説明

増粘材又は増粘剤

【課題】本発明の目的は、ココナツ果実胚乳の風味の良さを生かしながら、ココナツ果実胚乳に含まれるココナツマンナンを増粘剤として機能も発揮させた、新しい増粘材又は増粘剤を得ることである。
【解決手段】本発明は、ココナツ果実胚乳及び水溶性ヘミセルロースを含有することを特徴とする増粘材である。また、ココナツマンナン及び水溶性ヘミセルロースを含有することを特徴とする増粘剤である。さらに、上記の増粘材又は増粘剤を使用した食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はココナツ果実胚乳を含有する増粘材又はココナツ果実胚乳から抽出されたココナツマンナンを含有する増粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
増粘剤、ゲル化剤は多種の機能性により食品に応用される。例えばドレッシング、スープ、飲料へのとろみ付けによるボディ感の付与、固形物の分散による安定化、ゼリー、プリン等のゲル化によるテクスチャーの付与、アイスクリームの結晶生成防止による品質保持等、多岐に渡る応用が挙げられる。
【0003】
増粘剤、ゲル化剤として用いられるものとしては、カラギーナン、寒天等の海藻抽出物、グアーガム、ローカストビーンガム、水溶性大豆多糖類などの種子抽出物、アラビアガム、アラビアガラクタン等の植物樹液粘質物、キサンタンガム、プルラン等の微生物産出粘質物、ペクチンやグルコマンナン等の果実や根菜からの抽出物、更にセルロース、化学合成品であるカルボキシメチルセルロースなどがよく使用される。
【0004】
ヤシの実のうち、ココナツミルク、デシケートココナツ等の食品に利用される、ココナツ果実胚乳部分は、独特の芳香をもつため、製菓、製パン原料として広く用いられるが、水に溶けにくく、ダマになりやすいといった問題があった。
【0005】
これは、ココナツ果実胚乳に含まれる、ココナツマンナンの水への溶解性が低いことによるものであるが、ココナツマンナンはマンノース鎖にガラクトース側鎖が付いている主にマンノースからなる多糖類であり、その割合はマンノース15個に対してガラクトース側鎖が1つの割合である。
【0006】
例えば、グアーガムも同様のマンノース主体の多糖類であるが、マンノース2個に対してガラクトース側鎖が1つの割合で付いており、ガラクトース側鎖同士が水素結合を防止するため、水溶性が強く、冷水でも粘度の高い溶液を作ることができる(非特許文献1)。
【0007】
一方、ココナツマンナンはガラクトースの付かないマンノース鎖、いわゆるスムーズ領域が大きく、例えば加熱した時などには、これが別のマンノース鎖のスムーズ領域と水素結合を起してしまい凝集し、不溶化する。このため従来は、ココナツマンナンは多糖類でありながら、増粘剤機能、ゲル化機能をもつ食品として用いることは出来なかった。
【0008】
【非特許文献1】月間HACCP 1999年3月号 p.44−50 増粘安定剤
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ココナツ果実胚乳の風味の良さを生かしながら増粘機能を有する新しい食品素材、又は、ココナツ果実胚乳に含まれるココナツマンナンを増粘剤として機能させる、新しい増粘剤を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはココナツマンナンの増粘剤機能、ゲル化能の付与に関して鋭意研究を行った結果、ココナツ果実胚乳にキサンタンガム、ペクチンなどの水溶性ヘミセルロースを少量添加することで、可溶化および増粘剤機能、ゲル化能を付与させることが可能であることを発見した。
【0011】
つまり、ココナツマンナンに水溶性多糖類を少量添加することで、これらの水溶性ヘミセルロースが、ココナツマンナンの個々のマンナン鎖の隙間に入り、マンナン鎖同士の水素結合の生成を抑制し、これにより可溶化および増粘剤機能、ゲル化能を有する新しい増粘剤を得ることが可能となり、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明の第一は、ココナツ果実胚乳及び水溶性ヘミセルロースを含有することを特徴とする増粘材である。第二は、ココナツ果実胚乳から抽出されたココナツマンナン及び水溶性ヘミセルロースを含有することを特徴とする増粘剤である。第三は、ココナツ果実胚乳及び水溶性増粘多糖類を含有することを特徴とする増粘材である。第四は、ココナツ果実胚乳から抽出されたココナツマンナン及び水溶性増粘多糖類を含有することを特徴とする増粘剤である。第五は、ココナツ果実胚乳及びキサンタンガムを含有することを特徴とする増粘材である。第六は、ココナツ果実胚乳から抽出されたココナツマンナン及びキサンタンガムを含有することを特徴とする増粘剤である。第七は、第一〜六何れか記載の増粘材又は増粘剤を使用した食品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来は水に溶けにくく、扱いにくかったココナツ果実胚乳部分を、その芳香を生かしつつ、新たに増粘材として利用することができ、食品素材としての利用範囲を広げることができる。また、従来は水に溶解しないため、多糖類でありながら、増粘剤、ゲル化剤としての使用が出来なかったココナツマンナンを、新たな増粘剤として、利用することが可能となった。また、キサンタンガム、ペクチンなどの水溶性ヘミセルロースは、もともと増粘剤、ゲル化剤としての機能をもつものであるが、ココナツマンナンに対して補助的に使用することで増粘機能を発揮することができ、水溶性ヘミセルロースを単独で使用する場合に比べ、格段に少ない使用量で増粘剤としての使用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明の増粘材に用いるココナツ果実胚乳は、学術名Cocos nuciferaと呼ばれるココヤシから採取されるヤシ科植物の果実の胚乳部分であり、この部分を磨砕あるいは粉砕したものを用いることができる。
【0016】
また、ココナツ果実胚乳を磨砕あるいは粉砕したものを乾燥させて用いることもできるが、ココナツ果実部分を内果皮とともにエキスペラー等で圧搾されたものを原料として用いても良い。またその乾燥方法は、天日乾燥、あるいはココヤシの外果皮等を燃やして出る煙を直接あてて乾燥するくん煙乾燥や、ココヤシの外果皮等を燃やして出る熱を利用する熱風乾燥、さらには電源や蒸気などで加熱乾燥する方法などがあるが、これらいずれの方法も制限せず採用することが出来る。また得られた乾燥物を、細切りや粉末状に粉砕して用いることもでき、粉砕方法についても特に制限はない。
【0017】
本発明の増粘剤に用いるココナツマンナンは、その製造方法を特に制限することなく使用することが出来る。ココナツマンナンの抽出は、上記ココナツ果実胚乳をそのまま用いても良いが、搾油、溶剤等で脱脂したものを用いても良い。
【0018】
本発明の増粘剤に用いるココナツマンナンの抽出は、硫酸や塩酸などの酸を用いての加水分解処理やマンナン分解活性を有する酵素による加水分解処理、あるいは亜臨界水や超臨界水のような高温高圧による抽出方法でも良い。
【0019】
本発明の増粘材又は増粘剤に用いる水溶性ヘミセルロースとは、ラムノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、グルコース、ウロン酸の1種もしくは2種以上を含むものであればよいが、より好ましくは、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、水溶性大豆多糖類、アラビアガム、アラビアガラクタン、プルラン、ペクチン、グルコマンナン、カルボキシメチルセルロースペクチンなど各種の水溶性増粘多糖類を用いることができ、この中でも特にキサンタンガムが好ましい。
【0020】
ココナツ果実胚乳又はココナツマンナンと水溶性ヘミセルロースの配合割合は特に制限しないが、少ない配合割合で十分に効果を発揮させることが出来、ココナツ果実胚乳又はココナツマンナン100部に対して、水溶性ヘミセルロース0.5〜50部が好ましい。より好ましくはココナツ果実胚乳又はココナツマンナン100部に対して水溶性ヘミセルロース1〜30部であり、最も好ましくは水溶性ヘミセルロース5〜20部である。水溶性ヘミセルロースの比率が少なすぎると、水溶性を付与させることができず、多すぎると、それ以上の効果は得られないため、コストの面から好ましくない。
【0021】
本発明の増粘剤は、ココナツ果実胚乳又はココナツマンナンを約90℃の温水に十分に分散し、さらに、約85〜90℃に品温を調整した上で、水溶性ヘミセルロースを溶解させ、冷却することで、製造することができる。
【0022】
本発明の増粘剤は、従来の増粘剤と同様、食品として、ソース、タレ、ドレッシング、スープ、飲料、ゼリー、プリン、ババロア、フラワーペースト、ジャム、こんにゃく、こんにゃくゼリー、アイスクリーム、冷菓、ホイップクリーム、その他冷凍食品などへ利用することが出来る。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を例示して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、例中%及び部は重量基準を意味する。
【0024】
(ココナツ果実胚乳の製造)
フィリピンより入手したココナツ果実から胚乳を取り出し、洗浄し磨砕してスラリー状にした後に濾別して回収される固形分を70℃に設定された熱風乾燥機で乾燥してココナツ果実胚乳を得た。
【0025】
(実施例1)
90℃の温水89.5部に先に調製したココナツ果実胚乳10部をよく分散した。さらに温度を85〜90℃に調整した上で、0.5部のキサンタンガム(商品名:「VS−500」;新田ゼラチン株式会社製)を溶解させ、これを冷却し、本発明の増粘材を得た。
【0026】
(比較例1)
90℃の温水90部に先に調製したココナツ果実胚乳10部をよく分散し、これを冷却し、増粘材を得た。
【0027】
(比較例2)
温度を85〜90℃に調整した温水99.5部に0.5部のキサンタンガム(商品名:「VS−500」;新田ゼラチン株式会社製)を溶解させ、これを冷却し、増粘材を得た。
【0028】
(比較例3)
温度を85〜90℃に調整した温水97.5部に2.5部のキサンタンガム(商品名:「VS−500」;新田ゼラチン株式会社製)を溶解させ、これを冷却し、増粘材を得た。
【0029】
(増粘剤を用いたアイスクリームの製造)
実施例1、比較例1〜3で得られた増粘材を用いて、アイスクリームを表1に示した配合で製造した。増粘材の入った溶液を65℃に調整し、これに粉類を混合し、そのままの温度で15分間ホモミキサーを用いて混合を行った。その後、油脂を混合してアイスクリーム製造機でアイスクリームを製造した。
【0030】

【0031】
本発明の増粘材を用いたアイスクリームは比較例のアイスクリームと比べて、キサンタンガムの使用量は少なかったものの、同等の分散性、口どけ、滑らかさを有していた。更に、ココナツの芳香に溢れた、風味の良好なアイスクリームとなり、ココナツの風味を生かしながらココナツマンナンに増粘機能を付与したアイスクリームを製造することができた。これらの結果を以下の表2にまとめた。
【0032】

【0033】
(ココナツマンナンの製造)
フィリピンより入手したココナツ果実から胚乳を取り出し、洗浄し磨砕してスラリー状にした後に濾別して得られる固形分に対し重量比で2倍量のヘキサンを混合して30分間激しく攪拌した。濾過により回収した残渣にもう一度ヘキサンを添加して攪拌した。この操作を計3回繰り返し、残存油分は0.28%の固形分を得た。この脱脂固形分100gにAspergillus niger由来の酵素(商品名:「スミチームACH」;新日本化学工業株式会社製、ガラクトマンナナーゼ活性:力価50,000ユニット/g)0.8gとイオン交換水99.2gを添加して攪拌混合し、50℃の条件下で18時間反応させた。反応終了後70℃に設定した熱風乾燥機で乾燥して、ココナツマンナンを得た。
【0034】
(実施例2)
90℃の温水98.8部に先に調製したココナツマンナン1部をよく分散した。さらに温度を85〜90℃に調整した上で、0.2部のキサンタンガム(商品名:「VS−500」;新田ゼラチン株式会社製)を分散させ、これを冷却し、本発明の増粘剤を得た。
【0035】
(比較例4)
90℃の温水99部に実施例2で調製したココナツマンナン1部をよく分散したのちこれを冷却し、増粘剤を得た。
【0036】
(比較例5)
温度を85〜90℃に調整した温水99.8部に0.2部のキサンタンガム(商品名:「VS−500」;新田ゼラチン株式会社製)を分散させ、これを冷却し、増粘剤を得た。
【0037】
(比較例6)
温度を85〜90℃に調整した温水99部に1部のキサンタンガム(商品名:「VS−500」;新田ゼラチン株式会社製)を分散させ、これを冷却し、増粘剤を得た。
【0038】
(粘度の測定)
実施例2および比較例4〜6の増粘剤の溶液について、B型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて25℃で粘度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0039】

【0040】
その結果、ココナツマンナン1重量%水溶液である比較例3およびキサンタンガム濃度0.2重量%水溶液である比較例4では低粘度であったのに対し、ココナツマンナン濃度1重量%+キサンタンガム濃度0.2重量%水溶液である実施例2では、キサンタンガム濃度1重量%水溶液である比較例5と同程度の増粘効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ココナツ果実胚乳及び水溶性ヘミセルロースを含有することを特徴とする増粘材。
【請求項2】
ココナツ果実胚乳から抽出されたココナツマンナン及び水溶性ヘミセルロースを含有することを特徴とする増粘剤。
【請求項3】
ココナツ果実胚乳及び水溶性増粘多糖類を含有することを特徴とする増粘材。
【請求項4】
ココナツ果実胚乳から抽出されたココナツマンナン及び水溶性増粘多糖類を含有することを特徴とする増粘剤。
【請求項5】
ココナツ果実胚乳及びキサンタンガムを含有することを特徴とする増粘材。
【請求項6】
ココナツ果実胚乳から抽出されたココナツマンナン及びキサンタンガムを含有することを特徴とする増粘剤。
【請求項7】
請求項1〜6何れか記載の増粘材又は増粘剤を使用した食品。

【公開番号】特開2009−240267(P2009−240267A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92952(P2008−92952)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】