説明

塩基性ガスセンサ

【課題】 本発明は、蛍光を利用したturn−on型高感度の塩基性ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、ポリマビーズに蛍光物質であるフルオレセイン等をコーティングして得られる塩基性ガスセンサであり、アンモニアなどの塩基性ガスと接触させることにより、蛍光強度が高感度でかつ定量的に増加するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高感度な塩基性ガスセンサに関するものである。さらに詳しくは、ポリマビーズに蛍光物質をコーティングしたturn−on型塩基性ガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンモニア等の塩基性ガスは、工業、化学産業、農薬に広く利用されており、窒素源として重要な物質であるため、そのアンモニア等の塩基性ガスのセンシングやモニタリングは重要な技術のひとつである。
【0003】
一方で、アンモニア等の塩基性ガスは、環境汚染の指標のひとつでもあり、人体だけでなく、動物や植物などへの影響も報告されている。したがって、環境水や工場排水でのアンモニア等のモニタリングは、河川や湖沼等の富栄養価や悪臭除去、窒素循環を明らかにしていく上で重要である。また最近では、大気中のアンモニア化学種の分析や半導体製造クリーンルーム中のアンモニアガスモニタリング、生体内のアンモニア代謝やアンモニア発生菌/抑制菌の探索など、環境、産業、生物化学、ヒューマンサイエンスの分野を含めて、微量なアンモニア等の塩基性ガス分析のニーズが大きくなっている。
【0004】
これまで、高濃度にアンモニア等を含む水溶液は、滴定法によって分析していた。また、低濃度のアンモニア水溶液では、アンモニア用イオン選択電極や吸光光度法によって分析されていた。しかしながら、これらの分析法は基本的に水溶液分析に関するバッチ法であり、連続的なモニタリング分析としては使用できなかった。
【0005】
近年、アンモニアガスを分析する手法として、電気化学センサ(非特許文献1)や半導体検出器(非特許文献2)、オプティカルセンサ(非特許文献3)が知られている。これらの技術の中でも、オプティカルセンサは、簡単な構造で小型であり、高感度を保ちつつコストが安いなどの利点を有している。
【0006】
オプティカルセンサの中でも、蛍光を利用するセンサは、波長選択性があるため高感度である。しかし、ほとんどの蛍光を利用するセンサは、アンモニアやアミン類との消光現象を利用するもの(非特許文献4)であったため、Turn−on型のセンサの開発が求められてきた。
【0007】
蛍光を利用するTurn−on型のセンサは、これまでに水溶液中のHg2+イオンやCd2+イオン(非特許文献5)とキレート形成を利用したものが開発されているが、アンモニアやアミン類等の低分子塩基性物質では実現が難しかった。また、大きな表面積を有することからパーティクルをセンサ素材として用いる研究(非特許文献6、非特許文献7)も行われているが、Turn−on型のセンサーは開発されていない。
【非特許文献1】I. Lahdesmaki, A. Lewenstam and A. Ivaska, Talanta 43 (1996), p. 125.
【非特許文献2】R.C.C. Li, P.C.H. Chan and P.W. Cheung, Sens. Actuators B28 (1995), p. 233.
【非特許文献3】Shiquan Tao, Lina Xu, Joseph C. Fanguy, Sensors and Actuators B: Chemical, Volume 115, Issue 1, 23 May 2006, Pages 158
【非特許文献4】Xi Chen, Ling Lin, Peiwei Li, Yuanjin Dai, Xiaoru Wang, Analytica Chimica Acta, Volume 506, Issue 1, 17 March 2004, Pages 9-15.
【非特許文献5】Nolan, E. M.; Lippard, S. J., J. Am. Chem. Soc. ;(Communication);2003;125(47);14270-14271.
【非特許文献6】Haiquan Guo, Shiquan Tao, Sensors and Actuators B: Chemical, Volume 123, Issue 1, 10 April 2007, Pages 578-582
【非特許文献7】A.J. Haes and R.P. Van Duyne, J. Am. Chem. Soc. 124 (2002), p. 10596.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリマビーズに蛍光物質をコーティングし、蛍光を利用する塩基性ガスセンサの提供に関するものである。更に詳しくは、フルオレセイン構造を持つ蛍光物質をコーティングしたturn−on型アンモニアガスセンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル共重合体のポリマビーズに、蛍光物質、好ましくはフルオレセイン構造を持つ物質をコーティングすることにより、これをアンモニアやアミン等の塩基性ガスと接触させると、蛍光強度が定量的に増加する現象を見出し、アンモニア等の塩基性ガスに対する高感度Turn−on型センサーの本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリマビーズに蛍光物質をコーティングした塩基性ガスセンサであり、ポリマビーズが(メタ)アクリル酸エステル共重合体であること、また、蛍光物質がフルオレセイン構造を持つ物質であることが好ましいものである。そして、本発明のこの塩基性ガスセンサは、turn−on型の新規なガスセンサであることを特徴とするものである。また、本発明は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体のポリマビーズにフルオレセインをコーティングしたturn−on型アンモニアガスセンサであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塩基性ガスを感度よくセンシングし、モニタリングすることが可能なturn−on型高感度塩基性ガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
本発明の塩基性ガスセンサは、ポリマビーズに蛍光物質をコーティングした高感度塩基性ガスセンサである。
【0014】
本発明の塩基性ガスセンサは、アクリル系ポリマ等のポリマビーズに蛍光物質をコーティングすることにより、蛍光物質を酸性型に保ち蛍光を抑えつつ、塩基性ガスとの接触によって、プロトンを解離し、高感度に蛍光を発するという原理にもとづいたturn−on型高感度塩基性ガスセンサである。
【0015】
まず、本発明で用いるポリマビーズは、例えば、スチレン−ジビニルベンゼンポリマ、アクリレートポリマ、メタクリレートポリマ、ポリビニルアルコール、セルロース等、試料や溶媒に溶解しないものならいずれでもよいが、アクリレート、メタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類のポリマが、蛍光物質を酸性型に保ちやすく、センサの感度の点から望ましい。
【0016】
次に、本発明のポリマビーズの作製方法を示す。
【0017】
本発明において、ポリマビーズの合成方法は(メタ)アクリル酸エステル類の単量体を懸濁重合法、分散重合、ソープフリー重合等が用いられる。重合の容易さの点から水性懸濁重合がより好ましい。しかし、これに限定されることはない。
【0018】
本発明において、ポリマビーズは、(メタ)アクリル酸エステル類等の非架橋性重合性単量体と架橋性重合性単量体との重合性の炭素−炭素間二重結合の共重合反応によって形成できる。
【0019】
本発明において、使用される非架橋性重合性単量体は、1分子中に1個の重合性の炭素−炭素間二重結合を有する単量体である。スチレン系、アクリル系及びメタクリル系の非架橋性重合性単量体が挙げられる。また、これらの非架橋性重合性単量体の誘導体としては、アルキル基の他、水酸基、エポキシ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基等を有する誘導体があげられる。
【0020】
水酸基を有するアクリル酸、メタクリル酸の誘導体としては、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシ−3−フエニルオキシプロピル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ネオぺンチルグリコールモノアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等や、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシ−3−フエニルオキシプロピル、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタアクリレート、ネオぺンチルグリコールモノメタアクリレート、テトラメチロールメタントリメタアクリレート等が挙げられる。
【0021】
アルキルオキシ基を有するアクリル酸、メタクリル酸の誘導体としては、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸プロポキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸メトキシジエチレングリコール、アクリル酸エトキシジエチレングリコール、アクリル酸メトキシエチレングリコール、アクリル酸ブトキシトリエチレングリコール、アクリル酸メトキシジプロピレングリコール等や、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸プロポキシエチル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコール、メタクリル酸エトキシジエチレングリコール、メタクリル酸メトキシエチレングリコール、メタクリル酸ブトキシトリエチレングリコール、メタクリル酸メトキシジプロピレングリコール等が挙げられる。また、アリールオキシ基又はアラルキルオキシ基を有するものとして、アクリル酸フエノキシエチル、アクリル酸フエノキシジエチレングリコール、アクリル酸フエノキシテトラエチレングリコール等や、メタクリル酸フエノキシエチル、メタクリル酸フエノキシジエチレングリコール、メタクリル酸フエノキシテトラエチレングリコール等が挙げられる。さらに、使用できるその他の官能基を有するものとして、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸ジシクロペンテニル、メタクリル酸ジシクロペンテニル、アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、メタクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、アクリル酸N−ビニル−2−ピロリドン、メタクリル酸N−ビニル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0022】
エポキシ基を有する非架橋性重合性単量体としては、エポキシ基を有するアクリル酸、メタクリル酸の誘導体、エポキシ基を有するスチレンの誘導体が上げられ、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、グリシジルクロネート、グリシジルイタコネート、グリシジルフマレート、グリシジルマレート、ビニルベンジルグリシジルエステル等が挙げられる。
【0023】
なお、アルキル基を有するアクリル酸、メタクリル酸の誘導体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシル等、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ウンデシル、メタクリル酸ドデシル等が挙げられる。
【0024】
一方、本発明に使用される架橋性重合性単量体としては、1分子中に2個以上の重合性基を有する単量体であればいずれでもよい。1分子中に2個の重合性基を有する単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、グリコールとメタクリル酸あるいはアクリル酸のジエステル、例えばエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレ−ト、1,3−ブチレングリコールジアクリレ−ト、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジメタクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、テトラメチロールメタンジメタクリレート、テトラメチロールメタンジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート等があり、l分子中に3個以上の重合性基を有する単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。これら具体例に限定されるものではなく、さらに、これらを数種混合して使用することもできる。
【0025】
本発明で用いるポリマビーズは、前記エポキシ基有する非架橋性重合性単量体を主成分とし、必要によりその他の非架橋性重合性単量体を加えた非架橋性性重合性単量体を、上記架橋性重合性単量体と共重合させることが好ましい。このとき、両者の配合割合は上記の非架橋性重合性単量体を90〜30重量%、架橋性重合性単量体を10〜70重量%とすることが好ましい。
【0026】
架橋性重合性単量体が10重量%未満であると、得られるポリマビーズの機械強度が乏しく、繰り返し使用における耐久性が劣り、安定した検知、分析ができなくなる傾向がある。また、架橋性重合性単量体が70重量%を超えると場合によっては細孔径の調整ができにくくなる傾向がある。
【0027】
本発明において、ポリマビーズの重合には、懸濁重合法、分散重合、ソープフリー重合等が用いられるが、分散媒中のモノマーの油滴を安定させるためにゼラチン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、あるいはヒドロキシアパタイト、等の分散剤を使用する。
【0028】
また、ポリマビーズは水性媒体中で重合されるのが好ましい。水性媒体の量は、基本的には重合体粒子の元となる油滴を所望の大きさに乳化分散するためで、単量体の種類や量により左右されるので一概に決められないが、重合性基を有する単量体100重量部に対して80〜400重量部であることが好ましい。80重量部未満では乳化分散液の粘度が上昇し、所望の油滴を調整しにくくなる傾向があり、また400重量部を越えると、製造バッチあたりの重合体粒子の収量が悪くなり、生産性の低下等の問題がある。
【0029】
上記の分散剤の中には単独ではその機能を十分あらわさないものがあり、それには分散助剤を加えることが有効である。この分散助剤としては一般に知られている界面活性剤、陽イオン系、陰イオン系、ノニオン系界面活性剤が使用されるが、その中で特に陰イオン界面活性剤が好ましい。陰イオン界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、あるいはこれらの金属塩等がある。陰イオン界面活性剤は水性媒体に対し、1×10−4〜0.1重量%添加されるのが好ましい。1×10−4重量%未満では、分散助剤としての機能が発現しにくくなる傾向があり、0.1重量%を越えると、これ自体が分散剤または乳化剤として機能してしまい、良好な懸濁重合が行えなくなる傾向がある。
【0030】
ポリマビーズを製造する際の重合に用いられる重合開始剤としては、過酸化物系ラジカル開始剤、アゾ系ラジカル開始剤が好ましく、例えば、過酸化ベンゾイル、過安息香酸2−エチルヘキシル、過酸化アセチル、過酸化イソブチリル、過酸化オクタノイル、過酸化ラウロイル、過酸化ジtert−ブチル、クメンヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、4,4,6−トリメチルシクロヘキサノンジtert−ブチルペルオキシケタール、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、シクロヘキサノンジ−tert−ブチルペルオキシケタール、アセトンジ−tert−ブチルペルオキシケタール、ジイソプロピルヒドロペルオキシド等の過酸化物系ラジカル重合開始剤、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、(1−フェニルエチル)アゾジフェニルメタン、2,2’−アゾビス(4−メトキシー2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカーボニトリル)、2−(カーバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾー2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)等のアゾ系重合開始剤が挙げられる。
【0031】
ラジカル重合開始剤は、重合性基を1個有する単量体100重量部に対して0.05〜10重量部使用される。使用量が0.05重量部未満では重合時間が長くなり、また未反応の単量体がポリマビーズ中に残存する傾向があり好ましくない。一方、使用量が10重量部を越える場合は重合開始剤が無駄であるばかりでなく、重合中の発熱制御が困難で、分子鎖長が不十分等の問題が発生する傾向がある。
【0032】
本発明で用いるポリマビーズは多孔性をもたせるため、さらに細孔調節剤として、重合時に種々の溶媒が加えられる。この溶媒としては重合性単量体には可溶で、重合体は溶解しないもので、具体的にはトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ヘプタノール、イソアミルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等の脂肪族又は芳香族エステル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、ヘキサン、オクタン、デカン等、公知のものが使用できる。これらは得られるポリマ重合体のもととなる単量体の種類によって適宜使い分けられ、単独でもよいし、数種類併用しても良い。
【0033】
これらの溶媒の配合割合は、多孔性の点から重合性単量体総量に対して、好ましくは、5〜300重量%、より好ましくは20〜200重量%、さらに好ましくは50〜100重量%添加される。この配合割合が5重量%未満であったり、300重量%を超えると所望の多孔性が得られにくくなる傾向がある。
【0034】
本発明で使用するポリマビーズは上記の非架橋性重合性単量体と上記の架橋性重合性単量体とを公知の水性懸濁重合により合成したものであり、ポリマビーズの粒径は特に限定しないが、合成の容易さから1μm〜2mm程度のものが望ましく、更に分級等の容易さから5μm〜800μm程度がより好ましい。
【0035】
上記のようにして得られたポリマビーズは必要に応じて、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基、アルキル基、イミノジ酢酸のようなキレート基を導入してもよく、導入は共重合成分として、このような官能基を有する非架橋性重合性単量体を用いることによって直接的に導入しても、あるいはポリマビーズを調製した後、官能基を変換することによって間接的に導入してもよい。ただ、カルボキシル基やスルホン酸基をもつものは、蛍光物質の種類によってはポリマビーズへの蛍光物質のコーティング量が少なくなりやすく、また、アミノ基を有するものは感度が低下しやすい。従って、ポリマビーズへのコーティング容易さ、及び感度の点から水酸基を導入したものがより望ましく、その一例として、エポキシ基を加水分解して水酸基を導入する例を示す。
【0036】
具体的には、例えば、グリシジルメタクリレートのようなエポキシ基を有する非架橋性重合性単量体を共重合成分として重合したエポキシ基含有ポリマビーズ10重量部に対し、濃度1mM〜5M/Lの硫酸を30〜300重量部加え、40℃〜100℃で2〜24時間反応させ、加水分解して水酸基を導入することができる。なお、ここに示した、合成例は一例であり、これに限定されるものではなく、もちろん、当初から、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレートのような水酸基を有する非架橋性重合性単量体を共重合成分として重合し、水酸基が導入されたポリマビーズとすることもできる。
【0037】
本発明で用いる蛍光物質は、塩基性ガスと接触して蛍光を示すものならいずれでもいが、たとえば、フルオレセイン、ローダミンB、エオシンY、アクリジンオレンジ、テトラフェニルポルフィンなどが挙げられる。中でも、フルオレセイン、ローダミンB、エオシンYなど、フルオレセイン骨格をもった物質が、アンモニアやアミンガスの感度の点から望ましい。参考にフルオレセイン構造を以下に示す。
【化1】

【0038】
次に、ポリマビーズに蛍光物質をコーティングする方法を示す。該方法は、ポリマビーズを蛍光物質の溶液で処理することにより行うことができ、具体的には、例えば、所定量の蛍光物質を溶媒に溶解し、1.0×10−4〜5.0×10−3mol・dm−3の溶液を調製する。この溶液を100ml〜1L分取して、1.0gのポリマビーズを加えて攪拌する。一昼夜、静置させたのち、ポリマビーズを濾過する。溶媒で洗浄後、室温で十分に乾燥させることにより、ポリマビーズに蛍光物質をコーティングすることができる。
【0039】
ここで用いる溶媒は蛍光物質を溶解するものであればよく、例えばイオン交換水、メタノール、エタノール、アセトンなどを用いる。
【0040】
蛍光物質をこのように、コーティングしたポリマビーズは、塩基性ガスと接触すると蛍光を示し、塩基性ガスセンサとして機能ないしは効力を示す。塩基性ガスとしては、アンモニア、ジメチルアミン、トリメチルアミン、メチルエチルアミン、アニリンなどのアミン類が挙げられる。
【0041】
また、従来の蛍光を利用するガスセンサは、アンモニアやアミン類との消光現象を利用するもの(非特許文献4)であり、いわゆるQuenching型と称されるものであった。これに対し本発明のガスセンサは、分析対象物質が存在するときに、蛍光や燐光などが発光するいわゆるTurn−on型のセンサであることを特徴としている。
【0042】
すなわち、本発明のセンサは、アンモニアやアミン類と接触すると蛍光発光し、ガス濃度低くなると、自己消光メカニズムを示す。これは、微量の塩基性ガスが、担体となっているポリマビーズ内の微量の水分に溶解し、水分と平衡反応でOHイオンを生じるためであって、ポリマビーズ内の微量の水分は、容易にアルカリ性となりフルオレセイン等の蛍光物質のプロトンを脱離させるため、脱プロトン反応によって、抑制されていた蛍光が放たれる。その一方で、ポリマビーズの表面積が大きいため、アミンガスの雰囲気を排除する、すなわち塩基性ガスがなくなると、アミンの大きな蒸気圧に伴って、アンモニアやアミン類の気固平衡反応は、気相側への反応が進行する。同時に、ポリマビーズの材料である(メタ)アクリル酸エステル類からプロトンが供給され、ポリマビーズがpH緩衝剤として作用するため、自己消光するものである。
【0043】
従って、本発明に従い容易にTurn−on型の塩基性ガスセンサが提供できるものとなる。
【0044】
このような観点から、ポリマビーズの比表面積は、1〜500m/g程度であることが好ましく、一方、蛍光物質のコーティング量は、蛍光物質の種類により異なるが、一般に、10μmol〜100mmol/g程度となるように調製することが好ましい。
【0045】
なお、本発明では、蛍光物質をコーティングしたポリマビーズ自体を、塩基性ガスとの接触により蛍光を発生し、塩基性ガスの存在を検知できることから「センサ」と称しているが、この塩基性ガスとの接触により発生する蛍光を測定する手段を組み合わせることにより、いわゆる「センサ素子ないし装置」として利用でき、公知の手段により組み立てることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明の塩基性ガスセンサンの使用方法について具体的に説明するが、当該実施例によって本発明が制限されるものではない。
【0047】
(実施例1)
<塩基性ガスセンサの作製>
まず、以下のようにして担体となるポリマビーズを調製した。
【0048】
エチレングリコールジメタクリレー卜100g、グリシジルメタクリレート165g、酢酸n−ブチル100g、イソアミルアルコール125g酢酸ブチル75g及びアゾビスイソブチロニトリル0.9gの混合物を0.5重量%メチルセルロース水溶液2000gに加え、80℃で8時間懸濁重合させた。反応液を冷却した後、生成した共重合体を濾過し、水洗、メタノール洗浄して、ポリマビーズを得た。得られたポリマビーズを45〜90μmに分級し、次いで、60℃で15時間乾燥した。得られたポリマビーズのBETガス吸着法による比表面積は、120m/gであった。
【0049】
上記のエポキシ基含有ポリマビーズ10重量部に対し濃度10mM/Lの硫酸を50重量部加え、40℃で8時間加水分解し、水酸基含有のポリマビーズを得た。
【0050】
フルオレセインをメタノールに溶解し、5.0×10−4mol・dm−3の溶液を調製する。この溶液を1L分取して、1.0gの上記ポリマビーズを加えて攪拌する。一昼夜、静置させたのち、ポリマビーズを濾過する。溶媒で洗浄後、室温で15時間乾燥させ、フルオレセインがコーティングされた「フルオレセイン−ポリマビーズ」を得た。フルオレセインの吸着量は17mg/g(0.05mmol/g)であった。
【0051】
<評価>
(1)蛍光顕微鏡で観察
フルオレセイン−ポリマビーズの蛍光特性を確認するため、濃度4×10−3mol・dm−3のアンモニア水溶液のガス雰囲気下、目視及び蛍光顕微鏡で観察した。蛍光顕微鏡による観察結果を図1に示した。図1において、各ポリマビーズは、アンモニアガス存在下では明らかな黄色蛍光発光を示していることがわかる。
【0052】
(2)蛍光強度の測定
外径75mm、深さ30mmのガラス製シャーレの上蓋の中央に5×5mmのカーボンシートにフルオレセイン−ポリマビーズ100mgを貼り付ける。一方、ガラス製シャーレの下皿に、アンモニア水溶液5mLまたは固体試料を入れて蓋をする。1分間静置の後、測定用スライドガラスに貼り、直ちに蛍光測定する。測定は、蛍光光度計として、HITACHI製F−7000を使用し、蛍光波長は、470〜700nmの範囲で測定した。
【0053】
アンモニア水溶液の濃度を2×10−4〜4×10−3mol・dm−3の範囲で変化させ、測定したところ、蛍光強度は、アンモニア濃度の増加にともない定量的に増加することが確認できた。結果を図2に示した。また、目視によっても黄色の蛍光が確認できた。結果を図3に示した。なお、アンモニアガスの反応により増加した蛍光強度は約20分程度で自己消光し、アンモニアガスを反応させる前の状態に戻った。
【0054】
(実施例2)
蛍光物質を、フルオレセインに代えてローダミンBとし、実施例1と同様にしてガスセンサを作製した。アンモニアガスを接触した場合(1×10−5mol・dm−3)とアンモニアガスが無い場合について、蛍光強度を測定したところ、ローダミンBコーティンビーズは、未処理のビーズに比べ蛍光強度が高くなっていることが確認でき、センサとして働くことが確認できた。結果を図4に示した。
【0055】
(比較例1)
実施例1のフルオレセイン−ポリマビーズを用い、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、メタノールを接触させたが、目視で全く蛍光が確認できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、アンモニア水溶液のガス雰囲気下における、本発明の塩基性ガスセンサ(フルオレセイン−ポリマビーズ)の黄色蛍光の発光状態を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明の塩基性ガスセンサ(フルオレセイン−ポリマビーズ)のアンモニア濃度による蛍光強度の変化を示すスペクトル図である。
【図3】図3は、本発明の塩基性ガスセンサ(フルオレセイン−ポリマビーズ)のアンモニア(塩基性ガス)による蛍光の発光を示す写真である。
【図4】図4は、本発明の塩基性ガスセンサ(ローダミンB−ポリマビーズ)のアンモニアガスによる蛍光強度の増加を示すスペクトル図である。図中、aは、ローダミンBをコーティングしたポリマビーズを用いた場合を示し、bは、ローダミンBをコーティングしていないポリマビーズを用いた場合を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマビーズに蛍光物質をコーティングした塩基性ガスセンサ。
【請求項2】
ポリマビーズが(メタ)アクリル酸エステル共重合体である請求項1に記載の塩基性ガスセンサ。
【請求項3】
蛍光物質がフルオレセイン構造を持つ物質であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塩基性ガスセンサ。
【請求項4】
塩基性ガスセンサがturn−on型であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の塩基性ガスセンサ。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体のポリマビーズにフルオレセインをコーティングしたturn−on型アンモニアガスセンサ。

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−66170(P2010−66170A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233944(P2008−233944)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年7月18日 みちのく分析科学シンポジウム2008 実行委員長 東北大学大学院理学研究科教授 寺前 紀夫 発行の「みちのく分析科学シンポジウム2008講演要旨集」に発表
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【Fターム(参考)】