説明

塩素含有酸化マグネシウム粉末

【課題】Xeガスのガス放電により生成した紫外光により励起されると、高い効率で波長250nm付近の紫外光を放出する酸化マグネシウム粉末を提供する。
【解決手段】塩素を0.005〜10質量%の範囲にて含有する、塩素を除いた総量中の酸化マグネシウム純度が99.8質量%以上で、かつBET比表面積が0.1〜30m2
/gの範囲にある塩素含有酸化マグネシウム粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素を含有する酸化マグネシウム粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
交流型プラズマディスプレイパネル(以下、AC型PDPともいう)は、一般に、画像表示面となる前面板と、放電ガスが充填された放電空間を挟んで対向配置された背面板とからなる。前面板は、前面ガラス基板、前面ガラス基板の上に形成された一対の放電電極、放電電極を被覆するように形成された誘電体層、そして誘電体層の表面に形成された誘電体保護層からなる。背面板は、背面ガラス基板、背面ガラス基板の上に形成されたアドレス電極、背面ガラス基板とアドレス電極とを被覆するように形成された、放電空間を区画するための隔壁、そして隔壁の表面に形成された赤、緑、青の蛍光体層からなる。
【0003】
放電ガスとしては、一般にXe(キセノン)とNe(ネオン)との混合ガスが利用されている。この混合ガスでは、Xeが放電ガスであり、Neはバッファガスである。
誘電体保護層の形成材料には、AC型PDPの作動電圧を低減し、かつ放電空間に生成したプラズマから誘電体層を保護するために、二次電子放出係数が高く、耐スパッタ性に優れる酸化マグネシウムが広く利用されている。
【0004】
従来より、AC型PDPにおいては、発光特性の向上を目的として、誘電体保護層の放電空間側の表面に、放電ガスにより生成する紫外光によって励起されて、波長230〜250nmの間にピーク波長を有する紫外光を放出する紫外光放出層を設けて、放電ガスから放出される紫外光と、紫外光放出層から放出される紫外光とにより蛍光体層の蛍光体を励起されることにより、蛍光体層の発光効率を向上させることが検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、マグネシウムが加熱されて発生される蒸気が気相酸化されることによって生成された、BET法によって測定した平均粒子径が500オングストローム以上、好ましくは2000オングストローム以上の気相法酸化マグネシウム単結晶体により形成された紫外光放出層を、誘電体保護層の放電空間側の表面に形成したAC型PDPが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−59786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、AC型PDPなどのガス放電発光装置の誘電体保護層の上に形成する、Xeガスのガス放電により生成した紫外光により励起されると、高い効率で波長250nm付近の紫外光を放出する酸化マグネシウム粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、純度が99.95質量%以上で、BET比表面積が5〜150m2/gの
範囲にある高純度の酸化マグネシウム粉末又は焼成によって該酸化マグネシウム粉末を生成するマグネシウム化合物粉末(但し、塩化マグネシウム粉末を除く)を塩素源の存在下、もしくは塩素含有気体の雰囲気下に、850℃以上の温度で焼成することによって、塩素を0.005〜10質量%の範囲にて含有する、塩素を除いた総量中の酸化マグネシウム純度が99.8質量%以上で、かつBET比表面積が0.1〜30m2/gの範囲にあ
る塩素含有酸化マグネシウム粉末を製造することができ、かつ該塩素含有酸化マグネシウム粉末がXeガスの放電ガスにより生成した紫外光に励起されると、高い効率で波長250nm付近の紫外光を放出することを見出して、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明は、塩素を0.005〜10質量%の範囲にて含有する、塩素を除いた総量中の酸化マグネシウム純度が99.8質量%以上で、かつBET比表面積が0.1〜30m2/gの範囲にある塩素含有酸化マグネシウム粉末にある。
【0010】
本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末の好ましい態様は次の通りである。
(1)塩素含有量が0.01〜10質量%の範囲にある。
(2)酸化マグネシウム純度が99.9質量%以上である。
(3)BET比表面積が0.2〜12m2/gの範囲にある。
(4)交流型プラズマディスプレイパネルの誘電体保護層の放電空間側の表面に形成される紫外光放出層の製造用である。
【0011】
本発明はまた、酸化マグネシウム純度が99.95質量%以上で、BET比表面積が5〜150m2/gの範囲にある酸化マグネシウム原料粉末、又は焼成によって該酸化マグ
ネシウム原料粉末を生成する、塩化マグネシウム粉末以外のマグネシウム化合物粉末を、塩素源の存在下、もしくは塩素含有気体の雰囲気下に、850℃以上の温度で焼成することを特徴とする上記本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末の製造方法にもある。
【0012】
本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末の製造方法の好ましい態様は次の通りである。(1)酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末を、純度が99.0質量%以上である塩化マグネシウム粉末の存在下にて焼成する。
(2)酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末の焼成温度が1000〜1500℃の範囲にある。
(3)酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末の焼成時間が10分以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末は、Xeガスのガス放電により生成した紫外光により励起されると波長250nm付近の紫外光を高い効率で放出する。従って、本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末から製造された酸化マグネシウム膜を、AC型PDPや蛍光体ランプなどのガス放電発光装置の放電空間内に配置することによって、放電空間内に放出される紫外光の光量が増加し、これによりガス放電発光装置から放出される可視光の光量が増加する。本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末から製造された酸化マグネシウム膜は、AC型PDPの誘電体保護層の放電空間側の表面に形成される紫外光放出層として、特に有用である。また、本発明の製造方法を用いることによって、紫外光の放出効率の高い酸化マグネシウム粉末を工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末は、塩素を0.005〜10質量%の範囲にて含む。塩素量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましい。塩素含有酸化マグネシウム粉末に含まれる塩素を除いた酸化マグネシウム純度は、99.8質量%以上、好ましくは99.9質量%以上である。なお、酸化マグネシウム純度は、塩素含有酸化マグネシウム粉末の全体量を100としたときの塩素とマグネシウムと酸素とを除いた不純物元素(塩素含有酸化マグネシウム粉末の全体量に対して0.001質量%以上含まれる)の総含有量及び塩素の含有量から、下記の式より求めることができる。
酸化マグネシウム純度(質量%)=[1−不純物元素の総含有量(質量%)/{100−塩素の含有量(質量%)}]×100
【0015】
本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末は、BET比表面積が0.1〜30m2/gの
範囲、好ましくは0.2〜12m2/gの範囲にある。
【0016】
本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末は、酸化マグネシウム純度が99.95質量%以上で、BET比表面積が5〜150m2/gの範囲、好ましくは7〜50m2/gの範囲にある酸化マグネシウム原料粉末、又は焼成によって該酸化マグネシウム原料粉末を生成するマグネシウム化合物粉末(但し、塩化マグネシウム粉末を除く)を、塩素源の存在下、もしくは塩素含有気体の雰囲気下に、850℃以上の温度で焼成することにより製造することができる。本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末は、酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末を塩素源の存在下で焼成する方法により製造することが好ましい。
【0017】
酸化マグネシウム原料粉末を、塩素源の存在下、もしくは塩素含有気体の雰囲気下に、850℃以上の温度で焼成すると、得られる塩素含有酸化マグネシウム粉末は、酸化マグネシウム原料粉末と比べてBET比表面積が低くなる。このため、塩素含有酸化マグネシウム粉末のBET比表面積は、酸化マグネシウム原料粉末のBET比表面積に対して、通常は1〜50%の範囲、好ましくは2〜30%の範囲になるが、本発明では前述のようにBET比表面積が0.1〜30m2/gの範囲、特に0.2〜12m2/gの範囲にあることが好ましい。
【0018】
塩素含有酸化マグネシウム粉末の製造に用いる酸化マグネシウム原料粉末としては、気相合成酸化法により製造された酸化マグネシウム粉末であることが好ましい。気相合成酸化法とは、金属マグネシウム蒸気と酸素含有気体とを気相中にて接触させ、金属マグネシウム蒸気を酸化させて酸化マグネシウム粉末を製造する方法である。
【0019】
本発明で用いるマグネシウム化合物粉末は、850℃より低い温度での焼成によって前述のような酸化マグネシウム純度とBET比表面積とを有する酸化マグネシウム原料粉末を生成するものであることが好ましい。マグネシウム化合物粉末の例としては、水酸化マグネシウム粉末、塩基性炭酸マグネシウム粉末、硝酸マグネシウム粉末及び酢酸マグネシウム粉末を挙げることができる。マグネシウム化合物粉末の製法については特に制限はない。
【0020】
塩素源としては、塩化マグネシウム粉末及び塩化アンモニウム粉末を挙げることができる。塩素源は、純度が99.0質量%以上であることが好ましい。塩素源は、焼成を行なう前に酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末と均一に混合しておくことが好ましい。
【0021】
塩素含有気体としては、塩化水素ガス、あるいは塩化アンモニウム粉末、塩化マグネシウム粉末、もしくは塩素含有有機化合物(CHCl3、CCl4等)を加熱して気化させたガスを挙げることができる。
【0022】
本発明において、酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末を塩素源の存在下、もしくは塩素含有気体の雰囲気下にて焼成する際の焼成温度は850℃以上である。通常は、昇温速度100〜500℃/時間の条件で、室温から850℃以上、好ましくは900〜1500℃、特に好ましくは1000〜1500℃の温度にまで加熱し、次いで該温度で好ましくは10分以上、特に好ましくは20分〜1時間加熱焼成する。焼成後は、通常は降温速度100〜500℃/時間の条件で室温まで冷却する。
【0023】
本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末には、放電特性向上のため、マグネシウム以外の金属を添加することができる。本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末に添加する金属としては、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタ
ン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブテン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム及びジスプロシウムを挙げることができる。マグネシウム以外の金属は、例えば、酸化物、炭酸塩、硝酸塩として、本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末の製造の際に添加することができ、金属の添加量は、塩素含有酸化マグネシウム粉末全体に対して、0.001〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.01〜1質量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0024】
本発明の塩素含有酸化マグネシウム粉末は、スプレ法や静電塗布法などの公知の方法を用いて酸化マグネシウム膜とすることができる。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
(焼成物No.1〜No.7の製造)
気相合成酸化法により製造された酸化マグネシウム(MgO)粉末(2000A、宇部マテリアルズ(株)製、純度:99.98質量%、BET比表面積:8.7m2/g)と
塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)粉末(純度:99.0質量%)とを下記表1に示す量にて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を容量25mLのアルミナ坩堝に投入し、アルミナ坩堝に蓋をして電気炉に入れ、240℃/時間の昇温速度で炉内温度を1200℃まで上昇させ、次いで該温度で30分間加熱焼成した。その後、炉内温度を240℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。そして、電気炉からアルミナ坩堝を取り出して、粉末混合物の焼成物No.1〜No.7を得た。
【0026】
表1
────────────────────────────────────────
酸化マグネシウム粉末量(g) 塩化マグネシウム粉末量(g)
────────────────────────────────────────
焼成物No.1 5.0 0
焼成物No.2 5.0 0.50
焼成物No.3 5.1 2.53
焼成物No.4 5.0 5.00
焼成物No.5 5.0 7.50
焼成物No.6 5.0 9.0
焼成物No.7 5.0 10.0
────────────────────────────────────────
【0027】
得られた焼成物No.1〜No.7について、BET比表面積、塩素含有量、純度及び紫外光発光強度を測定した。その結果を表2に示す。なお、塩素含有量及び紫外光発光強度は以下の方法により測定した。
【0028】
[塩素含有量]
焼成物を水に溶解させて調製した溶液を中和し、その溶液中の塩素量をイオンクロマトグラフィーにより測定する。
【0029】
[紫外光発光強度]
焼成物にXeガスのガス放電により生成した紫外光を照射して、焼成物から放出された紫外光スペクトルを測定し、波長250nm付近(波長230〜260nmの範囲)の最大ピーク値を紫外光発光強度として求める。なお、表2の値は、焼成物No.2の紫外光発光強度を100とした相対値である。
【0030】
表2
────────────────────────────────────────
BET比表面積 塩素含有量 純度 紫外光発光強度
(m2/g) (質量%) (質量%) (−)
────────────────────────────────────────
焼成物No.1 2.11 検出されず 99.9以上 発光せず
焼成物No.2 1.37 0.0025 99.9以上 100
焼成物No.3 1.42 0.0056 99.9以上 527
焼成物No.4 1.52 0.0100 99.9以上 1722
焼成物No.5 0.87 0.49 99.9以上 4867
焼成物No.6 0.52 7.10 99.9以上 5100
焼成物No.7 0.48 8.95 99.9以上 6092
────────────────────────────────────────
【0031】
表2に示した結果から明らかなように、塩素含有量が0.005質量%を超える塩素含有酸化マグネシウム粉末は、Xeガスの放電ガスにより生成した紫外光に励起されると、高い効率で波長250nm付近の紫外光を放出することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を0.005〜10質量%の範囲にて含有する、塩素を除いた総量中の酸化マグネシウム純度が99.8質量%以上で、かつBET比表面積が0.1〜30m2/gの範囲
にある塩素含有酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
塩素含有量が0.01〜10質量%の範囲にある請求項1に記載の塩素含有酸化マグネシウム粉末。
【請求項3】
酸化マグネシウム純度が99.9質量%以上である請求項1に記載の塩素含有酸化マグネシウム粉末。
【請求項4】
BET比表面積が0.2〜12m2/gの範囲にある請求項1に記載の塩素含有酸化マ
グネシウム粉末。
【請求項5】
交流型プラズマディスプレイパネルの誘電体保護層の放電空間側の表面に形成される紫外光放出層の製造用である請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の塩素含有酸化マグネシウム粉末。
【請求項6】
酸化マグネシウム純度が99.95質量%以上で、BET比表面積が5〜150m2
gの範囲にある酸化マグネシウム原料粉末、又は焼成によって該酸化マグネシウム原料粉末を生成する、塩化マグネシウム粉末以外のマグネシウム化合物粉末を、塩素源の存在下、もしくは塩素含有気体の雰囲気下に、850℃以上の温度で焼成することを特徴とする請求項1に記載の塩素含有酸化マグネシウム粉末の製造方法。
【請求項7】
酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末を、純度が99.0質量%以上である塩化マグネシウム粉末の存在下にて焼成する請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末の焼成温度が1000〜1500℃の範囲にある請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
酸化マグネシウム原料粉末又はマグネシウム化合物粉末の焼成時間が10分以上である請求項6に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−47176(P2013−47176A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−209850(P2012−209850)
【出願日】平成24年9月24日(2012.9.24)
【分割の表示】特願2008−49786(P2008−49786)の分割
【原出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】