説明

塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂の製造方法

【課題】成形性に優れており、成形品の耐久性を高めることができる塩化ビニル系樹脂を提供する。
【解決手段】本発明に係る塩化ビニル系樹脂は、炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と塩化ビニルモノマーとを含む材料を水懸濁重合させることにより得られる。本発明に係る塩化ビニル系樹脂100重量%中、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率は11重量%以上、65重量%以下である。本発明に係る塩化ビニル系樹脂の23℃でのテトラヒドロフランに対する不溶成分は5重量%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性に優れており、成形品の耐衝撃性を高めることができる塩化ビニル系樹脂、並びに該塩化ビニル系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、機械的強度及び耐久性に優れた材料として知られている。このため、塩化ビニル系樹脂は、各種の成形品に加工されており、多くの分野で使用されている。
【0003】
従来、炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシランを用いて、上記塩化ビニル系樹脂を得る方法が知られている。
【0004】
下記の特許文献1には、アルコキシ基が第3級アルキル基を有するビニルトリアルコキシシランを用いた塩化ビニル系樹脂が開示されている。ここでは、上記ビニルトリアルコキシシランは、一般にモノマー混合物に対して0.1〜10重量%で使用されることが記載されている。
【0005】
下記の特許文献2には、塩化ビニル単量体50〜99.9重量部と、分子中にSi−R結合(Rは重合性不飽和基)及びSi−X(Xは水酸基又は加水分解可能な基)とを有する有機珪素化合物0.01〜40重量部と、他の重合性単量体0〜30重量部とを水の存在下で共重合させた塩化ビニル系樹脂が開示されている。
【0006】
下記の特許文献3には、重合の前又は間に重合バッチに1,2−エポキシドを加えて、ラジカル形成触媒の存在下で、塩化ビニルとビニルトリアルコキシシランとを共重合させた塩化ビニル系樹脂が開示されている。
【0007】
下記の特許文献4には、塩化ビニルとトリアルコキシシランとを重合させた塩化ビニル系樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭45−7308号公報
【特許文献2】特開昭61−118451号公報
【特許文献3】特開昭51−44194号公報
【特許文献4】特公昭48−16051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
塩化ビニル系樹脂では、耐熱性が低いという問題があり、耐熱性の向上が課題となっている。ビニルトリアルコキシシランなどの重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物を用いることによって、塩化ビニル系樹脂の耐熱性をある程度高めることができる。
【0010】
しかしながら、ビニルトリアルコキシシランなどの重合性不飽和基を有するアルコキシシラン化合物を用いると、塩化ビニル系樹脂を得る共重合の際に、網状化が進行しやすいという問題がある。また、網状化した塩化ビニル系樹脂を用いた成形品では、耐衝撃性が低くなりやすいという問題がある。
【0011】
例えば、特許文献3では、1,2−エポキシドを用いることによって、塩化ビニルとビニルトリアルコキシシランとの共重合の際に、網状化を抑制できることが記載されている。しかしながら、1,2−エポキシドを用いると、成形品の耐衝撃性が低くなりやすく、更に塩化ビニル系樹脂の製造コストも高くなる。
【0012】
また、特許文献1〜4に記載のような従来の塩化ビニル系樹脂ではいずれも、優れた成形性と、成形品の耐衝撃性との双方を充分に高めることができないことがある。
【0013】
本発明の目的は、成形性に優れており、成形品の耐衝撃性を高めることができる塩化ビニル系樹脂、並びに該塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の広い局面によれば、炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と塩化ビニルモノマーとを含む材料を水懸濁重合させることにより得られ、塩化ビニル系樹脂100重量%中、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が11重量%以上、65重量%以下であり、23℃でのテトラヒドロフランに対する不溶成分が5重量%未満である、塩化ビニル系樹脂が提供される。
【0015】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂のある特定の局面では、該塩化ビニル系樹脂は、網状化していない。
【0016】
また、本発明の広い局面によれば、炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と塩化ビニルモノマーとを含む材料を水懸濁重合させることにより、塩化ビニル系樹脂100重量%中、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が11重量%以上、65重量%以下であり、かつ23℃でのテトラヒドロフランに対する不溶成分が5重量%未満である塩化ビニル系樹脂を得る、塩化ビニル系樹脂の製造方法が提供される。
【0017】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法のある特定の局面では、網状化していない塩化ビニル系樹脂を得る。
【0018】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法の他の特定の局面では、上記材料の水懸濁重合の途中でガスを排出する途中排ガス法により、塩化ビニル系樹脂を得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂及び本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法により得られる塩化ビニル系樹脂は、炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と塩化ビニルモノマーとを含む材料を水懸濁重合させることにより得られ、塩化ビニル系樹脂100重量%中、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が11重量%以上、65重量%以下であり、23℃でのテトラヒドロフランに対する不溶成分が5重量%未満であるので、成形性に優れている。さらに、本発明に係る塩化ビニル系樹脂を成形することにより、耐衝撃性が高い成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂は、炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と塩化ビニルモノマーとを含む材料を水懸濁重合させることにより得られる。本発明に係る塩化ビニル系樹脂100重量%中、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率は11重量%以上、65重量%以下である。本発明に係る塩化ビニル系樹脂の23℃でのテトラヒドロフランに対する不溶成分は5重量%未満である。
【0022】
また、本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法では、炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と塩化ビニルモノマーとを含む材料を水懸濁重合させることにより、塩化ビニル系樹脂100重量%中、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が11重量%以上、65重量%以下であり、かつ23℃でのテトラヒドロフランに対する不溶成分が5重量%未満である塩化ビニル系樹脂を得る。
【0023】
本発明では、上記構成が備えられているため、成形時に過度の架橋を抑えることができる。また、本発明では、成形性を高めることができ、成形品の耐衝撃性を高めることができる。また、本発明に係る塩化ビニル系樹脂は、網状化していないことが好ましい。さらに、本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法では、網状化していない塩化ビニル系樹脂を得ることが好ましい。本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法により、網状化していない塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0024】
上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物における上記炭素−炭素不飽和二重結合は、アルケニル基であることが好ましい。該アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基及びヘキセニル基等が挙げられる。上記アルケニル基は、ビニル基又はアリル基であることが好ましく、ビニル基であることがより好ましい。従って、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物は、ビニル基を有するアルコキシシラン化合物であることが好ましい。
【0025】
上記ビニル基を有するアルコキシシラン化合物として、従来公知の化合物が使用可能である。なかでも、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0026】
CH2=CH−SiR3−n …式(1)
上記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、nは0〜2の整数を表す。Rが複数である場合に、複数のRは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xが複数である場合には、複数のXは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
上記式(1)中のRにおける炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が挙げられる。
【0028】
上記式(1)中、Xは、加水分解性を有する有機基であり、炭素数1〜3のアルコキシ基である。上記炭素数1〜3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基及びイソプロポキシ基が挙げられる。上記アルコキシ基の炭素数が大きくなると、加水分解速度が遅くなる傾向があり、架橋工程に時間がかかる傾向がある。従って、上記式(1)中のXは、炭素数1又は2のアルコキシ基であることが好ましく、メトキシ基であることがより好ましい。
【0029】
上記ビニル基を有するアルコキシシラン化合物の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのビニル基を有するアルコキシシラン化合物は目的とする用途に応じて、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記塩化ビニルモノマー100重量部に対して、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物の使用量は好ましくは11重量部以上、より好ましくは15重量部以上、好ましくは50重量部以下、より好ましくは30重量部以下である。上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物の使用量が上記下限以上であると、成形時に架橋が十分に進行しやすくなり、強度がより一層高くなる。上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物の使用量が上記上限以下であると、成形時に架橋が過度に進行し難くなり、成形性がより一層良好になる。
【0031】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂中の上記塩化ビニルモノマーが重合したポリ塩化ビニル成分の重合度は、好ましくは300以上、より好ましくは400以上、好ましくは2000以下、より好ましくは1600以下である。ポリ塩化ビニル成分の重合度が上記下限以上及び上記上限以下であると、成形性がより一層良好になる。
【0032】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂を得るために、目的に応じて、上記塩化ビニルモノマー及び上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物以外の重合性化合物をさらに用いてもよい。上記重合性化合物は、上記塩化ビニルモノマーと共重合可能であることが好ましく、ビニルモノマーであることがより好ましい。
【0033】
上記重合性化合物としては、例えば、α−オレフィン類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、及び(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。上記重合性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記α−オレフィン類としては、エチレン、プロピレン及びブチレン等が挙げられる。上記ビニルエステル類としては、酢酸ビニル及びプロピオン酸等が挙げられる。上記ビニルエーテル類としては、エチルビニルエーテル及びブチルビニルエーテル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂を得るために、また本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法では、水懸濁重合法、乳化重合法及び塊状重合法などの種々の共重合方法を採用することができる。共重合の際には、塩化ビニルモノマー及び上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物の反応比、溶媒への分散性等により各々の重合率が変化することを考慮する必要がある。上記重合には、ランダム共重合、ブロック共重合及びグラフト共重合等のすべての共重合が含まれる。これらの2種以上の重合により重合反応が行われてもよい。また、塩化ビニルモノマーを重合した後、上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物をグラフトして、所望の塩化ビニル系樹脂を得てもよい。重合の制御のしやすさ、得られた塩化ビニル系樹脂の取り扱い性及び成形性のよさを考慮すると、水懸濁重合が好ましい。本発明に係る塩化ビニル系樹脂は、水懸濁重合により得られた塩化ビニル系樹脂であることが好ましい。
【0036】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂を得るために、また本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法では、重合開始剤が好適に用いられ、更に分散剤が好適に用いられる。
【0037】
上記重合開始剤は特に限定されない。該重合開始剤は、モノマー成分に可溶である油溶性のフリーラジカルを発生する化合物であることが好ましい。該重合開始剤としては、有機過酸化物等が挙げられる。該有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジブチルパーオキシジカーボネート及びα−クミルパーオキシネオデカノエート等が挙げられる。上記重合開始剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
上記モノマー成分には、上記塩化ビニルモノマーと、上記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と、必要に応じて配合される重合性化合物とが含まれる。
【0039】
上記重合開始剤の添加量は特に限定されないが、モノマー成分100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、好ましくは3重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。
【0040】
上記分散剤は、塩化ビニル系樹脂の製造において、媒体中に、モノマー成分の液滴を懸濁及び分散させ、その分散を安定化する役割を有する。
【0041】
上記分散剤は特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ジオクチルスルホサクシネート、又はソルビタンエステルであることが好ましい。
【0042】
上記分散剤の添加量は特に限定されないが、モノマー成分100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは3重量部以上、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0043】
上記モノマー成分を重合させる際に、途中でガスを排出することにより、反応中の塩化ビニルモノマーを取り除くことができ、シラン含有率が高い塩化ビニル系樹脂を得ることができる。本発明に係る塩化ビニル系樹脂の製造方法では、上記材料の水懸濁重合の途中でガスを排出する途中排ガス法により、塩化ビニル系樹脂を得ることが好ましい。
【0044】
重合途中におけるVCMの排除は、VCMの重合率が5%以上、75%以下の時点で排除すると効果が高い。VCMの重合率が5%以上であると、塩化ビニルモノマーと上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物との共重合が適度に進行しているため、上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が高い塩化ビニル系樹脂を得ることができる。VCMの重合率が75%以下であると、上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物の架橋反応が促進されるのを抑制でき、成形時に外観不良が生じ難くなる。
【0045】
上記VCMの重合率は、セントル脱水後の乾燥品から下記式で算出される。
【0046】
重合率=(乾燥品の重量)/(仕込みトータルでのモノマー重量)
上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が多い塩化ビニル系樹脂の製造方法では、次いで、塩化ビニルモノマーと上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物とを含む材料を重合させた樹脂を含むスラリーをセントル脱水する工程を行うことが好ましい。具体的には、例えば、樹脂を蒸気、熱風等により加熱したり、減圧条件下に置いたりして、上記塩化ビニルモノマーを除去することにより、上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が高い塩化ビニル系樹脂が得られる。
【0047】
塩化ビニル系樹脂中での上記炭素−炭素二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率を求める際には、塩化ビニル系樹脂の乾燥品をマッフル炉で900℃まで昇温し、樹脂を完全に分解・灰化した後冷却し、次に純水に溶解した後、ICP発光分析測定を行い、塩化ビニル系樹脂中のSi含有量(重量%)の定量化を行う。このSi含有量よりシラン含有率(重量%)を算出する。
【0048】
以下、実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0049】
(実施例1)
攪拌機を備えたジャケット付25リットルの耐圧重合器に、イオン交換水8.05kgと、ビニルトリエトキシシラン0.5kgと、油溶性ラジカル開始剤であるジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート3.4gと、α−クミルパーオキシネオデカノエート3.4gと、分散剤である濃度3%ポリビニルアルコール287gと、濃度3%セルロース287gとを入れ、混合した溶液を調製した。
【0050】
重合器を密閉して空気を排除した後、塩化ビニルモノマー3.8kgを圧入し、次いで、10分間攪拌した後、撹拌しながら、54℃(重合度1300)まで昇温し、重合器内の温度を54℃(重合度1300)に保持しながら水懸濁重合を行った。重合開始後、4.0時間後(反応率60%となるように設定)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した。その後、重合スラリーを取り出し脱水装置により脱水した。その後、真空乾燥し、塩化ビニルモノマーを除くのと同時に、塩化ビニル系樹脂を得た。得られた塩化ビニル系樹脂におけるシラン含有率は21.5重量%であった。また、得られた塩化ビニル系樹脂は、網状化していなかった。
【0051】
(実施例2)
ビニルトリエトキシシランの添加量を1.0kgに変更したこと、塩化ビニルモノマーの添加量を3.3kgに変更したこと、並びに重合開始後、2.5時間後(反応率60%となるように設定)で重合器を冷却したこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、塩化ビニル系樹脂を得た。得られた塩化ビニル系樹脂におけるシラン含有率は27.8重量%であった。また、得られた塩化ビニル系樹脂は、網状化していなかった。
【0052】
(実施例3)
ビニルトリエトキシシランの添加量を1.0kgに変更したこと、塩化ビニルモノマーの添加量を3.3kgに変更したこと、並びに重合開始後、3.0時間後(反応率70%となるように設定)で重合器を冷却したこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、塩化ビニル系樹脂を得た。得られた塩化ビニル系樹脂におけるシラン含有率は15.0重量%であった。また、得られた塩化ビニル系樹脂は、網状化していなかった。
【0053】
(実施例4)
ビニルトリエトキシシランの添加量を1.0kgに変更したこと、塩化ビニルモノマーの添加量を3.3kgに変更したこと、並びに重合開始後、1.5時間後(反応率50%となるように設定)で重合器を冷却したこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、塩化ビニル系樹脂を得た。得られた塩化ビニル系樹脂におけるシラン含有率は40.0重量%であった。また、得られた塩化ビニル系樹脂は、網状化していなかった。
【0054】
(比較例1)
ビニルトリエトキシシランの添加量を1.0kgに変更したこと、塩化ビニルモノマーの添加量を3.3kgに変更したこと、並びに重合開始後、7.5時間後(反応率77%となるように設定)で重合器を冷却したこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、塩化ビニル系樹脂を得た。得られた塩化ビニル系樹脂におけるシラン含有率は10.0重量%であった。
【0055】
(比較例2)
ビニルトリエトキシシランの添加量を1.0kgに変更したこと、塩化ビニルモノマーの添加量を3.3kgに変更したこと、並びに重合開始後、0.5時間後(反応率35%となるように設定)で重合器を冷却したこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、塩化ビニル系樹脂を得た。得られた塩化ビニル系樹脂におけるシラン含有率は60.0重量%であった。
【0056】
(比較例3)
ビニルトリエトキシシランの添加量を0.4kgに変更したこと、塩化ビニルモノマーの添加量を3.9kgに変更したこと、並びに重合開始後、7.0時間後(反応率70%となるように設定)で重合器を冷却したこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、塩化ビニル系樹脂を得た。得られた塩化ビニル系樹脂におけるシラン含有率は5.0重量%であった。
【0057】
(比較例4)
ビニルトリエトキシシランの添加量を0.4kgに変更したこと、塩化ビニルモノマーの添加量を3.9kgに変更したこと、並びに重合開始後、7.0時間後(反応率70%となるように設定)で重合器を冷却したこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、塩化ビニル系樹脂を得た。得られた塩化ビニル系樹脂におけるシラン含有率は6.0重量%であった。また、得られた塩化ビニル系樹脂1kgにエポキシ化大豆油を0.012kg添加して、ブレンダーで含浸させた。
【0058】
(評価)
得られた塩化ビニル系樹脂1gをTHF(テトラヒドロフラン)30cc中で23℃で5時間撹拌した。その後、250メッシュのSUS金網で不溶分を取り除き、乾燥後に重量測定を行い、不溶分比率(不溶成分(重量%))を算出した。
【0059】
不溶分比率=(不溶分の乾燥品の重量(g)/1(g))×100
【0060】
(塩化ビニル系樹脂成形体の作製)
ポリ塩化ビニル樹脂「TS1000R:徳山積水工業社製」に、得られた塩化ビニル系樹脂を下記の表2に示す配合量で添加して混合し、安定剤である有機錫メルカプト系安定剤(「ONZ 7F」、日東化成工業社製)と、滑剤である「Wax−OP、日油社製」と、フライアッシュ無機物「FA20」と、加工助剤である「メタブレンP501A」(三菱レーヨン社製)とを下記の表2に示す添加量で添加し、スーパーミキサー(100L、カワタ社製)にて攪拌し、混合して、塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0061】
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を、190℃、8インチロールにてロール品を成形し195℃で加熱プレス機を用い、厚み3.0mmの塩化ビニル系樹脂成形体を得た。
【0062】
得られた塩化ビニル系樹脂成形体について、引張強度、曲げ強度及び耐衝撃性シャルピー(23℃)を、以下の方法で評価した。
【0063】
引張強度:JIS K−6815「硬質プラスチックの引張試験方法」に準拠して、引張り強度を測定した。尚、測定は23℃の雰囲気下で行った。
【0064】
曲げ強度:JIS K−7203「硬質プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して、曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。尚、測定は23℃の雰囲気下で行った。
【0065】
耐衝撃性:JIS K−7111「硬質プラスチックのシャルピー衝撃試験方法」に準拠して、ノッチ付き(切欠き付き)試験片を用い、シャルピー衝撃値を測定した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と塩化ビニルモノマーとを含む材料を水懸濁重合させることにより得られ、
塩化ビニル系樹脂100重量%中、前記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が11重量%以上、65重量%以下であり、
23℃でのテトラヒドロフランに対する不溶成分が5重量%未満である、塩化ビニル系樹脂。
【請求項2】
網状化していない、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂。
【請求項3】
炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物と塩化ビニルモノマーとを含む材料を水懸濁重合させることにより、塩化ビニル系樹脂100重量%中、前記炭素−炭素不飽和二重結合を有するアルコキシシラン化合物に由来するシラン含有率が11重量%以上、65重量%以下であり、かつ23℃でのテトラヒドロフランに対する不溶成分が5重量%未満である塩化ビニル系樹脂を得る、塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
網状化していない塩化ビニル系樹脂を得る、請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記材料の水懸濁重合の途中でガスを排出する途中排ガス法により、塩化ビニル系樹脂を得る、請求項3又は4に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2012−188491(P2012−188491A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51402(P2011−51402)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】