説明

壁排水用の排水ソケット及び壁排水用の排水ソケットを有する便器装置

【課題】排水性能を維持した便器装置を提供する。
【解決手段】便器1の排水路14の出口端部14aが挿入されたZ方向に開口した接続部62と、壁面Wに設けられた排水配管Dの入口端部Dに挿入されて接続部62とX方向に開口した接続部64と、接続部62及び64との間に設けられて接続部64よりも下方に張り出した排水流路66とを有する排水ソケット60を有し、接続部64の流出口65の下端65aのうち壁面Wに最も近い位置65aと排水路14の下端14aのうち壁面に最も近い位置14aとの距離Gで決定される、排水流路66の最小断面積を排水路14の断面積よりも大きくした便器装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、便器装置に係り、特に、便器の汚物を壁側に排水する壁排水用の排水ソケットと、それを有する便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、便器装置の小型化が益々要求されているが、その場合、排水性能の維持が重要となる。排水性能は、汚物を流す力であるサイホン力と汚物の流れ易さである流路の形状に依存する。サイホン現象は、貯水位置と出水位置の位置エネルギーの差を利用するため、図8(a)に示す便器の排水路210のZ方向の高さの差である高さh(封水深を決める下端である排水路210入口開口上端と排水路下端との高さ)がサイホン力を決定する。高さhが大きければ大きいほどサイホン力が大きくなる。一方、便器装置200の小型化のためには、現状では800mm程度である、壁面Wから便器202の先端203までのX方向の全長Lを小さくする必要がある。ここで、図8(a)は特許文献1の図29に記載された従来の壁排水便器装置200の断面図である。
【0003】
壁排水では排水路210に着脱可能な排水ソケット220を使用する。排水ソケット220は、支持部222と、接続部224及び226とを有する。支持部222は、床面FLから壁面Wに設けられた排水配管Dの中心線までの高さJが100mm乃至155mmの範囲で変化することからZ方向の高さが可変に構成されている。接続部224には便器の排水路210の出口端部が挿入され、接続部226は排水配管Dの入口端部に挿入される。汚物は便器202から排水路210、接続部224及び226を経て排水配管Dに排水される。この際、排水ソケット220は、汚物が流れる方向を排水流路225において90°変換する。排水ソケット220も、小型化に合わせて、図8(b)に示す排水ソケット220の壁面Wから接続部224の中心線までのX方向の長さA’を小さくする必要がある。ここで、図8(b)は特許文献1の図28に記載された、図8(a)の排水ソケット220の拡大断面図である。
【0004】
その他の従来技術としては特許文献2がある。
【特許文献1】特開2005−48407号公報(図11、図28、図29)
【特許文献2】特開平8−260551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、図11などにおいて接続部226の流出口の下端227を最下点とする流路を開示している。しかし、高さJが大きくなると排水路210の出口端部の接続部224内への挿入量が大きくなる。この結果、排水路210の出口端部の端面212と、端面212の直下の排水流路225との距離Jが小さくなる。距離Jが小さくなると汚物が90°回転しにくくなり、その結果、流れ易さが低下する。特許文献1は、図28及び図29において、Rがついた拡張部228を設け、接続部226の下端227から張り出した最下点229を設けることを提案している。これに伴い、距離Jが増加するために流れ易さは改善する。しかし、同公報は、拡張部228を含む流路225の形状を詳しく検討していないので、必ずしも排水性能が十分ではなく、特に、便器装置200を小型にする場合に適した流路225の形状の設定方法が問題となる。
【0006】
そこで、本発明は、排水性能を維持した便器装置を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての便器装置は、便器の排水路の出口端部が挿入された第1の接続部と、壁面に設けられた排水配管の入口端部に挿入されて前記第1の接続部と垂直な方向に開口した第2の接続部と、前記第1の接続部と前記第2の接続部との間に設けられて前記第2の接続部よりも下方に張り出した排水流路とを有する排水ソケットを有し、前記第2の接続部の流出口の下端の前記壁面に最も近い位置と前記出口端部の下端の前記壁面に最も近い位置との距離で決定される、前記排水流路の最小断面積を前記排水路の前記出口端部の断面積よりも大きくしたことを特徴とする。かかる便器装置は、前記排水流路の最小断面積を前記排水路の前記出口端部の断面積よりも大きくしているので流れ易さが向上している。
【0008】
前記出口端部は径53mm乃至60mmを有し、前記距離は62mm以上であることが好ましい。この場合に、汚物の残りや詰まりが改善されることが確認された。
【0009】
また、前記排水流路は、前記排水路の出口端部の中心線よりも前記壁面側に偏心した中心を有する球面状の張り出し部を有し、前記排水配管の内径は75mmであり、前記壁面と前記出口端部の中心線との距離A’は65mm乃至115mmであり、前記張り出し部の中心の前記壁面に垂直な方向の偏心量Eは10mm乃至18mmであることが好ましい。偏心により、汚物の向きを排水口側へ向かせ汚物の移動を容易にする。距離A’を65mm以上に設定することによって汚物が90°回転するスペースを確保して流れ易さを確保する。距離A’を115mm以下に設定することによって便器装置の小型化を確保する。また、偏心量Eを1mm以上に設定することによって汚物の向きを排水口側へ向かせ汚物の移動を容易にする。偏心量Eを18mm以下に設定することによって排水流路の最深部から第2の接続部に至る角度が急激になって汚物が張り出し部に滞留することを防止して流れ易さを確保する。
【0010】
また、前記排水路の前記出口端部が前記第1の接続部に挿入される前記床面に垂直な方向の長さHは20mm乃至60mmであり、前記排水路の前記出口端部から前記第2の接続部の流出口の下端を通って前記床面に平行な平面までの前記床面に垂直な方向の距離Bは50mm乃至90mmであることが好ましい。距離Hを64mm以上に設定することによってサイホン力を確保すると共にシール不良を防止する。距離Hを90mm以下に設定することによって排水トラップ管路14の出口端部14aが排水流路66内に溜まった排水に常時接触することを防止する。また、距離Bを90mm以下に設定することによってサイホン力を確保すると共に汚物の詰まりを防止する。距離Bを50mm以上に設定することによって排水路の出口端部が排水流路に溜まった排水に常時接触することを防止する。
【0011】
前記排水流路の最深部と、前記第2の接続部の流出口の下端の前記壁面に最も近い位置とを結ぶ直線と前記床面に平行な平面とのなす角度Dは1°乃至25°であり、前記壁面と前記出口端部の中心線との距離A’は65mm乃至115mmであることが好ましい。角度Dを1°以上に設定することによって汚物が90°回転するスペースを確保して流れ易さを確保する。角度Dを25°以下に設定することによって張り出し部の深さが深くなって汚物が張り出し部に滞留することを防止し、汚物の流れ易さを確保する。距離A’を65mm以上に設定することによって汚物が90°回転するスペースを確保して流れ易さを確保する。距離A’を115mm以下に設定することによって便器装置の小型化を確保する。
【0012】
前記排水ソケットは、前記第1の接続部と、前記第2の接続部と、前記排水流路とを有する排水ソケット本体と、前記床面上に配置され、前記排水ソケット本体を支持する支持部と、前記排水配管の前記入口端部と前記第2の接続部とがほぼ同じ高さになるように前記排水ソケット本体の高さを調整する高さ調整手段とを有してもよい。このような高さ可変の排水ソケットでは、排水配管の高さが高い場合に上述の問題が発生するため、本発明は特に有効である。
【0013】
本発明の一側面としての排水ソケットは、便器の排水路の内径53mm乃至60mmの出口端部が挿入可能な第1の接続部と、壁面に設けられ、内径75mmの排水配管の入口端部に挿入可能で前記第1の接続部と垂直な方向に開口した第2の接続部と、前記第1の接続部と前記第2の接続部との間に設けられて前記第2の接続部よりも下方に張り出した排水流路とを有する排水ソケット本体と、前記床面上に配置され前記排水ソケット本体を支持する支持部と、前記排水配管の前記入口端部と前記第2の接続部とがほぼ同じ高さになるように前記排水ソケット本体の高さを調整する高さ調整手段とを有する排水ソケットであって、前記排水流路は、前記排水路の出口端部の中心線よりも前記壁面側に偏心した中心を有する球面状の張り出し部を有し、前記張り出し部の中心の前記端面に垂直な方向の偏心量は10mm乃至18mmであり、前記第2の接続部の前記第1の接続部側の端面と前記第1の接続部の中心線との前記端面に垂直な方向の距離は65mm乃至115mmであることを特徴とする。かかる排水ソケットは、偏心により、汚物の向きを排水口側へ向かせ汚物の移動を容易にする。距離A’を65mm以上に設定することによって汚物が90°回転するスペースを確保して流れ易さを確保する。距離A’を115mm以下に設定することによって便器装置の小型化を確保する。また、偏心量Eを1mm以上に設定することによって排水の滞留を低減して汚物の移動を容易にする。偏心量Eを18mm以下に設定することによって排水流路の最深部から第2の接続部に至る角度が急激になって汚物が張り出し部に滞留することを防止して流れ易さを確保する。
【0014】
前記排水流路の最深部と、前記第2の接続部の流出口の下端の前記壁面に最も近い位置とを結ぶ直線と前記第1の接続部の端面に平行な平面とのなす角度Dは10°乃至25°であることが好ましい。角度Dを10°以上に設定することによって汚物が90°回転するスペースを確保して流れ易さを確保する。角度Dを25°以下に設定することによって張り出し部の深さが深くなって汚物が張り出し部に滞留することを防止し、汚物の流れ易さを確保する。前記第1の接続部の前記排水路側の端面から前記第2の接続部の流出口の下端を通って前記端面に平行な平面までの前記端面に垂直な方向の距離(B+H)は70mm乃至150であり、前記排水路の前記出口端部は前記第1の接続部に前記端面に垂直な方向に20mm乃至60mmの距離Hだけ挿入可能であることが好ましい。この数値条件においてサイホン力と流れ易さを確保することができる。
【0015】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、壁排水ソケットにおける排水性能を維持した便器装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1を参照して、本発明の一実施例の便器装置100について説明する。ここで、図1は、便器装置100のブロック図である。便器装置100は、便器1と、便器1を洗浄する洗浄部50と、排水ソケット60とを有する。
【0018】
便器1は、水洗大便器であり、図1に示すように、内側に汚物を受けるボウル部12を有する陶器製の本体2と、本体2の上に配置された図示しない便座と、便座を覆うように配置されたカバーと、本体2の後方上部に配置された局部洗浄装置とを有する。便器装置100は、壁面Wと、便器1の壁面Wから最も遠い本体2の先端3までのX方向の長さLは750mm以下であり、従来の800mmから小型になっている。このような小型の便器装置100を達成するのに後述する排水ソケット60は特に有効である。更に、小型化に対しては、便器1の座面の高さNは370mm乃至390mmが望ましい。高さNが370mm以下では使用者が水はね(おつり)を受けるおそれがあり、高さNが390mmよりも高いと使用容易性と小型化を阻害する。
【0019】
洗浄部50は、リム洗浄(又はボウル洗浄)と、便器洗浄と、溜水供給とを行う。リム洗浄では、ボウル部12の縁であるリム13を洗浄する。便器洗浄では、ボウル部12のリム13から下を洗浄し、サイホン現象を利用してボウル部12の汚物と溜水を排水配管Dから排水する。溜水供給は、下水からの臭気が便器内に流入することを防止する溜水をボウル部12に供給する。
【0020】
洗浄部50は、給水系と、リム洗浄/溜水供給系と、便器洗浄系と、制御部40とを有する。
【0021】
給水系は、洗浄水を供給する水道管に直結され、便器洗浄系への給水とリム洗浄/溜水供給系への給水を切替弁28を介して切り替える。
【0022】
リム洗浄/溜水供給系は、水道の給水圧力によりリム口18から洗浄水を吐出してリム洗浄と溜水供給を行う。リム洗浄/溜水供給系は、後述するポンプ34を介した水の経路(洗浄水管路33b)とは別の、ポンプ34を介さない経路(リム給水路18a)を使用する。
【0023】
便器洗浄系は、ポンプ34によりサイホン現象を発生させて便器洗浄を行う。便器洗浄系は、排水トラップ管路(排水路)14と、ジェット口16と、タンク32と、ポンプ34とを有する。
【0024】
排水トラップ管路14は、ボウル部12の底部から斜め上方に延びた後で下降するS字形状を有し、サイホン現象が発生する部位である。排水トラップ管路14の出口端部14aは排水ソケット60に挿入される。ジェット口16は、サイホン現象を発生させるのに必要な水の噴出と溜水の供給を行う。ジェット口16は、ボウル部12の底部に形成され、排水トラップ管路14の入口に向けて大容量の水を吐水する。
【0025】
タンク32は、サイホン現象の発生に必要な水を貯える。本実施形態のタンク32は、3リットル以下(約2.5リットル乃至3リットル)の内容積を有する。ポンプ34は、タンク32に貯水された水を加圧してジェット口16から吐き出す。ポンプ34は、タンク32の満水位置L6よりも下に配置され、タンク32の満水時にはポンプ34に水が供給されている。ポンプ34の流出口は、洗浄水管路34bを介して、ボウル部12底部のジェット口16に接続されている。
【0026】
タンク32内の満水位置L6は、ボウル部12内の溜水位置L7よりも高く設定することができる。本実施例では溜水位置L7の床面FLからの高さは、120mm乃至125mmである。溜水位置L7の床面FLからの高さが120mmよりも低いとサイホンに時間がかかり、125mmよりも高いと使用者がおつりを受けるおそれがある。
【0027】
洗浄部50は、便器洗浄において、ジェット口16から勢い良く水を噴出して強制的にサイホン現象を起こさせるサイホンゼット式を採用する。ジェット口16の径を大きくして60リットル/分〜120リットル/分の大流量の洗浄水を供給できるのポンプ34を利用して供給することによってサイホン現象を起こすために排水トラップ管路14を素早く満水にしてサイホン現象を直ちに発生することができる。これに加えて、サイホン現象の終了間際に排水トラップ管路14の開口上端部から空気が流入しない程度に前記上端を覆うほどの容量の水を連続して供給することによって、サイホン切れの時に吸い込む空気の量を抑えてサイホン切れ時の騒音を抑えている。
【0028】
洗浄部50は、タンク32を有するが、タンク32の容量を約3リットル以下に抑えることによってタンクレス式と同等の小型化を実現している。本発明者らは、便器1の洗浄には5.5リットルの水が必要であり、サイホン現象を起こす最小限の水量が3リットルであることを発見した。また、リム洗浄で使用する2.5リットルの水は水圧が低くても洗浄効果を維持することができる。このため、リム洗浄/溜水供給系の経路であるリム給水路18aを、ポンプ34を使用する経路である洗浄水管路33bとは分離してリム洗浄にはタンク32の水を使用しないことにした。この結果、タンク32はリム洗浄/溜水供給用の水を貯める必要がなくなり、その容量を便器洗浄用の洗浄水のみを収納する容量、即ち、サイホン現象に必要な3リットルの容量とすることができる。タンク32の容量を小さく抑えることによって便器装置100の小型化を実現することができる。なお、タンク32が貯めるべき水量を3リットル未満(例えば、2.5リットル)として更なる便器装置100の小型化を実現し、便器洗浄時にタンク32への給水を同時に行うことによって便器洗浄用の3リットルを確保してもよい。このように、ポンプ34を使用するサイホンゼット式の洗浄方式の便器装置100は小型化に好適である。
【0029】
制御部40は、図示しない操作部に入力された情報や及び図示しないメモリに格納された情報に基づいて各部の動作を制御するCPUから構成される。
【0030】
排水ソケット60は、便器1の排水トラップ管路14の出口端部と壁面Wに設けられた排水配管Dの入口端部とを連通させ、汚物が流れる方向を排水流路66において90°変換する機能を有する。排水ソケット60は、排水ソケット本体61と、支持部70と、高さ調整手段76とを有する。
【0031】
図2(a)と図2(b)に示すように、排水ソケット本体61の高さは後述する高さ調整手段76によって調節可能である。ここで、図2(a)は、床面FLから排水配管Dの入口端部Dの中心線Dまでの高さJが120mmである場合に、それに合わせて高さ調節された排水ソケット60の状態を示している。図2(b)は、高さJが155mmである場合に、それに合わせて高さ調節された排水ソケット60の状態を示している。
【0032】
高さJは100mm乃至155mmの範囲内で100mm、120mm、148mm、155mmの基準高さのいずれかをとるように設計される。但し、各基準高さで施工誤差のために数ミリのバラツキがある。本実施例の高さ調整手段76により、排水ソケット60は120mm乃至155mmの範囲の高さJに対応可能である。高さ調整は、必ずしも100mm〜155mmの全てに対応できなくても構わなく、100〜120mmに対応できるものとしても良い。
【0033】
図2(a)と図2(b)とを比較すると、床面FLから中心線Dまでの高さが155mmの場合に排水トラップ管14がより深く排水ソケット本体61の内部に入り込むことが理解される。排水トラップ管14がより深く排水ソケット本体61の内部に入り込むとそれだけ排水ソケット本体61内部の排水流路が狭くなり流れ易さが低下する。換言すれば、高さ調整の上限高さJが155mmの場合に所定の排水性能が確保されれば高さJが120mmの場合には所定の排水性能が確保されていることになる。このため、以下では、高さJが155mmの場合に排水性能を確保するための構成について検討する。なお、上述のように、施工誤差があるために高さJが155mmである場合を、本出願では高さJが150mm以上と呼ぶ場合がある。
【0034】
排水ソケット本体61は、図3に示すように、接続部62及び64と、排水流路65とを有する。排水ソケット本体61は、塩化ビニールその他の樹脂から構成される。このように、本実施例では、排水ソケット60は排水トラップ管路14とは別体の樹脂ソケットであるが、排水トラップ管路14に一体の陶器ソケットであることを妨げない。
【0035】
接続部(第1の接続部)62は円環形状を有し、接続部62には便器1の排水トラップ管路14の出口端部14aが挿入される。接続部62には、Z方向に開口する流入口63が円環内部に形成される。Z方向は鉛直方向で壁面Wに平行で床面Fに垂直な方向である。出口端部14aの径Fは53mm乃至60mmに設定されている。JIS規格は径Fに50.8mmの径を要求しているので余裕を持って53mm以上としている。径Fが60mmよりも大きいと接続部62の流入口63の径を大きくしなければならず排水ソケット60のサイホン現象の起動が遅くなり、汚物の残りが生じるためである。
【0036】
排水トラップ管路14の出口端部14aが接続部62に挿入されるX方向の長さH(陶器部の排水ソケットへの挿入長さ)は、20mm乃至60mmである。X方向は壁面Wに垂直で床面FLに平行な方向である。距離Hを20mm以上に設定することによってサイホン力を確保すると共にシール不良を防止する。距離Hを60mm以下に設定することによって排水トラップ管路14の出口端部14aが排水流路66内に溜まった排水に常時接触することを防止する。
【0037】
接続部64の外側の端面64aと、接続部62の流入口63又は排水トラップ管路14の出口端部14aの中心線Mとの距離Aは100mm乃至150mmに設定されている。接続部64の内側の端面64b又は壁面Wと中心線Mとの距離A’は65mm乃至115mmに設定されている。距離Aを100mm以上に設定すること又は距離A’を65mm以上に設定することによって汚物が90°回転するスペースを確保して流れ易さを確保する。距離Aを150mm以下に設定すること及び距離A’を115mm以下に設定することによって便器装置100の小型化を確保する。
【0038】
接続部(第2の接続部)64は円環形状を有し、壁面Wに設けられた排水配管Dの入口端部Dに挿入される。接続部64には、X方向に開口する流出口65が円環内部に形成される。排水配管Dの入口端部Dの径は、本実施例では、75mmである。接続部64の流出口65の下端65aの壁面Wに最も近い位置(端部)65aと出口端部14aの下端14bの壁面Wに最も近い位置(端部)14bとの距離Gは排水流路66の最小断面積を決定する。距離Gは径Fよりも大きく設定されることが望ましい。
【0039】
特許文献1の図28及び図29は、図4に示すように、図面上でも、排水路内径F1とそれより小さい排水流路径G1が存在し、排水路内径F1の導水路断面積より小さな断面積(絞り部)が存在する場合がある。排水路でサイホン現象を誘発させた後に更に絞り部が存在すると絞り部が圧力損失となり、排水が滞溜して排出性能が低下するおそれがある。
【0040】
これに対して、排水流路66の最小断面積を排水トラップ管路14の出口端部14aの断面積よりも大きくしているので流れ易さが向上する。本実施例では距離Dは62mm以上に設定される。この条件の時に、汚物の残りや詰まりが改善されることが確認された。
【0041】
排水流路66は、接続部62及び66との間に設けられ、接続部66よりも下方に張り出している。かかる張り出しにより、特許文献1のように図8(a)に示す距離Jを長く確保することができる。
【0042】
排水流路66は、排水トラップ管路14の出口端部14aの中心線Mよりも壁面W側に偏心した中心Oを中心線M上に有し、中心Oを中心とする球面状の張り出し部67を有する。偏心がなければ、図5に示すような領域Pが大きくなり、汚物の向きを排水口側へ向かせにくくなり、排出性能が低下する。偏心により、汚物の向きを排水口側へ向かせ、汚物の移動を容易にすることができる。
【0043】
中心線MとMの距離で規定される、張り出し部67の中心の偏心量Eは1mm乃至18mmに設定される。偏心量Eを1mm以上に設定することによって汚物の向きを排水口側へ向かせ汚物の移動を容易にすることができるが、汚物を効果的に排水口側へ誘導するには、10mm以上あることが望ましい。また、偏心量Eを18mm以下に設定することによって排水流路66の最深部67aから接続部64の流出口65の下端65aの壁面Wに最も近い位置(端部)65aに至る角度が急激になって汚物が張り出し部に滞留することを防止して流れ易さを確保することができる。
【0044】
排水トラップ管路14の出口端部14aから接続部64の流出口65の下端65aを通って床面FLに平行な平面VまでのX方向の距離Bは50mm乃至90mmに設定されている。平面Vは排水流路66の張り出し部67に溜まった排水の水面と同じである。距離Bを90mm以下に設定することによってサイホン力を確保すると共に汚物の詰まりを防止する。距離Bを50mm以上に設定することによって排水流路66の張り出し部67に溜まった排水に常時接触することを防止する。
【0045】
この結果、接続部62の排水トラップ管路14側の端面62aから平面VまでのZ方向(端面62aに垂直な方向)の距離(B+H)は70mm乃至150mmである。この数値条件においてサイホン力と流れ易さを確保することができる。
【0046】
排水流路66の張り出し部67の最深部67aと位置(端部)65aとを結ぶ直線Qと平面Vとのなす角度Dは1°乃至25°に設定されている。角度Dを1°以上に設定することによって汚物が90°回転するスペースを確保して流れ易さを確保する。角度Dを25°以下に設定することによって張り出し部の深さが深くなって汚物が張り出し部に滞留することを防止し、汚物の流れ易さを確保する。このように、壁面Wからの最深部67aまでの距離を極力短くして排水性能を確保している。
【0047】
最深部67aの深さCは、30mm以下、特に、10mm乃至25mmに設定される。深さCを10mm以上に設定したのは距離Jを確保するためである。深さCを30mm以下は角度Dと距離A’から決定される。
【0048】
図6(a)は排水ソケット60の断面図であり、図6(b)は排水ソケット60の斜視図である。図6(a)及び図6(b)に示すように、支持部70は、一端が排水ソケット本体62に固定されて排水ソケット本体61を支持するロッド部材72と床面FL上に載置される台座74から構成される。高さ調整手段76は、ロッド部材72の中央から他端にかけて外面に形成されたネジ部73と台座74に貫通孔として形成されてロッド部材72のネジ部73が係合するネジ孔75を有する。高さ調整手段76は、ロッド部材72のネジ部73を排水ソケット本体61と共に回転することによって床面FLから流出口65の中心線が排水配管Dの入口端部Dの中心線Dと一致するように、即ち、入口端部Dと接続部64がほぼ同じ高さになるように排水ソケット本体61の高さを調整する。本実施例の高さ調整手段76は、上述のように、高さJが120mm乃至155mmの範囲で排水ソケット本体61の高さを調整することができる。このような高さ可変の排水ソケット60で特に本発明は有効である。但し、排水ソケット60は高さ可変でなくても155mmの高さ専用であってもよい。
【0049】
以下、図7(a)乃至図7(h)を参照して、便器装置100の動作について説明する。ここで、図7(a)乃至図7(h)は、便器装置100の動作を説明する断面図である。
【0050】
まず、制御部40は、使用者による操作部の便器洗浄スイッチの操作を受け付け、切替弁28をリム側に切り替えて前リム洗浄を行う。具体的には、水道水が切替弁28を通過し、リム給水路18aを通ってリム口18から吐出される。リム口18から吐出された水は、ボウル部12内を旋回しながら下降してボウル部12の内壁面を洗浄する。リム洗浄はポンプ34を介さないリム給水路18aを介して行われる。ボウル部12のリム13の洗浄は水圧が弱くても足りるのでタンク32内の水をポンプ34により加圧して吐出する必要がない。このため、タンク32の水が減らないのでその後にタンク32への給水を行う必要もなく、便器洗浄とその後の溜水供給に直ちに移行することができる。
【0051】
前リム洗浄後、制御部40は、切替弁28をタンク側に切り替えてタンク32への給水を開始すると共に、ポンプ34を制御して便器洗浄を行う。具体的には、図7(a)の待機状態において、タンク32内に貯水されていた水は、ポンプ34に流入して加圧される。ポンプ34が加圧した水は洗浄水管路33bを通ってジェット口16から吐出される。ジェット口16から吐出された洗浄水は排水トラップ管路14内に流入し、排水トラップ管路14を満水にしてサイホン現象を引き起こす。この状態を図7(b)に示す。これにより、ボウル部12内の溜水及び汚物は、排水トラップ管路14に吸引され、排水配管Dから排出される。排水ソケット60は小型化しても従来と同等の排水性能を維持する。次に、図7(c)に示すように、排水トラップ管路14の入り口から空気を吸入し、サイホン現象が終わるきっかけとなる。
【0052】
便器洗浄においては、大容量の水がジェット口16から低速で吐出されるようにポンプ34は高速回転する。この結果、サイホン現象を素早く発生させて溜水及び汚物を素早く排出することができる。また、サイホン現象が素早く発生するので無駄水も少なくなる。更に、サイホン現象が切れた後も図7(d)に示すようにジェット流が続くため、サイホン切れ時に吸い込む空気の量が少なく静音である。続いて、図7(e)に示すように、浮遊系物質を排出し、図7(f)に示すように、ジェット流の漸減と共に排出動作が終了する。その後、制御部40は、ポンプ34を停止して便器洗浄を終了する。但し、制御部40は、タンクへの給水は維持する。制御部40は、便器洗浄の開始と共にタンク32への給水を行っており、溜水を早期に供給することができる。
【0053】
次に、制御部40は、切替弁28をリム側に切り替えて後リム洗浄を開始する。図7(g)に示すように、ジェット流の戻りで水シールはほぼできている。リム吐水口18からの2回目の吐水によって溜水推移は上昇して図7(h)に示す待機状態となる。その後、再び、切替弁28がタンク側に切り替わってタンクの給水を行う。なお、溜水供給をポンプを利用した経路34bで行ってもよい。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で様々な変形及び変更が可能である。例えば、本実施例の洗浄方式は、ポンプを使用したサイホンゼット式であるが、ポンプを使用しないロータンク式のサイホンゼット式又はサイホンブロー式を使用してもよい。タンク給水便器のサイホン作用の起動方法としては、上記実施例のトラップ部に絞りを陶器一体又はソケット側に構成すれば、その部分で洗浄水が滞留して上流側を早期に満水にしてサイホン現象を起こすことができる。絞り部は特許文献2に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1に示す便器装置のブロック図である。
【図2】図2(a)と図2(b)は、それぞれ図1に示す排水ソケットが高さ120mmの排水配管に取り付けられた場合と高さ155mmの排水配管に取り付けられた場合の断面図である。
【図3】図1に示す排水ソケットの拡大断面図である。
【図4】従来の排水ソケットの部分拡大断面図である。
【図5】図1に示す排水ソケットの部分拡大断面図である。
【図6】図6(a)と図6(b)は、それぞれ図1に示す排水ソケットの断面図と斜視図である。
【図7】図7(a)乃至図7(h)は、図1に示す便器装置の動作を説明する断面図である。
【図8】図8(a)は従来の便器装置の断面図であり、図8(b)は図8(a)の便器装置の排水ソケットの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 便器
32 タンク
34 ポンプ
60 排水ソケット
61 排水ソケット本体
62 (第1の)接続部
64 (第2の)接続部
66 排水流路
100 便器装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器の排水路の出口端部が挿入された第1の接続部と、壁面に設けられた排水配管の入口端部に挿入されて前記第1の接続部と垂直な方向に開口した第2の接続部と、前記第1の接続部と前記第2の接続部との間に設けられて前記第2の接続部よりも下方に張り出した排水流路とを有する排水ソケットを有し、
前記第2の接続部の流出口の下端の前記壁面に最も近い位置と前記出口端部の下端の前記壁面に最も近い位置との距離で決定される、前記排水流路の最小断面積を前記排水路の前記出口端部の断面積よりも大きくしたことを特徴とする壁排水用の排水ソケットを有する便器装置。
【請求項2】
前記出口端部は径53mm乃至60mmを有し、前記距離は62mm以上であることを特徴とする請求項1記載の壁排水用の排水ソケットを有する便器装置。
【請求項3】
前記排水流路は、前記排水路の出口端部の中心線よりも前記壁面側に偏心した中心を有する球面状の張り出し部を有することを特徴とする請求項1記載の壁排水用の排水ソケットを有する便器装置。
【請求項4】
前記偏心量は1乃至18mmであることを特徴とする請求項3記載の便器装置。
【請求項5】
前記排水路の前記出口端部が前記第1の接続部に挿入される前記便器を固定する床面に垂直な方向の長さは20mm乃至60mmであり、前記排水路の前記出口端部から前記第2の接続部の流出口の下端を通って前記床面に平行な平面までの前記床面に垂直な方向の距離は50mm乃至90mmであることを特徴とする請求項1記載の壁排水用の排水ソケットを有する便器装置。
【請求項6】
前記排水流路の最深部と、前記排水流路と前記第2の接続部の流出口の下端の前記壁面に最も近い位置とを結ぶ直線と前記床面に平行な平面とのなす角度は1°乃至25°であり、前記壁面と前記出口端部の中心線との距離は65mm乃至115mmであることを特徴とする請求項1記載の壁排水用の排水ソケットを有する便器装置。
【請求項7】
前記排水ソケットは、
前記第1の接続部と、前記第2の接続部と、前記排水流路とを有する排水ソケット本体と、
前記床面上に配置され、前記排水ソケット本体を支持する支持部と、
前記排水配管の前記入口端部と前記第2の接続部とがほぼ同じ高さになるように前記排水ソケット本体の高さを調整する高さ調整手段とを有することを特徴とする請求項1記載の壁排水用の排水ソケットを有する便器装置。
【請求項8】
便器の排水路の内径53mm乃至60mmの出口端部が挿入可能な第1の接続部と、壁面に設けられ、排水配管の入口端部に挿入可能で前記第1の接続部と垂直な方向に開口した第2の接続部と、前記第1の接続部と前記第2の接続部との間に設けられて前記第2の接続部よりも下方に張り出した排水流路とを有する排水ソケット本体と、前記床面上に配置され前記排水ソケット本体を支持する支持部と、前記排水配管の前記入口端部と前記第2の接続部とがほぼ同じ高さになるように前記排水ソケット本体の高さを調整する高さ調整手段とを有する壁排水用の排水ソケットであって、
前記排水流路は、前記排水路の出口端部の中心線よりも前記壁面側に偏心した中心を有する球面状の張り出し部を有し、前記張り出し部の中心の前記端面に垂直な方向の偏心量は10mm乃至18mmであり、前記第2の接続部の前記第1の接続部側の端面と前記第1の接続部の中心線との前記端面に垂直な方向の距離は65mm乃至115mmであることを特徴とする壁排水用の排水ソケット。
【請求項9】
前記排水流路の最深部と、前記第2の接続部の流出口の下端の前記壁面に最も近い位置とを結ぶ直線と前記第1の接続部の端面に平行な平面とのなす角度は1°乃至25°であることを特徴とする請求項7記載の壁排水用の排水ソケット。
【請求項10】
前記第1の接続部の前記排水路側の端面から前記第2の接続部の流出口の下端を通って前記端面に平行な平面までの前記端面に垂直な方向の距離は114mm乃至180mmであり、前記排水路の前記出口端部は前記第1の接続部に前記端面に垂直な方向に20mm乃至60mmだけ挿入可能であることを特徴とする請求項7記載の壁排水用の排水ソケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−240247(P2008−240247A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77951(P2007−77951)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】