説明

塩味組成物

【課題】ナトリウム塩等の塩味が増強された塩味組成物を提供する。
【解決手段】
下記(a)成分と下記(b)成分とを含有し、ナトリウム含有量が6〜40質量%である塩味組成物。
(a)少なくともナトリウム塩を含有する塩味成分
(b)下記一般式(I)で表されるフラノン類


(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシル基、アセチル基、メトキシ基又はアセトキシ基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムの過剰な摂取は高血圧を引き起こし、心疾患や脳梗塞等の発症率を増加させることが知られている。上記疾患を予防・改善するためには食塩に代表されるナトリウム塩の摂取量を減らすことが重要であるが、一般に塩味を薄くした食品は味気なく、食の楽しみを著しく減退させる。これまで、ナトリウム塩の摂取量を減らすべく、種々の食塩代替物が開発されてきているが、一般に普及するには至っていない。
【0003】
調味料には、食品の風味をより引き立たせるために種々の香味成分が添加されている。2−エチル−4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン(HEMF)や2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン(HDMF)等のフラノン類は、醤油等の発酵製品の製造過程で生成してくる甘く香ばしい香り成分であることが知られている。特許文献1には、HEMFを醤油に添加することで醤油の香りが芳醇になることが記載されており、また、特許文献2には、HDMFが食品にこく味を付与することが記載されている。HEMFは醤油に添加すると塩味を緩和する効果があることも知られている(非特許文献1)。
このように、フラノン類は食品に芳醇な香りやこく味を付与し、塩味を和らげる作用があることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−65063号公報
【特許文献2】特開2003−79336号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中台、「におい・香り環境学会誌」、平成19年、第38巻第3号、p.163−172
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、ナトリウム塩等が有する塩味を増強できれば、より少ない添加量で食品に所望の塩味を付与することができ、その結果、減塩できると考えた。
本発明は、ナトリウム塩等が有する塩味が増強された塩味組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、ナトリウム塩等が有する塩味を増強しうる塩味増感剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のフラノン類をナトリウム塩と共に摂取すると、ナトリウム塩が有する塩味が増感されることを見い出した。本発明はこの知見に基づいて完成させるに至ったものである。
【0008】
本発明は、下記(a)成分と下記(b)成分とを含有し、ナトリウム含有量が6〜40質量%である塩味組成物に関する。
(a)少なくともナトリウム塩を含有する塩味成分
(b)下記一般式(I)で表されるフラノン類
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシル基、アセチル基、メトキシ基又はアセトキシ基を表す。)
【0009】
また、本発明は、上記一般式(I)で表されるフラノン類を有効成分として含有する塩味増感剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塩味組成物は、塩味成分の塩味が増強されているため、より少量でも所望の塩味を呈する。
また、本発明の塩味増感剤は、塩味成分と混合することで、塩味成分が有する塩味を増強させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の塩味組成物について以下に詳細に説明する。
【0012】
本発明の塩味組成物は、少なくともナトリウム塩を含む塩味成分((a)成分)と、少なくとも1種の特定のフラノン類からなる成分((b)成分)とを含有し、ナトリウム含有量が6〜40質量%の組成物である。本発明の塩味組成物は、前記(b)成分が塩味増感作用を示すため、前記(a)成分の塩味が増強されている。
【0013】
前記ナトリウム塩を構成するナトリウムは、食品成分表示上「ナトリウム」又は「Na」で表され、ナトリウム金属を示すものではなく化合物中のナトリウムを示すものである。前記ナトリウム塩は、塩味を有するものであれば特に制限はなく、無機ナトリウム塩であっても有機酸のナトリウム塩であってもよい。無機ナトリウム塩としては、塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム等が挙げられる。また、有機酸のナトリウム塩としては、グルタミン酸ナトリウムやアスパラギン酸ナトリウム等のアミノ酸のナトリウム塩、イノシン酸ナトリウムやグアニル酸ナトリウム等の核酸のナトリウム塩、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等が挙げられる。本発明に用いられる塩味成分は、1種類のナトリウム塩を含んでもよいし、2種類以上のナトリウム塩を含んでもよい。
(a)成分中のナトリウム塩の割合は40〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることがより好ましく、40〜99質量%であることがさらに好ましく、60〜95質量%であることが特に好ましく、70〜90質量%であることが殊更好ましい。
本発明に用いるナトリウム塩は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。本発明に用いるナトリウム塩に占める塩化ナトリウムの割合は65〜100質量%であることが好ましく、さらに80〜100質量%、特に90〜100質量%であることが、塩味の増強の点から好ましい。
本発明に用いるナトリウム塩の調製方法に特に制限はなく、市販品を用いることもできる。
【0014】
本発明の塩味組成物は、(a)成分中にカリウム塩が含まれていてもよい。前記カリウム塩は、無機カリウム塩であっても有機酸のカリウム塩であってもよい。無機カリウム塩としては、塩化カリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等が挙げられる。また、有機酸のカリウム塩としては、グルタミン酸カリウムやアスパラギン酸カリウム等のアミノ酸のカリウム塩、イノシン酸カリウムやグアニル酸カリウム等の核酸のカリウム塩、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、クエン酸カリウム等が挙げられる。前記カリウム塩として、塩味を呈し、塩味成分中のナトリウム塩の含有量をより少なくできるという観点から、塩化カリウムを好適に用いることができる。本発明において「カリウム」とは、カリウム金属を示すものではなく化合物中のカリウムを示す。
本発明に用いる塩味成分は、1種類のカリウム塩を含んでもよいし、2種類以上のカリウム塩を含んでもよい。
苦味や刺激味といったカリウム塩由来の異味を抑える観点及び塩味を呈しつつナトリウムの摂取量を低減する観点から、(a)成分中のカリウム塩の割合は1〜60質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
本発明に用いるカリウム塩の調製方法に特に制限はなく、市販品を用いることもできる。
【0015】
本発明の塩味組成物中のナトリウムの含有量は、6〜40質量%であるが、さらに10〜40質量%、さらに20〜40質量%、特に23〜40質量%、尚更25〜39.4質量%であるのが塩味増強の観点から好ましい。
【0016】
本発明の塩味組成物中のカリウムの含有量は、0〜35質量%であるのが好ましく、さらに1〜35質量%、さらに9〜21質量%、さらに9.5〜20質量%、特に10〜16質量%であるのが塩味を増強しつつ、ナトリウムの摂取量を低減する観点から好ましい。
【0017】
本発明の塩味組成物中の塩素の含有量は、40〜62質量%であるのが好ましく、さらに48〜62質量%であるのが好ましく、特に53〜62質量%であるのが塩味増強の観点から好ましい。
本発明の塩味組成物中の塩素量は、ナトリウム及びカリウムの総量100質量部に対して80〜180質量部であるのが好ましく、95〜160質量部であるのがより好ましく、さらに120〜158質量部、特に130〜155質量部であるのが塩味を増強する観点から好ましい。
【0018】
(a)成分中のナトリウム、カリウム及び塩素の量は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0019】
本発明に用いる(b)成分は下記一般式(I)で表されるフラノン類からなり、塩味増
感成分である。
【0020】
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシル基、アセチル基、メトキシ基又はアセトキシ基を表す。)
【0021】
前記一般式(I)中、置換基R及びRはそれぞれ独立に炭素数が1〜4、好ましくは1〜3、より好ましく1又は2のアルキル基であることが好ましい。また、置換基RとRは同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
前記一般式(I)中、置換基Rが、炭素数1〜4のアルキル基の場合、該炭素数は1〜3であることが好ましく、1又は2であることがさらに好ましい。置換基Rは、水素原子、メトキシ基又はヒドロキシル基であることが好ましい。
【0023】
前記一般式(I)で表されるフラノン類の具体例として、例えば、2−エチル−4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン、5−エチル−4−ヒドロキシ−2−メチル−3(2H)−フラノン(以下、いずれもHEMFと呼ぶ。)、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン(以下、HDMFと呼ぶ。)、2,5−ジメチル−4−メトキシ−3(2H)−フラノン(以下、DMMFと呼ぶ。)、2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン(以下、DMFと呼ぶ。)が挙げられ、それぞれ下記式(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)、(V)で表される構造を有する。
【0024】
【化3】

【0025】
本発明に用いる塩味増感成分は、前記一般式(I)で表される1種類のフラノン類からなるものであってもよいし、2種以上の前記一般式(I)で表されるフラノン類からなるものであってもよい。前記塩味増感成分はHEMF、HDMF、DMMF及びDMFからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
本発明に用いるフラノン類は通常の方法で合成することができる。また、市販品を用いてもよく、醤油や味噌等の発酵品から単離・精製したものを用いてもよい。
【0027】
また、前記フラノン類は、担体と共に本発明の塩味組成物に含有されていてもよい。フラノン類を担体に担持させることで、該フラノン類を安定化することができる。当該担体としては、シクロデキストリン、アラビアガム等が挙げられるが、調製の容易さや香りの持続性の高さの点からシクロデキストリンであることが好ましい。シクロデキストリンはα−、β−、γ−のいずれのタイプでもよいが、γ−シクロデキストリンを好適に用いることができる。
前記フラノン類の包接化合物を得る方法に特に制限はなく、例えば、前記フラノン類と前記担体とを混合することで前記フラノン類を前記担体内部に取り込ませることができ、前記フラノン類の包接化合物を得ることができる。所定量のフラノン類を取り込ませるのに必要な担体の量は担体の種類により適宜決定することができる。例えば、担体としてγ−シクロデキストリンを用いた場合には、フラノン類の1〜10倍の質量のγ−シクロデキストリンを用いれば、実質的にすべてのフラノン類を包接した均質な包接化合物を得ることができる。
【0028】
本発明の塩味組成物は、HEMF、HDMF、DMMF及び/又はDMFがシクロデキストリンに包接された包接化合物を含有することが好ましい。
【0029】
本発明の塩味組成物は、ナトリウム塩の塩味をより自然に増強されたものとするために、塩味成分((a)成分)100質量部に対して、フラノン類((b)成分)を0.0025〜0.25質量部含有することが好ましい。また、本発明の塩味組成物は、フラノン類を0.0025〜0.25質量%含有することが好ましい。
また、前記フラノン類がHEMFである場合には、塩味成分100質量部に対して、HEMFを0.003〜0.2質量部含有することが好ましく、0.012〜0.15質量部含有することがより好ましく、0.015〜0.1質量部含有することがさらに好ましく、0.02〜0.05質量部含有することが特に好ましい。また、本発明の塩味組成物は、HEMFを0.003〜0.2質量%含有することが好ましく、0.012〜0.15質量%含有することがより好ましく、0.015〜0.1質量%含有することがさらに好ましく、0.02〜0.05質量%含有することが特に好ましい。
また、前記フラノン類がHDMFである場合には、塩味成分100質量部に対して、HDMFを0.003〜0.1質量部含有することが好ましく、0.005〜0.05質量部含有することがより好ましく、0.006〜0.03質量部含有することがさらに好ましく、0.008〜0.02質量部含有することが特に好ましい。また、本発明の塩味組成物は、HDMFを0.003〜0.1質量%含有することが好ましく、0.005〜0.05質量%含有することがより好ましく、0.006〜0.03質量%含有することがさらに好ましく、0.008〜0.02質量%含有することが特に好ましい。
また、前記フラノン類がDMMFである場合には、塩味成分100質量部に対して、DMMFを0.0025〜0.25質量部含有することが好ましく、0.005〜0.1質量部含有することがより好ましく、0.01〜0.08質量部含有することがさらに好ましく、0.02〜0.05質量部含有することが特に好ましい。また、本発明の塩味組成物は、DMMFを0.0025〜0.25質量%含有することが好ましく、0.005〜0.1質量%含有することがより好ましく、0.01〜0.08質量%含有することがさらに好ましく、0.02〜0.05質量%含有することが特に好ましい。
また、前記フラノン類がDMFである場合には、塩味成分100質量部に対して、DMFを0.0025〜0.25質量部含有することが好ましく、0.005〜0.15質量部含有することがより好ましく、0.01〜0.1質量部含有することがさらに好ましく、0.02〜0.05質量部含有することが特に好ましい。また、本発明の塩味組成物は、DMFを0.0025〜0.25質量%含有することが好ましく、0.005〜0.15質量%含有することがより好ましく、0.01〜0.1質量%含有することがさらに好ましく、0.02〜0.05質量%含有することが特に好ましい。
HEMF、HDMF、DMMF及びDMFは、後述の実施例に記載の方法(HEMF、HDMF、DMMF及びDMFの分析方法)により測定できる。
【0030】
本発明の塩味組成物は、前記塩味成分と前記塩味増感成分とを、総量で好ましくは70〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、特に好ましくは90〜100質量%含有する。
【0031】
本発明の塩味組成物は、前記塩味成分及び前記塩味増感成分以外に他の成分を含んでもよい。当該他の成分としては、例えば、塩味成分に含まれる塩以外の無機塩類(例えば、マグネシウム塩やカルシウム塩等の無機塩類、より具体的には、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等)、天然調味料(天然だしの素、かつお節、茸類、肉エキス、魚介エキス、酵母エキス等)、アミノ酸、糖類、有機酸等の風味強化剤、香辛料、ハーブ、ゴマ等の天然物、ビタミン、固結防止剤、酸化防止剤、発色剤、着色料、乳化剤、増量剤、流動化剤、品質改善剤等が挙げられる。
上記他の成分は、本発明の塩味組成物中に、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜10質量%含有されることが好ましい。
【0032】
本発明の塩味組成物の形態に特に制限はないが、固体状であることが好ましく、粉末状であることがより好ましい。
【0033】
本発明の塩味組成物は、食品に添加することで該食品に塩味を付与することができる。本発明の塩味組成物を口に含むと、該塩味組成物中の塩味成分が有する塩味よりも強い塩味を感じる。したがって、従来から使用されている食卓塩や天然塩等に比べてより少量で十分な塩味を感じるので、ナトリウム塩等の摂取量を低減させることができる。
また、本発明の塩味組成物は、塩味成分及び塩味増感成分よりなる混合成分を有効成分とする塩味付与剤として好適に用いることができ、特に食塩代替物に適している。
【0034】
本発明の塩味増感剤は、前記一般式(I)で表されるフラノン類を有効成分として含有する。該有効成分は、上述した塩味増感成分と同一である。
【0035】
本発明の塩味増感剤は、ナトリウム塩と混合することで、ナトリウム塩の塩味を増強しうる。したがって、本発明の塩味増感剤とナトリウム塩とを混合することで、より塩味が増強された塩味組成物を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
(Na及びKの分析方法)
塩味成分中のNa及びKの含有量は、原子吸光光度計(偏光ゼーマン原子吸光光度計 日立 Z−6100)を用いて測定した。
【0038】
(塩素の分析方法)
塩味成分中の塩素の含有量は、試料を水に溶解させ、塩素分析計(東亜DKK SALT−ANALYZER SAST−210)を用いて測定した。
【0039】
(HEMF、HDMF、DMMF及びDMFの分析方法)
試料を蒸留水に溶解し、等量のジエチルエーテルで3回抽出した。回収したジエチルエーテルを無水硫酸ナトリウムで脱水処理後、窒素ガスにより100μLまで濃縮し、GC−MSに供した。HEMF、HDMF、DMMF及びDMFの定量値は、各々の標準物質についての内部標準に対するピーク高さ比よりあらかじめ作成した検量線から求めた。
[GC−MS条件]
GC/MS:Agilent 6890/5750
検出器:FID
カラム:J&W DB−FFAP(30m×0.32mm 内径0.25μm)
温度条件:40℃で3分間保持、4℃/分で240℃まで昇温
キャリアガス:ヘリウム
【0040】
製造例 塩味組成物の製造
[塩味成分の調製]
塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)からなる粉末状の塩味成分、塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)とL−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)とが種々の混合比で均質に混じりあった粉末状の塩味成分、塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)とクエン酸三ナトリウム(関東化学社製)とが種々の混合比で均質に混じりあった粉末状の塩味成分、塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)と塩化カリウム(和光純薬工業社製)とが種々の混合比で均質に混じりあった粉末状の塩味成分、及び塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)と塩化カリウム(和光純薬工業社製)とL−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)とが特定の混合比で均質に混じりあった粉末状の塩味成分をそれぞれ調製した。上記各混合比(単位:質量部)を下記表1及び2に示す。
【0041】
[塩味増感成分を含む包接化合物の調製]
HEMF(2−エチル−4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン、シグマ・アルドリッチ社製)、HDMF(ACROSS ORGANICS社製)、DMMF(和光純薬工業社製)又はDMF(東京化成工業社製)を塩味増感成分とし、これらの4倍質量のγ−シクロデキストリン(和光純薬工業社製)と混合して、γ−シクロデキストリンの内部にHEMF、HDMF、DMMF又はDMFが包接された粉末状の包接化合物を調製した。
【0042】
[塩味組成物の製造]
前記で調製した塩味成分と、γ−シクロデキストリンとHEMF、HDMF、DMMF又はDMFとからなる包接化合物とを下記表1及び2に示す種々の割合(単位:質量部)で混合して粉末状の塩味組成物(1)〜(35)を得た。塩味組成物中の塩素、ナトリウム及びカリウム並びにHEMF、HDMF、DMMF及びDMFの量(単位:質量%)を前記分析方法で測定した結果も併せて表1及び2に示す。
【0043】
試験例 塩味組成物の官能評価
前記製造例で得られた各塩味組成物1質量部に対して水100質量部を混合し、各塩味組成物が溶解した水溶液をそれぞれ調製した。この各水溶液について16名の専門パネルにより塩味の官能評価を行い、協議により塩味の評価を決定した。各塩味組成物から塩味増感成分を除いた組成の組成物を上記と同様に水に溶解したものを塩味の基準(コントロール)とし、下記評価基準に従って評価した。
[塩味評価基準]
+++:コントロールに比べて塩味が強く増強されている。
++ :コントロールに比べて塩味が増強されている。
+ :コントロールに比べて塩味がやや増強されている。
− :コントロールと同等の塩味である。
【0044】
また、上記塩味増感成分に含まれるフラノン類は、元来甘く香ばしい香りを有する香味成分であることから、上記各水溶液について、塩味増感成分に由来する香りについて下記評価基準に従って評価した。
[香りの評価基準]
1:甘い香りを強く感じる。
2:甘い香りを感じる。
3:甘い香りをやや感じる。
4:甘い香りは感じないが、何かの香りを感じる。
5:香りを感じない。
【0045】
結果を下記表1及び2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1及び2の結果から、HEMF、HDMF、DMMF又はDMFを含有する塩味組成物において、塩味成分が有する塩味が増強されることが示された。
この塩味の増強は、塩味成分として塩化ナトリウムのみを用いた場合と、塩化ナトリウムと有機酸のナトリウム塩との混合物を用いた場合とのいずれにおいても認められた。さらに、塩味成分がナトリウム塩の他にカリウム塩を有する場合にも塩味増強効果が認められた。
【0049】
また、塩味増強効果が認められた上記塩味組成物は、フラノン類に由来する香りを有するが、この香りは塩味とほどよくなじみ、塩味を増強させた。
【0050】
以上の結果から、本発明の組成物は食品への塩味付与に適するものであることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分と下記(b)成分とを含有し、ナトリウム含有量が6〜40質量%である塩味組成物。
(a)少なくともナトリウム塩を含有する塩味成分
(b)下記一般式(I)で表されるフラノン類
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシル基、アセチル基、メトキシ基又はアセトキシ基を表す。)
【請求項2】
(b)成分が、2−エチル−4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン、5−エチル−4−ヒドロキシ−2−メチル−3(2H)−フラノン、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、2,5−ジメチル−4−メトキシ−3(2H)−フラノン及び2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の塩味組成物。
【請求項3】
(a)成分100質量部に対して(b)成分を0.0025〜0.25質量部含有する、請求項1又は2に記載の塩味組成物。
【請求項4】
ナトリウム塩が塩化ナトリウムを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塩味組成物。
【請求項5】
ナトリウム塩の65〜100質量%が塩化ナトリウムである、請求項4に記載の塩味組成物。
【請求項6】
(a)成分がカリウム塩を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の塩味組成物。
【請求項7】
(a)成分中のカリウム塩の割合が1〜60質量%である、請求項6に記載の塩味組成物。
【請求項8】
ナトリウム及びカリウムの総量100質量部に対する塩素量が80〜180質量部である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の塩味組成物。
【請求項9】
(a)成分と(b)成分とを総量で70〜100質量%含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の塩味組成物。
【請求項10】
シクロデキストリンを含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の塩味組成物。
【請求項11】
下記一般式(I)で表されるフラノン類を有効成分として含有する塩味増感剤。
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシル基、アセチル基、メトキシ基又はアセトキシ基を表す。)
【請求項12】
フラノン類が、2−エチル−4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン、5−エチル−4−ヒドロキシ−2−メチル−3(2H)−フラノン、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、2,5−ジメチル−4−メトキシ−3(2H)−フラノン及び2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の塩味増感剤。