説明

塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法

【課題】 本発明は、マクロモノマーの残渣がなく、重合安定性に優れた、生産性の高い、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合させて塩化ビニル系共重合樹脂を製造するに際し、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを10℃以上60℃以下の温度で同時に混合溶解しながら重合反応機に投入し、共重合反応を開始することを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系モノマーおよび二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとの共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、安価で且つ機械的物性や化学的物性に優れる等、品質バランスに優れており、また可塑剤を使用することで硬質から軟質までの成形体が得られるため、種々の広範な分野で利用されている熱可塑性樹脂である。
【0003】
近年、片末端に重合性官能基を有するオリゴマーやポリマーであるいわゆるマクロモノマーの合成技術の進歩により、これを用いたクシ状共重合樹脂の開発と応用に関心が寄せられている。このような共重合樹脂を製造する場合、両者を重合開始剤とともに適当な溶剤に溶解して共重合する溶液重合が一般的である。
【0004】
しかし、溶液重合法は、溶剤への連鎖移動が生じやすいため、高分子のクシ状共重合樹脂を製造し難く、得られた共重合樹脂の物性も目的とする成形材料には採用し難いという問題があった。
そのため、マクロモノマーとビニルモノマーの良溶媒を使用して、両者を溶媒中に重合開始剤とともに溶解し、その混合物を水系懸濁重合することにより共重合樹脂を得る方法が提案されているが(特許文献1)、これらの方法で水系懸濁重合を行う場合には、得られた共重合樹脂中に使用した溶媒が残存しやすいことや、使用する溶媒が懸濁重合の際の粒子形成の安定性を喪失することがあるため、成形加工時等の溶媒の悪影響や重合安定性の低下により目的とする粒子径の制御が困難である問題点があった。
【特許文献1】特開平02−69503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの残渣がなく、重合安定性に優れた、生産サイクルの短い、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究の結果、分子量分布や重合性反応基の制御されたマクロモノマーを使用することで、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合させて塩化ビニル系共重合樹脂を製造するに際し、塩化ビニル系共重合樹脂を構成するモノマー成分の総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率が、50重量%以上100重量%未満であり、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを同時に混合溶解しながら重合反応機に投入し、共重合反応を開始することを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項1)、
(2)塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを同時に混合溶解する際の温度が、10℃以上60℃以下の温度であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項2)、
(3)二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーが重合性官能基を有し、該重合性反応基が、1分子あたり少なくとも1個、下記一般式:
−OC(O)C(R)=CH2 (1)
(式中、Rは水素、又は、炭素数1〜20の有機基を表す。)
を含む構造であることを特徴とする。かつ、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの少なくとも1種が、ガラス転移温度が0℃以下であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項3)、
(4)二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーがリビングラジカル重合により製造されることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項3)、
(5)塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを、乳化重合、微細懸濁重合、懸濁重合から選ばれる、少なくとも1つの方法で作製された請求項1〜4のいずれかの記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項5)、
(6)同時に混合溶解するための手段が、配管内に挿入されたオリフィス板、二重管構造を有するインジェクター構造、配管内に設置されたスタティックミキサー構造から選ばれるすくなくともひとつを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法(請求項6)、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重合終了後の樹脂中における二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの残渣がない。また、本発明によれば、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有する塩化ビニル系共重合樹脂の生産サイクルが短く、生産性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、本願発明者らが発明した特開2005−179599号における、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合してなる塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法を、更に累積検討することによって得られたものであり、塩化ビニル系モノマーと該マクロモノマーを20℃以上60℃以下の温度で同時に混合溶解しながら重合反応機に仕込むことによって効率的に塩化ビニル系共重合樹脂を製造する事が出来る事を見出した。
【0010】
ここで、本発明の「混合溶解」とは、塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの両者が、境目なく一様に混ざり合い、見かけ上両者の区別ができなくなることを言う。
【0011】
また、「同時に」混合溶解するとは、塩化ビニル系モノマーおよび二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの両者が、連続的に流動しながら、混合溶解に至ることを言う。同時に混合溶解する方法として例えば、塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの仕込みラインが重合反応機に接続される前に、仕込ラインの合流後、配管途中においてオリフィス板等を取り付けた構造、両者の仕込ラインが二重管構造等により流動しながら混合されるインジェクター構造、エダクター構造、或いは、配管内に設置され、軸流方向に流動しながら攪拌されるスタティックミキサー構造、その他パイプラインミキサー等の方法が挙げられる。
【0012】
塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを混合溶解する際の温度は、10℃以上60℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがさらに好ましい。10℃以上60℃以下であると、塩化ビニル系モノマーのガス化が抑制され、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの粘度が混合溶解に適した状態に保ちやすいため、均一に混合溶解させることができる。更に30℃以上50℃以下であると混合モノマーの液粘度が低下し、混合溶解時の圧損が抑えられより好ましい。
【0013】
また、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを混合溶解する際の時間は、充分に混合溶解することができれば特に制約はないが、1分以上であることが好ましい。1分以上であると、塩化ビニル系モノマーに二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを均一に混合溶解させることができる。
【0014】
本発明で使用される塩化ビニル系モノマーとしては特に限定はされないが、例えば塩化ビニルモノマー、塩化ビニリデンモノマー、酢酸ビニルモノマーまたはこれらの混合物、または、この他にこれらと共重合可能で、好ましくは重合後の重合体主鎖に反応性官能基を有しないモノマー、例えばエチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いてもよい。2種以上の混合物を使用する場合は、塩化ビニル系モノマー全体に占める塩化ビニルモノマーの含有率を50重量%以上、特に70重量%以上とすることが好ましく、中でも得られる共重合樹脂の柔軟性が得られやすいことから90重量%以上とすることがさらに好ましい。
【0015】
本発明で使用される二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとは、重合体の末端に反応性の官能基を有するオリゴマー分子であり、反応性官能基として、アリル基、ビニルシリル基、ビニルエーテル基、ジシクロペンタジエニル基、下記一般式(1)から選ばれる重合性の炭素−炭素二重結合を有する基を、少なくとも1分子あたり1個、分子末端に有する、ラジカル重合によって製造されたものである。
特に、塩化ビニル系モノマーとの反応性が良好なことから、重合性の炭素−炭素二重結合を有する基が、下記一般式
−OC(O)C(R)=CH2 (1)
で表される基であることが好ましい。
【0016】
式中、Rの具体例としては特に限定されないが、例えば、−H、−CH3、−CH2CH3、−(CH2nCH3(nは2〜19の整数を表す)、−C65、−CH2OH、−CNの中から選ばれる基が好ましく、更に好ましくは−H、−CH3を用いることができる。
【0017】
また、本発明で使用されるマクロモノマーの主鎖である、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体は、ラジカル重合によって製造される。ラジカル重合法は、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物などを使用して、特定の官能基を有するモノマーとビニル系モノマーとを単に共重合させる「一般的なラジカル重合法」と、末端などの制御された位置に特定の官能基を導入することが可能な「制御ラジカル重合法」に分類できる。
【0018】
「一般的なラジカル重合法」は、特定の官能基を有するモノマーは確率的にしか重合体中に導入されないので、官能化率の高い重合体を得ようとした場合には、このモノマーをかなり大量に使用する必要がある。またフリーラジカル重合であるため、分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0019】
「制御ラジカル重合法」は、さらに、特定の官能基を有する連鎖移動剤を使用して重合を行うことにより末端に官能基を有するビニル系重合体が得られる「連鎖移動剤法」と、重合生長末端が停止反応などを起こさずに生長することによりほぼ設計どおりの分子量の重合体が得られる「リビングラジカル重合法」とに分類することができる。
【0020】
「連鎖移動剤法」は、官能化率の高い重合体を得ることが可能であるが、開始剤に対して特定の官能基を有する連鎖移動剤を必要とする。また上記の「一般的なラジカル重合法」と同様、フリーラジカル重合であるため分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0021】
これらの重合法とは異なり、「リビングラジカル重合法」は、本件出願人自身の発明に係る国際公開WO99/65963号公報に記載されるように、重合速度が大きく、ラジカル同士のカップリングなどによる停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされるラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い、例えば、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.1〜1.5程度の重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。
【0022】
従って「リビングラジカル重合法」は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため、本発明において、上記の如き特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはより好ましい重合法である。
【0023】
「リビングラジカル重合法」の中でも、有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤、遷移金属錯体を触媒としてビニル系モノマーを重合する「原子移動ラジカル重合法」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)は、上記の「リビングラジカル重合法」の特徴に加えて、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはさらに好ましい。この原子移動ラジカル重合法としては例えばMatyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁等が挙げられる。
【0024】
本発明に使用されるマクロモノマーの製法として、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、通常、制御ラジカル重合法が利用され、さらに制御の容易さなどからリビングラジカル重合法が好ましく用いられ、特に原子移動ラジカル重合法が最も好ましい。
【0025】
制御ラジカル重合法、詳しくはリビングラジカル重合で製造された二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーは、末端を完全に塩化ビニル系樹脂と共重合させることができるため、得られる共重合体の十分な柔軟性が得られ、透明性、耐熱性等にも優れるため、好ましい。
【0026】
また本発明で使用されるマクロモノマーの主鎖が有する、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体としては特に制約はなく、該重合体を構成する二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーとしては、各種のものを用いることができる。例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸―2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸−2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を共重合させても構わない。中でも生成物の物性等から、酢酸ビニル系モノマー及び(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくはアクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーであり、さらに好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、最も好ましくはアクリル酸ブチルである。ここで、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸或いはアクリル酸を意味するものである。2種以上のモノマーを共重合させる場合は、マクロモノマー全体に占めるこれらの好ましいモノマーが、重量比で40重量%以上含まれることが好ましい。
【0027】
また、本発明の塩化ビニル系モノマーと共重合可能なマクロモノマーは1種のみを用いてもよく、構成するエチレン性不飽和モノマーが異なるマクロモノマーを2種以上併用してもよい。
【0028】
本発明に使用される二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーのガラス転移温度は、単独、或いは2種以上のマクロモノマーを併用する場合、少なくとも1種は、0℃以下であることが好ましい。より好ましくはガラス転移温度が−20℃以下であり、最も好ましくは−50℃以下である。マクロモノマーを2種以上併用する場合は、−50℃以下のマクロモノマーの重量比が全マクロモノマーの50重量%以上含まれることが好ましい。
【0029】
本発明に使用される二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーが、室温で流体として得られにくい場合は、使用するマクロモノマーの良溶媒に溶解したものを使用してもよい。
【0030】
本発明に使用される二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの数平均分子量は特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)で測定した重量平均分子量が500〜100,000の範囲が好ましく、更に好ましくは、3,000〜40,000であり、最も好ましくは3,000〜20,000である。この範囲のマクロモノマーを用いると、塩化ビニル系モノマーと均一混合が可能で、重合終了後も安定な水性重合体が得られることができる。分子量が500以上であると、重合終了後も未反応のマクロモノマーが残存することが少ないという観点から好ましく、また、100,000以下であると、マクロモノマーの粘度が高くなるものの、塩化ビニル系モノマーにも十分溶解し共重合の進行を妨げることが少ないという観点から好ましい。本発明におけるGPC測定の際には、Waters社製GPCシステム(製品名510)を用い、クロロホルムを移動相として、昭和電工(株)製Shodex K−802.5及びK−804(ポリスチレンゲルカラム)を使用し、室温環境下で測定した。
【0031】
本発明により製造された塩化ビニル系共重合樹脂の平均重合度又は平均分子量は特に限定されず、通常製造又は使用される塩化ビニル系樹脂と同様に、JIS K 7367−2に従って測定した可溶分樹脂のK値が50〜95の範囲である。
【0032】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法については、特に制約はないが、重合制御の簡便性、乾燥樹脂が粒子状粉体で得られ、良好なハンドリング性が得られやすいことから水性重合が好ましく、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、微細懸濁重合法等の製造方法が挙げられる。特に好ましくは、粒子制御の簡便性、乾燥処理の簡便性より懸濁重合法、微細懸濁重合法で製造される。
【0033】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の乾燥体の平均粒径は特に制約はないが、粉体流動性が良好であることから、50〜500μmであることが好ましい。更に加工時の溶融特性に優れることから、100〜300μmであれば特に好ましい。
【0034】
懸濁重合法の場合、使用する懸濁分散剤としては特に制約はないが、例えば部分鹸化ポリ酢酸ビニル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ゼラチン、デンプン等の有機高分子化合物;硫酸カルシウム、燐酸三カルシウム等の水難溶性無機微粒子が使用可能で、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
微細懸濁重合法または乳化重合法の場合、使用する界面活性剤としては特に制約されないが、例えば、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルアリールスルフォン酸塩類、スルホコハク酸エステル塩類、脂肪酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類などのアニオン性界面活性剤(ここで、「塩類」とは、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。)、ゾルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類などの親水性のノニオン性界面活性剤類が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。また、分散補助剤として高級アルコール、高級脂肪酸またはそのエステル類、芳香族炭化水素、高級脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、水溶性高分子などが挙げられ、これらを1種以上で用いることができる。
【0036】
さらに本発明の塩化ビニル系共重合樹脂を製造する際に用いられる懸濁重合法または微細懸濁重合法においては、油溶性重合開始剤を添加すれば良いが、これらの開始剤のうち10時間半減期温度が30〜65℃のものを1種または2種以上使用するのが好ましい。重合開始剤は重合させるモノマーに可溶であることが好ましく、このような重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、その他のアゾ系またはジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、イソプロピルパーオキシカーボネート、その他の有機過酸化物系重合開始剤が挙げられ、これらは単独で用いても良いし2種以上を組み合わせて用いても良い。これら油溶性重合開始剤は特に制約のない状態で添加することができるが、例えば有機溶剤に溶解して使用する場合には、その有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジオクチルフタレート等のエステル類が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
その他、抗酸化剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、粒子径調節剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、安定剤、スケール防止剤等も、一般に塩化ビニル系樹脂の製造に使用されるものを、必要に応じて特に制約されず、任意の量で用いることができる。
【0038】
本発明から得られた塩化ビニル系共重合樹脂の組成物は特に制約はないが、必要に応じて他の塩化ビニル系樹脂を併用することもでき、更に必要に応じて、可塑剤、充填剤、熱安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、強化剤、改質剤、顔料等を必要に応じて配合することができる。
【0039】
本発明から得られた塩化ビニル系共重合樹脂は、可塑剤を使用しなくても十分に内部可塑化された樹脂であり単独使用しても室温下で柔軟な成形体を得ることができるが、他の塩化ビニル系樹脂等を添加して使用しても柔軟性を有する樹脂組成物を得ることができる。他の塩化ビニル系樹脂を併用して使用する場合は、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂からなる塩化ビニル樹脂のうち、塩化ビニル系樹脂の割合が0〜50重量%の範囲であることが好ましく、0〜30重量%の範囲がより好ましい。
【0040】
本発明から得られた塩化ビニル系共重合樹脂と塩化ビニル系樹脂を併用する場合、その混合方法は特に制約されないが、例えば、乾燥した状態で混合する方法、樹脂の水性分散液の状態で混合した後、乾燥して樹脂を得る方法等が挙げられる。
【0041】
また、本発明から得られた塩化ビニル系共重合樹脂の使用用途としては、特に限定はないが、例示すれば、農業用フィルム、合成レザー、壁紙、ストレッチフィルム、シュリンクフィルム、ガスケット、ホース・チューブ、靴底、電線被覆コート、サイディング材等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
次に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。ここで、特に断りのない限り、実施例中の「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0043】
<重合安定性の評価>
重合安定性は、内容物払い出し後の重合反応機内および仕込み配管内のマクロモノマー残渣の状態を目視観察し、以下の基準により判定した。
○;反応機・仕込ライン内壁および/または攪拌機へのマクロモノマーの付着が殆ど認められない。
△;反応機・仕込ライン内壁および/または攪拌機への少量のマクロモノマーの付着が認められる。
×;反応機・仕込ライン内壁および/または攪拌機への著しいマクロモノマー残渣が認められる。
【0044】
<樹脂中のマクロモノマー含量の定量>
全スラリー又は、200メッシュ篩通過液を100℃で乾固した乾固物1gを特級THF(テトラヒドロフラン)試薬30gに溶解し、溶解液をKBrプレートに塗布、乾燥させた後IR測定機(パーキンエルマー製フーリエ変換赤外分光光度計SPECRUM1000)にて4000cm-1から400cm-1の吸収を測定した。カルボニル基由来のシグナル(1730cm-1付近のピークトップ)と、炭素−塩素由来のシグナル(615cm-1付近のピークトップ)のベースラインに対するピーク高さの比をマクロモノマー含量に対し検量線を引き、試料のIRを測定することで、それぞれ、全樹脂中および小粒子樹脂中のマクロモノマー含量を算出した。
<スラリー中のマクロモノマー均一性>
全スラリー中の乾燥樹脂中のマクロモノマー含量(X)と、200メッシュ篩通過液乾燥樹脂中のマクロモノマー含量(Y)との関係により、以下の通りに分類し、マクロモノマー均一性の指標とした。
【0045】
|X−Y|/X*100≦1.0 の場合、マクロモノマー均一性 ○
|X−Y|/X*100>1.0 の場合、マクロモノマー均一性 ×

<二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの製造>
二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの製造は、下記の製造例に示す手順に従って行った。
【0046】
(製造例)
還流管および攪拌機付きの2Lのセパラブルフラスコに、CuBr(5.54g)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(73.8ml)を加え、オイルバス中70℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸−n−ブチル(132g)、2−ブロモプロピオン酸メチル(7.2ml)、ペンタメチルジエチレントリアミン(4.69ml)を加え、反応を開始した。70℃で加熱攪拌しながら、アクリル酸−n−ブチル(528g)を90分かけて連続的に滴下し、さらに80分間加熱攪拌した。
【0047】
反応混合物をトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通したのち、揮発分を減圧留去することにより、片末端Br基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)を得た。
【0048】
フラスコに、メタノール(800ml)を仕込み、0℃に冷却した。そこへ、t−ブトキシカリウム(130g)を数回に分けて加えた。この反応溶液を0℃に保持して、アクリル酸(100g)のメタノール溶液を滴下した。滴下終了後、反応液の温度を0℃から室温に戻したのち、反応液の揮発分を減圧留去することにより、アクリル酸カリウム(CH2=CHCO2K)を得た。
【0049】
還流管付き500mLフラスコに、得られた片末端Br基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)(150g)、アクリル酸カリウム(7.45g)、ジメチルアセトアミド(150ml)を仕込み、70℃で3時間加熱攪拌した。反応混合物よりジメチルアセトアミドを留去し、トルエンに溶解させ、活性アルミナカラムを通したのち、トルエンを留去することにより片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーを得た。
25℃での片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーの粘度は、約40Pa・sであった。
【0050】
(実施例1)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気し、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーをギアポンプ(バイキングポンプ;東興産業(株)製)にて2kg/分の流量で図1の1から投入し、塩化ビニルモノマー仕込ライン(図1の2)に接続し、同時に塩化ビニルモノマーを3kg/分の流量で流す。配管中に口径2mmの孔を全面に開けたオリフィス板を3枚挿入し(図1の3)、塩化ビニルモノマー60部、マクロモノマー40部の混合モノマー液として重合反応機へ仕込んだ。オリフィス板直前のモノマー温度は30℃であった。その後、全モノマー100部に対し、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を図1の6から仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水150部とともに図1の5より仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実験終了後、配管中のオリフィス板を取り出し、目視観察したところ、マクロモノマーの付着は確認されず、仕込開始からスラリー払出終了までの時間は9時間であった。
【0051】
(実施例2)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気し、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーをギアポンプ(バイキングポンプ;東興産業(株)製)にて2kg/分の流量で図1の1から投入し、塩化ビニルモノマー仕込ライン(図1の2)に接続し、同時に塩化ビニルモノマーを3kg/分の流量で流す。配管中にスタティックミキサー(エレメント数6:図1の3)を通すことにより、塩化ビニルモノマー60部、マクロモノマー40部の混合モノマー液として重合反応機へ仕込んだ。スタティックミキサー直前のモノマー温度は30℃であった。その後、全モノマー100部に対し、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を図1の6から仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水150部とともに図1の5より仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実験終了後、配管中のオリフィス板を取り出し、目視観察したところ、マクロモノマーの付着は確認されず、仕込開始からスラリー払出終了までの時間は9時間であった。
【0052】
(実施例3)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量300リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気し、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーをギアポンプ(バイキングポンプ;東興産業(株)製)にて0.4kg/分の流量で図1の1から投入し、塩化ビニルモノマー仕込ライン(図1の2)に接続し、同時に塩化ビニルモノマーを7.9kg/分の流量で流す。配管中に口径2mmの孔を全面に開けたオリフィス板を1枚挿入し(図1の3)、塩化ビニルモノマー95部、マクロモノマー5部の混合モノマー液として重合反応機へ仕込んだ。オリフィス板直前のモノマー温度は30℃であった。その後、全モノマー100部に対し、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を図1の6から仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水150部とともに図1の5より仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実験終了後、配管中のオリフィス板を取り出し、目視観察したところ、マクロモノマーの付着は確認されず、仕込開始からスラリー払出終了までの時間は9時間であった。
【0053】
(実施例4)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量300リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気し、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーをギアポンプ(バイキングポンプ;東興産業(株)製)にて100kg/分の流量で図1の1から投入し、塩化ビニルモノマー仕込ライン(図1の2)に接続し、同時に塩化ビニルモノマーを400kg/分の流量で流す。配管中にスタティックミキサー(エレメント数6:図1の3)を通すことにより、塩化ビニルモノマー80部、マクロモノマー20部の混合モノマー液として重合反応機へ仕込んだ。スタティックミキサー直前のモノマー温度は30℃であった。その後、全モノマー100部に対し、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を図1の6から仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水150部とともに図1の5より仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実験終了後、配管中のオリフィス板を取り出し、目視観察したところ、マクロモノマーの付着は確認されず、仕込開始からスラリー払出終了までの時間は9時間であった。
【0054】
(比較例1)
図1の3の混合ユニットを付帯しない、ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機に初期水として、全モノマーに対し40部相当の水を予め図1の5より仕込み、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.02部を図1の5より添加し、重合反応機内温を20℃に制御して、1分間あたり900回転の回転速度で攪拌しながら溶解した。攪拌しながら、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー40部を図1の1より仕込んで、脱気したのち、塩化ビニルモノマー60部を図1の2より仕込み、投入後から10分間攪拌することにより、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを重合反応機内で分散混合させた。重合反応機投入直前の各モノマー温度は夫々30℃であった。t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を図1の6より仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水110部とともに図1の5より仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実験終了後、重合反応機内を目視観察したところ、内壁・攪拌機にマクロモノマーの付着は確認されなかった。仕込開始からスラリー払出終了までの時間は、15時間であった。
【0055】
(比較例2)
比較例1の初期水を0とし、該マクロモノマー40部を図1の1より仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.05部を図1の5より重合反応機中に投入し、反応機内部を脱気した。重合反応機投入直前の各モノマー温度は夫々30℃であった。1分間あたり900回転の回転速度で攪拌しながら図1の2より塩化ビニルモノマー60部を仕込み、投入後から10分間攪拌することにより、重合反応機内で該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを分散混合させた。図1の5より鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.04部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、図1の6よりt−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込んだ後、図1の5より60℃の温水150部を仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。
【0056】
反応機からスラリーを払出す時、初めに反応機内の払出し口溜りに浸入していたマクロモノマーが残渣として払出され、反応機内のサンプル口等の凹部にもマクロモノマー残渣が確認された。200メッシュ篩通過液乾燥樹脂中のマクロモノマー含量が50%、全スラリー中の乾燥樹脂中のマクロモノマー含量が46%となり、マクロモノマーの均一性が低下していることが確認された。また、仕込開始からスラリー払出終了までの時間は、15時間であった。
【0057】
(比較例3)
図1の3に配管中に口径2mmの孔を全面に開けたオリフィス板を3枚挿入した混合ユニットを付帯した、ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合反応機を用い。重合反応機内を脱気後、先に製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーをギアポンプ(バイキングポンプ;東興産業(株)製)にて2kg/分の流量で図1の1から投入した。マクロモノマーの送液が終了後、塩化ビニルモノマー仕込ライン(図1の2)より塩化ビニルモノマーを3kg/分の流量で流すことで、塩化ビニルモノマー60部、マクロモノマー40部を夫々重合反応機へ仕込んだ。重合反応機投入直前の各モノマー温度は夫々30℃であった。その後、全モノマー100部に対し、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を図1の6から仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水150部とともに図1の5より仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実験終了後、配管中のオリフィス板を取り出し、目視観察したところ、マクロモノマーの付着は確認されなかったが、反応機からスラリーを払出す時に、未溶解のマクロモノマーが混入していることが確認された。200メッシュ篩通過液乾燥樹脂中のマクロモノマー含量が48%、全スラリー中の乾燥樹脂中のマクロモノマー含量が43%となり、マクロモノマーの均一性が低下することが確認された。仕込開始からスラリー払出終了までの時間は9時間であった。
【0058】
(比較例4)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量300リットルのステンレス鋼製重合反応機を脱気し、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマーをギアポンプ(バイキングポンプ;東興産業(株)製)にて90kg/分の流量で図1の1から投入し、塩化ビニルモノマー仕込ライン(図1の2)に接続し、同時に塩化ビニルモノマーを110kg/分の流量で流す。配管中にスタティックミキサー(エレメント数6:図1の3)を通すことにより、塩化ビニルモノマー45部、マクロモノマー55部の混合モノマー液として重合反応機へ仕込んだ。スタティックミキサー直前のモノマー温度は30℃であった。その後、全モノマー100部に対し、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を図1の6から仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水150部とともに図1の5より仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実験終了後、配管中のオリフィス板を取り出し、目視観察したところ、マクロモノマーの付着は確認されなかったが、反応機からスラリーを払出す時に、未溶解のマクロモノマーが混入していることが確認された。200メッシュ篩通過液乾燥樹脂中のマクロモノマー含量が60%、全スラリー中の乾燥樹脂中のマクロモノマー含量が55%となり、マクロモノマーの均一性が低下することが確認された。仕込開始からスラリー払出終了までの時間は10時間であった。
【0059】
(比較例5)
図1の3の混合ユニットを付帯しない、ジャケット及び攪拌機を備えた内容量300リットルのステンレス鋼製重合反応機に初期水として、全モノマーに対し40部相当の水を予め図1の5より仕込み、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.02部を図1の5より添加し、重合反応機内温を20℃に制御して、1分間あたり900回転の回転速度で攪拌しながら溶解した。攪拌しながら、製造例の片末端アクリロイル基ポリ(アクリル酸−n−ブチル)マクロモノマー5部を図1の1より仕込んで、脱気したのち、塩化ビニルモノマー95部を図1の2より仕込み、投入後から60分間攪拌することにより、該塩化ビニルモノマーに該マクロモノマーを重合反応機内で分散混合させた。重合反応機投入直前の各モノマー温度は夫々30℃であった。t−ブチルパーオキシネオデカノエイト0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を図1の6より仕込んだ後、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル0.08部、平均分子量約450万のポリエチレンオキサイド0.005部を60℃の温水110部とともに図1の5より仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合反応機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収したのち重合反応機を冷却し、スラリーを払い出した。重合安定性の評価結果を表1に示す。実験終了後、重合反応機内を目視観察したところ、内壁・攪拌機にマクロモノマーの付着は確認されなかった。仕込開始からスラリー払出終了までの時間は、13時間であった。
【0060】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の同時に混合溶解しながら重合反応機に仕込むための1態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0062】
1 マクロモノマー仕込ライン
2 塩化ビニルモノマー仕込ライン
3 混合ユニット
4 重合機
5 水仕込ライン
6 開始剤仕込ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合させて塩化ビニル系共重合樹脂を製造するに際し、塩化ビニル系共重合樹脂を構成するモノマー成分の総量に対する塩化ビニル系モノマーの比率が、50重量%以上100重量%未満であり、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを同時に混合溶解しながら重合反応機に投入し、共重合反応を開始することを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項2】
塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを同時に混合溶解する際の温度が、10℃以上60℃以下の温度であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項3】
二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーが重合性官能基を有し、該重合性反応基が、1分子あたり少なくとも1個、下記一般式:
−OC(O)C(R)=CH2 (1)
(式中、Rは水素、又は、炭素数1〜20の有機基を表す。)
を含む構造であることを特徴とする。かつ、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの少なくとも1種が、ガラス転移温度が0℃以下であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項4】
二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーがリビングラジカル重合により製造されることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項5】
塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーを、乳化重合、微細懸濁重合、懸濁重合から選ばれる、少なくとも1つの方法で作製された請求項1〜4のいずれかの記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。
【請求項6】
同時に混合溶解するための手段が、配管内に挿入されたオリフィス板、二重管構造を有するインジェクター構造、配管内に設置されたスタティックミキサー構造から選ばれるすくなくともひとつを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−182486(P2007−182486A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1071(P2006−1071)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】