説明

塩素レベルを低減するための有機化合物の処理

【課題】種々の有機化合物を処理して、その塩素レベルを低減すること。
【解決手段】有機塩素化合物の塩素含量を低減する方法であって、該方法は、以下の工程を包含する:炭素を含まないルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を、該有機塩素化合物に導入して、混合物を形成する工程;および該混合物中にて、該有機塩素化合物の塩素含量を低くするのに充分な時間にわたって、該有機塩素化合物を該少なくとも1種の酸と接触させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の塩素含有有機化合物を処理して、その有機化合物の塩素レベルを低減することに関する。本発明は、潤滑工業用の化合物を調製する際に、特に有用である。
【背景技術】
【0002】
何年にもわたって、種々の有機化合物の処理を促進して種々の有用な生成物を得るために、塩素が用いられている。有機化合物は、意図的に塩素を混入させようと、塩素含有副生成物を伴っていようと、いずれにしろ、燃焼時に塩酸を発生し得る。
【0003】
現在、製造が制限されているかまたは中止されている種々のハロゲン化生成物には、塩素化ビフェニル、ダイオキシン、および種々のオゾン枯渇物質(例えば、クロロフルオロカーボン推進剤)のような物質が挙げられる。より害の少ない有機塩素原料には、自動車オイルにて、分散剤として使用される生成物が挙げられる。分散剤とは、スラッジがエンジン部分に蓄積しないように促進する化合物である。特にヨーロッパでは、環境上の問題のために、初期の塩素の量がいくら少量であっても、生成物中の塩素レベルをなくすかまたは低下させることが望まれている。
【0004】
塩素含有化合物を除く1つの可能な解決法は、単に、塩素を成分とするあらゆる化合物、または塩素化副生成物を形成するあらゆる化合物を調製しないことである。全ての塩素含有化合物の製造を全世界的に中止することが実行不可能なことは、多量の化学物質の製造が塩素の使用に依存していることから、容易に明らかである。極く少量の有機塩素を含有し、塩素が組成物に所望の特性を与えない生成物は、塩素を除去するように処理し得る。このような方法は、所望の最終生成物に害を与えない方法であるべきである。塩素は、いずれにしても、化学工業では望ましい反応物であり、しばしば、反応を促進し迅速化して所望の最終生成物を得るために、使用されている。
【0005】
従って、本発明は、有機塩素含有化合物を処理して、その塩素含量を許容できる程に低いレベルまで下げる方法に関する。この方法は、所望の組成物が少量の有機塩素だけを含有し、全体の生成物の本質的な特性は変化しないように、改良し得る。これらの生成物にて、その塩素含量が比較的に高い場合では、この方法は、基本的な有機物質を、比較的に低い塩素含量の副生成物に転化するように、行われる。
【0006】
Finkelstein置換は、最初に、Ber. 第43,1528号(1910年)に記載された。アセトン溶液中にて、ヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムでの処理により、塩化物または臭化物から有機ヨウ素化合物を得た。Finkelsteinは、第一級ハロゲン化アルキルが最も反応性の高い化合物であり、第三級ハロゲン化アルキルは最も反応性が低いことを記した。さらに、1,2-ジハロゲン化物の処理により、エチレン性誘導体を生じることを確認した。Finkelstein置換に関するさらに他の情報は、1968年の非特許文献1を参照せよ。
【0007】
Saunierらに1976年8月17日に発行された特許文献1は、水の消毒または殺菌が、典型的には、次亜塩素酸ナトリウムを用いて行われるとの主張を教示している。Saunierらは、困難なこととして、塩素がクロロアミンの形状で結び付いているために、塩素処理だけでは、しばしば効果がないことを記した。Saunierらは、上水道の処理には、臭素および/またはヨウ素が有用であり得ることを示唆している。
【0008】
Rossらは、1977年9月20日に発行された特許文献2において、溶液中の全ての残留塩素を記録する方法を述べている。Rossの方法は、試料流と、アルカリ金属イオンおよびヨウ化物イオンの解離錯体および過剰量のヨウ化物イオンを含有する試薬流とを混合することを記載している。この方法は、ヨウ化物イオンが、試料流中の全ての残留塩素と反応してヨウ素に転化されるように起こると述べている。次いで、このヨウ素の活性は、得られる流れにおいて、電位差滴定を用いて、測定される。
【0009】
Renseに1966年1月25日に発行された特許文献3には、種々の潤滑油成分の製造が述べられている。1965年11月2日に発行されたRenseの特許文献4では、類似の開示が見られる。Renseのこれらの特許は、一般に、長鎖炭化水素と無水マレイン酸またはマレイン酸との間の反応を行うために、塩素を使用する方法を述べている。
【0010】
さらに最近では、Meinhardtらに1980年11月18日に発行された特許文献5にて、有機置換無水マレイン酸の製造に関する開示が見られる。
【0011】
Docknerらの特許文献6は、有機ハロゲン化合物の還元脱ハロゲン化方法を記載している。この有機ハロゲン化合物は、炭素および鉄粉または鉄化合物の存在下にて、高温で、炭化水素と反応され、この反応には、ハロゲン化水素の形成が伴う。
【特許文献1】米国特許第3,975,271号明細書
【特許文献2】米国特許第4,049,382号明細書
【特許文献3】米国特許第3,231,587号明細書
【特許文献4】米国特許第3,215,707号明細書
【特許文献5】米国特許第4,234,435号明細書
【特許文献6】米国特許第4,943,671号明細書
【非特許文献1】The Merck Index An Encyclopediaof Chemicals and Drugs 1968年 8版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、種々の塩素含有有機化合物を処理して、その有機化合物の塩素レベルを低減する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、有機塩素化合物の塩素含量を低減する方法を提供し、該方法は、以下の工程を包含する:
炭素を含まないルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を、該有機塩素化合物に導入して、混合物を形成する工程;および
該混合物中にて、該有機塩素化合物の塩素含量を低減するのに充分な時間にわたって、該有機塩素化合物を該少なくとも1種の酸と接触させる工程。
【0014】
1実施態様では、前記酸は、炭素を含まない少なくとも1種のルイス酸である。
【0015】
本発明はまた、有機塩素化合物の塩素含量を低減する方法を提供し、該方法は、以下の工程を包含する:
該有機塩素化合物を、(a)炭素を含まないルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸および、(b)ヨウ素源または臭素源と接触させて、混合物を形成する工程;および
該混合物内にて、該有機塩素化合物の塩素含量を低減するのに充分な時間にわたって、該有機塩素化合物を反応させる工程。
【0016】
1実施態様では、前記方法は、約60℃〜約250℃の温度で行われる。
【0017】
他の実施態様では、前記方法では、前記塩素含量の低減中に、該混合物を通してまたは該混合物上に、不活性気体を吹き付ける。
【0018】
さらに他の実施態様では、前記混合物を通して吹き込む気体は、窒素および/または蒸気である。
【0019】
さらに他の実施態様では、前記有機塩素化合物は、塩素含有の有機重合体化合物である。
【0020】
さらに他の実施態様では、前記有機塩素化合物は、少なくとも1種のルイス酸および元素ヨウ素と接触される。
【0021】
さらに他の実施態様では、前記塩素は、気体状態または液体状態で除去される。
【0022】
本発明はまた、塩素の存在下で調製したポリイソブチレンおよび無水マレイン酸の反応生成物の塩素含量を低減する方法を提供し、該反応生成物は塩素を含有し、該方法は、以下の(A)および(B)の工程を包含する:
(A)塩素を含有する該反応生成物を、1種またはそれ以上の異なる塩素化合物を形成するのに充分な時間にわたって、炭素を含まない少なくとも1種のルイス酸、または少なくとも1種のルイス酸とヨウ素源または臭素源との混合物と接触させる工程;および
(B)該反応生成物から、該異なる塩素化合物を分離する工程。
【0023】
本発明はまた、塩素の存在下でポリイソブチレンおよび無水マレイン酸から調製したポリイソブテニル無水コハク酸を含有する反応生成物の塩素含量を低減する方法を提供し、該方法は、以下の(A)および(B)の工程を包含する:
(A)塩素を含有する該反応生成物を、1種またはそれ以上の異なる塩素化合物を形成するのに充分な時間にわたって、少なくとも1種のルイス酸、およびヨウ素源または臭素源と接触させる工程であって、ここで、該ヨウ素源または臭素源の少なくとも一部は、有機塩素化合物の塩素含量を低減する他の方法の流出物から得られ、ここで、該有機塩素化合物は、ヨウ素源または臭素源またはそれらの混合物で処理されている;および
(B)該反応生成物から、工程(A)で形成した該異なる塩素化合物の少なくとも1種を分離する工程。
【0024】
1実施態様では、前記ポリイソブチレンは、約300〜約10,000のMnを有する。
【0025】
他の実施態様では、前記反応生成物は、ポリイソブチレンから誘導した基の各当量あたり、少なくとも約1.3個のコハク酸基を含有する。
【0026】
さらに他の実施態様では、前記ポリイソブチレンは、約1300〜約5000のMnおよび約1.5〜約4.0のMw/Mnを有し、そして前記ポリイソブテニル無水コハク酸は、ポリイソブテニル基1当量あたり、少なくとも約1.3個のコハク酸基を含有する。
【0027】
さらに他の実施態様では、前記反応生成物の塩素含量は、少なくとも50重量%の割合で低減される。
【0028】
さらに他の実施態様では、前記反応生成物は、少なくとも1種のルイス酸、元素ヨウ素、および他の塩素含有化合物の塩素含量を低減する他の方法に由来の流出物と接触される。
【0029】
さらに他の実施態様では、前記反応生成物は、少なくとも1種のルイス酸、および他の塩素含有化合物の塩素含量を低減する他の方法に由来の流出物と接触される。
【0030】
さらに他の実施態様では、前記方法では、前記反応生成物に、工程(A)での前記接触前に、約150℃〜約250℃の温度で少なくとも約2時間にわたって、不活性気体が吹き込まれる。
【0031】
本発明はまた、前記方法の生成物を提供する。
【0032】
本発明はまた、前記方法の生成物と、少なくとも1種のポリアミンまたはポリオール、または少なくとも1種のポリアミンおよび少なくとも1種のポリオールの混合物とを反応させることにより調製した、潤滑油組成物用の分散剤を提供する。
【0033】
本発明はまた、主要量の潤滑粘性のあるオイル、および少量の前記方法の生成物を含有する潤滑油組成物を提供する。
よって、本発明によって以下が提供される:
(1) 有機塩素化合物の塩素含量を低減する方法であって、
炭素を含まないルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を、該有機塩素化合物に導入して、混合物を形成する工程;および
該混合物中にて、該有機塩素化合物の塩素含量を低減するのに充分な時間にわたって、該有機塩素化合物を該少なくとも1種の酸と接触させる工程、
を包含する、方法。
(2) 前記酸が、炭素を含まない少なくとも1種のルイス酸である、項目1に記載の方法。
(3) 有機塩素化合物の塩素含量を低減する方法であって、
該有機塩素化合物を、(a)炭素を含まないルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸および、(b)ヨウ素源または臭素源と接触させて、混合物を形成する工程;および
該混合物内にて、該有機塩素化合物の塩素含量を低減するのに充分な時間にわたって、該有機塩素化合物を反応させる工程、
包含する、方法。
(4) 約60℃〜約250℃の温度で行われる、項目1または3に記載の方法。
(5) 前記塩素含量の低減中に、該混合物を通してまたは該混合物上に、不活性気体を吹き付ける、項目1または3に記載の方法。
(6) 前記混合物を通して吹き込む気体が、窒素および/または蒸気である、項目5に記載の方法。
(7) 前記有機塩素化合物が、塩素含有の有機重合体化合物である、項目1または3に記載の方法。
(8) 前記有機塩素化合物が、少なくとも1種のルイス酸および元素ヨウ素と接触される、項目3に記載の方法。
(9) 前記塩素が、気体状態または液体状態で除去される、項目1または3に記載の方法。
(10) 塩素の存在下で調製した、ポリイソブチレンおよび無水マレイン酸の反応生成物の塩素含量を低減する方法であって、該反応生成物は塩素を含有し、該方法は、以下の(A)および(B)の工程を包含する:
(A)塩素を含有する該反応生成物を、1種またはそれ以上の異なる塩素化合物を形成するのに充分な時間にわたって、炭素を含まない少なくとも1種のルイス酸、または少なくとも1種のルイス酸とヨウ素源または臭素源との混合物と接触させる工程;および
(B)該反応生成物から、該異なる塩素化合物を分離する工程。
(11) 塩素の存在下にてポリイソブチレンおよび無水マレイン酸から調製したポリイソブテニル無水コハク酸を含有する反応生成物の塩素含量を低減する方法であって、該方法は、以下の(A)および(B)の工程を包含する:
(A)塩素を含有する該反応生成物を、1種またはそれ以上の異なる塩素化合物を形成するのに充分な時間にわたって、少なくとも1種のルイス酸、およびヨウ素源または臭素源と接触させる工程であって、ここで、該ヨウ素源または臭素源の少なくとも一部は、有機塩素化合物の塩素含量を低減する他の方法の流出物から得られ、ここで、該有機塩素化合物は、ヨウ素源または臭素源またはそれらの混合物で処理されている;および
(B)該反応生成物から、工程(A)で形成した該異なる塩素化合物の少なくとも1種を分離する工程。
(12) 前記ポリイソブチレンが、約300〜約10,000のMnを有する、項目10または11に記載の方法。
(13) 前記反応生成物が、ポリイソブチレンから誘導した基の各当量あたり、少なくとも約1.3個のコハク酸基を含有する、項目10または11に記載の方法。
(14) 前記ポリイソブチレンが、約1300〜約5000のMnおよび約1.5〜約4.0のMw/Mnを有し、そして前記ポリイソブテニル無水コハク酸が、ポリイソブテニル基1当量あたり、少なくとも約1.3個のコハク酸基を含有する、項目10または11に記載の方法。
(15) 前記反応生成物の塩素含量が、少なくとも50重量%の割合で低減される、項目10または11に記載の方法。
(16) 前記反応生成物が、少なくとも1種のルイス酸、元素ヨウ素、および他の塩素含有化合物の塩素含量を低減する他の方法に由来の流出物と接触される、項目10または11に記載の方法。
(17) 前記反応生成物が、少なくとも1種のルイス酸、および他の塩素含有化合物の塩素含量を低減する他の方法に由来の流出物と接触される、項目10または11に記載の方法。
(18) 前記反応生成物に、工程(A)での前記接触前に、約150℃〜約250℃の温度で少なくとも約2時間にわたって、不活性気体が吹き込まれる、項目10または11に記載の方法。
(19) 項目1に記載の方法の生成物。
(20) 項目3に記載の方法の生成物。
(21) 項目10に記載の方法の生成物。
(22) 項目11に記載の方法の生成物。
(23) 項目21に記載の生成物と、少なくとも1種のポリアミンまたはポリオール、または少なくとも1種のポリアミンおよび少なくとも1種のポリオールの混合物とを反応させることにより調製した、潤滑油組成物用の分散剤。
(24) 項目22に記載の生成物と、少なくとも1種のポリアミンまたはポリオール、または少なくとも1種のポリアミンおよび少なくとも1種のポリオールの混合物とを反応させることにより調製した、潤滑油組成物用の分散剤。
(25) 主要量の潤滑粘性のあるオイル、および少量の項目23に記載の生成物を含有する潤滑油組成物。
(26) 主要量の潤滑粘性のあるオイル、および少量の項目24に記載の生成物を含有する潤滑油組成物。
(発明の効果)
本発明は、有機塩素含有化合物を処理して、その塩素含量を許容できる程に低いレベルまで下げることができる。本発明は、所望の組成物が少量の有機塩素だけを含有し、全体の生成物の本質的な特性は変化しないように、改良し得る。本発明は、より低い塩素レベルの潤滑組成物を調製する際に、特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
用語「ヒドロカルビル」とは、炭化水素基、および実質的な炭化水素基を包含する。実質的な炭化水素とは、主として基の炭化水素的性質を変えない非炭化水素置換基を含有する基を示す。
【0035】
ヒドロカルビル基の例には、以下が包含される:
(1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族置換基(例えば、アルキル、アルケニルまたはアルキニル)、脂環族置換基(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)、芳香族置換された芳香族置換基、脂肪族置換された芳香族置換基および脂環族置換された芳香族置換基など、ならびに環状置換基。ここで、この環は、分子の他の部分により、完成されている(すなわち、例えば、いずれか2個の指示した置換基は、一緒になって、脂環族基を形成し得る);
(2)置換された炭化水素置換基、すなわち、非炭化水素基を含有する置換基。この非炭化水素基は、本発明の文脈では、主として、炭化水素的な置換基を変化させない;このような基(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、ケト、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシなど)は、当業者に知られている;
(3)ヘテロ置換基、すなわち、本発明の文脈内では、主として炭化水素的性質を有しながら、環または鎖の中に存在する炭素以外の原子を有するが、その他は炭素原子で構成されている基である。適切なヘテロ原子は当業者に明らかであり、例えば、イオウ、酸素、窒素を包含する。このような置換基には、例えば、ピリジル、フリル、チエニル、イミダゾリルなどがある。一般に、このヒドロカルビル基では、各10個の炭素原子に対し、約2個以下の非炭化水素置換基、好ましくは、1個以下の非炭化水素置換基が存在する。しばしば、このヒドロカルビル基には、このような非炭化水素置換基は存在せず、このヒドロカルビル基は、純粋に、炭化水素基である。
【0036】
本明細書における測定値は、概算値であることが理解される。従って、本明細書および請求の範囲でのこのような測定値の前に、用語「約」が挿入され得る。本発明をさらに詳しく記載するために、範囲および比は組み合わせてもよい。他に指示がなければ、本明細書で示した温度は摂氏であり、部およびパーセントは重量基準であり、そして圧力はKPaゲージである。塩素に対して臭素またはヨウ素が表現される場合、その比は、例えば、Clに対するIの当量基準である。
【0037】
少なくともある程度の塩素は、有機化合物(この後では、有機塩素化合物または塩素含有有機化合物と呼ぶ)に化学的に混合されており、他の塩素は、溶解塩または懸濁塩として存在し得ることが理解される。本明細書で使用する臭素またはヨウ素は、元素ヨウ素、ヨウ化水素、元素臭素または臭化水素を発生し得るいずれかの形態である。
【0038】
本発明は、塩素化重合体の塩素含量を低くするために特に有用である。いずれの理論とも結び付けることなく、本発明は、塩素化化合物(例えば、ポリイソブチレンであって、この場合、塩素は、立体障害のある第二級炭素上またはネオ第一級炭素(第四級炭素に結合した第一級炭素)上に位置している可能性があるもの)を処理する際に有用である。ポリイソブチレンと呼ぶとき、「純粋な」炭化水素および塩素化ポリイソブチレンは交換可能に用いられ、その塩素化形態だけを意味するとき、塩化ポリイソブテニルとの用語が用いられることが理解される。同様に、ポリイソブテニル無水コハク酸と呼ぶとき、その「純粋な」無水物および塩化ポリイソブテニル無水コハク酸が含まれ、その塩素化形態だけを意図するとき、塩化ポリイソブテニル無水コハク酸との用語が用いられる。
【0039】
本発明は、先に述べたように、有機塩素化合物(または塩素含有化合物)を処理して、その塩素含量を低減する方法に関する。広範な種類の有機塩素化合物が、本発明の方法に従って、処理され得る。本明細書で記載されるような適切な使用条件下での簡単な実験により、当該技術者は、本発明を日常的に実施して、本発明の方法が特定の塩素含有化合物に適用できるかどうかを決定することができる。
【0040】
その塩素含量を低減するために本発明に従って処理され得る有機塩素化合物は、塩素含有の有機重合体化合物であり、そして塩素含有の有機重合体組成物を含有する混合物であり得る。1実施態様では、本発明に従って処理される有機塩素化合物は、ポリアルケン置換無水コハク酸および塩素(これは、遊離の塩素(例えば、Cl2またはHCl)および/または結合した塩素(例えば、塩化ポリアルケニル、塩素化ポリアルケニル無水コハク酸、塩素化無水コハク酸など)であり得る)を含有する混合物であり得る。好ましい1実施態様では、この有機塩素化合物は、ポリアルキレン無水コハク酸であり、特に、約20重量%までのポリイソブテンおよび少量の遊離の塩素および/または結合した塩素を含有するポリイソブテニル無水コハク酸混合物である。このポリアルキレン無水コハク酸は、しばしば、置換カルボン酸アシル化剤または置換コハク酸アシル化剤と呼ばれる。
【0041】
この置換コハク酸アシル化剤は、その構造内に、2個の基または部分が存在することにより、特徴づけられ得る。第一の基は、本明細書では、便宜上、「置換基」と呼び、ポリアルケンから誘導される。この置換基が誘導されるポリアルケンは、少なくとも約300のMn(数平均分子量)値により特徴づけられ得る。大ていの場合、このMn値は、少なくとも約900、好ましくは、少なくとも約1300から約5000までまたは10,000までである。他の実施態様では、このポリアルケンはまた、約1.3〜約4またはそれより高いMw/Mn値を有することで、特徴づけられ得る。
【0042】
このアシル化剤の第二の基または部分は、本明細書では、「コハク酸基」と呼ばれる。このコハク酸基は、アルコールと反応してエステルを形成し得るか、アンモニアまたはアミンと反応してイミド、アミドまたはアミン塩を形成し得るか、または反応性金属または塩基性反応性金属化合物と反応して金属塩を形成し得る基を含有するべきである。
【0043】
塩素含量を低減するために本発明に従って処理され得る好ましい塩素含有化合物は、ポリアルキレン無水コハク酸であり、特に、ポリイソブテニル無水コハク酸である。この好ましい化合物は、約1,300〜約5,000のMn値および約1.5〜約4のMw/Mn値を有する。このアシル化剤は、ポリアルキレン(ポリイソブチレン)から誘導した基の各当量あたり、二塩基性カルボン酸反応物に由来の基を少なくとも1.3個でその構造内に有することにより、さらに特徴づけられる。便宜上、本発明に従って処理され得る好ましい有機塩素化合物の開示は、MeinhardtおよびDavisに1980年11月18日に発行された米国特許第4,234,435号に見いだされる。米国特許第4,234,435号の全ての内容は、本明細書中で参考として援用されている。
【0044】
本発明の方法に従って処理され得る塩素含有カルボン酸アシル化剤には、周知の方法により調製される試薬が挙げられ、ここで、ポリアルケンは、不飽和ジカルボン酸またはその無水物(例えば、マレイン酸または無水マレイン酸)と反応される。コハク酸アシル化剤の1調製方法は、「2段階方法」と呼ぶのが便利であり、例えば、米国特許第3,219,666号に記載されている。この方法には、まず、各分子量のポリアルケンあたり、平均して、少なくとも約1個の塩素基が存在するまで、このポリアルケンを塩素化することが包含される。(本発明の目的上、このアルケンの分子量は、Mn値に相当する重量である)。塩素化は、塩素化ポリアルケンに所望量の塩素が取り込まれるまで、このポリアルケンを塩素ガスと単に接触させることを包含する。塩素化は、一般に、約75℃〜約125℃の温度で行われる。この塩素化方法で希釈剤を用いるなら、それは、それ自体、容易にはさらに塩素化されないものであるべきである。多価塩素化されたおよび過塩素化されたおよび/またはフッ素化されたアルキルベンゼンは、適切な希釈剤の例である。
【0045】
2段階塩素化方法の第2段階は、通常、約100℃〜約200℃の範囲内の温度で、塩素化ポリアルケンとマレイン酸反応物とを反応させることである。マレイン酸反応物に対する塩素化ポリアルケンのモル比は、通常、約1:1である。(この2段階塩素化生成物を製造する目的上、1モルの塩素化ポリアルケンは、塩素化されていないポリアルケンのMn値に相当する塩素化ポリアルケンの重量である)。しかしながら、化学量論的に過剰なマレイン酸反応物は用いられ得、例えば、1:2のモル比が用いられ得る。
【0046】
塩素化工程中で、ポリアルケン1分子あたり、平均して、約1個より多い塩素基が導入されるならば、塩素化ポリアルケン1モルあたり、1モルより多いマレイン酸反応物を反応し得る。このような状況のために、マレイン酸反応物に対する塩素化ポリアルケンの比は、当量で記載するほうが良い。(2段階塩素化生成物を調製するために、塩素化ポリアルケンの当量は、Mn値を、塩素化ポリアルケン1分子あたりの塩素基の平均数で割った値に相当する重量であり、これに対して、マレイン酸反応物の当量は、その分子量である)。従って、マレイン酸反応物に対する塩素化ポリアルケンの比は、過剰のマレイン酸反応物(例えば、約5重量%〜約25重量%過剰の量)を与えることが通常望ましいことを理解して、通常、各モルの塩素化ポリアルケンに対し、約1当量のマレイン酸反応物から、各当量の塩素化ポリアルケンに対し、約1当量のマレイン酸反応物までを提供する値である。未反応の過剰なマレイン酸反応物は、通常、真空下にて、反応生成物からストリッピングされ得るか、または以下で説明する方法のさらなる工程で、反応され得る。
【0047】
得られたポリアルケニル置換コハク酸アシル化剤は、所望数のコハク酸基が生成物中に存在していないならば、必要に応じて、再び塩素化される。これに続く塩素化の際に、第2段階に由来の過剰のマレイン酸反応物が存在するならば、この過剰量は、この引き続いたこの塩素化において、追加の塩素を導入するにつれて反応される。あるいは、別の塩素化工程中および/またはそれに続いて、追加のマレイン酸反応物が導入される。この技法は、置換基1当量あたりのコハク酸基の全数が所望レベルに達するまで、繰り返され得る。
【0048】
置換コハク酸アシル化剤を調製する他の方法は、米国特許第3,912,764号および英国特許第1,440,219号に記載の方法を利用し、両方の内容は、その方法に関する教示について、本明細書中で参考として援用されている。その方法に従えば、まず、ポリアルケンおよびマレイン酸反応物は、「直接アルキル化」方法において、それらを共に加熱することにより反応される。直接のアルキル化工程が完結すると、この反応混合物に塩素が導入され、残りの未反応マレイン酸反応物の反応が促進される。これらの特許に従って、この反応では、各モルのオレフィン性重合体(すなわち、ポリアルケン)に対し、0.3〜2モルまたはそれ以上の無水マレイン酸が用いられる。この直接のアルキル化工程は、180℃〜250℃の温度で行われる。塩素導入段階中は、160℃〜225℃の温度が使用される。ここで有用な置換コハク酸アシル化剤を調製するためにこの方法を利用する際には、ポリアルケンから誘導した基の各当量あたり、最終生成物に少なくとも1.3個のコハク酸基を導入するのに充分な量のマレイン酸反応物および塩素を用いる必要がある。
【0049】
コハク酸アシル化剤を調製するさらに他の方法は、Renseに1966年1月25日に発行された米国特許第3,231,587号に開示され、その内容は、本明細書中で参考として援用されいる。この方法は、「1段階」方法として知られ、オレフィン性重合体および無水マレイン酸の混合物を調製すること、および該混合物を、約140℃より高い温度で、無水マレイン酸の各モルあたり少なくとも約1モルの塩素と接触させることを包含する。上記方法の生成物は、先に示すように、炭化水素置換無水コハク酸であるが、この炭化水素基が、飽和基であるかまたはオレフィン性結合を有する基であるかは、まだ確認されていない。この生成物が形成される機構も、同様に、知られていない。しかしながら、この方法は、このオレフィン性重合体がまず塩素化され、塩素化重合体が、次いで、類似の反応条件下において、無水マレイン酸と反応される方法とは異なることが知られている。この2段階方法には、かなり長い反応時間が必要であり、その結果、色がずっと濃い生成物が得られる。また、このオレフィン性重合体がまず塩素化されるなら、その塩素化温度は、120℃を越えないようにするべきである。より高い温度は、脱塩素化を引き起こし、それゆえ、ほとんどまたは全く塩素を有しない生成物が得られることが知られている。
【0050】
この方法を行うためには、オレフィン性重合体を無水マレイン酸と完全に混合した後、その反応領域に塩素を導入するのが好ましい。無水マレイン酸の導入前に、オレフィン性重合体に塩素を接触させるならば、この重合体の塩素化が起こり、有利な結果は得られない。塩素の導入割合は、重要ではない。通常、用いる塩素を最大限に利用するために、この割合は、この反応における塩素の消費割合とほぼ同じであるべきである。
【0051】
上記方法の反応が適度の割合で起こる最低温度は、約110℃である。従って、この方法を行うべき最低温度は、140℃付近である。好ましい温度は、通常、約160℃と約220℃の間の範囲である。より高い温度(例えば、250℃またはそれより高い温度)は、用いられ得るが、通常、ほとんど有利な点はない。使用可能な温度の上限は、主として、反応混合物中の成分の分解点により、決定される。
【0052】
本明細書で記載の方法に含まれる反応の化学量論では、およそ等モル量の無水マレイン酸および塩素の使用を必要とする。しかし、実用性を考慮すると、僅かに過剰量、通常、20〜30%程度で過剰な塩素が、この反応混合物からの気体状反応物の偶然の損失を補うために好ましい。さらに多くの量の塩素を使用してもよいが、著しい利点が生じるとは思われない。
【0053】
オレフィン性重合体および無水マレイン酸の相対量は、生成物中で望ましい無水コハク酸の割合に従って、変わる。従って、使用する重合体の各モルに対し、各重合体分子に、1個またはそれ以上の無水コハク酸基が導入されるかどうかに依存して、1モルまたはそれ以上の無水マレイン酸が用いられ得る。一般に、重合体の分子量が高くなるほど、使用できる無水マレイン酸の割合が大きくなる。他方、過剰モルの重合体反応物を用いるとき、この過剰の重合体は、悪影響を及ぼすことなく、この生成物中に希釈剤として単に残留する。
【0054】
先に示したように、本発明の方法は、オレフィン性重合体から誘導した炭化水素置換無水コハク酸の処理に適用できる。このオレフィン性重合体には、主として、低級モノオレフィン(すなわち、エチレン、プロペン、イソブテン、およびn-ブテン)の単独重合体および共重合体が挙げられる。上述の低級モノオレフィンと、共重合可能な高級モノオレフィンまたはジオレフィン(例えば、ヘキセン、シクロヘキセン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなど)との共重合体は、同様に、本明細書での使用が考慮されるが、但し、この低級モノオレフィン単位は、この重合体の少なくとも90〜95重量%を構成する。この共重合体は、イソブテン99%およびブタジエン1%の共重合体、イソブテン95%およびスチレン5%の共重合体、プロペン98%およびピペリレン2%の共重合体、イソブテン98%、ピペリレン1%およびプロペン1%の三元共重合体などにより、例示され得る。大ていの場合には、イソブテンの重合体が好ましい。それが容易に入手できるうえに、そこから得られる生成物が特に有用であるからである。本明細書での使用が考慮される重合体の分子量は、例えば、約100〜約50,000またはそれ以上の広範な範囲内で、変えられ得る。
【0055】
1実施態様では、有機塩素化合物の塩素含量は、この有機塩素化合物の塩素含量を低減するのに充分な時間にわたって、この有機塩素化合物を、ルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸と接触させることにより、本発明の方法に従って、低減される。
【0056】
他の実施態様では、有機塩素化合物の塩素含量は、この有機塩素化合物の塩素含量を低減するのに充分な時間にわたって、この有機塩素化合物を、元素炭素が存在しない状態で、少なくとも1種のルイス酸と接触させることにより、本発明の方法に従って、低減される。
【0057】
本発明の方法では、広範な種類のルイス酸が有用である。亜鉛、マグネシウム、カルシウム、鉄、銅、ホウ素、アルミニウム、スズおよびチタンの種々の化合物は、有用なルイス酸である。本発明の方法でルイス酸として有用な亜鉛化合物の例には、酢酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、酸化亜鉛および硫化亜鉛が包含される。鉄化合物の例には、酢酸第一鉄、酢酸第二鉄、臭化第一鉄、臭化第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、ヨウ化第一鉄およびヨウ化第二鉄が包含される。マグネウム化合物の例には、ヨウ化マグネシウムおよび硫酸マグネシウムが挙げられる。ヨウ化カルシウムおよび硫酸カルシウムのようなカルシウム化合物は、有用である。銅化合物の例には、酸化第一銅、塩化第一銅、酢酸第二銅、臭化第二銅、塩化第二銅、ヨウ化第二銅、酸化第二銅、硫酸第二銅および硫化第二銅が包含される。ホウ素化合物の例には、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリイソプロピルボレートおよびトリブチルボレートが包含される。アルミニウム化合物の例には、トリアルキルアルミニウム化合物(例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムおよびトリイソブチルアルミニウム);アルミニウムアルコキシド(例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム第二級ブトキシドおよびアルミニウム第三級ブトキシド);アルミニウムハロゲン化物(例えば、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウムおよび臭化アルミニウム);および酸化アルミニウムが包含される。スズ化合物の例には、第一スズ形態および第二スズ形態の酢酸スズ、臭化スズ、塩化スズ、ヨウ化スズおよび硫酸スズが包含される。チタン化合物の例には、塩化チタン(IV)、チタニウム(IV)イソプロポキシド、チタニウム(IV)イソブトキシドおよびチタニウム(IV)エトキシド、および酸化チタンが包含される。上記ルイス酸のいずれも、本発明方法の条件下で、他のルイス酸に転化され得る。例えば、酸化亜鉛は、有機塩素化合物中に存在する塩素または塩化水素との反応により、塩化亜鉛に転化され得、または酸化亜鉛は、反応混合物に添加したヨウ素源との反応により、ヨウ化亜鉛に転化され得る。ルイス酸はまた、反応混合物に、金属(例えば、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛など)を添加することにより、その場で形成され得る。使用され得るルイス酸の他の例には、エチルエチレンテトラカルボキシレートおよびテトラシアノエチレンが挙げられる。
【0058】
本発明で使用され得る、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸には、強鉱酸(例えば、硫酸、硝酸、リン酸、ピロリン酸、次亜ヨウ素酸など)が挙げられる。この酸はまた、強有機酸(例えば、pKaが約2未満の有機酸)であり得る。このような酸の例には、脂肪族および芳香族スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、種々のp-アルキルベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、およびナフタレンスルホン酸);カルボン酸(例えば、シクロプロパン-1,1-ジカルボン酸、ニトロ酢酸、ジクロロ酢酸、マレイン酸、シュウ酸、ピクリン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トリヒドロキシ安息香酸);フェノール性化合物(例えば、トリニトロフェノール);およびホスホン酸(例えば、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸およびトリフルオロメチルホスホン酸)が包含される。
【0059】
上記酸のいずれかの混合物は、本発明の方法で使用できる。例えば、ルイス酸の混合物、ルイス酸と鉱酸の混合物、およびルイス酸と有機酸の混合物は、本発明の方法で使用され得る。1実施態様では、亜鉛塩および鉄塩の混合物が有用であることが分かっている。本発明の方法で酸の混合物を使用するとき、これらの酸は、混合物として添加されるか、または有機塩素化合物に、いずれかの順序で逐次的に、添加され得る。
【0060】
有機塩素化合物に導入される少なくとも1種の酸の量は、広範囲に変えられ得、そして一般に、この酸の量は、当量基準で、この有機塩素化合物中の化学的に結合した(共有結合した)塩素1当量あたり、約1×10-5〜約5当量の範囲であるのが好都合である。多くの場合、この比は、この有機塩素化合物中の化学的に結合した塩素1当量あたり、約1×10-3〜約2当量の範囲である。他の実施態様では、この酸の量は、この有機塩素化合物の重量を基準にして、約0.0001重量%〜約5重量%の範囲であり得る。多くの場合、この酸は、この有機塩素化合物の重量を基準にして、約0.001重量%〜約2.5重量%の範囲で存在する。
【0061】
本発明の他の実施態様では、有機塩素化合物は、この有機塩素化合物の塩素含量を低減するのに充分な時間にわたって、(a)ルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸、および(b)ヨウ素源または臭素源と接触される。好ましい1実施態様では、この有機塩素化合物は、この有機塩素化合物の塩素含量を低減するために、少なくとも1種のルイス酸およびヨウ素源または臭素源と接触される。
【0062】
本発明の方法で使用するヨウ素源または臭素源は、これらの物質の元素形態であり得、好ましくは、ヨウ素である。ヨウ素源または臭素源のさらに他の原料には、それぞれ、ヨウ化水素または臭化水素;I3-、I-、I2Cl-、ICl、I+またはIO-のような物質;または有機ヨウ化物(好ましくは、ヨウ化アルキル)、例えば、ヨウ化t-ブチル;またはヨウ化物塩が挙げられる。臭素源には、臭素、およびこれらのヨウ化物源と類似の臭素物質が挙げられる。大ていの場合には、除去しなければならない塩、または非官能性残留物として生成物中に典型的に残留している塩の使用を避けるのが好ましい。塩を使用する場合、それは、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩またはマグネシウム塩であるのが好ましい。
【0063】
独特なことに、ヨウ素源または臭素源の使用により塩素が遊離するが、ヨウ素または臭素は、この有機塩素化合物に殆ど取り込まれない。有機塩素化合物との用語は出発化合物を意味し、適切な文脈では、本発明に従って処理される化合物を意味することをここに記しておく。
【0064】
出発物質の塩素含量は、処理した有機塩素化合物において、本発明によりかなり低いレベルまでの所望の塩素レベルの低減が得られるならので、あらゆるレベルでもよい。この処理した有機塩素化合物の塩素含量は、好都合には、10重量%より少ない量、好ましくは、5重量%より少ない量、さらに好ましくは、0.001重量%〜1.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%より少ない量まで低減される。例えば、ポリイソブチレンおよびポリイソブチレン無水コハク酸の初期混合物の塩素含量が、0.05〜2重量%の場合、(本発明に従って処理して)得られる混合物の塩素含量は、0.001〜0.3重量%であり得る。典型的には、この有機塩素化合物に取り込まれるヨウ素または臭素の量は、この有機塩素生成物から除去した塩素の量の40重量%未満の量、さらに好ましくは、1重量%未満の量から20重量%までである。
【0065】
ヨウ素源または臭素源を変えることは、このヨウ素源または臭素源が、脱塩素化工程中で他の形態に転化され得るので、本発明では特に重要ではないことを記しておく。従って、ヨウ素源または臭素源は、1種またはそれ以上のヨウ素、臭素、ヨウ化水素または臭化水素を発生させる物質である。
【0066】
上記の酸化合物と組み合わせて使用されるヨウ素源または臭素源の量は、一般に、1個またはそれ以上の条件により、決定される。典型的には、ヨウ素源または臭素源の使用レベルが高くなるほど、この工程がより速くかつ効率的に進行して、この有機塩素化合物の塩素含量が低くなる。この工程は、触媒的に作用する工程であると思われ、すなわち、ヨウ素または臭素は、典型的には、この有機塩素化合物に実質的に取り込まれない。従って、ヨウ素源または臭素源の量は、先に記載される酸の少なくとも1種と併用するとき、有機塩素含有化合物を処理するのに充分な時間が適用可能という条件で、かなり低いレベルまで少なくしても良い。
【0067】
その反応時間は、一般には、有機塩素化合物の所望の脱塩素化を達成するのに要するいずれの時間でもある。所望生成物が反応条件により分解されないならば、反応は、機械的な(撹拌)エネルギーおよび熱エネルギーを適用することにより、促進され得る。
【0068】
典型的には、有機塩素化合物を取り扱うとき、ヨウ素源または臭素源の量は、(ヨウ素または臭素としての当量を基準にして)、好都合には、この有機塩素化合物中の塩素の1当量あたり、約1×10-5〜10当量である。さらに典型的には、存在するヨウ素源または臭素源の当量は、結合した塩素1当量あたり、1×10-3〜5当量である。本発明の方法で、酸およびヨウ素源または臭素源を用いるとき、両者の相対的な量は、変わり得る。一般に、ヨウ素源または臭素源の量は、本発明の方法で用いる酸の量よりも多い。少なくとも1種の酸およびヨウ素源または臭素源の添加順序は、これらの物質が混合できる限り、重要ではない。
【0069】
上記の少なくとも1種の酸およびヨウ素源または臭素源と接触させることにより、有機塩素化合物の塩素含量を低減する方法は、典型的には、−50℃と300℃の間、好ましくは、15℃〜250℃で行われる。最も好ましくは、この方法は、100℃〜250℃で行われる。
【0070】
他の実施態様では、反応で使用するヨウ素源または臭素源は、同じ方法または異なる方法に由来の流出物であり得る。この流出物は、気体または液体であり得るが、好ましくは、気体である。例えば、有機塩素化合物およびヨウ素源または臭素源の反応混合物から流出物が除去されるとき、この流出物は、この有機塩素化合物から遊離した塩素の少なくとも一部、およびこの反応混合物に最初に加えた未反応の臭素源またはヨウ素源、および反応中に形成された臭素化合物またはヨウ素化合物(例えば、ヨウ化水素および臭化水素)を含有し得る。遊離した塩素化合物および種々のヨウ素源および臭素源を含有する流出物は、気体(例えば、窒素)を吹き込むことにより、反応混合物を高温で維持することにより、蒸留により、加熱および/または真空を使用してストリッピングすること等により、反応混合物から除去され得る。
【0071】
このように得た流出物は、好都合には、本発明の方法に従って、有機塩素化合物を処理するために、同じ容器または異なる容器に再循環され得る。本実施態様では、第一の方法から回収される流出物は、第二の方法に再循環するために流出物を第二の有機塩素化合物と接触させる前に処理され、この流出物中に含まれ得る1種またはそれ以上の異なる塩素化合物が除去され得る。例えば、この第一の方法に由来の流出物は、第二の有機塩素化合物と接触される前に、その塩素含量を低減するために処理され得る。流出物から除去され得る塩素化合物には、塩化水素、低分子量塩化アルキル、塩素化低級オレフィンなどが挙げられる。流出物の塩素含量は、例えば、この流出物を苛性で処理することにより、および/またはこの流出物を、その中に含まれる1種またはそれ以上の塩素化合物を液化するのに充分な温度まで冷却し、その後、この液化した塩素化合物を除去することにより、低減され得る。
【0072】
他の実施態様では、流出物が第二の方法で用いられる前に、この流出物を酸化剤で処理して、流出物中のいずれのHIまたはHBrが元素ヨウ素または元素臭素に転化され得る。例えば、流出物中に存在するHIは、水または空気の存在下および遷移金属(例えば、銅)の存在下で、この流出物を過酸化物と接触させることにより、元素ヨウ素に転化され得る。
【0073】
従って、本発明の1実施態様では、有機塩素化合物、および必要に応じて、少なくとも1種の上記の酸を含有する最初の反応容器は、ヨウ素源または臭素源で処理されて、この有機塩素化合物の塩素含量が低減される。この処理中または処理後において、上記のいずれかの方法により、反応混合物から流出物が除去され、流出物は、有機塩素化合物をさらに処理するために、同じ容器に再循環されるか、または別の有機塩素化合物および少なくとも1種の上記の酸を含有する第二の反応容器に再循環されて、第二の反応容器に含有されている有機塩素化合物の塩素含量が低減され得る。この方法では、新鮮なヨウ素源または臭素源の必要性は、最小限とされるかまたは省かれる。
【0074】
本発明の1実施態様では、ある反応混合物に由来のヨウ素源または臭素源の流出物は、同じ反応容器に再循環されるよりもむしろ、第二の反応容器に再循環される。本実施態様では、第二の容器に導入されるヨウ素源または臭素源は、同じ有機塩素化合物または異なる有機塩素化合物が関与し得る他の反応に由来の流出物であり得、そして上記タイプの少なくとも1種の酸を含有し得るかまたは含有しない。従って、第二の有機塩素化合物の塩素含量を低減する本発明の方法は、以下の工程を包含する:
(A)この第二の有機塩素化合物を、(a)ルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸、および(b)ヨウ素源または臭素源またはそれらの混合物と接触させて、1種またはそれ以上の異なる塩素化合物を形成する工程であって、ここで、このヨウ素源または臭素源の少なくとも一部は、第一の有機塩素化合物の塩素含量を低くするための第一の方法の流出物から得られ、ここで、この第一の有機塩素化合物は、(上記の酸と共にまたはこの酸なしで)、ヨウ素源または臭素源またはそれらの混合物と接触される;および
(B)この第二の有機塩素化合物から、工程(A)で形成した少なくとも1種の異なる塩素化合物を分離する工程。
【0075】
一般に、この方法で形成した1種またはそれ以上の異なる塩素化合物は、有機塩素化合物よりも揮発性が高く、このことにより、この方法で形成した異なる塩素化合物の有機塩素化合物からの分離が促進される。第一の方法の流出物が、第二の有機塩素化合物を処理するためのヨウ素源または臭素源として使用されるとき、この第一の有機塩素化合物は、好ましくは、元素ヨウ素または元素臭素またはそれらの混合物で処理される。この第一の方法の流出物に含まれる異なる塩素化合物は、この流出物が第二の方法で用いられる前に、除去され得る。
【0076】
上で述べたように、第一の方法で処理される有機塩素化合物は、第二の方法において第一の方法の流出物で処理される有機塩素化合物と同じでも異なっていてもよい。ある場合には、第一の方法で用いる有機塩素化合物と異なる有機塩素化合物を第二の方法で使用するのが有利であり得る。例えば、塩素を含有するポリイソブテニル無水コハク酸化合物は、本発明の方法に従って、最初のヨウ素源または臭素源で処理され得、そして第一の方法から得た流出物は、次いで、例えば、塩化ポリイソブテニルの塩素含量を低くするのに使用され得る。異なる有機塩素化合物について反応を行うことは、この流出物中のヨウ素または臭素または他の副生成物のタイプおよび/または量に対するこの有機塩素化合物の感受性に依存して、有利であり得る。例えば、第二の有機塩素化合物が、流出物に含まれているヨウ素または臭素の形成に対して、第一の有機塩素化合物よりも感受性が高いならば、第二の有機塩素化合物を処理するために第一の方法の流出物を使用することは、この流出物を最初の有機塩素反応器に戻すことよりも、効果的であり得る。
【0077】
塩素含量を低減する反応は、適切には、溶媒のない条件下、または添加した溶媒を使用しない条件下にて、行われ得る。溶媒を用いる場合、炭化水素溶媒(例えば、炭化水素油、鉱油、水素化ポリアルファオレフィン、ポリイソブチレン、トルエンまたはキシレン)が、通常、使用される。本発明の好ましい局面では、ポリイソブテニル無水コハク酸がヨウ素源または臭素源で処理される場合は、しばしば、このアシル化反応に由来の未反応ポリイソブチレンが存在する。それゆえ、好ましい局面では、先に述べたアシル化反応では、未反応のポリイソブチレンを除去する必要はない。この溶媒は、酸素部分(例えば、アルデヒドまたはケトン)、特にアセトン(これは、揮発性で可燃性であり、反応混合物から除去しなければならない)を含有するものではないのが好ましい。この溶媒は、いずれの有用な量でも使用され得、例えば、有機塩素に対する重量比は、0.01〜250:1であり、好都合には、0.05:1〜25:1である。溶媒との用語は、少量にて、粘度を低減して処理を容易にするのに充分な物質を包含するように、ここで自由に用いられる。
【0078】
有機塩素化合物から塩素を除去するのに必要な時間は、好都合には、1時間〜96時間であり、しばしば、24時間未満である。塩素は、ヨウ素または臭素またはある形態のヨウ素または臭素(例えば、HIまたはHBr)により、有機塩素化合物から除去され、そして1種またはそれ以上の異なる塩素化合物またはオレフィンが形成されると考えられる。例えば、この異なる化合物は、以下の物質の1種またはそれ以上であり得る:HCl、有機塩化物(例えば、塩化アルキルまたは塩化アルキレン)、イソブチレンなど。一般に、これらの異なる化合物は、それらが誘導される有機塩素化合物よりも揮発性が高く、そしてこれらの揮発性の高い化合物は、反応中に揮発して、反応混合物が残留し得る。
【0079】
この異なる塩素化合物の除去は、この混合物を加熱することにより、真空を適用することにより、または混合物中にまたは混合物上に気体を流すことにより、行われ得る。従って、1実施態様では、脱塩素化方法は、この有機塩素化合物および(a)ルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸、および必要に応じて(b)ヨウ素源または臭素源の混合物に、不活性気体を吹き込むことにより、促進される。この方法を促進するために使用される気体は、この方法で実質的に不活性のいずれかの気体(例えば、窒素、二酸化炭素、または蒸気)、または真に不活性の気体(例えば、アルゴンまたはネオン)であり得る。気体の混合物(例えば、過熱した蒸気および窒素の混合物)もまた、有用である。1実施態様では、この気体は、水素ではない。
【0080】
本発明の好ましい1実施態様では、気体は、ヨウ素源または臭素源が有機塩素化合物に完全に混合されるまで、有機塩素化合物、酸およびヨウ素源または臭素源の混合物に泡立たせない。臭素源またはヨウ素源が有機塩素化合物に完全に混合されないならば、気体は、ヨウ素源または臭素源が有効になる前にヨウ素源または臭素源を除去し、全体的な塩素の低減は、予想よりも低くなる。従って、1実施態様では、有機塩素化合物は、反応器中で高温(例えば、100〜150℃)まで加熱され、酸およびヨウ素源または臭素源がこの反応器に加えられ、例えば、閉鎖条件下にて15分間〜2時間またはそれ以上撹拌することにより、この有機塩素化合物と混合される。この時点では、温度を約200〜220℃まで上げつつ、反応フラスコにて、気体(好ましくは、窒素)を混合物に泡立たせる。この気体の泡立ち(好ましくは、激しい泡立ち)は、この温度で、2時間または6時間から24時間までまたはそれ以上の期間にわたって、続けられる。揮発性の塩素生成物が形成され、そして気体と共に反応容器から除去される。
【0081】
気体は、有機塩素化合物およびヨウ素源または臭素源の混合物に泡立たせなくてもよいこともまた、認められている。反応中に形成される塩素化合物は、この気体を、撹拌し加熱した混合物に激しく通すことにより、除去され得る。好ましい1実施態様では、気体は、反応混合物のスリップ流れまたは側流(これは、保持タンクに送られるか、または反応容器に再循環され得る)に激しく泡立たせてもよい。スリップ流れまたは再循環流れにおける、この気体と少量の反応混合物との接触により、塩素化合物がさらに迅速かつ効果的に反応混合物から除去される。本発明の別法では、気体は、この反応容器の再循環系上のポンプの排出物に注入される。系内の乱流による混合の改良と、系内の狭い空間における気体の高い有効濃度との組合せにより、ハロゲンおよびハロゲン化物の除去効率がかなり改良される。
【0082】
本発明で使用され得るさらに他の特徴は、プロトン源の存在である。プロトン供与体(例えば、塩化水素)は、脱塩素化反応を促進し得るか、または少なくとも反応に害を与えないと考えられている。いずれにしても、プロトン(これは、その場で発生し得る)が存在すると、この有機塩素化合物に由来の塩素の除去が促進され得る。塩素を除去するための1つの可能な機構は、有機塩素化合物中の塩素が対応する塩化水素(これは、気体状態で好都合に除去され得る)に転化されることである。
【実施例】
【0083】
以下の実施例は、ポリアルケニル無水コハク酸を含有する塩素含有化合物の調製を例示し、この塩素含有化合物は、本発明の方法に従って処理され得、その塩素含量が低減され得る。
【0084】
実施例A
ポリイソブテン(Mn=2000;Mw=6400)1,000部(0.495モル)および無水マレイン酸106部(1.08モル)の混合物を形成し、これを110℃まで加熱することにより、自動車オイルで分散剤用の前駆体として有用な物質を製造する。次いで、この混合物を138℃まで加熱し、さらに6時間にわたって190℃まで加熱する。この間、気体状塩素60部(0.85モル)を表面下に加える。
【0085】
184℃〜189℃で4時間にわたって、追加の塩素30部(0.42モル)を加える。反応混合物を、窒素を吹き込みつつ186℃〜190℃で3時間加熱することにより、ストリッピングする。残留物は、93の全酸価を有する、所望のポリイソブテン置換コハク酸アシル化剤である。分析により、上で同定した生成物の塩素含量は約0.72%である。
【0086】
実施例B
Renseの特許(米国特許第3,231,587号)に従って、反応生成物が、ポリイソブテニル無水コハク酸のポリイソブテニル前駆体から誘導した基の各当量あたり、1個の無水物基を含有するように、ポリイソブテニル無水コハク酸生成物を調製する。分析により、上で同定した出発生成物の塩素含量は約0.310%である。
【0087】
実施例C
塩素90部の存在下で、ポリイソブテン1000部を無水マレイン酸103部と反応させること以外は、実施例Aの一般手順を繰り返す。このようにして調製したポリイソブテニル無水コハク酸は、0.49%の塩素を含有する。
【0088】
実施例D
ポリプロピレン(Mn=1000)1モルおよび無水マレイン酸1モルの混合物を高温まで加熱し、約4時間にわたって、僅かに過剰の気体状塩素を表面下に加える。反応混合物を、窒素を吹き込みつつ約190℃で約24時間加熱することにより、撹拌する。このようにして調製したポリプロピレン置換無水コハク酸は、0.63%の塩素含量を有する。
【0089】
実施例E
ポリプロピレンを、1000のMnを有する等量のポリイソブチレンで置き換えること以外は、実施例Dの一般手順を繰り返す。このようにして調製したポリイソブテニル無水コハク酸は、0.76%の塩素含量を有する。
【0090】
実施例F
実施例Cの一般手順を繰り返し、調製したポリイソブテニル無水コハク酸は、0.3%の塩素を含有することが分かる。
【0091】
実施例G
実施例Cの生成物を約190〜200℃の温度まで加熱し、この混合物に窒素を吹き込みつつ、この温度で24時間維持する。生成物は、0.23%の塩素を含有することが分かる。
【0092】
以下の実施例は、本発明の方法および生成物を例示する。
【0093】
実施例1
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを190℃まで加熱し、そして酢酸亜鉛二水和物0.1グラムを加える。混合物を撹拌し、温度を210℃まで上げ、そしてこの温度で1時間維持する。次いで、この混合物に、4時間にわたって窒素(0.5scfh)を吹き込み、それから、この混合物を冷却し、生成物として回収する。この生成物は、0.188%の塩素を含有することが分かる。
【0094】
実施例2
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを190℃まで加熱し、そこに、ヨウ化第一鉄0.24グラムを加える。混合物を210℃まで加熱し、この温度で30分間維持して、それから、210℃で4時間にわたり、混合物の表面下から、この混合物に窒素(0.4scfh)を吹き込む。次いで、この混合物を冷却し、その残留物を生成物として回収する。このように得た生成物は、0.263%の塩素を含有する。
【0095】
実施例3
反応混合物にヨウ化第一鉄0.75グラムを加えること以外は、実施例2の手順を繰り返す。このようにして調製した生成物は、0.186%の塩素および0.023%のヨウ素を含有する。
【0096】
実施例4
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムおよびエチルエチレンテトラカルボキシレート2グラムを混合し、そして210℃まで加熱する。この混合物に窒素を吹き込む。約120℃で12時間の加熱後、この混合物を冷却し、その残留物を生成物として回収する。この生成物は、0.199%の塩素を含有する。
【0097】
実施例5
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを190℃まで加熱し、そして酢酸亜鉛二水和物0.2グラムを加え、続いて、ヨウ素0.2グラムを加える。この混合物を、撹拌しながら、210℃まで加熱し、この温度で30分間維持し、それから、210℃で全体で24時間にわたり、この混合物に窒素を吹き込む。この混合物を冷却し、その残留物を生成物として回収する。この生成物は、0.153%の塩素および0.034%のヨウ素を含有する。
【0098】
実施例6
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、撹拌しながら、150℃まで加熱し、この温度でヨウ素1.12グラムを加える。1時間後、この温度を190℃まで上げ、この混合物への窒素の流入を開始する。酢酸亜鉛二水和物(0.28グラム)を加え、この混合物を190℃で30分間維持し、それから、この温度を210℃まで上げ、この温度で3時間維持する。冷却後、その残留物を所望生成物として回収すると、この生成物は、0.118%の塩素および0.053%のヨウ素を含有する。
【0099】
実施例7
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、窒素流下で、150℃まで加熱する。この窒素流を停止し、撹拌しながら、この混合物に、酢酸亜鉛二水和物0.2グラムおよびヨウ素0.3グラムを加える。次いで、この混合物を210℃まで加熱し、この温度で4時間維持し、それから、210℃で4時間にわたり、撹拌しながら、この混合物に窒素を吹き込む。この混合物を冷却し、その残留物を生成物として回収すると、この生成物は、0.132%の塩素および0.037%のヨウ素を含有する。
【0100】
実施例8
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、窒素雰囲気下で、190℃まで加熱する。この温度で、この窒素流を停止し、撹拌しながら、酢酸亜鉛二水和物0.1グラムおよびヨウ素1グラムを加える。この混合物を撹拌し、この混合物の温度を210℃まで上げる。この温度で30分後、表面下の窒素流を開始し、この混合物を、この温度で4時間維持する。次いで、この混合物を冷却し、その残留物を生成物として回収すると、この生成物は、0.092%の塩素および0.057%のヨウ素を含有する。
【0101】
実施例9
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.3 scfhで窒素を吹き込みつつ、190℃まで加熱する。この窒素の吹き込みを停止し、そして酢酸亜鉛二水和物0.1グラムを加える。この混合物を4分間撹拌し、そこに、ヨウ素2グラムを加える。この混合物を210℃まで加熱し、窒素を吹き込まずに、この温度で30分間維持する。次いで、この窒素の吹き込みを、0.5scfhで再開し、210
℃で4時間維持する。次いで、この混合物を冷却すると、その残留物は、0.097%の塩素および0.073%のヨウ素を含有する生成物である。
【0102】
実施例10
混合物に、ヨウ素0.5グラムだけを加えること以外は、実施例9の一般手順を繰り返す。このようにして調製した生成物は、0.130%の塩素を含有する。
【0103】
実施例11
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、撹拌しながら、150℃まで加熱し、そして酢酸亜鉛二水和物0.2グラムを加える。次いで、この混合物を190℃まで加熱し、そこに、ヨウ素0.5グラムを加える。この混合物を、190℃で1時間撹拌し、そしてこの温度を約190℃に維持しつつ、24時間にわたって、1scfhの割合で、この混合物に窒素を吹き込む。その残留物を生成物として回
収すると、この生成物は、0.104%の塩素および0.081%のヨウ素を含有する。
【0104】
実施例12
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.2 scfhで窒素を吹き込みつつ、150℃まで加熱し、そこに、塩化第二鉄0.1グラムを加え、そしてこの窒素流を停止する。ヨウ素(0.6グラム)を加え、そしてこの混合物を210℃まで加熱し、この温度で1時間維持する。この時点で、窒素流を0.2scfhで再開し、そしてこの混合物を210℃で3時間維持する。冷却後、その残留物を生成物として回収すると、この生成物は、0.133%の塩素および0.023%のヨウ素を含有する。
【0105】
実施例13
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、撹拌しながら、0.5 scfhで窒素を吹き込みつつ、150℃まで加熱する。150℃で、この混合物を窒素を吹き込みながら190℃まで加熱しつつ、93%硫酸10滴を加える。この温度で、ヨウ素2グラムを加え、そしてこの窒素の吹き込みを停止する。この混合物を5分間撹拌し、そして塩化第二鉄0.5グラムを加える。この混合物を、窒素を吹き込むことなく、撹拌しながら30分間にわたり、210℃まで加熱する。この時点で、0.5scfhで窒素の吹き込みを再開し、そしてこの温度を、210℃で4時間維持する。この混合物を冷却すると、その残留物は、0.084%の塩素を含有する生成物である。
【0106】
実施例14
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.5 scfhで窒素を吹き込みつつ、150℃の温度まで加熱する。この温度で、93%硫酸10滴を加え、そしてこの混合物を、窒素を吹き込みつつ、190℃まで加熱する。次いで、この混合物にヨウ素(2グラム)を加え、続いて、塩化第二鉄0.1グラムを添加する。この窒素の吹き込みを停止し、そしてこの混合物を210℃まで加熱し、窒素を吹き込むことなく、この温度で30分間維持する。次いで、この混合物に、210℃で4時間にわたり、0.5scfhで窒素を吹き込むと、その冷却した残留物は、0.085%の塩素を含有する所望生成物である。
【0107】
実施例15
上記の塩化第二鉄を、酢酸亜鉛二水和物0.1グラムで置き換えたこと以外は、実施例14の一般手順を繰り返す。このように得た生成物は、0.071%の塩素を含有する。
【0108】
実施例16
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.2 scfhで窒素を吹き込みつつ、150℃の温度まで加熱し、そしてヨウ素1.12グラムを加える。この窒素流を停止し、そしてこの混合物を150℃で1時間撹拌し、次いで、190℃まで加熱する。190℃で、この混合物に窒素を吹き込み、そしてマグネシウム0.11グラムを加える。この混合物を、190℃で30分間維持した後、210℃まで加熱し、この温度で3時間維持する。この混合物を冷却すると、その残留物は、0.179%の塩素および0.034%のヨウ素を含有する生成物である。
【0109】
実施例17
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.6 scfhで窒素を吹き込みつつ、撹拌しながら、150℃まで加熱する。硫酸マグネシウム(0.5グラム)を加え、そしてこの窒素の吹き込みを停止する。この混合物を190℃まで加熱し、そこに、ヨウ素1グラムを加える。この混合物を210℃まで加熱し、この温度で1時間維持した後、この混合物に、0.5scfhで再び窒素を吹き込み、210℃で4時間維持する。次いで、この混合物を冷却すると、その残留物は、0.155%の塩素を含有する生成物として回収される。
【0110】
実施例18
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.6 scfhで窒素を吹き込みつつ、150℃まで加熱する。この窒素の吹き込みを停止し、そして撹拌しながら、酸化亜鉛0.25グラムを加える。次いで、この混合物を190℃まで加熱し、そこに、ヨウ素0.5グラムを加える。この混合物を210℃まで加熱し、この温度で1時間維持する。次いで、この混合物に、0.6scfhで窒素を吹き込み、210℃で24時間維持する。冷却後、その残留物を、0.072%の塩素および0.090%のヨウ素を含有する生成物として集める。
【0111】
実施例19
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.6 scfhで窒素を吹き込みつつ、150℃まで加熱する。150℃で、この窒素の吹き込みを停止し、そして硫酸カルシウム0.25グラムを加える。この混合物を10分間撹拌し、190℃まで加熱し、そこに、ヨウ素0.5グラムを加える。次いで、この混合物を210℃まで加熱し、この温度で1時間維持し、それから、この混合物の温度を210℃に維持しつつ、この混合物に、24時間にわたって窒素を吹き込む。この混合物を冷却すると、その残留物は、0.083%の塩素および0.031%のヨウ素を含有する所望生成物である。
【0112】
実施例20
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを190℃まで加熱し、そして酸化亜鉛0.1グラムおよびヨウ素0.25グラムを加える。次いで、この混合物を210℃まで加熱し、この温度で1時間後、この混合物に、0.4scfhで4時間にわたって、窒素を吹き込む。この混合物を冷却すると、その残留物は、0.158%の塩素および0.035%のヨウ素を含有する生成物である。
【0113】
実施例21
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを190℃まで加熱し、そしてオレイン酸亜鉛0.29グラムおよびヨウ素1グラムを加える。この混合物を、撹拌しながら、210℃まで加熱し、この温度で30分間維持する。この混合物に、4時間にわたって窒素を吹き込み、それから、この混合物を冷却し、その残留物を生成物として回収する。この生成物は、0.093%の塩素および0.064%のヨウ素を含有する。
【0114】
実施例22
この混合物に、オレイン酸亜鉛0.14グラムだけを加えること以外は、実施例21の一般手順を繰り返す。このように得た生成物は、0.080%の塩素および0.049%のヨウ素を含有する。
【0115】
実施例23
実施例Fのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを190℃まで加熱し、そこに、酢酸亜鉛0.2グラムを加え、続いて、塩化第二鉄0.1グラムおよびヨウ素0.2グラムを加える。この混合物を200℃まで加熱しつつ、この混合物に、0.5scfhで窒素を吹き込む。12時間にわたって窒素を吹き込みつつ、この混合物を、この温度で維持する。この混合物を冷却し、その残留物を、0.091%の塩素および0.024%のヨウ素を含有する生成物として回収する。
【0116】
実施例24
実施例Fのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.5 scfhで窒素を吹き込みつつ、撹拌しながら、190℃まで加熱する。この窒素の吹き込みを停止し、そしてこの混合物に、190℃で撹拌しながら、酢酸亜鉛(0.2グラム)、塩化第二鉄(0.1グラム)およびヨウ素(0.2グラム)を加える。この混合物を、この温度で30分間維持し、それから、210℃まで加熱する。この温度で、この混合物に、0.6scfhで4時間にわたって、窒素を吹き込む。この混合物を冷却し、その残留物を、0.077%の塩素および0.034%のヨウ素を含有する生成物として回収する。
【0117】
実施例25
実施例Gのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.5 scfhで窒素を吹き込みつつ、190℃まで加熱する。この窒素を吹き込みを停止し、そして酢酸亜鉛二水和物0.2グラムおよびヨウ素0.2グラムを加える。この混合物を、撹拌しながら、210℃まで加熱し、この温度で30分間維持する。この窒素の吹き込みを再開し、そしてこの混合物を、210℃で4時間維持する。この混合物を冷却し、その残留物を、0.144%の塩素および0.028%のヨウ素を含有する生成物として回収する。
【0118】
実施例26
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを210℃まで加熱し、この温度で6時間にわたり、実施例25の手順による流出物(揮発性物質)を通す。この反応混合物を冷却し、その残留物を、生成物として回収する。
【0119】
実施例27
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸を、実施例Dのポリイソブテニル置換無水コハク酸500グラムで置き換えること以外は、実施例13の一般手順を繰り返す。
【0120】
実施例28
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを190℃まで加熱し、そしてヨウ化亜鉛0.25グラムを加える。この混合物を、撹拌しながら、210℃まで加熱し、この温度で30分間維持し、それから、この混合物に、0.4scfhで窒素流を泡立たせる。窒素の吹き込みを4時間続け、それから、この混合物を冷却し、生成物として回収する。この生成物は、0.198%の塩素および0.07%のヨウ素を含有する。
【0121】
実施例29
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.6 scfhで窒素を吹き込みつつ、150℃まで加熱する。この窒素の吹き込みを停止し、そして酢酸亜鉛0.2グラムを加える。この混合物を190℃まで加熱し、そこに、ヨウ素0.5グラムを加え、そしてこの混合物を210℃で1時間維持する。この時点で、この混合物に、0.5scfhで、次いで、1 scfhで窒素を吹き込む。この混合物を、揮発成分を除去しつつ、1 scfhで24時間窒素を吹き込みながら、210℃で維持する。その残留物を、0.072%の塩素および0.070%のヨウ素を含有する生成物として、回収する。
【0122】
実施例30
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.5 scfhで窒素を吹き込みつつ、撹拌し150℃まで加熱する。この温度で、93%硫酸5滴を加え、そしてこの窒素の吹き込みを停止する。この混合物を210℃まで加熱し、窒素を吹き込むことなく、この温度で30分間維持する。次いで、この混合物に、210℃で4時間にわたり、0.5scfhで窒素を吹き込む。室温で冷却後、その残留物を、0.224%の塩素を含有する生成物として、回収する。
【0123】
実施例31
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.5 scfhで窒素を吹き込みつつ、撹拌しながら、150℃の温度まで加熱する。この温度で、93%硫酸5滴を加え、そしてこの窒素の吹き込みを停止する。この混合物を190℃まで加熱し、そしてヨウ素0.25グラムを加える。この混合物を210℃まで加熱し、窒素を吹き込むことなく、この温度で半時間維持する。次いで、この混合物に、210℃で4時間にわたり、0.5scfhで窒素を吹き込む。その残留物を冷却し、0.164%の塩素および0.016%のヨウ素を含有する生成物として、回収する。
【0124】
実施例32
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、0.5 scfhで窒素を吹き込みつつ、撹拌し160℃まで加熱する。この温度で、この窒素の吹き込みを停止し、そして93%硫酸5滴を加える。この混合物を、窒素を吹き込むことなく、190℃まで加熱し、この温度で、ヨウ素0.25グラムを加える。この混合物を、窒素を吹き込むことなく、210℃まで加熱し、この温度で1時間維持する。次いで、この混合物に、210℃で4時間にわたり、1scfhで窒素を吹き込む。その残留物を冷却し、0.150%の塩素および0.018%のヨウ素を含有する生成物として、回収する。
【0125】
実施例33
実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、190℃まで加熱し、そしてヨウ化亜鉛0.2グラムを加える。この混合物を210℃まで加熱し、この温度で30分間維持し、それから、この混合物に、0.4scfhで4時間にわたって、窒素を吹き込む。この混合物を冷却し、その残留物を、0.121%の塩素および0.096%のヨウ素を含有する生成物として、回収する。
【0126】
実施例34〜38
これらの実施例では、実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムを、190℃まで加熱し、そこに、ヨウ素0.2グラムおよび酢酸亜鉛0.2グラムを加える。次いで、この混合物を、1時間にわたって210℃まで加熱し、それから、この混合物に、0.3scfhで全体で16時間にわたり、窒素を吹き込む。分析のために、加熱期間全体の2、4、6、8および17時間の時点で、これらの反応混合物から試料を取り出す。実施例34〜38で回収した試料の塩素および窒素の分析結果を、次の表1に示す。
【0127】
比較のために、酢酸亜鉛を省略して、実施例34〜38の手順を繰り返す。これらの実施例を、実施例34C、35C、36C、37Cおよび38Cと見なす。従って、加熱した混合物は、実施例Cのポリイソブテニル無水コハク酸500グラムおよびヨウ素2グラムを含有する。加熱期間全体(190℃および210℃)の2、4、6、8および17時間の時点で回収した反応混合物の試料の塩素およびヨウ素の分析結果も、次の表1に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
上の表1に要約した結果から分かるように、ヨウ素だけでは、塩素含量を低くするには有効であり、そして塩素含量は加熱時間が長くなるにつれて低下しているものの、このヨウ素と組み合わせて酢酸亜鉛を用いると、この反応混合物の塩素含量はさらに低くなる。
【0130】
上記のカルボン酸組成物は、カルボン酸組成物の混合物も含めて、それ自体、潤滑剤および燃料組成物用の添加剤として有用である。例えば、このカルボン酸組成物は、炭化水素ベース燃料にて、50〜約1000ppmの濃度で、沈殿物の形成を低減するための燃料添加剤として、使用され得る。このカルボン酸組成物はまた、清浄分散剤として機能する場合、潤滑剤組成物中で使用され得る。従って、本発明は、このカルボン酸組成物およびこの組成物の濃縮物を、潤滑剤および燃料を処理する際の添加剤として使用することを包含する。潤滑組成物を燃料中に処方するのに有用なカルボン酸組成物の濃縮物は、一般に、20〜約90重量%の通常液状で実質的に不活性な有機溶媒/希釈剤、および約1〜約80重量%の本明細書に記載の少なくとも1種のカルボン酸組成物を含有する。このカルボン酸組成物を潤滑組成物で用いるとき、この潤滑組成物は、主要量の潤滑粘性のあるオイル、および少量の本明細書に記載のカルボン酸組成物の少なくとも1種を含有する。このカルボン酸組成物を、燃料組成物で用いるとき、この燃料組成物は、主要量の通常液状の燃料、および少量のここで記載のカルボン酸組成物の少なくとも1種を含有する。
【0131】
カルボン酸アシル化剤からエステル、アミド、イミド、アミン塩および金属塩を調製する方法は、当業者に周知であり、多くの特許に記載されている。例えば、エステルを形成するためのヒドロキシ化合物との反応は、米国特許第3,331,776号;第3,381,022号;第3,522,179号;および第3,542,680号に記載されている;アミド、イミドおよびアミン塩を形成するためのアミンとの反応は、米国特許第3,172,892号;第3,219,666号;および第3,272,746号に記載されている;金属塩を形成するための反応性金属との反応は、米国特許第3,271,310号;第3,306,908号;および米国再発行特許第26,433号に記載されている。これらの全ての特許の内容は、本明細書中で参考として援用されている。
【0132】
特に、このような分散剤は、MeinhardtおよびDavisに1980年11月18日に発行された米国特許第4,234,435号またはRenseに1965年11日2日に発行された米国特許第3,215,707号に記載されるように、ポリアミンおよび/またはポリオールとの反応により製造され得る。この2つの特許の内容は、本明細書中で参考として援用されている。
【0133】
ポリアミンまたは混合したポリアミンエステル生成物は、ヨウ素源または臭素源で処理されて、ハロゲンが除去され得るものの、これらは、必ずしも望ましくない。すなわち、この方法は、最も好都合には、価格および処理量を含めた種々の理由を考慮して、このアシル化剤前駆体上で行われる。
【0134】
以下の実施例は、分散剤および潤滑油組成物として有用な生成物の調製を例示する。
【0135】
実施例I
実施例1の生成物を、米国特許第4,234,435号(Meinhardt)の実施例10に従って処理して、潤滑油中で有用なアミノ化分散剤を生成する。
【0136】
実施例II
実施例5の生成物を、米国特許第4,234,435号の実施例12に従って処理して、潤滑油中で有用なアミノ化分散剤を生成する。
【0137】
実施例III
実施例15のポリイソブテニル無水コハク酸を、米国特許第4,234,435号の実施例13の手順に従って処理して、潤滑油中で分散剤として有用なエステル官能性およびアミン官能性を含有する生成物を生成する。
【0138】
実施例IV
1分子あたり約3個〜約10個の窒素原子を有するエチレンポリアミンの市販混合物10.2部(0.25当量)を、鉱油113部および実施例1の生成物0.25当量に添加することにより、混合物を調製する。この反応混合物を、2時間で150℃まで加熱し、窒素を吹き込むことにより、ストリッピングする。この反応混合物を濾過すると、所望のアミノ化分散剤のオイル溶液として、濾液が得られる。
【0139】
実施例V
実施例1の生成物を、実施例5の生成物で置き換えること以外は、実施例IVの手順を繰り返す。
【0140】
実施例VI
実施例1の生成物を、等量の実施例15の生成物で置き換えること以外は、実施例IVの手順を繰り返す。
【0141】
ポリアルケニル無水コハク酸のエステルは、この無水物とポリオール(例えば、ペンタエリスリトール)とを反応させることにより、米国特許第4,234,435号の手順を使用して、調製され得る。実施例I〜IVの生成物は、工業的な手法に従ってさらに処理され、さらに有用な生成物が得られる。例えば、実施例I〜IVの生成物は、ホウ酸と反応されて、ホウ酸化分散剤が調製され得る。
【0142】
潤滑剤、2サイクルオイル、乳濁液、およびガソリンを含めた燃料で有用な分散剤を調製するためには、上で述べたように、塩素の量を低下させたポリアルケニル置換コハク酸が使用され得る。さらに特定すると、本発明の方法に従って調製したポリアルケニル無水コハク酸またはその無水物から調製され得る、かつ塩素の含有量を低下させた分散剤は、潤滑粘性のある多様なオイル(これには、天然および合成の潤滑油およびそれらの混合物が含まれる)をベースにした種々の潤滑剤中で、使用され得る。これらの潤滑剤には、火花点火および圧縮点火の内燃機関(これには、自動車およびトラックのエンジン、2サイクルエンジン、航空機のピストンエンジン、船舶および鉄道のディーゼルエンジンなどが含まれる)のクランク室潤滑油が挙げられる。これらはまた、ガスエンジン、定置出力エンジンおよびタービンなどで用いられ得る。自動変速機油または手動変速機油、トランスアクシル潤滑剤、ギア潤滑剤(開放ギア潤滑剤および密閉ギア潤滑剤を含めて)、トラクター潤滑剤、金属加工潤滑剤、油圧作動液および他の潤滑油およびグリース組成物もまた、上記分散剤を取り込むことによる利点がある。これらの分散剤はまた、ワイヤーロープ、ウォーキングカム、動面(way)、削岩機、チェーンおよびコンベアベルト、ウォームギア、ベアリング、およびレールおよびフランジの潤滑剤中で使用され得る。
【0143】
生成物(例えば、上記実施例I〜IVに記載のもの)は、それ自体で、または他のいずれかの周知の添加剤と組み合わせて、潤滑剤または濃縮物中で用いられ得る。これらの添加剤には、他の分散剤、清浄剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、極圧剤、乳化剤、解乳化剤、発泡防止剤、摩擦調整剤、錆防止剤、腐食防止剤、粘度改良剤、流動点降下剤、染料、および取扱い性を改良するための溶媒(これには、アルキル炭化水素および/またはアリール炭化水素が含まれ得る)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの添加剤は、最終生成物の必要性に依存して、種々の量で存在し得る。
【0144】
他の分散剤には、マンニッヒ分散剤およびそれらの混合物、ならびに分散剤および粘度改良剤の両方として機能する物質が挙げられるが、それらに限定されない。マンニッヒ分散剤は、ヒドロキシ芳香族化合物と、アミンおよびアルデヒドとを反応させることにより、調製される。上記分散剤は、以下のような試薬で後処理され得る:尿素、チオ尿素、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、ニトリル、エポキシド、ホウ素含有化合物、リン含有化合物など。
【0145】
清浄剤には、アルカリ土類金属または遷移金属と、1種またはそれ以上のヒドロカルビル置換スルホン酸、カルボン酸、リン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、ホスフィン酸またはチオホスフィン酸、イオウがカップリングしたフェノールまたは炭化水素置換フェノールとの、ニュートン性または非ニュートン性の中性塩または塩基性塩が挙げられるが、それらに限定されない。塩基性塩とは、酸官能性に対し、化学量論的に過剰な金属を含有する塩である。
【0146】
本発明の潤滑剤に含まれ得る補助の極圧剤および腐食防止剤および酸化防止剤は、以下により例示される:塩素化脂肪族炭化水素(例えば、塩素化オレフィンまたはワックス);有機スルフィドおよびポリスルフィド(例えば、ベンジルジスルフィド、ビス(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテンおよび硫化テルペン);リン硫化炭化水素(例えば、硫化リンとテルペンチンまたはオレイン酸メチルとの反応生成物)、主として亜リン酸ジヒドロカルビルおよび亜リン酸トリヒドロカルビルを含めたリン含有エステル(例えば、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジヘプチル、亜リン酸ジシクロヘキシル、亜リン酸ペンチルフェニル、亜リン酸ジペンチルフェニル、亜リン酸トリデシル、亜リン酸ジステアリル、亜リン酸ジメチルナフチル、亜リン酸オレイル4-ペンチルフェニル、ポリプロピレン(分子量500)置換の亜リン酸フェニル、ジイソブチル置換の亜リン酸フェニル);ジチオカルバミン酸およびアクリルアミドから調製したアミドを含有するジチオカルバミン酸エステル(例えば、ジブチルアミン、二硫化炭素およびアクリルアミドの反応生成物);アルキレンがカップリングしたジチオカルバミン酸エステル(例えば、ビス(ジブチルジチオカルバミン酸)メチレンまたはフェニレン);およびイオウがカップリングしたジチオカルバミン酸エステ(例えば、ビス(s-アルキルジチオカルバモイル)ジスルフィド);チオカルバミン酸金属塩(例えば、ジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛、およびヘプチルフェニルジチオカルバミン酸バリウム);ホウ素含有化合物(ホウ酸エステルを含めて);モリブデン含有化合物;ホスホロジチオ酸の第II族金属塩(例えば、ジシクロヘキシルホスホロジチオ酸亜鉛、ジオクチルホスホロジチオ酸亜鉛、ジ(ヘプチルフェニル)-ホスホロジチオ酸バリウム、ジノニルホスホロジチオ酸カドミウム)、および五硫化リンと、イソプロピルアルコールおよびn-ヘキシルアルコールの等モル混合物との反応により生成したホスホロジチオ酸の亜鉛塩。
【0147】
粘度改良剤には、ポリイソブテン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、水素化ジエン重合体、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役ジエン共重合体、ポリオレフィンおよび多機能性粘度改良剤が挙げられるが、それらに限定されない。
【0148】
流動点降下剤は、本明細書に記載の潤滑油中にしばしば含まれる特に有用なタイプの添加剤である。例えば、C.V. SmalheerおよびR. Kennedy Smithの「Lubricant Additives」(Lesius-Hiles出版社、クリーブランド、オハイオ、1967年)の第8頁を参照せよ。
【0149】
安定した泡の形成を低減するかまたは防止するために用いられる消泡剤には、シリコーンまたは有機重合体が包含される。これらのおよびさらに他の消泡組成物の例は、「FoamControl Agents」(Henry T. Kerner、Noyes Data社、1976年)の125〜162頁に記載されている。
【0150】
これらの添加剤および他の添加剤は、米国特許第4,582,618号(14欄、52行から17欄、16行まで、これらの行を含めて)にさらに詳細に記載され、それらの内容は、本発明と組み合わせて用いられ得る他の添加剤の開示に関して、本明細書中で参考として援用されている。
【0151】
この濃縮物は、本発明の分散剤を0.01重量%〜90重量%で含有し得る。これらの分散剤は、最終生成物、混合物または濃縮物にて、少量、すなわち、50重量%までの量、または分散剤として作用するのに効果的な量で存在し得るが、好ましくは、潤滑粘性のあるオイル、油圧作動液、燃料油、ギアオイルまたは自動変速機油にて、約0.1重量%〜約10重量%の量で存在する。
【0152】
本発明の潤滑組成物および方法は、潤滑粘性のあるオイルを使用する。潤滑粘性のあるオイルには、天然潤滑油または合成潤滑油およびそれらの混合物が包含される。天然油には、動物油、植物油、鉱物性潤滑油、溶媒処理されたまたは酸処理された鉱油、および石炭または頁岩から誘導したオイルが包含される。合成潤滑油には、炭化水素油、ハロ置換炭化水素油、アルキレンオキシド重合体、カルボン酸とポリオールとのエステル、ポリカルボン酸とアルコールとのエステル、リン含有酸のエステル、重合体テトラヒドロフラン、シリコンベース油およびそれらの混合物が包含される。
【0153】
潤滑粘性のあるオイルの特定の例は、米国特許第4,326,972号およびヨーロッパ特許公開第107,282号に記載され、両方の特許の内容は、潤滑油に関する開示について、本明細書中で参考として援用されている。潤滑剤基油の基本的で簡潔な記載は、D.V.Brockによる論文、「Lubricant Base Oils」、Lubricant Engineering、43巻、184〜185頁(1987年3月))に見られる。この論文の内容は、潤滑油に関する開示について、本明細書中で参考として援用されている。潤滑粘性のあるオイルの記載は、米国特許第4,582,618号(2欄、37行から3欄、63行まで、これらの行を含めて)に見いだされ、その内容は、潤滑粘性のあるオイルの開示について、本明細書中で参考として援用されている。
【0154】
以下の表2に示す実施例は、本発明の濃縮物および潤滑油組成物を例示する。
【0155】
【表2】

【0156】
本発明は、その好ましい実施態様に関して説明しているものの、それらの種々の変更は、この明細書を読めば、当業者に明かなことが理解されるべきである。従って、ここで開示の発明は、添付の請求の範囲に入るようなこれらの変更を含むべく意図されていることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素化合物の塩素含量を低減する方法であって、該有機塩素化合物を、(a)炭素を含まないルイス酸、ヨウ化水素酸および臭化水素酸以外の鉱酸、およびpKaが約2未満の有機酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸および、(b)ヨウ素源または臭素源と接触させて、混合物を形成する工程;および該混合物内にて、該有機塩素化合物の塩素含量を低減するのに充分な時間にわたって、該有機塩素化合物を反応させる工程、包含する、方法。
【請求項2】
塩素の存在下で調製した、ポリイソブチレンおよび無水マレイン酸の反応生成物の塩素含量を低減する方法であって、該反応生成物は塩素を含有し、該方法は、以下の(A)および(B)の工程を包含する:(A)塩素を含有する該反応生成物を、1種またはそれ以上の異なる塩素化合物を形成するのに充分な時間にわたって、炭素を含まない少なくとも1種のルイス酸、または少なくとも1種のルイス酸とヨウ素源または臭素源との混合物と接触させる工程;および(B)該反応生成物から、該異なる塩素化合物を分離する工程。
【請求項3】
塩素の存在下にてポリイソブチレンおよび無水マレイン酸から調製したポリイソブテニル無水コハク酸を含有する反応生成物の塩素含量を低減する方法であって、該方法は、以下の(A)および(B)の工程を包含する:(A)塩素を含有する該反応生成物を、1種またはそれ以上の異なる塩素化合物を形成するのに充分な時間にわたって、少なくとも1種のルイス酸、およびヨウ素源または臭素源と接触させる工程であって、ここで、該ヨウ素源または臭素源の少なくとも一部は、有機塩素化合物の塩素含量を低減する他の方法の流出物から得られ、ここで、該有機塩素化合物は、ヨウ素源または臭素源またはそれら
の混合物で処理されている;および(B)該反応生成物から、工程(A)で形成した該異なる塩素化合物の少なくとも1種を分離する工程。

【公開番号】特開2006−298931(P2006−298931A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160352(P2006−160352)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【分割の表示】特願平8−52107の分割
【原出願日】平成8年3月8日(1996.3.8)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】