説明

塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材

【課題】粒子状浮遊物質を効率よく捕集するエレクトレット化された従来のフィルターでは、捕集した粒子状浮遊物質を容易に除去することが困難なため、経時的に捕集効率の低下や圧力損失の上昇を招いており、長期にわたる高い捕集効率、低い圧力損失のフィルターが求められていた。
【解決手段】 樹脂繊維からなる基体と、不飽和結合又は反応性官能基を有するシランモノマーで被覆された誘電体の無機微粒子を含み基体の表面部に備わる薄膜とを有し、薄膜内の無機微粒子同士は、互いのシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基が化学結合することにより、薄膜を形成するとともに、薄膜内の無機微粒子のシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基と基体の表面部とが化学結合することにより、基体と薄膜とが固定されてなる塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦やコロナ放電処理により帯電した粒子状浮遊性物質からなる塵や埃を捕集し、且つ、捕集した塵や埃が容易に除去できる繊維からなる塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スギ花粉やダニの死骸、カビの胞子、或いは、ハウスダストなどの浮遊性物質による様々なアレルギー疾患が社会的な大きな問題になってきている。これらの粒子状浮遊性物質は、室内の環境汚染を引き起こす新たな原因となることから、室内環境の浄化のために、掃除機や空気清浄機などにはサブミクロンオーダーの粒子状浮遊性物質を効率良く捕集するための、エレクトレット化した繊維を利用したHEPAフィルターが用いられている。これらフィルターは、その捕集原理や構造に起因し、長期間使用すると捕集した粒子状浮遊性物質により目詰まりが発生し、捕集効率の低下や圧力損失の上昇などを招くことが一般に知られている。
【0003】
一般に、サブミクロンオーダーの粒子状浮遊性物質を効率良く捕集するためには、捕集効率に優れたエレクトレット化された繊維を使用したフィルターが用いられている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。エレクトレット化する方法はコロナ放電により電子を繊維に注入して双極子の配向などを生じさせる方法や、2種類以上の異なる繊維を摩擦させ、その際に生ずる摩擦帯電を利用する方法などがある。これらの方法でエレクトレット化すると、繊維材料の種類にもよるが、永久帯電させることが可能であり、効率よく粒子状浮遊性物質の捕集が長期間可能とされている。
【特許文献1】特開平1−287914号公報
【特許文献2】特開2001−214327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エレクトレット化された繊維による捕集の原理は、帯電した繊維表面の静電気の吸引力で粒子状浮遊性物質を捕集するものであり、捕集された粒子状浮遊性物質は、永久帯電したポリプロピレンや、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンなどのポリオレフィン系樹脂からなる繊維の表面に静電気の吸引力で付着している。よって、これら繊維表面に付着した粒子状浮遊性物質は容易に除去することが困難であり、使用経時と供にフィルター表面に捕集された粒子状浮遊性物質は堆積して目詰まりを発生させ、捕集効率の低下や圧力損失の上昇などを招く大きな原因である。
【0005】
従って、帯電していても堆積した粒子状浮遊性物質がフィルター表面から容易に除去可能であれば、捕集効率の低下や圧力損失の上昇を抑制可能なフィルターの提供が可能であるが、現状では、繊維表面が帯電し、且つ、フィルターの清掃時等に静電気により捕集した粒子状浮遊性物質がフィルターの繊維表面から容易に除去できる性能(以下、「塵離れ性」とする)に優れたフィルター用部材に関する提案はない。
【0006】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、シランモノマーで被覆された誘電体の無機微粒子を、樹脂繊維表面に固定化することで、コロナ放電や摩擦により容易に帯電し、粒子状浮遊性物質を効率よく捕集し、且つ、フィルターの清掃時等に捕集された粒子状浮遊性物質はフィルターの繊維表面から容易に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の発明は、樹脂繊維からなる基体と、不飽和結合又は反応性官能基を有するシランモノマーで被覆された誘電体の無機微粒子を含み基体の表面部に備わる薄膜とを有し、薄膜内の無機微粒子同士は、互いのシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基が化学結合することにより、薄膜を形成するとともに、薄膜内の無機微粒子のシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基と基体の表面部とが化学結合することにより、基体と薄膜とが固定されてなることを特徴とする塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材を提供するものである。
【0008】
また、本発明は上記第1の発明において、薄膜は、モノマー、オリゴマー、ポリマーからなる群から選択された少なくとも一つの誘電性を有する化合物を含むことを特徴とする塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材を提供するものである。
【0009】
さらに、本発明は、上記第1または第2の発明において、薄膜は、表面上に、誘電性を有する化合物を含んでなる被膜が形成されてなることを特徴とする塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明は、上記第1から第3のいずれかの発明において、薄膜は、無機微粒子が単一または複数で島状に点在することにより形成された空隙部を有し、該空隙部を介して、基体の表面の一部が露出している塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材を提供するものである。
【0011】
さらに、本発明は、上記第1から第4のいずれかの発明において、化学結合は、グラフト重合であることを特徴とする塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材を提供するものである。
【0012】
さらに、本発明は、上記第5の発明において、グラフト重合は、放射線グラフト重合であることを特徴とする塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、誘電体の無機微粒子からなる薄膜が、少なくとも表面が樹脂からなる基体の繊維表面に、無機微粒子表面に被覆された不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマーにより、化学結合により固定化され、且つ、無機微粒子同士もシランシランモノマーにより結合して形成されていることから、コロナ放電による電子注入や、繊維やフィルムなどによる摩擦によって帯電させることが可能となり、これより、粒子状浮遊性物質を静電気の吸引力で捕集することが可能となる。
【0014】
さらに、誘電体の無機微粒子からなる薄膜の表面は、ナノオーダーの微小な凹凸が形成されているので、捕集されて付着した粒子状浮遊性物質の付着面積は極めて少なくなり、優れた塵離れ性を発現するので、掃除機、エアコン、空気清浄機、ビル用空調機、クリーンルーム用空調機などに好適な、低圧力損失で捕集効率の高いフィルター用部材が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下に、本発明の実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材について詳述する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材100の断面の一部を拡大した図である。本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材100は、基体1上に誘電体の無機微粒子2が、無機微粒子2の表面に被覆された不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマー3を介して、無機微粒子同士が結合し、且つ、基体1の表面に固定されることにより構成されている。
【0017】
なお、図1では本発明の実施形態を判りやすく模式的に示すため、誘電体の無機微粒子を含む薄膜10を1種類の微粒子で形成した図で表したが、誘電体の無機微粒子層10を2種類以上の微粒子で形成してもよい。
【0018】
本実施形態の誘電体の無機微粒子2の最表面には、不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマー3が、不飽和結合や反応性官能基を無機微粒子2の外側に向けて配向して結合し、被覆を形成している。シランモノマー3の片末端であるシラノール基は親水性であるため、親水性である無機微粒子2の表面に引きつけられる。一方、逆末端の不飽和結合や反応性官能基は疎水性であるため、無機微粒子2の表面から離れようとする。このため、シランモノマー3のシラノール基は、無機微粒子2の表面に脱水縮合により結合し、シランモノマー3は不飽和結合や反応性官能基を外側に向けて配向する。
【0019】
具体的な処理方法としては、シランモノマー3を、無機微粒子2を有機溶剤に分散させた溶液に加えて、粉砕により微粒子化した後、上記分散溶液を固液分離して、得られた無機微粒子2を100℃から180℃で加熱して、シランモノマー3を無機微粒子2の表面に結合させる方法がある。また、無機微粒子2を有機溶剤に分散させた溶液に、シランモノマー3を加えて、粉砕により微粒子化した後に、上記分散溶液を、冷却管を備えたフラスコに移して、フラスコをオイルバスで加熱処理することにより、シランモノマー3を無機微粒子2の表面に結合させる方法がある。
【0020】
無機微粒子2表面へのシランモノマー3の縮合反応による導入量は、無機微粒子2の表面の0.5〜100%を、シランモノマー3により被覆するようにすれば良い。
【0021】
なお、無機微粒子の径、及びその他上記各種材料の微粒子径については本実施形態の方法によって作成すれば特に限定されないが、後述するグラフト重合を好適に行うには、無機微粒子径の平均の粒子径を300nm以下とすることが好ましい。さらに、平均の粒子径が100nm以下であれば、基体1へのより強固な結合が達成されるため、耐久性の点より一層好適である。
【0022】
本実施形態のフィルター用部材100に用いられる基体1を構成する材料としては、不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマー3による化学結合4が可能なものであれば良い。このような材料としては、例えば、各種樹脂や、合成繊維や、天然繊維などが挙げられる。
【0023】
本実施形態では、基体1を構成する樹脂の形態は、繊維状材料から構成される織物・編物・不織布などを含む繊維構造体が適用できる。基体1を構成する合成繊維の例としては、ポリエステル繊維や、ポリアミド繊維や、ポリビニルアルコール繊維や、アクリル繊維や、塩化ビニル繊維や、塩化ビニリデン繊維や、ポリオレフィン繊維や、ポリカーボネート繊維や、フッソ繊維や、ポリ尿素繊維や、エラストマー繊維や、ベックリー(登録商標)や、これら繊維を構成する材料と上記樹脂材料との複合繊維などが挙げられる。
【0024】
本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材100に用いられる誘電体の無機微粒子2としては、非金属酸化物、金属酸化物、金属複合酸化物などが用いられる。また、無機微粒子2の結晶性は、非晶性あるいは結晶性のどちらでも良い。非金属酸化物としては、酸化珪素が挙げられる。また、金属酸化物としては、酸化マグネシウムや、酸化バリウムや、過酸化バリウムや、酸化アルミニウムや、酸化スズや、酸化チタンや、酸化亜鉛や、過酸化チタンや、酸化ジルコニウムや、酸化鉄や、水酸化鉄や、酸化タングステンや、酸化ビスマスや、酸化インジウムが挙げられる。また、金属複合酸化物としては、酸化チタンバリウムや、酸化コバルトアルミニウムや、酸化ジルコニウム鉛や、酸化ニオブ鉛や、TiO2−WO3や、AlO−SiOや、WO−ZrOや、WO−SnOなどが挙げられる。
【0025】
無機微粒子2の表面には、Au、Pt、Pd、Rh、Ruなどの貴金属からなる触媒微粒子や、Ni、Co、Mo、W、Mn、Cu、V、Seなどの酸化物微粒子などからなる触媒微粒子が付着されてあっても良い。
【0026】
本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材は、誘電体の無機微粒子2からなる薄膜10を、不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマー3により、上述した基体1上に化学結合4(図中の黒丸部)により固定するものである。
【0027】
具体的なシランモノマー3が有する不飽和結合や反応性官能基としては、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基、チオール基などが挙げられる。
【0028】
本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材は、反応性に優れたシランモノマー3を用いることで、無機微粒子2を、シランモノマー3が有するシラノール基の脱水縮合反応による無機微粒子2の化学結合と上記官能基の基体1の繊維表面への、後述するグラフト重合による化学結合5により、基体1の表面に結合せしめたフィルター用部材である。
【0029】
本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材100で用いられるシランモノマー3の一例としては、ビニルトリメトキシシランや、ビニルトリエトキシシランや、ビニルトリアセトキシシランや、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランや、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−ア
ミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩や、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランや、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランや、p−スチリルトリメトキシシランや、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランや、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランや、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランや、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランや、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランや、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0030】
シランモノマー3は、一種もしくは二種以上混合して用いられる。シランモノマー3の使用形態としては、必要量のシランモノマー3を、メタノールや、エタノールや、アセトンや、トルエンや、キシレンなどの有機溶剤に溶解することにより用いられる。また、分散性を改善するために、塩酸や、硝酸などの鉱酸などが加えられる。
【0031】
用いられる溶剤としては、エタノールやメタノールやプロパノールやブタノールなどの低級アルコール類や、蟻酸やプロピオン酸などの低級アルキルカルボン酸類や、トルエンやキシレンなどの芳香族化合物や、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類や、メチルセルソルブやエチルセルソルブなどのセロソルブ類を単独または複数組み合わせて用いても良い。
【0032】
本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材100に用いられる無機微粒子2は、前述したシランモノマー3の溶液に分散した状態で、製造に用いられる。無機微粒子2の分散は、ホモミキサーやマグネットスターラーなどを用いた撹拌分散や、ボールミルやサンドミルや高速回転ミルやジェットミルなどを用いた粉砕・分散、超音波を用いた分散などにより行われる。
【0033】
また、無機微粒子2は、分散したコロイド状分散液や、粉砕により微粒子化して得られた分散液の状態で、塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材100の製造に用いられる。無機微粒子2の分散液は、コロイド状分散液や粉砕して得られた分散液に、シランモノマー3を加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子2の表面にシランモノマー3を脱水縮合反応により結合させてシランモノマー3からなる被覆を形成する方法や、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー3を加えた後、或いは、シランモノマー3を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱して、シランモノマーを無機微粒子2の表面に脱水縮合反応により結合させ、次いで、粉砕・解砕して再分散して用いられる。
【0034】
粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー3を加えた後、或いは、シランモノマー3を加えて粉砕により微粒子化した後に、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー3を無機微粒子2の表面に反応結合させる場合には、無機微粒子2の表面へのシランモノマーの被覆率が、0.5%から100%であれば、無機微粒子2の少なくとも表面が樹脂からなる基体1の表面への結合強度は実用上問題ない。
【0035】
次に、基体1と、表面にシランモノマーが結合した誘電体の無機微粒子2同士および基体1とを化学結合する方法について説明する。本実施形態においては、化学結合させる方法として、グラフト重合による結合方法を用いるのがよい。
【0036】
本実施形態のフィルター用部材100におけるグラフト重合としては、例えばパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合や、熱や光エネルギーを用いるグラフト重合や、放射線によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられる。
【0037】
このうち、重合プロセスの簡便性や、生産スピード等の観点より、放射線グラフト重合が特に適している。ここで、グラフト重合において用いられる放射線としては、α線や、β線や、γ線や、電子線や、紫外線などを挙げることができるが、本実施形態において用いるには、γ線や、電子線や、紫外線が特に適している。
【0038】
本実施形態でのグラフト重合を用いたフィルター用部材100は、以下に記した方法により好適に製造される。
【0039】
本実施形態における第一の好適な方法は、次の通りである。まず、シランモノマー3が化学結合した無機微粒子2が分散した溶液を、結合しようとする基体1の表面(樹脂面)に塗布し、必要に応じて溶剤を加熱乾燥などの方法により除去する。その後、γ線や、電子線や、紫外線などの放射線を、シランモノマー3が化学結合した無機微粒子2が塗布された基体1の表面に照射することで、シランモノマー3を基体1の表面にグラフト重合させると同時に無機微粒子2を結合させる所謂同時照射グラフト重合を行う。
【0040】
また、本実施形態における第二の好適な方法は、次の通りである。まず、予め基体1の表面にγ線や、電子線や、紫外線などの放射線を照射する。その後に、シランモノマー3が化学結合した無機微粒子2が分散した溶液にバインダー成分4を添加し、充分に混合した溶液を、基体1の表面に塗布することで、シランモノマー3と基体1とを反応させると同時に無機微粒子2を結合させる所謂前照射グラフト重合を行う。
【0041】
本実施形態では、上述したように、固定化する無機微粒子2が分散した溶液を、固定化する基体1の表面に塗布してフィルター用部材を製造する。
【0042】
具体的な無機微粒子2の分散液の塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法や、ディップコート法や、スプレーコート法や、キャストコート法や、バーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法を用いればよい。また、部分的に塗布する方法として、スクリーン印刷法や、パッド印刷法や、オフセット印刷法や、ドライオフセット印刷法や、フレキソ印刷法や、インクジェット印刷法などの様々な方法が用いられ、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0043】
また、シランモノマー3のグラフト重合を効率良く、かつ、均一に行わせるために、予め、基体1の表面を、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による化学的な処理、などにより親水化処理しても良い。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材100によれば、誘電体の無機微粒子を含む薄膜10が、少なくとも表面が樹脂からなる基体1の繊維表面に、無機微粒子表面を被覆した不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマー3により、化学結合により固定化され、且つ、無機微粒子同士もシランモノマーにより結合して形成されていることから、コロナ放電による電子注入や、繊維やフィルムなどによる摩擦によって帯電させることが可能となることから、粒子状浮遊性物質を静電気の吸引力で捕集することが可能となる。
【0045】
さらに、誘電体の無機微粒子を含む薄膜10の表面は、ナノオーダーの微小な凹凸が形成されているので、捕集されて付着した粒子状浮遊性物質の付着面積は極めて少なくなり、優れた塵離れ性を発現する。よって、誘電体の無機微粒子を含む薄膜10の表面に付着した粒子状浮遊性物質は振動や衝撃或いは掃除機などの吸引により容易に脱離させることが可能となるので、低圧力損失で捕集効率に優れた、且つ、捕集した粒子状浮遊性物質の堆積が防止できるフィルターとして、空気清浄機やエアコン、掃除機などに応用ができるものである。
【0046】
さらに、基体1の表面に対して、反応性に優れた不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマー3を無機微粒子2の表面に脱水縮合反応で化学的に結合させて不飽和結合や反応性官能基を導入し、無機微粒子2の表面に導入した不飽和結合や反応性官能基同士または基体1の樹脂表面と反応させて無機微粒子2を固定化している。これにより、本実施形態のフィルター用部材100においては、シランモノマー3で被覆した無機微粒子2同士及び無機微粒子2と基体1とが強力に結合しており、耐久性に優れていることから、帯電性や塵離れ効果が長期間維持できるものである。
【0047】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材200について図2を用いて詳述する。
【0048】
図2は、本発明の第2実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材200の断面の一部を拡大した図である。本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材200は、シランモノマー3で被覆された誘電体の無機微粒子2で形成された誘電体の無機微粒子を含む薄膜20の中および表面に、モノマー、オリゴマー、ポリマーの少なくとも何れかを含む誘電性を有する化合物が分散した状態で複合化されている点が、本発明の第1実施形態のフィルター用部材100と相違する。
【0049】
以下、本発明の第1実施形態のフィルター用部材100との相違点である、製法及び部材の構成について説明をする。また、基体や微粒子の素材や製法に関して、本発明の第1実施形態のフィルター用部材と共通する点については、説明を省略する。
【0050】
本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材200では、誘電体の無機微粒子2からなる薄膜20の中に、モノマー、オリゴマー、ポリマーの少なくとも何れかを含む誘電性を有する化合物5を含んでいることが大きな特長である。
【0051】
具体的な誘電性を有する化合物5としては、不飽和結合や反応性官能基を有する単官能、2官能、多官能のビニル系モノマー、例えば、アクリル酸、メチルメチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、イタコン酸、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが用いられる。
【0052】
さらに、誘電性を有する化合物5としては、不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマーである、例えば、ビニルトリメトキシシランや、ビニルトリエトキシシランや、ビニルトリアセトキシシランや、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが用いられる。
【0053】
さらに、誘電性を有する化合物5としては、Si(OR1)4(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシラン化合物、例えば、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシランなどや、R2nSi(OR3)4n(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、例えば、メチルトリルメトキシシランや、メチルトリエトキシシランや、ジメチルジエトキシシランや、フェニルトリエトキシシランや、ヘキサメチルジシラザンや、ヘキシルトリメトキシシランなどが用いられる。
【0054】
さらに、誘電性を有する化合物5としては、例えば、ステアリン酸アクリレートや、反応性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、反応性シリコーンオリゴマー、例えば、松下電器産業株式会社製フレッセラDが用いられる。
【0055】
さらに、誘電性を有する化合物5としては、フッ素系化合物として、パーフルオロアルキル基を有するアクリル単量体、例えば、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロノリル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレートや、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、パーフルオロオクチルエチルメタクリレートや、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、3−パーフルオロデシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどが用いられる。
【0056】
さらに、誘電性を有する化合物5としては、フッ素系化合物として、その他のフッ素化合物、例えば、2−パーフルオロオクチルエタノールや、2−パーフルオロデシルエタノールや、2−パフルオロアルキルエタノールや、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)や、パーフルオロアルキルアイオダイドや、パーフルオロオクチルエチレンや、2−パーフルオロオクチルエチルホスホニックアシッドなどが用いられる。
【0057】
さらに、誘電性を有する化合物5としては、フッ素系化合物として、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF11(CHSi(OCHや、CF(CF15(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCや、CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCH、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCや、CH(CF(CHSi(OCや、CF(CFCONH(CHSi(OCHや、CF(CFCONH(CHSiCH(OCHや、パーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー、例えば、KP−801M(信越化学工業株式会社製)や、X−24−7890(信越化学工業株式会社製)や、パーフルオロブテルビニルエーテルおよびその重合体などが用いられる。
【0058】
さらに、誘電性を有する化合物5としては、不飽和ポリエステルや、不飽和アクリルや、エポキシアクリレートや、ウレタンアクリレートや、ポリエステルアクリレートや、ポリエーテルアクリレートや、ポリブタジエンアクリレートや、シリコーンアクリレートや、マレイミドや、ポリエン/ポリチオールなどのオリゴマーやプレポリマーなどや、他にアルコキシオリゴマーなども用いられる。誘電性を有する化合物5は一種類で用いても良く、二種類以上を混合して用いても良い。
【0059】
誘電体の無機微粒子2からなる薄膜20の中の、誘電性を有する化合物5は、シランモノマーで被覆された無機微粒子2に対して0.1質量%以上の含有量となるように、添加すればよく、特に1質量%以上が好適である。誘電性を有する化合物5の添加量を増やしてゆくに従い、コロナ放電による電子注入や、繊維やフィルムなどによる摩擦帯電により、表面電位とクーロン量が高くなって行くので、効率よく粒子状浮遊性物質の捕集が可能となり、フィルターの特性である圧力損失を一層低くすることが可能となる。
【0060】
しかしながら、不飽和結合を有するビニル系モノマーや、不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマーや、パーフルオロアルキル基を有するアクリル単量体や、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤や、不飽和ポリエステルや、不飽和アクリルや、エポキシアクリレートや、ウレタンアクリレートや、ポリエステルアクリレートや、ポリエーテルアクリレートや、ポリブタジエンアクリレートや、シリコーンアクリレートや、マレイミドや、ポリエン/ポリチオールなどのオリゴマー、などの誘電性を有する化合物5が、シランモノマーで被覆された無機微粒子2の含有量に対して40質量%を超える場合には、無機微粒子2の表面を被覆する割合が大きくなることにより塵離れ性が低下するため、40質量%以下が好ましく、特に20質量%以下が好適である。
【0061】
付着した粒子状浮遊性物質の塵離れ性が低下すると、フィルター表面に付着した粒子状浮遊性物質の除去が困難となることから、経時により粒子状浮遊性物質はフィルター表面に堆積するので、フィルターの捕集効率の低下や圧力損失の上昇を招くことになる。
【0062】
以上説明したように、本発明の第2実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター部材200では、コロナ放電による電子注入や、繊維やフィルムなどの摩擦により帯電させる場合、誘電体の無機微粒子を含む薄膜20中に、モノマー、オリゴマー、ポリマーの少なくとも何れかを含む誘電性を有する化合物5が分散して複合化されていることから、表面電位とクーロン量が効率よく高くなることから、サブミクロンオーダーの粒子状浮遊性物質を効率よく捕集することが可能となり、低圧力損失のフィルター部材が提供できる。
【0063】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材300について図3を用いて詳述する。
【0064】
図3は、本発明の第3実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材300の断面の一部を拡大した図である。本実施形態のフィルター用部材300は、シランモノマー3で被覆された誘電体の無機微粒子2で形成された誘電体の無機微粒子を含む薄膜30の表面に、モノマー、オリゴマー、ポリマーの少なくとも何れかを含む誘電性を有する化合物の被膜6が被覆されている点が、本発明の第1実施形態のフィルター用部材100と相違する。
【0065】
以下、本発明の第1実施形態のフィルター用部材100との相違点である、製法及び部材の構成について説明をする。また、基体や微粒子の素材や製法に関して、本発明の第1実施形態のフィルター用部材100と共通する点については、説明を省略する。
【0066】
誘電性を有する化合物の被膜6の求められる特性としては、耐水性が高く、水分を透過しにくいこと、および、コロナ放電による電子注入や、2種類以上の異なる繊維を摩擦させ、その際に生ずる摩擦帯電により分極して帯電し易いことなどが挙げられる。特に使用環境で湿度が高い場合では、帯電性が時間と供に低下することが予測される。よって、誘電性を有する化合物の被膜6の効果は、帯電性を向上させること以外に、様々な環境に対応できることを目的としている。
【0067】
具体的な誘電性を有する化合物の被膜6としては、フッ素系化合物として、パーフルオロアルキル基を有するアクリル単量体、例えば、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロノリル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレートや、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、パーフルオロオクチルエチルメタクリレートや、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、3−パーフルオロデシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどが用いられる。
【0068】
さらに、誘電性を有する化合物の被膜6としては、フッ素系化合物として、その他のフッ素化合物、例えば、2−パーフルオロオクチルエタノールや、2−パーフルオロデシルエタノールや、2−パフルオロアルキルエタノールや、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)や、パーフルオロアルキルアイオダイドや、パーフルオロオクチルエチレンや、2−パーフルオロオクチルエチルホスホニックアシッドなどが用いられる。
【0069】
さらに、誘電性を有する化合物の被膜6としては、フッ素系化合物として、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF11(CHSi(OCHや、CF(CF15(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCや、CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCH、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCや、CH(CF(CHSi(OCや、CF(CFCONH(CHSi(OCHや、CF(CFCONH(CHSiCH(OCHや、パーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー、例えば、KP−801M(信越化学工業株式会社製)や、X−24−7890(信越化学工業株式会社製)や、パーフルオロブテルビニルエーテルおよびその重合体、PTFE、ETFE、PVDFなどが用いられる。
【0070】
さらに、誘電性を有する化合物の被膜6としては、反応性シリコーンオリゴマー、例えば、松下電器産業株式会社製フレッセラDが用いられる。
【0071】
さらに、誘電性を有する化合物の被膜6としては、シリコーンアクリレートや、マレイミドや、ポリエン/ポリチオールなどのオリゴマーやプレポリマーなどや、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリモノクロロパラキシリレン、パラキシリレン、パリレンHT(日本パリレン株式会社製)、他にアルコキシオリゴマーなども用いられる。誘電性を有する化合物の被膜6は一種類で用いても良く、二種類以上を積層して用いても良い。
【0072】
また、本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材300では、前述した本発明の第2実施形態のフィルター用部材200と同様に、誘電体の無機微粒子を含む薄膜30中に、モノマー、オリゴマー、ポリマーの少なくとも何れかを含む誘電性を有する化合物5が含まれてあっても良い。
【0073】
本実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材300における誘電性を有する化合物の被膜6は、誘電体の無機微粒子からなる薄膜30の表面に形成され、その被膜の厚さは、ピンホールが発生しないレベルで、且つ、薄膜30の表面の微小な凹凸形状を維持させて形成されてあれば良く、特に限定されない。
【0074】
具体的な誘電性を有する化合物の被膜6の形成方法は、一般に行われているスピンコート法や、ディップコート法や、スプレーコート法や、キャストコート法や、バーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法や、真空蒸着や、CVD法などを用いれば良く、前述したように、ピンホールが発生しないレベルで、且つ、薄膜30の表面の微小な凹凸形状を維持されてあれば良く、特に限定されない。
【0075】
以上説明したように、本発明の第3実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材300によれば、誘電体の無機微粒子からなる薄膜30の表面に、モノマー、オリゴマー、ポリマーの少なくとも何れかを含む誘電性を有する化合物の被膜6が被覆されていることから、コロナ放電による電子注入や、2種類以上の異なる繊維を摩擦させることで、効率よく帯電して、表面電位やクーロン量が向上すると供に、湿度が高い環境でフィルターとして使用した場合でも、帯電性が時間と供に低下することが少なく、長期間帯電性と塵離れ性を維持することが可能となり、掃除機、エアコン、空気清浄機、ビル用空調機、クリーンルーム用空調機などに好適な、低圧力損失で捕集効率の高いフィルター用部材が提供できる。
【0076】
さらに、基体1の表面に対して、反応性に優れた不飽和結合や反応性官能基を有するシランモノマー3を無機微粒子2の表面に脱水縮合反応で化学的に結合させて不飽和結合や反応性官能基を導入し、無機微粒子2の表面に導入した不飽和結合や反応性官能基同士または基体1の繊維表面と反応させて誘電体の無機微粒子2を固定化している。これにより、本実施形態のフィルター部材は、シランモノマー3で被覆した無機微粒子2同士及び無機微粒子2と基体1とが強力に結合しており、耐久性に優れた誘電体の無機微粒子からなる薄膜が形成されていることから、コロナ放電や繊維やフィルムによる摩擦により帯電しやすく、且つ、その効果か長期間維持できるものである。
【0077】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材400について図4を用いて詳述する。
【0078】
図4は、本発明の第4実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材400の断面の一部を拡大した模式図の1例である。本実施形態のフィルター用部材400は、シランモノマー3で被覆された誘電体の無機微粒子2を含む薄膜40に、単一の無機微粒子2のみ、または複数の無機微粒子2を含んで、それぞれが散在する状態で島状に点在することにより基体1の表面に達する空隙部40a及び40bが形成されており、基材1の表面の一部が露出していることが、本発明の第1実施形態のフィルター用部材100と相違する。
【0079】
図4においては、本発明の第1の実施形態のフィルター用部材100を例として、薄膜40内の無機微粒子2が島状に存在して空隙部40a及び40bが形成された状態で表したが、本発明の第2の実施形態のフィルター用部材200や第3の実施形態のフィルター用部材300においても、薄膜内の無機微粒子が島状に存在して空隙部が形成されたものであれば、第4の実施形態と考えることができる。
【0080】
従って、本発明の第4実施形態のフィルター用部材400の基体や微粒子の素材及び部材の構成要素や製法に関しては、本発明の第1から第3の実施形態のフィルター用部材と同様であり、得られる特性についても第1から第3の実施形態と同様、塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材として好適な特質を示す。特に、基材としてエレクトレット化された材料を用いる場合には、基材1の表面の一部が露出していることから、基材のエレクトレットとしての特質を維持しつつ無機微粒子を含む島状に存在する薄膜による優れた塵離れ性を付与することが可能となる。
【0081】
本発明の第4実施形態で示すような、無機微粒子2が単一または複数で島状に点在するように配置する製造方法として、例えば通常の薄膜を形成する場合に比べ、溶液中の無機微粒子2の濃度を10分の1から100分の1程度に希薄にする方法がある。具体的には溶液中の無機微粒子2として0.5質量%から0.05質量%程度の希薄溶液を塗布、乾燥することで、無機微粒子2が島状に点在し、基体の表面の一部が露出した塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材とすることができる。
【実施例】
【0082】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
実施例1〜実施例9および比較例3の微粒子固定化体の製造にあたっては、岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型電子線照射装置、CB250/15/180L、を用い、電子線グラフト重合により実施した。
【0084】
(実施例1)
市販の誘電性を有する酸化ジルコニウム粒子(日本電工株式会社製、PCS)をメタノールに10.0質量%分散した後、ビーズミルにより平均粒子径170nmに粉砕分散した。得られた分散溶液にシランモノマーとして不飽和結合や反応性官能基を有する3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を無機微粒子に対して5.0質量%加えた後、この粉砕分散溶液を、冷却管を備えたフラスコに移してフラスコを加熱し、4時間還流下で処理することにより酸化ジルコニウム微粒子表面にシランモノマーを脱水縮合反応により化学結合させて被覆を形成した。なお、ここでいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。
【0085】
また、ポリエステル製80メッシュに上記粉砕分散液を塗布し、110℃、1分間乾燥した。次に、酸化ジルコニウム微粒子分散液を塗布したポリエステル製80メッシュに電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射することで、酸化ジルコニウム微粒子をシランモノマーのグラフト重合によりポリエステルメッシュ表面に結合させたフィルター用部材を得た。
【0086】
(実施例2)
実施例1において、粉砕分散溶液中に誘電性を有する化合物として、パーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー(信越化学工業株式会社製KP−801M)をシランモノマーで被覆された無機微粒子の含有量に対して(1)1質量%、(2)5質量%、(3)10質量%、(4)20質量%、(5)40質量%の含有量となるように添加すること以外は実施例1と同様である。
【0087】
(実施例3)
実施例1において、粉砕分散溶液中に誘電性を有する化合物として、変性シリコーン(共栄社化学株式会社製グラノール100)をシランモノマーで被覆された無機微粒子の含有量に対して(1)1質量%、(2)5質量%、(3)10質量%の含有量となるように添加すること以外は実施例1と同様である。
【0088】
(実施例4)
実施例1において、得られた無機微粒子薄膜上に、さらにパラキシリレン(日本パリレン株式会社製)を化学気相成長(以下CVDと省略す)にて成膜した。
【0089】
(実施例5)
実施例1において、得られた無機微粒子薄膜上に、パーフルオロブテルビニルエーテルポリマー(旭硝子株式会社製CYTOP)を塗布した。
【0090】
(実施例6)
実施例2の(2)において、得られた無機微粒子薄膜上にパーフルオロブテルビニルエーテルポリマー(旭硝子株式会社製CYTOP)を塗布した。
【0091】
(実施例7)
基体をエレクトレット不織布(住友スリーエム株式会社製GS-85)、乾燥温度を70℃に変更した以外は実施例5と同様とした。
【0092】
(実施例8)
基体をエレクトレット不織布(住友スリーエム株式会社製GS-85)、乾燥温度を70℃に変更した以外は実施例1と同様とした。
【0093】
(実施例9)
実施例1において、粉砕分散液をメタノールにて30倍に希釈し、無機微粒子を含有する薄膜が基体表面に島状に存在するよう塗布した以外は実施例8と同様とした。
【0094】
(比較例1)
ポリエステル製80メッシュに何らの処理も施さず、そのままの状態で特性を評価した。
【0095】
(比較例2)
導電性を有する酸化スズ分散液(触媒化成工業、ELCOM P-30)をポリエステル製80メッシュに塗布し、フィルター用部材を得た。
【0096】
(比較例3)
実施例1において、粉砕分散溶液中に誘電性を有する化合物として、パーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー(信越化学工業株式会社製KP−801M)をシランモノマーで被覆された無機微粒子の含有量に対して200質量%の含有量となるように大量に添加することにより、フィルター用部材としての構成は実施例2と近似するものの、従来のバインダー方式により誘電体の無機微粒子を固定化する場合に形成される皮膜を想定した組成とするものである。
【0097】
(比較例4)
エレクトレット不織布(住友スリーエム株式会社製GS-85)に何らの処理も施さず、そのままの状態で特性を評価した。
【0098】
以上の条件をまとめたものを表1及び表2に示す。
【0099】
【表1】



【0100】
【表2】



【0101】
(特性の評価)
集塵性は、それぞれのサンプルを10×10cmの大きさに切り取り帯電させた後、JISZ 8901に準拠したカーボンブラックが入ったバット上に試験サンプルを近づけ、帯電によるクーロン力でカーボンブラックの捕集を行った。カーボンブラックの付着前後の試験サンプル質量を測定してカーボンブラックの集塵性を評価した。
【0102】
また、塵離れ性は、集塵させた後の試験サンプルを軽く叩き、サンプル表面に付着したカーボンブラックを振り落とした後、試験サンプル質量を測定してサンプル表面に付着し残ったカーボンブラックを塵離れ性として評価した。
【0103】
さらに、塵離れ性の他の評価方法として、集塵させた後の試験サンプルを除電することで評価した。春日電機株式会社製の静電気除去装置(KD-410型)を用いて、試験サンプル表面を除電させた後、試験サンプル質量を測定して、サンプル表面に付着し残ったカーボンブラックを除電後の塵離れ性とした。
【0104】
また、試験サンプルへの帯電印加は、株式会社グリーンテクノ製の小型高電圧電源(GT-20マイナス型)を用いて、試験サンプル(10×10cm)に電圧をかけて帯電を付与させた。試験環境は24℃70%RHで評価した。
【0105】
また、表面の帯電圧は、春日電機株式会社製の静電電位測定器(KSD-0103型)を用いて、センサーを試験サンプル(10×10cm)に近づけて測定した。
【0106】
以上の試験結果を表3に示す。
【0107】
【表3】



【0108】
表3の結果より、ポリエステル製のメッシュを基体として用いた実施例1〜6と、エレクトレット不織布を基体とした実施例7〜9では、基体の違いによる集塵前の帯電圧レベルにより集塵性のレベルは異なるものの、全ての実施例において帯電によるクーロン力で吸引・集塵したカーボンブラックを、軽い振動や除電でサンプル表面から振り落とすことができることがわかる。さらに、実施例2、3、6では、誘電性を有する化合物を複合化することで、帯電圧を高めることができ、優れた塵離れ性を維持しつつ集塵性を向上することができる。
【0109】
一方、比較例1は帯電するが、サンプル表面に付着すると除電しても表面にカーボンブラックが残ってしまい、フィルターとしては目が詰まってしまい、圧損が高くなってしまう。
【0110】
比較例2では導電性を有する薄膜をメッシュ表面に形成することで帯電印加しても導電性を有しているので帯電せず、その結果、集塵性が見られない。
【0111】
比較例3では、従来のバインダー方式により微粒子を固定化する場合の皮膜を想定し、シランモノマーで被覆された誘電性を有する酸化ジルコニウム微粒子に対して、誘電性を有する化合物を200質量%用いた薄膜をメッシュ表面に形成した。この場合、帯電による集塵効果は発現するものの、塵離れ性は見られない。
【0112】
市販のポリプロピレン製エレクトレット不織布をそのまま用いた比較例4では、帯電印加による集塵前帯電圧や集塵性については、本発明の処理を施した実施例7、8、9と同等の特性を示すが、塵離れ性において著しく劣ることが明らかである。
【0113】
(耐久性評価)
帯電による集塵性能の持続性を示す指標として、初期の帯電圧が経時的に変化する様子を測定した。基体としてポリエステルメッシュを用いた実施例2-(2)および6では帯電印加させ、また基体にエレクトレットを用いた実施例8、9、および比較例4においては帯電印加せずに、初期からの帯電圧の経時的変化を、24℃80%RHの高湿度の環境下で測定し、その結果を表4に示した。
【0114】
【表4】



【0115】
表4の結果より、基体としてポリエステルメッシュを用いた実施例2−(2)では初期帯電圧は高いものの、本試験のような高湿度の環境下では比較的短時間で帯電圧が低下する。これに対し、実施例2−(2)において得られた無機微粒子薄膜上を、誘電性を有する化合物で表層を覆った実施例6では、高湿度の環境下でも経時的な帯電圧の低下を抑制することができる。
【0116】
また、基体にエレクトレットを用いた実施例8も、実施例2−(2)と同様、比較的短時間での帯電圧の低下を示す。これに対して処理を施さない比較例4では、基体が本来有するエレクトレットの性質が維持され、高湿度の環境下でも経時的な帯電圧の低下は少ない。
【0117】
無機微粒子2を島状に配置した実施例9では、基体の表面の一部が露出している効果としてエレクトレット本来の性質が維持されることにより、高湿度の環境下においても経時的な帯電圧の低下は少なく、塵離れ性に優れ、かつ耐久性のあるエレクトレットフィルターとして好適の特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材の模式図。
【図2】本発明の第2実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材の模式図。
【図3】本発明の第3実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材の模式図。
【図4】本発明の第4実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材の模式図。
【符号の説明】
【0119】
100:本発明の第1実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材
1 :基体
2 :無機微粒子
3 :シランモノマー
4 :化学結合
10 :誘電体の無機微粒子を含む薄膜
200:本発明の第2実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材
5 :誘電性を有する化合物
20 :誘電体の無機微粒子を含む薄膜
300:本発明の第3実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材
6 :誘電性を有する化合物を含む被膜
30 :誘電体の無機微粒子を含む薄膜
400:本発明の第4実施形態の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材
40 :誘電体の無機微粒子を含む島状に存在する薄膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂繊維からなる基体と、
不飽和結合又は反応性官能基を有するシランモノマーで被覆された誘電体の無機微粒子を含み前記基体の表面部に備わる薄膜と、
を有し、
前記薄膜内の無機微粒子同士は、互いのシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基が化学結合することにより、前記薄膜を形成するとともに、前記薄膜内の無機微粒子のシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基と前記基体の表面部とが化学結合することにより、前記基体と前記薄膜とが固定されてなることを特徴とする塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材。
【請求項2】
前記薄膜は、
モノマー、オリゴマー、ポリマーからなる群から選択された少なくとも1つの誘電性を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材。
【請求項3】
前記薄膜は、
表面上に、前記誘電性を有する化合物を含んでなる被膜が形成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材。
【請求項4】
前記薄膜は、
前記無機微粒子が単一または複数で島状に点在することにより形成された空隙部を有し、該空隙部を介して前記基体の表面の一部が露出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材。
【請求項5】
前記化学結合は、
グラフト重合であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材。
【請求項6】
前記グラフト重合は、
放射線グラフト重合であることを特徴とする請求項5に記載の塵離れ性に優れた帯電性フィルター用部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−34665(P2009−34665A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169865(P2008−169865)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(391018341)NBC株式会社 (59)
【Fターム(参考)】