化、また低ニッケル品位のラテライト鉱を原料鉱石とする湿式精錬法の実用化にともない、溶液中のニッケルとコバルトを硫化物として沈殿させて回収して得たニッケル・コバルト混合硫化物が新たな原料となってきた。
【0008】
このニッケル・コバルト混合硫化物は、例えば、ニッケルマットを得るための硫鉄ニッケル鉱((Fe,Ni))に比べてコバルトを多く含むラテライト鉱石をスラリー化し、これに硫酸を添加し、高圧空気及び高圧水蒸気を吹込み、ニッケルとコバルトとを浸出し、得られた浸出液を中和して脱鉄した後、硫化剤を用いてニッケルとコバルトとを硫化物として沈殿させて得る。このようにして得たニッケル・コバルト混合硫化物では、通常、ニッケル品位は50〜60重量%、コバルト品位は2.5〜5.0重量%であり、鉄品位は0.5重量%程度以下と低い。
なお、因みに、前記ニッケルマット中のニッケル品位は72〜79重量%、コバルト品位は0.5〜2.0重量%、鉄品位は0.4〜5.0重量%であり、前記ニッケル・コバルト混合硫化物と比較してコバルト品位は低く、鉄品位は高い。
こうしたニッケル・コバルト混合硫化物を原料として用いて金属ニッケルを得るには、前記と同様に、該ニッケル・コバルト混合硫化物を塩素浸出し、得たニッケル浸出液とニッケル電解廃液とを混合して組成調合して塩化ニッケル溶液を得、得た塩化ニッケル溶液を浄液して清澄塩化ニッケル溶液を得、これを電解液として用いてニッケルを電解採取する。
【0009】
しかし、前記したように、ニッケル・コバルト混合硫化物中のコバルト品位は高いため、得られた塩化ニッケル溶液中のコバルト濃度も高くなり、従来と同様にして該塩化ニッケル溶液を浄液するとニッケルの共沈量が増加し、得られるコバルト沈殿物中のNi/Co比は3を大きく超える値になってしまう。
Ni/Co比の上昇は、ニッケルの共沈量の増加を示し、その分酸化剤と中和剤とが多く使用されていることになる。また、Ni/Co比の上昇は、コバルト沈殿物のろ過性を悪化させるため、ろ過処理する際のろ過機への負荷が増大することになる。その結果、処理コストを増大させることになる。
このため、高コバルト濃度の塩化ニッケル溶液からNi/Co比が3以下のコバルト澱物を得ることのできる安価な塩化ニッケル溶液の浄液法の提供が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平03−126825号公報 第1、2頁参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、コバルト濃度の高い塩化ニッケル溶液からNi/Co比が3以下のコバルト沈殿物を得ることのできる安価な塩化ニッケル溶液の浄液方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、塩化ニッケル溶液中のニッケル、コバルト濃度を特定の濃度範囲として酸化還元電位とpHとを特定の値とすれば、得られるコバルト沈殿物のNi/Co比を3以下にできることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ニッケル・コバルト混合硫化物を塩素浸出して得られるニッケル浸出液(A)とニッケル電解廃液(B)とを混合してなる塩化ニッケル溶液(C)を浄液するに際して、下記の(i)〜(iii)の処理を行うことを特徴とする塩化ニッケル溶液の浄液方法が提供される。
(i)ニッケル浸出液(A)とニッケル電解廃液(B)との混合割合を調整することにより、ニッケル濃度が90〜130g/L、コバルト濃度が1.0〜3.0g/Lである塩化ニッケル溶液(C)を調製する。
(ii)塩化ニッケル溶液(C)に酸化剤を用いて酸化還元電位を600〜1200mV(Ag/AgCl電極規準)とし、かつ中和剤を用いてpHを4.0〜6.0とする。
(iii)Ni/Co比が3以下のコバルト澱物を除去する。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、前記第1の発明において、前記塩化ニッケル溶液(C)は、鉄を0.001〜0.1g/L含むことを特徴とする塩化ニッケル溶液の浄液方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第3の発明によれば、前記第1の発明において、前記酸化剤が塩素であり、前記中和剤が水酸化ニッケル、塩基性炭酸ニッケルおよび炭酸ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする塩化ニッケル溶液の浄液方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ニッケル・コバルト沈殿物を塩素浸出して得られるニッケル浸出液とニッケル電解廃液とを混合して得られる高コバルト濃度の塩化ニッケル溶液からNi/Co比が3以下のコバルト沈殿物を得ることができるため、コバルト沈殿物への過剰のニッケル分の共沈を防止でき、その分の酸化剤及び中和剤の使用量を低減できる。加えて酸化剤として安価な塩素、中和剤としてニッケル精錬工程の副産物として得られる水酸化ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、及び炭酸ニッケルの内の少なくとも一種を用いるため、本発明の方法は安価な方法である。加えて、生成するコバルト沈殿物のろ過性も改善されるため、ろ過機を始めろ過工程全体への負荷も軽減されるため、この点からも本発明の方法は安価な方法である。
また、本発明の浄液方法は、その溶液の由来を問わずコバルト濃度の高い塩化ニッケル溶液に適用できるので、その工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、塩化ニッケル溶液中のコバルト濃度と生成した水酸化物(コバルト沈殿物)中のNi/Co比の関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において最も重要なことは、(イ)塩化ニッケル溶液中のニッケル濃度を90〜130g/Lとし、コバルト濃度を1.0〜3.0g/Lとすること、(ロ)酸化還元電位(Ag/AgCl電極規準)を600mV〜1200mVとし、pHを4.0〜6.0にすることにある。
(イ)に関しては、この範囲にニッケル濃度とコバルト濃度を調整すれば、ニッケル浸出液をニッケル電解廃液で希釈して塩化ニッケル溶液を得る際に塩化ニッケル溶液量の大幅な増加を招くことなく、コバルトや鉄のクロロ錯体を不安定化して三価のコバルト沈殿物として十分沈殿させることが可能となり、かつ得られるコバルト沈殿物中のNi/Co比を3以下にすることが可能となるからである。
【0019】
(ロ)に関しては、酸化還元電位(Ag/AgCl電極規準)が600mV未満ではコバルトの三価への酸化が不十分であり、コバルトの除去が十分に行えない。一方、1200mVを超えると、ニッケルが三価に酸化されて共沈量が増加し、コバルト沈殿物中のNi/Co比を3以下にできないからである。また、pHが4.0未満では、中和反応が不十分で、三価のコバルトが十分沈殿せず、一方、pHが6.0を超えると、ニッケルの中和反応による共沈量が増加して生成するコバルト沈殿物のNi/Co比を3以下にできないからである。
【0020】
以下、本発明の塩化ニッケル溶液の浄液方法をニッケル浸出液、ニッケル電解廃液、塩化ニッケル溶液、ニッケル浸出液、ニッケル電解廃液、酸化還元電位、及びpH等に項分けして詳細に説明する。
【0021】
1)ニッケル浸出液(A)
本発明において、ニッケル浸出液は、ニッケル・コバルト混合硫化物を塩素浸出して得られるものである。このニッケル・コバルト混合硫化物は、特に限定されないが、例えば、前記したように、コバルト品位の高いラテライト鉱をスラリー化し、これに硫酸を添加し、高圧空気及び高圧水蒸気を吹込み、ニッケルとコバルトとを浸出し、得られた浸出液を中和して脱鉄した後、硫化剤を加えて沈殿させて得たものである。
ニッケル浸出液のニッケル濃度は、160〜250g/L、コバルト濃度は、5〜10g/L、及び鉄濃度は、0.5〜3.0g/Lである。そして、塩化物濃度は190〜320g/L程度となっているのが一般的である。
【0022】
2)ニッケル電解廃液(B)
ニッケル電解廃液は、前記塩化ニッケル溶液を浄液して得られた清澄塩化ニッケル溶液を電解液として用い、不溶性アノードを陽極として用いてニッケルを電解採取した後の廃液として得られる。この際、電解採取工程で生成され回収された塩素ガスは、前記ニッケル・コバルト混合硫化物からニッケル浸出液を得るのにその全量が再利用される。
こうして得られたニッケル電解廃液中には、通常、ニッケルが80〜100g/L、塩化物が95〜120g/Lで含まれており、コバルトと鉄についてはほとんど含まれていない。
【0023】
3)塩化ニッケル溶液(C)
本発明の塩化ニッケル溶液は、後述するニッケル浸出液とニッケル電解廃液とを混合して得る。
なお、ニッケル浸出液とニッケル電解廃液とを混合して組成調合するのは、ニッケル浸出液では、その塩化物濃度(通常ニッケル濃度で代表される)が高すぎてコバルトや鉄は安定なクロロ錯体を形成し、これに酸化剤を加えても二価から三価への酸化が不十分となり、酸化還元電位とpHを調節してもコバルトを十分除去できなくなるからである。とはいえ、希釈量を増大させると塩化ニッケル溶液の量が大幅に増加し、設備容量を増加させる必要が生じるので好ましくない。
【0024】
そのため、塩化ニッケル溶液中のニッケル濃度が90〜130g/L、コバルト濃度が1.0〜3.0g/Lになるように組成調合する。これにより、塩化ニッケル溶液量の大幅な増加を招くことなく、コバルトのクロロ錯体を不安定化してコバルトを三価とし、コバルト沈殿物として十分沈殿させることが可能となる。この範囲を外れると、本発明の条件である酸化還元電位値とpH値とを採用して処理しても、得られるコバルト沈殿物中のNi/Co比を3以下にすることができない。
また、この際に、鉄濃度は、0.001〜0.1g/Lとすることが好ましく、希釈溶液として鉄濃度を増加させるものを用いることは好ましくない。この上限範囲を外れると、鉄イオンが水酸化物澱物を形成して、ろ過効率を低下させるからである。
【0025】
本発明では、ニッケル浸出液とニッケル電解廃液を用いてニッケル濃度を調整しているが、これはニッケル精錬プロセスにおける系内全体の液量を増加させないようにするためであり、これにこだわらなければ、ニッケル電解廃液の代わりに工業用水でもよい。工業用水を用いれば、ニッケル電解廃液を用いるよりも、少量の液量で目的とする塩化物濃度にまで希釈することが可能となり、希釈後のニッケル浸出液中のコバルト濃度を高く維持できるという利点がある。
【0026】
4)酸化還元電位
本発明において、酸化還元電位(Ag/AgCl電極規準)は、600mV〜1200mVとし、好ましくは1000mV〜1200mVとする。酸化還元電位(Ag/AgCl電極規準)が600mV未満ではコバルトの三価への酸化が不十分であり、コバルトの除去が十分に行えない。一方、1200mVを超えると、ニッケルが三価に酸化されてコバルト沈殿物として共沈する量が増加し、得られるコバルト沈殿物中のNi/Co比を3以下とすることができない。
ここで、用いられる酸化剤としては、酸化還元電位を前記範囲に上昇させることのできるものであれば特に限定されるものではないが、不純物の蓄積がおこらない塩素ガスが好ましい。
【0027】
5)pH
本発明では、前記塩化ニッケル溶液中の酸化還元電位を上記範囲に維持しつつpHを4.0〜6.0、好ましくは4.0〜5.0にする。すなわち、pHが4.0未満では、中和反応が不十分で、特に三価のコバルトがコバルト沈殿物として十分沈殿しない。一方、pHが6.0を超えると、ニッケルの共沈量が増加するため、生成するコバルト沈殿物のNi/Co比を3以下にすることができない。
ここで用いられる中和剤としては、特に限定されるものではなく、アルカリ塩が用いられるが、この中で不純物の蓄積が起こらない水酸化ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、及び炭酸ニッケルが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例では、ニッケル浸出液として、ニッケル・コバルト混合硫化物を塩素ガスで浸出して得られた実操業のニッケル浸出液を用い、ニッケル電解廃液も実操業のニッケル電解廃液を用いた。また、酸化剤として塩素ガスを、中和剤として炭酸ニッケルを用いた。
また、産出された各溶液の金属濃度とコバルト沈殿物の金属品位については、原子吸光法を用いて求めた。
【0029】
(実施例1)
表1に示した組成のニッケル浸出液に、3倍量のニッケル濃度82.4g/Lのニッケル電解廃液を加えてニッケル濃度を希釈して表1に示した組成の塩化ニッケル溶液を得た。
次に、この塩化ニッケル溶液の酸化還元電位(Ag/AgCl電極規準)が1040mVとなるよう塩素ガスを吹き込み、pHが4.5となるよう炭酸ニッケルを添加し1時間保持した。
その後、生成したコバルト沈殿物を固液分離して清澄塩化ニッケル溶液を得た。得られた清澄塩化ニッケル液中の各不純物元素濃度と生成したコバルト沈殿物中のニッケル品位とコバルト品位を求め、Ni/Co比を求めた。得られた結果を表2に示した。
【0030】
(実施例2)
本例は、塩化ニッケル中のコバルト濃度を実施例1よりも高くした場合についての例になる。
表1に示した組成のニッケル浸出液に、2.7倍量のニッケル濃度83.3g/Lのニッケル電解廃液を加えて表1に示した組成の塩化ニッケル溶液を得た以外は、実施例1と同様に塩化ニッケル溶液を酸化中和法して清澄塩化ニッケル溶液とコバルト沈殿物とを得た。
得られた清澄塩化ニッケル液中の各不純物元素濃度と生成したコバルト沈殿物中のニッケル品位とコバルト品位を求め、Ni/Co比を求めた。得られた結果を表2に示した。
【0031】
(比較例1)
表1に示した組成のニッケル浸出液に、4.1倍量のニッケル濃度78.3g/Lのニッケルニッケル電解廃液を加えて表1に示した組成の塩化ニッケル溶液を得た以外は、実施例1と同様に塩化ニッケル溶液を酸化中和法して清澄塩化ニッケル溶液とコバルト沈殿物とを得た。
得られた清澄塩化ニッケル液中の各不純物元素濃度と生成したコバルト沈殿物中のニッケル品位とコバルト品位を求め、Ni/Co比を求めた。得られた結果を表2に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
本発明の条件に従う実施例では、表2より、清澄塩化ニッケル溶液中のコバルト濃度は0.003g/L以下まで除去できていることが分かる。このコバルト濃度であれば、後工程の電解工程にて製品スペックを十分に満足する電気ニッケルの生産が可能なので問題はない。また、銅と鉄のいずれもが<0.001g/Lまで除去できており、良好な浄液結果が得られていることが分かる。また、得られたコバルト沈殿物のNi/Co比は2〜3であり、ろ過性も良かった。
これに対して、本発明の条件以外の比較例では、表2より、銅、鉄については<0.001g/Lまで除去できており、コバルトについても、実施例と同程度まで除去できており、後工程の電解工程にて製品スペックを十分に満足する電気ニッケルの生産は可能であることがわかるが、コバルト沈殿物中のNi/Co比は4以上と高く、コバルトに対して4倍以上のニッケルが共沈しており、その分、実施例と比較して酸化剤と中和剤との消費量が多かった。また、コバルト沈殿物のろ過性も悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の方法に従えば、塩化ニッケル溶液中のコバルトを酸化中和法で除去する際に、ニッケルの共沈殿量の減少を図ることができ、ニッケル共沈殿に要する酸化剤としての塩素ガス量および中和剤としての炭酸ニッケル量を削減することが可能となる。また、本発明の浄液方法は、その溶液の由来を問わずコバルト濃度の高い塩化ニッケル溶液に適用できるので、その工業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル・コバルト混合硫化物を塩素浸出して得られるニッケル浸出液(A)とニッケル電解廃液(B)とを混合してなる塩化ニッケル溶液(C)を浄液するに際して、下記の(i)〜(iii)の処理を行うことを特徴とする塩化ニッケル溶液の浄液方法。
(i)ニッケル浸出液(A)とニッケル電解廃液(B)との混合割合を調整することにより、ニッケル濃度が90〜130g/L、コバルト濃度が1.0〜3.0g/Lである塩化ニッケル溶液(C)を調製する
(ii)塩化ニッケル溶液(C)に酸化剤を用いて酸化還元電位を600〜1200mV(Ag/AgCl電極規準)とし、かつ中和剤を用いてpHを4.0〜6.0とする
(iii)Ni/Co比が3以下のコバルト澱物を除去する
【請求項2】
前記塩化ニッケル溶液(C)は、鉄を0.001〜0.1g/L含むことを特徴とする請求項1に記載の塩化ニッケル溶液の浄液方法。
【請求項3】
前記酸化剤が塩素であり、前記中和剤が水酸化ニッケル、塩基性炭酸ニッケルおよび炭酸ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の塩化ニッケル溶液の浄液方法。

【図1】
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