説明

塵芥収集車の消火装置及び流量調整装置

【課題】塵芥収容箱内で発生した火災の拡大抑制に有効に寄与するだけのガス放射量を長時間に亘って確保可能な消火装置を提供する。
【解決手段】塵芥収集車1の消火装置10は、消火用ガスが高圧で封入された高圧ガス容器11と、消火用ガスを塵芥収容箱2内に放射するガス放射ノズル14を接続する接続配管15上に設けられ、消火用ガスの流入口及び流出口を一つずつ有する流量調整装置20を備え、流量調整装置20は、管状本体21と、管状本体21の内部流路26上に可動に配設された可動部材22とを有する。可動部材22は、高圧ガス容器11から放出される消火用ガスの流入口20aへの流入圧が所定値以上の間には、内部流路26上の第1位置に停止して、消火用ガスを一定量流通させる第1ガス流路B1を形成し、流入口20aへの消火用ガスの流入圧が上記所定値を下回ったときには、第1位置から第2位置に移動して、消火用ガスの流通量を増大させるための第2ガス流路B2をさらに形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵芥収集車の塵芥収容箱内で発生した火災の消火又は拡大を抑制するために塵芥収集車に装備される消火装置、及び流量調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塵芥収集車は、車体に搭載された塵芥収容箱と、塵芥収容箱の後部開口に開閉自在に連結された塵芥投入箱と、塵芥投入箱の内部に装備された塵芥積込装置とを備え、塵芥投入箱に投入された塵芥を塵芥積込装置によって塵芥収容箱内に積み込んで収容するように構成されている。周知のように、塵芥積込装置は、揺動自在な押込板、及び押込板の下方に位置する回転自在な回転板を備えたいわゆる回転式と、昇降自在なパッカープレート、及びパッカープレートの下端部に揺動自在に設けられたプレスプレートを備えたいわゆるプレス式とに大別される。
【0003】
塵芥収集車で収集する塵芥には、紙やプラスチックなどの可燃性廃棄物の他に、ライターや可燃性ガスボンベなどの引火性廃棄物が混入していることがあり、引火性廃棄物が塵芥積込時の圧縮や摩擦等の影響で発火することによって塵芥収容箱内で火災が発生する場合がある。塵芥収容箱内で火災が発生した場合、塵芥投入箱の開閉動作を制御する制御系の構成部品が焼損等し、塵芥投入箱の開閉機能が損なわれるおそれがある。塵芥投入箱の開閉機能が損なわれると、消防隊が本格的な消火活動を実行する際に、塵芥収容箱もしくは塵芥投入箱を切断等することによって消火用の開口部を人為的に形成する必要が生じることから、消火活動を円滑に実行する上での妨げとなる。また、塵芥収容箱もしくは塵芥投入箱を切断等すると、これらが使用不能となることから、多大なメンテナンスコストが必要となり、ユーザ(塵芥収集車の保有者)の損害も甚大なものとなる。
【0004】
そこで、塵芥収容箱内で発生した火災の消火又は拡大を抑制するための手段として、下記の特許文献1には、消火用ガス放射式の消火装置が記載されている。詳しくは、塵芥収容箱内の後方側の天井部に設置したガス放射ノズルと、車体に搭載した2本の消火用圧力ガス容器とを接続パイプで接続し、特定の1本の消火用圧力ガス容器から供給された消火用ガスをガス放射ノズルから塵芥収容箱内の後部に放射し、当該1本の消火用圧力ガス容器からのガス放射で間に合わない場合においては、予め設定しておいた一定の時間経過と同時に、別の1本の消火用圧力ガス容器から供給された消火用ガスをガス放射ノズルから継続して放射するように構成されたものである。このような消火装置であれば、火災の拡大防止に有効とされる消火用ガスの放射量を比較的長時間に亘って維持することができるので、塵芥収容箱内で発生した火災の拡大を効果的に抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−284194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の消火装置において、消火用圧力ガス容器には、通常、二酸化炭素ガス等の消火用ガスが高圧で封入されている。この種のガスは、容器内に十分量残存している状態では液体であるため、放射の際、流量を制御(調整)する放射ノズルや流量絞り等の流量調整部までは液体で流れ、放射ノズルまたは流量絞りを通過した後は、圧力の低下により急速に気化する。つまり、この種の消火装置において、ガス容器内に十分量の消火用ガスが残存している状態での流量制御は、通常、単一の固定絞りを用いて液体の流量を制御することにより行われる。しかし、消火のために消火用ガスが供給(放出)されるにつれて容器内の圧力が低下し、ガス容器内の圧力が所定値を下回ると、ガス容器から供給(放出)された消火用ガスが液体から気体へと遷移する。本願発明者らが検証したところ、図7に示すように、消火用ガスとして二酸化炭素ガスを用いた場合、ガス容器内に残存する消火用ガスの重量が、当初封入量の20〜30%程度になった時点でガス容器から供給された消火用ガスが液体から気体へと遷移する。ガス容器から供給された消火用ガスは、液体から気体に遷移した後においてもノズル(または絞り)から放射され続けるが、気体の密度は液体のそれに比べて遥かに小さい。そのため、図7からも明らかなように、ガス容器から供給された消火用ガスが気体に遷移した後における(単位時間当たりの)ガス放射量は、ガス容器内に十分量の消火用ガスが残存している場合のそれに比べて少なく、ノズルから放射される消火用ガスが火災の消火又拡大抑制に有効に寄与しないという問題がある。
【0007】
上記のように、この種の消火装置においては、通常、ガス放射ノズルからのガス放射量を所定値に調整するための流量調整部(流量調整手段)が設けられている。しかしながら、従来の消火装置では、流量調整手段としていわゆる固定絞りを用いているため、ガス容器内の消火用ガスが気体に遷移した後には、消火用ガスの放射量が減少するものと考えられる。そこで、本願発明者らは、1つの流入口と、径の異なる2つの流出口とを有するいわゆる三方弁を接続配管上に配設することによって、上記した消火用ガスの放射量不足問題を解消すること(残存した消火用ガスの有効利用)を試みたが、配管作業が複雑化する他、別個の流路切り替え手段が必要となるために装置構成が複雑化する。従って、かかる対応を採用すると著しいコスト増を招来する。
【0008】
この他、火災の消火又は拡大抑制を図るための手段として、例えば、より高容量の消火用圧力ガス容器を搭載することが考えられるが、消火装置の大型化や重量増を招くために、設置スペースに制約のある塵芥収集車の消火装置に施す対策としては不適である。
【0009】
なお、立体駐車場などの建造物に設置される固定式の消火用ガス放射式消火装置においても、二酸化炭素ガス等の消火用ガスが液体から気体に遷移する際に大きな流量変動が生じるため、放射流量の均一化が求められる。しかしながら、この種の消火装置についても、塵芥収集車の消火装置同様に設置スペースに制約がある。
【0010】
本発明の第1の課題は、消火用ガスが高圧で封入された高圧ガス容器と、塵芥収容箱内に消火用ガスを放射するガス放射ノズルとを備えた塵芥収集車の消火装置において、これを大型化及び複雑化することなく、塵芥収容箱内で発生した火災の消火又は拡大抑制に有効に寄与するだけのガス放射量をガス放射の略全期間に亘って確保可能とすることにある。
【0011】
また、本発明の第2の課題は、消火用ガス放射式の消火装置の接続配管上に設けられる流量調整装置であって、いわゆる三方弁の機能を備えるものでありながら、消火装置の大型化や複雑化の防止に貢献することができるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の第1の課題を解決するために創案された本発明は、塵芥収容箱と、塵芥収容箱の後部に開閉自在に連結された塵芥投入箱と、塵芥投入箱の内部に装備された塵芥積込装置とを備えた塵芥収集車の消火装置であって、消火用ガスが高圧で封入された高圧ガス容器と、高圧ガス容器から放出された消火用ガスを塵芥収容箱内に放射するガス放射ノズルと、高圧ガス容器とガス放射ノズルを接続する接続配管上に設けられ、消火用ガスの流入口及び流出口を一つずつ有する流量調整装置とを備え、流量調整装置は、管状本体と、管状本体の内部流路上に可動に配設され、流入口への消火用ガスの流入圧に応じて管状本体に対する相対位置が変化する可動部材とを有し、可動部材は、流入口への消火用ガスの流入圧が所定値以上の間には、内部流路上の第1位置に停止して、消火用ガスを一定量流通させる第1ガス流路を形成し、流入口への消火用ガスの流入圧が上記所定値を下回ったときには、第1位置から第2位置に移動して、消火用ガスの流通量を増大させるための第2ガス流路をさらに形成することを特徴とする。ここで、消火用ガスとしては、二酸化炭素ガス、あるいは、二酸化炭素ガスと同様に液体として充填されるその他の消火用ガス、例えば、HFC23、HFC227ea、FC3110、又はこれらを適当な割合で混合した混合ガス等を用いることができる。
【0013】
塵芥収集車の消火装置がかかる構成を備えることにより、高圧ガス容器から供給(放出)された消火用ガスが気体に遷移する程度にまで高圧ガス容器内の消火用ガス残量が減少し、流入口への消火用ガスの流入圧が低下したときには、流量調整装置内の流路断面積が拡大するため、高圧ガス容器内に十分量の消火用ガスが残存している場合に比べて消火用ガスの流通量を増大させることができる。そのため、高圧ガス容器内のガス残量が少なくなった場合、ひいてはガス残量がほぼゼロになるまで、ガス放射ノズルから火災の消火又は拡大抑制に有効な量の消火用ガスを放射することが、すなわち、消火用ガス放射の全期間に亘って、略一定量の消火用ガスを放射することができる。従って、高圧ガス容器に封入された消火用ガスを最後まで無駄なく利用することができ、高圧ガス容器として高容量のものを使用せずとも、火災の拡大を効果的に防止することができる。
【0014】
また、流路断面積(ガス流通量)の調整部材として機能する可動部材は、流入口への消火用ガスの流入圧に応じて管状本体に対する相対位置が変化することから、消火用ガスの流通量を調整するうえで別途の切り替え手段を設ける必要はない。また、流量調整装置には流入口及び流出口が一つずつ設けられるに過ぎないことから、配管作業の複雑化を招くこともない。従って、消火装置に組み込まれる流量調整装置は、いわゆる三方弁の機能を具備するものでありながら、配管作業の簡便化や、消火装置の大型化防止に貢献することができる。
【0015】
上記構成において、流量調整装置は、可動部材よりも下流側に配置された静止部材と、静止部材と可動部材の間に介在し、可動部材を上流側に付勢した弾性部材とを備え、静止部材及び可動部材には、管軸方向に延びた大径絞り孔及び小径絞り孔がそれぞれ設けられ、第1ガス流路は、弾性部材が短縮して静止部材と可動部材とが軸方向で相互に当接し、大径絞り孔の上流側一端と小径絞り孔の下流側一端とが連続することにより形成され、第2ガス流路は、弾性部材が伸長して静止部材と可動部材との間に隙間が形成され、この隙間を介して、大径絞り孔の上流側一端と、小径絞り孔の外径側に設けた可動部材の軸方向両側を連通させる連通孔部の下流側一端とが連続することにより形成される構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、連通孔部の断面積は、大径絞り孔の断面積よりも大きく設定するのが望ましい。流入口への消火用ガスの流入圧が低下した場合においても、連通孔部および上記の隙間を流通して大径絞り孔に到達した消火用ガスの流速を速め、ガス放射ノズルから、火災の拡大抑制に有効な量(放射圧)で消火用ガスを放射可能とするためである。
【0017】
また、以上の構成において、流量調整装置は、流入口に配設されたフィルタ部材をさらに備えるものとすることができる。このような構成によれば、可動部材に設けた小径絞り孔等の目詰まりを可及的に防止して、消火装置の信頼性を高めることができる。
【0018】
また、上記第2の課題を解決するために創案された本発明は、消火用ガスが高圧で封入された高圧ガス容器と、高圧ガス容器から放出された消火用ガスを放射するガス放射ノズルとを接続する接続配管上に設けられ、消火用ガスの流入口及び流出口を一つずつ有する流量調整装置であって、管状本体と、管状本体の内部流路上に可動に配設され、流入口への消火用ガスの流入圧に応じて管状本体に対する相対位置が変化する可動部材とを有し、可動部材は、流入口への消火用ガスの流入圧が所定値以上の間には、内部流路上の第1位置に停止して、消火用ガスを一定量流通させる第1ガス流路を形成し、流入口への消火用ガスの流入圧が上記所定値を下回ったときには、第1位置から第2位置に移動して、消火用ガスの流通量を増大させるための第2ガス流路をさらに形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上に示すように、本発明に係る塵芥収集車の消火装置によれば、これを大型化及び複雑化することなく、塵芥収容箱内で発生した火災の消火又は拡大抑制に有効に寄与するだけのガス放射量をガス放射の略全期間に亘って確保することができる。
【0020】
また、本発明に係る流量調整装置であれば、いわゆる三方弁の機能を備えるものでありながら、消火用ガス放射式の消火装置の大型化や複雑化の防止に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る消火装置を装備した塵芥収集車の要部を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す消火装置のうち流量調整装置の初期状態を示す拡大断面図である。
【図3】図2に示す流量調整装置の作動状態を示す拡大断面図である。
【図4】図2に示す流量調整装置の作動状態を示す拡大断面図である。
【図5】(a)図は、図2中のX−X線矢視断面図であり、(b)及び(c)図は変形例に係る可動部材を用いたときの同矢視断面図である。
【図6】従来品と本発明品の流量比較を示す図である。
【図7】従来品における消火用ガスの設定流量と実測流量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態に係る消火装置10を装備した塵芥収集車1の要部を模式的に示す。同図に示す塵芥収集車1は、図示しない車体の後部側に搭載された塵芥収容箱2と、塵芥収容箱2の後部に開閉自在に連結された塵芥投入箱3と、塵芥投入箱3の内部に装備され、塵芥収容箱3に投入された塵芥を塵芥収容箱2に積み込むための図示外の塵芥積込装置とを備える。
【0024】
消火装置10は、塵芥収容箱2内で発生した火災の消火又は拡大防止を図るべく装備されているものであり、消火用ガスとしての二酸化炭素ガスが高圧で封入された高圧ガス容器11と、高圧ガス容器11の開放装置12と、開放装置12の作動を制御する制御盤13と、高圧ガス容器11から放出された消火用ガスを塵芥収容箱2内に放射するガス放射ノズル14と、高圧ガス容器11とガス放射ノズル14を接続する接続配管15上に設けられた流量調整装置20とを主要部として構成される。本実施形態では、塵芥収容箱2の天井部の前後方向略中央部にガス放射ノズル14を取り付けているが、ガス放射ノズル14の取り付け位置は任意に設定することができ、天井部の前方、天井部の後方、塵芥収容箱2の側部上方等に取り付けることもできる。
【0025】
この消火装置10は、次のように動作する。例えば作業者が塵芥収容箱2内での火災発生を了知し、制御盤13の起動ボタンを押すと、開放装置12に起動信号が入力されて開放装置12が作動する。これにより、高圧ガス容器11が開放されて高圧ガス容器11から二酸化炭素ガスが放出され、放出された二酸化炭素ガスは、接続配管15(流量調整装置20の上流側の接続配管15)を流通して流量調整装置20に流入する。流量調整装置20に流入した二酸化炭素ガスは、流量調整装置20内を流通することによって流量が調整されたうえで接続配管15(流量調整装置20の下流側の接続配管15)に流出し、流出した二酸化炭素ガスは、接続配管15を流通してガス放射ノズル14から塵芥収容箱2の内部空間に放射される。
【0026】
なお、消火装置10は、手動で高圧ガス容器11の開放及び閉鎖が切り替えられるようなものであっても構わない。すなわち、消火装置10は、開放装置12と制御盤13に代えて、手動の開閉切り替え弁が設けられたものであっても構わない。
【0027】
以下、流量調整装置20の構成について図2〜図5を参照しながら詳述する。なお、以下の説明においては方向性を示すために「上流側」及び「下流側」なる語句を使用する。「上流側」とは相対的に高圧ガス容器11に近接した側をいい、「下流側」とは相対的にガス放射ノズル14に近接した側をいう。図2〜図4においては、図中右側が上流側であり、図中左側が下流側である。
【0028】
図2は、初期状態、すなわち消火装置10が起動していない状態における流量調整装置20の断面図である。この流量調整装置20は、二酸化炭素ガスの流入口20a及び流出口20bをそれぞれ一つずつ有するものであって、管状本体21と、管状本体21の内部流路26上に可動に配設された可動部材22と、可動部材22の下流側で管状本体21に固定された静止部材23と、可動部材22と静止部材23の間に介設された弾性部材24と、流入口20aに配置されたフィルタ部材25とを備える。これら各構成部材21〜25は同軸配置されている。フィルタ部材25は、管状本体21の内部流路26(詳しくは、後述する小径絞り孔A2等)の目詰まりを防止するために設けられたものであり、例えば金属やセラミックス等の多孔質材料で形成することができる。
【0029】
弾性部材24は、例えば圧縮コイルばねで構成され、ここでは静止部材23の段部23bと可動部材22の下流側端面22bとの間に介設されて可動部材22を常時上流側に付勢している。そのため、流入口20aへの二酸化炭素ガスの流入圧に応じて弾性部材24が短縮及び伸長動作することにより、可動部材22が管状本体21の内部流路26上を移動し、管状本体21に対する可動部材22の相対位置が変化する。具体的には、流入口20aへの二酸化炭素ガスの流入圧、すなわち可動部材22を下流側に加圧する加圧力が弾性部材24の弾性復元力(可動部材22が上流側へ移動しようとする力)を上回る場合、可動部材22は、その下流側端面22bが静止部材23の上流側端面23aと当接するまで下流側に移動可能で(図3を参照)、弾性部材24の弾性復元力が可動部材22を下流側に加圧する加圧力を上回っている場合、可動部材22は、管状本体21の突起部21aと軸方向で係合するまで上流側に移動可能である。
【0030】
可動部材22と静止部材23の軸心上には、管軸方向に延び、相対的に小径の小径絞り孔A2と相対的に大径の大径絞り孔A1とがそれぞれ設けられている。本実施形態において、小径絞り孔A2は、全長に亘って径一定に形成されている。但し、小径絞り孔A2のうち上流側の一部分は、加工性向上の観点から、その他の部分よりも大径に形成することも可能である。一方、大径絞り孔A1は、下流側に向かって漸次縮径したテーパ部と、テーパ部の下流端に繋がった径一定のストレート部とで構成される。ストレート部は、高圧ガス容器11内のガス残量が少なくなったとき(高圧ガス容器11から放出される二酸化炭素ガスが気体に遷移したとき)における二酸化炭素ガスの流量調整孔として機能する。従って、ストレート部の断面積(孔径)を調整することにより、ガス放射終了間際のガス放射量を設定することができる。なお、テーパ部の最上流部の面積(大径絞り孔A1の最上流部の開口面積)を変えることにより、可動部材22に作用する圧力の大きさ、すなわち可動部材22が軸方向移動を開始するタイミング、さらに言えば二酸化炭素ガスの流通量を増大させるタイミングを調整することができる。
【0031】
図5(a)にも示すように、本実施形態における可動部材22の外径寸法は管状本体21の内径寸法よりも十分量小さく、従って可動部材22の外周面22cと管状本体21の内周面21bとの間には所定幅で管軸方向に延びた半径方向隙間が形成されている。この半径方向隙間は、図3及び図4に示すように、可動部材22が下流側に移動することによって可動部材22と管状本体21の突起部21aとの軸方向係合関係が解消された際、小径絞り孔A2の外径側で可動部材22の軸方向両側を連通させる連通孔部A3として機能する。連通孔部A3として機能する半径方向隙間の隙間幅は、連通孔部A3の断面積が、大径絞り孔A1のストレート部の断面積よりも大きくなるように設定される。
【0032】
可動部材22は、流入口20aへの二酸化炭素ガスの流入圧(高圧ガス容器11からの二酸化炭素の放出圧)が所定値以上の間、例えば、高圧ガス容器11内に二酸化炭素ガスが十分量残存し、二酸化炭素ガスが液体の状態で高圧ガス容器11内に存在している間には、内部流路26上の第1位置に停止して、二酸化炭素ガスを一定量流通させる第1ガス流路B1を形成する(図3を参照)。本実施形態においては、弾性部材24が短縮して可動部材22の下流側端面22bが静止部材23の上流側端面23aに当接する位置が第1位置に相当し、可動部材22が第1位置に停止している間、大径絞り孔A1の上流側一端と小径絞り孔A2の下流側一端とが連続することによって第1ガス流路B1が形成される。
【0033】
また、可動部材22は、流入口20aへの二酸化炭素ガスの流入圧が上記の所定値を下回ったとき、例えば、高圧ガス容器11から放出される二酸化炭素ガスが液体の状態から気体に遷移する程度にまで高圧ガス容器11内のガス残量が少なくなったときには、上記した内部流路26上の第1位置から第2位置に移動して、二酸化炭素ガスの流通量を増大させるための第2ガス流路B2をさらに形成する(図4を参照)。本実施形態においては、弾性部材24が伸長動作して可動部材22が上流側に移動し、可動部材22の下流側端面22bが静止部材23の上流側端面23aと非当接で、かつ、可動部材22の上流側端面22aが管状本体21の突起部21aと非当接となる位置が第2位置に相当する。可動部材22が第2位置に位置している間、静止部材23の上流側端面23aと可動部材22の下流側端面22bとの間に隙間27が形成され、この隙間27を介して大径絞り孔A1の上流側一端と連通孔部A3の下流側一端とが連続する(厳密には、さらに、可動部材22の上流側端面22aと管状本体21の突起部21aとの間に隙間が形成され、この隙間を介して連通孔部A3の上流側一端と流入口20aとが連通する)ことによって第2ガス流路B2が形成される。
【0034】
以上のことから、流入口20aへの二酸化炭素ガスの流入圧、すなわち可動部材22を下流側に加圧する加圧力に応じて適宜短縮及び伸長する弾性部材24を選択使用することにより、また、大径絞り孔A1の最上流部の開口面積を調整等することにより、第1ガス流路B1のみが形成される場合と、第1ガス流路B1に加えて第2ガス流路B2が形成される場合とが切り替えられる。なお、弾性部材24としては、例えば、可動部材22を下流側に加圧する加圧力が2.5〜4.3MPaを下回ったときに伸長動作を開始するものを使用することができる。
【0035】
以上に示した流量調整装置20においては、高圧ガス容器11から供給(放出)された二酸化炭素ガスが気体に遷移する程度にまで高圧ガス容器11内のガス残量が減少し、流入口20aへの二酸化炭素ガスの流入圧が低下したときには、流量調整装置20内のガス流路断面積が拡大するため、高圧ガス容器11内に二酸化炭素ガスが大容量残存している場合に比べて大流量のガスを流通させることができる。そのため、高圧ガス容器11内のガス残量が少なくなった場合、ひいてはガス残量がほぼゼロになるまで、ガス放射ノズル14から火災の消火又は拡大抑制に有効な量の二酸化炭素ガスを放射することができる(二酸化炭素ガス放射の全期間に亘って、略一定量の消火用ガスを放射することができる)。従って、高圧ガス容器11内に封入された二酸化炭素ガスを最後まで無駄なく利用することができ、高圧ガス容器11として高容量のものを使用せずとも、塵芥収容箱2内で発生した火災の拡大を効果的に防止することができる。
【0036】
また、流路断面積(ガス流通量)の調整部材として機能する可動部材22は、流入口20aへの二酸化炭素ガスの流入圧に応じて管状本体21に対する相対位置が変化することから、二酸化炭素ガスの流通量を調整するうえで別途の切り替え手段を設ける必要はない。また、流量調整装置20には二酸化炭素ガスの流入口20a及び流出口20bが一つずつ設けられるに過ぎないことから、配管作業の複雑化を招くことがなく、しかも流量調整装置20を構成する各部材21〜25が同軸に配置されることから、流量調整装置20をコンパクトな構造とすることができる。従って、消火装置10に組み込まれる流量調整装置20は、いわゆる三方弁の機能を具備するものでありながら、配管作業の簡便化、消火装置10の簡素化等に貢献することができるものである。
【0037】
さらに、連通孔部A3の断面積を、大径絞り孔A1の断面積よりも大きく設定したことから、流入口20aへの二酸化炭素ガスの流入圧が低下した場合においても、連通孔部A3および隙間27を流通して大径絞り孔A1に到達した二酸化炭素ガスの流速を速め、ガス放射ノズル14から、火災の拡大抑制に有効な量(放射圧)で二酸化炭素ガスを放射することができる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態に係る消火装置10について説明を行ったが、消火装置10、特に流量調整装置20には種々の変更を施すことが可能である。例えば、以上に示した実施形態では、第2ガス流路B2の一部を構成する連通孔部A3を、可動部材22の外周面22cと管状本体21の内周面21bとの間の半径方向隙間で構成したが、図5(b)に示すように、可動部材22の外周面22cの円周方向一又は複数箇所(図示例は4箇所)に軸方向溝22dを形成し、この軸方向溝22dと管状本体21の内周面21bとで連通孔部A3を構成することができる。また、連通孔部A3は、図5(c)に示すように、可動部材22の両端面22a,22bに開口するように形成した貫通孔22eで構成することもできる。なお、図5(b)(c)に示す構成を採用する場合、流量調整を適切に実行する上では、軸方向溝22d及び貫通孔22eを大径絞り孔A1の上流側一端よりも所定量外径側に形成するのが肝要である。
【0039】
また、図示は省略するが、互いに当接する可動部材22の下流側端面22bと静止部材23の上流側端面23aの何れか一方又は双方には、シール部材を設けても良い。このようにすれば、可動部材22の下流側端面22bと静止部材23の上流側端面23aとが当接することによって可動部材22が第1位置に停止し、流量調整装置20内に第1ガス流路B1のみが形成されたときに、連通孔部A3を流通する二酸化炭素ガスが大径絞り孔A1に流入するのを可及的に防止することができるので、二酸化炭素ガスの放射量に設計値からの狂いが生じるのを可及的に防止することができる。
【0040】
また、以上で示した流量調整装置20は、いわゆる三方弁の機能を備えるものでありながら、高圧ガス容器とガス放射ノズルを接続する接続配管上への介設作業の簡便化等を達成することができることから、塵芥収集車1の消火装置10と同様に設置スペースに制約のある立体駐車場等の建造物に設置される固定式の消火用ガス放射式消火装置にも好ましく装着することができる。
【実施例】
【0041】
本発明の有用性を実証するため、図2に示す流量調整装置20を組み込んだ消火装置10(本発明品)と、流量調整装置としていわゆる固定絞りを組み込んだ消火装置(従来品)とを作動させ、両者間で二酸化炭素ガスの放射量を比較した。図6に示すように、本発明品では、ガス放射開始後から6分程度経過し、ガス容器内のガス残量がほぼゼロになるまでの間、ガス容器内の二酸化炭素ガス重量がほぼ一定の比率で減少する。これに対し従来品では、ガス放射開始後から4分程度経過し、ガス容器内に今だ当初封入量の30%程度の二酸化炭素ガスが残量している時点、すなわちガス容器内に封入された二酸化炭素ガスが気体に遷移し始めた時点から、二酸化炭素ガスの減少比率が急激に鈍化する。そのため、本発明品では、有効放射時間(火災の拡大抑制に有効な量のガス放射を実行することができる時間)がガス放射開始後から6分程度確保されるのに対し、従来品では、ガス放射開始後から4分程度しか確保されない。従って、本発明によれば、消火用ガス放射の全期間に亘って略一定量の消火用ガスを放射することができる(高圧ガス容器に封入された消火用ガスを最後まで無駄なく利用することができる)ので、高圧ガス容器として高容量のものを使用せずとも、火災の拡大を効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 塵芥収集車
2 塵芥収容箱
3 塵芥投入箱
10 消火装置
11 高圧ガス容器
14 ガス放射ノズル
15 接続配管
20 流量調整装置
20a 流入口
20b 流出口
21 管状本体
22 可動部材
23 静止部材
24 弾性部材
25 フィルタ部材
26 内部流路
27 隙間
A1 大径絞り孔
A2 小径絞り孔
A3 連通孔部
B1 第1ガス流路
B2 第2ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塵芥収容箱と、該塵芥収容箱の後部に開閉自在に連結された塵芥投入箱と、該塵芥投入箱の内部に装備された塵芥積込装置とを備えた塵芥収集車の消火装置であって、
消火用ガスが高圧で封入された高圧ガス容器と、該高圧ガス容器から放出された消火用ガスを前記塵芥収容箱内に放射するガス放射ノズルと、前記高圧ガス容器と前記ガス放射ノズルを接続する接続配管上に設けられ、消火用ガスの流入口及び流出口を一つずつ有する流量調整装置とを備え、
前記流量調整装置は、管状本体と、該管状本体の内部流路上に可動に配設され、前記流入口への消火用ガスの流入圧に応じて前記管状本体に対する相対位置が変化する可動部材とを有し、
前記可動部材は、前記流入口への消火用ガスの流入圧が所定値以上の間には、前記内部流路上の第1位置に停止して、消火用ガスを一定量流通させる第1ガス流路を形成し、前記流入口への消火用ガスの流入圧が前記所定値を下回ったときには、前記第1位置から第2位置に移動して、消火用ガスの流通量を増大させるための第2ガス流路をさらに形成することを特徴とする塵芥収集車の消火装置。
【請求項2】
前記流量調整装置は、前記可動部材よりも下流側に配置された静止部材と、該静止部材と前記可動部材の間に介在し、前記可動部材を上流側に付勢した弾性部材とを備え、
前記静止部材及び前記可動部材には、管軸方向に延びた大径絞り孔及び小径絞り孔がそれぞれ設けられ、
前記第1ガス流路は、前記弾性部材が短縮して前記静止部材と前記可動部材とが軸方向で相互に当接し、前記大径絞り孔の上流側一端と前記小径絞り孔の下流側一端とが連続することにより形成され、
前記第2ガス流路は、前記弾性部材が伸長して前記静止部材と前記可動部材との間に隙間が形成され、該隙間を介して、前記大径絞り孔の上流側一端と、前記小径絞り孔の外径側に設けた前記可動部材の軸方向両側を連通させる連通孔部の下流側一端とが連続することにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の塵芥収集車の消火装置。
【請求項3】
前記連通孔部の断面積を、前記大径絞り孔の断面積よりも大きく設定した請求項2に記載の塵芥収集車の消火装置。
【請求項4】
前記流量調整装置は、前記流入口に配設されたフィルタ部材をさらに備える請求項1〜3の何れか一項に記載の塵芥収集車の消火装置。
【請求項5】
消火用ガスが高圧で封入された高圧ガス容器と、該高圧ガス容器から放出された消火用ガスを放射するガス放射ノズルとを接続する接続配管上に設けられ、消火用ガスの流入口及び流出口を一つずつ有する流量調整装置であって、
管状本体と、該管状本体の内部流路上に可動に配設され、前記流入口への消火用ガスの流入圧に応じて前記管状本体に対する相対位置が変化する可動部材とを有し、
前記可動部材は、前記流入口への消火用ガスの流入圧が所定値以上の間には、前記内部流路上の第1位置に停止して、消火用ガスを一定量流通させる第1ガス流路を形成し、前記流入口への消火用ガスの流入圧が前記所定値を下回ったときには、前記第1位置から第2位置に移動して、消火用ガスの流通量を増大させるための第2ガス流路をさらに形成することを特徴とする流量調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−46303(P2012−46303A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189331(P2010−189331)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000192073)株式会社モリタホールディングス (80)
【Fターム(参考)】