説明

塩素を含まないモノアゾ黄顔料を使用した活性エネルギー線硬化型インキ

【課題】従来のジスアゾ顔料と同程度な着色力を有する、塩素を含まないモノアゾ顔料を使用することで、環境面に優れ、かつ品質面では流動性、鮮明性、透明性、光沢、耐光性に優れる活性エネルギー線硬化型インキを提供する。
【解決手段】塩素原子を含まないモノアゾ黄顔料を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型インキ。さらに、混合カッフ゜リンク゛合成法により微細化されたモノアゾ黄顔料を含有することを特徴とする上記活性エネルギー線硬化型インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
活性エネルギー線硬化型インキの活性エネルギー源としては紫外線、電子線等が挙げられるが、この中でも紫外線により被膜を硬化させるUVインキを使用した印刷は、他の印刷方式に比べ外気への溶剤放出などがないなどの環境面に優れること、また被膜の強度などに優れることから年々大きな成長を遂げている。本発明は、従来のUV黄色インキをはじめとした活性エネルギー線硬化型インキの課題であった環境面、また流動性をはじめとした品質面の向上に関する。なお、本発明における活性エネルギー線硬化型インキは、通常の印刷インキと同様に公知の印刷方法、例えばオフセット印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷にて印刷することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、UV印刷インキ用黄色顔料として、ジスアゾイエロー顔料が使用されており、主にC.IPigment Yellow13が使用されている。ジスアゾ顔料の使用にさいしては以前から環境面、及び品質面から問題点が指摘されていた。環境面で言えば、ジスアゾ顔料はビフェニル骨格を含み、更に塩素を含有するため、印刷物を廃棄処理する際の有害物質の発生が懸念されていた。品質面で言えば、UVインキ用のワニスは、オフセット枚葉インキ、オフリンインキ、新聞インキなどのワニスに比べて著しく流動性が劣るため、インキ設計上大きな阻害要因となっていた。流動性を向上させるために、インキ中の顔料分を減らしたり、或いはモノマー分を増やすなどの対応をとってきたが、これらはUVインキの濃度、耐水性などのインキ品質の低下を伴うことがあった。
【0003】
使用する顔料をC.I.Pigment Yellow13などのジスアゾ顔料から、塩素原子を含まないモノアゾ黄色顔料、例えばC.I.Pigment Yellow74などに変えることで環境面の問題は解決できる。一方、品質面では耐光性、流動性などの品質に関しては飛躍的に向上するが、しかしその反面、著しい透明性、濃度などの品質の低下を伴ってしまう。
【0004】
これは一般のモノアゾ顔料の粒子はジスアゾ顔料の粒子に比べて大きい事に起因する。このような大きな粒子のモノアゾ顔料を使用すると、高い流動性は得られるものの、透明性、鮮明性、光沢、着色力が低下し、インキとしての商品価値は低下してしまう。透明性、鮮明性、光沢、着色力を維持したまま、高い流動性をもつUV黄色インキが望まれていた。
【特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来のC.I.Pigment Yellow13を使用したUVインキでは達成できなかった上記の環境面、品質面の問題点を解決したUV黄色インキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したように、インキの透明性、着色力に関しては使用する顔料の一次粒子径が大きく影響する。一般的には粒子が大きいと、透明性、濃度は低下するが、流動性は良好となる傾向にある。逆に粒子が小さくなると透明性、濃度が向上し、流動性は低下する傾向にある。
【0007】
塩素原子を含まないモノアゾ顔料の代表例としてC.I.Pigment Yellow74がある。一般に市販されているC.I.Pigment Yellow74は粒子が大きく設計されており、流動性は高いものの、ジスアゾ顔料レベルの透明性、濃度は得られていなかった。
【0008】
アゾ顔料は一般的には水系にて、カップラー成分中にジアゾ成分を注入、カップリング反応することで合成される。顔料合成時、顔料粒子を細かく制御する手段として一般に混合カップリングという手法が用いられる。混合カップリング法とは、カップラー成分中に構造の異なる異種カップラー成分を一部添加する、或いはジアゾ成分中に構造の異なるジアゾ成分を一部添加してカップリングする方法である。カップラー成分側か、ジアゾ成分側のどちらかに誘導体が入っていてもよく、カップラー側、ジアゾ成分側の両方に誘導体が入っていても良い。この手法により顔料の合成時の結晶成長が制御され、粒子を微細に制御することが可能となり、フタロシアニンや、他の高級顔料に必要である微細化する工程を省略することができる。
【0009】
C.I.Pigment Yellow74のカップリング方法、表面処理方法を鋭意検討した結果、一次粒子を細かく制御する方法を見出し、UVインキにした時に、ジスアゾ顔料と同等以上の着色力と、ジスアゾ顔料以上の透明性、鮮明性、光沢をもつモノアゾ顔料が得られた。しかも流動性に関しては、驚くべき事に顔料粒子を微細化したにもかかわらず、ジスアゾ顔料に比べ極めて高い流動性を維持したままであった。
【0010】
すなわち本発明は、塩素原子を含まないモノアゾ黄顔料を使用した活性エネルギー線硬化型インキに関する。さらに、本発明は、混合カップリング合成法により微細化されたモノアソ゛顔料を使用する上記活性エネルギー線硬化型インキに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒子を細かく制御した塩素原子を含まないモノアゾ黄色顔料を使用することで、環境面、流動性、透明性、鮮明性、光沢などの品質面に優れるUV黄色インキを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明で用いられる、塩素原子を含まないモノアゾ黄色顔料について説明する。
【0013】
たとえば、塩素原子を含まないモノアゾ黄色顔料として、微細化されたC.I.Pigment Yellow74を例に挙げると、下記の方法で製造することができる。2−メトキシアセトアセトアニリド及び2−メトキシアセトアセトアニリドに対し0〜10モル%の下記式(1)で示される誘導体を含むカップラー成分と、2−メトキシ−4−ニトロアニリン及び2−メトキシ−4−ニトロアニリンに対して0〜10モル%の下記式(2)で示される誘導体を含むジアゾ成分とをカップリングすることで目標とする粒子径まで微細化される。誘導体はカップラー成分側か、ジアゾ成分側のどちらかに入っていればよく、またカップラー成分側、ジアゾ成分側の両方に入っていてもよい。
【0014】
カップリング方法は特に制限されず、バッチ法でも連続法でも構わない。カップリング終了後、さらに対色素3〜30wt%の公知の方法でロジン処理を行なうことで分散性が良好な目標とするUVインキ用乾燥顔料が得られる。
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中Xは同一であっても異なっていてもよく、CONR12、SO2NR12、CONH(CH2kNR12またはSO2NH(CH2kNR12(R1、R2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、またはR1、R2が結合して一体となった環状構造を表し、kは1〜4の整数を表す。)、COOM 、SO3M、Mは水素原子または、アルカリ金属原子を表す。mは1または2を表す。Yは同一であっても異なっていてもよく、R3、OR3、(R3は水素原子またはアルキル基を表す。)、NO2、nは0〜2の整数を表す。〕
【0017】
【化2】

【0018】
〔式中、Zは同一であっても異なっていてもよく、CONR1、R2、SO2NR12、CONH(CH2kNR12、SO2NH(CH2kNR12(R1,R2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基またはR、R2が結合して一体となった環状構造を表し、kは1〜4の整数を表す。)、COOHまたはSO3Hを表し、sは1または2の整数を表し、Qは同一であっても異なっていてもよく、R3、OR3、OCR3(R3は水素原子またはアルキル基を表す。)、またはNO2、tは0〜2の整数を表す。〕
【0019】
C.IPigment YellowY.74以外の構造のモノアゾ顔料として、C.IPigment Yellow1、65、74、108、120、151、175などについても同様に顔料合成時に微細化することができ、本願発明にかかるインキに使用することができる。
【0020】
本発明は上記のように微細化された、かつ分散性の良好なモノアゾ顔料を活性エネルギー線硬化型インキ用ビヒクルと混練した黄色インキに関する。本発明における好ましいインキ組成としては、エチレン性不飽和二重結合を有するオリゴマーもしくはエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー:5〜60重量%、合成樹脂:1〜30重量%、顔料:1〜25重量%、光重合開始剤 0〜20重量%、その他補助剤:0〜15重量%である。
【0021】
本発明に用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース)、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体、ポリアマイド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂、尿素樹脂、ブタジエンーアクリルニトリル共重合体のような合成ゴム等が挙げられる。これらの樹脂は、その中の1種または2種以上を用いることができる。何れもエチレン性不飽和ニ重結合を有するモノマー可溶である樹脂が用いられる。
【0022】
本発明において、モノマーとは単官能または多官能の(メタ)アクリレート類をいい、これらを適宜用いることでインキ組成物の粘度を調節することが出来る。
【0023】
本発明において使用されているオリゴマーとしてはアルキッドアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン変性アクリレート等が挙げられる。
【0024】
活性エネルギー線硬化型インキにはその硬化作用を促す成分として1種もしくは2種以上の光重合開始剤を適宜添加することができる。
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4,4−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジエチルチオキサントン、2−メチル−1−(4−メチルチオ)フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、ビス−2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンジル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等が挙げられる。光重合開始剤と併用して、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、ペンチル4−ジメチルアミノベンゾエート等の光促進剤を使用してもよい。
【0025】
補助剤としては、例えば、耐摩擦剤、ブロッキング防止剤、スベリ剤、スリキズ防止剤としては、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックス、フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックスなどの合成ワックス、シリコーン添加剤、レベリング剤、体質等を適宜使用することができる。
【0026】
顔料、ビヒクル、重合開始剤、その他の添加剤を混合したあと、3本ロールミルでグラインドメーターで7.5μm以下になるまで分散し、粘度をモノマーで調整して最終UV黄色インキとすることができる。
ビヒクル製造例としては、たとえばダップトートDT170(東都化成(株)製)30部を90℃〜100℃に加熱したDPHA(日本化薬(株)製)70部に投入し90℃〜100℃で1時間加熱溶解させることで得ることができる。
【0027】
本発明の活性エネルギー線硬化型インキの活性エネルギー源としては紫外線、電子線が挙げられる。しかしこれに限定される必要はない。この中でも紫外線により被膜を硬化させるUVインキを使用した印刷は、他の印刷方式に比べ外気への溶剤放出などがないなどの環境面に優れること、また被膜の強度などに優れる。
【0028】
以下、実施例に基づき本発明を説明する。例中、部は重量部、%は重量%を意味する。
【0029】
[実施例1]
2−メトキシ−4−ニトロアニリン168部を水2000部と35%塩酸260部に分散させ、これに氷1000部を加え0℃に冷却した。水200部と亜硝酸ナトリウム70部からなる溶液を加え、3℃以下で60分間攪拌してジアゾ成分を得た。一方、2−メトキシアセトアセトアニリド207部を水5000部と水酸化ナトリウム100部に溶解した。この溶液に80%酢酸200部を30分要して滴下して懸濁液とし、カップラー成分とした。カップラー成分に20℃にてジアゾ成分を40分かけて加え、カップリング反応を行った。得られた顔料スラリーを水酸化ナトリウムでpHを10.0に調整した後、25%ロジンソープを155g添加した。10分間攪拌後、塩酸を加えてpHを5.0に調整し顔料表面にロジンを析出させた。90℃まで加熱し30分保持後、ろ過、水洗、90℃で15時間乾燥し、420gのモノアゾ顔料を得た。粉砕して顔料粉末とした。
【0030】
ビューラー社製の3本ロールを使用し、粉末顔料顔料50g、UVインキ用ビヒクル200g、重合開始剤20gを60℃、20バールの条件下で7.5ミクロン以上の粗大粒子が消失するまで練肉した。タックが8.0〜8.5になるよう、モノマーで調整し、最終インキとした。
【0031】
[実施例2]
実施例1において、2−メトキシ−4−ニトロアニリン164部、下記式(3)で示される化合物6.4部をジアゾ成分、2−メトキシアセトアセトアニリド207部をカップラー成分とした他は実施例1と同様の操作を行い粉末顔料を得た。インキ化の方法は実施例1と同様に行い、最終インキを得た。
【0032】
【化3】

【0033】
[実施例3]
実施例1において、2−メトキシ−4−ニトロアニリン168部をジアゾ成分、2−メトキシアセトアセトアニリド202部、下記式(4)で示される化合物7.0部をカップラー成分とした他は実施例1と同様の操作を行い粉末顔料を得た。インキ化の方法は実施例1と同様に行い、最終インキを得た。
【0034】
【化4】

【0035】
[比較例1]
実施例1において、粉末顔料を東洋インキ社製のC.I Pigment Yellow13のLIONOL YELLOW1314を使用した。インキ化の方法は実施例1と同様に行い、最終インキを得た。
【0036】
(評価方法)
・ 流動性:スプレッドメーターで測定した。60秒後の直径(mm)をフロー、100秒値と10秒値の差をスロープ(mm)として数値化した。
・ 透明性:黒帯が印刷されている白紙に展色(ドローダウン)し、黒帯上の透明性を目視で5段階で(1(透明性小)≪5(透明性大))比較判定した。
・ 鮮明性:白紙に展色し、目視で5段階で(1(鮮明性小)≪5(鮮明性大))比較判定した。
・ 着色力−1:インキ1部、フタロシアニンブルー、酸化チタン及びUVワニスからなる青色インキ5部をフーバーマーラーにて50ポンド、25回転*5回の条件で混ぜ合わせた緑色インキを展色し、目視で5段階(1(着色力小)≪5(着色力大))比較判定した。
・ 着色力−2:インキをRIテスターにてコート紙に展色し、紫外線を照射して被膜を硬化させ、マクベス濃度を測定した。
・ 光沢:RIテスター展色物の60°光沢をスガ製光沢計で測定した。
・ 耐水性:ハイスピードミキサーでインキを攪拌しながら水を滴下し乳化させたインキを作成した。乳化前後のインキの流動性を比較した。変化が少ないと良好である。
・ 耐光性:RIテスター展色物をフェドメーターで60時間紫外線を照射した後の退色度合いを目視で5段階(1(退色大)≪5(退色小))比較判定した。
【0037】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素原子を含まないモノアゾ黄顔料を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項2】
混合カッフ゜リンク゛合成法により微細化されたモノアゾ黄顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型インキ。



【公開番号】特開2009−62462(P2009−62462A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231801(P2007−231801)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】