説明

塩化水素の酸化用のルテニウム及びニッケル含有触媒

高い機械的安定性を有し、1種以上の活性金属を担体材料としての酸化アルミニウムを含む担体上に含む気相反応用触媒であって、担体の酸化アルミニウム成分が実質的にα−酸化アルミニウムから構成されることを特徴とする気相反応用触媒。本発明に係る特に好ましい触媒は、その触媒の全質量に対して、a)0.1〜10質量%のルテニウム、b)0.1〜10質量%のニッケル、c)0〜5質量%の1種以上のアルカリ土類金属、d)0〜5質量%の1種以上のアルカリ金属、e)0〜5質量%の1種以上の希土類金属、f)0〜5質量%の、パラジウム、白金、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される1種以上の更なる金属をα−Al23担体上に含んでいる。この触媒は、塩化水素の酸化(Deacon反応)で使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水素を酸素によって塩素に接触酸化するための触媒及びこの触媒を用いた塩化水素の接触酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1868年にDeaconによって開発された塩化水素を接触酸化する方法では、塩化水素は発熱平衡反応で酸素によって塩素に酸化される。塩化水素を塩素に変換することにより、塩素アルカリの電気分解による水酸化ナトリウムの製造から塩素の製造を分離させることが可能となる。世界では、塩素の需要が水酸化ナトリウムの需要より急速に伸びているのでこのような分離は魅力的である。また、塩化水素は、例えばイソシアネートの製造において、例えばホスゲン化反応において副産物として大量に得られる。
【0003】
特許文献1(EP−A0743277)は、ルテニウムを含む担持触媒を使用する、塩化水素の接触酸化による塩素の製造方法が開示されている。ここで、ルテニウムは、塩化ルテニウム、オキシ塩化ルテニウム、クロロルテネート錯体、水酸化ルテニウム、ルテニウム−アミン錯体又は更なるルテニウム錯体の状態で担体に施される。触媒は、パラジウム、銅、クロム、バナジウム、マンガン、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属を更なる金属として含んでもよい。
【0004】
特許文献2(GB1046313)によれば、塩化水素の接触酸化方法において、酸化アルミニウムに担持された塩化ルテニウム(III)を触媒として使用している。
【0005】
特許文献3(DE102005040286A1)は、
担体としてのα−酸化アルミニウム上に
a)0.001〜10質量%のルテニウム、銅及び/又は金、
b)0〜5質量%の1種以上のアルカリ土類金属、
c)0〜5質量%の1種以上のアルカリ金属、
d)0〜10質量%の1種以上の希土類金属、
e)0〜10質量%の、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀及びレニウムからなる群から選択される1種以上の更なる金属、
を含む、塩化水素の酸化用の機械的に安定な触媒が開示されている。
【0006】
ドープに好適なプロモーターとして、リチウム、ナトリウム、カリウム及びルビジウム及びセシウム等のアルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム及びカリウム、特に好ましくはカリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム等のアルカリ土類金属、好ましくはマグネシウム及びカルシウム、特に好ましくはマグネシウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム及びネオジム等の希土類金属、好ましくはスカンジウム、イットリウム、ランタン及びセリウム、特に好ましくはランタン及びセリウム、又はこれらの混合物、更にチタン、マンガン、モリブテン及びスズが挙げられる。
【0007】
従来の触媒は、その触媒活性及び長期間の安定性に関してまだ改善の余地がある。特に、100時間を超えるような長期にわたり使用した後、公知の触媒の活性は著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP−A0743277
【特許文献2】GB1046313
【特許文献3】DE102005040286A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、触媒活性及び長期安定性が向上した、塩化水素の接触酸化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸素によって塩化水素を塩素に接触酸化するための、担体に担持されたルテニウムを含む触媒であって、0.1〜10質量%のニッケルをドーパント(ドープ剤)として含むことを特徴とする触媒により達成される。
【0011】
ニッケルをドープしたルテニウム含有触媒は、ニッケルを含まない触媒よりも高い活性を有することが見出された。この活性の上昇は、第一に塩化ニッケルの促進性に起因し、更に塩化ニッケルによりもたらされる触媒の表面上に活性成分がより良好に分散することに起因すると考えられる。これにより、ルテニウムは結晶子サイズが<7nmのRuO2結晶子として、本発明の触媒上に新たな(fresh)又は再生した状態で存在する。結晶子サイズはXRDパターンにおいて種(species)の反射の半分の高さでの幅により測定される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
好適な担体材料は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムである。好ましい担体は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び二酸化チタン、特に好ましくは酸化アルミニウム及び二酸化チタン、極めて特に好ましくはアルファ−酸化アルミニウム(α−酸化アルミニウム)である。
【0014】
一般に、本発明の触媒は、気相反応を行うため、200℃を超える温度、好ましくは320℃を超える温度、特に好ましくは350℃を超える温度で使用される。しかしながら、反応温度は、通常、600℃以下、好ましくは500℃以下である。
【0015】
プロモーター(促進剤)として、本発明の触媒は、ニッケルだけでなく、更なる金属を含んでいてもよい。これは通常、触媒の質量に対して10質量%以下の量で触媒に含まれる。
【0016】
塩化水素を接触酸化(catalytic oxidation:触媒を使用した酸化)するための本発明のルテニウム及びニッケル含有触媒は、パラジウム、白金、イリジウム及びレニウムから選択される1種以上の他の貴金属を更に含んでいてもよい。触媒はまた、1種以上の更なる金属がドープされていてもよい。ドープに好適なプロモーターは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム等のアルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム及びカリウム、特に好ましくはカリウム、また、マグネシウム、ストロンチウム及びバリウム等のアルカリ土類金属、好ましくはマグネシウム、また、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム及びネオジム等の希土類金属、好ましくはスカンジウム、イットリウム、ランタン及びセリウム、特に好ましくはランタン及びセリウム、又はこれらの混合物、更にチタン、マンガン、モリブテン及びスズである。
【0017】
塩化水素の酸化に好適な本発明に係る触媒は、
それぞれ触媒の全質量に対して
a) 0.1〜10質量%のルテニウム、
b) 0.1〜10質量%のニッケル、
c) 0〜5質量%の1種以上のアルカリ土類金属、
d) 0〜5質量%の1種以上のアルカリ金属、
e) 0〜5質量%の1種以上の希土類金属、
f) 0〜5質量%の、パラジウム、白金、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される1種以上の更なる金属、
を含む。質量の割合は、金属が酸化状態又は塩化物の状態で担体上に存在する場合であっても、金属の質量を基準とする。
【0018】
一般に、ルテニウム及びニッケルに加えて存在する更なる金属c)〜f)の全含有量は、5質量%以下である。
【0019】
本発明の触媒は、触媒の質量に対して0.5〜5質量%のルテニウム及び0.5〜5質量%のニッケルを含むことが極めて特に好ましい。具体的な実施の形態では、本発明の触媒は、担体としてのα−酸化アルミニウム上に、約1〜3質量%のルテニウム及び1〜3.5質量%のニッケルを含み、更なる活性金属又はプロモーター金属は含まず、ルテニウムはRuO2として存在している。
【0020】
本発明の触媒は、金属の塩の水溶液を担体材料に含浸することにより得られる。金属は、通常、その塩化物、オキシ塩化物、又は酸化物の水溶液を担体に施す。触媒の成形(shaping)は、担体材料の含浸の後又は好ましくは前に行うことができる。本発明の触媒はまた、平均粒径が10〜200μmの粉末形態の流動床触媒として使用される。固定床触媒としては、これら(触媒)は通常、成形した触媒体の形態で使用される。
【0021】
担持されたルテニウム触媒は、例えば、RuCl3及びNiCl2、及び適宜更なるドープ用プロモーター(好ましくはその塩化物の状態)の水溶液を担体材料に含浸することにより得られる。触媒の成形は、担体材料の含浸の後又は好ましくは前に行うことができる。
【0022】
次いでその成形体又は粉末を乾燥させ、必要により、例えば窒素、アルゴン又は空気雰囲気下で100〜400℃、好ましくは100〜300℃で焼成する。まず成形体又は粉末を100〜150℃で乾燥させ、次いで200〜400℃で焼成することが好ましい。
【0023】
本発明はまた、活性金属又は金属及び任意に1種以上のプロモーター金属を含む1種以上の金属塩溶液を担体材料に含浸し、含浸した担体を乾燥及び焼成することにより触媒を製造する方法も提供する。成形された触媒粒子を得るための成形は、含浸前又は後に行うことができる。本発明の触媒はまた粉末状で使用することもできる。
【0024】
好適な成形された触媒体はあらゆる形状、好ましくはペレット状、リング状、シリンター状、星状、ワゴンのホイール状又は球状、特に好ましくはリング状、シリンダー状又は星状の押出成形物である。
【0025】
金属塩を沈着(堆積)させる前の特に好ましいα−酸化アルミニウム担体の比表面積は、通常0.1〜10m2/gである。α−酸化アルミニウムは、γ−酸化アルミニウムを1000℃を超える温度に加熱することにより製造することができ、この方法で製造することが好ましい。通常、2〜24時間焼成する。
【0026】
本発明はまた、本発明の触媒上で、酸素による塩化水素の塩素への接触酸化方法も提供する。
【0027】
このため、塩化水素流及び酸素含有流を酸化領域(oxidation zone)に供給し、触媒の存在下で塩化水素を部分的に塩素に酸化し、塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む生成物ガス流を得る。イソシアネート製造プラント由来であってよい塩化水素流は、ホスゲン及び一酸化炭素等の不純物を含んでいてよい。
【0028】
通常の反応温度は150〜500℃であり、通常の反応圧力は1〜25bar、例えば4barである。反応温度は>300℃が好ましく、350〜400℃が特に好ましい。更に、超化学量論量(superstoichiometric amounts)で酸素を使用することが有利である。例えば、1.5〜4倍過剰の酸素を使用することが通常である。選択性の低下は心配する必要がないので、比較的高圧で、またこれに応じて大気圧での滞留時間よりも長い滞留時間で稼働させることが経済的に有利であり得る。
【0029】
本発明に係る塩化水素の接触酸化を行う通常の反応装置は、固定床又は流動床反応器である。塩化水素の酸化は1つ以上のステージで行うことができる。
【0030】
触媒の触媒床又は流動床は、本発明の触媒に加えて更なる好適な触媒又は追加的な不活性物質を含んでいてよい。
【0031】
塩化水素の接触酸化は、断熱して又は好ましくは等温加熱して若しくは略(approximately)等温加熱して、流動床又は固定床処理として、好ましくは流動床処理としてバッチ式で又は好ましくは連続式で、特に好ましくはシェルアンドチューブ反応器内で、反応器温度200〜500℃、好ましくは300〜400℃で、1〜25bar、好ましくは1〜5barの圧力で行うことができる。
【0032】
等温加熱又は略等温加熱モードの稼働では、付加的な中間冷却体(intermediate cooling)と連続して連結された複数の反応器、例えば2〜10個、好ましくは2〜6個、特に好ましくは2〜5個、特に2又は3個の反応器を使用することもできる。酸素は、最初の反応器の上流に塩化水素と共に全て導入してもよいし、いくつかの反応器に分けて添加してもよい。各反応器のこの配列系統は1つの装置内で組み合わせてもよい。
【0033】
固定床処理の実施形態では、触媒活性が流動方向で上昇する構造化された(structured)触媒床を使用することを含む。このような触媒床の構造化は、触媒担体への活性組成物の別の含浸により、又は、触媒床の不活性物質での別の希釈により行うことができる。不活性物質として、例えば、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム若しくはこれらの混合物、酸化アルミニウム、ステアタイト、セラミック、ガラス、グラファイト又はステンレス鋼の、リング状物、シリンダー状物又は球状物を使用することができる。不活性物質は好ましくは、成形された触媒体と同じような外部寸法を有することが好ましい。
【0034】
シングルパスにおける塩化水素の変換率は15〜90%、好ましくは40〜85%に制限されていてよい。分離が終わった後に未反応の塩化水素を、塩化水素の接触酸化に部分的又は全部再循環させてよい。反応器の入口における酸素に対する塩化水素の体積比は、通常1:1〜20:1、好ましくは1.5〜1:8:1、特に好ましくは1.5:1〜5:1である。
【0035】
次に、生成した塩素を、塩化水素の接触酸化で得られた生成物ガス流から、慣用の方法で分離してよい。分離は通常、複数の工程、すなわち分離工程及び、必要により生成物ガス流の未反応の塩化水素を塩化水素の接触酸化に再循環させる工程、実質的に塩素と酸素から構成される残留ガス流を乾燥する工程、及び乾燥流から塩素を分離する工程を含む。
【0036】
ニッケル含有スチール(例えば、HC4、インコネル600等)から作られる反応器で稼働する流動床触媒では、Deacon反応中の腐食及び浸食のため、反応器によりNiCl2が放出される。この生成したNiCl2は部分的に触媒表面上に沈着(堆積)する。そのため触媒は、約8000時間使用した後、塩化物として約2.5質量%のNiを含む。このような触媒のRuO2が、気相中でH2又はHCl等の還元剤によって元素(金属)ルテニウム又はRuCl3に還元された場合、これは、HCl水溶液によって担体から浸出し得る。得られる溶液は、塩化ニッケルと共に、溶解性のルテニウム成分を含んでいる。この溶液が濃縮された場合、NiCl2の状態のニッケルをドーパントとして同時に含む新しい未使用の触媒を製造することができる。
【0037】
そのため、酸化ルテニウム及び塩化ニッケルを含む使用済触媒から、本発明に係るルテニウムを含むニッケルをドープした触媒を、以下の工程:
a) 塩化水素、及び任意に不活性ガスを含むガス流中で、300〜500℃の温度において、酸化ルテニウムを含む触媒を還元する工程;
b) 工程a)で還元された触媒を酸素含有ガスの存在下において塩酸で処理し、担体上に存在する金属ルテニウムを塩化ルテニウムとして溶解し、塩化ルテニウム水溶液として得る工程;
c) 必要により、工程b)で生じた溶解した状態の塩化ルテニウム及びニッケルを含む溶液を濃縮する工程;
d) 溶解した状態の塩化ルテニウム及びニッケルを含む溶液を、新たな触媒を製造するために使用する工程;
を含む方法により製造することも可能である。
【0038】
使用済ルテニウム含有塩化水素酸化用触媒は、
a) 300〜500℃において塩化水素、及び任意に不活性ガスを含むガス流中で触媒を還元する工程、
b) 200〜450℃において酸素含有ガス流中で触媒を再焼成する工程、
により再生することもできる。
【0039】
RuO2は塩化水素により還元することができることが見出された。これは、還元が、RuCl3を介して起こり、金属ルテニウムになると考えられる。そのため、部分的に不活性化された酸化ルテニウムを含む触媒を塩化水素で処理した場合には、酸化ルテニウムは恐らく、十分に長い時間処理を行った後には定量的にルテニウムに還元される。還元の結果、RuO2結晶子は破壊され、元素ルテニウムとして、塩化ルテニウムと元素ルテニウムの混合物として、又は、塩化ルテニウムとして存在し得る元素ルテニウムは、担体上に再分散する。還元の後、元素ルテニウムは、酸素含有ガス、例えば空気によって再酸化され、触媒的に活性なRuO2となる。このように再度得られた触媒は、未使用の触媒の活性とほぼ同等の活性を有する。本方法の利点は、触媒を反応器内でその場で再生することができ、反応器から取り除かなくてよいことである。
【0040】
塩化ニッケルが堆積した使用済み触媒がその場で再生された場合には、塩化ニッケルがドープされ且つ最初に使用された未使用の触媒より80%活性である触媒が得られる。活性の上昇は、まず、塩化ニッケルの促進性によること、また塩化ニッケルによりもたらされる触媒の表面上の活性成分のより良好な分散によることと説明できる。
【0041】
本発明を以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0042】
実施例1
ドーパントなしの比較触媒
回転ガラスフラスコ内で100gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、36mlの塩化ルテニウム水溶液(ルテニウムを基準として4.2%)を含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。
【0043】
実施例2
回転ガラスフラスコ内で50gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、塩化ルテニウム(ルテニウムを基準として4.2%)と塩化ニッケル(ニッケルを基準として5.6%)の水溶液18mlを含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。この触媒は2質量%のNiをドーパントとして含んでいた。
【0044】
実施例3
回転ガラスフラスコ内で50gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、塩化ルテニウム(ルテニウムを基準として4.2%)と塩化ニッケル(ニッケルを基準として8.3%)の水溶液18mlを含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。この触媒は3質量%のNiをドーパントとして含んでいた。
【0045】
実施例4
回転ガラスフラスコ内で50gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、18mlの塩化ニッケル水溶液(ニッケルを基準として5.6%)を含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。次に、これにより得られた固形物に18mlの塩化ルテニウム水溶液(ルテニウムを基準として4.2%)を回転ガラスフラスコ内で含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。この触媒は2質量%のNiをドーパントとして含んでいた。
【0046】
実施例5
回転ガラスフラスコ内で50gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、18mlの塩化ニッケル水溶液(ニッケルを基準として8.3%)を含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。次に、これにより得られた固形物に18mlの塩化ルテニウム水溶液(ルテニウムを基準として4.2%)を回転ガラスフラスコ内で含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。この触媒は3質量%のNiをドーパントとして含んでいた。
【0047】
実施例6
回転ガラスフラスコ内で50gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、18mlの塩化ルテニウム水溶液(ルテニウムを基準として4.2%)を含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。次に、これにより得られた固形物に18mlの塩化ニッケル水溶液(ニッケルを基準として5.6%)を回転ガラスフラスコ内で含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。この触媒は2質量%のNiをドーパントとして含んでいた。
【0048】
実施例7
回転ガラスフラスコ内で50gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、18mlの塩化ルテニウム水溶液(ルテニウムを基準として8.3%)を含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。次に、これにより得られた固形物に18mlの塩化ニッケル水溶液(ニッケルを基準として5.6%)を回転ガラスフラスコ内で含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。これにより得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。この触媒は3質量%のNiをドーパントとして含んでいた。
【0049】
実施例8
上記触媒について、その活性及び長期安定性を測定するために試験を行った。
【0050】
2gの触媒を118gのα−Al23と混合し、流動床反応器(d=29mm;流動床の高さ:20〜25cm)内でその混合物に9.0標準l/hのHCl及び4.5標準l/hのO2を、ガラスフリットを介して底部から上方へ送り、得られたガス流をヨウ化カリウム溶液に通し、次いで生成したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定することによりHCl変換率を測定した。以下の変換率及びこれらから計算した活性が得られた。
【0051】
【表1】

【0052】
実験室での製造における含浸の順番は、触媒の初期の活性に対しては重要ではないので、実施例1、2及び3の触媒のみについて長期安定性の試験を行った。触媒は、一つの含浸段階のみで製造することができるので、製造された方法は、触媒の工業的製造に好ましい方法である。
【0053】
直径44mm、高さ990mm、床高さ300〜350mmの流動床反応器内で400℃において、600gの触媒に、195標準l・h-1のHCl及び97.5標準l・h-1のO2を送通した。触媒は、50ミクロン(d50)の平均粒径を有する粉末状態で存在していた。61%の塩化水素変換率が得られた。触媒を360〜380℃の温度で作用させた。所定の稼働時間の後、触媒のサンプルを取出した。これについて、上記条件下において、変換率及び活性について試験を行った。
【0054】
結果を図1に示す。ドープしていない触媒(菱形)、2%のニッケルを塩化ニッケルの状態でドープした触媒(丸形)及び3%のニッケルを塩化ニッケルの状態のドープした触媒(三角形)について、活性A(縦座標)は稼働時間t(時間)(横座標)に対して表示されている。ニッケルをドープした触媒は、未使用の状態と使用済みの状態の両方において、ドープしていない触媒よりも高い活性を有する。
【0055】
実施例9
α−Al23(平均粒径(d50):50μm)上の2質量%のRuO2及びニッケル含有反応器の腐食及び浸食に起因する2.5質量%の塩化ニッケルを含む使用済で不活性の流動床触媒585gを、実施例1に記述した流動床反応器内で70時間、100標準l/hの気体状HClで430℃において処理した。この方法で得られた還元触媒を、2000mlの20%濃度のHCl溶液で、100℃において2500mlのガラス製反応器内で勢いよく撹拌しながら96時間処理した。処理時間全体を通して、20標準l/hの空気を導入した。上澄みのRu及びNi含有溶液をろ過によって固形物(担体)から分離し、ろ過ケーキを500mlの水で洗浄した。組み合わせた水相はそのルテニウム及びニッケルの>98%を含んでいる。この溶液の一部を18mlに蒸発させることにより、4.2質量%のルテニウム及び7.0質量%のニッケルを含む溶液を得た。これを、回転ガラスフラスコ内で50gのα−Al23(粉末状、平均粒径(d50):50μm)に噴きつけ、次いでその湿った固形物を120℃で16時間乾燥させた。この乾燥固形物を次いで380℃で空気中で2時間焼成した。
【0056】
2gの触媒を118gのα−Al23と混合し、流動床反応器(d=29mm;流動床の高さ:20〜25cm)内でその混合物に9.0標準l/hのHCl及び4.5標準l/hのO2を、ガラスフリットを介して底部から上方へ送り、得られたガス流をヨウ化カリウム溶液に通し、次いで生成したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定することによりHCl変換率を測定した。測定されたHCl変換率は40%であった。ニッケルを含まない新たな塩化ルテニウム溶液から同様にして製造された比較触媒は37.7%の変換率であった。
【0057】
実施例10
直径108mm、高さ4〜4.5m、床高さ2.5〜3mの流動床反応器内で400℃において、実施例9の使用済触媒21kg(2.5質量%の塩化ニッケルを含むRuO2担持α−Al23)に、10.5kg・h-1のHCl、4.6kg・h-1のO2及び0.9kg・h-1のN2を流通させた。触媒は、平均粒径が50ミクロン(d50)の粉末状で存在していた。77%のHCl変換率が得られた。次に、酸素の供給を止め、400℃で20時間10.0kg・h-1のHClに置き換えた。20時間後、触媒を、400℃で2.0kg・h-1のO2及び8.0kg・h-1のN2で30分間再焼成することにより再活性化した。この処理の後、10.5kg・h-1のHCl、4.6kg・h-1のO2及び0.9kg・h-1のN2を流通させたとき、触媒は400℃において84%のHCl変換率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化水素を酸素によって塩素に接触酸化するための、担体に担持されたルテニウムを含む触媒であって、0.1〜10質量%のニッケルをドーパントとして含むことを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記担体は、実質的にα−酸化アルミニウムから構成されることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
触媒の全質量に対して、
a)0.1〜10質量%のルテニウム、
b)0.1〜10質量%のニッケル、
c)0〜5質量%の1種以上のアルカリ土類金属、
d)0〜5質量%の1種以上のアルカリ金属、
e)0〜5質量%の1種以上の希土類金属、
f)0〜5質量%の、パラジウム、白金、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される1種以上の更なる金属、
を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の触媒を製造する方法であって、
担体に、ルテニウム、ニッケル及び、必要により、1種以上の更なるプロモーター金属を含む1種以上の金属塩溶液を含浸し、含浸した担体を乾燥及び焼成し、必要により含浸の前又は後において行うことが可能な成形を行って成形された触媒粒子を得ることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の触媒から構成される触媒粒子を含む触媒床上で塩化水素を酸素によって塩素に接触酸化する方法。
【請求項6】
触媒床が固定床又は流動床であることを特徴とする請求項5に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−513892(P2012−513892A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544021(P2011−544021)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067720
【国際公開番号】WO2010/076262
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】