説明

増強されたマラリアMSP−1サブユニットワクチン

寄生虫熱帯熱マラリア原虫のMSP−1のC末端領域に由来し、増強された免疫原性特性を持つ組換えサブユニットタンパク質について記載する。p33の選択された領域をp19と組み合わせて、p19コア領域の免疫原性能力を増強する。このコンストラクトは不連続なセグメントを融合して作られる特有のタンパク質を表すため、発現される組換えタンパク質は、自然界に見出されない。開示された組換えタンパク質の増強された免疫原性能力は、強くて一貫した特異的抗体反応を与えた。開示された組換えサブユニットタンパク質は、マラリアによる感染に対する保護のためのワクチン候補である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府によって支援された研究に関する言及
本発明は、契約番号1R43−AI51021−01(NIH)およびR21AI076955−01(NIH)による政府支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
発明の背景
技術分野
本発明は、マラリアから保護するためのワクチンとして使用されるように設計された組換えサブユニットタンパク質に関する。特に、この組換えサブユニットタンパク質は、Plasmodium falciparumのメロゾイト表面タンパク質1(「MSP−1:merozoite surface protein 1」)のC末端領域に由来し、その免疫原性能力(immunogenic potential)を増強するためさらに修飾されている。MSP−1のC末端領域のコアは、p19である。p19コア領域は、寄生虫増殖抑制抗体(inhibiting antibody)の標的であるエピトープを含む。しかしながら、p19コア領域それ自体は、免疫原性が低い。p19コア領域の直前にある、MSP−1のp33領域がT細胞エピトープを含むことが明らかになっている。こうしたT細胞エピトープは、p19コア領域に対する抗体反応を増強し得ると考えられている。増強されかつ一貫した免疫応答を惹起できる組換えタンパク質に関して可能なこうしたT細胞エピトープの機能性(functionally)および有用性については、まだ十分に明らかにされていない。本出願では、MSP−1のp33領域に由来するセグメントを選択的に付加することにより、p19コア領域の免疫原性能力を増強している。こうした選択されるセグメントは、免疫原性能力が増強された新規なタンパク質を産生するようにp19コア領域に連結されている。こうした新規なタンパク質は、自然界に見出されない。免疫原性能力が増強された組換えサブユニットタンパク質は、細胞産生系を用いて産生され、精製後、適切な免疫応答を起こすワクチンとして製剤化される。増強された組換えサブユニットタンパク質は、産生される寄生虫増殖抑制抗体(inhibition antibody)が一貫してないかまたは減少する他のMSP−1のC末端サブユニットと比較して強い寄生虫増殖抑制抗体(inhibition antibody)を誘導することが明らかにされている。増強されたサブユニットタンパク質は、マラリアから保護するためのヒトのワクチンとして使用される可能性がある。
【背景技術】
【0003】
関連技術
マラリアの年間発生数は2億5000万症例であり、毎年100万人を超える人が死亡していると推定される(WHO,2008(非特許文献1))。大部分の症例はアフリカで発生しているとはいえその脅威は、世界の他の多くの熱帯地域および亜熱帯地域に広がっている。世界中で約30億人に感染のリスクがある。現時点で、媒介する蚊および寄生虫Plasmodiumはどちらも従来の防除対策に対して耐性を示すようになっているため、この疾患の拡散を制御することが強く求められている。過去10年から15年においては、寄生虫の様々な発育段階に対するマラリアワクチンの開発に主に焦点が当てられてきた。組換えサブユニットのマラリアワクチンのための科学技術を確立すべく多くの努力が試みられ、いくつかの候補サブユニットが臨床試験に入ってはいるものの、組換えサブユニットタンパク質技術に基づく有効なマラリアワクチンはまだ十分に実現していない。スポロゾイト周囲段階のマラリアを標的とする候補ワクチンの1つが臨床試験(trail)で依然として評価されているが、ワクチンとして認可される可能性に関しては意見が一致していない。メロゾイト段階の寄生虫を標的とする臨床試験(trail)のワクチン候補は、これまで成功していない。このため、マラリアに使用できる認可ワクチンはまだ存在しない。
【0004】
マラリア寄生虫には多くの種があり、各種は、明確な宿主域を有する。ヒトに感染する種は複数ある。Plasmodium falciparumは、ヒトに疾患を引き起こす主要な種である。本明細書では、「寄生虫」という用語は、他に記載がない限り、Plasmodium種を意味する。
【0005】
マラリア寄生虫の生活環は複雑である。この寄生虫は、その生活環の多くの段階の間に多くの発育変化および形態学的変化を経る。この生活環は、感染した蚊が宿主にスポロゾイトを注入したときから始まる。スポロゾイトは、すぐに肝実質細胞に入り、その後発育して肝臓シゾントになる。成熟すると、メロゾイトが血流に放出される。次いでメロゾイトは、赤血球に侵入し、そこで感染細胞が破裂するまで無性生殖的に増殖し、さらなるメロゾイトが放出され、その後、このさらなるメロゾイトが次の赤血球に侵入する。メロゾイトの増殖および赤血球の溶解は、マラリアの臨床症状と関連している。一部のメロゾイトは、さらに発育して雌性生殖母細胞および雄性生殖母細胞となり、次いでこれらの生殖母細胞は、感染した個体を刺す蚊により取り込まれる。一旦蚊の中に入ると、雌性生殖体が雄性生殖体によって受精してさらに発育して、スポロゾイト段階の寄生虫になる。こうして、この生活環が再び開始されるようになる。この生活環は、3つの段階(前赤血球段階、無性生殖赤血球段階および有性生殖段階)に分類される。ワクチン開発に関して、これらの3つの段階をしばしばスポロゾイトまたは肝臓段階(前赤血球段階)、血液段階(無性生殖赤血球段階)および伝搬阻止(有性生殖段階)という。
【0006】
マラリアワクチンの開発の可能性はあるものの、過去10年の努力から、こうしたワクチンの開発が困難な作業であることが証明された。マラリアワクチン候補としてのタンパク質の同定および開発に関しては、進展している。マラリアワクチンに使用するためのタンパク質を選択する主な手段は、ヒト免疫血清に反応するものをスクリーニングすることによって行われてきた。こうして、生活環段階のそれぞれでいくつかのタンパク質をワクチン候補として同定してきた。ワクチン候補に進んだこれらのタンパク質の大部分は、寄生虫の表面に発現されるタンパク質である。抗原の供給源として寄生虫を培養することは難しいため、マラリアワクチンの開発は、組換えDNAなどの別の方法に頼らざるを得なかった。この技術は、重要なペプチド配列を明らかにし、サブユニット抗原を発現させて、DNAベースのワクチンを開発するのに利用され成功している。
【0007】
各発育段階の寄生虫を標的とするマラリアワクチンを開発する試みが進行中であるが、血液段階は、疾患の症状が引き起こされる段階であるため、血液段階を標的とするワクチンが、最も大きな影響を与える可能性がある(Good et al,1998(非特許文献2))。同定されている多くの血液段階抗原の中で詳細に研究されてきたのが、主要なメロゾイト表面タンパク質1(MSP−1)である。
【0008】
ネイティブなMSP−1タンパク質の分子量は、約195kDである。このタンパク質は、メロゾイトの表面に突き出て提示される膜アンカー型分子である。このタンパク質は、4つの主要なフラグメントにプロセシングされ、これらは、その相対分子量により、p83、p28、p38およびp42と呼ばれる(Hall et al,1984(非特許文献3),Lyon et al,1986(非特許文献4)およびHolder et al 1987(非特許文献5))。必ずしもすべてのフラグメントの機能が明らかになっているわけではない。メロゾイトの表面に固定されるC末端p42フラグメントは、p33およびp19と呼ばれる2つのフラグメントにさらにプロセシングされることが決定されており、このプロセシングが赤血球への侵入に必須であることもまた決定されている(Blackman et al,1990,1991(非特許文献6および7)およびBlackman and Holder,1992(非特許文献8))。FUP株のMSP−1 p42のアミノ酸配列を図1に示す。
【0009】
いくつかの知見から、MSP−1が重要なマラリアワクチン候補であることが裏付けられている。サルを培養寄生虫由来のMSP−1で免疫すると、P.falciparumの攻撃誘発から保護できることが実証されている(Hall et al 1984(非特許文献3),Siddiqui et al 1987(非特許文献9),およびEtlinger et al 1991(非特許文献10))。また、MSP−1の様々な部分を代表する組換えまたは合成のペプチドも、誘発試験で様々なレベルの保護作用を惹起することが示されている(Hall et al,1984(非特許文献3),Cheung et al,1986(非特許文献11),Patarroyo et al,1987(非特許文献12),Herrera et al,1990(非特許文献13),Kumar et al,1995(非特許文献14),およびChang et al,1996(非特許文献15),Kumar et al,2000(非特許文献16),Stowers et al,2001(非特許文献17),Darko et al,2005(非特許文献18))。さらに、流行地域に住んでいるヒトから採取した血清の解析からは、MSP−1のC末端領域に対するIgG抗体の産生が、熱帯熱マラリアに対する臨床免疫の発生と相関することも示されている(Riley et al,1992(非特許文献19),Shai et al,1995(非特許文献20),Al−Yaman et al,1996(非特許文献21),およびShi et al,1996(非特許文献22))。最後に、MSP−1に対するモノクローナル抗体がインビトロで赤血球への寄生虫の侵入を防ぐことができることが証明されている(Pirson and Perkins,1985(非特許文献23)、およびBlackman et al,1990(非特許文献6))。
【0010】
MSP−1のC末端p42フラグメント、およびそのプロセッシングされたp19フラグメントは、MSP−1タンパク質に由来する代表的なサブユニットワクチン候補として同定されている。p19コア領域の配列(図1に太字の斜体で示す)は、様々なP.falciparum株で高度に保存されている。図2は、3種のP.falciparum株(FUP、3D7およびFVO)からのMSP−1 p42タンパク質のアミノ酸配列のアライメントを提供する。p33領域は、FUP株と3D7株との間で保存されている。しかし、FVO株のp33は、他の2種のP.falciparum株とはかなり異なる。p19コア領域は、3種の株間で高度に保存されており、6つのジスルフィド架橋をさらに含み、これが、2つの上皮増殖因子様ドメインを表す高度に折りたたまれた構造をもたらす(Blackman et al,1991(非特許文献7))。p19コア領域に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体はどちらも、インビトロで寄生虫の発育を阻害することが示されている(Blackman et al,1990(非特許文献6),Chang et al,1992(非特許文献24),Chappel and Holder,1993(非特許文献25))。
【0011】
MSP−1のp42フラグメントまたはp19フラグメントをベースにした組換えサブユニットワクチンを開発する試みにおいては、いくつかの異なる異種タンパク質発現系を利用してきた。E.coli、酵母およびバキュロウイルスのベクター系を用いたこれらのサブユニットの発現については以下にまとめてある。E.coliにより抗原を発現させる初期の試みでは、免疫時にネイティブなタンパク質に反応する抗体はごく低レベルでしか誘導されなかった(Holder et al,1988(非特許文献26),Burghaus et al,1996(非特許文献27))。したがって、現在、大部分の試みは、適切な免疫応答を誘発する可能性がより高い、より適切な産物を作製する試みにおいて、MSP−1サブユニットのネイティブと同様の折り畳みを誘導する能力がある発現系に焦点を合わせている。
【0012】
より高い抗原性能力を持つ、よりネイティブに近いMSP−1のC末端組換えサブユニットタンパク質の発現は可能ではあるものの、これまでの試みにより得られたのはどれも、一貫していない、および/または関係のない抗体反応である。たとえば、Kumar et al(1995)(非特許文献14)は、酵母で発現させたp19サブユニットでヨザル(Aotus monkey)を免疫した場合に、保護作用があることを証明することができた。しかしながら、必ずしも免疫したすべてのサルで保護作用が達成されたわけではないことから、p19サブユニットによる免疫応答が一貫しないことが実証された。さらに、保護したサルからの血清は、インビトロで寄生虫増殖を阻害することができなかったことから、免疫応答の質(抗体特異性)も期待通りではないことが示唆された。別の一連の例では、Chang et al(Infect.Immun.(1996)64:253−261(非特許文献15)および米国特許第6,855,316号(特許文献1))は、バキュロウイルス系で産生されたp42産物を用いてヨザルにおける保護作用を証明することができた。しかしながら、この保護作用は、必ずしもすべての動物が保護されたわけではないため、一貫したものではなかった。これは、保護されたサルの血清がインビトロで寄生虫の増殖を阻害できたという事実にもかかわらずであった。なお別の例では、Darko et al(2005)(非特許文献18)は、ヨザルの攻撃誘発モデルを用いて、バキュロウイルスで発現させたp42産物の有効性を評価した。抗体反応は比較的高レベルではあったものの、このバキュロウイルスで発現させたp42産物は、攻撃誘発時にごくわずかの保護作用しか提供しなかった。最後に、E.coliで産生し、第II相臨床試験に入ったp42産物(Ogutu et al,2009(非特許文献28))は、免疫応答が低く、一貫していないため、現在中止されている。これらの例から、MSP−1のC末端領域由来の、有効なワクチン候補である組換えサブユニットタンパク質を製造するための解決策がまだ実現していないのは明らかである。
【0013】
前述のように、MSP−1 p42フラグメントは、p33フラグメントおよびp19フラグメントから構成される。メロゾイトの表面に固定されたMSP−1 p19コア領域は、メロゾイトの赤血球侵入の過程で必要とされるエレメントであるのに対し、p33フラグメントは、メロゾイトが赤血球に結合すると血漿に放出される。p19フラグメントは、赤血球侵入の際に役割を果たすほか、インビトロでの寄生虫増殖抑制抗体(inhibition antibody)の標的でもある。p33フラグメントの役割は、不明である。
【0014】
p33領域内では、いくつかのT細胞エピトープが同定されており(Udhayakumar et al,1995(非特許文献29);Lee et al,2001(非特許文献30);Malhotra et al,2008(非特許文献31))、p33が、p19に欠けているヘルパーTエピトープを与えることにより、防御免疫を誘発する際に間接的な役割を果たしていることが示唆されている(Tian et al,1996(非特許文献32);Lee et al,2001(非特許文献30))。臨床試験からは、メモリーT細胞応答がMSP1−42ワクチン接種により誘発され、これらの応答がMSP1−33フラグメントに局在していることが示されている(Huaman et al,2008(非特許文献33))。しかしながら、組換えサブユニットタンパク質および能動免疫に関して、p19に特異的な抗体反応を増強するT細胞エピトープの能力は実証されていない。
【0015】
有効な候補ワクチンとしての組換えMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の可能性を実現するには、さらなる研究を必要とする重要な課題が存在する。第1に、特異的な防御抗体反応の惹起に関する、MSP−1のC末端領域のうちの適切な免疫原性セグメントを同定する必要がある。特異的な防御抗体とは、インビトロで寄生虫増殖を阻害することができる抗体である。第2の研究領域は、所望の適切な特異的応答の惹起を妨げる応答を引き起こす、無関係な免疫原性セグメントの同定を含む。第3の研究領域は、ワクチン候補としての免疫原性能力を増強した組換えサブユニットタンパク質産物を産生するような様式でMSP−1のC末端領域由来の不連続な配列の連結を評価することを含む。
【0016】
MSP−1のC末端サブユニットタンパク質とは、MSP−1 p19コア領域と、p33配列が自然状態のように隣接しているか、または、新規なタンパク質を作製する場合のように隣接していないか否かに関わらず、MSP−1 p33領域由来の追加配列とを含む、任意の組換えタンパク質と定義される。
【0017】
増強されたMSP−1のC末端サブユニットタンパク質を開発する最初の試みではまず、p33領域のN末端の切断をベースに3つのコンストラクトを作製した。切断点は、p33中の推定T細胞エピトープに基づいた。1つのコンストラクトでは、この切断形態にp33領域由来の追加のエピトープを連結した。これらの3つのコンストラクトの最初のデータでは、寄生虫抑制抗体(inhibition antibody)に免疫増強が認められなかったため、増強配列の存在を実証することができなかった。これら最初の3つのコンストラクトA、BおよびCの配列を図3に示す。意外にも、コンストラクトCのその後のデータから、このコンストラクトの31アミノ酸のp33セグメントは、抗体反応は全体として強かったものの、寄生虫増殖の抑制抗体に関する免疫応答を抑制する配列(単数または複数)を含むことが示唆された。
【0018】
このため、MSP−1のC末端領域の使用をベースにした有効なマラリア組換えサブユニットワクチンをさらに開発するには、組み合わせた配列が、増強された免疫原性特性を持つような様式でp19コア領域と組み合わせることができるように、p33領域内で適切な配列を同定する必要がある。さらに詳しくは、増強された免疫原性特性とは、インビトロで寄生虫増殖を抑制でき、マラリアにより引き起こされる疾患に対する保護作用を与えることができる、一貫して特異的な抗体を誘導する能力をいう。さらに、増強配列の能力を十分に実現するには、増強特性を持つ配列の免疫原性能力を阻害する配列を除去することも重要である。
【0019】
「抑制」p33配列の選択的な除去に加えて、「増強」p33配列を選択し、「増強」配列をp19コア領域に連結して、霊長類動物モデルおよびヒトにおいて一貫して増強された防御免疫応答を惹起できる新規な組換えタンパク質を作製することが、最終目標である。しかしながら、「増強」配列および「抑制」配列の同定は、これまで報告されていない。したがって、解決すべき技術的課題は、(1)p19コア領域と組み合わせた場合に免疫応答を増強する推定T細胞エピトープを含む配列(「増強配列」)を、p33領域において同定すること、(2)p19エピトープの免疫原性能力を抑制するp33領域中の配列(「抑制配列」)を同定および除去すること、および(3)p33領域由来の不連続な増強配列とp19コア領域との連結に基づき、組換えサブユニットタンパク質産物を、細胞ベースの系で効率よく発現させることが可能であるような様式で、組換えサブユニットタンパク質産物を産生する能力を証明することである。こうして産生された組換えサブユニットタンパク質は、これまでのp42ベースのワクチンに見られた課題を解決し、動物モデルおよびヒトにおけるマラリアに対して防御免疫を与える特異的な抗メロゾイト抗体を一貫して誘導する可能性がある。したがって、解決すべき全体的な技術的課題は、免疫原性を増強し、防御有効性を向上させる、MSP−1のC末端領域に由来する配列に基づき、新規な組換えサブユニットタンパク質の設計、構築および発現を行うことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第6,855,316号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】WHO.(2008)”World malaria report 2008”
【非特許文献2】Good et al. (1998) Ann. Rev. Immunonol. 16:57−87
【非特許文献3】Hall et al. (1984) Mol. Biol. Parasitology 11:61−81
【非特許文献4】Lyon et al. (1986) PNAS 83:2989−2993
【非特許文献5】Holder et al. (1987) Parasitology 94: 199−208
【非特許文献6】Blackman et al. (1990) J. Exp. Medicine 172:379−382
【非特許文献7】Blackman et al. (1991) Mol. Biochem. Parasitology 49:29−34
【非特許文献8】Blackman et al. (1992) Mol. Biochem. Parasitology 50:307−316
【非特許文献9】Siddiqui et al. (1987) PNAS 84:3014−3018.
【非特許文献10】Etlinger et al. (1991) Infect. Immun. 59:3498−3503.
【非特許文献11】Cheung et al. (1986) PNAS 83:8328−8332
【非特許文献12】Patarroyo et al. (1987) Nature 328:629−632
【非特許文献13】Herrera et al. (1990) PNAS 87:4017−4021
【非特許文献14】Kumar et al. (1995) Molecular Medicine 1 :325−332
【非特許文献15】Chang et al. (1996) Infect. Immun. 64:253−261
【非特許文献16】Kumar et al. (2000) Infect Immun. 68:2215−2223
【非特許文献17】Stowers et al. (2001) Trends Parasitol. 17(9):415−9
【非特許文献18】Darko et al. (2005) Infect Immun. 73(1):287−97
【非特許文献19】Riley et al. (1992) Parasite Immunol. 14:321−337
【非特許文献20】Shai et al. (1995) Parasite Immunology 17:269−275
【非特許文献21】Al−Yaman, et al. (1996) Am. J. Trop. Med. Hyg. 54:443−448
【非特許文献22】Shi et al. (1996) Infect. Immun. 64:2716−2723
【非特許文献23】Pirson et al. (1985) J. Immunology 134: 1946−1951
【非特許文献24】Chang et al. (1992) J. Immuno. 149:548−555
【非特許文献25】Chappel et al. (1993) Mol. Biochem. Parasitology. 60:303−312
【非特許文献26】Holder et al. (1988) Parasite Immunology 10:607−617
【非特許文献27】Burghaus et al. (1996) Infect Immun. 64(9):3614−9
【非特許文献28】Ogutu et al. (2009) PLoS One. 4(3):e4708
【非特許文献29】Udhayakumar et al. (1995) J Immunol. 154(11):6022 30
【非特許文献30】Lee et al. (2001) Am J Trop Med Hyg 64: 194−203
【非特許文献31】Malhotra et al. (2008) J Immunol. 180:3383−3390
【非特許文献32】Tian et al. (1996) J Immunol 157: 1176−1183
【非特許文献33】Huaman et al. (2008) J Immunol 180: 1451−1461
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
発明の概要
本発明は、動物モデルおよびヒトにおいてマラリアに対して保護するためのワクチンとして好適なものにする増強された免疫原性特性を持つ、組換えサブユニットタンパク質を提供する。この組換えサブユニットタンパク質は、このタンパク質のMSP−1のC末端p19コア領域、およびMSP−1のC末端p33領域由来の選択されたセグメントから構成される。選択されたp33セグメントを付加すると、免疫原性特性が増強される。具体的には、増強された免疫原性能力とは、一貫した防御抗体反応を惹起する能力のことである。こうした増強された抗体反応は、インビトロでは寄生虫増殖を阻害し、インビボではマラリア寄生虫により引き起こされる疾患に対する保護作用を与える可能性がある。本発明の組換えサブユニットタンパク質は、形質転換された昆虫細胞のゲノム内に組み込まれた適切な発現カセットのコピーを含む形質転換された昆虫細胞から発現される。昆虫細胞の発現系は、ネイティブと同様のコンフォメーションを持つ組換えサブユニットタンパク質を高収率で与える。具体的には、形質転換された昆虫細胞から組換えサブユニットタンパク質を分泌させ、自然界に見出されない、マラリアMSP−1のC末端領域の新規な形態にする。さらに詳しくは、組換えサブユニットタンパク質は、マラリア寄生虫により引き起こされる疾患に対して保護するための向上させた免疫原性能力を与えるために作製した新規な誘導体である。動物モデルでは、組換えサブユニットタンパク質を用いたワクチン接種により獲得された、免疫原性能力が増強された抗体は、インビトロで寄生虫増殖を阻害することができる。
【0023】
本発明はまた、哺乳動物宿主のマラリアに対して保護作用を付与することができる抗体の産生を誘発するワクチンとして記載される組換えサブユニットタンパク質を利用するための方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】MAD型のP.falciparum FUP株(Uganda Palo Alto)由来のMSP−1 p42のアミノ酸配列。p33領域は標準字体であり、p19コア領域は太字の斜体で示す。
【図2】3種のP.falciparum FUP、3D7およびFVO株由来のMSP−1 p42アミノ酸配列のアライメント。FUP株と同一の、3D7およびFVOのアミノ酸を+記号で示し、FUP株と異なるアミノ酸を図示し、p19コア領域のアミノ酸を太字にしてある。アライメントのギャップは−記号で示す。p19コア領域は、太字の斜体で示す。
【図3】FUPのp42配列と比較した、N末端を切断した3つのサブユニット(コンストラクトA、コンストラクトBおよびコンストラクトC)のアミノ酸配列のアライメント。p33配列のCTエピトープ、C72エピトープおよびp33−7エピトープを、下線を引いた太字で示す。p19コア領域は、太字の斜体で示す
【図4−1】FUPのMSP−1 p33配列と比較した、MSP−1のC末端サブユニットタンパク質の全コンストラクトのアミノ酸配列のアライメント。
【図4−2】FUPのMSP−1 p33配列と比較した、MSP−1のC末端サブユニットタンパク質の全コンストラクトのアミノ酸配列のアライメント。
【図4−3】FUPのMSP−1 p33配列と比較した、MSP−1のC末端サブユニットタンパク質の全コンストラクトのアミノ酸配列のアライメント。
【図5】すべてのMSP−1のC末端サブユニットコンストラクトの図−名前順。
【図6】すべてのMSP−1のC末端サブユニットコンストラクトの図−群順。
【図7】群2のMSP−1のC末端コンストラクトのELISA抗体力価。
【図8】群1および群2のMSP−1のC末端サブユニットのELISPOT解析。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、p19コア領域とp33領域の選択されたセグメントとを含む、マラリアMSP−1のC末端組換えサブユニットタンパク質を提供する。こうした組換えサブユニットタンパク質は、適切な発現プラスミドで形質転換された安定した昆虫細胞株から産生し、分泌させる。本発明の組換えサブユニットタンパク質で動物を免疫すると、一貫した抗体反応を誘導するのに有効である。特に、これらの抗体反応は、Plasmodium falciparumの増殖を阻害することができる。寄生虫増殖を阻害でき、最終的にマラリアから保護することができる抗体を与える特異的で一貫した免疫応答を誘導するには、選択されたp33セグメントをp19コアと組み合わせることが重大である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、本明細書に記載の組換えマラリアMSP−1 C末端サブユニットタンパク質は、自然界に見出される形態を表すMSP−1 p42組換えタンパク質と比較して、増強され一貫した免疫応答を惹起できることが実証されている。一層好ましくは、増強された組換えMSP−1 C末端サブユニットタンパク質は、一貫した寄生虫抑制抗体反応を惹起することができる。好ましくは、免疫された被験体はすべて、50%より高いインビトロでの増殖抑制抗体力価を有する。一層好ましくは、免疫された被験体はすべて、60%より高いインビトロでの増殖抑制抗体力価を有する。なお一層好ましくは、免疫された被験体は、70%より高いインビトロでの増殖抑制抗体力価を有する。なお一層好ましくは、免疫された被験体は、80%より高いインビトロでの増殖抑制抗体力価を有する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、「増強」配列は、MSP−1のp33領域から選択され、p19コア領域に連結されて、新規なMSP−1のC末端組換えサブユニットタンパク質が作製される。「増強」配列を選択するだけでなく、MSP−1のp33領域から「抑制」配列を除去して、新規なMSP−1のC末端組換えサブユニットタンパク質の免疫原性能力をさらに増強する。
【0028】
より好ましい実施形態では、MSP−1のp19コア領域に連結している、p33領域からの選択されたセグメントは、ヘルパーT細胞エピトープを含む。こうしたヘルパーT細胞エピトープは、増強された免疫応答を、それ自体では免疫原性が低いp19コア領域に向けるのを担っている。一層好ましくは、選択されたp33セグメントは、p19コア領域に対する抑制抗体の形態で、増強された抗体反応を惹起する能力を阻害または抑制する配列およびまたはエピトープを含まない。したがって、その結果得られる組換えタンパク質は、利益を与えるセグメント(単数または複数)のみが保持され、好ましくない影響を与えるセグメントが除去されているという点でネイティブなp33領域とは異なる。
【0029】
本発明の別の好ましい実施形態では、組換えマラリアMSP−1 C末端サブユニットタンパク質は、MSP−1のp19コアと、選択されたp33セグメントとを含み、これらは、組換えタンパク質が細胞ベースの発現系で分泌産物として発現できるように連結されている。その後、分泌された組換えサブユニットタンパク質は、精製され、免疫原として使用される。精製されたタンパク質を動物の免疫に使用すると、免疫応答が増強される。
【0030】
なお別の好ましい実施形態では、Drosophila S2細胞を宿主細胞として用いて「MSP−1のC末端サブユニットタンパク質」を発現させる。「MSP−1のC末端サブユニットタンパク質」とは、MSP−1のp19コア領域と、p33配列が自然状態のように隣接しているか、あるいは、新規なタンパク質を作製する場合のように隣接していないか否かに関わらず、MSP−1のp33領域由来の追加配列とを含む任意の組換えタンパク質をいう。これらの「MSP−1のC末端サブユニットタンパク質」は、Plasmodium falciparumのどのような株に由来してもよい。図4は、本出願で言及される「MSP−1のC末端サブユニットタンパク質」のすべてに利用したp33配列のセグメントを示す。
【0031】
本発明では、MSP−1のC末端p19コア領域、およびMSP−1のC末端p33領域に由来する(derived form)セグメントを含むサブユニットタンパク質については、標準的な組換えDNA法を利用して、こうしたタンパク質のコード配列を機能的分泌シグナルと作動可能に連結し、これを、Drosophila細胞内で機能することが証明されたプロモーターの制御下に配置することにより、安定に形質転換されたDrosophila S2細胞から発現および分泌させた。
【0032】
本明細書に記載の組換えMSP−1 C末端サブユニットタンパク質は、Plasmodium falciparum種に由来する3種類の株を代表する。P.falciparumの2種の株、すなわち、MAD型のFUP(Uganda Palo Alto)、Wellcome型のNF−54(クローン3D7)、およびK1型のFVO(Vietnam−Oak Noll)由来のMSP−1のC末端サブユニットタンパク質をコードする配列。すべての配列をDrosophila発現プラスミドにクローニングし、次いでDrosophila S2細胞の形質転換に使用した。
【0033】
このため、本発明のMSP−1のC末端サブユニットはすべて、図5に示すようなMSP−1のC末端p19コア領域を含むため、関連している。さらに、各コンストラクトでp33配列が異なっている一方、コンストラクトはすべて、p19コア領域に対する免疫応答の効力および特異性を誘導および増強するように設計されている。p19コア領域に対する抗体反応の増強される質は、マラリア感染に起因する疾患に対する保護作用を与える能力の増大と関連する。
【0034】
本発明のMSP−1のC末端サブユニットタンパク質は、記載されたように選択されたS2細胞株から発現および分泌させ、最初にイムノアフィニティークロマトグラフィー法により精製する。精製には、抗MSP−1モノクローナル抗体5.2(Chang et al,1992)(「5.2抗体」または「MAb5.2」)を利用する。5.2抗体は、製造者(NHS−Sepharose,Pharmacia,Piscataway,NJ)により推奨される標準的な方法により適切なカラムマトリックスに化学的に結合して好適なカラムを調製する。
【0035】
好ましくは、MSP−1のC末端サブユニットは、p42と呼ばれる、P.falciparumのメロゾイト表面タンパク質の部分に由来し、FUP株および3D7株のp42は、MSP−1のアミノ酸Ala1333からSer1705を含む。MSP−1のC末端サブユニットタンパク質は、本明細書に記載するように、安定に形質転換された昆虫細胞から組換え技術によって産生および分泌させる。MSP−1のC末端サブユニットは、MSP−1のp42領域全体を含んでも、またはその一部を含んでもよい。一層好ましくは、MSP−1のC末端サブユニットは、ネイティブなp42に隣接しているかあるいは隣接していないMSP−1のp33配列に連結したMSP−1のp10コア領域を含むが、すべてのMSP−1、しかし、すべてのMSP−1のC末端サブユニットタンパク質領域の長さは、FUP株および3D7株のネイティブなp42より少なくとも28アミノ酸短い。MSP−1のC末端サブユニットは、K、MAD20およびWellcomeなどのP.falciparumの3つの対立遺伝子型のほか、P.vivax、P.malariaeおよびP.ovaleの対立遺伝子型などのいずれに由来してもよい。
【0036】
すべての実施形態では、発現産物を昆虫細胞分泌経路を通して導き、さらに培養培地に導くことができる機能的分泌シグナルにより、MSP−1のC末端サブユニットタンパク質の分泌を導く。ここで、MSP−1のC末端サブユニットタンパク質の分泌は、tPAプレ/プロ分泌リーダーおよび合成分泌シグナルを利用して実証される。
【0037】
驚いたことに、そして非常に高い抗体力価が寄生虫増殖活性の重要な指標であると考えられている、MSP−1 p19およびMSP−1 p42の組換えサブユニットに関する以前に記載された報告とは対照的に、本出願に記載された組換えMSP−1のC末端サブユニットの一部が顕著な寄生虫増殖抑制活性を惹起する能力は、高力価の抗体反応を起こす必要性に左右されない。中程度の抗体力価を惹起した一部のMSP−1のC末端サブユニットタンパク質も、顕著な寄生虫増殖抑制活性を引き起こすことが明らかになった。このため、記載されるMSP−1のC末端タンパク質は、顕著な寄生虫増殖抑制活性を惹起する能力が、以前記載されたMSP−1ベースの組換えタンパク質と比較して機能的に異なるということから、新規なタンパク質である。
【0038】
以上のように、本発明は、Plasmodium種による感染を予防または減弱する手段としてのワクチン製剤に使用し得る組換えサブユニットタンパク質に関し、それを提供する。記載される組換えサブユニットタンパク質は、マラリア感染により引き起こされる疾患に対する保護作用を与える手段としてアジュバントと組み合わせて使用してもよい。
【0039】
上述の説明および以下の実施例は主に、Plasmodium falciparum由来のMSP−1のC末端サブユニットの発現に関するものであるが、その方法は、他のPlasmodium種にも応用することができる。たとえば、やはりヒトの健康を脅かすP.vivax種、P.malariae種およびP.ovale。本明細書に記載のP.falciparumのコンストラクトに類似のコンストラクトを、マラリア感染により引き起こされる疾患を予防するワクチン用として、それぞれP.vivax、P.malariaeおよびP.ovale向けに開発してもよい。
【実施例】
【0040】
以下の実施例は、MSP−1 p33領域由来の配列を選択および除去し、ワクチン候補として増強された免疫原性能力を持つ新規な組換えサブユニットタンパク質を産生するように、選択された配列をMSP−1 p19コア領域に連結することが可能であることを実証する。また、新規なMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の発現および分泌は、安定に形質転換された昆虫細胞を使用しても実証される。さらに、発現させたサブユニットタンパク質の精製についても実証される。新規なMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の増強された免疫原性特性を実証する実施例を提供する。下記の結果から、増強された免疫原性能力の選択および実証により、ある特定の免疫応答の喪失から高度に的を絞った免疫応答に至るまでの幅があり得る、ばらつきが大きい結果が得られることが実証される。このため、免疫応答の的をp19コア領域に絞ることを目的としてp33領域から増強配列を選択しても、完全に予測可能であるとは限らず、経験的に決定しなければならない。MSP−1のC末端サブユニットタンパク質の一部は、この新規な組換えタンパク質が中程度の全体的な抗体反応を生じるものの、意外にも、寄生虫抑制活性が50%より高い、著しく増強された免疫原性特性を誘発することができた。このため、本明細書に記載の本発明は、記載される組換えサブユニットタンパク質の組成物、およびそこから得られる免疫原性特性の点で従来にないものである。
【0041】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0042】
(実施例1)
MSP−1 p42のp33領域のT細胞エピトープの評価
マラリアワクチンの開発を試みてMSP−1のp19サブユニットまたはp42サブユニットのいずれかを利用した研究は多くある。上記で検討し、下記でさらに考察するように、これらの各MSP−1サブユニットの成功ばかりでなく、これらの各サブユニットの失敗についても報告されている。矛盾した結果のため、インビトロで寄生虫増殖を阻害することができる抗体反応を惹起する際に、または攻撃誘発から動物を保護する際に、抗原として働くその能力に関し、これらのサブユニットのどの領域が最も関係があるかは、不明である。p19コア領域への増殖抑制抗体の誘導は、p33領域のヘルパーTエピトープの特異性により決定されるという仮説が立てられている。この理論を裏付けるものとして、組換えp19サブユニットおよびp42サブユニットが寄生虫増殖抑制抗体を惹起する能力を直接比較した研究が行われた(Hui et al,1994)。同じアジュバント(FCA)を使用した場合、p19組換え体およびp42組換え体はどちらも、ELISA測定に基づいて、高力価の抗体を惹起した。しかしながら、p42抗原により生成された抗体は、寄生虫増殖を阻害したのに対し、p19により生成された抗体は、寄生虫増殖を阻害することができなかった。p19により生成された抗体は、寄生虫増殖を阻害できなかったものの、寄生虫由来のMSP−1に結合できる、p42により生成された抗体は、p19抗原を用いて交差吸収させることができることが実証された。さらにこの理論を裏付けるものとして、Udhayakumar et al(1995)による研究により、熱帯熱マラリアが非常に流行している地域であるケニアに住む個体の免疫応答に関してp42領域のB細胞エピトープおよびT細胞エピトープの特徴付けが行われた。この研究では、B細胞エピトープは主にp19コア領域にあり、増殖応答を与えることができるT細胞エピトープは、p33領域に存在することが明らかにされた。また、Lee et al(2001)およびMalhotra et al(2008)による研究により、MSP−1のC末端領域の防御免疫応答を増強するのに関与し得る、p33領域中の他の可能性のあるT細胞エピトープも明らかにされた。
【0043】
これらの研究で同定されたT細胞エピトープは、ヘルパーT細胞機能を直接与えることについては決定されていない一方で、これらが抗体反応をp19の重要な寄生虫増殖抑制エピトープに集中させることを担い得ることが示唆される。これらの結果は、p33領域のヘルパーT細胞機能の理論を裏付けるものではあるが、動物モデルにおいて寄生虫増殖抑制抗体または防御応答を惹起する能力を増強するように設計された組換えサブユニットの発現に関するデータは、存在しない。
【0044】
重要なT細胞エピトープを保持するp33の適切なセグメントを選択する際の指針となる解析を支援するため、コンピュータプログラムを使用した。最初に、p33領域について、T細胞エピトープの確立されたパターンに当てはまる配列の存在を解析した(Margalit et al,1987)。このアルゴリズムは、可能性のあるT細胞エピトープを選択するために、Menendez−Arias and Rodriguez(1990)により書かれたコンピュータプログラムの一部である。この解析の結果、14個のT細胞エピトープが予測された。両親媒性スコアが最も高いエピトープは、p33のN末端の保存された領域にあるエピトープLKPLAGVYRSLKKQである。このエピトープをCT(保存されたT)と呼ぶ。次に同定されたエピトープは、p19配列の開始点から72アミノ酸前に位置するAHVKITKLSDLKAIDであり、C72と呼ぶ。第3のT細胞エピトープは、コンピュータプログラムTEPITOPEを用い、p33領域のMHCクラスIIエピトープのさらなる解析を基に同定された(Sturniolo T.et al,Nat.Biotechnology(1999)17:555−561;Singh,H.and Raghava,G.P.S.(2001)Bioinformatics,17(12),1236−37)。このエピトープは、p19配列の開始点から22アミノ酸前に位置するLVQNFPNTIISKLIEGKであり、p33−7と呼ぶ。
【0045】
下記表1は、P.falciparumのMSP−1 p42のp33領域中の可能性のあるMHCクラスII T細胞エピトープを列挙したものである。これらのエピトープは、コンピュータアルゴリズムにより予測されるか、または上記のような公表された報告に基づく。
【0046】
【表1】

【0047】
(実施例2)
MSP−1のC末端サブユニットタンパク質−p33N末端切断の発現および分泌
MSP−1のC末端サブユニットタンパク質の第1群は、動物モデルにおいて寄生虫増殖抑制抗体を惹起する能力を増強し得るp33の領域を規定しようとしており、MSP−1 p42タンパク質のp33領域のN末端切断に基づく。切断点は、表1に示した、可能性のある様々なT細胞エピトープの位置を参考にした。これらのコンストラクトはN末端の欠失に基づくため、保持されたp33の部分は、図3に図示したように、ネイティブなp42と同様にp19領域と隣接した形で共に維持された。N末端切断に基づき、合計8つのコンストラクト(コンストラクトA、B、C、D、E、F、GおよびQ)を作製した。
【0048】
培養Drosophila S2細胞における異種組換えタンパク質の発現および選択用の発現プラスミドの設計を記載する。MSP−1 p42、ならびにコンストラクトA、BおよびCの発現は、pMttbnsベースの発現プラスミドを利用して達成した。こうした発現プラスミドに関する詳細については、米国特許第5,550,043号;同第5,681,713号;同第5,705,359号;同第6,046,025号に記載されている。pMttbns発現ベクターは、以下のエレメント:Drosophilaメタロチオネインプロモーター(Mtn)、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)シグナル配列、およびSV40初期ポリアデニル化シグナルを含む(Culp et al,1991)。また、ハイグロマイシン耐性を付与する選択可能なマーカーとしてpCoHygroプラスミドも利用する(Van de Straten,1989)。ハイグロマイシン遺伝子は、Drosophila COPIA転位因子の長い末端反復配列プロモーターの転写制御下にある。pMttbnsベクターは、外来性のXho I部位を含んでいた15塩基対のBamHIフラグメントを欠失させることにより改変した。pMttΔXhoと呼ばれるこの改変ベクターは、特有のBgl II部位およびXho I部位を利用してインサートを、方向性を持ってクローニングすることができる。
【0049】
コンストラクトD、E、F、GおよびQの発現は、プラスミドpHBI−10の誘導体であるDrosophila発現プラスミドpHBI−20Dを用いて達成した。pHBI−10プラスミドの詳細については、PCT出願であるWO/2008/134068に記載されている。pHBI−20D発現ベクターは、以下のエレメント:合成金属応答近位プロモーター、合成コアプロモーターおよび5’UTR、合成分泌シグナル、ならびに最適化した3’UTRを含む。また、ハイグロマイシンをコードする遺伝子を、発現カセットの下流でpHBI−20D発現プラスミドに組み込んでいる。pHBI−20D発現プラスミドは、目的の遺伝子を特有のBam HI部位およびXho I部位に方向性を持ってクローニングできるように設計する。
【0050】
MSP−1 p42配列の発現のため、PCR増幅したフラグメントを調製し、発現ベクターpMttΔXhoにクローニングした。ゲノムDNAは、Qiagen(Valencia,CA)製のDNeasy Tissue Kitを利用して3種の株(FUP、NF54(クローン3D7)およびFVO)の培養したP.falciparum寄生虫から調製した。
【0051】
オリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR増幅により、コンストラクトA、B、C、D、E、F、GおよびQ用の全長MSP−1 p42、およびMSP−1のC末端フラグメントを作製した。増幅したMSP−1 p42のPCRフラグメントは、FUP(GenBank受託番号M37213)のMSP−1のアミノ酸Ala1333からSer1705をコードする配列を含む。N末端切断型はすべて、全長MSP−1 p42コンストラクトから増幅した。増幅に使用したオリゴヌクレオチドプライマーは、適切な制限部位および終止コドンもコードしていた。コンストラクトBは、実施例1に記載したCTエピトープをコンストラクトAのN末端に融合してある点で、どれもp42に由来する隣接配列を持つ他のN末端切断サブユニットと異なる。
【0052】
PCR増幅は、高忠実度Pfxポリメラーゼ(Invitrogen,Carlsbad,CA)の使用により達成した。得られたPCR増幅フラグメントを適切な制限酵素で消化し、Bgl IIおよびXho Iで消化したpMttΔXhoベクターに挿入するか、またはBam HIおよびXho Iで消化したpHBI−20Dベクターに挿入した。すべてのコンストラクトの接合部および全インサートを配列決定して、導入されている様々な構成要素が正しく、かつ適切なリーディングフレームが保存されていることを確認した。
【0053】
ATCCから入手したDrosophila melanogaster S2細胞(「Drosophila S2細胞」、または単に「S2細胞」。Schneider,1972)を利用した。細胞は、Excell 420培地での増殖に適応しており、すべての手順および培養をこの培地で行う。細胞は、5日から7日の間で経過させ、典型的には1×10細胞/mLの密度で播種し、26℃でインキュベートする。MSP−1のC末端サブユニットタンパク質のコード配列を含むすべての発現プラスミドを、リン酸カルシウム法によってS2細胞に形質転換した。pMttΔXhoプラスミドを使用した場合、ハイグロマイシンBで選択するため、pCoHygroが0.5μgに対して発現プラスミドが10μgの比率でpCoHygroプラスミドを用いて細胞を同時形質転換した。pHBI−20Dプラスミドを使用した場合、このプラスミドにはハイグロマイシン遺伝子が導入されているため、10μgの発現プラスミドでのみ細胞を形質転換した。形質転換後、0.3mg/mLハイグロマイシンに耐性がある細胞を選択した。一旦安定な細胞株が選択されたら、適切な産物を発現しているかについてこれらを評価した。5mLの培養液を2×10細胞/mLで播種し、0.2mMのCuSOで誘導し、26℃で7日間培養した。細胞の除去後、培養培地のサンプルをSDS−PAGEおよびウエスタンブロット解析に供して、様々なMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の発現を評価した。
【0054】
予備的な抗原性試験および免疫原性試験には、発現させたMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の迅速な精製手段として、免疫親和性クロマトグラフィー(IAC:immunoaffinity chromatography)法を利用した。p42特異的IACカラムの調製には、MSP−1コンフォメーション感受性mAb5.2を使用した(Siddiqui et al 1987、およびChang et al 1992)。製造者(Unisyn,Hopkinton,MA)の推奨に従い、Cell Pharm1000中空糸型バイオリアクターを用いて十分な量のmAb5.2を作製した。mAb5.2ハイブリドーマ細胞株は、ATCCから入手し、RPMI1640(Cambrex,Hopkins,MA)で増殖させた。培地には、フラスコでの増殖の場合10%のFBS、および中空糸型バイオリアクターでの増殖の場合5%FBSを補充した。バイオリアクターを25日間運転し、総収量57mgを得た。カラムマトリックス(活性化N−ヒドロキシ−スクシンイミド−HiTrap,Pharmacia,Piscataway,NJ)1mL当たり10mgの親和性精製したMAb5.2をカップリングすることにより、ベッド容量2mLのカラムを作製した。IACカラムを200mLの清澄にした培養培地で1分当たり1mLの速度で灌流した。10mMのリン酸緩衝液、pH7.2で洗浄後、抗原を100mMのグリシン、pH2.5で溶出した。溶出産物を1Mのトリス、pH7.5(最終濃度0.2M)で中和させ、NaClを、最終濃度150mMになるように加えた。次いでサンプルの緩衝液をリン酸緩衝生理食塩水(「PBS:phosphate buffered saline」)に交換し、Centricon 30(Millipore,Bedford,MA)を用いて膜限外濾過により濃縮した。
【0055】
図4、図5および図6に、N末端コンストラクトを示す。図6に示すように、N末端切断コンストラクトを群1と呼ぶ。群1のコンストラクトは、ネイティブなp42配列と同様にp19の直前に、p33のC末端の単一の連続部分を保持する任意のコンストラクトと定義される。N末端が切断された群1コンストラクトは、これらのサブユニットが細胞プロセシングに起因して自然界に見出されないという点で新規なMSP−1のC末端サブユニットの代表である。
【0056】
(実施例3)
MSP−1のC末端サブユニットタンパク質コンストラクトA、BおよびCの免疫原性の評価
p33 N末端切断(群1)に基づくDrosophilaで発現させたMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の免疫原性を、マウスおよびウサギにおいて評価し、それらのタンパク質が増強されたか免疫原性能力を有するかどうかを決定した。最初の実験ではすべて、フロイント完全アジュバント(FCA:Freund’s Complete Adjuvant)またはISA51のいずれかを利用してサブユニットタンパク質を送達した。
【0057】
マウスに、精製されたサブユニットタンパク質を用量10μgで、4週間間隔にて3回腹腔内免疫した。各投与から3週間後にマウスから採血した。次いで血清を、抗p19および抗p42抗体力価についてELISAにより評価した。ニュージーランド白ウサギについては、用量50gにて筋肉内経路により4週間間隔で4回免疫した。最初の3回の投与から2週間後、4回目の投与から3週間後および4週間後にウサギから採血した。次いで血清を、ELISAにより抗p42抗体力価について評価した。ウサギからの血清はまた、寄生虫増殖活性についてインビトロアッセイでも試験した(Hui et al.,Exp.Parasitol,(1987)64:519−522)。簡単に説明すると、寄生虫増殖抑制活性をアッセイするため、30%の最終濃度になるように血清サンプルを培養培地に加え、当初0.5%の寄生虫血となるように調整された感染ヒト赤血球とともにインキュベートする。本アッセイでは、ヒト血清で増殖できるように適合されたP.falciparum 3D7寄生虫を利用する。次いで培養液を72時間インキュベートし、培養赤血球のギムザ染色した薄層塗抹標本の寄生虫血を顕微鏡により決定する。阻害パーセントを、対照血清サンプル(同じ動物からあらかじめ採血しておいたもの)の寄生虫血から試験サンプルの寄生虫血を差し引いたものを、対照血清サンプルの寄生虫血で割り、その商に100を掛けて算出する。
【0058】
フロイント完全アジュバント(FCA)とともに配合したMSP−1 p42を用いてウサギを免疫する場合に得られる結果の例を表2に示す。MSP−1 p42で免疫されたウサギの結果から、p42ワクチン製剤が適切な免疫応答、高いELISA力価、および50%より高い寄生虫増殖抑制力価を惹起する可能性があることが実証される。これらの結果は、FCAなどの強力なアジュバントでしか達成できない。しかしながら、FCAは、ヒトに使用するのに好適ではないため、これらの結果は、ヒトにとって可能性のあるワクチンの製剤を説明するものではない。ヒトに使用できる可能性がある他のアジュバントを使用すると、免疫時の全体の抗体力価は十分であるものの、寄生虫増殖抑制抗体(inhibition antibody)が一貫しない。したがって、一貫して強力かつ特異的な免疫応答、寄生虫増殖抑制抗体を誘導できる、組換えサブユニットタンパク質の免疫原性能力を増強する別の手段を開発する必要がある。
【0059】
【表2】

【0060】
表3に、コンストラクトA、BおよびCについてのELISAのデータを示す。特異的抗体反応ではなく全体的な抗体反応のみを測定するELISA力価を基準にすると、コンストラクトCが最も強力かつ一貫した免疫応答を引き起こす。
【0061】
【表3】

【0062】
表4には、コンストラクトA、BおよびCについての寄生虫増殖抑制データを示す。特異的抗体反応を測定する抑制データを基準にすると、コンストラクトAおよびBが、p19サブユニットおよびp42サブユニットによく見られるように一貫してはいないものの、免疫された動物に特異的な応答を引き起こすことができた。一方、コンストラクトCは、感知できる抑制抗体(inhibition antibody)を何ら生成できなかった(アッセイの変わりやすさを勘案して、50%より高い結果のみを有意とみなす)。コンストラクトCからの結果は、まったく予想外であった。この結果の以前には、重要な作業上の前提は、特異的な抑制抗体の生成には、全体的な抗体力価が一貫して高いことが必須であるということであった。さらに、コンストラクトCからの結果は、寄生虫増殖抑制の能力がある抗p19抗体の生成を抑制し得るp33配列が存在することを強く示唆した。これは、コンストラクトC中のp33セグメントが、PROPED(TEPITOPE)アルゴリズム(Singh et al.,Bioinformatics,(2001)17:1236−7;Sturniolo et al.,Nat Biotechnol.(1999)17:555−61)により予測された予測T細胞エピトープ(表1中の、および図3および4に示す通りの、p33−7)を持つという事実にもかかわらずである。
【0063】
【表4】

【0064】
コンストラクトA、BおよびCからの寄生虫抑制の結果から、可能性のあるT細胞エピトープの予測のみに基づいて作製されたMSP−1のC末端コンストラクトでは、p19領域に特異的な増強された免疫応答を確実に引き起こすには不十分であることが実証される。実際、コンストラクトCに伴う予想外の結果からは、予想エピトープの少なくとも1つであるp33−7が、所望の特異的抗体反応を著しく抑制し得ることが実証された。したがって、免疫能力の増強を有するコンストラクトの適切な性質を予測するには、どの配列が増強する可能性があり、どの配列が抑制する可能性があるかを選別するためにかなりの実験を行うことが不可欠である。
【0065】
(実施例4)
MSP−1のC末端サブユニットタンパク質−p33連結配列の発現および分泌
動物モデルにおいて寄生虫増殖抑制抗体を惹起する能力に関わる抑制配列または外来性配列を除外しつつ増強配列を連結する試みにおいて、MSP−1 p42タンパク質のp33領域からの不連続なセグメントの組み合わせに基づき、さらなるMSP−1のC末端サブユニットタンパク質を作製した。群1のコンストラクトと同様に、p33セグメントの選択については、表1に示した、可能性のある様々なT細胞エピトープの位置をある程度参考にした。非連続なセグメントを含む3種類の異なるコンストラクト群(群2、群3および群4)を作製した。群2のコンストラクトには、既知のT細胞エピトープを含むフラグメントを選択したのに加えて、さらに2つの設計基準が存在した。その第1は、コンストラクトCのp33セグメントが抑制配列を含むという実施例2のデータに基づき、このセグメントを除外することであった。第2は、2〜3のフラグメントのみを連結することであった。群2のコンストラクトはp33の不連続なセグメントに基づくため、p33配列をp19に連結して得られたコンストラクトは、組み合わせた配列が自然界に見出されないという点で新規なコンストラクトである。群2のコンストラクトは、合計7つ作製した。6つのコンストラクト(コンストラクトI、J、K、L、MおよびP)は、p33セグメントの様々な組み合わせとp19領域との連結、およびコンストラクトC領域の除外に基づくものであった。1つのコンストラクト(コンストラクトH)は、コンストラクトC領域の除外にのみ基づくものであった。群3のコンストラクトは、p33領域の保存されたすべてのフラグメントの連結に基づくコンストラクトN、あるいは、すべての非保存フラグメントの連結に基づくコンストラクトOのどちらかであった。これらのコンストラクトはどちらも、合成法により作製した。群4は、1つのコンストラクト(コンストラクトR)のみを含む。予備データに基づき、コンストラクトI、KおよびLから選択されたフラグメントを選択して組み合わせた。
【0066】
群2、群3および群4のコンストラクトではすべて、実施例1に記載したpHBI−20D Drosophila発現プラスミドを使用した。群2および群4のコンストラクトの作製には、pHBI−20D−p19ベースのプラスミドを最初に構築した。pHBI−20D−p19ベースのプラスミドは、全長p19配列を含み、その直後にGly−Gly−Thr−Gly−Gly−Glyリンカーをコードする配列がある。この配列は、特有のKpn I制限部位を含んでおり、p33配列をp19配列とインフレームで連結するのに利用した。また、pHBI−20Dの分泌シグナル配列の末端の典型的なクローニング部位であるBam HI部位をNhe I部位に改変して、組み合わせた様々なp33配列のマルチクローニング事象を可能にした。発現コンストラクトは、発現ベクターpHBI−20D−p19に、PCR増幅フラグメントを直接クローニングするか、または化学的に合成されたフラグメントを含むシャトルベクター由来のフラグメントをサブクローニングすることにより作製した。p33の非連続なセグメントが複雑であるため、合成的に作製した群3のコンストラクトでは、合成の際にp19領域も含ませた。したがって、群4のコンストラクトではp33フラグメント間、またはp33領域とp19領域との間にリンカー配列が存在しない。この合成フラグメントは、適切な制限酵素を用いてpHBI−20Dに直接クローニングした。
【0067】
オリゴヌクレオチドプライマーおよび合成配列は、FUP配列(Genbank受託番号M37213)を基に設計した。オリゴヌクレオチドプライマーは、MSP−1に特異的な配列に加えて適切な制限部位をコードしていた。連結されるセグメントでは、フラグメントの5’末端をSpe I部位(Nhe Iと適合性)を用いて設計し、フラグメントの3’末端を、pHBI−20−p19のクローニング部位に相当するKpn I部位を用いて設計した。2つのp33フラグメントを組み合わせた場合、連結を可能にするために適切な末端でBam HI部位を設計することによりそれらを連結した。PCR増幅、クローニング、およびS2細胞の形質転換は、実施例2に記載されているように達成した。発現させたサブユニットタンパク質は、実施例2に記載されているようにIAC法により精製した。
【0068】
群2、3および4を代表するp33連結コンストラクトを図4、図5および図6に示す。群2のコンストラクトは、p33の1つまたはそれより多くの不連続なセグメントをp19領域に連結した任意のコンストラクトと定義される。p33配列をp19に連結して得られたコンストラクトは、組み合わせた配列が自然界に見出されないという点で新規なコンストラクトである。
【0069】
(実施例5)
マウスにおけるMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の免疫原性の評価
p33連結配列に基づく、Drosophilaで発現させたMSP−1のC末端サブユニットタンパク質(群2)の免疫原性を、マウスおよびウサギにおいて評価し、それらのタンパク質が増強された免疫原性能力を有するかどうかを決定した。最初の実験ではすべて、フロイント完全アジュバント(FCA)またはISA51のどちらかを利用してサブユニットタンパク質を送達した。
【0070】
マウスおよびウサギの免疫ならびに免疫応答の評価を、実施例3に記載されているように行った。群2のコンストラクトの抗体力価を図7に示す。これらの結果から、これらのコンストラクトにより誘導される抗体力価には、様々なレベルが存在し、コンストラクトHおよびIの抗体力価が最も高く、コンストラクJの抗体力価が最も低いことが示される。
【0071】
【表5】

【0072】
Drosophilaで発現させたMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の免疫原性は、群1および群2どちらも、ELISPOT法を用いた、初回免疫したマウス脾細胞からのサイトカイン産生を基にした。マウスの免疫は、実施例3に記載されているように行った。免疫過程の後、各群から一部のマウスを最終投与から7日後に屠殺し、その脾臓を取り出した。脾細胞を培養し、ELISPOT法によるサイトカイン解析に使用した。免疫された各群の培養脾細胞を、免疫に使用したのと同じ精製された抗原調製物で刺激した。抗原刺激後、細胞のインターフェロン−γおよびインターロイキン−4の産生について解析した。この解析の結果を図8に示す。
【0073】
群1および群2のELISPOT解析に基づき、MSP−1のC末端サブユニットタンパク質には、インターフェロン−γおよびIL−4の産生で見て、2つの群間に明らかな相違があることが分かる。群1のコンストラクトで初回免疫した脾細胞は、刺激時のIL−4の反応が強く、一般にインターフェロン−γの反応が弱い。一方、群2のコンストラクトで初回免疫した脾細胞は、刺激時の反応が正反対であり、インターフェロン−γの反応が強く、IL−4の反応が弱い。これらの結果から、コンストラクトの2つの群間に顕著な相違があることが確認されるが、その相違の本質は、現時点では不明である。メカニズムは明らかでないものの、群2のコンストラクトのp33−7エピトープの除去が、群1におけるIL−4の強い反応から群2におけるIL−4の弱い反応への変化に役割を果たしている可能性が強い。さらに、このデータから、適切な反応を惹起するのに必要な免疫応答を理解するには、複数レベルの実験が必要とされることも裏付けられる。
【0074】
(実施例6)
ウサギにおけるMSP−1のC末端サブユニットタンパク質の免疫原性の評価
最終目的は、どのMSP−1のC末端コンストラクトが、強力で一貫した寄生虫増殖抑制抗体(inhibition antibody)を作るかを決定することであることから、この解析を行うため、選択されたコンストラクトを用いてウサギを免疫した。コンストラクトは、実施例3、5および6に示した結果に基づき選択した。
【0075】
実施例3に記載されているように、ニュージーランド白ウサギの群を免疫した。実施例3に記載されているように、寄生虫増殖抑制アッセイを行った。
【0076】
結果を下記表Xに示す。
【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【0079】
【表8】

【0080】
【表9−1】

【0081】
【表9−2】

【0082】
【表9−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
増強された免疫原性特性を持つMSP−1のC末端組換えサブユニットタンパク質であって、
p33領域の選択されたセグメントを加えた、C末端領域のPlasmodium falciparum MSP−1タンパク質のp19コア領域;ならびに
細胞ベースの発現系からの該組換えサブユニットタンパク質の発現および分泌
を含む、組換えサブユニットタンパク質。
【請求項2】
前記増強された免疫原性特性は増加され一貫した寄生虫増殖抑制活性として測定される、請求項1に記載の組換えサブユニットタンパク質。
【請求項3】
免疫された動物はすべて寄生虫増殖抑制活性が50%より高くなる、請求項2に記載の組換えサブユニットタンパク質。
【請求項4】
前記サブユニットは配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号7および配列番号17に示すp33領域のN末端の欠失により誘導される、請求項1に記載の組換えサブユニットタンパク質。
【請求項5】
前記サブユニットは配列番号8、配列番号11、配列番号14および配列番号18に示す選択されたp33領域フラグメントの連結により誘導される、請求項1に記載の組換えサブユニットタンパク質。
【請求項6】
前記発現系は真核細胞培養系である、請求項1に記載の組換えサブユニットタンパク質の発現。
【請求項7】
前記細胞培養発現系は昆虫細胞を利用する、請求項6に記載の組換えサブユニットタンパク質の発現。
【請求項8】
前記昆虫細胞はDrosophila S2細胞である、請求項7に記載の組換えサブユニットタンパク質の発現。
【請求項9】
マラリア感染からの保護を惹起することができるMSP−1のC末端サブユニットタンパク質を含む、ワクチン製剤。
【請求項10】
前記MSP−1のC末端サブユニットタンパク質は配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号7 配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17および配列番号18に示される、請求項9に記載のワクチン製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−511521(P2013−511521A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539877(P2012−539877)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/003017
【国際公開番号】WO2011/062637
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(500038293)ハワイ バイオテック, インコーポレイテッド (3)
【出願人】(592225434)ユニバーシティ・オブ・ハワイ (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF HAWAII
【Fターム(参考)】